雪山で遭難したせいで体を冷やしたマリナは、体調を崩して寝込んでしまう。
疲労回復、滋養強壮、体力増強のスペシャルポーションを手に、見舞いに来た前線基地司令官アレン。2人を待ち受ける展開とは……?
「ふふ、お部屋の扉が開いたと思ったら……まさか旦那様が直々にお見舞いに来てくださるなんて。生真面目な旦那様らしいといえば、らしいですけれど。」
ベッドで横になっていたマリナがこちらを向いた。
気丈にふるまっているが、顔は青白く体を小刻みに震わせている。控えめに見ても、かなり辛そうだ。
「あぁ……ずっとこんな小さな部屋で、寝てばっかりだと気が滅入ると思ってな。」
そういってベッドに近づく俺を、マリナは慌てて静止した。
「あ、ダメですよ、そんなに近くに寄ったら……。私、今はただの、風邪っ引きの冴えない旅商人ですから。……何より、旦那様にこの厄介な風邪をうつしてしまったら、それこそ前線基地の大損害です……」
だいぶ参ってしまっているようだ。いつもの間延びしたほんわかとした彼女ではない。
「……ん? その手に持っている、とってもいい香りのする包みは……もしや、お土産ですか?」
「あぁ、これはどんな病でも一発で治す!……らしいポーションだ。マリナ商店のポーションにはいつも助けられてるからな。みんなで材料を取りに行って薬屋で調合してもらったんだ」
俺が渡した包みを受け取り、中身をまじまじと見つめるマリナ。その青い瞳はすでにウルウルとにじんでいる。
「私のためにそこまでしてくれるなんて......皆さんどこまでお人よしなんですかぁ!」
ポーションの瓶を大事そうに抱え込み、嬉しそうに眺めるマリナだったがその眼差しがだんだんと真剣なものへと変わっていく。
「え……? これ、ただのポーションじゃありませんよね。トレスリアの最奥にしか咲かない万年雪の結晶草に、不死鳥の生まれ変わりの時にしか手に入らないフェニックスの涙……ほかにも貴重な材料ばかりなんじゃないですか!?この薬を市場に出せば一等地に豪邸が立ってしまいますよぉ!」
ゴホッゴホッ……貴重な材料ばかりのポーションに興奮したマリナはせき込んだ。それにしても、においと色だけでここまでわかるとは。エルドラーナの商人おそるべし。
「おいおい、具合悪いんだからそんなに興奮してしゃべるなよ……まったく」
マリナの背中をさすってあげると、照れくさそうにすみませんと笑ってごまかすマリナ。どうやらいつもの調子が戻ってきたようだ。
「まさか旦那様、氷河の厄災をあんなに苦労して倒したあとに、この薬の材料を取りに行ってたんですか……!? 仲間のみなさんまで巻き込んで、こんな……こんな計算の合わないことを……?普通はしませんよぉ。それにあのお薬屋のおばあさん、調合代だって目玉が飛び出るくらいふっかけることで有名なんです。一体どれだけの財産をはたいたんですか……もう、本当に、お人好しが過ぎます」
お金の大事さを何よりもわかっている、生粋の商人のマリナからすると何の見返りもなくここまでしてくれる仲間の優しさにふれてどうしていいかわからなくなっているようだった。
「俺や前線基地の仲間にとって、お前の価値はお金や魔石じゃ計り知れないさ。いうならば先行投資ってやつかもしれないな。これからの活躍に期待するぞ、マリナ君よ」
おどけたようにそういうと、もう旦那様ったらと呆れたように笑うマリナ。
「でも、そこまでしていただいた皆さんの気持ちを、無下にはできませんね。」
いただきます、とポーションを口に含み、ゆっくりと飲み下す。じんわりと体が温まっていくのを感じながら、顔をうつむかせた。
「……あ、あの……旦那様。おかげさまで、さっきまで凍りつきそうだった体が、嘘みたいにポカポカしてきました。さすが、私の見込んだ最高のお得意様、です……!」
「マジかよ!効果出るの早すぎだろ!」
