雲一つないはずの空には、燦々と輝く太陽と並び立つように、禍々しく妖しい光を放つ星が不気味に佇んでいた。
アルプス山脈の南側に広がる平原。そそり立つ雄大な山塊の麓でありながら、そこはもはや風光明媚な冷涼の地ではなかった。イタリア半島の中央、すなわちローマの方向から押し寄せる重苦しく淀んだ瘴気が、アルプスから吹き降ろす冷たい山風と激しく激突し、境界線上に不気味な気流の渦を作り出している。空気を撫でる風には、微かに焦げた鉄と生臭い血の匂いが混ざり合っていた。
その境界線の向こう、イタリア半島の方角から、重厚な足音が大地を揺らし始める。
数百人に及ぶローマ軍の兵団が、整然と行軍していた。堅牢な矢避けの甲冑を纏い、巨大な大楯と長槍を隙間なく隙間なく重ね合わせて着実に距離を詰めてくる。密集陣形、すなわちファランクスであ。その一歩一歩には、精神汚染によって正気を失い、ただ命じられるがままに歩を進める不気味さがあった。
さらにその兵団の後方からは、もはや人間としての原型を失いかけた集団が数百人、猫背になって地を這うように歩を進めていた。彼らは一様に肉体が変異を起こしていた。膨れ上がった異形の筋肉、濁った瞳、そして両腕には鉄製のかぎ爪のような残虐な武器を固定し、飢えた野獣のような唸り声を漏らしながら進軍していた。まさにそれは、獣人兵団というべき様相であった。
対するガリアの兵団は、アルプス山脈の前に広がる深い森林を背にするようにして陣を敷いていた。
戦列の要所には一定の間隔で木造の櫓が組み上げられており、その頂上にはドルイド教の司祭たちが護衛の兵士に守られながら陣取っていた。司祭たちは神聖な儀仗を高く掲げて振りかざし、絶え間なく祈祷と詔を唱え続けている。彼らの奏でる祈りの結界こそが、ローマ側から流れてくる瘴気を辛うじて押し返し、ガリアの兵たちの正気を繋ぎ止める唯一の盾であった。
ガリア兵の多くはしなやかな弓矢を主武装とし、そのさらに後方には、何台もの無骨な
そして、ガリア兵団の最前線。押し寄せる異形の軍勢を冷徹な、しかし熱い闘志を秘めた瞳で見据え、軍を率いるように立ち塞がる二騎の英霊の姿があった。
インドの反乱を導いた王妃、ラクシュミー・バーイー。そして、生前にもローマと戦い抜いたブリタニアの女王、ブーディカである。
「……英霊として生を得るとは、真に奇妙で理不尽なものだな。なぁ、ブーディカよ。お前もまさか、二度もローマと刃を交えることになるとは思わなかっただろう」
揺るぎない眼光で前線を見つめ、ラクシュミーが呟く。隣に立つブーディカは、手にした剣の柄を固く握りしめ、苦笑交じりに溜息を漏らした。
「そうだね。すごく複雑な思いだよ。ローマの土地に立っているだけで……胸の奥からどす黒い感情がふつふつと湧き上がってきそうな感じ、っていうのかな。その上、あの憎いローマの軍団が使っていた兵器まで自分たちの手で使うことになるなんてね」
「投石器か。史実におけるガリア兵の戦術は、チャリオットによる突撃や、地形を生かしたゲリラ戦での奇襲が主だったと聞くが」
「うん。私もできれば、そっちの方が得意だし戦いやすいんだけどね。こんな極限の状況じゃ、ないものねだりも最大の贅沢だから。……とにかく、ご主人様が授けてくれた熱い魔力が尽きるまで、精いっぱい戦わないとって感じかな」
「本当に力尽きてはだめだ。我ら全員、無事に生き残ってあの人と再会すると、立香たちとも固く誓ったのだからな」
「ふふ、分かってるよ。生きてあの人に会うために『死力を尽くす』って意味だから。……来るよ!」
ブーディカの鋭い一言に応じるかのように、遠方から迫るローマ軍の行軍速度が一気に加速した。
重厚な鉄の壁であったファランクス陣形が左右へと整然と広がり、その後方に控えさせていた獣人兵団が一斉に更に側面へと躍り出ていく。異形の牙を剥き出しにし、狂乱の叫びを上げながら横一線の陣形を展開しようとする。
その動きを冷徹に見極めたラクシュミーは、後ろに控える投石兵と弓兵隊に向けて、腹の底から通る声で叫んだ。
「斉射準備! 私の合図で一斉に放て!」
ラクシュミーの号令が飛ぶや否や、ガリアの兵たちは一糸乱れぬ動きで攻撃体勢に入った。
前衛の弓兵隊は一斉に弓を引き絞り、鋭い矢先を迫り来る兵団の群れへと向ける。後方のカタパルト部隊では、兵士たちが合図とともに固定縄を外して巨大な投石腕を引き上げ、装填された巨大な岩石に狙いを定めた。緊張感が極限まで高まり、引き絞られた弦と投石器の木枠が悲鳴のような軋み声を上げる。
前進を強める敵陣は横一線に散開すると、その左右両端―――最左翼と最右翼に位置する肉体変異を起こした獣人たちが一気にスピードを上げて突出した。中央に重歩兵を配し、両翼を突出させて敵を包み込むその姿は、まるで巨大な鳥が翼を大きく広げたかのよう。ローマ軍による鶴翼の陣であった。
ラクシュミーは、両翼の俊敏な獣人たちに惑わされることなく、中央に座す相対的に足の遅いローマ人間の重歩兵兵団を冷徹に睨み据えていた。彼らの進軍の軌道上、地面にポツリと置かれた人間の足ほどもある大きな標識代わりの石。重歩兵たちの先頭の足がその石のラインを越えた瞬間、ラクシュミーは胸いっぱいに空気を吸い込み、喉が裂けんばかりの声で叫んだ。
「撃てぇッ!!!!」
彼女の絶叫と同時に、ガリア陣営の後方から無数の矢とカタパルトから解き放たれた投石が放たれ、一瞬にして空を真っ黒に覆い尽くした。
黒い死の雨が放たれた大気を切り裂き、鋭い風切り音を奏でながら、頭上から前進するローマ兵団へと容赦なく降り注ぐ。
重歩兵によるファランクス陣形はすぐに反応し、巨大な大楯を頭上へと掲げて重なり合い、完璧な鉄の屋根を作り出して矢の雨を防ぎ止めようとした。しかし、数秒遅れて空から重力加速度を伴って落ちてくる巨石の質量まで防ぐことは叶わない。
―――飩。
人一人ほどもある巨大な石が、大楯ごと重歩兵の肉体を木っ端微塵に押し潰し、鈍い衝撃音とともに地面を激しく揺らした。血飛沫と骨片が飛び散り、密集陣形の一部が崩壊する。
中央の人間兵団が足を止め、楯を固めて斉射の嵐から身を守る防御姿勢に入った一方、両翼の獣人兵団はその持ち前の獣染みた俊敏性を遺憾なく発揮していた。彼らは地を這うような素早い足さばきで投石や矢が落ちてくる着弾範囲を駆け抜け、ガリア陣形の左右両側面目掛けて一気に距離を詰めていく。
その急襲を予測していたラクシュミーは、すぐさま二度目の矢継ぎ早な命令を飛ばした。
「弓兵隊、三段斉射!!」
ガリアの弓兵たちは訓練された一糸乱れぬ動きで、前後三列の密集陣形を瞬時に築き上げた。最前列の兵が膝を折り、二列目の兵が腰を落とした中腰姿勢をとり、最後列の兵が直立したまま弓を引き絞る。上下の隙間を埋めた矢壁の形成。
「放てぇッ!」
