ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
あれからしばらくは眩暈で歩くにも苦労したが、時間経過と共に体調はあっさりと元へ戻っていった。
一度起こった発作が治まったのは初めてで、俺自身も「あぁ、治まることもあるんだ」って感じだった。考えられる理由としては『約束相手である時宮先輩の近くを離れた為』だろうけど、思えば今まで発作が起こった時は、その全てを約束を遵守する事で治めてきた。そう言う意味じゃ、今回みたいな回避の仕方はイレギュラーだ。
俺は鈴谷に助けられ、話の流れでそのまま鈴谷の家へと向かう事になった。
場所は千葉の某有名な公園から徒歩10分。総武本線の高架下を抜け、やって来たのは駅前にあるもう一つの有名公園である。
「先輩、症状の方はもう大丈夫なんですかぁ?」
「あぁ。何とか発作の方は治まったし、歩く分には問題ない」
俺達は歩く途中も周囲に気を配ってみるが、どうやら時宮先輩は本当に追って来てはいないらしい。鈴谷のまさかの奇策が功を奏したと言う事だろうか。
「そう言えばお前の家って千葉駅の近くとは聞いていたけれど、この辺だったりするのか?」
「この辺もこの辺、超この辺ですよぉ。もう目と鼻の先ですし。なんなら私の家もう見えちゃってますもん」
いま俺達の居るこの駅前の公園は、先ほどの緑林生い茂るタイプの公園とは違い、タイルが敷き詰められた真っ平な場所だ。いかにも都会の広場っぽさがあるそこは、トレードマークに大きな噴水が設置されている。さらに夜にはイルミネーションが輝くことから、若者からデートスポット兼待ち合わせ場所として広く活用されていた。
「ささ、こっちですぅ!」
そう言って笹原が案内したのは、公園を囲うようにして建てられた高層住宅マンションの一つだ。
この辺のマンションは駅近と言う事も有って、軒並み物価が高そうな外見をしている。鈴谷が案内したマンションも例にもれず、外観と言いエントランスと言い、そいつはいかにも高級な貴族家庭が住んでいそうなものだった。
「……お前、本当に一人暮らしなんだよな?」
「もぅ、先輩ったら女の子の家に入る前にそういうこと確認しちゃいます? でも良いですよぉ先輩なんですもん。ええそうです、一人暮らしなので今は家に誰も居ません!」
先ほどまでの救世主ぶりはどこへやら、鈴谷は俺の意図を見事に汲み違えると、両手を頬に当てて腰をくねらせる。こいつの頭は既に真っピンクモードに切り替わってしまったらしい。
「あのさ。俺も人の家にいちいち文句を付けるわけにはいけないし、そんな事をしていたら人様から嫌われてしまうってのも分かってる。けど、これだけは言わせてくれ」
そこで俺は大きく息を吸い込むと、頭の中のもやもやを払いのけるがごとく叫んだ。
「お前もかよ!!」
「ふえ? 何がですか?」
しかもこいつはどうやら、自分がおよそ一般的でない住居に住まわせていただいていると分かっていないらしい。
笹原に次いで存分にブルジョワジーな待遇を見せつけられ、ごく一般的な中流階級に生まれた俺としては、おでこに若干の皺が生える程度には頭に邪念を生んだ。
「ささ、遠慮は要りませんからぁ!」
鈴谷は俺の手を掴むと、エントランスのパネルに番号を打ち込んで扉を開ける。
中の作りもまるでホテルのようで、壁には高そうな花瓶が飾ってあったりした。これ家賃とかいったい幾らになるんだろうか。
それから俺達はエレベーターで上層へと上がり、8階につくと廊下を進んでいく。
「ここが私の部屋ですぅ。今開けますね」
何と言うか、廊下を進んでいて思ったのは扉と扉の間がやたらと遠い。普通そこらのマンションなら6,7歩も歩けば隣の部屋にたどり着いてしまうが、ここだとその倍は距離が空いている。
するとガチャリと鍵が開き、ドアが開く。
「うわぁ……」
俺の口から出たその感嘆は、何かに驚いてなのか、それとも驚愕を通り越してむしろ引いた時に出るものなのか。結論を言ってしまえばその中間あたりなのだけど、ともかくその規格外れな内容に俺は言葉を失う。
鈴谷の部屋は、何と言うか学生が一人暮らしをしていると言って思いつく内装とはかけ離れていた。むしろかけ離れ過ぎていて、そこが一体どういう目的を持つ部屋なのかすら思い当たらない程である。
