ここ五日間は生きた心地がしなかった。
通報される夢を見て夜中に飛び起きること三回。
コンビニのバイト中にパトカーのサイレンが聞こえるたびに心臓が跳ね上がること無数回。
なぜか倉庫バイトの最中にも制服の警官を見かけた気がして気が気じゃなかった。ただの宅配便の制服だった。
琴音も瑠衣もいない、ことぶき荘。
蒸し暑い部屋で一人、膝を抱えて悶々とする日々。
エアコンは結局まだ買っていない。万札を数枚抜かれたとはいえ、残金はまだあるのだが、買いに行く気力が湧かなかった。
あの少女からのラインは、五日間、一通も来なかった。
既読もつかない。ブロックされたわけでもなさそうだが、何のアクションもない。
あれは一体なんだったのか。
金を巻き上げるだけ巻き上げて、それで終わりなのか。
いや、連絡先を聞いた意味は?何かのネタにされるのか?動画でも撮られていたのか?
不安と恐怖が脳内をぐるぐると回り続ける、地獄の五日間だった。
そして六日目の昼下がり。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
琴音じゃない。琴音は実家だ。壁を叩く音でもない。
瑠衣でもない。瑠衣は旅行中のはずだ。
大家か、宅配か、N〇Kか――それともメスガキが通報していて警察が来るのか。
俺はおそるおそるドアスコープを覗き込んだ。
歪んだ魚眼レンズの向こうに映っていたのは、濃紺の猫耳と、翡翠色の瞳だった。
「…………」
心臓が止まりかけた。
なぜここを知っている。連絡先は交換したが、住所は教えていない。
……いや、ラインのプロフィールに「ことぶき荘201」と書いてあったかもしれない。前に琴音に教える用に設定して、そのままだった気がする。
迂闘だった。自分の迂闘さとバカさが恨めしい。
居留守を使おうか迷ったが、少女はもう一度チャイムを鳴らした。
ピンポーン
「おじさーん♡ここにいるのは分かってるよ〜!この扉うっすいからわずかな音でもこの耳はごまかせないよ〜居るんでしょ〜居留守使わないで〜」
……観念した。
チェーンをかけたまま、ドアを薄く開ける。
「……何の用だ」
「えへへ」
少女は、あの日と同じにやにや笑いを浮かべていた。
だが、その手には――封筒が握られていた。
「はい、これ」
ネコのマークがついた封筒を差し出された。
中を覗くと、万札が数枚。あの日、抜き取られた金額と同じだ。
「……金を返しに来たのか?」
「ううん違うよ」
少女は猫耳をぴくりと動かし、照れたように目を逸らした。
……照れ?今、一瞬だけ照れたのか?
「あれから何人か別のロリコン捕まえてお金貰ってヤったんだけどさ……やっぱ、おじさんが一番気持ちよかったんだ」
照れは一瞬で消え、いつもの生意気な笑みが戻った。
「……今更驚かないが、やっぱりそういうことしてるんだな」
「ま、ま、そういうのは置いておいて、とりあえずこの封筒について説明するね?」
今しがた渡してきた封筒の中には奪われたはずの万札が数枚しっかり入っていた。
なんなら口止め料としてでも受け取っておいて欲しかった…
「このお金の枚数分は、セックスし放題ね♡おじさんのちんぽ、すっごく気持ちよかったから、特別にいっぱいサービスしてあげる♡♡」
「……何を言ってるんだお前は」
「だから〜、この封筒のお金がセックス回数券になるよってこと!一回につき1万円で……何回できるんだろうね♡ち・な・み・に、一回でできる回数に制限なしで、使ったら一日中飽きるまでヤり放題!お得でしょ?」
「……それってどういうことだ?」
「察し悪いなぁ……この封筒の中のお札を一枚私に渡してくれたら、私と一回セックスできるってことだよ。その一回に射精制限がないってこと♡」
「…………」
望んでいない。
一ミリも望んでいないロリセックス回数券を、手にしてしまった。
「いや、いらない。もう帰ってくれよ」