上下の感覚が極限まで詰まった矢の雨が、至近距離から迫る獣人たちの群れへ直水平に解き放たれた。
正面から襲い来る矢の波に対し、獣人たちは腕に装着された鉄製のかぎ爪や肥大化した前腕を掲げて顔面を防ごうと試みた。尋常ならざる肉体変異によって得た岩のような筋肉に矢が突き刺さるものの、その強靭な肉皮と脂肪ゆえに骨深くまで喰い込むことは阻止される。
しかし、死角から飛来した一部の矢は、防ぎきれなかった獣人たちの腹や太腿、首筋といった柔らかく露出した部位へ深く突き刺さった。
「グギャッ……!」「ガハッ!」
激痛と吐血に身を悶えさせながら、数十頭の獣人が勢いを削がれ、悲鳴を上げて行軍から次々と脱落していく。
だが、仲間が倒れようとも、狂乱に満ちた獣人たちの突撃は止まらない。数を減らしつつも凄まじい脚力で、ガリア陣営の目と鼻の先まで迫る。もはや弓に矢を幾度も番えて放つ猶予など、一秒たりとも残されてはいなかった。
目の前まで迫り来る異形の凶相、むき出しの鋭い牙、そして大気を震わせる狂暴な唸り声と熱気が、ガリア兵たちの肌を直接撫で上げる。恐怖で足が竦みかける兵士たちの前で、最前線に立つブーディカは想像もつかないほど力強く、勇猛に叫んだ。
「槍を持てぇッ! 怯むな、一歩も引くな! 迎え撃てぇぇッ!!」
ブーディカの鼓舞に応え、ガリアの弓兵隊は手中にしておいた弓を迷うことなくその場に投げ捨てた。そしてそれと入れ替わるように、足元の地面に整然と並べておいた長槍を各々が素早く力強く握り直す。
「「「「おおおおおっ!!」」」」
何百本もの鋭利な槍の穂先が、一斉に迫り来る獣人たちの胸元目掛けて突き出される。命を賭して前線を死守する槍衾の壁が、瞬く間に最前線へと築き上げられた。
「うああああああッッ!!」
「殺セ! 喰ラ”イ尽クセェ”ッ!!」
怒号と叫喚が交錯し、ガリアの槍衾と突撃する獣人兵団が正面から激しく激突した。
勢いを殺しきれずに槍衾へと飛び込んだ獣人たちは、その強大な自重と突撃の速度によって自ら鋭利な槍の穂先へと刺さり、肉を断ち骨を砕く生々しい音を響かせた。槍先が胸肉を貫き、背中へと突き抜ける。
しかし理性を失い狂暴化した獣人たちは、痛覚すら麻痺していた。身体に三本、四本と槍が深々と突き刺さった状態のまま、真っ赤に血走った目で血反吐を吐き散らし、鉄のかぎ爪を振るってガリア兵の首筋や顔面を抉り取った。
「ぐげぇっぁ!」
「こいつ……ひぐぉっ」
肉が削ぎ落とされ、鮮血が噴水のように空中に舞い散る。ガリア兵の腕が、首が千切れ飛び、大地へと転がり落ちた。倒れた兵士の腹をかぎ爪が引き裂き、生温かい臓腑がぐちゃりと地面に飛び散る。その凄惨な光景にひるむ間もなく、後方の兵士が即座に隙間を埋め、次なる槍を突きたてる。踏み荒らされた土は瞬く間に赤黒い血反吐と肉片で泥濘と化し、踏みつけるたびに粘り気のある嫌な水音を立てた。
互いの生命が擦り切れるように潰し合い、純粋な殺意と生存本能だけが渦巻く地獄絵図。
前線で指揮を執っていたラクシュミーとブーディカは互いに力強く頷き合うと、迷いなく武器を構え、それぞれ右翼と左翼の激戦区へと躍り出た。
「そこをどけ、獣どもっ!」
右翼へ躍り出たラクシュミーの戦いは、隙のない機動的かつ攻防一体の流麗なものであった。片手に長剣、もう片方の手には重厚な拳銃を構え、獣人の懐へと滑り込む。
飛びかかってくる獣人の爪を滑らかな剣筋で受け流し、体勢を崩した瞬間にその喉元へ間髪入れず銃口を押し当てて引き金を引く。轟音とともに頭部が吹き飛び、血煙が舞う。息つく間もなく背後から迫る別の獣人に対し、振り返ることもなく剣を背後に突き立てて肉体を穿つと、軸足を支点に翻身し、零距離から放たれた銃弾で敵の膝関節を撃ち抜く。攻めと守りが目まぐるしく入れ替わる洗練された連撃により、彼女の周囲には次々と獣人の骸が積み上げられていった。
一方、左翼へと駆け抜けたブーディカは、流麗さとは真逆の力強い肉弾戦を展開していた。
「私たちの絆を、こんなところで踏みにじさせない……!」
大盾を前面にしっかりと構え、咆哮とともに躍りかかってくる巨大な獣人の突撃を正面から受け止めた。激しい衝撃が腕を伝うが、彼女の脚は寸分も後退しない。
盾の表面で爪の打撃を弾き返し、体勢を崩した獣人の隙を見逃さず、右手の剣を一閃させる。
「シッ!!」
深々と胸元を切り裂かれた獣人が倒れ込む隙に、ブーディカは即座に盾の縁を別の獣人の顔面へ叩きつけ、ひるんだところを首筋から一撃で叩き斬る。王妃であり、母であり、戦士である彼女の剣舞は、ガリアの兵らの剣となり、盾となり、敵に死を与える壁となって戦線を支えていた。
両軍が泥沼の激闘を繰り広げる様を、陣営の後方から藤丸立香が顔を青白くさせながら、しかし一度たりとも視線を切ることなく見つめ続けている。戦況自体は、当初の予想通りに推移していた。
獣人たちの誇る圧倒的な機動性は、最初の弓の斉射と隙間なく組み上げられた槍衾によって削ぎ落とされていた。多対一を基本とするガリア兵たちの粘り強い槍の連撃の前に、どれほど肉体変異を果たした筋力といえど力押しを通すことはできない。着実に数を減らしていく獣人たちに対し、後方から支援しようとするローマの重歩兵兵団は、前で狂乱し倒れ伏す仲間の獣人たちが壁となって狭い戦線に詰まり、思うように最前線へ合流できずにいた。
前後をガリアの槍衾と身内の重歩兵に挟まれ、身動きの取れなくなった獣人が闇雲に爪を振り回して暴れるが、そこへラクシュミーやブーディカが躍り出て即座に止めを刺す。あるいは、ガリアの弓兵が遠方から正確に足を射抜いて機動力を奪い、そこへ槍兵が一斉に突きたてて確実に命を奪う。この戦場で最大の脅威となり得た異形の突破力は着実に無力化されつつあり、全体の趨勢はガリア側に優勢の傾きを見せていた。
しかし―――立香の目の前で今まさに繰り広げられているのは紛れもない、人と人とが直接命をやり取りする戦場の現実そのものであった。
鉄と鉄がぶつかり合う甲高い打撃音。重いブーツが血泥を踏み鳴らす泥臭い足音。四肢が引きちぎられ、臓物と生温かい血が空中に舞う残酷な光景。死の間際に人間や異形が引き起こす、この世のものとは思えぬ絶叫と断末魔。人間がその歴史の中で幾度となく繰り返し、積み重ねてきた凄惨かつ不条理な文明同士の衝突が、そこには隠すこともなく曝け出されていた。
立香にとって、このような生の殺戮を目にするのは、これが二度目であった。ガリアの戦線に辿り着いて最初に経験した激突の際、立香は胃の底からこみ上げてくる猛烈な嫌悪感と生理的な拒否反応に苛まれ、過呼吸を起こしかけた。眼前で潰されていく命の重みに心が押し潰されそうになったのだ。
だが、ここで目を背けるわけにはいかない。目を背けてしまえば、人理を取り戻すために戦うという、カルデアのマスターとしての使命を自ら疎かにすることになる。何より、敵地へと潜入し、孤立無援の絶望的な状況下でありながらも己の使命を果たさんとしているあなたに対し、合わせる顔がなくなってしまう。
