※この作品はR-18です。

一般通過サーキック・カルト(異端)が行く、JK退魔部世界   作:O5-69(人員補充してください)

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肉の追放者と草薙ミオ

 この世界における退魔師というのは他の世界における一般的なそれとは異なる。

 

 『一般的な』退魔師とは何ぞやと思うかもしれないが、大抵の世界には退魔師ないしそれに類する職能集団が存在する。

 

 人は普遍的で不変な無二の論理で世界を説明したがるものだが、実際その試みはあまり上手く行っていない。

 学術は、道と橋に例えられる。

 荒野を整地し、分かりやすく利用できる物へ変えていく。何かに隔てられてそれまで手が出せなかった領域に橋を架け、新たな荒野を開拓する。

 

 人間に限らず知的存在はそれを幾度となく繰り返し───やがて“壁”に突き当たる。

 

 そうした外因はどの世界にも有り触れていて、総じて“魔”と呼ばれる。

 

 人理を乱す怪異があるなら、それに対処しようとする者が現れるのもまた道理。

 

 

 そしてこの世界において妖魔は秘匿すらなく一般に認知され、対抗する退魔稼業は実にメジャーな職種だ。

 

 

 ただ、その上でこの世界における退魔師の性質は、やはり特異だった。

 

 

 先ず以て女性しか存在しない。それは退魔師の扱う霊力の性質と敵対する妖魔の性質に起因する。

 

 この世界における霊力は励起した適齢期の子宮から産出され、毛髪をバッテリーとして貯蓄する。もうこの時点で男性に霊力を扱う才が無いのが分かるだろう。

 更に妖魔の身に纏う妖気や彼らの扱う妖力に対して男性は全く免疫を持たず、無防備に曝露すれば容易くその毒性に犯され死亡する。

 

 ……極一部の例外は妖気を克服し異能に目覚める事もあるが、それはそれ。

 

 基本的にこの世界では人界に仇なす妖魔への対抗策は、閉経前の女性による霊力を用いた討滅のみとされている(・・・・・)。

 

 そして第二次性徴を経て成人するまでの期間において霊力エンジンとしての子宮の性能は全盛期(適齢期)に至る。

 

 

 要するに、最も効率的かつ効果的な退魔師の運用法は女子高校生を用いた学徒出陣だった。

 

 かつては巫女としてその役に従事していた彼女たちは時代によってその姿を変え、現在では“退魔JK”と呼ばれている。

 

 

 

 尚、表通りから少し離れた裏路地では幻術を始めとした各種隠蔽手段により偽装されているとはいえ、性玩具加工された退魔巫女の肉体、魂(・)の他、食肉加工されたそれも普通に出回っているものとする。

 

 控え目に言ってこの世界は中々キマっていた。

 

 

 

 

 

「───とは言え」

 

 かつて私のいた場所に比べれば、この程度の混沌は寧ろ高純度の愉悦であり苦痛の内にすら入らない娯楽であった。

 

 

 

 

 

 

───

──────

─────────

 

 この国において主要な退魔部を持つ学園は主に四校。

 北辰学園、東雲学園、白南風(しらはえ)学園、聖西躑躅(セントアザレア)女学院。

 

 私はその一つである北辰学園にて新任の嘱託医、黒白(クロシロ)灰濁(かいだく)として勤務している。

 ちなみに前任者は戦闘不能に陥った退魔部々員の身柄を表向きは戦死していた事にし、裏で妖魔が経営する闇ブローカーに売り払っていたとかで更迭された。

 私の所にも似たような取引が持ちかけられてきたが、存外この学校は居心地が良かったので丁重に断りの連絡を入れている。それでも食い下がって来た輩や口封じに来た輩もいたが、今はもう存在しない問題である。

 

 

 

 ───ごちそうさま。

 

 

 

 それなりの糧になってくれたかつての縁故を想い、私はこの国の流儀に倣ってそう両手を胸の前で合わせた。

 

 

 

 

 さて、実のところこう見えて私の仕事は多い。残業上等、次から次へ業務は舞い込んで来る。

 

 

「───黒白先生!!」

 

「お゛ァッヒィイ゛グイ゛グイグいぎィッ!!♡!♡♡?」

 

