アルプス山脈のふもと。
そこには、整然と築かれたガリア側の強固な陣地と、幾度となく繰り広げられた激戦によって荒れ果てた平原が広がっていた。無数に打ち込まれた杭、踏み荒らされた黒土、破損した武具の破片、そして干からびた流血の痕。
凄惨な戦いの記憶を刻み込むその平原を見渡す高台に、立香はぽつりと佇んでいた。その視線は、遥か彼方―――妖しい力が濃密に立ち込めるローマの方角へと向けられており、彼女の隣には、いつのものように大盾を抱えたマシュが静かに寄り添っていた。
あなたと別れて以来、ガリアとローマの境界線という最前線で生じてきた軍事衝突を、立香は幾度も目の当たりにして命のやり取りの光景を胸に刻んできた。その記憶が脳裏に焼き付いているせいか、彼女の表情はすっかり引き締まり戦場の緊張が抜け切っておらず、指先がかすかに震えていた。立香はもう片方の手で包み込むようにしてその震えを押さえ込ようとしている。
隣にいたマシュは、立香の緊張を見逃さず心配そうに覗き込んでくる。
「先輩。……調子がよくないのですか?」
「うんうん、大丈夫。心配しなくてもいいよ」
「ですが、顔色がどこか悪い様子です。私が気づくくらいなのですから、野営地にいる他の皆さんもすぐに気づくと思います。……心配をかけないためにも、いつもの分を飲んだ方がいいと思います」
マシュの真摯な眼差しに見つめられ、立香は参ったなというように苦笑いを浮かべた。
「本当に大丈夫、って言っても聞かないか。分かった、じゃあ飲むね。……ふふ、スカサハさんのルーンのおかげで、ずっと新鮮なままだからいつ飲んでも最高なんだ」
立香はそう言いながら、腰のベルトに括りつけていたレザーポーチから、小ぶりな金属製の水筒を取り出した。
キュッと音を立てて蓋を開けた瞬間、そこから饐えた濃密な性の臭いが周囲の空気にふわりと漂い出した。その匂いを鼻腔に受けた瞬間、立香の凛としていた表情は一変し、恍惚と法悦に満ちた陶然たる面持ちへと蕩けていく。
水筒の中に入っていたのは、白濁とした、どこまでもこってりと濃密な液体。あなたの精液。アルプス山脈の麓の港町で行われた凄絶な魔力供給の場で、他の雌奴隷たちの肉体に溢れ返り、体外へと零れ落ちた分を採取したものだ。あなたへの強烈な性依存によって生じる禁断症状と魔力不足を緩和させるため、立香はこれをルーンの加護で保存し、定期的に口に含んでいたのである。
水筒から立ち上る強烈な雄の香りが風に乗って伝わりマシュもまた頬をぽっと林檎のように赤らめる。
立香は悦に入るような面持ちで水筒を口元へ運ぶと、ぐっと煽り、濃厚な精液を一口分たっぷりと含んだ。
「ん……ぅ……♡♡♡」
舌の上でじっくりと熟成された雄の熱と味を確かめるように味わい、ゆっくりと喉の奥へと飲み込んでいく。ぷはっと吐き出された息は、熱く湿り気を帯び、淫らに発情し切っていた。
「あぁ……最高……♡♡♡ 体の奥から、じんわり熱くなってくる……♡♡♡ どうしよう、すごくおまんこが熱くなって、とろとろになってきちゃったっ♡♡♡♡ ねぇ、マシュ♡♡♡ ここでおまんこを出して下品にマンズリをしていいかな♡♡♡」
「だ、だめです! 野営地のテントの中でしかやらない、って決めたじゃないですか! 私だって……その匂いに当てられて胸がどきどきしてきましたが、必死で我慢しているんです。先輩も、ちゃんと我慢してください!」
「分かったよ、もう……。マシュも、ちょっと前に比べると押しが強くなったよね。ご主人様と素股えっちをしてから、気持ちが大きくなってきたのかな……って、あれ?」
愚痴をこぼしかけた立香が、ふと遠くの景色に目を留め、言葉を止めた。
「先輩? 何を見ているのですか?」
「ほら……あそこ。何か見えてこない……?」
立香が指さす先、平原のなだらかな丘の稜線を越えるようにして、幾つかの影が近づいてくるのが見えた。
人数は五人。ぼんやりとした人影が少しずつ近づき、その全貌が露わになるにつれ、立香とマシュは目を見張った。その五人組の影は、一切の衣類を身につけておらず、完全なる裸の状態で歩いてきていたのだ。肉付きや体形を見るに、四人がしなやかな女で、一人が逞しく頑強な男のようだ。
「全裸……!? ろ、ローマ側から送られてきた捕虜……でしょうか? それとも使者……?」
「どうかしたか。……む」
マシュが困惑の声を上げたその時、二人の様子を察したスカサハが、風のように滑らかな足取りで横に並び立った。
緋色の瞳を細めたスカサハが、遠くの影を捉える。
「スカサハさん。ローマの方向から、全裸の人の集団が歩いてきています……!」
「ああ、見れば分かる。しかしただの人ではあるまい」
スカサハは状況を瞬時に見抜き、その可憐で凛々しい唇の端を、愉悦と感服に満ちた笑みへと歪めた。
「……必ず何かを成し遂げてくるとは思っていたが、まさかこれほどの大金星とはな。さすが……私がこれと見込んだ男だ」
「え? それって……もしかして!」
「すまぬが、先駆けさせてもらう。お前たちは後から来い!」
言うやいなや、スカサハは地面を強く蹴り上げると、立香とマシュの声を置き去りにするよう疾風のごとき速さで平原を駆け抜けていく。自身に繋がる魔力のラインから、誰が帰還したのかは一目瞭然だった。影の国の女主人の美貌には、誤魔化しようのない深い安堵と強い興奮の笑みが浮かべられていた。
スカサハは瞬く間に平原を疾駆して、五人の人影へと肉薄していった。間近に迫るにつれ、その光景のあまりの異様さが露わとなる。
そこにいたのは、竜のごとき尾と角を生やして爆乳を揺らす豊満すぎる女を片腕で抱きしめながら、絶対の威厳を纏って歩む全幅の信頼を置く最愛の雄。そしてその雄に恭しく連れ添うジャンヌと、二人の傍らを堂々と歩む、女神のごとき神々しさと美貌を誇る二人の女性の姿であった。
スカサハは明瞭になっていく最愛の雄―――—あなたの逞しく筋骨隆々たる肉体と、股間に怒張する誇り高き陰茎の雄姿を目に刻むや、その美貌に喜色満面の笑みを浮かべた。カルデアの一同を纏め上げる英霊としての威厳など瞬時に吹き飛び、ただ一人の雌としての本能のままに、彼女はあなたの胸へと弾丸のように飛びついた。
あなたは片腕に抱いていた女を離すと、猛然と迫りくる漆黒の影を逃すことなく全力の抱擁でしっかりと受け止める。広大な平原の真ん中で、固く抱き合う二人は、言葉による再会の挨拶など交わさなかった。互いの存在を確かめ合うように、その場で激しく口唇を重ね合わせていく。
「んんんむ”っ♡♡♡♡ むじゅる”るる”っっ♡♡♡♡ じゅるるる”ぅっっ”♡♡♡♡♡」
スカサハは情熱的に舌を絡ませ、あなたの口腔の甘みと熱を貪るようにむしゃぶりついた。激しい密着の中で、彼女は待ちかねたかのようにしなやかな片手をあなたの股間へと伸ばし、太く怒張した陰茎を指先で包み込んで愛おしそうに強くしごき上げていく。