「マスター……大丈夫ですか……?」
隣で大盾を構え、いつでも立香を庇えるよう神経を研ぎ澄ませているマシュが声をかける。
立香は震える拳を強く握り締め、込み上げる吐き気を押し殺すように答えた。
「……うん。大丈夫だよ、マシュ。ちゃんと最後まで見ているよ」
マシュの献身的な支援を受けながら、立香は一瞬たりとも目を逸らすことなく、前線で命を散らし、命を奪い合う戦場のすべてをその瞳に焼き付け続ける。生臭い風が吹き抜ける戦線全体をくまなく見渡していると、交戦の熱量と血煙に眩む視界の中、立香の目が僅かな不審な動きを捉える。
敵の獣人の一部が、自軍やガリア兵の死体の山、そしてせめぎ合う人間の壁を遮蔽物として利用しながら、ガリア兵団の視角を密かに回り込もうとしていた。彼らはガリア兵の背後へ回り込み、手薄な側面から挟み撃ちにする算段だ。もしあの別動隊に突破を許せば、せっかく構築した陣形は崩れて、被害は予想のつかないものになる。
一刻の猶予もないと判断した立香は、ラクシュミーへ向けて魔力パスによる念話を繋いだ。
『ラクシュミー! 獣人が何頭か側面に回り込もうとしてる!』
『どこだ!』
『一番右翼の獣人達の後ろ! ラクシュミーの今いる位置からかなり近い!』
『承知した!』
剣を振るう吐息混じりに、ラクシュミーの鋭い声が意識内に響く。
念話越しに状況を把握したラクシュミーは、目の前で爪を振り下ろそうとしていた獣人の胸板を容赦なく蹴りつけ、それを踏み台にして高く宙へ跳躍する。
ふわりと下りる滞空時間の僅かな一瞬、戦場を俯瞰したラクシュミーの視界に、ガリア兵の背後へ忍び寄る数頭の獣人の影が捉えられた。空中という不安定な体勢のまま、彼女は左手に構えた銃の照準を素早く合わせる。
「捉えたっ!!」
躊躇なく引き金が引き絞られ、魔力を凝縮させた激しい銃弾が火花を散らして放たれる。弾丸は一寸の狂いもなく別動隊の獣人たちの脳天を正確に穿ち抜いた。頭部を破壊された獣人たちは、悲鳴を上げることすら許されず、ガリア兵の数歩手前でドサリと崩れ落ちた。
奇襲を阻み、空中からしなやかに着地しようとしたその瞬間であった。矢雨を浴びて瀕死となり、半狂乱に陥っていた一頭の獣人が、死に際の執念で前へと泥を這うように突進してくる。そして着地の体勢から立て直しかけていたラクシュミーに向かって、自らの巨体を押し付けるように倒れ込んでくる。
「しつこい!」
ラクシュミーは右手の剣を閃かせてその肉体を斬り払う。
しかし、獣人は死の淵にありながらも最後の腕力を振り絞り、刺さった剣刃を己の胸中に固く抱きかかえるようにして倒れ込んだ。
「ぬっ……剣が!」
一瞬、剣先の自由を完全に奪われ、ラクシュミーは強引に死体から剣を引き抜く。
だが、死に際の捨て身の一撃によって生じたほんのわずかな隙を、他の獣人たちが見逃すはずもない。視界の死角から獣人たちが鉄のかぎ爪を構えて一斉に押し寄せてきた。引き抜いたばかりの剣を構え直す時間も、左手の銃を構える暇もない。
(不運……いや、私の不覚か……!)
ラクシュミーは歯を食いしばり、浅からぬ負傷を覚悟の上で、両腕を交差させて直撃を最低限防ごうと身を硬くした。
―――次の瞬間。
どこからともなく、朱い光を纏った槍の幻影が、雨のように頭上から激しく降り注いだ。空間を切り裂く絶望的な速度で放たれた無数の朱槍は、押し寄せていた獣人たちの頭頂から股下までを一瞬で垂直に貫き通した。大地に深々と突き立てられた幻影の槍は、獣人たちを地に縫い付け、一声の叫びすら上げさせることなくその息の根を完全に散らす。
朱い光の残光が静かに粒子となって消えていく中、ラクシュミーは素早く身を退くと、槍が飛来したはるか遠方の山嶺へと一瞬だけ視線を巡らせると、どこか苦笑混じりの呆れを含んだ声で低く呟いた。
「……全く。どこかで助けてもらったのと、まるで同じ展開だな……スカサハ殿」
その呟きに答えるかのように、一陣の赤い影が風を切って戦場を駆け抜ける。
すれ違う先に蠢くローマの獣人たちは、音すら置き去りにして振るわれる凶暴で美しい赤い軌跡によって、一瞬で首を撃ち落とされ、あるいは胸を深く穿たれて地へと崩れ落ちていく。赤い暴虐が一直線に戦場を駆け抜け、風が通り過ぎた遥か後方から、一瞬遅れて鮮血の飛沫が宙へと跳ね上がった。
その圧倒的な疾走と破壊の軌跡を作り出した者―――影の国の女主人たるスカサハは、瞬く間に無数の敵を討ち果たし、いつの間にか立香たちの待つ後方へと舞い戻っていた。戦場の血煙の中でもなお、その姿は神々しい戦女神の如くであり、彼女は手にした朱槍を軽く一振りすると、静かに乱れた紫髪を払ってみせた。
「お帰りなさい、スカサハさん!」
「ご無事の帰還で何よりです! あっという間に敵を討たれる姿、お見事です!」
立香とマシュが安堵の息を漏らしながら声をかける。スカサハは二人へ視線を向けると、淡々とした低く落ち着いた声で応じた。
「いやいや、大したことはしていない。
……それにしてもローマの方は厄介だ。かの地を覆う力は、ローマへ近づけば近づくほどその瘴気は濃密さを増していく。まるで土地を汚染するかのようだ。あの空気に身を晒しているだけで、心の中で凶暴な獣が吼えるような、不徳な情動が湧き立ちそうになるほどにな。なんの対策も無しに、このまま奥へと進むのは困難だぞ」
「スカサハさんほどのお方でも……そこまでひどいのですか?」
スカサハの予言めいた警告に、マシュが驚きに眉をひそめる。
「あぁ。少なくとも、我が主と合流してその絶大な魔力による庇護を得られねば、半島の奥へ足を踏み入れることはできん。……さもなくば、いつの間にか己の理性を失い、獣のような振る舞いをしかねんからな。例えば誰彼構わず雄の種を植え付けて欲しいと浅ましく往来で懇願し、その言葉通りに見知らぬ雄たちに犯されることに歓喜するような感じだ。実際に私が偵察した前線の町では、そのような正気を疑う不徳が当然のように繰り広げられていた」
スカサハが淡々と語ったその事実に、立香とマシュは一瞬で顔を青ざめさせた。彼女のように優れた魔術の素養を持ち、神霊級の霊基を誇る英霊でさえ、強大な魔力による支援なしでは精神を侵されかけるというのだ。自力での魔力防御や精神汚染への対抗が難しい自分たちがもしその瘴気に呑まれれば、どうなってしまうのか。本当に娼婦よりも娼婦らしい、文字通りの無惨な肉便器へと堕ちてしまうのではないか。
愛おしき主人たるあなた以外の見知らぬ無数の雄たちに身も心も蹂躙され、種付けを乞う己の姿を想像し、立香は胃の底から込み上げてきた強い吐き気と拒否反応を、拳を握り締めて必死でこらえた。
スカサハはそんな彼女たちの動揺を気にとめる風もなく、淡々と思考を切り替える。
