一般通過サーキック・カルト(異端)が行く、JK退魔部世界 作:O5-69(人員補充してください)
爆弾首輪を嵌められた二人がリングに立たされている。
制限時間──首輪が起爆するまでのタイムリミットは3分。
仮面を付けた富豪と妖魔がリングを取り囲む観客席から下卑た悪意に満ちた視線を向ける中、爆弾を付けられた二人──仲の良い親友同士だった──には勝った方だけを生かしてやると告げられた。
そんな状況でも二人の絆は揺るがなかった。
二人は互いに相手を生かそうとして手を抜いた。しかしそれが良くなかった。ダラダラと引き伸ばすような戦い方は観客受けが悪かった。
結局飽きてきた観客のために、司会が適当に選んだ片方の首輪を爆破した。
生き残った方は何が起こったか分からず、分かりたくなどなく、首から上が無くなって倒れ込む親友の遺体を抱き留めることしか出来なかった。
生き残った彼女はそのままリング上で新たに投入された牛頭の妖魔に犯された。
彼女はそれに抵抗も反応もしないままにただ親友の骸を抱き締めていた。
それが面白くなかったのだろう。妖魔は遺体を取り上げ、思い切り壁に叩き付ける。
生きて霊力を身に纏っているなら兎も角、死亡した退魔巫女の肉体強度は一般人のそれと変わらない。
遺体は原形を留めないまでにぐちゃぐちゃに潰されてしまった。
それを目にした彼女は感情が爆発したかのように泣き叫ぶ。『“穴”の締まりが良くなった』と妖魔が喜ぶ。それを聞いて観客が笑う。
潰れた肉片と骨の入り混じる残骸となってしまった親友の遺体にそれでも必死に彼女は手を伸ばした。
後少し、後指先一つで届く。
そう思った瞬間、彼女の首輪が起爆する。頭が吹き飛んで、伸ばされていた手が一瞬ビクンと跳ねるとすぐに力を失って落ちた。
その瞬間、妖魔が射精した。
首の無い死体の腹が非現実的な量の射精によって臨月のように膨張する。
陰茎を引き抜かれ、膣から逆流する精液を噴き出す死体をトロフィーのように掴み掲げてリング上で妖魔が宣言した。
『ドタマが吹き飛ぶ瞬間の締まりが最高過ぎて
そのまま妖魔はリングの床に死体を叩き付ける。血と肉と精液が飛び散った。
観客は大爆笑だった。
その後はリング上に妖魔でもなんでもない野犬の一団が送り出される。
獣たちは床や壁にこびり付いた肉片や骨を見逃さず、寄り集まっては貪っていく。
それでも妖魔の精液塗れになったものは食べる気にならなかったのだろう。
野犬たちはリングの中心に叩きつけられた肉の山にだけは見向きもせず、他の物を食い終わった後に小便だけを引っ掛けていった。
去り際に群れの一匹が咥えていた骨は、肉は、彼女たちの内のどちらの、何だったのだろう。
─────場面が切り替わる。
それは何処かの工場……あるいは処理場の中だった。作業服姿の人影が機械の合間を行き交っている。
ふと、カメラが一つの方向へ向けられた。
そこにあったのは四肢をもがれ、それでも失血死しないように傷口を塞がれた退魔JKたち。彼女たちがいるのはまだ動いていないベルトコンベアの上だった。
全員が既に生きた性玩具として筆舌にし難い所業を経ていた。年齢に関わらず妊娠を経験していない者はそこにいなかったし、出産や堕胎も同様だった。
子を孕ませる事を目的とした苗床ではなく、玩具。それが彼女たちの経験した地獄。ルールも何もない、ただ愉しむ為に壊れるまで使われた末路。
彼女たちの身体には“正”の文字や“肉便器”、“性処理便所”、“使い捨てミルクサーバー”、“NG無し!赤ちゃんごとぶっ殺してね♡”なんて文言が刻まれていた。
そこに居たのは全員、飽きて捨てられた肉便器だった。人としての権利なんてとっくに失った者たちだった。
『中古の肉穴なんてガバガバだし、臭いし、どんな病気や薬を使ったのかも分かりませんからね。精肉にも出せませんから潰して家畜の飼料にするんですよ』
画面に映った説明役の作業着の男は、カメラに向けてそんな事を言う。
彼は人間だった。
妖魔ではなかった。
どうして?