突如として始まったあまりにも濃厚な再会の接吻と愛撫の光景に、あなたに連れ添う雌の一人、ジャンヌは顔を思わず赤らめる。
「す、スカサハ殿……! いきなり飛びついてきて、そんなに激しくキスをするなんて……物事には順番というものがあるでしょう!」
「スカサハ? ふうん……そう。この女が勇者のハーレムの最古参とかいう雌かしら? 随分と高尚な噂を聞いていたけれど……まるで発情した雌犬と大して変わりないじゃない。そうよね、
「そうね、、
二人の女神は熱い指先を自らの太腿になぞらせながら、感嘆の吐息を漏らした。
ひとしきりあなたとの深く濃厚な接吻を交わし終えたスカサハは、うっとりと秘部を湿らせ、荒い息を整えながら胸を伏せた。
「ふぅ……♡♡♡ お前なら無事に試練を乗り越えると信じていたぞ、我が主♡♡
……それにしても、たった二人でローマへ旅立ったというのに、戻ってみれば雌奴隷を三人も増やしているとはな。一体どのような旅を経たのか、後でじっくりと聞かせてもらわねばなるまい。
…それにジャンヌ、お前もよく我が主を支えてくれた。怪我や病など、何事もなかっただろうな?」
「はい! その、凄いことはたくさん体験いたしましたし、私個人の信仰的にも色々と脱線してしまいましたが……怪我や病気という意味では何もありませんでした。……ええm自分がまったく新しい存在に生まれ変わったような感じです」
「……生まれ変わるあまり、服も脱ぎ去ってローマから帰ってくるとは、相当に過激な旅路であったと見えるな。して、一体何があったのだ? そこな三人の新参の雌はいったい何者なのだ?」
スカサハの鋭い視線を受け、ステンノがくすりと優雅に微笑んだ。
「あら。私たちのことを聞いているのかしら? 人の名前を尋ねるのなら、まずは自分から名乗るのが礼儀というものでなくて?」
「ほう。貴様らとて、我が主に徹底的に叩きのめされ、屈服させられて雌奴隷となった身であろう? 今さら礼儀も何もないではないか。
……とはいえ、問われたからには名乗っておこう。私はスカサハ。我が主を中心とするハーレムの女主人だ」
「あら……それなりの役職のようなものはあるのね。ふふ、では私たちも礼儀を返しましょう。私はステンノ。こちらは妹のエウリュアレ。ゴルゴン三姉妹の上の二人……と聞けば、さすがにあなたでも分かるかしら?」
「十分すぎるほどにな。察するに、人理によってこの特異点に召喚された英霊だな? ……お前たちからは我が主の精の気配が濃密に感じられるが、サーヴァントとしての契約のラインらしきものは感じ取れん。雌奴隷に堕とされたというのに、なぜ我が主と正式に契約を結ばぬのだ?」
スカサハが不審そうに目を細めると、エウリュアレが少し寂しげに、しかし甘やかに微笑んだ。
「だって、私たちの可愛い妹のメドゥーサがここにいないんだもの。私たちが契約を結ぶのは……三姉妹が揃って勇者に堕とされたときだけ。その条件が達成されたとき、私たちは勇者の完全なる所有物となるの。そういう決まり事なのよ」
「……これは、お二人が決して譲れないこだわりのようです。英霊として召喚されたら三人揃って平穏に暮らすこと。それが実現できる目途が立ったらカルデアに正式に所属するとのことでして……」
「なるほどな……そのような誓約があるならば致し方あるまい。お前たちの誇りを尊重しよう」
ジャンヌの補足に納得しつつ、スカサハは視線を地べたに座り込む豊満な女体の女へと向けた。
「……それで、残る一人のこの雌は誰だ? アルトリアに負けぬほど妖艶な肉体ではないか。おまけに龍の尾と角が生えているなど……竜が擬人化した英霊か? この者が誰なのか見当がつかん。我が主よ、教えてくれぬか?」
スカサハの問いかけに対し、ジャンヌら三人の雌奴隷は、どこか妖しく、淫らで、しかし妬みが滲むように視線を交わし合った。
あなたはスカサハに応える代わりに、地べたに座り込む女の頭を優しく撫でながら告げる。自分の口から挨拶をしろ、と。
淫乱すぎるほどの豊満な裸体を晒している女は、屈辱と法悦の混ざり合った恍惚の笑みをその可憐な顔に浮かべると、スカサハに向けてその豊かな太腿を大きく左右に開き、あなたの精液で塗れた淫らな膣口を隠すことなく見せつけた。開き切った秘部から、あなたが子宮内に注ぎ込み続けていた白濁した精の塊が、ぽたり、ぽたりと音を立てて乾いた土の上へと滴り落ちていく。
「お初にお目にかかる♡♡♡ 余こそが、このローマを統べし皇帝、ネロ・クラウディウスである♡♡♡♡ しかし今の余は、この偉大にして絶対なる雄様に完全に屈服し、子宮まで叩き潰されたただの魔羅袋♡♡♡♡♡ 一生涯をかけておちんぽを愛し、おちんぽのために子袋を差し出して妊娠を求める、卑しき雌♡♡♡♡ ローマより愛され、ローマの人々の声援を受けて子造り旅行へと送り出された、この雄様の妻である♡♡♡」
「……なっ!?」
ネロの衝撃的な自己紹介と、その秘部から溢れ出る生々しい種付けの痕跡を目にした瞬間、スカサハの全身から怒涛の魔力が噴き出した。
影の国の女主人としての冷静さは一瞬にして吹き飛び、その紫紺の瞳は激しい怒りと、愛しの雄を寝取られたかのような狂おしい嫉妬の炎で燃え上がっていた。彼女の視線が、まるで獲物の喉元を食ちぎらんとする肉食獣の如き凄烈さをもって、鋭くあなたへと突き刺さる。
「……妻、だと……? この地を統べる皇帝を屈服させたのみならず……正式な妻として娶ったというのかッ!?」
普段の静謐で厳格な師としての面影はどこにもない。そこにあったのは、己の所有権を主張し、他の雌に最も深い場所を奪われたことに激怒する、一匹の執念深い雌の顔であった。
あなたはスカサハから向けられた未だかつて見たこともない凄烈な睨みと、肌を灼くような嫉妬の圧力を正面から受け止め、思わず頬をひくひくと引き攣らせた。この影の国の女主人が抱く烈しい愛慕と占有欲をいかにして宥め、彼女の誇りと嫉妬を納得させるべきか―――あなたは脳裏で高速に思案を巡らせる。
そしてあなたは一切の動揺を隠し、スカサハの引き締まった細い腰を引き寄せ、彼女の身体を強く自分へと密着させると、堂々と囁く。
嫉妬に狂うな。ネロを妻としたのは、この特異点を攻略し、天上の敵を討つための作戦の一環に過ぎない。この女はローマ皇帝という立場を利用して、子造り旅行という名目でローマ市民を納得させ、己の身と聖杯を差し出すための演目を演じ切った。あなたの最愛の雌奴隷の一人であるということは何も変わらない、これからも常しえに愛していく、と。
あなたは冷徹かつ圧倒的な自信をもって耳元に囁きかけ、彼女の可憐な耳朶を軽く噛んでから、その濡れた唇へ深いお仕置きの接吻を落とした。
「んんっむぅ”ぅっ♡♡♡♡♡♡ んむぅじゅるるる”ぅっっ”♡♡♡♡♡」
あなたの支配的な抱擁と舌の粘着質な絡み合いに、激しかった魔力の奔流が甘い吐息へと変わっていく。スカサハはあなたに頭を撫でられながら、未だ悔しげに皇帝を睨みつけつつも、少しずつ肩に溜まっていた怒りを鎮めていく。スカサハはあなたの太い腕に己の胸を強く押し付けつつも、その瞳にはなおも消えぬ熱い嫉妬と、それを凌駕する接吻への歓びが宿っている。
