異世界転生を阻止されたので現代で復讐を果たします。 作:六本線
「どうして僕ばかり――」
いじめ、家庭の冷たさ、父の死。
積み重なった不幸に押し潰されそうになったユウマは、ついに自ら命を絶とうとする。
だがその瞬間、魔王配下の魔人グリッジが現れ、ユウマの人生が“異世界の勇者転生儀式”によって意図的に不幸へと導かれていたと告げる。
奪われ続けた人生に、少年は初めて「怒り」を抱いた。
そして願う――復讐を。
自分を壊した人間たちへ、そして異世界の都合そのものへ
佐藤ユウマの涙は涸れ果てていた。どうして自分ばかりが不幸なのか……普通に生きていたいだけなのに。
今日の夕飯は抜きにされたのでお腹が空いている。お腹が空くと悪いことばかり考えてしまうので早く寝たいのに布団中に入って目を閉じても眠ることが出来ない。ユウマは帰り道、トラックの前に飛び出したことばかりを思い出してしまう。やはりあそこで死んでしまった方が良かったのではないだろうかという考えだけが頭の中をぐるぐると回っている。ユウマはふとお父さんの形見の中に小型ナイフがあることを思い出した。ユウマがもう少し大きくなったらあげると言っていたナイフだ。お父さんの形見は全てユウマの部屋で大事に保存している。音を立てないように押し入れをそっと開けてキャンプ用品の中にまとめられていた小型ナイフを見つけ出す。
お父さんはきっと怒るだろう。でも、もう限界だった。キラキラときらめく刃がとても綺麗に見えた。どこを切れば良いかなんてわからない、ドラマや映画では手首の辺りを切っていたように思う。ユウマがそっと手首に刃を当てようとするとナイフと手首の間に飛び込んでくる影があった。
「すとーっぷ!!! すとぉぉぉぉっぷ!!! 止まってください本当にお願いしますから!」
その影は両手でナイフを挟み込むとユウマの手首に着地して真剣白刃取りをしてみせる。電気をつけていないのではっきりと見ることは出来ないがその小さな影は真っ黒で光沢を放っている不思議な素材で出来たきわどい水着のような物を身につけた小人の様にみえた。小さいながらにかなりの力を有しているようで小型のナイフは完全に動かない。ユウマは諦めてナイフごと手を退けると机の方へ行って卓上電気スタンドをつける。
「いやぁ、良いスポットライトですね。初めまして、わたくしめの名前は魔人グリッジ。魔王様の配下でこのたび重要な任務を携えてこちらの世界へやってきたものでございます」
電気スタンドの明りを浴びながらグリッジと名乗った小人の女性は恭しく頭を下げる。手のひらよりも少し大きい、15cmぐらいの女性だ。よくよく見ると大きな胸やお尻をしていてかなりきわどい格好をしている様に見える。ユウマはどこを見て良いかわからなくなって視線をそらす。
ぷにゅりと手の甲に柔らかい感触が伝わってきて驚いて手を見るとグリッジが手の甲によいしょと腰掛けていた。
「さて、えーっと……まずはお名前をお伺いしても?」
「佐藤ユウマですけど……」
その暖かで柔らかい感触。小動物を触っているかのような感覚が夢ではないと知らせてくる。
「ユウマ様ですね。お願いですからしばらくの間、死なないで欲しいんです」
「え、な、なんで」
何故そんなことを言うのだろう。勇気を出して死のうとしているのに何故止めるのだろう。ユウマはその理由がわからずグリッジをにらみ付けてしまう。グリッジはそんなことも気にせずにユウマを見上げながら続ける。
「こちらの世界の情報は魔法でなんとなく理解しております。異世界転生というものはご存じでしょうか?」
「えっと、それは知ってるけど」
ユウマの唯一の楽しみと言えば小説や漫画を読むことぐらいだ。最近はお小遣いを全ていじめっ子に取られてしまうので読んでいるのはネットで読むことが出来る小説ぐらいだ。最近よく呼んでいるジャンルの中に異世界転生も入っている。
「あなたが死ぬとその異世界転生が起きます。そして、我が魔王様があなたの手により封印されてしまうのです」
突拍子もない話だと思ったが、これだけ小さな人がこうして説明している時点で信じるほか無かった。
「トラックにひかれそうになっている所を発見したときはどれだけ肝を冷やしたことか……」
「あの時にいたの?」
「はい、トラックを止めたのはわたくしめでございますから」
「なんで、そんな余計な事をしちゃったの!」