先程まで真っ青だったマリナの頬は、健康的な赤みを帯びてきた。
「でも、ね? 私は商人ですから、もらいっぱなしというのは、その……ポリシーに反するんです。この大赤字な優しさ、どうやってお返ししたらいいかなって考えちゃうんです。
だから……あの……その……。」
いつもなら冗談めかして「体で払っちゃいますね!」なんて言ってアレンを困らせるのに、真っ直ぐな瞳で見つめられると、急に心臓がうるさく鳴り響いて言葉が詰まってしまう。顔が赤くなっていくのを隠すように、布団を少し引き上げた。
「……うぅ、ダメです。お薬が効いてきたせいで、なんだか頭がぼーっとして、いつもの調子が出ません……。」
布団から聞こえてくる声は蚊のなくようなものになっている。
そんなマリナの頭をなでながら、
「あんまり無理すんなよ。ふーむ、お返しか。 そうだなぁ。強いて言うなら、マリナが回復したらこの近くのカフェでケーキでも奢ってもらおうか。ルクスノヴァの料理人が作ったモンブラン?とかいうケーキが美味いと評判だからな。」
マリナの目が驚いたように丸くなる。アレンは美少女揃いの前線基地の誰が誘ってもデートにのってこないほどの堅物だった。それがたった今、自ら誘ってきた。明日は隕石でも落ちてくるのだろうか。
バツが悪そうに窓の風景を眺めながら返事を待つアレンをみると、マリナの胸の奥がぎゅっと熱くなった。返しの言葉が上手く出てこない。商売の天才でどんな相手でも言葉で翻弄してしまう彼女が、生まれて初めて言葉に詰まっている。
しかし、ときめきに胸を高ぶらせる時間はそう長くは続かなかった。
ポーションの効果は、確かに劇的だった。さっきまで青白かったマリナの頬が、見る間に赤みを帯びていく。……いや、赤いというよりは、濃い桃色だ。効果が、ありすぎた。
凍えていた体が温まるどころか、凄まじい活力、精力が彼女の五体を駆け巡り、みるみるうちにそのおっとりした頭の中を真っピンクに染め上げていく。薬の想定以上の効果に、マリナは呼吸を荒くし始めた。
「は……あ、え……? な、なんだか……体が、すっごく、あつ、くて……」
おっとりした声のトーンはそのままに、しかしどこか艶を帯びた吐息が、桃色に染まった唇から溢れ出る。みなぎる体力に突き動かされるように、マリナはベッドの上で身をよじるが、頭の芯までピンク色に急かされて、どうしていいか分からない様子でアレンを見上げた。
「旦那、様……これ、本当に……ただのお風邪のお薬、ですか……?
胸の奥が、きゅーってして……なんだか、変なところが、ドキドキして、止まらなくて……。頭が、うまく、働か、なくて……。
だ、ダメです……! 旦那様ぁ! お顔を近づけないでください! ……今、は……」
溢れる精力に翻弄され、潤んだ瞳から涙がこぼれそうになる。必死に理性を保とうと布団の端をぎゅっと握りしめるが、その指先は小さく震えていた。いつも一歩引いたみんなのお姉さん的存在の彼女が、想定外の快感と熱に浮かされ、完全にタジタジになっている。
逃げるように枕に顔を埋めながらも、チラリと上目遣いで私を盗み見ている。
「マリナ……?大丈夫か? もしかしてポーションに何か良くないものが入ってたのか?」
慌ててベッドに身を乗り出し、マリナの顔を覗き込む。
心配で頭が一杯になり、彼女の額に手を伸ばそうとしたその瞬間――
ふわりと甘い熱風が鼻腔をくすぐり、視界がぐらりと揺れた。
熱い吐息とともに、桃色に染まったマリナの唇が、私の唇を塞いでいた。
ちゅ、と小さく湿った音が部屋に響く。
驚きで体が硬直するアレン。マリナはハッと正気に戻るとこみ上げてくる淫らな気持ちを何とか抑えて、すぐに布団へ潜り込んで泣きじゃくりながら必死の抗弁をする。
「ち、違います……っ! 私、誰にでもこんなことするような、だらしない娘じゃありませんからね……っ!
