熱狂に包まれた性の祭典がようやく幕を閉じ、客たちは祭りの余韻と狂熱を身体に宿したまま、それぞれの家路へとぞろぞろと足を進めていった。エルバ島の港町はさらに夜を深め、街を包む喧騒は波の音と遠くで聞こえる囁き声へと変わり、静けさがゆっくりと支配し始めていた。
一方で、祭典の主役であったあなたとジャンヌは、酒場の二階にある仮宿用の部屋の中、一人の老人と静かに向き合っていた。
激しい情事を終えたあなた達は、全裸の上から一枚の白い布を優雅に巻きつけ、まるで古代ローマの議員が着るトガのように身に纏っていた。布越しにもあなたの鍛え抜かれた無骨な胸板と肩の肉厚さが窺え、ジャンヌの乳房の質感と引き締まった腰つきが立体的に浮かび上がっている。
対する老人は、こじんまりとした地味な腰布を締めた上から、長旅を思わせる使い古された茶褐色のローブを羽織り、質素な木の椅子に深く腰掛けていた。
酒場の店主の話によれば、この老人はこの店の長年の常連であり、あなたたちの凄絶で情熱的な行為を陰から見つめ、強く思うところがあったという。この部屋も、彼が個人的に借り切っているそうだ。
老人は手元の木杯に入った葡萄酒をちびりと煽り、乾いた唇を湿らせると、二人へ向けて語り始めた。
「……実に見事な交尾であった。あれほどの激しくも情熱的な行い、今のローマの犬どもにはとてもできまいよ。奴らはただ相手を貪り尽くし、欲望のままに搾り取って満足して終わりだからな。そなたらのように、行為の最中においても相手を思いやり、深い情愛と歓喜を共有することなど毛頭考えもしんのだ。……久々に『人間』同士の愛の紡ぎというものを見せてもらい、私は心底満足しておるよ」
老人のあまりにもストレートでありながら意味深な物言いに、ジャンヌは顔を火照らせながら、戸惑いを隠せない様子で言葉を返した。
「そ、それは……感謝した方がよいのでしょうか……? あのような我を忘れた情事を面と向かって絶賛されると……なんだか頭がどうにかなりそうな気分と言いますか……」
「ふふ、その感覚が残っておる時点で、お前さんたちがこの狂った島……いや、この世界において数少ない、普通の人間であるという何よりの証明と言える。やはり声をかけたのは正解であったな」
老人は満足そうに頷いた。
一方で、あなたはそうした世間話を制するように、老人の瞳を直視する。さきほどの言葉からしてただの酔狂な年寄りとは感じられない。静かに会話を流すよりも、直裁に問いかけた方が遥かに建設的なはずだ。あなたはストレートな物言いで問いかける。
回りくどい前置きや世辞は得意ではない。お互いに思うところがあるはず。だったら、本題を早々に切り出そう、と。
老人はポンと己の膝を叩き、深々と頷いた。
「ハハッ、これはすまなかったな。焦らせるつもりはなかったのだ。……ではまず、こちらの名乗りから始めさせてもらおう。
私はディオゲネスという。……まあ、見ての通りのただのしがない哲学者に過ぎんよ」
「ディオゲネス……? そのお名前、聞いたことがあります。確か大昔のギリシャにいたという有名な哲学者の一人で……なんでも、樽の中で暮らし、あまりにも奇抜で常識外れな行動ばかりをしていたという……」
「そうさな。もしかしたらお前さんたちの知っているディオゲネス本人かもしれんし、単に名が同じなだけの似て非なる存在やもしれん。……まあいずれにせよ、公衆の面前で堂々と自慰をして見せたという、あの狂った老人と同じ名を持つ変人……とでも思ってくれればそれで良いさ」
喉をくつくつと笑わせながら、ディオゲネスは手元の木杯から葡萄酒をちびりと喉に流し込み、深々と息を吐いてから言葉を続けた。
「お前さんたちにわざわざ声をかけたのはな……この私自身の夢を、託してみたいと思ったからなのだよ」
「ゆ、夢……ですか?」
ジャンヌが不思議そうに首を傾げると、老人は顎髭を撫でながら頷く。
「私は長年、この身を社会の良識や道徳といった規範への反発と冒涜に捧げてきた。世の中の連中が疑いもなく、当たり前だと信じ切っている不条理が、どうにも気に入らなくてな。お嬢さんが言っていたような、公衆の面前での奇行を自ら実践しては見せつけ、人間と獣の違いなど単に所有している道具の数でしかない……などと揶揄を広めることこそが私の日常だったわけだ。
ところがだ……」
老人は表情を曇らせ、天を仰ぐように目を細めた。
「空におかしな光が輝いたかと思えば、世の中全体が突如として狂い始めた。この私以上に羞恥心を持ち合わせない連中が、世の中の大半を占めるようになるとは思いもしなかったよ。この離島はまだ妙な空気が広まりきっていないおかげで、多少は……ほんの多少は理性が残っている方だが、ローマ本国などもはや正気の沙汰ではなかった。服を着ている人間など兵隊くらいなものよ。どいつもこいつも全裸のまま朝昼晩と往来で相手をとっかえひっかえしてまぐわい、街道の至るところに精液と雌汁を撒き散らすのが当たり前になっておった。おかげで街中どこを歩こうにも足の踏み場すらありはせん。
さすがの私も嫌気が差し、長年の夢をあっさりと諦めてこの島へと逃げてきた……というわけさ」
老人の口から淡々と語られる、あまりにも常軌を逸したローマ本国の破廉恥極まる実態。ジャンヌはその凄惨すぎる惨状に思わず言葉を失った。彼の言葉が真実であるならば、現在のローマ本国はどこへ行こうとも無差別に人間同士が交尾を繰り広げている狂気の極楽浄土と化しているらしい。