玄関を抜けると直ぐにあるのは教室くらいの広さはある巨大な部屋だ。床には赤いカーペットが敷き詰められていて、そして四方が壁に囲まれているにも関わらず、さらに内側に壁を作る様に右側と左側と奥の三方向には巨大な本棚が置いてある。
さらに本棚の手前には下に降りる段差が3段ほど有って、そうした本棚に囲まれた窪みには優雅にガラステーブルとテレビが置かれていた。
「どうかしましたかぁ?」
鈴谷は目をぱちくりとさせ、玄関から動かない俺を不思議そうに見つめた。
「なんつうか、世間から隠居した賢者の現代版の部屋、みたいな……」
ファンタジーやらSFに出てきてもおかしくない程に浮世離れした部屋に、俺は足を一歩踏み入れてみると、その現実破りな光景になおのこと度肝を抜かれる。
まず部屋に入って最初に目が動いたのは、玄関傍のすぐ足元にある小型冷蔵庫である。
何故ここにきて小型の白物家電? いや一人暮らしだったらこれくらいのサイズで丁度いいのかもしれないが、ここまで型破りな部屋で急遽見つけたそいつは逆に浮いているとさえ言える。
「あ、良かったら先輩も飲みますかぁ」
鈴谷がおもむろに冷蔵庫をガコンと開けると、中にはギッシリとコーラのペットボトルが詰め込まれていた。
「お前ってさ。前からおかしな奴だとは思ってたけど、今回は度を越していると言うか、ワンランク上がったと言うか、つまりはあれだな。お前は世界レベルにおかしな奴だ」
俺は鈴谷から一本のコーラを受け取りながら、丸くした目を閉じてしみじみ思う。
「だが確かにここなら安全そうではあるな」
なにせセキリティとか厳重そうだし。
なんて感想を浮かべながら、俺はひとまず段差を下りて、中央にあるガラステーブルの前で腰を落とした。
左、それから右を見ても木製のシックな本棚と、そこに置かれた無数の書籍類が見える。空気もどこか澄んでいると言うか、ログハウスなんかで嗅いだ覚えのある匂いがした。あれか、金持ちってやつは部屋の匂いにこだわりを持っていたりするのだろうか。
「……ん。待てよ」
しかし俺はそこで妙な違和感を覚える。
おかしい。これほどまでに知性と高級感溢れる本棚にも関わらず、視界に見えるほぼ全ての書籍にピンク色が混ざっているのは俺の気のせいだろうか?
「って、まさかな。流石にそれは俺の思い込みだよ。先入観ってやつさ」
だが一応念のために、俺は近くにある本棚から一冊抜き取ってみる。
「って、あれもこれも全部エロ本じゃねえかぁあああ!!」
「いやん、先輩ったら大胆なんですから」
「大胆もクソもねぇ! ここまで懇切丁寧に並べられてたら嫌でも気づくわ!」
なんとその本棚に置かれていた本は、全てにR18と付くものばかりだった。
それに気づいた瞬間戦慄したのは、この部屋に置かれているであろうおよそ数千冊の本の、その全てがエロに関わる物だという事実である。
内心では某ドラマで胸を拳銃で撃ちぬかれたばりの「なんじゃこりゃああああ!!」を叫びたかったが、人様の家と言う事も有りそこはぐっと我慢する。
「ご、ゴホン……。ま、まあ今更こんなことで突っ込んでたら、それこそ日が暮れて明日になりそうだしな」
「私は先輩ならお泊りでも大歓迎ですよぉ!」
「悪いが俺は他人の家じゃ落ち着いて寝れない性分なんだよ。もっとも以前にも話したが、お前の家で一晩を明かすとなると次の日には全身改造人間になるくらいの覚悟が必要だしな」
「キー! って、誰がショッカー戦闘員ですか!」
すると鈴谷は嬉しそうに歯を見せて突っ込む。いやこの場合はそいつを作る方になると思うのだが、まあ細かい事は良いか。
「それでまず話の切り出しだが……。その、さっきは本当に助かった」
他者とのコミュニケーションの中でも一際ハイレベルな『感謝』と言う文脈に、俺はどこかしどろもどろになりながらそう言った。
「いえいえ、良いんですよ。私も時宮先輩は怪しいなぁって思ってましたし。後から追いかけて正解でした」
鈴谷も俺の横に座ると、手に持ったコーラをテーブルに置く。
「先輩の体質、時宮先輩にはバレちゃってたみたいですね」
「……そうだな。つっても、あの人の場合は『見抜かれた』って方が正しいのかもしれない」