でも、でも……あふれ出てくる気持ちが、もう全然、抑えがきかなくて……っ。旦那様をみたら、体が勝手に動いちゃったんです……!
ポーションも毒なんかじゃありません、体は……体は、すっごく元気なんです……っ!
旦那様だから、旦那様がそんなに優しいから……だから、暴走しちゃっただけで……うぅ、信じてください……っ」
涙で濡れた顔をシーツに押し付け、年相応の女の子のように足をバタつかせて恥ずかしがるマリナ。
その様子を見て、私の脳裏にある光景がよみがえった。
そういえば、あの路地裏の薬屋でポーションを受け取ったとき、怪しい皺だらけの主の婆さんが言っていたのだ。
『この薬は万能さ。どんな病も一発で治す。……ただねぇ、元気になりすぎるってのが副作用ってところかねぇ? ヒヒヒ……』と、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていたことを。元気になるなら問題ないじゃないかと、笑い飛ばした過去の自分をぶん殴りたい。
(あのクソババア……! 副作用ってこういうことか! ちゃんと最後まで説明しやがれ!)
ベッドのきしむ音が小さく響き、アレンはマリナの透き通るような青い瞳をじっと見つめた。熱に浮かされ、潤んだその瞳は、まっすぐにアレンの心を射抜いている。
あぁ駄目だ、可愛すぎる。この部屋に来たときから、いやそれよりも前から、何とか抑えてきたマリナへの想いは今この瞬間にもものすごい勢いで膨張し続けていた。前線基地を任された責任感から、絶対に部下には手を出さないと心に決めていた。けど、そんなのはもう無理。眼の前の可憐な少女の前では無力。
「マリナ。俺はお前のことになると臆病になってたんだ。でもこんなにかわいい姿をみてしまったらもう気持ちをごまかせないな。」
覚悟を決めたアレンの言葉に、マリナの長い睫毛が小さく震えた。
次の瞬間、アレンは彼女の華奢な体をそっと、しかし逃がさないように力強く抱きしめ、その高鳴る胸の鼓動を感じながら、深く唇を重ねた。
いつもよりずっと熱い彼女の体温が、肌を通じてダイレクトに伝わってくる。驚きと、待ち望んでいた歓喜が混ざり合ったような小さな鼻声がマリナの喉から漏れ、重なり合った唇の隙間から甘い吐息が溢れ出た。
何度も、深く、確かめ合うようなディープキス。
マリナはアレンの背中に必死で腕を回し、縋り付くようにしてキスを受け入れている。頭の中のピンク色の熱に流されそうになる。アレンへの純粋な愛おしさで押し留めようと、アレンのシャツをぎゅっと掴んでいた。
ようやく唇が離れると、銀の糸が小さくきらめいて解ける。
マリナは完全に息を切らし、青い瞳をさらに潤ませながら、真っ赤な顔でアレンを見上げた。
「ん、はぁ……っ、旦那、様……っ。
うぅ……そんな、情熱的なことまでできるなんて、聞いてません……。臆病だなんて、嘘つきです……。
でも、もう……本当にごまかせません、ね。わたしの心も、体も、全部旦那様に買い占められちゃいました……。あつくて、頭が、とろけちゃいそうです……っ」
ポーションの途方もない活力と、初めて触れ合えた喜びの熱に当てられ、マリナはアレンの胸にコト、と額を預けて、幸せそうに荒い息を吐き出し続けた。
明日7/18にイチャラブシーンを投稿できるように頑張ります!
初めて投稿するR18小説なので、ご意見、ご感想いただくと大変励みになります。時間に余裕のある方は、どうぞよろしくお願いいたします。