老人はそんなジャンヌの動揺を余所に、楽し気に話を戻した。
「……それで肝心の、私の夢とは何か、という話だったな。ふふ、私の夢など実に簡単なものだ。
この世で最も強大な権力を持った人間の眼前で、この世の良識や道徳に対する疑問を突きつけること。分かりやすく言い換えるなら……あの皇帝の御前で、極上の女と堂々とまぐわってみせることこそが私の悲願であった」
「え、えぇ……? それは……それが哲学者としての夢、なのですか……?」
「当然だとも。世の中の風紀や秩序を取り仕切る絶対的権力者の眼前で、奴が仕切ろうとしている風紀とは一体何なのかを己の身体で問いかけるのだ。真理を追究する哲学者にとっては、口が裂けても見過ごすことのできん至高の課題よ。
……ところがこうして島へ逃れてきてからというもの、本国へ戻るタイミングを完全に失ってしまってな。いっそこの静かな島で余生を過ごそうかと諦めかけていたところに、お前さんたちが現れたのだ。これこそ天が与えてくれた渡りに舟というやつさ。あの皇帝ネロの御前に馳せ参じるには、それ相応の圧倒的な威風と格が必要不可欠。私のような丸腰の老人一人が向かったところで、謁見の間に入る前に近衛兵どもに追い払われるのが関の山だからな」
ディオゲネスは鋭い眼光をあなたとジャンヌへ向け、不敵に笑いかけた。
「それに……お前さんたち、ただの娼婦と客などではなく、何やら重大な訳ありと見受ける。お前さんたちの詳しい事情など知る由もないが……もしもこの狂った世の中を渡り歩くために、何らかの突破口が必要になっているというのであれば……どうだ? この老人の提案に乗り、ひとつ面白い大勝負をしてみないか?」
あなたは老人の言葉を吟味しながら、己の考えを口にする。
ただの一人の老人が二人の若い男女を連れて向かったところで、現在のローマがそのような狂乱の有様であるのなら、単に風体を整えた程度では皇帝がわざわざ謁見に応じる理由にはならない。それにどれほど身なりを整えようとも所詮はただの三人の旅人。不審者と同じような存在なのに、どうやって皇帝の面前へ上がるに足る格を整えるつもりなのか、と。
あなたの指摘に、老人はにたりと薄汚く笑みを漏らす。
「分かっておらんなぁ、若ぇの。ローマの連中は獣のような振る舞いをすることに夢中になっているが、理性そのものは手放してない。頭の中のどこかに、昔のローマの生活の名残が残っちゃいるが、本能が優って自分からそれに取り組む気にならない、そんな状態なのよ。
そこになぁ、『人間的な情愛や芸術性』を足した、一段上の行為を披露してやるのだ。さすれば奴らは、目の前で魅せる奇抜な行いに一瞬で目を奪われ、その行いを成す者を熱狂的に称賛し始める。これがローマの退廃芸術の姿ってな! 民衆の望むものを与え、かつ極上の刺激を披露できる存在など、今のローマにはあまりに少なすぎる故、噂はあっという間に広まるであろうよ。さすれば閉ざされたローマの門扉をも押し開くに足る、絶大な名声が得られ、皇帝とて民衆の支持を取り込むためにお前たちを利用しようとしてくるはずだ。
……それと、風体と言ったな? 確かにたった三人の不審な旅人のままでは、格が欠けていると言わざるを得ん。だが、そこに数人の同胞を呼び寄せて、お前たちが先ほど舞台の上で威勢よく言っていたような『劇座』を実際に作り上げてしまえば、風体などいくらでも仕立て上げられるであろう?」
「ま、待ってください……!」
老人の思考の行き着く先を察し、ジャンヌは慌てて制止の声を上げた。
「では、あなたの考えているその突拍子もない案というのは……?」
「おお……こんなにも不徳で冒涜的な企みを高らかに口にできる幸運に恵まれるとは、今日はなんたる吉日か!
では遠慮なく、言葉にしてしまうとしよう!」
ディオゲネスは木杯を高く掲げ、恍惚とした表情で高らかに叫んだ。
「お前たち二人を座長とした、ローマ全土を揺るがす随一の『性交劇団』を結成するのだ! ローマで最も激しく、最も熱く、最も美しい雄と雌の絶頂を見せつける伝説の劇団……! これこそが、あの皇帝ネロの元へと至り、この狂った世界で名を馳せるための唯一無二の突破口となるのだよッ!」
そう高らかに宣言すると、ディオゲネスは冒涜的な情熱に浸りながら、木杯に残った葡萄酒をぬびりと飲み干し、高らかにゲップを漏らす。
そのあまりにも突拍子もなく破天荒な提案に、ジャンヌは赤顔しながら頭を抱えていた。老人の計画をもし本当に実行したならば、あなたたち二人は、ローマ全土で堂々と交尾を見せつけて回る、当世随一の変態カップルとして歴史に名を刻むことになる。民衆の前であられもない姿を晒し、聖女の面影など微塵もなく獣のように喘ぎ狂う自分の姿を想像し、ジャンヌの脳は沸騰せんばかりに熱を帯びていた。
一方、あなたはこの計画を客観的に考えていく。
当初の予定ではローマ本国に潜入し、慎重に情報収集を行う頭であった。しかし、本国の至るところで人々が本能のままに生きる、まるで獣の楽園のごとき様相と化しているならば、苦労をかけて潜入したところでまともな人間と接触できるかも怪しい。まして特異点攻略の糸口に繋がる有益な情報を得ることはさらに不明瞭だ。それどころか敵地の奥深くで拘束された場合、まともに話が通じる可能性が低い以上、想像以上に凄惨な憂き目に遭うかもしれない。彼らの性欲を解消する肉奴隷になればまだいい方で、最悪、人肉食の材料と見なされて解体される恐れもある。本能のままに生きているなら、性欲だけではなく食欲や睡眠欲も旺盛なはず。欲望が剥き出しの群衆相手に、たった二人で秘密裏に行動するのは無理があるようだ。