「えー、いいの?じゃあ、このお金全部回収してもらっちゃうけど」
「……」
「あ〜、おじさんがそう言うなら私ちょー機嫌悪くなって警察にポロッと言っちゃうかも『この封筒に入っているお金で口止めされてたんです!』って」
卑怯だ。
この少女は、俺の弱みを完璧に握っている。あの日の出来事を通報されたら俺は終わりだ。かといって、金を奪われたままにしておく余裕もない。
この提案に乗りさえすれば、一応お金は戻ってくるし……回数券とはいえ使わなければそのうち少女が飽きてやめるかもしれない。
チェーンを外してドアを開けた。
少女はにやにやと笑いながら、するりと部屋に入り込んできた。
「うわ、おじさんの部屋、暑っ!エアコンないの?」
「あれだ」
「うわっ古そ〜最悪じゃん♡あ、この前のおトイレセックスのせいで買えなかったの?あたしがお金取っちゃったから?」
「…………」
「ウケる♡」
ウケねえよ。
だが、少女はすでに靴を脱いで部屋に上がり込み、物色を始めていた。
部屋を見回し、万年床を見て、テレビを見て、台所を覗き込む。
「おじさん、一人暮らしにしては綺麗だね。料理もするんだ?」
「……まぁ、な」
「ふーん」
少女は万年床の上に枕を椅子代わりにしてぽすんと座り込んだ。
猫の尻尾がぱたぱたと布団を叩く。
「ねぇ、おじさん」
「……なんだ」
「あたし、凛っていうの。
猫宮凛。
名前を名乗られたことで、この関係がまた一歩、取り返しのつかない方向に進んだ気がした。
「よろしくね、ロリコンのエロおじさん♡」
「……佐藤だ。佐藤達也」
「たっちゃん♡」
「おっさんでいい」
「じゃあ、おじさん♡」
「そんなにおじさんに見えるか?」
「じゃあ、お兄さんがいいの?うっわ、ロリコンのくせに若作りきっつ〜」
凛はにまにまと笑いながら、俺の方に手を伸ばした。
Tシャツの裾をつまみ、引っ張る。
「ほら、おじさん。回数券、使わないともったいないよ?それとも、目の前の女の子に緊張して手も出せないざこおじさんにもどっちゃった?」
猫耳がぴくぴくと動き、翡翠の瞳が期待に輝いている。
尻尾の先がくるくると円を描き、機嫌の良さを隠す気がまるでない。
俺は深い、深い溜息をついた。
隣の部屋には酒クズの狐。上の階にはダメたぬき。そして今度は、近所のメスガキ猫。
ことぶき荘は呪われている。間違いない。
だが。
金は返ってきた。社会的信用を落として、警察に捕まる可能性を考えるとプラスマイナスゼロどころか、だいぶマイナスだ。
いや、冷静に考えればこの少女に返ってきたお金を渡してセックスするのだから、渡さなければいいんじゃないか?
しかし、もし渡さずに機嫌を損ねたらそれこそこの少女に通報されて捕まるかもしれない……なら使った方が得なのでは?
……いや、そういう問題じゃない。
そういう問題じゃないのだが。
俺の中の倫理観と、下半身の欲望が、激しい攻防を繰り広げていた。
結果は、過去二回の実績が示す通り、最初から決まっていた。
「……元は取らせてもらうからな」
俺はそう呟いて、凛の細い肩に手を置いた。
凛は嬉しそうに猫耳をぴんと立て、にぃっと笑った。
「やっと素直になったね。じゃあ、いっぱい気持ちよくしてあげるから、覚悟してね~、おじさん♡」
俺は凛を万年床に押し倒した。
猫の体は軽くて、華奢で、だけど芯は強い。
押し倒された凛は抵抗するどころか、自分からキャミソールの裾をまくり上げ、平坦な胸を晒した。まだ発達途中の、薄い胸の先に、小さく桜色に尖った乳首がちょこんと乗っている。
甘い匂いが立ち上る。
猫のフェロモンだ。興奮すると分泌量が増えるのか、部屋に染み付いている琴音や瑠衣の残り香とは異なる、軽くて甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ねえ、おじさん……あたしの方がかわいいでしょ♡このお部屋に匂いがいっぱい残ってるお姉さんたちより♡」