 バタバタと廊下が慌ただしくなったと思えば、学園所有の治療室の戸を蹴破る勢いで少女が飛び込んで来る。

 トレードマークのポニーテール、動き易さ重視で短く揃えられたスカートから健康的な太腿を露わにしている彼女の名は草薙(クサナギ)ミオ。2年生でありながら他の3年生を抑えて北辰学園退魔部副部長に座している中々優秀な退魔JKだ。

 

 そんな彼女は背に誰かを抱えていた。見ずとも分かる。喘ぎ声が五月蠅い。

 

「──やあ草薙、急患かな?」

 

「イギィッ…ひゅぐ…♡」

 

「1年生の新人です!! 恐らくは媚毒中毒、呼吸・脈拍ともに不安定!」

 

「オーケイ、患者を診察台に載せて」

 

 かなり焦っているように見えたが、草薙はこちらの指示通りに治療室のベッドに背負っていた下級生を載せる。

 

 当たり前の事をと思うかもしれないが、この当たり前が出来ない退魔部員の多い事多い事。友人や仲間を助けたい気持ちばかりが先行してこちらの邪魔をする事はザラ、傷病の経緯を碌に答えられないなんてことも日常的、酷い時は妖魔の手先になって学園内で感染爆発(パンデミック)をやらかしたりする。

 

 その点、医者の指示に忠実でやる事をやったら一歩引いてくれる草薙は物事がスムーズで苦労が無い。

 

「さて──」

 

「あぎィッヒィィィッ!!♡」

 

 改めて草薙が連れて来た下級生を見る。

 ズレた眼鏡を辛うじて顔に保持している彼女は1年生で今年から退魔業に参入したばかりの新人、名前は下田ミヨ。

 北辰学園は退魔部員のアベレージが高い事で知られるが、彼女は学園外と比較しても実力は下の中程であり、現在所属している本校退魔部々員の中では最弱と呼んで差し支えない。

 正直、2年生になる前に妖魔の苗床になるかブラックマーケットで部位ごと(・・・・)に出品されるだろうなと私は常々思っている。

 

 そんな彼女はこの治療室の常連だ。こうして私の前に運ばれてくるのは今回が初めてではなく、新人である筈の私がたった数ヶ月の内に積み上げたと思えない高さのカルテの山の3分の1近くは彼女一人が占めている。

 おかげで態々確認せずとも下田の身体情報と傷病歴が頭に入るようになってしまった。

 

「──顔面と性感帯を中心した肌の上気、体温の上昇、手足の痙攣、断続的なオーガズム…」

 

 妖魔との戦闘によって既にボロボロだった制服を鋏で切って剥ぎ取り、少し小柄だが肉付きの良い下田の肢体を露わにする。

 

 すぐそこに控えている草薙のような熟練の退魔JKと異なり、下田の身体には筋肉がまだあまり育っていない。霊力による身体能力ブーストでそれでもある程度は問題にならないが、そもそもの運動神経──基礎的な身体の動かし方がなっていないし慣れていないのだ。

 

 こればかりは経験と修練により何とかしていく他ないが、やはり半人前を卒業する前に下田は良くて苗床堕ち、悪くて合い挽き肉になるだろうか。

 

 そんな下田は今回もまた面白い事になっている。

 彼女の顔と乳首、クリトリスは充血して赤く染まっており、熱された身体と並べてみて茹で肉のようだ。手足は絶えず震えて目の焦点は定まっておらず、喘ぐような呼吸はマトモに酸素を吸えたものではない。

 

 一先ず呼吸器を引っ張って下田の顔に被せ、酸欠による窒息の危機を一先ず回避してやろうとする───が。

 

「あぴゃぴゃぴゃぴゃッ♡イグぅ!!!♡♡♡?」

 

 呼吸器に添えていた指先が微かに肌に触れた途端、股から大量の潮を吹いたかと思った下田の手足が意志とは無関係に暴れて呼吸器を外してしまった。

 

「加えて全身性感帯化か。草薙、下田の両手足を抑えろ。診療台に拘束する」

 

「はっ、はい!!」

 

 草薙の応答が若干遅れたのも、彼女の頬が紅潮し視線が下田の痴態に釘付けになっていたのも今はどうでもいい。

 ただ、後で揶揄うネタにするつもりではある。具体的には診療用に撮った下田の写真を彼女の学園支給携帯の個人フォルダに後でこっそり送信しておく予定だ。

 

