沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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「えらいオレんこと使いたがるなぁ」
「おまえと遊んでやるときはシャルの奴がそっけないときだ」
「遊んでやるとか」
「黙れよ、弟君」
「インターネットなる太平洋のごとく広大でマリアナ海溝より深い海は、とうの昔から一般的で理解的で、いまや誰もが無視できない存在になった。みながその恩恵を受け、知らず知らずのうちに『それ』に支配されている。ここまではいいかね?」
とかとか、めんどくさいことを言い出したのは葛葉アンナさん。
JR蒲田駅直結のスタバで向かい合ってる。
「で、『それ』がどないしたんさ?」
「人生なる小径をよたよた歩いているニンゲンからすると、ネットとはすがりつくに値する媒体だ。あえて綺麗な言葉を持ち出すと、情けない奴ほど『それ』を大切にするということでもある」
「オレはそんなん嫌やなぁ。前にも言うた覚えがあるんやけど。空想科学がどれだけ発展しても、オレは女のコに触れなかったら嫌や」
「おまえはモテるから自信満々にそんなことが言えるんだよ」
「俯瞰かつ客観的に見た場合、そうなるんやろうな」
オレはそのへん認めて、それから僭越ながら、「で、なんの用事なん?」って本題に移るように促した。
「私は『電警』のニンゲンだ」
「『電気通信警察』ってヤツ?」
「そうだ。むろん、それだけがではないんだが」
「はっきりさせたい。そうなん?」
「いや、今回は『電警』としての立ち回りだ」
「どっちやねんな」
オレはおどけるように肩ぁすくめた。
そのキャラクターからはまるで想像がつかへんキャラメルフラペチーノを口にするのはアンナさん。
「今回の、『電警』のオシゴトですかぁ? そいつをオレに持ってくる理由は?」
「言ったろう? シャルの奴が相手をしてくれないからだ」
宙にやった瞳をぐるんぐるん回したオレ。
呆れる思いが強かった。
「そもそもなんで同僚と捜査にあたらへんのん? ひょっとして、嫌われてるん?」
「そんなわけあるか。この美貌だぞ?」
「プロはそんなん考慮せーへんって思うけど?」
トロいんだよ、正直言って。
そりゃまあ、どない優秀な奴でも兄貴より優秀なニンゲンなんておりゃせんやろうな。
うーん、せやけどその事実が事実やとしても――。
「いいかげん、シャルかおまえかに仕事仲間になってもらいたいものだよ」
そりゃわかるし、前から言われてることやさかい、わかってるけど――。
「シャル兄はともかく、オレはまだ高校生やで?」
「飛び級という制度がある」
「警察にはないはずや」
「そのとおりだ。しかし、私はおまえを巻き込みたい」
「本題を教えてくださいよってに」
そないなふうに、下手に出た。
何が原因でアンナさんの機嫌を損なってまうかわからへんから。
オレってええ奴やなって、自画自賛したくなる。
「最近、自殺が相次いでる。おおむね、若者ばかりだ。十代二十代ばかりだ」
「どうやって死んでるん?」
「手法はどうだっていい」
「そったら何が問題なん?」
「『電子移民の星団』というらしい。通称『星団』だ」
「見当もつかへんな」
オレは腕を組んで、難しい顔をした。
「最近の、それこそ特に若者のネット依存度は相当なものだ。そういった連中が信じ込んでいる……言ってみれば、そういうことだ」
「えっと、すなわち、あるいは察するに、ネットに自分の記憶、ひいては個性までをもアップして、その上で自殺してはるっちゅうことですかぁ?」
「遠からず、だな。連中は自らが死んでも自らの存在はネットにおいて生き続けるものだと信じているんだよ」
「非建設的やなぁ。現状、ネットにはそこまでの万能性はないやろう? 五十年先やったらわからへんけど」
「が、たとえばSNS、そういったメディアについては、死後のニンゲンが発信していたりする」
「せやさかい、そんなん簡単なプログラムで可能や思うけど?」
私には、良くわからんのだよ。
「アンナさん、それって心理的な部分? それとも技術的な――」
「どっちもだ」
「後者の問題やったら勉強しようさ。電警なんやさかい」
とにかくだ、とにかく。
アンナさんはそう前置きして――。
「その星団をしょっぴいてやりたいんだ」
「オレに何を手伝えと?」
「すべてだ。シャルを除外した場合、頭が柔らかいニンゲンはおまえしかいない」
警察ってどんだけ空気読めへんのんさ?
――って言いたくなるところをこらえた。
「電子移民という言葉自体が、妙にリアルだ」アンナさんが言う。「だって怖いだろう? ネットを使っているニンゲンの誰もが、染まるかもしれない思想なんだぞ?」
「オレの周りにはそない軽薄で浅薄な奴はおらへんわ」
「だが、手伝えと言っている」
「そろそろ鉄砲ください」
「考えておこう」
唐突に、アンナさんのスマホが「LINEっ」ってご機嫌な声を上げやった。
アンナさんは胸ポケットから取り出すと確認して、それから「意外だ。私の仲間ががんばった」――。
「どういうことなん?」
「星団の首魁を特定したらしい」
「めっちゃお手柄やんか」
「――が、同僚だな、そいつは死んだらしい」
は?
これまたどういうこと?