「ふん……相変わらず口の上手い男だ♡♡♡ しかし……ただの演技や策謀であったとしても、この雌に私よりも先に妻の座を与えたのは事実。許しはせんぞ、我が主♡♡♡ この女だけを孕み袋として扱うなど断じて認めん♡♡♡ 私の子宮にも……その溢れんばかりの熱い種を、壊れるほどに注ぎ込んでもらうからな♡♡」
そう言うとスカサハは素早くルーンを編み込んで、漆黒の影で出来た簡易的な衣装があなたたちの全裸を覆い隠す。
こうして無事に隠蔽を施された一同は、ガリア陣営の奥深くに設営された静かな野営地へと足を踏み入れた。万が一にもネロの正体が周囲に露見すれば、陣営内に大混乱が巻き起こることは避けられない。そのため、彼女の素性と存在は徹底して秘匿され、スカサハの手によって強力な人除けと防音の重層ルーンが施された大型の天幕へと通される。その中には、もう一人のカルデアのマスターである立香に、マシュ、そして港町で一時の別れを告げた、他の英霊たちが既に集まっていた。
秘密の領域へ一歩足を踏み入れた瞬間、仲間たちの前で偽りや擬態を取る必要など何一つない。身体を覆っていた影の服は一瞬で霧散して、あなたの精悍な雄の肉体が露わとなる。それは横に連れ添う他の雌奴隷たちも同じであった。
あなたという絶対的な雄を前にして、天幕にいた雌たちも誰一人として取り繕うことはしなかった。自ら身につけていた衣装を次々と脱ぎ捨て、熱を帯びて興奮に震える淫らな女体を披露していく。久方ぶりの再会を全身全霊で祝福し、あなたという至高の雄から無尽蔵の精と魔力を直接求めるため、天幕内は瞬く間に欲望の渦巻く大乱交の場と化したのだった。
情事がようやく一段落し、静けさが戻ってきたのは、夜が深く深々と更けた頃であった。
天幕の中には、鼻腔を刺すような噎せ返るほどの濃密な性の残り香が立ち込めている。そこかしこで、あなたによって徹底的に貫かれ、愛でられた雌奴隷たちが、口や秘部から溢れ出た白濁の液体を滴らせ、豊かな豊満な胸にもべっとりと精液を付着させたまま、天幕の床に無様に倒れ伏していた。
倒れ伏して恍惚とした喜悦の表情を浮かべているのは、ジャンヌ、ステンノ、エウリュアレ、ブーディカ、ラクシュミー、アタランテといった英霊たち。そして立香とマシュの二人は、まだ直接の膣内射精こそ許されていないものの、その豊かな胸や口元を白濁でドロドロに汚された状態で、快楽の余韻に身を震わせながら横たわっていた。
そんな疲弊しきった雌たちの中で、スカサハとネロの二人だけは、最奥に濃厚な精液を注ぎ込まれながらも、中央の椅子に堂々と腰掛けるあなたのすぐ隣に侍るようにして、地べたに腰を下ろしていた。スカサハは情事の後の甘く陶然とした吐息を溢れさせ、妖艶でありながらも爛々と輝く尊崇と性愛の視線で、あなたをじっと仰ぎ見た。
「ふぅ……♡♡♡♡ 数日会わなかっただけで、実に見違えたな……我が主よ♡♡♡♡ これほど多くの強力な英霊たちを同時に圧倒し、屈服させるとは♡♡♡♡ その身に荒々しく滾る魔力の奔流は、お前と別れる前に感じたそれと比べると向上しているように感じる♡♡♡ まったく、お前は何度私を惚れさせれば気が済むのだ♡♡♡♡♡」
「ふふ……そうであろう♡♡♡♡ 余の夫はこの世界で最も尊く、至高なる宝♡♡♡♡ 余が治めているローマと同じくらい、この雄様が惜しみなく授けてくださる精液は価値があり、何よりも愛おしい♡♡♡♡♡ その絶大な寵愛を全身で受け止められる我ら雌便器たちは、間違いなく全ローマで一番の幸せ者なのだな♡♡♡♡♡ あぁ……心より愛しているぞ、我が夫よ……♡♡♡♡♡」
皇帝の言葉もないほどの倒錯的な屈服ぶりに、スカサハは苦笑混じりの感心したような息を漏らした。
「……恐ろしいほどの堕ちっぷりだな。
……さて、我が主よ。ローマに至るまでの道中で何があったのか、そしてあの都で何を知り、何を得てきたのか……詳しく聞かせてもらうとしようか」
あなたはスカサハの問いに対して、ローマへ至るまでの過酷な道のりや、性交劇団として街中を練り歩いたこと、そして宮殿の深部でネロを完全に屈服させ、知り得た特異点の真相について静かに語っていった。
あなたが言葉を紡ぐ間も、ネロは一切の恥じらいもなく、あなたの足元に猫のように身体を擦り付け、至福と恍惚の表情を浮かべて侍っている。その異様な光景に目を丸くしつつも、他の雌たちも徐々に身体を起こし、あなたの説明に真剣な面持ちで耳を傾けていった。
ひとしきり経緯と裏事情を聞き終えたスカサハは、深い感心と敬愛、そして隠しきれない羨望の混じった視線をジャンヌたちへ向けた。
「……とんでもない旅をしてきたのだな。うむ……性交劇団とは。あまりに現実離れした奇抜な発想だ。それに、面妖な力が満ちたローマにあって、性欲に呑まれて自分を見失うことなく、劇団の活動に終始協力し続けた者がいたとはな。何らかの魔術か、或いは己の精神に作用する特殊な呪いで、結果として己の正気を守っていたか……。そのディオゲネスとやら、只者ではない。英霊である可能性が高いな」
「やはり……スカサハ殿もそう思われますか。英霊特有の気配がまったく感じられなかったので、もしや本当に現地のただの人間かとも思ったのですが……」
「そんなことがあるか!」
あなたの足元でネロが声を張り上げた。
「余がこのローマに広めた獣の力は、あらゆる人間に等しく作用するのだぞ。まともな正気の者が残っているはずもない。それにローマでは、あの箒星が訪れるより前から数年ほど異端狩りを行っておった。仮に呪いや魔術に詳しい輩がいたとて、わざわざ危険を冒してまで今のローマに立ち入る動機などなかろう。そのディオゲネスとやら、そなたらの言っている英霊とかいう摩訶不思議な存在であっても、何らおかしくはないであろうな!」
「……さも当然みたいな顔をして、なんでこの皇帝は普通に会話に参加してきてるのかなぁ?」
ブーディカが呆れ果てたような、眉をひそめた顔で突っ込みを入れた。
しかしネロはどこ吹く風で、誇らしげに胸を張る。
「何を言うか、ガリアの雌よ! 余はこのローマを統治する皇帝であるぞ! 今は我が夫の至高なる陰茎に屈服した妻となった身ではあるが……余以上にローマの裏も表も熟知している者はいない。そして余は、我が夫に対して何一つ隠し立てをしないという絶対の誓いを立てた! 故に、ローマの秘密はすべて打ち明けようではないか。なんでも聞くがよいぞ♡」
「なっ……なんと堂々としているのだ。さすがは皇帝といったところか……というか、ご主人様に近寄りすぎではないか!?」
アタランテが顔を赤らめながら叫ぶと、横から立香も身を乗り出して抗議の声を上げた。
「そうだ、そうだ! さっきからずっとご主人様とイチャイチャしてて気になるんだけど!
