ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
俺は耳を疑った。厳密には手が動かせない今、耳を疑うことくらいしかできなかった。
「今、なんと……?」
「だから、私をレイプして欲しいって言ったの」
時宮先輩はそのあまりに禍々しい単語を、まるで英単語を練習する時のようにさらりと言った。
「君は約束を破れないんだよね? だったら、今この場で、私の事をレイプしてよ」
俺の心臓は一周周って鼓動を止める。呼吸も止まる。頭も止まって、今自分が何を言われているのか、耳から入ってきた情報を疑いながらも、まるで何も理解してはいなかった。
「レイプって、そ、それっ……!」
体が凍り付く。それにふさわしいだけの事は言われているとようやく頭が理解した。しかし同時に、その言葉を意味を理解した瞬間に、俺の心の中からドロッとした物がポコポコと溢れてくる。
「俺が、時宮先輩を……?」
「そう。それが私達の約束」
俺はあの時、確かに時宮先輩と約束をした。それは、もしも時宮先輩が望み、俺にできる事であれば、俺は時宮先輩の願いを聞き入れると言う約束だ。
つまり俺は、その禍々しい言葉の含まれた約束を、約束としてしてしまったのだ。
「……うっ!!」
この約束を守るために時宮先輩を襲わなければならない……? できるのか、そんな事。否、できるはずがない。
だが頭でそう思った瞬間にやってくるのは強烈な吐き気だ。思わず口を押さえようとしたが、腕が回らずそのまま唾液が零れていく。
「あんた……それがいったいどういう意味か、本当に分かってんのか……!?」
「もちろん。私だって年頃の女の子なんだし、それがどういう意味なのか、勿論理解はしてるわよ?」
「だったら、だったらどうして……! それを俺に言うって事がどういう事で、何を意味してるのか、本当に理解してるのかよ……!?」
頼むから冗談であってくれ。これまでの事も全て、何かの悪ふざけであってくれ。
そうすれば全てが収まる。この馬鹿みたいなイベントも、時宮先輩が一言「嘘だった」と言えば、これから起こることも全部ひっくるめて丸く収まるんだ。
「もちろん、全部分かってるわ。それを約束の破れない前田くんに言うってことは、つまり私は本当にこの場で、前田くんに犯されるって事でしょ?」
しかし、そのわずかな望みも、時宮先輩の顔を見て崩れ去る。
その歪んだ笑みは、悪魔のようで、悪女のようで、そして玩具を手にした子供のように、凶悪な欲望で溢れていた。
「私は抵抗もしないし、されるがままに前田くんを受け入れる。だから前田くんはただ私を襲えば良いのよ。肉食獣が目の前の肉塊にかぶりつく様に、ね」
「う、がはっ……!」
自分の中で湧いて出たドロッとした物の正体。それは俺が時宮先輩を犯さなければならないと言う、どうしようもなく避けられない未来への恐れだった。
「う、がはっ……」
「もう抑える必要もないわよね。ほら、こっちよ前田君」
時宮先輩は俺から手を離すと、後ろにステップを踏みながら個室の前へと移動する。
「は、はぁ……はぁ……!」
気持ち悪さが止まらない。それどころかますます酷くなってくる。体では既に約束を反故にすることへの拒絶反応が現れ始めていた。
「ど、どうして……!」
俺が時宮先輩をレイプする。その行為を頭で拒絶するたびに、体が激しく反応する。
「クソ、頭がっ……!」
頭の中はハエが飛び回っているみたいにかき乱される。頭痛がする。
体の内側で恐怖心が充満していく。約束を破ることに対して、より強く心が反対する。
逃げ出したい。早く収まってくれ。誰か何とかしてくれ。
「うわぁあああああ!!」
「思ってたとおりね。恐怖症、精神疾患の一つなんだけど、過去に過度なストレスを受けたりトラウマを抱えると、それが原因になって同じ状況に対して過度な恐怖心を覚える。前田くんの場合、『約束を破る』ことに過度に怯えているのね」
時宮先輩が何かを言っている。だけど今はそれを聞くどころか、意識を保つことで精一杯だ。
重苦しく神経を逆なでる恐怖心と、眩暈を何十倍にもしたような不安感が一挙に精神を蝕んでいく。
まただ。また誰かとした約束に対して、俺がそれを拒絶しようとすれば、体と心の方が強烈に喚き立つ。
