ドMで引きこもりな私でも露出調教してくれますか? 作:わずみかん
五年前の夏――。
俺はまだ小学六年で、妹の綾子は一つ下の小学五年生だった。
盆休みを利用して九州にある母親方の実家に顔を出す事になっていて、車に乗せられて家族四人で麻江のばあちゃん家にやってきた俺達だったが、親戚の大人達や両親が家で騒いでいるのがどこか居心地悪くて、俺はよく田舎の山道を散策しに出かけていた。
「君、ここの子? あ、やっぱり違うでしょ。その面倒臭そうな顔はきっと私と同じで、別の町の子だ」
俺が田舎の農村にある小川沿いの田舎道を歩いていると、そう話しかけてきたのはメガネをかけたお下げの女の子だった。
大人びた雰囲気から勝手に年上だと想像した俺は、しかし敬語を使う事もせず、ぶっきらぼうに言葉を返す。
「あんたには関係ないだろ」
「そうかな? 案外、私達って同じ目的でここに居るんじゃないかな。両親の実家に帰ってきて、どこか居心地が悪いんでしょ」
「…………」
心の中を言い当てられて、俺はふいっと目を背ける。
妹はよく親戚から可愛がられていたし、俺にしても邪険にされるどころか気にかけてもらってはいたのだが、しかしそういった大人心に応えることもせず、俺の方は愛想の悪いガキとして親戚達から距離を取っていた。
その方が疲れないし、何より無駄な面倒事が増えなくて済む。と言うのは建前上の話で、本当は他人との関わり方を学ばないままに今日まで来てしまっただけなのだ。友達も居ない人間に他人とどう接すればいいかとか、そんな事を器用に考えられる技能は無かったのである。
「君、どこの子?」
にも関わらず、この女子はずけずけと俺に接してくる。
その女の子は言うなら、まだ小学生だった俺から見ても可愛くて、明るくて、魅力に溢れているような少女だった。言うなら俺とは真逆の位置に居るような存在だ。それがどうして俺なんかに話しかけるのか分からなくて、俺としては戸惑ってしまう。因みに俺とそう年端も離れていないのに、胸はとても大きかった。
「……千葉だけど」
「本当? 凄い偶然! 私も来年から千葉で暮らすことになったんだよ。もしかしたら家が近所だったりして」
「……それで、俺に何か用かよ」
「別に用って程でもないんだけどね。同じようにフラフラ歩いてる子が居たから、捕まえてみただけ」
「俺は自由研究で捕った虫か何かかよ」
「あは、あはははっ! やっぱり君面白いね。そうだ。良かったら名前聞かせてよ」
「…………知らない奴に教える名前なんてない」
「じゃああだ名でも良いよ。学校ではなんて呼ばれてるの?」
白のワンピースを着たその女の子は、ぐいぐいとこちらに顔を近づけてそう聞いてきた。
「あ、あだ名って……」
向こうが近づいてきた分だけ、俺の方が後ずさる。そんなことをしばらく繰り返してるうちに、とうとう俺の方が逃げ場をなくして、最後には彼女のお縄につくことになった。
しかし、かといってあだ名と言われても、そんなもの友達も居ない奴に有るはずもなくて、でも正直に友達が居ないからあだ名も無いなんて言えるはずもなく、結局俺は言葉を濁しに濁した後、小さく答えを返した。
「……コン」
「コン君?」
「あぁ、それが俺のあだ名だよ」
勿論まったくの嘘だ。
その時偶然にも紺色のTシャツを着ていただけの由来なのだが、変に見えを張ってしまったせいで自分で自分のあだ名をつける羽目になってしまった。だいたいクラスに友達も居ないのに、あだ名だなんて出鱈目もいいところだ。
「それじゃあ、うーんと……じゃあ、私の事はメガネかお下げって呼んでよ」
「そのまんまかよ」
「あはは。私って昔からネーミングセンスないんだぁ。そうだ。良かったら君がつけてくれない?」
「俺が?」
「うん。可愛いのが良いな」
「…………じゃあ」
そこで俺の目に映ったのは、少女の膨らんだ二つの胸だ。
その年頃にしてはあまりに大きな胸を凝視していると、女の子の肩の動きに合わせてたゆんと揺れる。
それを見て、しつこいほどに見て、眺めて、期待に胸を膨らませるその子の顔へと視線を移してから、俺は口にする。
「おっぱい」
バシン。
その後の事を思っても、女の子から頬を打たれたのは後にも先にもこれが最初で最後である。
結局その子の呼び名は『メガネ』に決まり、まったくそのままの名前にその女の子、もといメガネは気を悪くするどころか楽しそうに頬を緩ませた。
そうして出会ってしまった俺達は、それからしばらく互いが両親の実家にいる間、行動を共にすることになった。
朝に親戚の家を出ては、待ち合わせの場所へ向かいそれから田舎道を散策する。田舎の何もない道をひたすらに歩いたり、たまに神社で虫を眺めたり、広い原っぱで手足を伸ばして横になったり、そうやって遊び歩きながら数日が経った頃、俺達はある程度の口が利ける仲になっていた。