私は今日まだご主人様のおしっこを一回しか飲んでないんだよ!? ちゃんと専用雌便器としての役目を果たさせてよ!」
「ええい、姦しいぞ小娘ども! そなたらはカルデアに帰れば、いくらでも我が夫と交われるのであろう! ならば今は余の好きにさせよ! これは余の当然の権利である!」
ネロは一切の反論を聞く耳を持たぬとばかりに、あなたの片足へとしがみつくように抱きついた。
その呆れた我が物顔ぶりに天幕内がざわつきかけたが、ジャンヌが優しく皆を宥めるように手を差し伸べた。
「……皆さん、こういうお方なのですから、今は少しだけ我慢をしましょう。カルデアに帰りましたら、ご主人様は皆さま一人一人を徹底的に……一日ずっと膣内にお精子が入っている状態になるくらい、犯し抜いてくださると約束してくださいました。その時を愉しみに待とうではありませんか」
「……そういうことなら、まぁ……理解した」
「先輩、今は忍耐のときです」
「……分かったよぅ。カルデアに帰ったら、いっぱいお精子とおしっこを飲ませてもらうんだから! 一日でも早く魔力を向上させて、直接膣内射精をしてもらえるようになるためにね!」
立香が悔しそうに拳を握り締めると、ジャンヌはふとアタランテへと視線を向けた。
「それはそうと、アタランテ殿。あなたも立香と正式に契約を結ばれたのですね」
「ああ。ガリアから寡兵を引き連れてこちらへ戻ってきた後に、彼女とじっくり話し合ってな。これからはカルデアの正式な仲間として、共に肩を並べて戦う所存だ。改めてよろしく頼むぞ」
「……さて。そろそろ本題に戻っても構わんか?」
一同の空気が和らいだのを見計らい、スカサハが毅然とした声で場を仕切り直した。
「固執や蟠りも一つ解けたところで、話を進めようではないか。
どうやってこの特異点を解決し、あの空に浮かぶ災厄を打ち払うか……という点だが、答えはとうに出ていようだな。……そうであろう、我が主よ」
スカサハの言葉を受け、ステンノが不審そうに首を傾げた。
「ねぇ、スカサハ。露払いくらいは私達も協力できるけど、肝心の獣を狩る仕事は、本当にあなた一人でできるのかしら?」
「問題ない」
スカサハはフッと口元に不敵な笑みを浮かべた。
「お前たちが懸念していた距離についても言っておこう。数日かけてあの星を丹念に観察して分かったことだが、あれはさほど遠方に位置しているわけではない。だいたい地球と月のちょうど真ん中程度の距離だ」
「……ねぇ、マシュ。どのくらいの距離なのか分かる?」
「は、はい。先輩にも分かりやすく言いますと、地球一周分の距離がおよそ4万キロで、地球と月の平均的な中心間距離はおよそ19万2千キロと言われています。要するにスカサハさんが言っていた距離は、地球五周分の距離ということかと」
「遠っ!!」
「……ねぇ、アタランテ。あなたなら狙える?」
「よせ、ブーディカ。狙いをつけずに月へ確実に届けることだけを考えて弓を射っても、その反動で霊基が弾け飛ぶ。まして星に張り付いた獣を射るというのだろう? 神霊級の英霊でもなかなかに難しいぞ」
「……と、言われているけど、実際はどうなのかしら? 地面から投げるよりも、少しでも高い場所から投げた方が有利なんじゃない?」
「まさにそれこそが、最後に残された課題なのだ。我が主より賜った絶大な魔力、令呪、それにお前たちが持ち帰った聖杯の力を兼ね合わせれば、星に張り付く獣一匹、屠れぬはずもない。しかしそれはあくまでも魔力が十全である場合だ。実際はそこから的の精密観測、宝具を投擲する最大高度に達するまでの過程で、余分な魔力を消費する。相手が得体のしれない敵である以上、少しでも宝具に魔力を回しておきたい。要するに余計な魔力を使わずに最大高度に達するために、何か別の手段が欲しいところだ。天にまで届くような長い梯子か、或いは雲のように空に浮かんだ足場がな。私のルーン魔術を応用すれば似たようなことはできなくもないが、そこまで手の込んだことをすれば当然ながら魔力を消費して、宝具の威力も下がるだろう。……さて、どうするべきか」
スカサハは真剣な面持ちで腕を組んでいると、あなたの足にしがみついていたネロがふと顔を上げた。
「ふむ……会話の細かな理屈はよく分からんが、つまりはとても長い梯子が必要ということで相違ないか? ならば余に、とっておきの良い考えがあるぞ!」
そうしてネロは、思いついた自らの案を高らかに語り始めた。
その案があまりにも突飛で、カルデアの常識から考えて常軌を逸したものであったため、天幕内の誰もが言葉を失う。
しかし、あなたとスカサハだけは静かに目配せを交わした。もしも互いの利害の一致が存在するのだとすれば、案外、この常識外れの破天荒な案こそが、最も確実に実現可能な打開策となり得るかもしれない。
あなたが静かに口を開き、ネロの提示した案を正式に取り入れたい、と告げると一同は思わず目を見開く。当のネロはご満悦の様子であなたの足に擦り寄り、愛おしそうに足の指をちゅっと舐め上げている。
ジャンヌが皆の不安を代表するようにそ問いかける。
「いいのですか、ご主人様……? そのような方法で上手くいくでしょうか……」
「今さら躊躇っても他に良策はない。勝利のために取れる手段は、何であれすべて取るべきだ。お前たちが男女の交わりを潜入の手段としたように、我らは人理を取り戻すためならばあらゆるものを使わねばならん。たとえそれが……カルデアにとっての宿敵を計画に巻き込むことになろうとも、な」
「ですがあの人が、レフがそんな提案に乗ってくるでしょうか?」
マシュが心配そうに身を乗り出す。
「最後にあの人と会ったとき、とてもそのような交渉に応じるような人物には見えませんでした……」
「乗らざるを得んさ。いや……奴にとっては乗らねばならんだろう。我が主やネロの言葉から推察するなら、レフはこの特異点に閉じ込められている限り、常に魔力が消耗し続けて魔力回復ができていない状態だ。……皇帝がローマを去り、聖杯すら持ち去られるのを看過せざるを得なかったほどなのだ。よほどあの獣の力に深くまで冒されていると見える。いずれ魔力を消費しきったら他の人間と同様に、獣の力の影響を更に受けることとなる。
ところで奴と人とで違うのは、奴は存在の構成要素の大部分が魔力であるということだが、その魔力が大幅に減じた状態で他の力の影響を受けるようならどうなるか。自分自身の存在構造が少しずつ上書きされていくこととなる。そうなった場合、奴の身に待ち受けているのは、獣となるか、この世界から消滅するかの二択だ。
―――だが奴は第三の選択を取った。人理焼却の要たる特異点の主導権を放棄してでも、生き残るという選択をな。この選択を取ったという事実そのものに、交渉を持ち込む余地があると、私は思う」
「つまり、こういうことかしら? 溺れる者は藁をもつかむ、っていうこと?」
「
「あら、そっちの方が素敵ね、
「本来であれば、私とて反対だ。しかし状況は依然として切羽詰まっている。獣の力に精神も肉体も侵食されつつあるのは、我らや、後輩のガリアも同じ。更にカルタゴ方面からはスペインに向けてローマの遠征軍が進軍してきている。いずれガリアまで北上されたら、今の戦線維持すら難しい。そうなればガリアや他の人々を守らなければならなくなり、必然的にローマに近いこの前線を放棄せざるを得なくなる。奇しくも我らは情勢的に、最もローマに、この特異点の中心に最接近していると言っても過言ではない」
スカサハは言葉を区切り、天幕の天井越しに妖しき星を見上げた。
「我らカルデアと、レフ・ライノール。互いに抱えた問題を根本的に解決する唯一の鍵こそが、あの空に浮かぶ妖星だ。あれがこのローマの空から消えてなくなれば、この歪んだ特異点そのものも成立しなくなるだろうが……少なくとも奴は本来の力を取り戻す千載一遇の機会を得て、生き残ることができる。我らもまた特異点を解消して、人理焼却の楔を一つ破壊することができる。……両者に利点があろう?」
「そんな考えを捨てて、私達を道連れにしようと腹を括っていたら?」
「いいや、そうはならん。もしもここで全てを投げ出すようなら、奴はどうして今日まで忍耐し続けてきた? その忍耐にどんな意味がある? 人理焼却を達成するために続けてきた忍耐を、放棄することを選べん。なぜなら人理焼却を達成することこそが奴にとっての唯一の存在価値なのだからな。
……だが、確かに懸念を抱くのも無理はない。奴が我々との交渉に『ノー』といえば、話はそれで終わりだからだ。故に、私は提案したい。奴に『ノー』と言わせない交渉をするためにも、奴が絶対に我々に協力せざるを得ない状況を、我々の手で作る」
スカサハは拳を強く握り締めながら、一同を見渡した。