猫の嗅覚で、琴音と瑠衣の存在を嗅ぎ取ったらしい。
獣人の鼻は侮れない。
「お前は黙ってろ」
「やだ♡」
「たのむから……」
「い~や♡」
「本当に壁が薄いんだって……万が一声でも聞かれたら通報コース一直線だ」
「でも、この建物おじさん以外に人の気配ないし良いんじゃない?声出して」
俺は凛の小さな乳首に指を伸ばし、黙らせるために人差し指の腹で軽くこすった。
「ひゃんっ♡もうっいきなりは反則だよ♡」
猫耳がびくりと跳ね、尻尾がぶわっと膨らんだ。
反応が素直だ。煽り口調とは裏腹に、体は正直に快感を訴えている。
指を白くてシミ一つない腹からゆっくりと上に滑らせ、乳首を親指と人差し指でつまみ、ぐりぐりと転がす。
「あっ♡ちく、び♡弱いんだってばっ♡」
「そうか?ならもっとしないとな」
もう片方の手で、もう一つの乳首も同時に攻める。
両方の乳首を同時に捻り上げると、凛の体がびくんと跳ね上がった。
「っ♡♡♡♡ずるっ♡おじさんずるいっ♡♡両方いっぺんにはだめっ♡」
凛は抵抗するように手を俺の胸元に持ってきて、グイグイと押す。しかし、その力ははっきり言って弱い。
俺は乳首への愛撫を続けながら、顔を凛の下腹部に近づけた。
さっき脱がせたばかりの場所。薄いピンクの秘裂は、すでにじゅんと蜜を滲ませていた。
舌を伸ばし、陰裂をゆっくりと下から上へ舐め上げる。
れろぉ……♡
「ひゃぅっ♡♡」
凛の腰が跳ね上がり、両手が俺の頭を掴んだ。
猫の爪が頭皮に食い込んで痛い。だが、それは本能的な反応だ。快感に耐えきれず、しがみつく場所を求めている。
「おじさっ♡舌っ♡またそれっ♡おまんこ舐めるのずるいっ♡♡」
「ずるくねえよ。お前が回数券使えって言ったんだろ。もうここまで来たら腹くくって、せめて金額分は得するんだよ」
「うっわ♡おじさんけちんぼさんだ♡びんぼーでケチなんてモテないよ~♡♡」
俺は凛の固くなったクリトリスを舌先で弾きながら、空いた手で指を膣口にあてがった。
一本、ゆっくりと挿入する。
ぬぷっ♡
「あ゛っ♡♡指っ、おじさんの太い指がっ♡中にっ♡♡」
狭い。
あの公衆トイレの時と同じ、未発達なキツさだ。だが、愛液は十分に分泌されており、指は抵抗なく奥へと進んでいく。
腹側の内壁を探り当て、ざらついた隆起を指の腹で撫でた。
「〜〜〜っ♡♡♡♡♡そこっ♡おじさんっ♡そこ触るのぉっ♡だめぇっ♡♡」
凛の体がガクガクと震え始め、猫耳が痙攣するように細かく動く。
クリトリスを舌で刺激しながら、膣内のツボを指で抉る。上下からの挟撃。
「だめっ♡♡だめだめっ♡♡またイクっ♡♡おじさんのせいでっ♡♡また、イっちゃ――」
びくびくびくっ♡♡♡
三度目の絶頂。
凛の体が硬直し、膣壁が俺の指をぎゅうぎゅうと締め上げた。
余韻に震える体を見下ろしながら、俺はゴムをつけた。
凛は涙目で俺を見上げ、くしゃっと笑った。
「おじさん……やっぱ、すごい♡♡こんなに気持ちいいの、おじさんだけだよ……♡」
「他の男と比べられて褒められても嬉しくないな……なんか」
「そうなの?……ま、ロリコンおじさん方ってみんな童貞さんとかで、下手っぴなのが多いんだよね」
「聞きたくなかったわ」
「ふふっ、いいじゃんきもちいいんだし♡褒めてるんだよ?」
一瞬だけ、煽りのない素のままの声が聞けた気がした。
だが、すぐにいつもの表情を取り戻す。
「で〜も、まだ入れてないでしょ?早く入れてよ♡ザコちんぽのくせに焦らすなっ♡♡♡」
……こいつ、本当に素直じゃないな。
俺は凛の細い腰を持ち上げ、ゴムを被せた肉棒の先端を、ぴくぴくと余韻に震える膣口にあてがった。
ずぷぅっ♡♡
「っ♡♡♡♡♡あ゛っ♡おじさんのっ♡♡でっかいのがっ♡お腹の奥までっ♡一気にっ♡♡♡♡」
凛の背中が万年床の上で弓なりに反り返った。