妖魔から人々を守る為に、私たちは日々──。
『一度に入れ過ぎると機械の巻き込みが壊れるんで、生かしたまま流すのがコツなんですわ。そうすると勝手に少しずつ潰れてってくれるんで』
やめて。なんで。
映像でしかないそれは、既に起きてしまった事。触れようと手を伸ばしても、それで画面に触れたとして何にもならない。
変えられない。
男がスイッチを押す。ベルトコンベアが動き出す。ゆっくり、決して早くはない。
カメラがコンベアの末尾にある機械──回転する血に染まったノコギリの刃を幾重にも持つ粉砕機を映し出した。
端から生きる気力を失っていた何人かが切り刻まれてミンチになる。とっくに諦めていた彼女たちはもう何も言わなかったけれど、まだ希望を持って前に進んでいた者たちからどよめきのような悲鳴とすすり泣くような声が上がる。
動き続けるコンベアの上で、マトモな手足なんて誰一人持っていない彼女たちが必死になって前進する。
『誰が最後まで生き残るか賭けようぜ』
『いいな。勝った方が昼飯奢りで』
『じゃあ俺あの日焼けした子にするわ。運動出来そうだし』
『つーか動きがイモムシみてぇw キメェw』
カメラのマイクが拾った画面外の声が聞こえる度に、心の奥底に今まで知らなかった黒い感情が湧き立つのを感じる。
最初に脱落したのは、四肢の全てをほとんど根元から綺麗に断ち切られてしまっていた少女だった。
彼女は顎と背骨を必死に動かして何とか這っていたけれど、それでも先頭集団から大きく引き離されていた。
最後は何度も顎をコンベアの床に叩きつけて、全身の使える筋肉を総動員して血を滲ませながら前へ必死に逃げていたけれど、コンベアの動きに合わせて腰から徐々に…ゆっくりと鋸に巻き込まれていく彼女はこの世のものとは思えない悲鳴を上げた。
彼女は楽に死ぬことさえ許されなかった。意識ある限り叫び続けていた。
実際には十数秒だったそれは、彼女にとってはどれほど長く感じられたのだろうか。
脱落者の断末魔や助けを求める声を聞いて、前をリードしていた何人かが振り返ったけれど、大半は顧みることさえなかった。
それが非情だとは思えない。必要な事だった。
だって、そうやって後ろを気にして僅かにペースを緩めただけでも、渋滞みたいに狭いコンベアの上では簡単に詰まってしまうから。
そのせいで振り向いた本人か、振り向いた者のいた列の最後尾が代償を支払う羽目になった。
ベルトコンベアに出口は無い。コンベアのペースだって操作者が自由に上げられる。
この“処理作業”は、画面に映っている全員が死ぬまで終わらない。
それでも彼女たちは1秒でも長く生き永らえようと前へ前へ這っていた。
前方で体力が尽きて動けなくなった仲間を踏みのける者がいた。
鋸に巻き込まれながらも半端に残った手で前を行く仲間に縋りつこうとし、同じく半端な足で蹴り返される者がいた。
あの子が死ぬ。この子も死ぬ。この子も、彼女も、あの人も、皆、みんな死ぬ。
違う。
とっくに皆死んでたんだ。
最後の一人が残った。
回り続けるベルトコンベアは血で染まって滑りやすく、それでも彼女は息を荒くしながらコンベアの動きに食らいついていた。
『やべっ、昼休みが始まっちまう!』
………それだけが、理由だった。
作業員がコンベアの速度をいきなり最大まで上げて、彼女は血塗れの床の上で滑って、転がって──。
──頭から回転する鋸の中に巻き込まれた。
半端な手足がバタバタと暫く暴れていたけれど、すぐにそれもなくなって、血塗れの金属刃がやがて彼女の全部を平らげた。
─────他にも、他にも、他にも。
─────全ての映像には見知った顔と、何処かで見た気がする顔と、知らない顔があった。
─────見知った顔は、こんな事を言ってたっけ。
