金色の瞳が、わずかに細められる。
「……異常事態、でございますか?」
静かに、しかし一切の無駄のない声。
問い返し。
だがそこに焦りはない。ただ、情報を求める冷静さだけがある。
その視線が、真っ直ぐにこちらを射抜く。
逃げ場はない。
「……う、うん……あの……その……」
喉が張り付く。
だが、ここで崩れればすべてが終わる。
ぎゅっと杖を握りしめ、無理やり言葉を押し出す。
「……な、なんだか……外の様子が……へ、変な感じが、するの……」
一瞬、間。
アルベドの瞳がわずかに揺れる。
——だが、それだけだ。
「……なるほど」
短く、理解を示す言葉。
その一言で、場の空気が引き締まる。
すぐに次の判断へ移る気配。
その速さに、内心で息を呑む。
「……そ、それで……」
続けなければならない。
これは、命令だ。
「……ち、地表の……ちょう、調査が、必要……だと、思うの……」
震えながらも、視線を逸らさない。
マーレとして、言い切る。
アルベドは、わずかに頷いた。
「承知いたしました。では、どの者を動かしましょうか」
その言葉に、ほんの一瞬だけ思考が止まりかける。
だが、すぐに浮かぶ。
記憶の中の、適任。
「……セバスと……プレアデスを……」
声は小さい。
だが、はっきりと。
「……ち、地表部へ……そう、捜索に、向かわせて……」
アルベドの瞳が、わずかに鋭くなる。
命令の意図を測るように。
だが、それ以上の詮索はない。
「……し、周辺の……地理を、か、確認して……」
一度、息を吸う。
そして——
「……ち、知的生命体が、いたら……て、敵対しないように……ゆ、友好的に……つ、連れてきて……ほしいの……」
言い切った。
この辺りの指示は原作通りでいいはずだ。
沈黙。
ほんの数秒。
だが、永遠のように長く感じる。
その後——
アルベドは、深く頭を垂れた。
「——さすがでございます、マーレ様」
静かな、しかし確信に満ちた声。
「未知の状況下において、まずは情報収集と関係構築を優先する……極めて合理的かつ、先見性に富んだご判断」
胸の奥が、強く打つ。
理解された——いや、“過剰に理解された”。
「直ちに、セバス・チャンおよびプレアデスに命を伝達いたします」
ゆっくりと顔を上げるアルベド。
その瞳には、揺るぎない信頼が宿っていた。
「ナザリックの外界調査、並びに知的生命体の確保。いずれも滞りなく遂行させましょう」
そして、わずかに微笑む。
「どうかご安心を、マーレ様。すべては、あなたの御心のままに」
——その言葉の重さに。
俺は、ただ小さく頷くことしかできなかった。
アルベドはわずかに目を閉じ——すぐに開いた。
「——伝達、完了いたしました」
静かな声。
セバスとプレアデスへの命令は、すでに届いたらしい。
その手際の良さに、内心で冷や汗がにじむ。
そしてアルベドは、改めてマーレへ向き直った。
「では、マーレ様」
恭しく頭を垂れながら、問いかける。
「これより、いかがなさいますか?」
——次の一手。
完全に判断を委ねられる。
(ど、どうする……)
思考が一瞬止まりかける。
そのとき——ふと、記憶がよぎる。
(……モモンガ様……)
原作で、この世界が現実かどうか確かめるために取った行動。
——胸に触れるとこでBANされるか確かめる。
(……や、やるしか……ないの……?)
目の前にはアルベド。
圧倒的な存在感。
そして絶対的な忠誠。
逃げ場はない。
「……あ、あの……アルベド……」
「はい、マーレ様」
即座の応答。
まっすぐな視線。
その信頼が、逆に重い。
「……ちょっと……か、確認したいことが……あってっ?!」
近ずくために歩くと、緊張のせいか足がもつれてしまいアルベドの方に倒れてしまう。
アルベドは一切動かない。
ただ、すべてを受け入れるように立っている。
(あ、あぶない!)
