※この作品はR-18です。

オペレーターの暴力を受け入れるドクター   作:五角ちくわ

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男ドクターが苦しんでいる所が見たかったので書きました。


オペレーターの暴力を受け入れるドクター《準備編・ケルシー・電気責め》 

 ドクターがまた倒れた。

 変なものを食べて、腹痛を起こしたらしい。

 青色の血を吐いたと聞いた。

 

 

 報告が届いていないぞ。

 ファイルにも記載はないのか?

 寝不足で倒れたはずでは。

 

 

 一体どれが本当なの?

 知らん、私に聞くな。

 お願い。

 

 いつ倒れてもおかしくはない状態だったわ。

 …………。

 赤いファイル。

 

 

 襲われたって、誰かが言っていた。

 誰がだ。

 それってさ、噂した人の事聞いてる?それとも

 

 

──襲った人の事?

 

 

 

 

 伝聞による情報は、得てして根も葉もない噂となる。

 今回もケルシーが内容を訂正し、事態は収束する、

はずだった。

 

 

「単刀直入に言おう」

 

 

 カーテンで遮られ、廊下から向こう側が見えない部屋。

 自動扉のドアサインには、『LOCK』の文字が浮かび、赤く点滅している。

 

 

「噂を広めたのは、君だな?」

 

 

 机もない部屋の中心で仁王立ちするのは、ロドスの実質的なトップである、ケルシーだ。

 彼女は相対するものに向けて、鋭い視線を射った。

 目の前の者はうつむき、一切喋らない。

 

 

「私が訂正しても尚、一人歩きしている言葉がある」

 

 

 憐憫か、侮蔑か、

彼女の下瞼が、断続的に痙攣する。

 恐怖か、怒りか、

見下ろされたそれは、わずかに震えた。

 

 

「赤いファイル」

 

 

 しなやかな手がフードを剥がし、相対する者の相貌を露わにする。

 

 

「願い」

 

 

 ボサボサの白髮を掴み上げ、吐息交じりの言葉を鼓膜へ流し込む。

 

 

「ドクター」

 

 

 相対するものは、か細い声で唸る。

 椅子に縛り付けられ、芋虫のように身じろぐ彼は、ケルシーの責め立てを、ただ聞くことしか出来ない。

 

 

「君は、一体何を考えている」

 

 

 消毒液の香りを纏う指が、白髮に埋もれたベルトを緩め、彼の口から猿轡を外した。

 薄い舌から垂れる唾液が、轡との間に橋を立てる。

 喘鳴混じりの声が、震えながら告げた。

 

 

「ケルシーは、優しい、から」

 

 

 彼女の白い猫耳がピクリと揺れ、ビニル質の意匠が施された白衣が、衣擦れを鳴らす。

 こめかみに青筋が走り、彼女は、細指の先が白くなるまで、右手の平に乗せたデバイスを押し込んだ。

 

 

 「これでもか?」

 

 

チっ チっ チっ チチチチチチチ…… バチンッ!

 

 

「ぐぅ……っ……はっ、ゔぅ……っ!」

 

 

 貼り付けられた無数の電極パッドから、断続的に電流が走り、脂汗で塗れた痩身が跳ねる。

 キャスター付きの椅子は、身悶えする彼をガラガラと嘲笑い、痛みを逃すことを許さない。

 

 

チっ チっ チっ チチチチチチチ…… バチンッ!

 

 

「ぎ……ッ!はぁ、はぁ、あ゛ぁ……っ!」

 

 

 ケルシーは、冷ややかな目で彼を見下ろした。

 薄い喉仏からの艶めかしい喘ぎが、部屋中に響く。

 分厚い鉄の壁で遮断され、誰にも聞こえない声。

 

 

 細指が容赦なくダイヤルを回す。

 身体が求める以上の空気は、反射で閉まりきった彼の喉仏を削り、口からひり出される鳴き声を、酷く耳障りの悪い音色に変えた。

 

 

 バチッ! バチッ! ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!

 

 

「あ゛あ゛っ!が……ぁっ!はっ、はっ、ひゅぅ……っ!」

 

 

 冷ややかだった目には、艶がにじみ、

 下がっていた口角は、弧状に吊り上がる。

 

 

 赤くマーカーされた危険域まで、残り数ミリ。

 ケルシー自らが引いた線は、誰の目にも映っていない。

 

 

 彼女の太ももに、一筋の軌跡が垂れた。

 

 

「ケル、シー……頼むっ!もう、やめて……くれ……っ!」

「……ッ」

 

 

 涙声混じりの叫びが、部屋の空気を現実へ引き戻す。

 彼女は左の二指を食い込ませ、ダイヤルを捻り戻した。

 

 

 投げ捨てられたデバイスは壁に当たり、砕け散る。

 椅子ごと床に落ちた彼から、電極パッドを引き剥がし、

ケルシーは、一層青白くなる顔に掌をあてた。

 

 

 瞳の揺れは次第におさまり、焦点の定まらない目が、彼女をどうにか捉える。

 浅くなりゆく呼吸と反比例して、彼女の鼓動は激しさを増した。

 

 

「ドクター!息を止めるな……ッ!意識を、呼吸に向けろッ!」

「──Mon3tr!」

 

 

 半身に引き千切らせた縄を放り投げ、痩身を仰向ける。

 顎を上げ呼吸を確認し、脈を測ろうとした瞬間、

骨張った手が、彼女の手首を握りしめた。

 