『助けて部長、副部長』『後もう少しだから、絶対にレイカさんかミオちゃんが──』『ミオちゃんミオちゃんミオちゃんミオちゃんお願いお願い早く来て』『なんで来てくれないの』『裏切り者』『やだよ、ミオちゃん』『ごめん、ミオ』『草薙先輩』
「────やぁ、酷い顔だね」
「うッ……おぇええっ…えぐっ…げぇ…」
目を覚ます。目覚めても暫くそこが現実だとは分からなかった。
ただ受け入れ難い吐き気に支配され、差し出されたビニール袋の中に夕ご飯を全部戻した。びちゃびちゃと袋の中が吐瀉物で満たす。
吐くものが無くなっても吐いた。唾液と血が混じったものが口から溢れる。
そうしてやっと落ち着いて、顔を上げる。顔を上げて現実と向き合った。
「………どうしているんですか?」
此処は草薙ミオの寮の個室だ。扉にも窓にも鍵を掛けているし、結界だって張っている。
だが、それはその全てをすり抜けて我が物顔で彼女の枕元に座っていた。
北辰学園新任嘱託医、黒白灰濁───あるいは正体不明の人外。
「寝込みを襲おうとしたんだが、既に苦悶に呻いていた君の寝顔を観ている方が楽しかったからね」
それが灰濁がこの場にいる理由、最低な動機と最低な経緯だった。
「そうですか…出て行ってください」
けれどそれ以上に、今のミオにはこの正体不明で危険な契約相手をまともに相手する心的な余裕がなかった。
返す言葉は普段より端的で、より底冷えするような声だった。
それを聞いて灰濁は愉快そうな笑みを浮かべたまま、ほんの少し目を細める。
「悪いが現状において私の行動を縛る権利は君にはない。それは契約外だ」
「……っ出ていけ!!」
「吠えるものだ、相変わらず。反抗的に吠えるのも良かったが、弱っている事を覆い隠すように気丈に振る舞う君も悪くない」
遂には明確な敵意と拒絶を向けられて尚、それは実に愉しげに笑っている。
「……ッ!!!」
何を言っても動かせない。ならばとミオは枕の下にいつも隠してある小太刀を抜き放った。
灰濁の首を狙ったそれは差し込まれた右腕を断ち切った。肘から少し先で両断された灰濁の右手が舞って、真っ赤な血が根元から吹き上がる。
けれど、本当の狙いである首は無傷のまま。
「───苦痛を避けられないなら、苦痛を別の方向へ押し付ける」
片腕を失ったというのに一切堪えた様子はなく、まだ灰濁は笑っていた。嗤っている。
返す刃でミオは小太刀を相手の心臓が在るべき位置に向けて突き出した。すると灰濁は躊躇無く残っている左手を刃の前に差し込む。
肉が貫かれる感触が刃先から伝わる。掌を容易く貫通されながら、灰濁は片手でミオの渾身の突きを防いでいた。
痛みなどないかのように、痛みすら楽しんでいるかのように、正気など端から持ち合わせていないかのように。
恐怖の色など欠片もなく、それは笑い続けている。その在り方は人の姿をしていながら、どんな妖魔よりも人からかけ離れていた。
「……化け物」
「ああ、これでも人間を辞めて久しいのでね」
灰濁は貫かれた左手をそのまま押し進め、血と肉を更に抉らせながら小太刀を握るミオの手をその上から掴む。
「万人が幸福になる事は出来ない。誰かの不均衡な幸福は、彼らが持つべきであった苦痛を代行し従事する他者により支えられる」
「………」
囁くような声が、自然と頭の中に入り込む。何処か心地良い響きだった。
そこにいるのは声と顔が無駄に良い人外だった。
「だからこそ、向かう先を持たない苦痛に晒された人間は、他者に苦痛を配分することで自らの幸福を確保しようという衝動に駆られるものだ」
灰濁は静かにミオを見下ろす。攻防の中で灰濁とミオの位置関係は、寝床の上のミオを灰濁が上から押さえ込むような格好になっていた。
滴る血が彼女と彼女の寝床を無遠慮に彩色していく。
「だが、結局のところ他者にどれだけ不幸と苦痛を振りまいても人が幸福になれる訳では無い」