「で、戦線はどうなっている。私が偵察に出たときと大差はないようだが。マシュ」
「その通りです。残念ながら、こちらで精神汚染に対する有効的な対策というのは見つかっておらず……前線を一歩も前進させられずにいます」
「ここはローマから流れてくる瘴気と、アルプスから吹き降ろす山風が激しくぶつかり合う、奇跡的な均衡の最前線だ。ここから先は、まさに心を歪ませねば進めぬ向かい風の中を突き進むようなもの。普通の人間なら足を踏み出すことすらできん。ガリアから新たに祈祷師が来なければ、まぁそうなるだろうな」
「……スカサハさん。ローマの都市では、一体何が起きているのですか……?」
立香は青ざめた顔のまま問いを投げかけた。スカサハは目を細め、遥か南の空を睨みつけながら口を開いた。
「ざっくりと言えば、永遠に終わらぬ不徳な交わりだ。床と壁とを処構わず汚し、極限の快楽の中で寝食を男女ともに同じくして、ただ欲望のままに獣のごとく振舞っている。まったく奇妙なことよ。それほどまでに交わりを続けて、奴らは一体何を為そうとしている? 人々を獣のように作り替えて、敵は何を達成しようとしているのか」
昼であっても、空には常軌を逸した青白い光を放つ妖星が不気味に佇み、帝都ローマの街並みを異形の色に染め上げていた。
都市の至るところに蔓延する瘴気は無色透明であり、見た目には何の変化をもたらさない。だが、その空気には人命を蝕み、精神の根底を獣へと書き換える恐ろしい毒素が濃密に溶け込んでいた。
新生ローマ帝国。その帝都の最高中枢たる
風変わりな緑のスーツを着こなして、冷徹な知性を宿した鋭い眼光を持つ男。レフ・ライノール。人理焼却を目論む魔神柱の一柱であり、カルデアに敵対する人理の宿敵であった。この時代の歴史を特異点へと固定化させるための楔として聖杯を持ち込み、目論見通り皇帝ネロに所有させた後、特異点の定着状況を観察するためにローマの地を訪れた存在。そして今や―――計らずもこの歪んだ特異点の檻の中に囚われの身となった存在であった。
レフは眉間に深いシワを寄せながらパピルスに記された文字を読み進めていたが、やがて苛立ちを隠すことなくそれを机上へ放り出し、深く目元を押さえた。理由は極めて下らない、しかし深刻な事態によるものであった。書簡に記された文字があまりにも汚く、解読するのに余計な神経と読解力を必要としたからだ。
妖星による瘴気がイタリア半島全域へ広まってからというもの、理性を失い、文字を読み書きできる人間が加速度的に減少していた。今や、レフが魔術的な処置を施して辛うじて正気を繋ぎ止めている僅かな文官や側近しか、まともな報告書すら作成できない惨状にある。このままでは、いずれ字を読むことすらできる者が皆無になるのではないか―――そんな不吉な疑念すら胸を過るほどであり、己の本質が人間などではなく魔神柱という異形の存在であるというのに、レフはまるで人間であった頃のような目疲れの錯覚を感じる。
気分転換のため、彼は人間体の癖で、締め切られていた重い窓枠をほんのわずかに押し開けた。
―――その瞬間。窓の隙間から、何百、何千という獣たちの混ざり合った叫び声が怒涛の音圧となって部屋の中へと雪崩れ込んできた。
「……ッ!?」
それは言葉ではない。欲望のままに爛れ、発情した男女が路上で交わり、交配を繰り返す阿鼻叫喚の狂乱。獣たちが盛り合う不徳なシンフォニーであった。
レフは不快感に顔を歪め、弾かれたように窓を叩きつけた。しかし、一度耳に飛び込んできた不快な声と湿った空気の記憶は易々と消えてはくれない。己の軽率な不覚を心底後悔しながら、彼は苦々しく舌を打った。
そうこうしているうちに、約束の時間が差し迫っていることに気づいた。皇帝ネロへの定期謁見、および推進している各種政策の進捗報告の時間である。この世の全てに辟易するような、重く深い溜息を一つ吐き出すと、レフは重い腰を上げて書斎を後にした。
彼が足を進めるのは、古代ローマの権力の象徴たる
だがその壮麗で荘厳な空間には、静寂とともに冷ややかな異様さが漂っている。人の気配は一切途絶え、大理石の回廊にはレフだけの足音が重く響き渡り、建物の外からはらローマの狂々とした喧騒が何の障りもなく透けて聞こえてくる。それはまるで、無数のカラスの大群の不吉な大合唱か、あるいは地獄の底で響く獣たちの悲鳴。いかなる美しき楽園であろうと、そこに集う者が知性を捨てた獣だけであれば、成すことなど限られている。貪るような食事、死んだような睡眠、そして絶え間ない繁殖。その退廃的で浅ましい本能の繰り返しだけが、今のローマにおける日常そのものであった。
歩みを進めて程なく、レフは建物の最奥にある重厚な大扉の前へと辿り着いた。皇帝の執務室―――いまや狂気と退廃の権化と化した、皇帝ネロ・クラウディウスが鎮座する部屋である。といっても、最近では宮殿にいることが大半で、この建物に来ること自体が稀なのだが。
レフは大扉の手前で立ち止まる。すぐに扉を開けることはしなかった。彼は呼吸を整えながら、静かに己の記憶の糸を手繰り寄せ始めた。どのような経緯で己がこの無惨な境遇へと叩き落とされたのか。
文明を挙げて獣化が進行していくこの狂気のローマに、己自身の精神まで呑み込まれてしまわぬための―ーーレフ・ライノールという存在の自我を繋ぎ止めるための、彼なりの防衛策としての日課であった。
あの夜―――青白い彗星から眩い光がローマの地に注ぎ込んだその瞬間、この特異点は既存の歴史から完全に切り離された凄惨な異界へと変貌を遂げた。
いや、思い返せばその予兆たる歪みは、すでにあの夜より以前から街の端々に滲み出ていたのかもしれない。人々は時と場所を選ぶことすら忘れて爛れた宴に興じ、道端で誰彼構わずに体を交え、皇帝ネロはその狂乱と乱痴気騒ぎを極上の酒を煽りながら面白がって黙認していた。
しかし、それでもあの頃はまだ文明の体を保っていたのだ。元老院の議員たちは眉をひそめて皇帝へ決死の諫言をしに訪れ、大通りには市場が開かれ、普通に商売を行っていた。末期的な退廃の空気が漂っていたとはいえ、人間としての営みと社会の秩序は確かにそこにあった。だが、今やどうだ。誰も彼もが正気を完全に失い、獣のように己の本能と快楽だけに忠実な肉の塊と化している。すべてはあの妖星の光がローマ一帯を包み込んだ、あの悪夢のような饗宴の夜から始まったのだ。
あの夜を境に、皇帝ネロは自らを獣の神と称し、この破滅に満ちた地を再構築すると高らかに宣言した。天空から降り注ぐ妖星の光線―――その異様な力に直接晒されたローマ市民たちは、理性を木っ端微塵に吹き飛ばされ、抵抗する術すら持たずにその狂威に屈した。ネロの指揮の下、歴史あるローマの七つの丘は瞬く間に、正気を奪われた人間たちが昼夜の別もなく交わり盛り合う、見るに堪えぬ極楽浄土へと変貌を遂げたのである。