他方、ディオゲネスの提示した計画は、自分たちの計画を補強しつつ、旅先の安全性を確保する意図も感じられた。ローマ市民から支持される「人気劇団の座長」という立場を確立すれば、常に人目には晒されるものの、逆に人目があるからこそ守られるというものだ。先走って暴行に及ぼうとする者には衆目を盾として牽制することができるし、為政者や兵隊に対しても同じように、人気を築かれた後に無理な取り締まりをすれば人々が反発して、ともすれば暴動が起きる事態にも直結するだろう。そんな危険を冒すくらいなら人々の支持を得る目的で、為政者の側から接近してくることも考えられる。安易な考えかもしれないが、他に有効な手立てが思いつかない以上、ディオゲネスの案は魅力的だった。
それに自分たちの最終的な目標を達成するには、この時代の聖杯の所有者を特定しなければならない。それが皇帝、あるいは皇帝に極めて近い立ち位置の人間だったとしたら、その人たちに限りなく近い場所まで行ける機会は、二度も望めないだろう。ただ放漫に性行為するだけで皇帝の目に叶うのなら、あらゆる恥辱を忘れる意義はあるかもしれない。……それによく考えれば、こんな不埒な世界を作ったのが皇帝自身だとしたら、どうしてその理念通りに獣のごとき交尾を披露する人を処罰できようか。ましてやローマにとっての敵方に与していたはずの人間が、率先してその狂気に染まって淫らに振る舞っているというのなら、敵はむしろ嘲笑して放置するか、自分たちの計画を優位に進めるために徹底的に利用しようと画策しても不思議ではない。
ただ、ディオゲネスの計画にも問題はある。その劇団に参加する候補者が、現状ではあなたとジャンヌの二人しか存在しないという点だ。どれほど壮絶な交尾を見せつけたところで、毎回同じ演者では、いずれ民衆も飽きてしまい注目度は失われてしまう。何より、あなたにはジャンヌを見知らぬ男に抱かせる気など毛頭なく、劇中のすべての性行為において、あなたが女性らの相手をし続ける必要があった。劇団としての活動を持続させ、かつ女性たちを適度に休ませるためにも、計画に参加する演者、すなわち雌の仲間たちを増やさなければない。
あなたは思考をまとめ、静かにディオゲネスへ問いかけた。
確かに悪くない計画だが公演を開いたとしても人手が足りない、この計画に協力してくれそうな当てはあるのか、と。
ジャンヌは「正気ですか!?」と信じられないという表情であなたを見つめた。しかし、あなたの眼差しに宿る揺るぎない決意と覚悟を感じ取ると、愕然として俯いてしまう。しかし前髪の陰で隠された面影には、禁断の性愛に踏み込んでいくことはの一縷の興奮が滲み出ており、耳の先まで赤らんだいく。
あなたの問いかけに対して、ディオゲネスはさも当然とばかりに答えた。
「何を言う。ただノータリンでベラベラと話しているとでも思うたか? 甘く見るでない。そのくらいの考えはある。といっても、そやつらがいるのはこの島ではないがな。
ここから南の海域に進んだところに無人島があるのだが、そこには恐ろしくも美しい姉妹が住んでいるという。二人ともこの世のものとは思えぬ絶世の美女で、女神もかくやと称されるほどにな。当然、男たちが放っておくはずもなく多くの者がその島に行こうとした。だがどう言うわけか、島の周りには決して晴れない霧が立ち込めており、迷うた船を暗礁に誘い、海の藻屑に変えてしまう。この霧を乗り越える方法はひとつ。姉妹たちが心から望んでいるものを差し出さねばならない。たとえばそう、女神の心を射抜く程に精悍な男のイチモツなど、な。その点、まさにお前さんは適任者というわけだ。
そうして選ばれし者だけが、その深い霧の中に正しき航路を見出し、島に住まう姉妹の元へ辿り着くことができる。そうなったらお前さんの思うがままよ。下の階で見せつけた、あの圧倒的で壮絶な交わりをもってその姉妹を陥落させ、屈服させることができたなら、一気に演者を二人も確保できることになるぞ? しかもローマ中を魅了すること請け合いの絶世の美女だ! 博打を打つには充分すぎる程にお釣りが来よう。あぁ、船の心配はするな。私がかつてこの島へ流れてきた時に乗ってきた、頑丈な小船がまだ港に残っておる。そいつをそのままお前たちに譲ってやってもいい。
どうだ? この老人の案に乗り、世界を揺るがす勝負に出てみんか?」
あなたは一切の迷いなく頷いた。ここからは一連托生だ、とそう言い放ち、力強く右手を差し出した。ディオゲネスはその手をガシッと掴み返す。
破天荒すぎる密約の成立を間近で見届けていたジャンヌは、「もうどうにでもなれ」という諦めと羞恥の混ざった様子で、顔を両手で覆い尽くすのだった。
翌朝、陽が昇ると同時に、あなたとジャンヌ、そしてディオゲネスの三人は、港に留め置かれていた老人の小船へと乗り込み、エルバ島の港町を後に行こうとしていた。
出航に先立ち、昨日舞台を提供してくれた酒場の店主が見送りに現れ、昨夜の劇的な盛り上がりに対する感謝の証として、日持ちする酒や干し肉などの十分な食糧、そして今後の活動で役に立つであろう妖艶で淫らな娼婦用の衣装を何着も差し出してくれた。あなたたちはそれらの荷物を舟の底へと積み込んでいる。