咄嗟に手を伸ばして目を瞑る。
そして——
強い衝撃と柔くてふわふわなものが顔に触れた。
いい匂い。
あまりにも自然で、現実的で。
ゲームではあり得ない温かさ。
「——っ」
反射的に顔を上げる。
心臓が跳ねる。
「ご、ごめん……なさい……!」
思わず謝る。
だが——
ガシッ!ぎゅー
アルベドは怒るどころか、僕の頭を抱きしめて胸に埋めてきた。
「く、クフー!♥……玉座の間で押し倒そうとするだなんて大胆なんですね♥マーレ様のお望みであれば、いつでもどこでも私は!♥」
どこか恍惚とした声音。
完全に誤解している。
「ん!んんー!///んむむんむむんむんん!///」(ち、違う!///ここまでするつもりは!///)
内心で全力否定。
だが、それよりも——
(……これ……完全に、現実だ……)
この感触。
仮想ではない。(もにゅもにゅ)
作り物でもない。(ふかふか)
確かな“存在”。(ぷにぷに)
って!いつまで挟まってるんだ!?
「あ、ありがとう。もう......大丈夫だから。」
アルベドは胸の間にいるマーレを見つめながら、静かに問いかける。
「はい、失礼しました。それで確認とは?」
「……う、ううん、それはもう大丈夫……」
もう迷っている場合じゃない。
ここからは——
本当に、“マーレとして”動くしかないのだから。
——もう、迷っている場合じゃない。
ここは現実だ。
そして、自分は——マーレとして存在している。
ならば、ナザリックの主人として次にやるべきことは。
「……ア、アルベド……」
「はい、マーレ様。すべて私にお任せ下さい。」
すぐに返ってくる、絶対の忠誠。
「サキュバスとしてその手の知識は豊富にございます。は、初めてではありますが、必ず気持ちよく御奉仕させていただきます♥」
「......え?ち、違うよ!ぼ、僕は次の指示をしようとしただけで!」
「これは失礼しました。」
「......な、なんでそんな勘違いしちゃったの?」
異常事態の時にこんなことを言うだなんてどうしてしまったんだろうか?
いや、原作もこんな感じだっけ?
「いえ、そのー、マーレ様の可愛らしいマーレ様がスカートを押し上げていたので、つい♥」
「え、」
自分のスカートを見下ろすと、不自然にスカートが押し上げられていた。
可愛らしいちんちんによって
「……ぼ、僕は……第六階層に、行くね……」
恥ずかしい///
早く立ち去りたい!
僕はスカートの前を両手で抑えながら指示をする
「闘技場で何かされるんですか?」
さすがに察しがいい。
マーレは、小さく頷いた。
「……う、うん……」
杖を握る手に、わずかに力を込める。
「……ま、魔法とか……スキルが……ちゃんと使えるか、確認したいの……」
それは、言い訳ではない。
この状況で最も重要なことの一つ。
“自分がどれだけ戦えるか”の把握。
アルベドは一瞬だけ思考し——すぐに頭を垂れた。
「……ごもっともでございます」
静かな肯定。
「未知の環境において、自身の戦力把握は最優先事項の一つ」
完全に正当化された。
むしろ評価されている。
「それと……」
マーレは少しだけ言葉を区切る。
「……い、一時間後に……全階層守護者を……集めて……」
アルベドの瞳がわずかに鋭くなる。
「……ぼ、僕も……その時に……合流するから……」
アルベドは深く頭を垂れた。
「承知いたしました。直ちに全階層守護者へ通達し、一時間後に集結させます」
その声には、一切の迷いがない。
「供に参りましょうか?」
その申し出に、マーレはわずかに首を振る。
「……だ、大丈夫……だから。」
.......気まずいから少し1人にさせてほしい
アルベドはその意図を汲み取ったのか、深く一礼した。
「承知いたしました。では私は、ナザリック内の統制を維持しつつ、準備を進めておきます」
頼もしすぎる。
「何かあれば、すぐにお呼びくださいませ」
「……う、うん……」
小さく頷く。
そして——
再び、リングに意識を向ける。
——第六階層、闘技場。
次の瞬間。
視界が歪み——
世界が切り替わる。
現れたのは、広大な自然空間。
人工とは思えないほど精巧な森林と湖。
その中にある——巨大な闘技場。
「……ここが……」
足元の土の感触。
風の匂い。
すべてがリアルだ。
そして——
「おっ、マーレじゃん!」
聞き覚えのある声。
振り向けば、そこには双子の姉——アウラがいた。