さらにネロは、七つの丘すべての都市の地下深くを穿つように掘削を命じた。地表から深淵へと続く巨大な大穴を開けさせると、その口を重厚な大扉で封印させる。そして真夜中が訪れるたび、その扉を解放し、人々の中で特に獣としての野蛮な振る舞いが顕著になった者を優先してその穴へと投げ込むよう命じた。明くる日の朝、穴から這い出てくる者たちはもはや人間の姿をしていない。四肢の筋肉が異形に膨れ上がり、理性を完全に失った正真正銘の獣人へと変貌を遂げているのだ。
レフはかつて、その地底の扉の中へと足を踏み入れたことがある。あの巨大な入口は、言ってみれば巨大な生物の口腔であり、その先へと続く暗闇は生温かい食道そのものであった。深く奥へと進むにつれ、充満する密度の濃い瘴気によって人間の肉体と魂の構造はドロドロに溶かされていく。そして最奥の間にまで滑り落ちた人間は、四方八方から注がれる絶望的な力によって完全に変質させられ、一匹の凶暴な獣へと再構成されるのだ。皇帝ネロは、こうしてローマの人々を次々と人間から異形の兵器へと変貌させており、その悍ましい変身計画の実務および主導を任されているのが、他ならぬレフであった。
このような皇帝の暴挙に対して、ローマの諸都市から反発する動きはなかったのか? 答えは、ごくわずかに存在した。かの恐ろしい魔の光を浴びながらも、不屈の意志で奇跡的に理性を繋ぎ止めた者は存在していたのだ。
しかし、そうした賢者や勇者の多くは、自分が手遅れになる前に命からがらイタリア半島を脱出した。それでもなお半島に残った僅かな者たちは、討死を覚悟で皇帝の首を狙いに攻め込んできたが、都市の中に満ちる強烈な瘴気に屈して道半ばで散るか、なおも心を折らぬ一騎当千の強者に対しては、レフ自らが手ずから魔術による容赦のない死を与えた。
かくして抵抗の芽は完全に摘み取られ、いまやローマは、不徳の皇帝ネロによる絶対的な独裁の下、人類の歴史を終わらせる新しい世を迎えるための準備を、着々と、そして着実に整えていっているのだった。
(ただ一人の獣のごとき女……いや、異形の獣へと成り果てた女に膝を屈し、額を地に擦り付けて働く己のなんと哀れで惨めなことか。
それでも、我は人理を深底から憎悪し、その絶滅を企てる魔神柱の一柱、フラウロスなのか)
レフは嘲笑と自蔑の混ざり合った感情で胸の奥を焦がしながらも、どれほど醜く這いつくばろうとも、生き残ることを最優先とした。
あの妖星の光を浴びた瞬間、レフは特異点の外の世界―――すなわち他の魔神柱や、己の絶対の主との魔力リンクを完全に遮断された。そして聖杯の力と妖星の加護を全身に受けて変質を遂げた皇帝から、この世界すべてをねじ伏せるほどの力を感じ取ったのだ。己の内に秘めた魔神柱としての全能力を以てしても、この女に抗うことなど不可能であると、レフは瞬時に悟った。以来、彼はネロの忠実な補佐官を演じることで辛うじて己の命を繋ぎ止め、彼女の手駒として命じられるままにこの狂気の政策を実行し続けている。
何としてでも生き残らなければならない。ここで理不尽な死を迎え、無価値に消え去ることなど断じて許されない。カルデアを破滅させ、人類の歩んできた全ての歴史を燃やし尽くし、一切を灰燼へと帰すという真の虚無―――あの偉大なる大業を実現するためならば、己の持つあらゆる尊厳も、魔神柱としての誇りすらも捨て去る覚悟があった。狂気の皇帝に仕える忠実な手駒となり下がる屈辱など、生き延びて反撃の機会を伺うためのわずかな代償に過ぎないのだ。
溢れ出る怒りと屈辱を冷徹な仮面の下へと押し込めると、レフは呼吸を整え、重厚な大扉を幾度か静かに叩いた。
「―――我が偉大なる皇帝陛下。レフ・ライノールにございます。ご指示いただきました諸政策の進捗報告、および帝都の管理状況の言上にあがりました。入室の許可を賜りたく存じます」
恭しく、一寸の破綻もない完璧な臣下としての声調で言葉を紡ぐ。
扉の向こうから、艶やかで恐ろしいまでに重厚な、鐘の音のごとき声が響いた。
「……よいぞ。余の前に顔を見せよ、レフ」
レフは深く頭を垂れながら、ゆっくりと重い扉を押し開けて室内へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた瞬間、鼻腔を突いたのは、濃厚すぎる甘やかな百合の香料と、ねっとりと肺にへばりつくような生臭い血と体液の交ざり合った異臭であった。かつてローマ皇帝の権威と崇高な美徳を象徴していたはずの執務室は、いまや退廃の極みを体現する不徳の巣窟へと成り果てていた。
部屋のあちこちに散らかった羊皮紙の書簡や書類は無造作に踏み荒らされ、かつて政務を執るための厳かだった大理石の机の上には、飲み散らかされた金の杯や骨付き肉の食い散らかしが放置されていた。床一面に敷き詰められていた極上の絨毯は、こぼれ落ちた安酒の染みで黒ずみ、本来この絢爛豪華な部屋を維持管理すべき給仕や近衛兵の姿はどこにも見当たらない。手入れをする者が誰一人としていない室内は、退廃的な荒れ果て方を見せていた。
壁沿いには、皇帝自ら持ち込ませたのであろう幾つもの巨大な木樽がぞんざいに転がされており、樽の栓からは溢れ出た強い酒が床へと滴り落ちて、部屋全体に濃厚な酒臭さを充満させている。歴代皇帝の権威を示す精緻な調度品や浮き彫り彫刻も乱暴に扱われ、誇り高くあるべき執務室の威厳は完全に失われていた。
そして、打ち捨てられたように散らかる退廃の空間の最奥―――豪奢な装飾が施された玉座の真ん中に、ただ一人の女が、圧倒的な異彩と破壊的な存在感を放ちながら不遜に鎮座していた。
玉座に大股を開いて深く腰掛けるその姿は、かつて市民に愛された薔薇の皇帝の面影を残しながらも、人類を根底から塗り替える不徳の悪夢そのものであった。羽織っていた重厚な外套は雑に床へ打ち捨てられ、露わになったその肉体は見る者の理性を容易く焼き切るほどの破滅的な色気を放っている。頭頂からは歪で禍々しい漆黒の角が天を突き、背後からは龍の如き筋骨たくましい巨大な尾が蠢いて、酒で濡れた大理石の床を不気味に叩いていた。
黄金の装飾が施された深紅と黒の衣装は、その常軌を逸した豊満な躯体を辛うじて包み込んでいるに過ぎない。生地は限界まで張り詰め、肉厚な太ももや引き締まった腰つきの艶やかさをいやらしく浮き彫りにしている。とりわけ、誇らしげに押し出された膨らみの質量は圧倒的であり、豊満などという言葉すら生緩い、すべてを呑み込み押し潰さんとするばかりの肉感をもって、息をつくたびに重厚に揺れていた。はけ口を失った肉感が衣装の隙間から盛大にはみ出し、深く開いた胸元からは、汗ばんで発汗した肌の質感と、熱く火照った肉の圧迫感が濃厚に漂って来る。