天地が返る。完全に天井を向かされた視点の中で、ミオは自分が押し倒された事に気付くのに少しばかりの時間を要した。
……少し、ぼんやりしている。
「他者の苦痛により齎される幸福とは、本来自分が享受するべき苦痛を他者に強いる事で幸福のみを確保していくものであるから」
…………疲れた。
「故にこそ、既に受けてしまった苦痛を今更帳消しにする事は出来ない」
…本当に少しだけ、疲れてしまった。
「だが───苦痛を快楽で塗り潰す事は出来る。ドラッグや酒と同じさ。ただ一時のその場凌ぎだが、必要とされるからこそ需要がある。
……何もかもを手放し、堕ちる事で得られる自由もあるものだ」
小太刀が手から離れる。あぁ…今はもう、“これ”に身を任せてしまおうかな。
「───そうして君は瞳を閉ざし、何も見る事の無いままに自分の心を守るのだろう。
それで良い。元より過ぎ去った子らの死の責は君には無く、あの子らが勝手に死に絶えただけなのだから」
「───」
………溺れるように沈んでいたモノが、一気に浮上する感覚がした。
「───はぁっ…はぁっ…はぁっ……」
「……ごふっ」
手放した筈の
「………どうやったら死ぬんですか?」
「開幕からまた物騒だな、草薙。ただ一つ言えるとするなら、首を刺された程度で死ねるなら私はとっくにクレフの
草薙ミオの寝室が軽く殺人現場の事故物件と化したのはつい先ほどの事だ。
確かな命を断ち切る感触に、夥しい量の血を流してピクリとも動かない死体。
妖魔を討滅する事は今更何とも思わない。
だが黒白灰濁は明らかな人外でありながら、その肉体の変異能力を行使した状態においても妖気を観測出来ない───要は現代妖魔学において現状では妖魔と証明出来ない
ミオに殺された(死んでない)時、灰濁は一切の変異能力を使わなかった。そうすると残るのは人間のものであるとしか証明出来ない死体のみ。
あの状況が外部に知られた場合、ミオは最良でも過剰防衛、最悪は普通に殺人罪に問われる可能性があった。
だからこそ目を離した隙に死体が消えていた時、ミオは安堵した。
夥しい量の血痕だけはその場に残っていたから、急いでそれを処理して学園の治療室へ向かった彼女は当然の如くそこで
───それは半ば以上に予想出来た結果そのものだった。
そもそも冷静になってみれば、あの程度でこの正体不明は潰えない。それをミオは既に知っていた筈だった。
そこにいるモノに斬られた右手も、貫かれた左手も、刺された首の傷も無い。当然のようにそれは無傷で───何故か砂嵐の流れるテレビ画面を観て時折ケラケラ笑っていた。……普通に怖い。
──ただ、それより気になったのは…。
「………クレフ?」
「………こっちの話だ。余程運が悪いか良くない限り───いや、やはり運が最低に悪ければ君も出会うかもしれないね」
口ぶりからして人物、ないし個体名の付いた妖魔の類だろうか。
ミオの意識にその名が引っ掛かったのは、それを口にする灰濁が珍しく笑みを潜ませていて、それでいて一時テレビ画面から視線を外して此処ではない何処か遠く見つめるような目をしていたからだった。
それだけで“クレフ”という存在と灰濁の浅からぬ因縁が感じられたが、それ以上に灰濁がその事について何かを語る事はなかった。
「──それで、プレゼントは楽しんで貰えたかな?」
「………」
その言葉を聞いて浮かぶ怒り、憎悪、悲哀───様々な情動を噛み締めて、ミオは一度沈黙した。
───此処で灰濁を再度殺しても意味はなく、そもそも現状では殺す手段がなく、何より殺した場合デメリットの方が大きい。
一度爆発し切った事で、感情の手綱を今度はしっかりと握り直す事が出来ていた。
全ての発端は、灰濁が何気ない様子でミオに送り付けた複数枚のDVDだった。