 それはそれとして、仕事は熟さなくてはならない。

 

 草薙は仰向けに寝かされた下田の手足を自分の四肢で上から押さえつける格好になる。完全に発情した下田の顔を直視し続ける事になる草薙は、後輩の身体を流れる熱が伝染したかのように耳を真っ赤に染め上げていた。

 

 中々に官能的な絵面であったので、私は拘束具を探す手間を敢えて余計に引き延ばした。

 上手く仕事を熟すコツは、適度に楽しみを複合していく事である。

 

「ま、まだですか…っ!?」

 

「イギたくないイギだくないイギだく──いッぎゅぅぅウウウウッ!!!!♡♡」

 

「おや、抑えておくのが難しいかね? なら、誠に不本意だが生態学的な退魔師の無力化手段を取らざるを得ないかな───さて、手錠はどこにやったか」

 

 元退魔巫女、現退魔JKの力の源である霊力源は子宮だ。しかし此処に妖魔や男性の体液が混入すると霊力が乱され、退魔JKはそこいらの一般女子高生と変わらない無力な少女になってしまう。

 

 要は退魔JKが暴れて困るならハメてしまえば良いのだ。そうすれば彼女たちは一般人にすら抑え込める程度の存在へなり下がる。

 

「結構です!! ミヨ、私が抑えてますからジッとしてください!!」

 

「ぷひゃッぷぎィッ♡♡♡」

 

 私の発言の意図するところを理解した草薙はより一層に下田を押さえつけ、彼女の下で下田はメスブタのような嬌声を漏らした。──そう言えば、直近で下田がセックスした相手は妖魔化した家畜だったか。

 妖魔に敗北後、獣姦スナッフフィルム撮影に使われた下田はそのまま興奮した家畜に餌として食い荒らされる予定だったがギリギリで救出が間に合ったのである。

 ただその後遺症として、四つ足で四肢を抑え込まれるシチュエーションに下田の魂に刻まれたメスブタが呼応してしまう事があるのだ。

 

 下田は絶対に長生き出来ないだろうが、その短い生を焼き尽くすかの如く毎度毎度面白い事になっていくから中々目が離せない。

 

 そんなつい先月の出来事を思い返しつつ、私は抗魔素材複合の手錠で下田の四肢を診療台の四つ角に固定する。

 万全の下田でも金属の鎖を引き千切る程の力は出せないが、発情状態で色々暴走している下田では万が一があった。その為に用いたこの手錠は、呪式処理をされた素材の効果によって従来品より拘束・抑制効果が向上している。

 北辰学園退魔部のNo.2である草薙でもそうそう千切れないことは既に検証済み(・・・・)だ。

 

 ともあれ、そうして動けなくなったところに鎮静剤を混入した酸素マスクを顔に被せてやれば、漸くベッドの上の淫肉は静かになった。

 

 

 

 未だ無事とは程遠いが一先ずの山は越えた下田を見て、草薙はドッと疲れた様子で診療台の上から降りる。

 降りる際に短いスカートの隙間から見えた股の布地が湿り気を帯びて濃くなっていた事は私の胸の内に留めておいてあげよう。

 

 なぁんて事を考えていると、下着を観察されていた事に気付いた草薙の鋭い視線が正面から私を射抜いて来た。

 

「黒白先生──、この件は…教育委員会に報告しますからね」

 

「痛くも痒くも無い脅しを言うものではないさ、草薙。前任者と異なり、少なくともこの治療室内において私は君たち退魔部員の最終的な安全を保障している。

 取返しの付かない部員の生命と私が多少の趣味に走ること、どちらを取るかなど明白だろう?」

 

「ッ……卑怯者!」

 

「違うな。本当の卑怯者は自らの悪性を秘匿し、影で悪辣に振る舞う前任者のようなものを言う。だが、ああ──そうして反抗的に吼える君の顔は中々どうして悪くない。

 実に───躾甲斐があるじゃないか」

 

 一歩、一歩。静かに距離を詰めていけば、常人を遥かに超える身体能力を持つ筈の退魔JKはその身を竦ませる。

 まるで蛇に睨まれた蛙だ。視線こそ抵抗するように此方の一挙手一投足を捉えているが、身体は見えない何かに絡めとられたように強張って動かない。

 