かつての可憐で美しき皇帝の面影は完全に消え去り、男の欲望をどこまでも刺激し苛む、成熟と退廃を極めた淫らな女体。それこそが皇帝ネロの威容、獣の神となった女の姿であった。
「おお、レフ。今日も相変わらず顔色が悪いな。余とともに酒精を愉しめばいくらかマシになろうものを。近う寄れ、かのアウグストゥスの代に採れたという極上の年代物がある。この樽を余とともに空にしてみないか?」
皇帝の傍らには、頭を大雑把に叩き割られた大きな木樽がそのままゴロリと置かれていた。彼女はそこに黄金の杯を雑に潜らせては重厚な赤葡萄酒を汲み上げ、豊かな胸元や白磁の肌へこぼれ落ちるのも一向に気に留めず、豪快に口へと流し込んでいた。
レフは恭しく頭を下げたまま、一切の感情を排した声で返事をする。
「この身は酒精に酔えぬ体質なもので。いくら酒を煽ろうとも、あいにく人間のように獣の如き振る舞いをすることはできません」
「そうか、それは残念だ。そなたも獣のようになれば、その鉄面皮の奥に隠された愉快な本音が見えるやもしれんというのに。惜しいかな、実に惜しいかな」
ネロは唇から滴る赤い液体を白く細い指先で拭うと、楽しげに喉を鳴らして笑った。
酒の香りと濃密な獣の気が立ち込める中、レフは表情一つ変えず、恭しく一歩前へ踏み出した。
「陛下。つまらぬ話とは存じますが、陛下の御要望に従って進めておりますローマの新生化の進捗について、ご報告を申し上げます」
「あぁ、それか。本当につまらぬ話よ。なぜ人はこの素晴らしき美と退廃を享受せずに、艱難辛苦の道を進むというのか。血肉を流すは愉悦の宴の中だけでよい。剣と矢による泥臭い流血など、どうして面白かろうか。
……レフ、簡潔に述べよ」
ネロは手にしていた黄金の杯を揺らし、深紅の葡萄酒を喉奥へ流し込むと、興が削がれたように鼻を鳴らした。
「はっ。要点のみを申し上げます。
第一に、ローマ七つの丘における地下掘削工事がすべて完了いたしました。これにより、七箇所の全域において同時に獣人の新生化を滞りなく進められる態勢が整っております。
第二に、反乱の芽が燻っていたシチリア島の再征服および粛清が完了いたしました。
そして第三に、元老院の旧邸宅跡地を接収した際、隠された地下倉庫より大量の年代物の酒が発見されました」
「ふむ、最後のものが一番の良い知らせだな!」
ネロは退廃的な笑みを浮かべ、豊かな胸元を震わせて膝を打った。
「へそくりにしては機嫌のいいものを残していったものよ。余を喜ばせる術を知っておる。……して、誰の邸宅から見つかったのだ?」
「元老院議員、ルキウス・カルプルニウス・ピソの邸宅にございます。かつて大酒飲みとして知られ、夜を徹しての酒宴に興じていた男でございます」
「おお、ピソか! ふふ、懐かしいな。かつてローマの市民どもも、あ奴の際限のない大酒飲みぶりを揶揄う詩を吟じて笑い合っていたものよ。……で、そのピソ本人は生きておったか?」
「数週間前、第六期の肉体変異計画の折に、すでに言葉を失い獣人となっております」
「そうか、それなら結構。もし生きておるのならば、樽いっぱい分の酒をすべて一人で飲み干すまで広場に閉じ込めておけ、と命令を出してやるところであったわ。くくっ、見つかった酒は一つ残らず余の宮殿へ運ばせよ!
……して、レフ。まだ大事な報告が残っているようだが? 敵対する人理の英霊どもはどうなった?」
ネロの黄金の瞳が妖しく光り、退廃的な空気を孕んでレフを射抜いた。
レフは一切の感情を抑え込んだ鉄面皮を崩さぬまま、静かに報告を続けた。
「大半の英霊はガリア地方に集結している模様。現在、アルプス山脈の麓の境界線において複数の英霊を確認しております。また、カルデアのマスターの一人と、その者と契約した英霊も現地にて確認できました。……女の方のマスターにございます」
「ほう、女か。確かそなたの話では、もう一人、男のマスターとやらがいるそうだな。底知れぬ力を秘めた、恐ろしく危険な存在だと。そやつはどこにおるのだ?」
ネロは黄金の杯を軽く揺らしながら興味を向けるが、レフは事も無げに続ける。
「依然として行方が掴めておらず、現在捜索中でございます。ガリア以外の他の地方に潜伏している可能性のある英霊と接触しに行ったのか、あるいは何らかの密やかな計略があって姿をくらませているのか。いずれにせよ、最優先で捜索を続けさせております」
「ふふ、よいよい。余は十分に気が長いのだ。時間をたっぷりと掛けて探すがよい。ときには熟された果実ほど、その実はより芳醇で甘美な味わいとなるものだ。
いずれローマの大地に満ちたこの力は、いずれアルプスの山脈を越え、ガリアの深き森にも自然と流れ出よう。あるいは地中海の海を越え、ギリシャやカルタゴの地にまで容易く及ぶ。その時が訪れれば、余の新生ローマ帝国は一層華やかとなり、余の力ももはやこの体に収まることすら叶わぬほど膨れ上がるであろう。そうなってしまえば……カルデアの小さき者たちにできることなど、何一つとして残されてはおらん」
ネロは朗々と歌い上げるように語り、惜しげもなく露呈させた豊満な身体を揺らして恍惚の笑みを浮かべた。
その慢心とも言える態度に対し、レフは忠実な臣下を装いながら低く言葉を挟んだ。
「陛下のお力には心より服するばかり。……しかしながら、奴らは陛下の計画の真髄に微かでも気づけば、いかなる泥を啜り、どのような犠牲を払おうとも、陛下の聖杯を奪い取りに牙を剥くでしょう。どうか、お気を緩められませぬよう」
「くくっ、相変わらず余計な心配ばかりする男よ。よいか、レフ。今この身に宿るこの圧巻の力とて、あの天空に輝く美しき妖星より賜ったごく一部に過ぎぬのだぞ? 余の内に眠る破壊と頽廃の真なる美は、まだ底すら見せておらんのだ」
ネロは杯に残った深紅の葡萄酒を一気に飲み干すと、舌で白く滑らかな唇を卑猥に舐め回した。
「それに……カルデアの連中とやらが、自らこの愛おしきローマへ足を踏み入れるというのであれば、それこそ願ったり叶ったりではないか。もしも奴らがここまで辿り着いたなら、この余自らが極上の美しき獣の宴へと直々に招いてやろう。理性を甘やかに溶かし尽くす、至高の甘露なる酒精を与えてな。あの勇敢で愛らしき人間どもを、身も心も余の愛玩たる獣へと変じさせてやるのだ。二度と終わることのない、凄惨で淫らな絶頂の宴―――その主賓として、永遠に余の足元で鳴かせて見せようぞ……♡」
彼女は背後の巨大な尾を狂おしく蠢かせ、胸元を指先で滑らせながら、底知れぬ欲望の籠もった声を響かせた。
淫らに艶やかな笑みを浮かべ、歓喜に胸を揺らす皇帝の姿を、レフは一切の感情を殺した冷酷な眼差しで見つめていた。
(……狂い果てた獣風情め。好きに鳴いているがいい)
頭を深々と垂れ、服従の態勢を取りながらも、レフは脳内で冷徹に計算をする。いつ、どのようにしてこの悪夢の皇帝に反逆し、この特異点から離脱するべきか。
