異世界転生を阻止されたので現代で復讐を果たします。 作:六本線
複数人で押さえ込まれても、グリッジの防御で一切通じない。
策が崩れ、男子たちが宙に浮かされて退散する中、残されたトウコは追い詰められていく。
最後には――
ユウマに抱きしめられたまま、ふたりは子ども食堂を後にすることになる。
普通の学生であれば休みの日は楽しみで仕方ないのだろう。佐藤ユウマにとってもそれは変わらない。ユウマの休みの日の過ごし方は朝起きるとすぐに身支度をして散歩に出る。図書館が開く時間になると図書館へ行って宿題や勉強を済ませて、読書をする。お昼が近くなると子ども食堂へと向かってごはんを済ませるとまた図書館へ向かう。図書館が閉ると一度家の駐車場を見に行く。母親の彼氏の車が駐まっていたらいなくなるまで散歩をして……場合によっては夜ご飯も子ども食堂で済ませるというのがユウマの休みの日の過ごし方である。
いつも通り図書館で時間を潰してから、お昼時、太陽の光で肌を焼きながらユウマは子ども食堂へと向かった。
「いらっしゃい。あら、ユウマくん……どうしたの? 何かいいことでもあった?」
「え、えっと……ちょ、ちょっとだけ」
出迎えてくれたのは子ども食堂を切り盛りしている店長のやっちゃん。母親とほとんど同じ年齢ということだったが、とても若々しく元気に満ちあふれている女性で、化粧で若作りしている母親とは大違いだなとユウマはいつも感じていた。やっちゃんは『みんなのお母さん』を目指しているようだが、子ども食堂を使っている子ども達からは『親戚のお姉さん』のような扱いを受けているし、それはユウマも同じだった。
「いつものでいい? あ、そういえば、ユウマくんのお友達? が来てて2階で待ってるみたいよ?」
「友達??」
子ども食堂の2階には勉強部屋と遊び部屋がある。色んな学区の子ども達が集まる場所なのでここでしか遊べない子達もいるのでいつも賑わっているがユウマはあまり利用したことはない。なのでここで作った友達はいないし、学校にも友達と言える人はいない。無視してもよかったのだが、無視したとしてもやっちゃんが勝手に呼びに行ってしまうだろうと考え、ユウマはわかったと返事をして2階へと上がっていく。
(どう思う?)
『そうですね。オモイがいる可能性もありますが、配信を見ていたならどちらかが来てるかも知れません』
(そうだよね)
ユウマは肩に乗っているグリッジに意見を求める。
配信であれだけ挑発的な行動を取ったのだ。もしも配信を見ていたのならふたりのどちらかから何か行動があってもおかしくはない。ユウマがそっと遊び部屋の扉を開くと部屋の中は真っ暗で何も見えなかった。
「来たぞ! やれ!」
聞き覚えのある声が小さく響くと誰かに部屋の中へと引っ張り込まれてしまう。ユウマは反応する暇も受け身も取れないまま床にたたきつけられる。そして、暗闇に目が慣れる前にしっかりと目隠しをされてしまう。音を立てないようにする配慮なのか目隠しをしたユウマを数人がかりで抑え込む。身体や手足にいたるまでユウマはぴくりとも動かせない。
「ふん。空気……調子に乗ったな。同じ道場に通ってる子にお前がここに通ってるって話を聞いて待ち伏せさせてもらったよ。変な超能力を手に入れたみたいだけど……そういう能力って目に見える範囲に限るとか制約があるものだよね? この状態なら何も出来ないんじゃないかい?」
先ほどの号令と同じ声が聞こえる。この聞き覚えのある声は芦刈トウコのものだろう。
「ここから移動する前に逆らえないように軽くボコボコにしておこう。顔は駄目だよ。身体に何発かいれて」
どごっ、どがっ。
部屋中に鈍い音が響き渡る。そして、響き渡る悲鳴は――
「い゛でぇぇっっっっ」
「ふ、服の中に何か入れてるぞ。か、関節きめろ」
「む、むりぃぃ。ぜんぜんっっっびくともしないっというか……う、うごけないっ」
のしかかってきた人たちの悲鳴だった。しかし、ここまではトウコの想定内だった。触っているのだから位置ぐらいわかるだろう。で、あれば自分自身があとは遠くから手足を狙って叩けば良い。トウコはそう考えて少し距離を取って持ってきていた文鎮を手にユウマの足首を狙って振り下ろす。
『なるほど……ゴブリン程度の知能はあるみたいですね』
(えーっと、どういう状況?)