「今からローマに向けて、全戦力を以て全面侵攻をしよう。前線のローマ軍をガリア軍の攻撃で惹きつけている間、我らはローマへと急行し、七つの丘の下に張り巡らされているという『苗床』を徹底的に破壊して回る。妖星が奴に与える威圧と影響力が弱まっていけば、奴が反旗を翻す動機はより確実なものとなる。奴がこの一か八かの賭けに全力で身を投じることができるよう、戦場を整えてやるのだ。それこそが、カルデアの命運を賭けた大勝負だ。
……どうだ、他に良い案はあるか?」
スカサハの問いかけに、天幕内は静まり返った。誰一人として、反論の声を上げる者はいない。その静寂こそが、何よりも雄弁な同意の答えであった。
あなたは足元で可憐に微笑むネロを見下ろし、静かに語りかけた。これから俺たちはローマの敵となる、あなたはここで待機していてほしい、と。
ネロは深く、愛おしそうに目を細めながら答えた。
「……余のローマ皇帝としての立場を慮っての言葉であるのだな。しかと理解した。そなたがそう言うのであれば、余はここで待機していよう。
だが、あまり時間をかけすぎると余も待っておられんぞ。そなたの力になるなら、そしてローマに生きる人々がより良い明日を迎えるためならば、余は喜んでローマ皇帝の地位も捨てる。そのような未来を望まないというのであれば、一夜のうちに片付けるほどの気概で臨むのだ。良いな、余の夫よ♡」
かくしてカルデア一同は、この特異点を攻略するための、最後にして最大の決戦に向けて着々と準備を整えていくのであった。
ガリアの野営地から遥か遠く、都ローマは破滅と退廃の満ちる深淵の夜闇へ没していた。
皇帝ネロがただ一人の雄に完全屈服し、子造り旅行と称して去った瞬間から、この街を繋ぎ止めていた最後の理性の箍は弾け飛んでいた。
法も、倫理も、秩序も、国家という概念すら存在しない。路上では全裸の男女が幾重にも重なり合い、泥と排泄物と白濁液に塗れ、獣の本能に任せて交わりを繰り返している。市民を守る兵士も、守られる民衆も、もはや区別などない。ただ欲望に従い、貪り合い、叫び、喘ぐ。理性を失った獣の道理のみが支配する退廃の地獄。それが、統治者を失ったローマの現在の姿であった。
その狂乱から隔離された宮殿奥深くの私室。静寂の暗がりの中、レフ・ライノールは一人床に転がり、凄絶な悶絶の悲鳴を上げていた。
「ぐっ……ぅおおぉッ……!!」
彼の肉体はすでに原形を留めていない。服の破れ目から覗く肌はぐずぐずと溶け崩れ、赤黒い生肉と無数の眼球が蠢くおぞましい肉塊へと変貌しかけている。それが一瞬、毛皮に覆われた獣の爪や牙の形を成そうと歪み、次の瞬間には粘着質な肉の泡となって崩れ去り、再び人型を象ろうと蠢く。人、肉塊、獣、三つの存在が激しく主導権を奪い合っているかのようだった。
「ガっ……は……ッ!! わたしが……こんな歪んだ力などに呑み込まれて堪まるか……ッ!!」
ごぼごぼと吐血しながら、かろうじて原型を保つ片腕で石畳を激しく引っ掻く。ぐにゃりと歪んでいた上半身が、血を吐き出しながら必死に骨格を再構築していく。溶け出していた顔面が皮一枚で引き締められ、苦悶に満ちたレフ・ライノールの表情を取り戻す。肉塊と化した下半身を蠢かせ、レフは荒い息を吐き、冷や汗に塗れた顔を上げた。
まさに生と死の狭間。魔神柱フラウロスとしての存在を維持できるか、それとも空に浮かぶ忌々しい妖星の力に浸食され、自我を失った獣と化すかの限界点に立たされていた。
しかし皮肉にも、彼が自我と人型を保てていたのは、あなたたちによって繰り広げられた前代未聞の淫行と狂乱の賜物であった。
本来、妖星の力を地上へ拡散させ、この特異点を歪んだ形で安定化させていた最大の媒介は皇帝ネロその人である。さらに聖杯の莫大な魔力も彼女を安定化させ、間接的に異常な特異点形成の一翼を担っていた。
それら重要な要素が、あなたという規格外の雄の乱入によって根底から覆された。ネロは皇帝の尊厳を砕かれ、一人の妻としてローマから奪い去られ、聖杯は婿取りの品としてあなたへ捧げられた。妖星の狂気を撒き散らす最大の元凶と、その存在を維持する力の供給源の一つが遠ざけられたことで、レフを侵食していた獣化の進行も勢いを鈍らせていたのだ。それはまさに銃の照準内からターゲットが消え、いくら弾を撃とうとも弾がターゲットにあたらない状況に似ていた。
人理焼却を企てる立場からすれば、特異点を支える楔と聖杯の失陥は大敗北である。だがレフ個人にとっては、それこそが唯一の救いであった。
「く……クハハ……! 笑わせる……実に笑わせてくれるぞ、カルデア……! 貴様らの下劣極まりない狂乱の騒ぎのおかげで……この私が命拾いをするとはな……!」
レフは床に這いつくばったまま、嘲笑と苦痛の混ざり合った掠れ声を漏らした。
状況が劇的に好転したわけではない。いまなお空から降り注ぐ妖星の圧迫感は凄まじく、レフは己の存在を魔神柱として維持するためだけに、蓄えた魔力を刻一刻と削られ続けている。激痛が脳髄を焼き、油断すれば肉体が崩壊して異形の肉塊が露呈する。それでも自我を保ち、魔神柱として存在し続けられる。この狂った特異点にあって、それは何よりの僥倖であり、絶体絶命の淵で拾い上げた一すじの蜘蛛の糸であった。
(今……あの妖星は、力を地上へ効率よく伝達する媒介を見失っている……!)
虚ろな瞳を激しく蠢かせ、思考を巡らせる。
ローマに残された市民や兵士は暴政の余韻で正気を失い、ただの獣となって体を重ね合っているだけだ。彼らに指揮など不可能であり、その中から強い気性の者を選別して獣化を施す仕事もできはしない。かろうじて正気を保っていた者たちも優先事項を見失い、レフが直接目をかけているわずかな皇族関係者を除けば、あらゆる人間に影響が出ている。皇帝不在のローマは、社会統治の機能を失っていた。
つまり今この瞬間こそ、レフが妖星の支配から脱し、自由を取り戻すための好機であった。しかし同時に、絶望的な問題が立ちはだかる。
(……だが、今の私の力では、あの空に浮かぶ怪物をどうすることもできん……!!)
悔しさに歯を剥き出しにし、己の不甲斐なさに床を叩いた。
全盛期の力があればともかく、今の彼は己の存在を繋ぎ止めるだけで精一杯なのだ。空に鎮座する巨体、異次元の力の塊を撃滅する手段など、レフ単体で容易に用意できるものではない。
ぐずぐずに崩れた肉塊と、毛皮の生えた獣人との間を不気味に行きつ戻りつする醜い体を見下ろす。激痛と屈辱の中で、レフはその身の根源に渦巻く純粋な憎悪を燃やした。その猛烈な炎だけが、崩れかける自我を繋ぎ止める鎖となっている。
彼が向ける激しい憎悪。それは妖星の力に支配され、何一つ抗えぬまま消滅の危機へ追いつめられている惨めな己自身。空から人理焼却計画を歪め、己を苦しめ抜いた忌々しい妖星。
「カルデア……! あの男……っ!!」
そして何より、ただの人間でありながら、一切の理屈を無視した圧倒的な雄の力と性愛の奔流をもって皇帝すらあっさり雌奴隷へ堕とし、世界の在り方を暴力的に書き換えてしまうあの存在。あの忌々しくも恐ろしい人間とカルデアこそが、レフの激しい激怒と、最後の望みの矛先であった。
その時―――身体を縛り付けていた忌々しい圧力が、ふっと弛緩した。拘束されていた魂の一部が突如として自由を取り戻す。それと連動し、ドロドロに溶けていた肉体の人間化が先ほどより遥かに容易く進行し始めた。赤黒い肉塊が収束し、上半身だけだった姿が腰の下まで滑らかに再生されていく。
「な……んだ……? 一体、何が起きている……?」
戸惑いの声を上げた直後、力の拘束がさらに大きく緩んだ。ゴツゴツとした獣の肉片が削ぎ落とされ、膝のあたりまで肉体再生が完了していく。
眉をひそめるレフのもとへ、荒々しい足音が近づき、部屋の扉がノックもなしに開いた。宮殿の近衛兵である。獣人化に冒されながらも忠誠心を辛うじて繋ぎ止めていた兵士は、下半身を再生させつつあるレフのおぞましい姿に一瞬怯んだが、すぐさま表情を引き締めた。
「れ、レフ様……大変です! ガリア方面より反ローマ連合が進軍を開始しました! 我が軍の前線基地を突破し半島内へ侵入……敵の先鋒部隊が、北の諸都市へ向け大規模な攻撃を仕掛けております!」
「……迎撃させろ。獣人部隊を出せばいいではないか」
冷ややかな視線を向け短く言い放つレフに、兵士は青ざめた顔で首を横に振る。
「それが敵方に尋常ならざる力の使い手がいる模様で、前線部隊は即座に鎮圧されてしまいました! 現在、北の諸都市で交戦中ですが、防衛線を突破した一部の精鋭部隊が矢のような速さでこのローマへ進軍しており、既に近郊にて交戦状態に入っております!」
「なんだと……? 今はどこで戦っている! 敵はどこまで進んできた!」
「クィリナレと……ヴィリナーレの丘です!」
その答えを聞いた瞬間、レフの頭の中でパズルのピースが一気に組み合わさった。
胸の内に昏い愉悦と、激しい屈辱が渦巻く。今ローマで何が起きているのか、完璧に理解した。
(またしても……あのカルデアか……!!)