「ひゃっ…」

 

 熱を抱えた彼女の頬に手を伸ばし、指先でそれをなぞって首筋──鎖骨へと続けていく。されるがままになっている草薙の身体は小刻みに震え、下田から伝わったものではない彼女本来の熱が身体に灯っていく。

 

 豊かな胸に足と腰付き。黄金比をやや淫靡に外れた草薙の身体は多くの欲望と妖魔を引き寄せて来た。

 

 かく言う私も、今すぐにでもこの気高くも乱れつつある巫女を欲望のままに快楽と苦痛に溺れさせてやりたい気分に駆られる。嗚呼…この肉を滅茶苦茶に貪ってやりたい。そうしてやれば、確実に愉しく最高なのだろう。

 

「先、生……」

 

 だが、胸元に手を降ろして行こうとした時、その抵抗とも呼べない懇願が私の琴線に触れる。

 

「駄目…です……」

 

 弱弱しく伸ばされた少女の細腕が私の手先に添えられ、押し返す。情欲に流されそうになっている草薙の瞳の奥で、確かにそれを繋ぎとめている理性と反抗心。

 それを強引に突き崩してしまう事は簡単だ。呪詛、淫毒、洗脳──この世界は人間の尊厳や理念を穢す手段に事欠かない。裏路地を一通りうろつけば、今の草薙を私に従順な肉塊にしてしまえる手段も道具も容易く揃えられる。

 

 

 ───だが、それではつまらない(・・・・・・・・・・・・)。

 

 

 チート(ズル)をしてゲームをクリアしても、すぐに飽きてしまう。長く楽しみたいなら遠回りこそが最良の道だ。得難い目標は相応の困難を伴うが、私はその苦痛こそが糧であり試練であると考えている。

 

 要は縛りプレイこそ至高、拘束プレイも中々悪くない。

 

「ふふ…卒業まで君は保つだろうか?」

 

「保たせてみせます……絶対に…」

 

 素直に腕を引いてやれば、草薙はへなへなとその場にへたり込んでそう答えた。

 

 

 私は草薙ミオとゲームをしている。

 

 

 もし彼女が来年度の卒業までに私に屈してしまったなら、私は彼女の持てる全てを食い尽くす。彼女の生命、精神、魂、仲間、友人、部員、顧問、学校、家族、社会──全てを食らい尽くして、何も残さず何もかもをこの腹へ収めよう。

 その代わり、彼女が私に屈しないでいる内は全力を尽くして彼女と彼女の大切な肉塊(人間)を保護する。

 

 

 そういう契約──正確には規則(ルール)──を結んでいる。

 

 それこそが、いつか呑み干すこの世界(・・・・・・・・・・)を私が最大限に愉しむためのスパイスだった。

 

 

 

 

───

──────

─────────

 

 草薙ミオがそれに気付いたのは必然であり、同時に偶然でもあった。

 

 前任の嘱託医の犯したあまりにも悍ましい所業の数々と、欲望に取り込まれて呑まれた部員の末路───学園の閉鎖もあり得る内容だったため一般部員や保護者、学生には厳重に秘匿された───を退魔部々長を介してミオは知った。

 

 嘱託医は学園上層部の意向により一身上の都合で退職した事になった。肉体も魂も穢されて消費された部員は、前任者がそう偽装したようにただ戦死した事になった。

 彼女たちは国のため、社会のためのやむを得ない犠牲だったと。

 

 ふざけるな、と思った。どこまでもどこまでも大人の事情だった。その過程で踏み躙られた乙女の尊厳は無価値として切り捨てられた。

 

 だが同時に、ミオにも分かっていた。今この学園が、ひいては退魔部が瓦解すれば街の影に蔓延る妖魔の浸透は今度こそ本当に手が付けられなくなる。

 ただでさえ裏社会を埋め尽くし、表社会にも絶えず食指を伸ばす妖魔界。ここで主要な退魔勢力の一角を担う北辰学園退魔部が倒れたなら、その危うい均衡の上で成り立つ防波堤の行く末は見え透いていた。

 

 だからミオは、部長は、真実を知りながら沈黙するしかなかった。

 