小船がゆっくりと岸を離れていくと、港に集まっていた水夫や娼婦、昨夜の舞台の熱狂を目の当たりにした街の住民たちが、口々に熱い別れの挨拶や声援を送ってきた。
これほどに敬意を払ってくれるのなら一言礼でも言っておくべきか、と、あなたが舟の上で立ち上がろうとしたその時。不意にジャンヌがオールをあなたに押し付けると、あなたより先に真っ直ぐに立ち上がる。
そして、あなたの代わりに丁寧な感謝の言葉を述べるのかと思いきや、彼女は港の者たちへ眩しい笑みを向けた直後、己の腰元を覆っていた白い布地を、ばさっと豪快に下へとずらしてみせたのだった。
「「「おおおッ!!!」」」
白日の下に暴露されたのは、朝の陽光を受けて白く輝く彼女の滑らかな下半身と、昨日あなたによって幾度も弄ばれ、熟し切った桃のように火照る無防備な秘部であった。
ジャンヌは恥じらいに顔を朱に染めながらも、両手の指を秘部へと掛け、港の群衆へ向けて己の膣口を、くぱぁと限界まで力任せに引き裂くように押し開いてみせる。
「皆々様♡ 昨夜は温かい声援を送っていただき、本当にありがとうございました♡♡」
「うおおおッ! 朝から最高の見ものだァーッ!」
「ありがとよ、ねえちゃん! 元気でいなよーッ!」
朝の港で繰り広げられる聖女の痴態に、岸辺の男たちは爆発的な歓声を上げた。
目を見張るあなたに対し、ジャンヌは火が出そうなほど顔を真っ赤に染めながら、情欲に濁った力強い瞳であなたを振り返る。
「ふふ……驚かれましたか、ご主人様? ……どうせこれから劇団のメンバーとして、ローマ中でこの身を晒し抜く覚悟を決めたのです。ならば……最初から思いっきりやってやりますともッ♡」
そう宣言すると、ジャンヌはガニ股に開いた己の膣口へ向けて、迷いなく二本の指をぬるりと深く突き刺し、船の上で堂々と自慰を開始した。
「んお”ぉ”ぉほぉっっ♡♡♡♡ 見られてる……♡♡♡♡ 朝の港で、大勢の男たちに私の爛れたおまんこを見られてるぅ……♡♡♡♡」
人々に見つめられ、下品な歓声を浴びながら己の秘部を指で激しくこね繰り回す狂おしい快感と背徳感に身を震わせ、ジャンヌは白目を剥きかけながらも、下品で甘い悲鳴をあげて軽く絶頂を迎える。
その性感の波を呼び水とするように、ジャンヌは荒く情熱的な吐息を漏らし、うっとりとアヘ顔を晒しながら、秘部の奥から勢いよく可憐な小水を「ピュクピュクッ!」と勢いよく噴き出させ、舟の甲板と海面を淫らに濡らし尽くす。
港から割れんばかりの嵐のような歓声と拍手が巻き起こり、その光景を舟の隅で見ていたディオゲネスは、感心したように彼女を惜しみなく褒めたたえた。
「ハハハッ! 見事な咲き誇りぶりだ、お嬢さん! 己の欲を白日の下に晒すその姿……まさに真の哲学の開花と言えよう! 実に大したものだッ!」
そうしてあなた達を乗せた船は島から離れ、エルバ港の喧騒から遠ざかり、波が立つ海面を滑るように進んでいく。
目指す先は、南の海域の只中にぽつんと孤立する神秘の島―――モンテクリスト島であった。
西暦一世紀、古代ローマ時代におけるモンテクリスト島は、ほとんど人の手が加えられていない険しい岩山と原生林に覆われた絶海の孤島であった。後世においては、無実の罪で投獄された男が巨万の富を得て復讐鬼へと変貌を遂げる、いわゆる『巌窟王』の物語の舞台としても広く知られることになる、因縁の深い島である。
しかし、この狂った特異点におけるモンテクリスト島の実態は、より異様な貌を見せていた。小船が沖合へと滑り出していき、遠くに島らしき遠景が見えたところまでは順調であった。しかしそれから間もなくすると、老人の言葉通り、不自然なほどの厚みを持った濃霧が急激に海面を覆い尽くしていく。ひとたび霧の領域へと船が入ってしまうと、頭上に広がっていた澄み渡る青空も、不気味に輝いていた妖星の光すらも一瞬にして遮られ、完全に姿を消してしまった。視界のすべてが重苦しい灰色に染まるかのよう。まさに五里霧中という言葉がそのまま体現したかのような孤立した世界が広がる。乳白色の静寂が漂う中、ざぷりざぷりという、ジャンヌが一定の刻みでオールを漕ぐ水音だけがと虚ろに響き渡っていた。
「……本当に、何一つ見えなくなってしまいましたね。心なしか……陸地の方向から不気味に伝わってきていたあの歪な力すら、この深い霧によって綺麗に遮断されているかのようです」
「かといって焦って速度を出し過ぎてはいかんぞ、お嬢さん。ちょっとでも航路を逸れると暗礁にぶつかるそうだ。うっかり突っ込めば、こんな小さな船なぞ船底を叩き割られてひとたまりもなく海の藻屑だろう」
「ですが昨日、貴方は言いましたよね。島への正しい道を現す方法があると。結局その時は語ってくれませんでしたが、一体どのような方策なのですか? もしもそれが口から出まかせの戯言だったとおっしゃるなら、貴方を海へ叩き落としますからね」
「ハッハッハ! 馬鹿を言いなさんな。私がいくら世間の道徳や規範に外れているからといって、仲間に平然と嘘をつくほど堕ちてはおらんよ。私は決して嘘は吐かん。ただ不埒なだけだ。
まあ、黙ってよく見ておきなさい」
ディオゲネスはニタリと口角を上げると、船底に置かれた自分の荷物の中を漁り始める。取り出したのは松明用らしき太い木の棒と、何百本もの黒髪の束がつなぎ合わされた怪しいカツラであった。黒髪が垂れたそれは、まるで蛇が蠢くかのようにぶらぶらと揺れている。老人はそれを木棒の先端へすっぽりと被せると、まるで切り落とされた怪物の首級を掲げるかのように高く掲げた。