遂に彼らはローマとの全面対決へ乗り出したのだ。ガリア軍に北の諸都市を突かせて注意を引きつける隙に、最精鋭のカルデアの英霊達が一気にローマ近郊へ進軍した。近衛兵が口にした場所は七つの丘のうちの二つ、人を獣人へ変質させる『苗床』が築かれた場所である。目的は明白だった。ローマの人々の獣化の根源を潰し、獣の力の浸透を止めるつもりだ。情報源は間違いなくネロ・クラウディウスだろう。
絶対的な指揮官を失い歓楽の泥沼に溺れるローマに、彼らの進撃を押し留める者など存在しない。先ほどからの肉体修復が何よりの証左だ。カルデアが地下の苗床を破壊していったからこそ、浸透する力の絶対量が減り、レフの魔力が上回って肉体再生に繋がったのだ。
憎らしき妖星の企てが邪魔されている事実は甘美な愉悦であった。だがそれを成し遂げているのが他ならぬカルデアであるという事実が、反吐が出るほど憎ろしい。世界と人間へ向ける憎悪こそが存在証明であり、彼らを焼却することこそが存在意義であるだけに、カルデアが息をし活動すること自体が許しがたい対象であった。
怨念の炎を燃やしながらも、頭脳は冷徹に、高速で回転し始める。
(奴らが皇帝を庇護しているのなら、残りの苗床の場所も分かっているはず……! 今、奴らの進撃を阻んでいるのは、この地に充満する獣の力と理性を失った獣人どもだけ……!)
前者はどうにもならずとも、群がる獣人どもに関しては、長らくこの街に仕込んできた『アレ』が使える。
今こそ、この世界を地獄へ変え、腐りきった獣の世界を脱する千載一遇の機会。
レフは顔を上げ、近衛兵へ射るような鋭い視線を突きつけた。
「……今すぐ、まともに頭の動く奴らを連れてローマから離れろ。ここはじき戦場になる」
「な……都を放棄する、ということですか!?」
「早合点をするな、愚か者。敵を懐に深く誘い込んでから包囲し一気に叩くのだ。正面から交戦して勝ち目がないなら、四方から一斉に弓を浴びせればいい。……ぐずぐずしている暇はない。死にたくなければ今すぐ行動しろ!」
圧倒的な殺意と威圧感に射抜かれ、兵士はひっと短い悲鳴を上げて身を竦めると、弾かれたように脱兎のごとく駆け去っていった。
静まり返った私室で、レフは兵士の背中を冷たく見送った。そして、ゆっくりと持ち上げた掌の上に禍々しい漆黒の小規模な魔法陣を展開する。
冷酷な笑みを浮かべ、レフはその魔法陣を徐に力任せに握り潰した。―――直後であった。
――――嚴、嚴。
地響きのような凄まじい轟音がローマの複数の場所から同時に巻き起こり、その直後、重々しい夜闇を破って烈しくも輝かしい業火が吹き荒れた。
本能のままに交わり、快楽の泥濘に身を沈めていた無数の人々は、何が起きたのかも理解できないまま大火と烈風に呑み込まれていく。爆風は容赦なく地形そのものを吹き飛ばし、歴史ある石造りの街並みを一瞬にして砕き割った。幾重にも立ち昇る凄惨な火柱が、漆黒の夜空を不気味な血の赤へと染め上げていく。
崩壊は止まらない。かつて絢爛たる繁栄を誇った黄金の都は、瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌を遂げていた。豪奢な神殿の柱が根元からへし折れて石畳を叩き割り、数知れぬ市民たちの愛欲の舞台となっていた大通りは、火の粉と砕けた瓦礫の雨によって埋め尽くされていく。
路上に折り重なっていた全裸の男女は、ついさっきまで貪り合っていた淫らな交わりを無理やりに引き裂かれ、血と排泄物と白濁液に塗れたまま惨めな悲鳴を上げた。理性を失い、ただ獣としての保身の本能に駆り立てられた何万人もの群衆が、我先にと逃げ惑う。
「ヒィィィッ!」「助けてくれ!」「燃える、街が燃えるぞぉぉッ!」「逃げろ、逃げろおぉぉッ!」
転倒した者を容赦なく踏みつけ、崩落する建物の下敷きになりながらも、人々は蜘蛛の子を散らすようにパニックを起こして駆け抜けていく。欲望の宴は無残にも霧散し、都を包み込む紅蓮の炎が、立ち昇る黒煙と共にローマの空を覆い尽くしていった。
その凄惨な災禍を、ヴィリナーレの丘の頂上から立香とマシュが息を呑んで見つめていた。二人は今しがた、アタランテやラクシュミーと共に『苗床』の核を粉砕し、ぬめりつく内臓を思わせる地下道から地上へと脱出してきたばかりであった。
眼下に広がる、目を焼き尽くすほどの大火。所かしこで巻き起こる建造物の崩落音、逃げ惑う人々の絶叫、そして恐怖に引きつった獣人たちの咆哮。突如として拓かれた厄災の光景に、立香とマシュは次の役目を忘れ、ただ茫然と真っ赤に染まるローマを見つめてしまう。業火が生み出す烈火の輝きが、二人の戦闘服を煌々と照らす。
「な……なにが……何が起きているの……!?」
「ぼおっとするな! 早く次の苗床に向かうぞ!」
風を切る音よりも早く駆け寄ったアタランテが、二人に厳しく声を張り上げた。
「アタランテさん……! ですが、これは一体……!」
マシュが燃え盛る市街地を指差して困惑の声を上げると、アタランテは一切の情を排した眼光で一閃した。
「厳しい言い方だが、何が起きていようと我々のやるべき仕事には関係ない! ローマの人々を助けたいと真に望むのなら、与えられた任務をいち早く完遂できるように動け! ……ほら見ろ、ラクシュミーはもう先行しているぞ!」
アタランテが指し示した先には、大火と爆煙で混乱を極める中心部へ向け、一心不乱に駆け抜けていくラクシュミーの背中があった。
「先輩……! ラクシュミーさんを一人にさせる訳にはいきません。爆発によって興奮した獣人たちが這い出ている可能性もあります。他の皆さんの脅威にならないよう、私たちもすぐに行動を再開しましょう!」
「……うん、わかった。みんなの足を止めてごめん。もう迷わない、行こう!」
立香は顔を上げ、胸の中の迷いを力強く振り払う。次の丘へ向けて踏み出す彼女を守護するように、マシュやアタランテも陣形を組み直して追従し、地下の苗床へと突入していった。
一方、あなたはスカサハのしなやかで強靭な肩に軽々と担ぎ上げられた格好のまま、文字通り神速の領域で崩壊するローマを駆け抜けていた。
視界の端で次々と崩れ落ちる建造物、燃え上がる街路、火に巻かれて朽ちていく哀れな亡骸。スカサハはその一切に目もくれず、ただ前だけを見据えて突進する。目指すはレフ・ライノールが潜む皇帝の宮殿であった。
仲間たちは手分けして地下の苗床を破壊していた。ジャンヌ、ステンノ、エウリュアレ、ブーディカの班も、すでに二箇所目の攻略に取り描いているという念話が入っている。ガリアを発つ前、あなたから濃厚な魔力供給を受けた仲間たちは、絶大な魔力の充足感と共に高い瘴気耐性を獲得しており、一連の行軍に何らの支障もきたしていなかった。
影のルーンを走らせたスカサハは、瞬く間に炎上する市街地を抜け、奇跡的に被害を免れていた宮殿へと辿り着く。赤々と燃える炎に照らし出される中庭を駆け抜け、最奥へと足を踏み入れると、一際禍々しくドロドロとした歪な気配が漂ってきた。
それはかつて冬木という街を地獄へ変え、最初の特異点で直面したあの忌まわしき存在の気配そのものであった。
部屋の前に辿り着くと、スカサハはあなたを優しく地面へと降ろした。あなたが無言で頷いて合図を送ると、スカサハは重厚な扉を勢いよく蹴り破った。
部屋の中にいたのは、あなたが探し求めていた存在―――レフ・ライノールであった。苗床の破壊によって抑圧が緩み、下半身の肉体修復に成功していたレフであったが、その顔色は土気色で、精根尽き果てたように豪華な椅子へ深く腰掛け、背もたれに体重を預けていた。
扉が開かれると、レフは緩慢に顔を上げ、二人を憎悪に満ちた鋭い眼光で睨みつけた。
「……また会ったな、カルデアのマスター」
苦痛に引きつった表情で嘲るような薄笑いを浮かべ、言葉を吐き捨てる。
「このローマの中心で、皇帝を公衆の面前で慰め者にした挙句にさらっていった狂人め。……何をしに来た。貴様たちが行くべき場所はここではなく、他の七つの丘だろう」
「レフとやら、冬木以来だな」
スカサハは静かに呼びかけると、その相貌から記憶を辿るようにレフは目を細めた。
「……ふん。忌々しいカルデアの英霊め。皇帝がこのような過激な策を考えるとは思えない。貴様らのうちの誰の発案だ」
「そんなことはどうでもいい。どうやらお前は、我らのやろうとしていることに勘付いていると見える。―――我らを止める気はないのか?」
「分かっていて聞いているつもりか。どこまでも小癪な奴らめ!