「今日はどこに行く?」
「どこでもいいけどな。この辺でまだ行ってないのっていや、後は山の向こう側くらいだ」
「それじゃあ、山の向こうに行こうか」
「つっても、俺達の足じゃ時間かかるだろ。着くころには夕方になってないか?」
「ふふ、大丈夫。お姉さんに任せなさい」
そう随分と自信たっぷりに言うので半信半疑で着いていくと、見えたのは田舎道にぽつんとあるバス停だ。
「ちょうどお小遣いもらったから、これで山の向こうに行ってみようよ」
「いいのかよ、そんな使い方で」
「大丈夫。私達まだ子供料金だし」
「いやお前は違うだろ、もう中学生なんだし」
「ふふふ。コン君? そう言うのはバレなきゃ問題にならないんだよ?」
「うわ、悪い中学生だなぁ……」
そうして俺達はバス停で待っていると、十分ほどで次のバスがやってくる。
「中はクーラーが利いてて涼しいね」
バスに乗り込んだ俺達だったが、しかし田舎のバスだったせいか、他に乗客は居ない。
「…………」
いや、一人居た。
一番奥から二列目の席に座っている女の子が、前の背もたれからちょこんと顔を出して、何故だかこちらの方を見ている。
「地元の子かな」
「なんで分かるんだ?」
「ほら、全身日焼けしてる。この辺の子は皆日焼けしてるの」
「ふーん……」
メガネは時々中学生とは思えないような言葉を口にする。と言うよりも、中学生離れした観察力とか、思考力を見せる時があった。
見るとその子は確かに全身茶色く日に焼けていて、俺達よりもさらに涼しそうな恰好をしている。黄色と白のボーダー柄をした肩紐のノースリーブを着ていて、髪も左右でツインテールに括られていた。歳は俺と同じくらいか、少し下かもしれない。そんな小学生くらいの女の子である。
「ねえ、良かったら隣良いかな」
メガネはその子を見るや否や、またずけずけと隣まで行くと、俺の時と同じように何の躊躇もなく話しかける。
「…………」
するとその子はしばらくメガネの顔をじっと見てから、首をちょんと縦に振って頷いた。
「ありがと。私達、今から山の向こうへ行くの」
「じゃあ、私も同じ……」
「そうなんだ。それじゃあ私達、しばらくは一緒だね。よろしく」
「……よろしく」
その子は随分と大人しい声でそう先輩に返事する。
俺の方はしょうがないのでその横の席に一人で腰掛ける。何となく外の景色を眺める演技をしながら窓側の席に座り、二人とは通路を挟んでそれとなく一席分空けて座った。
「私はメガネで、あっちの男の子がコン君。あなたのお名前はなんて言うのかな?」
「メガネに、コン……?」
「あだ名だよ。つうかそういうのはあらかじめ言っとかないと分からないだろ」
「あ、そうだったんだ……」
メガネは頭が切れる癖に、たまに常識外れと言うか、理にかなわない行動をする時がある。しかもそのたびに俺は突っ込むと、メガネは嬉しそうにハニカむのが何とも言えない。もはやこの流れは俺達の間で定石のようになっていた。
「わ、私は…………スズ」
「スズちゃんか。可愛い名前だね」
「本名じゃなくて、あだ名だけど……」
スズと名乗った女の子は、なんだかもじもじとしていて恥ずかしそうにそう言葉を返す。
「一人みたいだけど、このバスには良く乗るの?」
「……うん」
メガネがそう聞くと、スズはまたちょんと頷いた。
何と言うか、大人しそうだし気も弱そうだけど、顔はメガネに負けず劣らずの美少女だ。ボッチな上に相応な思春期である俺としてはどうにも身構えてしまう。
「……?」
「っ!!」
そっとスズの顔を見ると、その丸くて大きな目と視線が合った。
ドキリとしながらまたわざとらしく窓の外に顔を向けるが、俺には外の景色と言うよりも、むしろ窓に反射したそいつの顔の方に目を引かれていた。つうかどうしてこっちばっかジロジロ見るんだよ。ただでさえ同学年の女子は苦手だっていうのに、それがこんな村の知らない女の子なら尚更だ。
「……コンはこっち、座らないの?」
「い、いいんだよ。俺は西の景色が好きなんだ」
「ふふ、そっちは東だけどね」
「う、うっせえ!」
「私の前、空いてるのに」
するとスズはそう言いながら、自分の膝の上へと目をやった。
「ま、前って……」
「? 前の席、空いてる……」
「あ、今もしかして変な事考えなかった?」
「べ、別に」
「ホント? コン君がお願いするなら、お姉さんの膝の上に座らせてあげても良いんだけどなぁ」
「い、いやだからそうじゃなくて、違うんだって」
「…………分かった。コンがそっちで良いなら」
スズはそう言うと自分の膝の上を軽く手で撫でる。本当にメガネと言い、こいつもなんつうか、普通の感じじゃなさそうだ。
とまぁ、こうして同じバスに居合わせた俺達は隣町までの移動を共にすることになった。