猫の爪が布団を引き裂く音がした。
……後で繕わなければ。
俺は腰を動かし始めた。
滑りはいま一番良い。無抵抗かと思われる程に滑らかなのに、きゅっきゅと狭い膣がちんこを締めては、その快感に反応してさらにキツく締まる。
「あっ♡あっ♡あっ♡♡おじさっ、おじさんっ♡これやばっ♡気持ちよすぎっ♡♡♡」
もう煽る余裕はないようだった。
凛の翡翠の瞳は焦点を失い、小さな口からだらしなく涎が垂れ、猫耳がぺたんと完全に伏せている。
尻尾が俺の腕にぐるぐると巻きつき、離すまいと必死にしがみついている。
「し、尻尾がっ♡ちょ、ちょっと……いうこと♡聞いてくれないっ♡♡」
「大丈夫だ、そこまで痛くないし……それに、コレのおかげで弱いところ丸わかりだから助かる」
「はぇ?⸺っ♡♡」
「ここかっ……ここが気持ちいいんだろ」
腹側のツボを亀頭で的確に抉ると、尻尾がピクンと動いて『ここが気持ちいいんです』と教えてくれる。
正常位なので、身体を起こして前のめりになり、先程のツボめがけてゆっくりと体重をかけてグッと押してみる。
凛の体がびくんと跳ね、甲高い悲鳴が部屋に響いた。
「そこぉっ…だめっ♡ぐりぐりしないれっ♡頭おかしくなっちゃうっ……おじさんのクソでかちんぽでっ♡あたしのガキまんこっ♡壊れるぅっ♡♡」
煽りの語彙が崩壊している。
クソでかちんぽとか、ガキまんことか、もはや何を言っているか本人も分かっていないだろう。
ぐちゃん、ぱちゅん♡と音をたてるほどに、俺の腰回りと凛の股の間には愛液による透明でぬるるとした橋がいくつもかかっている。
俺は追い打ちをかけるように、両手で凛の腰を固定し、ピストンの速度を上げた。
汗ばんで湿っている肌が手に吸い付く。この軽くて細い腰を掴んで動かすと、まるで大きなオナホを使っている気分になる。
そう思うとより動かす速度が上がり、ピストンも力が入っていく。
パンッ♡パンッ♡パンッ♡パンッ♡パンッ♡
「あ゛っ♡あ゛っ♡あ゛っ♡♡♡イクっ♡♡またイクっ♡♡おじさんのちんぽでっ♡♡イクイクイクっ♡♡♡♡♡」
凛の膣壁が猛烈に収縮し、俺の肉棒を根元まで搾り取ろうとする。何度も絶頂しているようで、猫尻尾は俺の腕に巻きついていたはずが既に離れており、ピンっと張った状態で快感の強さを表していた
こちらも、もう限界だった。
俺は最後に一際深く腰を打ち付け、ゴムの中に二度目の射精を果たした。
「……っ!出るぞっ!」
「きてっ♡おじさんっ♡いっぱい濃いのらひてっ♡♡♡」
びゅるるっびゅくびゅくっ♡
「〜〜〜っ♡♡♡♡♡♡♡あっつぅっ………あっ、まだ出てる♡おじさんのっ♡」
「きっつ……」
2度目の射精は長く、腰が抜けるような快感とともに虚脱感が押し寄せてきた。
凛は口からだらしなく涎を垂らしながら全身を痙攣させ、そして――
勢いのままに、両手を俺の首に回して引き寄せた。
ちゅ♡
小さな唇が、俺の唇に重なった。
キスだった。
べろっ、と猫のざらざらの舌が俺の口内に侵入してきた。
じゅるっ、ちゅぷっ♡れろれろっ♡
濃厚な、ざらざらのベロチューだった。
猫舌特有の突起が俺の舌を撫で回し、唾液が混ざり合う。
十秒ほど、むさぼるように舌を絡ませてから、凛は唇を離した。
唾液の糸が二人の間に引かれ、ぷつりと切れた。
凛は呆然とした顔で俺を見上げていた。
自分が何をしたのか、理解が追いつかないような表情だった。
「……っぷはぁ」
「お前……いままでしてこなかったのに、キスは良かったのか?」
「は、はぁ!?……えっ?今私なにし、て……」
みるみるうちに、凛の顔が真っ赤に染まった。
猫耳まで赤くなっている。尻尾は俺の手に力強く巻き付きながらすりすりしてきている。
「べ、別にっ……これは、その、勢い、そう!勢いでしちゃっただけだからっ…おじさんのこと好きとかじゃないからねっ♡」
メスガキじゃなくてツンデレか?