そしてディオゲネスは深く息を吸い込むと、立ち込める灰色の霧の中に向けて、朗々と腹の底から通る声を響かせ始めた。
「―――見よ! これぞ神々の加護を受けし英傑ペルセウスが打ち破りし、恐るべき蛇髪の魔物、メドゥーサの首級なり! 猛き眼光は生ある者をことごとく冷たき石へと変え、その異形は世界を戦慄せしめたが、正義の刃の前に今や首と体は分かたれた! 知恵と戦いの女神アテナよ、我はこの勝利の証たる魔の首を捧げん! 神盾アイギスにこの首を掲げ、あらゆる災いと怪異を退ける永久の護りとなしたまえ!!」
ギリシャ神話における劇の一節を、抑揚を込めて朗誦する老人の声が、乳白色の霧の奥深くへと吸い込まれ、波音の中にやがて静かに消えていった。
一瞬の静寂。されど、波は変わらず。何も起こらないのかとジャンヌが不審げな目を向けようとしたその時、どこからともなく一陣の風が吹き抜け、あなたたちの乗る小舟を背後から力強く押し始めた。
「なッ……!?」
波が急にうねりを上げ、船体がぐんと加速する。ジャンヌが慌ててオールを海に突き立て、船の体勢をコントロールしようとしたが、ディオゲネスはすっと手を差し出してそれを制した。心配はいらない、この風と波そのものが船を正しき路へ導く不可視の手であると、告げるかのように。
小船は風の導くまま、水面を軽やかに滑るかのように進んでいく。そうしてしばらくしていると、船の周りに深く立ち込めていた灰色の霧が、それが現れた時と同じようにすぅっと嘘のように晴れ渡っていく。
そしてあなたたちの目前に、島が現れた。削り立った険しい巨岩と岩山が天を衝くように聳え立つ絶海の孤島。岩山の足元には踏み入る者を拒むような深い原生林が生い茂っている。視線を島の足元へと巡らせれば、小型の船を寄せるのにちょうど良い、静かな入り江が姿をのぞかせていた。ふと後ろを振り返ると、自分たちが潜り抜けてきたはずの濃霧など、最初からそこに存在しなかったかのように海はどこまでも晴れ渡っていた。
見えない意志の力に引かれるようにして小船はゆるやかに進んでいき、入り江の浜辺へと辿り着く。島に足を降ろしたあなたが周囲を見渡すと、入り江の浅瀬や砂浜のあちこちに、年月を経て腐食した古めかしい舟の残骸や骨組みが、まるで墓標のように何十も漂着しているのに気づいた。
「……ふむ、哀れな同胞たちの成れの果てというわけか」
ディオゲネスは壊れた船の残骸を見ながら、感慨深そうに呟く。
「見果てぬ夢を追い求めて海へ散ったのか、それともただ単に霧に迷い込んだ末の惨めな末路だったのか。……まあどちらにせよ、誰一人として生きてこの島を去れなかったことだけは確かだな」
「……ディオゲネスさん。先ほど貴方が霧に向かって高らかに唱えた言葉……間違いがなければ、あれは」
「ああ、お嬢さん。お前さんが察している通りだよ。かのギリシャ神話で高名な『ゴルゴーン三姉妹』。その演劇の台詞の一つさ。だが聞きたいのはそこではなく、なんでその言葉を唱えたことで霧が晴れたのか、だろう?
答えなんて決まってある! この島にはな! かのゴルゴーン姉妹が住んでいるからだ! あの霧が晴れたのは、彼女たちの関心を最も強く引く言葉を唱えれば道が開ける、という単純な謎かけがあったわけさ」
「だからといって先ほどの言葉は、メドゥーサの首級を奉納する場面での台詞だったのではありませんか! その言葉を、ゴルゴーン姉妹が住んでいるという島に向けて叫ぶだなんて。あれではまるで挑発です! 大切な妹の首を切り落とすように、お前たちの首を切り落としてやろうと言っているようなものです! なんて軽率な真似をされたんですか!!」
ジャンヌの抗議に対し、ディオゲネスは「やれやれ」と呆れたように肩をすくめた。
「挑発で結構。大いに結構じゃないか。どうせこの後、首を落とすのと同じくらい酷なことをしに行くのだぞ? 姿を隠して逃げ回るより、顔面を土足で蹴り飛ばすような文句の方が首尾一貫しているではないか」
「ですが、もっと適切な呼びかけがあったはずでしょう! 友好を求める態度や、面通りを求める言葉だとか……敵意を煽ってどうするのですか!」
「そんな言葉を唱えておきながら、いざ会ってすることは狼藉千万では、そちらの方が罪深いであろう? 裏切りは神話の常だが、やらない方が遥かにマシだ。女神の好みは昔から、蛮勇を誇る勇者だと相場が決まっておる。その上、その言葉に恥じないほどの本物の力を持った男なら、ますます女神も惚れ込むだろうよ。
……いいか、神だろうと怪物だろうと、己の都合に屈服させ、その心を完全に堕とせばこちらの勝ちだ。恭しく跪くより、怒りと欲望で我を忘れて飛び出させてやる方が、手懐けるのは遥かに容易い。それがお前の仰ぐ主人の力というものだ」
そんなやり取りを続けていると、ふとディオゲネスは話し疲れたと言わんばかりに口に手を当てて大きく欠伸をする。
そひて小船の底へドサリと横になり、寝そべるように手で頭を支えた。
「ふぁ……さて、ここから先は二人で行ってきなさい」
「……はい? 今、なんと?」
「見よ、あの毒々しいまでに生い茂った恐ろしい森を。これからあの不気味な森の奥深くへと足を踏み入れるのだぞ? まさかこの腰を痛めた老人に、そのような過酷な冒険をさせようという腹づもりではあるまいな?