「あ、んた……いったい何が……目的だよ……!」
「そんなの、決まってるじゃない。私は前田くんの物になりたいし、そうすることで私は前田くんを自分の物にしたいの。だって、優しい前田くんならきっと、犯した女の子との責任くらい、きっちり取るわよね?」
「何を、ふざけて……!」
「私はふざけてなんか居ないわ。その証拠に、私は本気で前田くんに犯されるつもりだもの。ふふ、ほらおいで。私はこっちよ?」
すると時宮先輩がまるで獲物を誘うように体を揺らす。というよりむしろ、あれは時宮先輩と言う餌につられるように、俺の方を誘惑しているのか。
時宮先輩のスカートが揺れる。胸が弾む。まるで飛び切り美味しそうな餌であることを見せつけるように、そうやって俺の劣情を煽り立てようとしている。
「俺は、俺は……!」
激しい眩暈に動悸がする。感情が紙やすりで研がれてるみたいに逆なでられる。
逃げ出したい。もうやめてくれ。もうこれ以上は耐えられない。
頭のサイレンを誰か止めてくれ。
「う、はぁ……!」
気が付くと、俺は一歩ずつ時宮先輩の方へと歩み寄っていた。
違う。止めろ。そっちへ行くな。
「ほーら、こっちよ」
時宮先輩が両手を広げる。まるで我が子を迎えるように、無防備に俺を受け入れようとする。
「はぁ、はぁ……!」
頭が痛い。意識がくらくらする。
だが気が付くと、俺の手はいつの間にか時宮先輩に掴みかかった。
「きゃ」
時宮先輩が後ろへと倒れ込む。トイレの床に背中をこすりつけているのに、嫌な顔一つ見せない。
「はぁ、うっ、はぁ……」
やっぱり俺には、この衝動に耐えることはできないみたいだった。
俺にはたとえそれがどんな物であったとしても、約束を破ると言う事ができない。
俺の体が時宮先輩を馬乗りにしていた。そして両手では、時宮先輩の胸を鷲掴みにする。
「う、はぅ……」
痛みなのか、それとも感じているのか。時宮先輩は顔を恍惚とさせながら、嬌声を漏らす。
俺はこれから、時宮先輩を犯さなければらない。
「前田くん。私の初めて、もらってね?」
呼吸が激しくなる。自分でもおかしいって分かってる。なのに、心の中では時宮先輩をレイプする事しか考えられなくなっている。
掴んだ胸をぎゅっと握る。どうしようもなく柔らかい。こんなもの、もし直接掴んだらどうなるんだろう。
「あら。前田くんってば、目が血走っちゃってるわよ?」
時宮先輩がからかうようにそう言った。その通り、きっと今の俺は酷く醜い顔をしているのだろう。それこそ野獣のように獰猛で、狂暴な有様になっている。
「んっ……」
俺は時宮先輩のスカートに手を伸ばすと、その中に指先を潜り込ませる。そして時宮先輩の局部にある布の感触を辿りながら、指先で丁寧に撫でた。
「ふふ、どう? 自分で言うのもなんだけど、私って凄く美味しそうな女の子でしょ? どこから食べても良いのよ。前田くんの好きなように私を蹂躙してくれれば。私の体は、もう前田くんの物なんだもの」
時宮先輩が体をヒクつかせる。顔を惚けさせながら「んっ」と息を飲んで、俺の手つきに感じている。
もう自分で何をしているのかも分からない。だから俺は、胸の恐怖心を拭き取る為に、そして劣情が高鳴るままに、時宮先輩の体を貪った。
ついに俺は女の子を、それも知り合いの先輩を犯してしまうのか。そんな事は到底するつもりはなかったのに。
でもそう言えば、前に誰かと同じように体を重ね合わせたような気がする。
「ささ、はら……」
「…………」
自分でもどうしてその言葉が出たのか分からない。
だが、もはや正気に無い俺の口から出たのは、あのドMで引きこもりで、おまけに露出願望で、そしてこの間もずっと俺を振りまわした、少女の名前だった。
その瞬間、僅かだが俺の体が止まる。そして――。
「はぁあああああ!!」
誰かの叫び声が聞こえたと思った次の瞬間に、俺の体は強い痛みと共に弾き飛ばされていた。
「ふぅ、どうにか間に合ったみたいですね」
「……どうしてあなたが居るの?」
脇腹への痛みで意識がほんの僅かだが正常に戻る。そして顔を上げると見えたのは……。
「大丈夫ですか先輩? でももう心配いりません。なにせ私が来ましたから」
そうドヤ顔を決めた、鈴谷の姿だった。