属性過多だよ、こんちくしょう。可愛い奴め。動揺しているのが丸分かりだ。
だが、すぐに凛は深呼吸をして、いつもの余裕のある顔を取り繕った。
……取り繕えていなかったが。耳がまだ赤い。
凛は使用済みのゴムをつまみ、パンパンに膨らんだそれを見つめた。
そして、ちらりと俺を見て、にやりと笑った。
……ああ、来るな。来るぞ、あれが。
「子供まんこにこんなに出したんだ~♡♡口ではあんなに拒否してたくせにさ♡♡やっぱりおじさん、変態じゃん♡♡♡変態♡意志薄弱の状況に流されるだけの雑魚オス♡♡幼気な中学生に手を出す犯罪者♡♡」
「ぐっ」
「何も言えなくなってるじゃん♡♡ず・ぼ・し?♡あーあ、おじさんロリコンってついに認めちゃったね〜♡」
やっぱり決め台詞だった。一撃必殺のトドメだ。
心が折れた。
それはもう、覚悟をしていたのにぽっきりと折れた。
もう何も言い返す気力がない。事実だ、事実なのだ。
俺は二回も、このメスガキの挑発に負けて中身を全部搾り取られた。
凛は満足げにゴムをティッシュに包んでゴミ箱に捨てると、服を着直して立ち上がった。
「じゃあね〜おじさん。回数券、まだいっぱい残ってるからまた来るね〜」
「ばいばーい」と、言いたい放題してから凛は出て行った。
猫のしなやかな足取りで。尻尾の先だけをゆらゆらと揺らしながら。
多分、来るたびに戻ってきたこの封筒の金は消えていくのだろう。そうして、この封筒の金がなくなれば、開放される……それまでの辛抱だ。
残されたのは、蒸し暑い部屋と、汗と猫のフェロモンが充満した空気と、万年床の上で放心する三十八歳独身フリーターだった。
……エアコン、買わなきゃな。
それだけが、今の俺に残された確かな目標だった。
§
猫宮凛。
あのメスガキは、宣言通り、数日おきにアパートにやってくるようになった。
チャイムが鳴る。ドアを開ける。猫耳の少女がにやにやと立っている。
「おじさ~ん、回数券貰いに来たよ♡」の一言で部屋に上がり込み、当然のように冷蔵庫を漁り(琴音と同じことをしている)、麦茶を勝手に飲み、テレビを勝手につけ、そして気が向いたらセックスを仕掛けてくる。
しかも、「おじさんへのねぎらいのサービスで回数券の追加♡」とか言って、お札を封筒に入れてくるので回数券代わりの封筒内の金が減らない。
気がつけば万札は消えていて、凛の持ってきた千円札の方が増えている始末だ。
千円……旧札の野口秀雄と北里柴三郎が混在するこの一枚で、中学生とヤッているのか。いや、そういうことは考えるな。
ただ、俺にとって最も救いがないのは、凛が来るたびにこっちも悪くない気分になってしまうことだった。
彼女のざらざらの猫舌のフェラは中毒性があり、小さな体で煽りながら腰を振る姿は不覚にも興奮を煽り、そしてイった後の一瞬だけ見せる素の表情が……なんというか、可愛いのだ。
認めたくない。認めたくないが、事実だ。
三十八歳の男が、どうしようもない事実を前にして目を逸らすのは、もっとみっともない。
それでも。
俺の中の良心は、毎回セックスの後に悲鳴を上げる。これは間違っているしいつか捕まるぞ、と。
そして翌朝にはその良心を下半身の欲望が踏み潰す。この繰り返しだ。
ちなみにエアコンは、結局翌週に購入した。
凛が返してきた金(回数券扱い)と、追加のバイト代を合わせて、家電量販店で型落ちの安いモデルを買った。取り付け工事の日、冷風が吹き出した瞬間の感動は、今年一番だったかもしれない。
なお、回数券が減ったことに気が付いた凛が無言で怒ったので、やっぱり回数券をお金として使って消費するのは無理かもしれない。
ともかく、これで琴音と瑠衣が帰ってきても快適にセックスができる。
……そして凛が来ても快適にセックスができる。
結局、俺は何のために貯金したのか。
天井を見上げる。
ことぶき荘の古い天井板の染みは、相変わらずそこにあった。
上を向いている俺の足元に凛はそそくさと移動し、ズボンを下ろし、パンツを脱がせて、俺の足を開かせる。
はむっ、という可愛らしい音とともに咥えられた俺の愚息は、ざらつく舌で舐められながら小さな口内でぐんぐん大きくなっていき……
にゅぽんっ、とこ気味の良い音をたてて凛が口を離す頃にはギンギンにそそり立っていた。
にしても、このメスガキ猫、ビッチすぎないか。
まぁ、そのビッチに負けてる俺が一番情けないのだが。
とりあえず今日も元は取ろう。夏休みが終わるまではこのメスガキはやってくるのだから。
そう自分に言い聞かせて、俺はとりあえず目の前の凜を押し倒した。
ちんちん亭語録みたいなのが自然に出てくる頭だったら良かったのに……