あとは若い二人で何とかしなさい。私はこの暖かな船の上でひと眠りさせてもらうよ」
老人はそう言い切ると、完全に寝相に入ってしまう。言い合っていたジャンヌは、老人の変わり身の早さに呆気に取られる。
あなたは早くも高いびきをかき始めようとしているディオゲネスを見下ろし、本当についてくる気はないのか、と静かに問いかけると、老人は片目だけを開けてニヤリと笑った。
「この腰の曲がったおいぼれに、若人の交わりに加わるほど体力はないさ。
なに、心配するな。お前さんたちを見捨てて逃げ出す気など毛頭ないさ。というより、お前さん達の方こそ、絶対に無事に戻ってきてもらわねば困る。あの海を私一人で漕いで渡るのは大変だからな。……ああ、そういえば肝心なことを言うのを忘れていた」
老人は寝転がったまま、思い出したように言葉を付け足した。
「かの姉妹は、この不気味な森を抜けた先にある、館に住んでいるらしい。そしてひとたびその館へ足を踏み入れたら最後……かの姉妹を説得するか、あるいはお前のその雄としての圧倒的な力で堕とすかしない限り、生きては出られんそうだからな。……精々、がんばってきなさいよ」
そう言い残すと、ディオゲネスは「シッシッ」と犬を追い払うように軽く手を振り、再び帽本格的な寝入りを決め込んでしまった。
あまりにも身勝手な老人の態度に、ジャンヌは呆れ果てたような一瞥を送り、深々と溜息を吐いた。あなたも一度は小さくかぶりを振ったものの、状況がどうであれ自分たちのやるべきことは何も変わらないと、すぐに決意を改める。
あなたは海から背を向けて、危険が潜む森の奥深くへと迷いなく歩みを進め始めていく。ジャンヌもすぐに表情を引き締めると、あなたの傍へぴたりと寄り添い、二人は深緑の陰の中を分け入るように進んでいった。
島を覆う森の中は、外から見た印象以上に鬱蒼と木々が生い茂っていた。一方で、魔の霧に包まれた恐ろしい島という前評判に反して、森の中には小鳥の囀りや小さな獣たちが草葉を揺らす気配が満ちており、どこか穏やかな空気が漂っていた。木漏れ日が葉の隙間から差し込み、苔むした地面をまだらに照らしている。
とはいえ、人の手が全く入っていないこの原生林に、たった一組の姉妹が住まうという館へ至る道など存在していないような。生い茂るシダ植物や絡みつく蔦が行手を阻み、方向感覚を狂わせる。それでもあなたは、道とも呼べない獣道を歩きながらも、ある種の直感と確かな目印に従って森の中を真っ直ぐに進んでいた。
その目印とは、一定の間隔で古木の幹に蔦で丁寧に括りつけられている、蛇の抜け殻であった。
蛇、それはすなわち、神話におけるゴルゴーン三姉妹の末妹であり、数奇な運命を辿った怪物の名を持つメドゥーサの象徴である。姉妹にとって、蛇とは何よりも愛おしく大切な家族そのものを意味していた。この島に隠れ住む姉妹が、自分たちの館へ至るための道標として、分かる者にしか分からない密やかな目印として残したものに違いない。
木の幹に括りつけられた白く透き通る蛇の抜け殻を見つけるたび、あなたはその方角を静かに確かめ、深い森の奥を目指してただひたすらに歩みを進めていく。迷いのないあなたの足取りに遅れることなく、しっかりと側を歩んでいたジャンヌだったが、ふと目の前であなたが不意に足を止めたのを見て取ると、即座に何かを察知してあなたの前へと庇うように進み出た。
鬱蒼とした深い森を抜けた開けた空間に、周囲の自然からはあまりにも浮いた、貴族の豪華な別荘を思わせるローマ様式の壮麗な建物が突如として姿を現していた。しかし、それは決して優雅で平和な邸宅などではなかった。
建物の白亜の壁面には、まるで呪飾のように幾重もの蛇の抜け殻が隙間なく飾られており、異様な雰囲気を醸し出している。さらに館の前庭には、幾つもの人間の頭蓋骨を一本の太い杭で無残に串刺しにした、目を覆いたくなるような晒し首の列がいくつも並べられていた。侵入者を容赦なく拒絶し、死を警告する惨劇の痕跡。そして何より、あなたとジャンヌの肌を鋭く刺したのは、その館の奥深くから溢れ出してくる濃密な魔力の奔流であった。それはあなたにとって馴染み深い感覚、英霊が放つ圧倒的な魔力の気配に他ならなかった。
あなたはジャンヌと静かに視線を交わし、互いに強く頷き合うと、頭蓋骨の列を意にも介さず、臆することなく館の重厚な入り口の前へと進み出た。そして、閉じられた扉に向かって、あには真っ直ぐに声を張り上げた。
我らはカルデア、遠き未来の時代の果てからやってきた、この地に住まうという気高き姉妹にお目にかかりたい、どうか門扉を開けられよ、と。
あなたの力強い声が静寂に包まれた森に木霊し、やがてゆっくりと霧の中へと消えていった。
しかし、館の中から返ってくる言葉は一向にない。重苦しい沈黙だけが周囲を支配する。ジャンヌが「居留守でしょうか……?」と眉をひそめた。
しばらくしても何も返答がなかったため、仕方なしと、再び訪問を知らせようと息を吸い込んだ、まさにその時であった。
館の奥深くから、鮮烈な声が届いてくる。美しくも凛として、高貴であり、しかし絶対的に他者を見下して踏みにじるかのような残忍な少女の声だって。
「聞こえているわ。女神の住まう隠れ家に自分から好んで訪れるだなんて、命知らずにも程があるわね。……いいえ、ただの愚か者ではなく、その命を女神へと献上しにきた献身的な生贄なのかしら? ふふ、信心深い人は好きよ。……そうよね、
「ええ、そうね、
「もしも本当にただの愚鈍な獣だったのなら……そうね、容赦なく首を切ってしまいましょう。庭に並ぶ、他のつまらない獣たちと一緒にね」