 過去の罪業は無かった事にされた。表沙汰になることのないままに、自分たちの手の届かない場所で闇に葬られてしまった。

 だからせめて、これから(未来)の悲劇は防がなくてはならない。

 そう決意したミオが外部だけでなく内部にも目を光らせるようになったのは当然の事であり、既に前科のある嘱託医という役職に一層厳しい監視の目を向けたのも必然であった。

 

 

 ───北辰学園新任嘱託医、黒白灰濁。

 

 

 中性的でやや女性に寄っているが、性別の判然としない容姿。女生徒や教諭にセクハラか過度なスキンシップとも取られない不真面目な態度とは裏腹に、治療室に運び込まれた退魔部員を誰一人欠落させる事無く生還させる神掛かった医療スキル。

 多少の問題点を加味しても十分過ぎる実績を前にしても、ミオは気を緩めなかった。

 

 黒白灰濁は前任者の齎したゴタゴタにより緊急で招集された人物だ。過去の経歴の多くが不透明で、噂には学園長が直接招いたなんて話もある。

 だからこそミオは任務の傍ら、学園内という最も身近な場所に入り込んだその正体不明を放置しなかった。

 負傷した部員の治療に付き添い、自らも敢えて簡単な傷を負って治療方法に不審な点が無いか実体験として検証するなんて事もした。

 非番の夜も寮に戻らず、部長や部員にさえ仔細を知らせず密かに学園に潜伏しては夜勤中の黒白灰濁の動向を追った。

 

 

 

 だが、いつまで経っても灰濁は不審な素振りを見せなかった。

 

 

 

 相変わらずセクハラの常習犯ではあったが、妖魔にやられる事と比較すればそんな物は屁でもない。そしてそこにさえ目を瞑ってしまえば、後は完全無欠の真面目な医者でしかなかった。

 

 

 

 

 ───気の張り過ぎでしたか…。

 

 

 

 

 さしもの彼女もそう考え、監視を打ち切ろうとした最後の夜の事だった。

 その晩もミオは治療室のカーテンの隙間から見える黒白灰濁の一挙手一投足を見逃すまいと意識を張り詰めていた。──だからこそ、背後から忍び寄る全く別の悪意に直前まで気付かなかった。

 

「なッ──」

 

『ギャッギャッギャッw』

 

 不意に背後から聞こえた邪な人外の笑みと、水音。スカート越しの尻に触れた水掻き付きの手がそのまま入ってはいけない場所へ伸ばされるのを、彼女は辛うじて回避する。

 

「河童!!何故、学園内に…!?」

 

 小柄な体格、頭部の皿、背中の甲羅、両生類に近い質感の肌。それは紛う事無き代表的な妖魔の一種、河童だった。

 しかし学園には妖魔の侵入を排する強力な結界が張られており、よしんば侵入出来たとしてそれを知らせる警報が鳴る。

 

 しかしその何方の機能も今夜は反応していなかった。こいつは何処から現れた──?

 

「──考えるのは、後!」

 

 疑問はある。しかし刃を鈍らせるのであれば今は不要だと草薙ミオはそれを切って捨て、態勢を整えて愛刀を抜き放つ。

 

 河童は決して強力な妖魔ではない。それも一体。油断しなければ足元を掬われる事は───。

 

「……え…?」

 

 振るわれた得意の抜刀術をすり抜けて、鞭のようにしなり伸縮する河童の腕がミオの足の間を抜けた。

 

(速…待っ……)

 

 そしてその先で自在に軌道を変えた腕が、今度こそミオの足の間から尻を───肛門を完全に捕捉する。

 

「──ほげぇッ!?」

 

 普段のミオからは考えられないほど汚く濁った嬌声が彼女の喉から漏れ、その背筋が仰け反る。妖魔の欲望から身を守るにはあまりに頼りない布切れ一枚はあっさり破られて貫通し、その奥にあった菊門を抉じ開けて水掻きの点いた腕が弄るように腸内を蹂躙する未知の苦痛と快楽がミオの意識を埋め尽くした。

 

「や…め…ほ゛ぉ゛おおおっ!!!??」

 

 そして何かを探るように大腸を掻き分けていた河童の腕が、丁度肉壁を挟んで裏側にミオの子宮が存在する位置で俄かに静止する。

 腸液と排泄物ばかりのその場所に何か目的の物があるかのような───有ってはならないものがあるかのような。

 