『トウコが暗闇に乗じて奇襲。ユウマ様を拘束しているのは体格の良い男子達ですね。苦しくはありませんか?』
(グリッジがバリアみたいなの張ってくれてるんでしょ? 全然いたくもないし苦しくもないよ)
がきんっ。
トウコの一撃は何かに阻まれ、まるで鉄塊を殴ったかのような衝撃と音が伝わってくる。おかしい、見えていないのにこんなことが出来るはずがない。トウコは何度も何度も文鎮を振り下ろすが、あまりにも見えない壁が硬くトウコの手の方がしびれてくる。
「よいしょっと……もういい?」
「うわっなんだこれ!?」
「う、浮いてる!?」
「わ、わー! ごめんなさいっごめんなさいっ!」
トウコが呼び出していた男子達が宙に浮いている。トウコでも投げるに一苦労する男子3人を軽々と空中に浮いている。自由になったユウマはのっそりと立ち上がり目隠しを外していく。この瞬間、トウコが立てていた策は全て破られてしまったことになる。トウコは一目散に扉の方へ向かうがそれよりも早く男子達が扉の前に移動させられる。
「うん、君たちは僕の学校の子でもないし……ただ言われてきただけみたいだから、もう家に帰って良いよ。お疲れ様気をつけて帰ってね」
「い、いいんですか! ありがとうございますっ!」
「し、失礼します!」
「お、押忍! も、申し訳ございませんでしたっ!」
男子達はユウマに対してだけしっかりと頭を下げると慌ただしく扉から出て、どたどたと階段を降りていく音が聞こえてくる。トウコもどさくさに紛れて扉から出て行こうとしたが、トウコが出て行こうとするとばたんっと大きな音を上げて扉がしまり空かなくなってしまう。これでトウコは数的優位もなくなってしまった。
「配信見てくれたんだ? じゃないと僕ごときを相手するのにこんなに人を集めないもんね」
ユウマがトウコににじり寄ってくる。ユウマがトウコに近づいた分だけ、トウコは後ろに引いてしまう。その様子を見てユウマは面白そうにくすりと笑うのを見てトウコはプライドを傷つけられる。どうして、自分が空気から逃げなければならないのだ。ユウマがまた一歩近づいてくるがトウコは気合いを入れて踏ん張って後ろに下がらない。
「あれ? 下がらなくても大丈夫?」
「空気なんぞ相手に下がってたまるか」
トウコにとってユウマとの間合いは懐に飛び込んで投げてしまうには十分な距離になっていた。懐に入り込んで襟首を掴んで投げる。一昨日までは空気相手に何度も何度もやってきた事で今でも簡単にできそうなほどに隙だらけなのにトウコは動くことが出来なかった。ユウマを相手にしているのではない……なにかもっと別の恐ろしい物を相手にしている気分になっている。柔道の先生を相手にするときでもここまで怖くない。トウコは完全に萎縮してしまっていた。
一歩、また一歩と小さな歩幅で2人の距離は着実に近くなっていく。
「う、うぁぁぁぁあぁっっっ!」
トウコは恐怖を払拭するために気合いの雄叫びを上げる。逃げる事はできないと覚悟を決めたのだ。しかし、その気合いの雄叫びをあげると意外な事に……ユウマの身体はびくんっと驚いたように跳ねた。明らかな隙。勝負を決めるのであればここしかないとトウコは一気に距離を詰めて、ユウマの襟首を掴み身体を引き寄せて大外刈りの準備に入る。
ぎゅっ。
しかし、投げられない。いつの間にか襟首を掴んでいた手は離れてユウマの首に回してただ抱きしめた状態になっている。
「……ここは汚したくないから別の所いこっか」
「お、おい、まてっ。こ、これをほどいてからに……」
ユウマとトウコは恋人のようにぴったりとくっついて子ども食堂から出て行くのであった。
あとがきという名の語り
お世話になっております。とりあえず、これでトウコの前準備が終わりましたかね。
メインディッシュはヒトハだと思いますのでやはり最後……途中いろいろ寄り道しようと思いますのでまだまだ続きますがよろしくお願いします。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。