「ふふ、じゃあ……もしもそうでなかったら?」
「そのときは……そうね。この私たちの愛、女神の寵愛を受けるに値する資格があるかどうか、じっくりと試させてもらおうかしら」
館の奥から交互に響く凛とした高貴な二つの声は、恐れや敬意を求めるどころか、人間という存在そのものを心底愉しそうに見下し、弄ぶような倒錯した残酷さを孕んでいた。
少女らの声が途切れると、重厚な入り口の扉が、まるで不可視の手に押し開かれたかのように不気味な音を立ててひとりでに開いた。
「さあ、お入りなさい。女神の慈悲深い招きに応えるのよ」
「ふふ、私たちの気が変わって、入る前に首を飛ばしてしまわないうちに入りなさい。
……それと、そこの女。あなたは足を踏み入れる前に、身に着けている服を全部捨てて裸になりなさい。……これは命令よ?」
「はぁ……なんだか、最初からこうなる予感がしていました……」
観念したジャンヌは抵抗する素振りすら見せず、あなたの目の前で、身に纏っていたローマ風の白い布地を躊躇なく滑り落とし、倒錯的な色気を放つ全裸の女体が露わとなる。あなたによって幾度となく愛でられ、激しく抱かれ豊満でたわわに実った乳房は、彼女が呼吸をするたびに艶めかしく揺れる。引き締まった細い腰から、プリッとした桃のような豊かな臀部へと続く滑らかな曲線。そして、脚の狭間で充血し、あなたの種の熱さを記憶したまま卑しく火照るピンク色の秘部。
まさに一頭の雌として熟し切った極上の痴態であった。
「行きましょう、ご主人様……っ」
恥じらいに頬を染めながらも、すっかり淫らな肉体へと開花したジャンヌを伴い、あなたは堂々とした足取りで館の中へと足を踏み入れる。
屋内は、外観の凶々しい様相とは打って変わって、豪華絢爛かつ洗練された内装が施されていた。足元には色鮮やかなモザイク画が敷き詰められた大理石の床が広がり、壁面には精緻な彫刻が施された石柱が整然と立ち並ぶ。優美な陶器の花瓶には鮮やかな季節の花々が生けられ、室内にはどこか甘く芳しい香飾の煙が立ち込めていた。
あなたたちが屋内の広間へと進み出ると、正面に聳える豪奢な大理石の大階段の上から、あなたたちを歓迎する二つの声が静かに降り注いだ。
「あら……思っていたよりも、ずっと良い男ね。とてもたくましく鍛え上げられていて、力に満ち溢れているわ」
「そうね、私。なんだか昔出会った、単純な脳みそをしたギリシャの戦士たちを思い出させるわね。……ふふ、この男もあんなに愚かではないと良いのだけれど」
導かれるように視線を向けると、大階段の踊り場から、二人の可憐な女神が並んであなたたちを見下ろしていた。
まるで神話の世界からそのまま抜け出してきたかのような、完璧なる美と淫蕩の体現者であった。二人とも、息を呑むほどに愛らしく儚げな少女の容姿をしながら、その全身からはむせ返るような濃密な雌の色気が立ち上っている。透き通るように滑らかな白磁の肌に、流れるような美しい紫紺の髪。そして、見つめられた者の理性を容易く狂わせる、妖しく輝く金色の瞳。双子のように瓜二つの容姿でありながら、纏う空気はどこか対照的であった。
向かって右に立つ女性―――ステンノは、気品に満ちた優雅な微笑みをたたえ、絶対的な上位者として男どもを愛で、苛み、踏みにじることを愉しむ残忍な女王の威光を放っている。
向かって左に立つ女性―――エウリュアレは、少しだけ不機嫌そうに小さく唇を尖らせつつも、その瞳の奥には人々の惑いと恥辱の屈服を心待ちにする、無邪気で嗜虐的な愛らしさを宿していた。
そして二人の全身を包む衣装は、まるで空気のように極限まで薄く仕立てられた、シースルーの極上のシルクであった。生地はあまりにも頼りなく肌に吸い付き、衣服としての役割をほとんど果たしていない。柔らかそうな白磁の肌が丸透けになっているのはもちろん、胸元では、布越しにクッキリと浮かび上がる可憐な桜色の乳輪と、コリコリに尖った固い乳頭の突起がはっきりと透けて見えていた。二人の小柄で華奢な体躯には不釣り合いなほど豊かな二つの乳房は、極上の張りと弾力を誇り、呼吸を繰り返すたびに透けきった薄衣をぐにゃりと押し押し上げては、その柔らかそうな肉感を惜しげもなくアピールしている。さらに視線を下へと滑らせれば、キュッと引き締まった細い腰つきと、優美な丸みを帯びた臀部のラインが艶やかに浮き彫りになっていた。脚の付け根へと続く極薄のシルク地のすぐ下には、布越しに縦に割れた秘唇の形と割れ目のラインがはっきりと浮き上がり、いやらしく覗いていた。
隠す気すら感じられない背徳的な痴態。世界中の男を狂わせる完璧な肉体美を誇る二人の女神。上階から見下ろす二人の少女は、自らの放つ圧倒的な神性と、男を即座に発情させる肉体美であなたたちを射ぬきながら、嗜虐的な笑みをいっそう深めている。二人の少女から立ち上り、広間を充たしているのは、紛れもなく英霊特有の力強く神聖な、そして狂おしいほどに淫靡な魔力の気配であった。
ジャンヌは、階段の上で見下ろす女神たちのあまりにも完成された美貌に、同じ女性でありながら思わず言葉を失っていた。しかしそれと同時に、二人の金色の瞳の奥に爛々と宿る、他者をもてあそび踏みにじる加虐的な光を察知すると、即座に身を硬くして警戒を強めると、あなたの前に体を出していざという時の盾になろうとする。
だがあなたは、そんな彼女の腰へ静かに手を伸ばし、優しく制して背後へと下がらせた。そして階段の上階で嗜虐的な笑みを浮かべる二人の女神に向かって、一切気押されることのない堂々たる声で言い放った。