この孤立した領域から脱出するための最低限の条件を揃えなければならない。
第一に、人理焼却の主体にして真の主である、ゲーティアとの魔力パスを再接続することだ。現在、このイタリア半島一帯は妖星がもたらした強烈な異界化と大地の改変によって外部と途絶しており、魔神柱としての根幹たるリンクが遮断されている。異界化の源泉たる超常の力、すなわちネロが所有する聖杯、そして妖星との繋がりを物理的・魔術的に一瞬でも寸断し、空間の穿孔を作らねば外への離脱は不可能だ。
第二に、ネロ自身の注意をレフから完全に逸らし、彼女の支配を崩壊させるほどの破滅的な負荷を与えること。
それらを整えれば、聖杯を放棄することになろうが、この特異点からの単独離脱が可能となる。
(……だが到底、私単独の力では実現不可能な難問だ)
いかに魔神柱の知識と魔術を持っていようとも、いまの自分は外部からのバックアップを失った孤立無援の存在に過ぎない。対してネロは、聖杯の所有者であり、妖星の力を一身に受けた獣の神。圧倒的すぎる力の差、格の差が存在する。レフが単身で刃を向けたところで、一瞬で圧殺されて終わりだ。
ならば、どうするか。この絶望的な戦力差を埋め、絶対者たる皇帝に決定的な隙を生み出すためには、外部の強力な毒をもって毒を制するしかない。すなわち―――カルデアだ。皇帝にカルデアをぶつけて、力の均衡を崩す。そうすれば自分は特異点から脱出できる。
レフの胸中に、屈辱と激しい拒絶反応が渦巻く。人理焼却を目論む自分が、あろうことか人理を守らんとするカルデアのマスターや英霊どもを頼らざるを得ないという滑稽な現実。
(……反吐が出る。だが、背に腹は代えられん)
カルデアの連中をどうにかしてこの厳重に汚染されたローマの地へと無事に招き入れ、彼らが余計な障害に阻まれることなく、最短距離で皇帝ネロの首元へと肉薄できるよう、裏で緻密にお膳立てをしなければならない。瘴気を無効化する道筋を作り、帝都の防衛網に意図的な穴をあけ、獣人たちの暴走、遠隔起爆する魔方陣の設置、さらには帝都の大火などの混乱を立て続けに起こして、ネロとカルデアを直接衝突させる。
ネロがカルデアとの激闘に全神経を注ぎ、聖杯と妖星の加護に一瞬の揺らぎが生じたその刹那こそが、レフにとって唯一無二の好機となる。
人理救済を掲げる宿敵の手を借りる形になるのは、魔神柱としての矜持が激しく不快感を叫ぶ。しかし、人理焼却の楔となる特異点はここローマだけではないのだ。ここで楔を一つ失うのは痛恨の損害であり、ゲーティアへの面目も丸潰れではあるが、まだ特異点は他に五つも残されている。
ここでどんな無惨な醜態を晒そうとも、生きて脱出すらできれば、他の特異点にていくらでも挽回する機会は残されているのだ。人理のすべてを燃やし尽くし、一切を灰燼へと帰す最終目的に至るためならば、いまはこの不徳の泥を啜り切ってみせる。
「……フフ、ハハハハハッ!」
頭上の玉座では、自らの欲望と退廃の未来に酔い痴れたネロが、甲高い高笑いを響かせながら大樽から直接、赤葡萄酒を煽っていた。
レフは冷徹な仮面の下で、絶望の淵から這い上がるための反逆の牙を、静かに、そして虎視眈々と研ぎ澄ませていた。
皇帝の宮殿にて、不徳と退廃に満ちた談話が繰り広げられている頃。
帝都ローマの遥か西側に位置する海岸線―――波音の静かに揺らめく港町に、沖合から一隻の小さな影がゆらりと近づいてきていた。
地理的にローマに近いものの、絶えず吹きつける海風によって恐ろしい瘴気が幾分か流されやすいせいか、他の都市に比べると、この町は精神汚染の進行度合いは遅かった。とはいえ、それなりに生活の営みは歪んでいる。人々は獣のごとき本能に突き動かされて貪欲に寝食と交尾に耽りながらも、古代ローマの誇り高き文明の下で育った人間として、かつての優雅な文化の名残を奇妙な形で愉しむ風習を残していた。例えば、トスカーナ群島の売春宿などで密かに行われていたような、宴の最中に他者の密やかな性交を酒の肴として見物する嗜好である。
さりとて、獣の惰性に支配された彼らにとって、最近ではただ他人の泥臭い交尾を眺めるだけではすぐに退屈を覚えるようになっていた。
もっと激しく、美しく、乱暴で情熱的な快楽の刺激が欲しい―――誰もがそう渇望していたのだ。
道端でまるで野犬の共食いのように倒れ込んで盛り合う男女の姿を、見張りの兵は退屈そうに横目で流しながら港の桟橋を歩いていた。海から一隻の船がやってきたのは、まさにそんな時であった。
手で日差しを遮り、目を細めて沖合を注視すると、それは数人ほどが身を寄せ合って乗れる程度の質素な小舟であった。
船上には五人の人物が乗っている。誰もが深く茶褐色のローブを羽織っており、その目元や面立ちは布地の影に隠れて窺い知ることができない。ただ一人、舟の頭に立って舵を握る船頭らしき老人だけが、鬱陶しそうにフードを頭の後ろへ脱ぎ捨てていた。
「……む? あれは……」
見張りの兵はその老人の顔に強く見覚えがあった。
あれは以前、たった一人で小舟に乗り込み、命知らずにも海へと漕ぎ出していった狂った老人。常識知らずの愚物の中の愚物、哲学者ディオゲネスであった。
あの偏屈で浮世離れした老いぼれが、あのようなボロ船に旅客らしき怪しい者たちを率いて戻ってくるとは、一体何事であろうか。
見張りの兵が怪訝な表情で槍を握り直す中、ローマの支配が行き届いた港町へ、一艘の小舟が静かに横づけされる。船上から身を乗り出したディオゲネスは、桟橋に小舟の太いロープの手際よく結びつけると、うんざりした様子で小舟を降り、痛む腰に手を当てて深く溜息を吐き出した。
「あぁ、疲れた! 二度と船には乗らんぞ! おぉ、そうとも。船に乗るくらいなら皇帝の宮殿の前で自慰の一つでもしてやるわ」
老人の口から、周囲に聞こえるような声でボヤきが出る。
そんな言葉を無遠慮にぶちまける破天荒な老人に向かって、港の警備にあたっていた数人の見張り兵たちが、不審気に木柄の槍を握り直しながら近づいてきた。重い足音を響かせて寄ってくる兵たちの顔を検分するように見やったディオゲネスは、その先頭に立つ一人の顔に目をとめると、親しげに片手をひらひらと振ってみせた。
「おお、久しぶりだな。まだ人間やっとるか」
「やっとるかじゃない。そっちこそ生きていたのか。ここへは何をしに来た。……後ろの奴らはなんだ」
兵士は怪訝そうに目を細め、茶褐色のローブに身を包んだまま身を潜めている旅人たちへと槍先を警戒気味に向けた。
だがディオゲネスは怯むどころか、大袈裟に肩をすくめてみせる。
「なんだ、お前さんは。相変わらずつまらん会話しかできんやつめ。もうよい、お前のような退屈な者には何の興味もないわ。誰ぞ代わりの者はおらんか。この町の劇場へ連れて行ってくれ。退屈しのぎの最高に愉快な劇を披露してやろう」