時宮先輩は超が付くほどに優秀で、そのスペックはとうに高校生離れしている。だからそんな時宮先輩からすれば、俺の体質を見抜くなんて至極簡単な事だったのかもしれない。
ただそれでも気になるのは、そんな時宮先輩がどうしてあそこまで馬鹿げた事をしたのかだ。
時宮先輩の言葉を真に受けるなら、そしてそれを異性からの好意として受け取るのなら、馬鹿げたなんて言い方はしてはいけないのかもしれない。だが俺にはどうしても、俺の中にある時宮先輩が本心からあの行動を取ったようには見えなかった。
鈴谷は時宮先輩を「芝居臭い」と言っていた。どうしても拭えない違和感があるとすれば、やはり時宮先輩らしくないと言うところだ。言うなれば、どこか時宮先輩は別の何かを演じているかのような気さえする。
まあ全ては俺の直感で、勝手な想像だ。そもそも俺は時宮先輩と言う人をあまり知らないし、あの時宮先輩こそが真実の時宮先輩なのかもしれない。だからそんなものはいくら考えたってぐるぐると頭を回らせるだけだ。
肝心なのは時宮先輩がどういう意図であれ、俺は時宮先輩に体質の秘密を握られ、さらには『時宮先輩をレイプする』という約束を盾に半ば脅迫されていると言う事実である。
「そう言えば笹原はどうしたんだ?」
そこで俺は笹原の姿が見当たらない事に気付く。
そう言えば鈴谷は笹原を連れて帰ったはずで、その鈴谷がここに居ると言う事は、笹原はどこか別の場所に今も滞在していると言う事なのだが、笹原はどこへ行ったのだろう。
「笹原先輩なら心配いりませんよぉ。ちゃんと『緊急避難用シェルター』に入れてきましたからぁ!」
「緊急避難用シェルター……?」
って何のことだろう。
「ともかくちゃんと安全な場所に入れてきたので大丈夫です。後で一緒に迎えに行きましょう」
「入れてきたって、そんなコインロッカーの荷物みたいな言い方は無いだろ」
「じゃあ監禁してきました!」
「余計悪いわ!」
なんて話を繰り広げていると、俺はまた一つ、ふと思い出したことがあったので、それとなく口に出してみる。
「そう言えば俺、前に妹の綾子に言われたことがあるんだよな。時宮先輩には気を付けろってさ」
「妹さんにですか?」
「あぁ。その時は何を言ってるのか正直よくわからなかったけど、今にして思えばあれは忠告だったんだ」
「つまり妹さんは時宮先輩について何か知ってるってことですね」
鈴谷が500mlペットボトルキャップを外して口を付ける。ぐいっ、ぐいっと喉を通して、中身のコーラを一気に三分の一ほど飲むと、それから「ぱぁっ!」っと息を吐いた。
「そういう事になるな。でもあいつと時宮先輩の接点なんて、これまでなかったと思うんだけどな」
「それは逆なのかもしれませんよぉ? これまで接点が無かったはずの時宮先輩について、妹さんの方から忠告してきたと言う事は、先輩の知らない所で二人は何か繋がりが有ったとも考えられると思うんですよぉ」
「……あれだよな。お前ってホント変態でさえなければまともな事言うよな」
俺は鈴谷から出た言葉に素直に感心する。
こいつも普段こそ馬鹿げた言動が目立つけど、実は頭の回転が速いと言うか、キレの良いところがあったりする。変態だけど。
「失礼なっ。私から変質者成分を取ったらもう半分は性欲しか残らないじゃないですか」
「お前はバファ〇ンか何かかよ。しかも半分が性欲で出来てるってそれ絶対に媚薬効果あるやつだよな」
それ以前にもう半分が変質者成分な時点で錠剤の役割は果たせないわけだけど。
そして俺も鈴谷の言葉を聞きながら、ペットボトルを開けてコーラを飲み込む。結構な汗をかいていたせいか、自分で思っていたよりも喉が渇いてたらしく、俺も一気に半分ほどまで飲んだ。
「…………」
そして飲みかけのコーラをテーブルに置くと、そいつを羨望の眼差しで見つめる鈴谷。
「言っとくけど、こいつはやらねえからな」
「えぇ~良いじゃないですか少しくらい」
「お前の場合、その少しを許すと一気に持っていかれそうだ」
そもそもお前の分がまだ残ってるだろとか、そんな話でないことくらいは俺にも分かる。なんつうか、鈴谷との会話も慣れてきたのかもしれない。
「俺にしてもまだ分からないことだらけだ。ってことはまあ、最初の手がかりになりうるのはうちの妹って事だな」
そこから俺はズボンをまさぐり、スマホを取り出すと綾子の番号に繋げた。