「ま…っでこれ…これ“わたし”…!? やめッ」

 

『ギャヒヒッ』

 

「ぶも゛ぅ゛ううううっ!!!!????♡♡」

 

 無遠慮に腸内に突っ込まれていた河童の腕が、今度は逆に何かを引き摺り出すように強引に戻され始める。本能的かつ絶望的な危機を感じ取ったミオは肛門括約筋を限界まで締め上げて河童の腕を腸内に拘束しようとするが、背骨と脳に痺れのような甘い快悦が走る度に全身が丸ごと弛緩して拘束もズルズル抜けていく。

 

 河童の主な能力は三つ。

 一つは水辺における基礎的な身体能力の向上と水中での活動能力。

 二つ目は左右の腕の長さを組み替える(・・・・・)事によって発揮される腕の伸縮能力。

 そして三つ目が───。

 

「わた、“わたし”が、うんちみたいに出てイグぅ~ッ!!!?♡♡」

 

 河童は肛門内に腕を挿入する事で獲物の魂を“尻子玉”として具現化、樹脂(ゴム)状物質として摘出する事が出来る。

 

 ただ、基本的に雑魚とされる河童に戦闘力の高い退魔JKが肛門を蹂躙されるケースは稀なためこの能力はあまり周知されていなかった。北辰学園退魔部副部長であるミオは知識としてはその能力は知っていたが、実際にその身に受けるのは当然初めての事である。

 

 胸と女性器、肛門、顔。性の捌け口として必要なパーツを取り揃えて人体を丸め込んだような悪趣味なオブジェがミオの腸内に生成され、それが出口(・・)に向かって引っ張られる度に意識は解け、理性が遠のいて行く。

 それもその筈、今はまだ辛うじて頭で思考出来ているミオの本体は最早肉体に守られていない。彼女の本体──魂はその腸内に生成された球体ゴムオナホ(尻子玉)として既に半ば肉体から分離してしまっており、これが完全に体外に出てしまえば肉体との接続は断たれ、意志の無い肉人形と意志しか持たないオナホの出来上がりだ。

 

 詰み。絶望。敗北。戦死。

 

 秘密裏に黒白灰濁を監視するとした手前、ミオがこの場所にいる事は同じ退魔部員ですら知らない。

 

 助けは来ない。

 

 この時点で草薙ミオは詰んでいた。

 

 

 

 

 

 ───この場にいるのが草薙ミオだけなら、可能性は皆無だった。

 

 

 

 

 

「───あまり学園内で騒ぎを起こしてくれるな」

 

 まず感じたのは濃い腐臭と血の臭い。

 次いで赤が──皮の無い組織や筋肉が剥き出しになった巨大な血色の肉塊が視界を横薙ぎにして、その道中に突っ立って一秒後の勝利を確信していた河童を轢き潰した。

 ベキャリと肉と骨が同時に潰れる鈍く独特な音が響き、ミオの肛門に突っ込まれていた腕が力を失って抜け落ちる。

 

 肛門の際まで尻子玉は露出し、既に一部が外気に触れていた。ミオは辛うじて肉体に意識を繋いでいたが、それでも身体を緩慢に動かすのがやっとの状態、戦闘など以ての外。

 それでも直前に聞いた聞き覚えのある声に反応し、彼女は身体を起してその方向に目を遣る。

 

「──黒白、灰濁…ッ!!」

 

「“先生”を付けたまえよ、草薙ミオ。学園内において君は生徒で私は教師だ。……嘱託医は教師で良かったか?」

 

 自分の発言に自分で疑問を抱くそれはここ一ヶ月ほどミオが監視の目を置いていた張本人、黒白灰濁。

 だがその左腕は人体の形状も容量も大きく無視して膨張、増殖した肉の異形に変異していた。それはこれまでミオが目にしたどんな妖魔よりも禍々しく、悍ましく、グロテスクだった。

 

 そして異質だった。

 

 灰濁の変異した左腕は妖気でも霊力でもない、不可解なオーラを纏っている。それは言わば、より原始的な───根源的な。

 

「……ほぉ?」

 

 そこまで思考を回したところで、初めて何かに興味を持ったかのように灰濁の視線が床の上から必死に起き上がろうとしているミオを見た。

 