「劇、だと……? 退屈が紛れるというのなら……いや、騙されんぞ。通すことはできん。ここはローマの港町だ。素性の知れぬ怪しい旅人を通すわけにはいかんのだ。せめて名乗れ。その怪しいフードを取って顔を見せろ」
「ふむ。確かにおぬしの言うとおりだ。……よし、では目をかっぴらいてよく見るがよい! お前さんたちがこのローマで、最初にこやつらの顔を拝む幸福な観客だ。その腑抜けたとろとろの脳みそに、この者らの熱き魂の演技を刻み付けるがよいわ!」
ディオゲネスがパンパンと高く手を打ち鳴らした。
その合図とともに、小舟の中で息を潜めていた四人の旅装の者たちが静かに船べりを跨ぎ、木製の桟橋の上へと降り立って横一列に並んだ。背の小さな二人が前に出て、中くらいの背格好の者がそのすぐ脇に寄り添い、一番体躯の大きな男がその後ろに控えるという、立ち位置である。
じっと様子を伺っていた見張りの兵たちは、ここでふと違和感と直感的な既視感に気づいた。分厚い布地の隙間から覗くシルエットーーー前に出た三人の体つきには、くっきりと柔らかな女性特有の胸と腰の膨らみがあり、風にたなびくローブの隙間から垣間見える肌の白さと相貌は、息を呑むほどに麗しい。もしやこのフードの下に隠されているのは、類まれな極上の美女たちなのではないか。
兵士たちの瞳に、爛れた欲情と期待の籠った熱い視線が宿るのをディオゲネスは見逃さなかった。
「では、御覧じろ! これなるは、我がローマの失われし至高の技を継承せし者達! 情熱ある愛と性を高らかに歌い上げしトスカーナの秘宝―――性交劇団『カルデア』なるぞ!」
ディオゲネスが誇らしげな名乗りとともに、高らかに四人に向けてバッと手を振った。
次の瞬間、四人は一切の躊躇なく、羽織っていた茶褐色の重いローブをその場にバサリと払い落とした。
「なっ……!?」
見張りの兵たちは思わず目を見開き、喉を鳴らして興奮の息を漏らした。
白日の下、潮風が吹き抜ける桟橋の上に現れたのは、息を呑むほどに美しい三人の美女と、その後ろに控える一人の精強な男。その全員が身に纏う布切れ一枚すら存在しない、完全なる全裸であった。
一歩前へ躍り出たのは、高潔なる聖女の面影を淫らに塗り返した美女、ジャンヌ・ダルクであった。豊満で圧倒的な肉感を持つ彼女の体躯は、まさに熟し切った女の悦楽そのものを体現していた。吸い尽くされた乳頭がコチコチに勃起した豊かな双丘、キュッと引き締まった腰つき、そして白磁の太腿の間にひっそりと佇む秘丘。
ジャンヌは恍惚とした瞳を兵士たちに向け、恥じらうどころか誇らしげに口を開いた。
「皆さま、初めまして。至高の主の寵愛を受けし性奴隷、ジャンヌでございます。本日は私たちの不徳で甘美な交尾の劇を、どうぞ心ゆくまでご堪能くださいませ……♡」
挨拶の言葉とともに、ジャンヌは両足を開き、白く滑らかな両手の指先を己の裂け目へと添えると、躊躇うことなくぐにりと左右に押し開き、兵士たちの目の前で秘部の奥深くまでを丸見えに晒して見せた。
開かれた膣口からは、粘り気のある甘い愛液と、たっぷり溜め込まれた白濁とした雄の精子が溢れ、真っ赤に充血した膣壁がヒクヒクと開閉を繰り返している。奥の膣腔までもがはっきりと窺えるその淫らな開口部は、溢れ出る体液を垂らしながら、観客の視線を卑猥に誘惑していた。
続いて前に進み出出たのは、その隣に立つ美女、ステンノであった。
華奢でありながらも、男の欲望を狂わせる完璧な不徳の曲線を描く女体。過酷な蹂躙によって赤々とした手形が刻まれた乳房、細い腰、そして引き締まった小腹は、注ぎ込まれた精液の重みでぽっこりと歪に膨らんでいた。
「あら、そんなに目を丸くして……ふふ、可愛らしい観客ね♡ 美の女神たるこのステンノが、あなた方のお眼汚しに……いえ、極上の性の悦楽をお見せして差し上げるわ♡」
そう言うとステンノは蕩けたような淫らな微笑を浮かべ、挨拶代わりに細く滑らかな指先を秘部にあてがい、両手で大きく左右に引き裂くように広げて見せた。
ガニ股気味に開かれた太腿の間から露出した膣口は、幾度もの苛烈な突打によってアズキ色に膨れ上がり、開かれた膣壁の奥からはドロリとした白濁が泡を噛んで溢れ出している。ヒクヒクと収縮を繰り返す膣腔の最奥までを堂々と見せつけ、女神の尊厳を捨て去った肉便器としての不徳な蜜壺を、惜しげもなく兵士たちの視界に焼き付けた。
最後は、ステンノの妹たる美女、エウリュアレであった。
小柄で可憐な身体つきでありながら、その全身は荒々しい交尾の痕跡と愛液でテカテカと光り輝いていた。華奢な太腿や小ぶりな胸にはくっきりと手形が残り、快楽の残り香に身を震わせている。
「な、なにジロジロ見ているのよ……♡ 私はもうただの女神じゃないの……この人の肉竿に屈服させられた、ただの淫らな穴奴隷なんだから……♡ 本当なら一瞬たりとも見せたくないんだけど、この人の命令には逆らえないし、せいぜいじっくり見なさいよ……♡」
エウリュアレは調教された雌の悦びを隠そうともせず、強がるような甘い声で言いながら、両手を自身の秘部へと伸ばし、幼さの残る裂け目を両手の指で容赦なく押し広げて見せた。
完全に開発され尽くした小さな膣孔は、押し広げられると同時に引き裂かれたような悲鳴を上げ、中の充血した鮮やかな赤肉と、奥深くに溜まった種子が丸見えとなった。引き締まった膣壁がうごめくたびに、溜まっていた液体がぽたぽたと木製の桟橋へと垂れ落ちる。
そして三人の美女の後方で、あなたは陰茎を堂々と屹立させながら佇んでいた。彼女たちを完全に屈服させ、己の肉奴隷として従える主人としての威厳を身に纏いながら、これから繰り広げられる狂乱の劇の始まりを告げるように、彼女たちの背後で静かに自身の存在をその場に示していた。
賢者メモ
ネロがさも壮大な計画を考えているように書いていますが、結局はこの後の背徳的な行為を盛り立てるためのちょびっとしたスパイス的要素なので、あまり深くは考えていません。結局は堕とします。できるだけインモラルにしていくように、がんばります。
あんまり期待せずにお楽しみください。
カルデア側と契約していない、人理によって召喚された女性の英霊が、特異点内で不特定多数の人間(現地人など)との間で性的関係を結ぶのは、アリか。
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有り(輪姦、和姦問わず)
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有り(和姦のみ)
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無し(主人公側の性行為だけ書いてほしい)
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なんでもいいかヌかせて!