以前にも灰濁は彼女宛にアダルトグッズを着払いで送り付けたり、ポストにAVを投函する地味に最悪な
だから今回も以前と同じと思い───ビデオのパッケージを見て硬直した。
悪趣味な加工がされた実写の表紙に飾られていたのは、灰濁の前任者によって売り飛ばされていた
すぐに調べたがビデオは非売品──少なくとも表のルートでは流通していなかった。当然、詳細も分からない。
どうかこれが灰濁の最低最悪な嫌がらせであって欲しいと願いながらDVDを再生したミオは───地獄を見た。
生命と尊厳を徹底的に陵辱し尽くす地獄を見た。見ていることしか出来なかった。
それからの記憶は曖昧で、どうやって布団に入ったかも覚えていない。
だが夢に逃げたところで、忘れる事の出来る事実ではなかった。
「……見なくては、知らなくてはならない事でした。そこは、ありがとうございます」
最悪な気分だった。あるいは目の前で妖魔の苗床となった仲間を介錯する事より尚、行き場のない何かがミオの胸の中で渦巻いていた。
それでも、ぎこちなくも口に出されたのは確かな謝辞。
本来、草薙ミオは文字と言葉でしか先の事件の犠牲者の末路を知る事が出来なかった筈だった。
それは端的な過程の呼称と、死亡という結末。
違法格闘大会へ出場後、死亡。性処理人形にされた後、死亡。
一行にも満たない文の羅列こそが、ミオが最初に知った仲間たちの結末だった。
退魔巫女にとって死は有り触れている。彼女たちは絶えず敵対者へ死を押し付けるし、逆に死へ晒される事もある。
そんな環境の中で、どこか死が日常となってその意味を薄めていたのだろうか。あるいは慣れてしまったのか。
少なくとも部長である
思考は必ずどこか冷めていて、感情に振り回される事はなかったのだ。
あるいは無知であったから、知らずにいられたからこそ素知らぬフリが出来ていたのかもしれない。
───確かに生きて生きようとしていた彼女らがどのように行動し死んでいったか。どのような意図により殺されねばならなかったのか。
だが灰濁が容易した起爆剤によって無視出来ない形でそれを見せつけられたミオの中で、彼女の理性と感情の敷居は淘汰されてしまった。
「黒白先生……あなたは何処であのビデオを手に入れた?」
「知ってどうする?」
「………どうすると思います?」
ミオは腰に提げていた太刀を抜き、灰濁へ突き付ける。理性の光こそ残していたが、その瞳は何処か暗く濁っていた。
彼女の意図する所を察した灰濁が笑う。
「───いいね。久々に
終始砂嵐しか流れていなかったテレビを消し、立ち上がった灰濁の足先から床へ伸びる影が不定形に揺らいでいた。
退魔巫女として無視してはならない灰濁の発言に対し───ミオは何も言わない。
それが彼女の出した答えと、これからする選択を如実に表していた。
だからこそ灰濁は楽しんでいた。殺し犯され殺されるばかりだった退魔巫女が、別の何かになろうとしているその変貌を。
「道徳、倫理、立場、法律。縛られるのも悪くはないものだが、やはり自由にやりたい様にするのもまた悦楽だろう?」
「………」
ミオは、明確に言葉にして同意する事はなかった。
だが否定する事はなかったし、今から自分がする行動が完全に正当な退魔活動であるとも思っていなかった。
否、そんな事は最早彼女にとってどうでも良かったのだろう。
知る事は時に、認識や存在を改竄する。知識と情報は人間がそうだと思っている程度より遥かに深刻に、遥かに根本的に人を形作り改変し、破壊する。
そうした事があり触れていた世界から流れ着いた異物である黒白灰濁──もとい[編集済み]は、実のところそういった現象を引き起こす事物を“異常”とは見なしていなかった。
誰かが悪意を持って描いた紋様から、他者が正確に悪意を受信するのは異常だろうか?