 

 製図したような無機質な半円が、彼女に言い放つ。

 

 

「ほら、優しい」

 

 

 その口は、嗤っていた。

 

 

◇

 

 

「……責めている訳じゃないんだ」

 

 

 よろめく痩身がゆらりと立ち上がり、床にへたり込むケルシーを見下ろす。

 

 

「けど、まだ足りない」

 

 

 額に滲んだ血を拭い、彼は優しげな笑みを向けた。

 相対する彼女は、目の前の化生をただ、じっと睨めつけている。

 誰も聞いたことのない、震えた上擦り声が、彼女の喉を通して、化生に放たれた。

 

 

「君の望み通りに、本気で痛めつけたつもりだが」

「でも、私が本気でお願いしたら、止めちゃうでしょ?」

 

 

一方は狼狽え、震え、

一方は普段通りの無機質さで返答する。

 彼女の半身は、嘴をあんぐりと開け、ただオロオロと、双方の顔を心配そうに覗き込んだ。

 

 

 乱れた呼吸を整えた彼女は、半身の名を淀みなく呼び、自身の脊椎へと戻す。

 

 

 しんと静まり返る部屋。

 彼は黙して返答を待ち、

彼女は、骨張った手が擦る顎を、まっすぐ見つめた。

 

 

「……アーミヤとの件、まだ気にしているのか?」

「考慮はしている」

 

 

 彼は顎を上げ、首元の圧痕を指差す。

 指輪の跡が、くっきりと刻まれた擦過傷は、彼女の視線を確認した後、慣れた手つきで襟に収められた。

 

 

「彼女達の、本来の力を以てすれば、君は──」

「怪我だけでは済まないだろうねぇ」

 

 

 他人事のように話す彼は、両手を拡げ、一歩近づく。

 彼女の頬に冷や汗が一筋。

 

 

 パンプスが床を叩いた音を耳が捉え、自身が後ずさったことを認識する。

 

 

「はっきりと言おう、君には荷が重い」

 

 

 それでも彼女は目を背けない。

 

 

 彼の両の瞳が仰ぐ先に、何があるのかを見極めるために。

 

 

「私は……皆を、受け入れたいだけだよ」

 

 

 端正な顔が、猜疑心で更に歪む。

 彼を認識して以来、

バベルでの事件以来、

彼を石棺から救い出して以来、

テラという大地に、向き合ってほしいと告げて以来、

ドクターと呼ばれるこの男──オラクルの表情が、ここまで識別出来ない事があっただろうか。

 

 

 嗤っているのか、哭いているのか。

 心があるかも、今はわからない。

 

 

◇

 

 

『赤いファイルが執務室の何処かにある』

『そのファイルを見つけてドクターに見せると、

なんでも言う事を聞いてくれる、らしい』

 

 

 思惑通りに流れた噂で、ドクターの予定は山積みだ。

 あるものは絵本の朗読を依頼し、

又あるものは龍門での食事に誘った。

 

 

 長時間の撮影会、新作の紳士服のモデル、買い物と称したデート、訓練の視察と参加、人体実験、

何れも断る事なく、何れも快諾した。

 

 

「ド、ドクターっ!あの、これ……っ!」

 

 

 桃色の髪のフェリーンが、興奮した様子で彼に駆け寄る。

 手には赤いファイル。

 源石製の表紙は静電気を帯び、彼女のもみあげを逆立てていた。

 

 

「ヘアーモデルなら、ファイルを使わなくても……」

「そうじゃなくて、お願いが……あぁ、また駄目にしちゃった……っ!」

 

 

 取り出したのは、一枚の薄い記録媒体。

 彼女の発する電気により、焦げ付き、黒ずんでいる。

 何が記録されていたかは、彼女の紅潮した頬が物語っていた。

 

 

「ケルシー先生と、その……っ」

 

 

 革製の手袋が、彼女の唇に触れる。

 瞬間、バチンと音が鳴り、手袋の指先が少し焦げた。

 

 

「平気だよ。ところで、お願いって?」

 

 

 彼女の目が、妖しく光る。

 朗らかに話す声と、記録媒体の叫び。

 同じ喉から出たとは思えない音が、彼女の理性を狂わせてしまった。

 

 

 或いは、秘めたる欲を、顕現させてしまったのか。

 

 

「ドクターに、同じ事しても、いいですか?」

 

 

 彼は、コクリと頷いた。

 彼女──ゴールデングローの頬は一層赤らみ、

目一杯見開かれた瞼は、キュッと結ばれ三日月型に撓む。

 

 

 その眼差しは、獲物を狙う捕食者のものだった。

 

 

「ぼーっとしてるけど、大丈夫かい?」

「えっ?あっ、何でもありません……じゃ、じゃあ、行きましょうか」

 

 

 ドクターの腕を引き、自室へと押し込む彼女は、口端から垂れる涎にも気づいていない。

 

 

 気取られぬよう、耳をそばだてる者にも、彼女はやはり気づいていなかった。

 

 

 幾つかのファイルには、同じ記録媒体が仕込まれている。

 次に手にしたものが、どの様な行動に出るかは、

彼女達の理性と獣欲に委ねられた。

 

 

 ドクターはやはり、快諾するだろう。

 その身を文字通り焦がし、刻み、苛もうとも、彼は受け入れる。

 

 

 彼もまた、望んでいるのだ。

 




思いついたら追加します。
ドクターのことをいじめてくれるオペレーター募集中。
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