ユウマが大きな声を出すと壁からどんっと音が聞こえてくる。妹は母さんにべったりと甘えてから部屋に戻っていたようでまだ起きていたらしい。しかし、それだけユウマにとっては衝撃的な事だったのだ。グリッジは魔王の配下と言っていた。自分が死んで世界が救えるのであればさっさと死んでしまおう。きっと向こうの世界なら自分は幸せに暮らせるはずだとユウマは再びナイフを手に取る。
「もしも! もしも、ユウマ様が見舞われている不幸に原因があるとしたら! その原因がわたくしめの世界の人族だとしたら! いかがしますか?」
グリッジはふわりと浮かび上がってユウマの顔の前まで来るとびしっと指をさしてくる。
「な、何を言ってるの?」
「誰しもそうだと思いますが……良い行いをするというのはなかなかに難しい事ですよね? 人助けをするとか、自分の財産をなげうってまで誰かの為になることをするとか出来るけどやりたくないじゃないですか? それよりもお金を自分のために使ったり、怠けたり……なんなら自分のために誰か別の人が働いて欲しいと思っちゃいますよね。元気に振る舞うよりも静かに過ごしていた方が楽ですよね」
グリッジはゆっくりとナイフを握る手に着地する。そのまま器用にナイフの上を歩きながらじっとユウマの方を見る。
「ぐーたら過ごしたり、悲しみに明け暮れたり、不幸で魂が濁るとそこから少しずつ負のエネルギーである魔力がにじみ出てくるんです。逆に人助けなどをすると溢れてくるのが神力と呼ばれる物で魔族はこれに弱いんですね」
まだ話が見えてこないがユウマは大人しくグリッジの話を聞く。とても嫌な予感がする。グリッジからとんでもない事実を聞かされるような気がしてならない。
「反転生術式と呼ばれているものでして、こちらの世界で魂を真っ黒に汚しておくとあちらの世界では真っ白な魂。清廉潔白な神力の使い手になるんですよ。つまり、今、虐められているのも不幸なのもぜーんぶ、あちらの都合なんです」
「な、なら……お父さんが死んじゃったのも」
「えぇ、それが始まりです。数年前ですよね? 丁度その頃に勇者転生の儀式が始まっています。ユウマ様の幸運を不幸に変え、不幸をより強い不幸に変える魔法を絶えず送ってきているんですよ。わたくしめもその儀式の作る道を通ってこの世界にたどり着きました……ただ、ユウマ様を探すのに時間がかかってしまい」
大好きなお父さんの死が……異世界からの魔法の仕業だった? そんなこと起こって良いはずがない。世界を救うためだったら何でもして良いのか。そんな奴らの為に今、自分は不幸になっているのか。
「お怒りはごもっともです。ユウマ様……なので勝手ながら……あと数年はこちらで生きていて欲しいのです。できるだけ長ければ長いほどいいですね」
「……うん、わかった。そんなやつらの為なんかに死にたくない」
ユウマの表情を見てグリッジはナイフの上からぴょんっと降りる。ユウマはそのナイフを大事にしまって箱の中に戻していく。
「でも……どうしよう。僕、死にたくなるぐらいには嫌な目にあってるよ」
「えぇ、なのでわたくしめの役目はあなたをこちらの世界で幸せにすること……あなたの魂にこびりついて熟成され、たまっている魔力をできるだけ使うことなんです」
グリッジは笑顔を向けてわたくしめに何か出来ることはありますか? とユウマに問う。自分がしたいことは一体何だろう? ユウマはしばらく真剣に考える。今、お父さんが生き返ったところで色々と手遅れな気がする。それよりも――
「復讐したい。僕をこんなになるまで虐めた人や傍観していた人に仕返しをしてやりたい。僕に手を出せないように徹底的に……そうじゃないとまた魔力がたまっちゃうんでしょ?」
「その通りでございます。安心してください。わたくしめ、こちらに来るときに力の大半を使ってしまいましたが、復讐するのにぴったりな能力だけは残っております」
ユウマはグリッジの言うことを信じ、今日は休むことにした。ユウマは本当に久しぶりに明日からの学校が少しだけ楽しみになるのだった。
あとがきという名の語り
お世話になっております。せめてあらすじの部分だけでも終わらせておかないとと思い……投稿させていただきました。
あと、せっかくだから色々と試してみたくて投稿の予約設定なんかもしてみたいなぁとか思いまして……
上手くいっているなら18時に投稿されているはず……メインの話とは少しそれますが、グリッジさんのエッチなシーンとかもいつかは書きたいなぁと思いつつ最初は復讐からですね。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。