俺達の乗ったバス停から1時間ほどの間、互いの事やどうでもいい事なんかを雑談で交わしながら、閑散とした田舎道をバスに揺られながら進んでいく。途中でお客が入ってくることもほとんどなくて、そうしてバスが目的の場所に到着する頃には、すっかりメガネとスズは仲良しになっていた。
俺の方はただ会話する二人の会話を傍観するだけだったのだが、それでもたまに会話に突っ込んでるうちにそれとなく距離感は縮まっていて、結局山向こうの街に着いてからも、俺達三人は一緒に遊び回る事になった。
それからは色々と見て回ってるうちに気が付くと夕方になっていて、俺達はまたバスで同じ村へと帰っていく。
「……今日は、楽しかった。ありがとう」
「お、おう……」
帰りのバスで、何故かスズはそう俺に微笑みかける。
だが俺はその顔を直視する事ができなくて、つい顔を下に俯かせた。照れてしまった顔を見られたくなくてつい顔を下げてしまったのだが、その後にそっと隣のスズの方を覗いてみると、そこではスズが満足そうな顔でバスの車窓から外を眺めていた。
「そう言えば、スズちゃんはどうして隣町に行ってたの?」
「それは……用事が有って」
「そうなんだ。でも、良かったのかな? 私達とずっと一緒だったけど」
「……うん。良い」
話を聞いてると、スズはやっぱり地元の子で、時たまこうして一人隣町に繰り出すらしい。わざわざバスに乗ってまで町に向かう理由は俺の知るところではなかったし、スズは「……今日は楽しかった」とまた小さく呟くと、それ以降は隣街については話さなくなった。
かくして、それからは二人が三人に増えて、俺達は次の日からも一緒に遊ぶようになった。
親の実家で偶然知り合った二人の女の子と過ごす毎日は新鮮で、それから初めて友達と言える人ができた俺にとっては、この時間をそれなりに楽しんでいたのだと思う。周りが可愛い女の子だなんて話すと同級生から嫉妬されそうだったが、そもそも嫉妬されるような間柄の友人がクラスに居ない事を思い出して、一人きりじゃないこの一週間と少しの期間を、俺はどこか特別なもののように感じ始めていた。
「ねえ、コン君」
そうしてまた数日が経ち、ついに俺が千葉へ帰ってしまう日が残り二日と迫った日の夕方、その日も変わらず三人で遊んだ後の、スズと別れた帰り道での事だった。
「なんだよ?」
「コン君ってどんな女の子がタイプなの」
「……えらく急な話だな。こういうのなんて言うんだっけ。藪から棒?」
もはや歩き慣れた小川沿いの小道を進んでいると、メガネがそう突然に、俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。
「そもそもタイプなんていねえよ。俺はそういうの、あんまりよくわからないんだ」
「コン君ってさ、少し不思議だと思うんだ。学校でも普段は一人っきりだって言うけど、君みたいな人だったらきっと友達もたくさん居ると思うのに」
「別に。好きじゃないんだよ、そういう他人と仲良くなるとかさ」
「でも、私達とは仲良くしてくれるでしょ?」
「そ、それは……まあ、俺も暇だったし」
「ふーん。じゃあ素直じゃないコン君に核心を突いてあげよう」
するとメガネを悪戯に、それからいじわるそうに目を細めると、からかう様に楽し気に、その口を開いた。
「君、スズちゃんの事好きでしょ」
「なっ……」
メガネのフレーズに、文字通りフリーズした俺は思わずそいつの目をぎょっと見ながら、あんぐりと開いた口を塞ぐためになんとか言葉を絞り出す。
「な、なに言ってんだよ。そんなわけないじゃん」
「見てたら分かるよ。最初は私の胸ばっかり見てたのに、少し前からスズちゃんの事ばっかり気にしてるし。あーあ、私も妬いちゃうなぁ」
「べ、別に、そんなんじゃないっつうの」
「本当に?」
「ホントホント」
夕方になった小川沿いの田舎道を歩きながら、俺は咄嗟にそう口にする。しかしどこかイントネーションもおかしくて、動揺してるのが丸わかりになってしまった自分が途方もなく恥ずかしい。
「因みにこっそり見てるつもりでも、女の子からはバレちゃうから、あんまりおっぱいばっかり見てちゃだめだよ? 特にスズちゃんのは」
「ゲフンゲフン!!」
「まあコン君もお年頃だから仕方ないけどねっ!」
「だ、だから別にそんなんじゃないって!」
「恥ずかしがらなくてもいいのに。男の子だもんね」
「な、黙れっての、このっ!」
俺は顔を真っ赤にしながら、逃げていくメガネを追いかける。
ただ、メガネの言葉にドキリとした自分が居たのもまた事実なわけで、気が付くとスズの顔ばかり追いかけていた自分が居たことも、俺自身知ってたわけで……。
そこで俺は理解する。大人しくて恥ずかしがり屋で、だけど笑顔が可愛くて、そんなスズの事を、俺は好きになり始めていた。