「穴に突っ込まれて嬌声を上げるばかりの妖魔の贄かと思えば、多少の啓蒙は持っているらしい」

 

「ッ!」

 

 口にせずとも思考が読まれている事に気付き、咄嗟にミオは全ての思考を打ち消そうとした。

 

 しかしその意識の空白はどうしようもない隙であり、同時に尻から半ば魂が体外に露出してしまっているが故に齎された思考力低下が招いた判断ミスだった。

 

 異形の肉塊と化した灰濁の左腕の下で、バキボキと音を鳴らしながら河童の死体が見えなくなっていく。ただ潰れているのではない。明らかな咀嚼音が混じっていた。

 そんな異形に連なった状態でありながら、いっそ昼間と全く変わらない様子で灰濁はミオに歩み寄る。

 

 そして彼女の尻から露出した尻小玉、そのゴムで出来たポニーテールを掴むと大根でも引っこ抜くかのように、辛うじて瀬戸際で繋がれていた肉体と魂の接続を絶ってしまった。

 

 ズボッと小気味の良い音が鳴る。

 

「ぽぎゃぁッ!?」

 

 今世紀で最も間抜けな断末魔を上げ、空っぽになった草薙ミオの肉体が無表情に崩れ落ちる。魂を失った肉体は暫くは生命活動が動いているため劣化しないが、胎に残存する微かな霊力が尽きればそれも終わり、単なる生肉に成り果てる。

 

(わたし…“わたし”そのものが掴まれて…これ、どうなって…)

 

「契約しようか、草薙ミオ」

 

 人型を維持している右手で以て“草薙ミオ”を掌握した灰濁は、静かな笑みを端正な顔に浮かべながら手乗りサイズのゴムオナホを見つめる。

 

「さもなくば君は君の肉体に戻る事無く、君の愛した場所を私が蹂躙する様を手も足も無いままに見なくてはならないだろうから」

 

 “左腕”が床から離れてその身を持ち上げる。変異したその先には巨大な臼歯の生え揃った口が有り、今正にそれはミオに勝っていた妖魔を噛み砕いて残骸にしながら呑み込んでいた。

 

 自分を下した妖魔を容易く屠る力を持った正体不明の存在、その矛先が仲間へ向くかもしれない。

 

 拒否権など無かった。

 草薙ミオの剥き出しの魂がブルッと震える。それが怒りか、悲鳴か、はたまた恐怖だったのかは分からない。

 

 

 ただ結論として、この晩にこの世界の命運を賭けた気紛れ───極めて重要な契約が両者の間で締結されたのは事実である。

 

 それはまだ、飽きないでくれている。

 それでももし飽いたなら、後は喰らうことしか能が無いのだから。

 

 

 

 だが、元より退魔巫女とはそういうもの。

 ならば何も問題は無い。




~あとがき・現在公開可能な情報(本編で触れられるか分からん与太)~

黒白灰濁:
 サーキック・カルトの異端者にして追放者、崇高なるカルキスト・イオンの同期とかいう最古参だが正気だった頃のイオン様からして問題児の破戒野郎過ぎて直々に追放(放流)した。
 その後はメカニト、蛇の手、GOC、財団、蒐集院、犀賀派…etc.と兎に角多方面に関わった(迷惑を掛けた)結果、被害者の会連合に囲んで殴られ財団世界に居場所を失いJK退魔部世界に次元間移動して逃亡した。
 別世界に逃げたとは言え財団を初め各要注意団体には平行宇宙を観測する技術があるため、暫くは派手に動かず潜伏するつもりだったが、興味のある玩具(草薙ミオ)を見つけたことで緩やかに蠕動を開始している。

 黒白灰濁はそれがこの世界に来てから20秒ほどででっち上げた偽名であり、真名は[編集済み]

 [編集済み]は100を超えるオブジェクトの収容違反に関与、40近い神格実体の不可逆的変質や無力化を引き起こし、少なくとも5回のk-class未遂か既遂による2000の起動を誘発した特定要注意人物。
 天敵はクレフ博士、27回ほどガチで殺されかけている。
 イオン様と同じく元々は人間だが、現在のそれをジジイとするべきかババアとするべきかは解釈が分かれるだろう。
 そもそもが人間ですら無くなっているのだから。






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