より素晴らしい存在に出会った事で既存の信仰を捨ててカルトに改宗するのは異常か?
自分では到底辿り着けない才能を持った同業者の作品を見た事で、人生を諦めてしまう事は異常か?
それを異常と認めてしまえば、そもそもの人間の精神自体が異常であると判定しなくてはならないだろう。
───嗚呼、この世には元より正常も異常も有りはしない。
[編集済み]は知っている。
あのイエローストーンに埋められた遺物がかつて生み出していた人類が、今とは姿も形もまるで違ったのだということを。
とある蜘蛛──あるいはヒトデが人類の認識の多くを消し去って改竄した時、人類はその姿を大きく変貌させたことを。
星々を伝染する収斂進化の行き着く果てと、その病に対する惑星のカウンター機構を。
自らの正常を信仰する人類が、端から彼らが異常と見なすものにより侵され、順応した果てにあるという矛盾。
人間は自分たちが元々どんな姿をしていたのか、自分たちですら忘れている。
この世に正常な適応など存在しない。異常に触れた事による変貌は尽く本質的に正常な進化と何も変わらない。
嗚呼、あらゆる生命の始祖すら灰濁が識り尽くそうと欲する貪食の母であるのだから、正常と異常を必死に区別したがるあの組織はつくづく報われない。
だからこそ灰濁は笑い、哂い、嘲笑い続ける。
何もかもがおかしい、何もおかしくなどない狂って正常な世界の只中で、正気など何処にも有りはしないのだから。
〜あとがき〜
作者∶
頭空っぽにして抜けるJK退魔部世界で何故かダクファンシリアスをやり始めた馬鹿。
月額500円でS5ダウンロードした人。キョンシー良いよね♪
黒白灰濁∶
財団世界内でも複数の世界線を渡り歩いている物知りサーキック。通称“転移しまくる世界の癌”
クレフ博士による27回の破壊未遂には並行世界のクレフのそれも含まれている。チャウダーとも遭遇済み。
実のところ基底次元クレフによる27回目の破壊作戦の後遺症により現在は瀕死状態にある。今回大虐殺からの大量摂取する機会を得た。
草薙ミオ∶
闇堕ちとも呼べない濁りの中に突き落とされた子。
あんだけの事をされて、あんだけの事があって尚退魔部の入部希望者が多いのって、絶対にプロパガンダと情報統制の賜物だと思います。
じゃあ──その努力台無しにするね by灰濁
基本的に灰濁は自分が愉しいと思った事しかしません。その為なら効率もしがらみも損得も二の次。
今回ミオに巧妙に隠されていた退魔JK関連商品の裏流通品を流したのも、その方が面白い事になると思ったからです。
SCP_foundationはクリエイティブコモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です
(CC-BY-SA3.0)
SCP財団
http://scp-jp.wikidot.com/
サーキシズムハブ
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SCP-2000
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・簡単な解説:
故障中のリセットボタン
クレフ博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/drclef-member-page
チャウダークレフ
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やりかけの仕事
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反ミーム部門ハブ
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CASE HATE RED
http://scp-jp.wikidot.com/case-hate-red
・簡単な解説:
ヒトデもとい蜘蛛もとい蛞蝓の影響下におかれた人間の変貌が知れる。
反ミーム部門ハブは神作なので是非ご賞味ください。
SCP-3125
http://scp-jp.wikidot.com/scp-3125
・簡単な解説:
ヒトデもとい蛞蝓もとい蜘蛛。反ミーム部門ハブにおけるラスボス。
ミームってなんだ? 現実編
http://scp-jp.wikidot.com/what-is-memes
SCP-2600-JP
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2600-jp
・簡単な解説:
宇宙に人間型エイリアンが多い理由。
SCP-1150-JP
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1150-jp
・簡単な解説:
岡山県倉敷市で発見された稲。最終的にイネ科草本以外の全世界の生物種を全滅させた。
本オブジェクトは本格的な生物学の知識の上に描かれているため読み応えがある。
SCP-2203-JP
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2203-jp
・簡単な解説:
白い花。地球全土を覆って太陽光を反射する事でスノーボールアースを引き起こす。