自分はカルデアを代表してこの地へ降り立った者、この身命を賭して人理を背負う者だ、ここに来たのはこの島にいる姉妹に協力を要請するため。すなわち、ローマ中を魅了する最高の交尾を見せつける演者として、共に肩を並べてほしい、もしもその気がないというのなら己の身命を賭して勝負をしてくれ。お互いの尊厳と精力を賭けた正真正銘の勝負だ。この勝負においてこちらが勝利したのなら、その神聖なる肉体を余すことなく頂戴し、この世のあらゆる悦楽と辱めを受けてもらう。さあ、女神たちの返答やいかに。
あなたの宣言が締めくくられるのと同じタイミングで、あなたの全身からはふつふつと地鳴りのように魔力が昂って放たれ、広間全体へ怒涛のごとくみなぎり渡った。
それは、これまでの旅路で数多の女性英霊たちを心服させ、己の雄としての魅力と肉体で隷属させてきた、底知れぬ精力の奔流であった。英霊としての高潔な魂すら一瞬で魅了し、理性を蕩けさせて屈服せしめる、無尽蔵にして凶悪な力。
その射ぬくような力強い雄の視線と、肌を灼くほど濃密な魔力の気配を真っ向から浴びせられ、不機嫌そうにしていたエウリュアレは、思わず喉を鳴らす。
「何よそれ……頭がどうにかしているんじゃないの? 女神相手に向かって、辱めを受けさせる、だなんて……不敬も良いところよ! 今すぐ首を刎ねて晒し首の列に加えて、干からびさせてやろうかしら……!」
「待ちなさい、
「それくらい、私も感じているわよ、
「本当にそうね。その力を有しているだけで、人の身を保っていること自体が一つの奇跡。人の身に化けたどこかの神や、化物だと言われても誰も疑わないでしょうね。
…ねえ、貴方、本当に何者なのかしら? これほどまでに女神を動揺させるほどの力を放つだなんて、ただの人間ではないわね」
ステンノは、瞳に混ざり始める不徳な悦びの色を隠そうともせず、優雅に頬へ手を添えて問いかける。あなたは冷徹かつ圧倒的な自信をたたえた声で答えた。
自分がただの人間かそうでないかなど、些末な問いかけでしかない。この場においてただ一つ大事なことは、ここで我々があなた達を仲間にするか、それとも目的を達成できずに、旅が終わるかのどちらかだ。あなたたち二人の女神を味方に引き入れなければ自分たちの歩む未来そのものがこのローマで潰えてしまう、だから自分は、持てるすべての力を尽くしてあなたたちを調略しに来た。その輝かしい神体を徹底的に犯し抜き、自分の与える快楽と、この身に宿る魔力なしには決して生きていけない淫らな雌奴隷へと変えてみせ、自分は最初からつもりでこの館へ足を踏み入れた。さあ、もはや問答は無用、この無謀な勇者と勝負をするかしないのか、女神たちの返答やいかに。
あなたの言葉を隣で聞いていたジャンヌは、その精強で堂々とした雄らしさに胸を高鳴らせ、うっとりと心服した視線をあなたへと送らずにはいられなかった。もしも目の前に警戒すべき女神が存在しなければ、今すぐこの場で、手加減のない苛烈な交尾で犯し抜いてほしいと懇願していただろう。
一方、階段の上の二人の女神たちにも変化が現れていた。
エウリュアレは、あなたから溢れ出る雄としての絶対的な気配と濃密な魔力を全身の肌で感じ取り、抗いがたい気高き高揚感に頬を朱に染め上げていた。ぴくぴくと瞼を引き攣らせているのは、決して不敬に対する怒りだけではない。目の前の男に敗北し、その太い剛直によって子宮を打ち据えられ、理性を蕩けさせられて精液を貪り乞う己の姿という、決してあり得ないはずの不徳な未来を想起させられたことによる、不可抗力の愉悦も混じっていた。
ステンノもまた、眼前に立つ命知らずな勇士を見つめ、嗜虐的で優雅な笑みをいっそう深めていた。たわわな豊満を誇示するように薄布の上から腕を組み、この男が一体どこまでの力を秘めているのかと思いを巡らせる。単に英霊を屈服させ支配する程度の力なのか。それとも、この世界を歪める元凶と対等に渡り合う力なのか。あるいは、いずれ世界そのものを己の力と種によって一から創造し直すほどの、神に等しい存在へと至るのか。もしも最後の想像が現実となった時、今この場でその雄の力に屈し、子宮を貫かれて愛を受け入れることは、女神としてこれ以上ない至上の歓喜となるのではないか。なぜなら国生みと種の播種こそ、神の御業における最大の功績なのだから。
ステンノは天性の淫らさと加虐性を隠しきれない、甘く重い息を漏らしながら朗らかに告げた。
「ふふ……いいわ、勇者。その果てしない無謀さを免じて褒めて差し上げます。……こちらへいらっしゃい。ちゃんとしたお部屋で、じっくりとお話をして差し上げましょう」
「いいのね、
エウリュアレが確認するように視線を送ると、ステンノは優雅に首を傾げて微笑んだ。
「ええ。自ら進んで命と肉体を差し出す勇者には、相応の報いと試練を授けるのが女神としての真の礼儀というものよ。古代の神話というものは、元よりそういう風にできているものでしょう?」
「確かにね。これが神話に刻まれるべき試練というのなら、この男は相応の代価を差し出しているわ。人類の未来という、代価をね。……それを受け取って弄んであげるかどうかは、私たち次第だけれど」
「ふふ、とても楽しい話し合いになりそうね。さあ、時間も惜しいわ。私たちの後に続いて」
そう言い残すと、美しき二人の姉妹は優雅に身を翻し、階段の奥にそびえる重厚な扉の向こうへと消えていった。
あなたは最初から全ての覚悟を決めていたかのように、迷いのない足取りで彼女たちの後を追って階段を上っていく。ジャンヌもまた、あなたの運命の大きな分岐点を見届けるべく、その力強い背中にぴったりと寄り添うようにしながら歩んでいくのだった。