あの女……皇帝ネロ・クラウディウスが貴様らによって奪い去られ、聖杯すらも持ち去られた時点で、このわたしがこの特異点に固執する理由など完全に潰えたのだ。もはやこの破滅したローマがどうなろうと知ったことではない。……それに、だ。この通り妖星の侵食によって満足に力すら戻っていない現状で、勝ち目のない戦いを挑むほど愚かでもない」
「ふむ……。どうやら我らの憶測は当たっていたようだな。
レフ・ライノール。カルデアの宿敵よ。今一度確認するが……今のお前には、この特異点をどうこうする理由は微塵もない。その認識で相違ないな?」
「……だから何だと言うのだ」
「であれば……我らがあの空に浮かぶ妖星に乗った獣とやらを破滅させる手立てがあると言えば、お前は我らに協力するか?」
「……何だと?」
レフは信じられないと言わんばかりに、激しい疑念の視線を二人へ向けた。
それに対して、あなたは静かに口を開き、論理立てて説明を進めた。スカサハを可能な限り空中高くへと跳躍させる手伝いをしてほしい。冬木の特異点で見せつけたあの凄絶な力は、例え弱体化したといっても目を見張るものがある。あの力があれば、彼女を極高空へと押し上げることくらい容易いはずだ、と。
「世迷い言を……! 貴様たちは、あれが一体何なのか理解していないからこそ、そのような妄言が吐けるのだ! まさか空に英霊を打ち上げて、その英霊に宝具を撃たせてアレを狙うとでも言うつもりか!」
「我らは何も非現実的な夢物語を言っているのではない。カルデアのマスターに令呪があるのを忘れたか? 残る全ての令呪を使用した瞬間的な魔力強化、我が主より直々に賜った凄絶な魔力供給、そして聖杯に込められている魔力……その全てを一つの英霊へ集中させれば、我が槍は、あの妖星まで確実に届く。だが何もせずに指を咥えていれば……貴様はこの特異点ごと完全に消滅するだろう。
私としてはお前がどうなろうと知ったことではない。だがもしも我らに協力せず、この特異点の異常を放置すれば、お前たちが事を進める人理焼却計画は一体どれほどの影響を喰らうだろうな? この特異点が獣の支配する時代となってしまえば、この時代より後に続く人間の歴史も全て獣の世と成り果てる。……このローマより後の時代にも聖杯を埋め込んでいるのなら、そこにどのような波及が生じるか……考えたことはあるか?」
「……くっ」
「考えたからこそ、お前は手を打った。このローマに起こる大火はお前が起こしたものだろう? すぐに気づいたぞ。炎の中に満ちる計り知れぬ憎悪を。今のお前から感じるものと瓜二つだ。ともすればあの炎は、我らが皇帝と直接対決できるように環境を整えることが本来の目的だ。違うか?」
「……舐めた口をきく」
レフは顔を歪め、憎々しげに吐き捨てた。
「仮に……万が一、私が手を貸したとて、聖杯まで使うのだ。仕留め切れるのだろうな?」
「万能の願望器がどれほどの奇跡を紡ぐか、我々にも正確な底は見えぬ。だが、一つの特異点を構築するほどに強大な魔力を有しているのであれば……星の内側から星の外へと一振りの槍を投じるのに足りる魔力を補ってあまりあるだろう。
……さて、レフよ。我らのこの提案に、今さら『ノー』と言えると思うか?」
二人の会話が交わされている間にも、屋外からは建物の倒壊音と獣人たちの悲鳴が断続的に響き渡っていた。
時が経過すればするほど、レフの体調には明らかな変化が現れていた。更に別の苗床が制圧されたのだろう、レフの顔色は見違えるほどに生気を取り戻し、その体から感じられる禍々しい気配も一層濃厚となっていく。
しばらくの間、レフはあなた達に対して殺意すら籠もった強烈な睨みをぶつけていたが、やがて彼は深く苦々しい溜息を吐き出すと、重い口を開いた。
「……良いだろう。貴様らのその狂気の策に、乗ってやるとしよう」
レフは忌々しそうに吐き捨てた。
「勘違いするなよ。この特異点から脱出するまでの限られた時間だけ、一時的に手を貸してやるに過ぎん。……ついてこい。力を振るうには、もっと開けた場所へ行かねばならん」
「ほう、お前に良い考えがあるのか?」
「黙れ。真の力を振るうには、こんな狭苦しい宮殿では意味がないと言っているのだ」
レフはそう吐き捨てると勢いよく立ち上がり、あなたたちを一顧だにすることなく、大股で宮殿の外へと向かって歩き出す。あなたとスカサハは互いに頷き合い、レフの背中を追って宮殿を後にした。
向かった先は、崩落した街のただ中に佇む、古代ローマの象徴たる巨大な闘技場、コロッセオであった。
コロッセオ中央の広大な闘技場へ足を踏み入れた瞬間、レフはわずか数日前にここで繰り広げられた忌まわしい皇帝の屈服劇を思い出して、苦々しく眉をひそめた。あの時、自分は肉体の崩壊を抑えるために宮殿に閉じこもっていたが、後で近衛兵からその知らせを聞いた時、怒りのあまり身が引き千切れるような思いをしたものだ。しかし今は記憶を振り返る猶予もない。レフは湧き上がる不快感を歯を食い縛って噛み殺し、無言のまま広場の中央へと凄まじい執念の足取りで進み出た。
コロッセオへと向かう道中にも、全身の肉体をギチギチと締め付けていた異様な獣の圧力が、さらに一段と弱まっていくのをレフは感覚で鮮明に感じ取っていた。こうしている間にも、カルデアは他の苗床を順当に潰しまわっているようだ。今の状態であれば、あなたが提示した一か八かの乾坤一擲の賭けに、いくらかの魔力を貸し出してやるだけの余力は十分にある。
レフは勢いよく振り返り、あなたとスカサハに対して殺気すら混じった憎々しい視線を叩きつけた。
「……良いか、貴様たちのために天へと伸びる梯子を作ってやる。カルデアの英霊よ、貴様はその脚力を以て、迷わず全力で天頂まで駆け上がれ!
それとカルデアのマスター! 貴様は残る苗床を制圧している最中の英霊どもに念話で発破をかけろ! あの忌々しい獣の毒素を更に排さねば、最大高度まで届かんぞ!」
「ふむ。やる気を出しているようで重畳」
「……聞こえているぞ、英霊」
レフは忌々しそうに顔を歪めた。
「どいつもこいつもふざけおって……!! 私をコケにしてきた貴様らは、いずれ兆倍にして地獄の苦しみをもって報復をしてやる!!
だがその前に、私をただの肉塊として弄び、人理焼却の偉業を邪魔しようとしたあの空の怪物に、一泡吹かせてやろう! 寄生虫のごとき分を弁えぬ異形の獣に、何物を相手にしてきたのか思い知らせてくれる!!」
叫びと同時に、レフの全身から凄まじい密度の漆黒の魔力が奔出された。コロッセオの大地のみならず、重々しい大気そのものが壊れかけた器のように激しく震動し始める。
「見よ! これぞ魔術王より力を賜りし魔神柱の一柱、フラウロスの真なる力である!!」
爆ぜるような咆哮と共に、レフの肉体が一瞬にして内側から狂乱のままに膨れ上がり、破裂した。
轟、と耳腔を破る凄絶な爆音と共に人の皮膜が弾け飛び、ドロドロとした赤黒い生肉の奔流が地表を呑み込んで溢れ出す。それは瞬く間に巨大な肉の柱の形状を成し、無数の異様な単眼を全身にギチギチと開眼させながら、大気を灼く恐ろしいまでの咆哮を上げた。
魔神柱フラウロス。赤黒い筋肉の繊維が超高圧の魔力を爆発的に噴出させながら、幾重にも、どこまでも密に引き伸ばされていく。コロッセオの敷地を内部から完膚なきまでに叩き割り、天を衝く巨大な一本の肉の槍のように上へ、上へと、雲を突き抜け、星の領域へと迫るかのように際限なく伸び続けていった。
その圧巻にして禍々しい光景を前に、スカサハはフッと勇敢な笑みを浮かべ、あなたへと一瞥を送った。
「では我が主よ、投擲のタイミングは念話にて告げる。……後を任せたぞ」
あなたはスカサハの双眸を力強く見返し、何の憂いもなく全てを委ねるように深く首肯した。
スカサハは勇壮に微笑むと、紅蓮の二槍を固く握り締め、凄まじい脚力で壊れかけたコロッセオの大地を力強く蹴った。地表を爆砕する衝撃音と共に、彼女の身体は一直線に魔神柱の側面へと引き吸い込まれるように跳び移る。
燃え盛るローマの真っ赤な夜闇を切り裂き、天に向かって無限に伸びていくおぞましい肉体の柱。そのそそり立つ異形の壁面に鋭い爪先と魔力を叩き込み、スカサハは一筋の赤き風となり、天空の頂を目指して一気に駆け上がっていった。
魔神柱の肉体は成層圏を優に超え、極寒と希薄な空気が満ちる中間圏の境界近くまで伸び切る。その頂点から、魔神柱と化したレフの怒号のような唸り声が、肉体の激しい震動となってスカサハの全身に直接響き渡った。
『……ここまでだ、英霊! この頂から、あの忌々しい怪物を狙い撃て!!』
「しかと承った。後は任せよ、魔神柱!」
スカサハはフッと口元に不敵で美しい笑みを浮かべると、足を止めることなく素早く指先を走らせた。秘められた原初のルーンを何重にも重ねて編み込み、己の肉体と霊基を極限を超えて跳弾のごとく強化する。音を遥か置き去りにし、薄い空気を力任せに切り裂きながら、みるみるうちに肉の柱の天頂へと向かって突き進む。
ルーンによって研ぎ澄まされたスカサハの黄金の双眸が、はるか上空、宇宙の漆黒に浮かぶ妖星の表面を鮮明に捉えた。
そこにへばりついていたのは、奇怪極まるおぞましい異形の生命体であった。まるで暗黒の深海を揺らめく巨大なクラゲと、不気味なアメーバが融合したかのような異形。半透明の粘質に満ちた肉塊から、無数の脈動する触手のような糸をねっとりと伸ばし、無機質な隕石の表面へガチガチに張り付いている。初見の者であれば、どこが急所でどこに心臓が存在するのか到底判別できない歪な構造。しかし、数多の死を見送り、自らも死の境界を越えてきた影の国の女主人の眼には誤魔化しなど効かない。その怪物の膨らんだ頭部の真中央、深層の奥底で狂おしく脈動する、心臓たるコアの存在を瞬時に見抜いていた。
あと十秒ほどで、肉の柱の最頂点へと辿り着く。周囲は完全なる真空と極寒、そして宇宙の静寂が支配する領域。
息を吸うことすら叶わぬ死の世界にあって、スカサハは胸の奥に宿るあなたへの濃密な愛慕を滾らせ、念話を通じて地上にいるあなたへ全身全霊の叫びを送った。
『―――今だ! 持てるすべてを注ぎ込め!!』
その声に応え、コロッセオの中心に立つあなたは天に向かって右手を掲げ、残された最後の令呪へと全魔力を注ぎ込んだ。
―――令呪二角をもって命じる。全身全霊の宝具で、あの星に張り付く獣の心臓を穿て。
そして、手にした聖杯に強く念じた。どうか我が英霊の投槍が、この星の外へと穿ち抜け、空に瞬くあの妖しき星へと確実に届かんことを、と。
瞬時、手の甲に刻まれていた令呪の残った二角が眩い光を放って消滅すると同時に、あなたの手の中で聖杯が神々しい光輝を放ち、無数の光の粒子へと姿を変えてスカサハのもとへと駆け昇っていった。
―――直後。
成層圏の遥か高み、空気すらも絶えた凍てつく虚空を昇り詰めるスカサハの肉体へ、一騎の英霊という枠組みを遥かに凌駕する爆発的な魔力の濁流が流れ込んだ。あなたが捧げた聖杯の無尽蔵なる奇跡の力、そして刻印された二画の令呪の煌めき。さらには、数々の夜を重ねてあなたの剛直から彼女の子宮へと惜しみなく注ぎ込まれ、秘部に深く蓄えられていた濃密極まりない雄の精気。それら全てが融合し、絶大なる神域のエネルギーとなって彼女の霊基の深層から爆発的に噴き出したのだ。
「ははッ……! これほどか! これほどの力を授けてくれるか……ッ!!」
全身の霊脈が灼熱のマグマのように沸き立ち、血管の一本一本、細胞の一片に至るまでが黄金の激流で満たされていく。影の国の女主人として積み重ねてきた果てしない人生経験の中ですら一度として到達したことのない、完全なる神域の領域。歓喜と官能の震えを背筋に走らせ、スカサハは歓声とも喘ぎともつかぬ熱い吐息を虚空へ撒き散らした。
彼女は空中で力強く両腕を広げると、その象徴たる二条の真っ赤な宝具を両手へ同時に顕現させた。そして足下に聳え立つ巨大な魔神柱の最頂部を、神速の脚力をもって力強く踏みちぎる。反動で崩壊する肉塊を遥か下に置き去りにし、彼女の身体は重力の概念すらも嘲笑うように、暗黒の虚空へと真っ直ぐ跳び上がった。
地上の全景が眼下に小さく縮み、眼前に迫るは、黒焔の天蓋を貫いて鎮座する異形の妖星。虚空へと身を躍らせたスカサハは、美しくしなやかな肉体を限界までしならせ、両手に携えた紅蓮の二槍を完璧なる投擲フォームで構えた。彼女の黄金の瞳が、漆黒の宇宙に固定された怪物へ向けて凄烈な殺意の光を放ち、その真なる名を開帳する。
「刺し穿ち、突き穿つ―――
爆ぜるような真名の咆哮と共に放たれたのは、宝具という概念すらも軽々と超越した、極大の赤黒い神速の閃光であった。
聖杯と令呪、そしてあなたの魔力を束ねて解き放たれた二条の光は、一筋の巨大な破滅の光芒となって宇宙の闇を切り裂いて伸ばされていく。大気を灼き、空間を歪め、一秒と経たぬうちに、漆黒の空間にへばりついていた忌々しい彗星のもとへと到達した。
次元の底を揺らすような衝撃波が真空の暗黒を走り抜ける。赤黒い閃光は寸分の狂いもなく過たず、彗星の表面へベったりと張り付いていた異形の獣の脳天―――その核心に眠る禍々しい心臓の最奥を、深々と、容赦なく貫通した。
────。
声なき激痛の絶叫が、波となって宇宙の暗闇に伝播する。
肉体の核心を壊滅させられた奇怪な生物は、一瞬にして全生命力を奪われ、彗星の表面からドロリと剥がれ落ちていった。数多の禍々しい触手のような糸を虚しくゆらめかせながら、肉体を維持する力すら失い、光の届かぬ漆黒の虚空へと惨めに漂流していく。
たった一発の投擲。ブーストされていた過剰魔力の全てをその一撃に注ぎ込んだスカサハは、放ち切った充足感に身を委ね、ゆっくりと地球の重力に引き寄せられて降下を始めていた。
超高空からの静寂なる落下の最中、スカサハの視界に映っていたのは、虚しく闇へと消えていく獣の死骸。そして、永きにわたる邪悪な拘束から解き放たれ、本来の美しき輝きを取り戻して遠い宇宙の深淵へと静かに流れていく、神々しい彗星の軌跡であった。
賢者メモ
ストーリー上、必ず通過しないといけないイベントなのにスケベ展開が発生しないので気分が乗らず、執筆が進みにくかったです。話をもっと考えたり膨らませれば面白いとは思うのですが、時間をかけすぎるとエタってしまう懸念があったので、中途半端でも話に区切りをつけるよう巻きで書き終えました。
獣さんの設定はこれで出し切りではなく、いずれ使う予定なので、ストーリーを愉しみにしている方はご承知おきください。
カルデア側と契約していない、人理によって召喚された女性の英霊が、特異点内で不特定多数の人間(現地人など)との間で性的関係を結ぶのは、アリか。
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有り(輪姦、和姦問わず)
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有り(和姦のみ)
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無し(主人公側の性行為だけ書いてほしい)
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なんでもいいかヌかせて!