「最前線で捜査を続けていた男がいて、そいつが死ぬ直前にもたらしたメッセージを、また別の男が寄越してきたということだ」
「ああ、そういう。残念やったね」
「男が一人死んだことがか?」アンナさんはストローをちゅうちゅうすする。「ご家族からすれば残念至極だろうが、私はそうは思わんね。どうあれ自分が選んだ職業だからな」
まあ、それはそのとおり。
「オレが行ってくればええのん?」
「いや、特定できたというのであれば、私が同行しない理由もないだろう」
「ほなら――」
「ああ、これから向かおう。一気に事が片付くことを、私は期待している」
「ホンマ、本件で倒れた方にはご冥福を」
「まったくだとだけ申し上げよう」
*****
防犯カメラの映像から、「星団」の「首魁」の居場所はすぐに割れた。
JR大森駅からそない遠くない位置にある廃ビルで、だいぶん昔から借主はおらへんって話やった。
のっぽなビルなんやけど――変な言い方やけど――ビルは地下にものっぽやった。
先を行くんはアンナさん。
煤けたような色合いの、白いコンクリートの階段、彼女は都度都度拳銃を構えて、階下へと進む。
「どこまで続くんだ、この階段は。もう五階くらい潜っているだろう?」
「なんやったらオレが前に立つけど?」
「それをやるとシャルが怒る」
「そんなんないってば」
「どういうことだ?」
「女性っちゅう性別のほうが大事やってこと」
そのうち、階段がなくなった。
わかってたことやけど、どのフロアも広いという結論を得た。
「ヤバいな。なんだかヤバいカンジがする」
アンナさんはそない言いつつ、その必要に駆られれば拳銃をそっちに向ける。
デカい部屋に出た。
マルチどころやない。
薄暗い中にあっていくつもいくつもディスプレイが横並びになってて、ヒトが一人、それらを操作してるみたいやった。
えらく薄毛の、後姿やった。
そいつはそのうち、回転椅子をくるりと回して、こっちを向いた。
「それ以上、動いてくれるなよ」アンナさんが銃口を向けた。「しょっぴいた上でいろいろと語ってもらいたいんだよ、わかるだろう?」
「それはだね、お嬢さん」男は明らかに老人やった。「しかし、私は何も『悪いことはしていない』という話に終始するんだよ」
「ヒトを何人も殺しておいてよく言う」
「自殺したのは彼ら自身だ。ゆえに私は罪を問われる立場にない――とでも本気で言うと思ったかね?」
……は?
さすがのアンナさんも、呆気にとられたみたいやった。
「認めるのか? 間接的にであっても、自分自身が殺した、と」
「彼らの個性――オリジナリティと主義主張は、確かにネットにアップされた」
「そのへん、この件に関わってから、私は深く考えた」って、アンナさん。「ありえない話だとの答えを得た。『個性』みたいなものは、確かにネットの海で生き続けるんだろう」
「そのクリエイト行為は誰も否定できないだろう?」
「それはそうだ。だがなぁ、じいさん、自殺を促すような行為は、やっぱり良くはないんだよ」
「それを理由として、私を逮捕するのかね?」
ああ、そうだ。
威嚇の一発を、アンナさんは放った。
「おまえみたいなじいさまが星団を創設した。じつのところ、もうそれだけで、尊敬に値する」
「わかっているのだろう? 葛葉アンナ刑事」
アンナさんのほうを見る。
ちょいびっくりしてるみたいやった。
「ネットにない情報はない」じいさまは言い切った。「女史の家族構成はつぶさにわかる。ゆえに、いつだって反撃できる」
そない脅されてもいっこうに引かへんのがアンナさんで。
彼女は「だったらなおのこと、ここで殺すことにしよう」――。
「わかった」とじいさま。「きみは私が思うより強かった。ならば、ひれ伏そう」
「じいさまの作り上げた組織は強靭で得体が知れなかった。その点は評価するが、それだけだ」
アンナさんがじいさまの額を九ミリで撃ち抜いた。
じいさまはゆっくりと、俯いて事切れた。
その旨、見届けてから――。
「アンナさん、今回オレ、必要なかったやんか」
「いいや、役に立ったよ。一人で踏み込むのは不安だったからな」
いろいろと言いたいことはあるんやけど、まあ、そういうことなら良かったんかもな。
*****
オレんち。
丸いちゃぶ台の前。
兄貴がバーボンこうてきた。
オレは近所のコンビニでサラミやらミックスナッツやらのつまみをこうてきた。
それなりに寒い夜なんやけど、兄貴がおるっちゅうだけで、ご機嫌な時間になる。
「葛葉女史からすべて聞かされた。たいへんだったな」
「そうでもないわ。結局のところ、アンナさんが片づけはったし」
「電子移民の星団、か」
「どこまで知ってるん?」
「酔狂な連中に違いないが、陶酔するニンゲンも少なくなかった」
「悲しいなぁ、そないな事実は」
「まったくもって、そのとおりだ」
バーボンをすすった。
少量を喉に通しただけやのに、胸の内がカッと熱くなった。
「インターネットは便利だ。――が、依存しすぎると何かを失うことになる」
「それは個性やったり、あるいは時間やったり?」
「どちらもかなり深刻だな。そういう意味で唱えると、SNSはかなり悪だ」
「AIの存在は?」
「あってもなくても、べつにいいのではないのかね」
「仕事を奪われるかもって聞くんやけど?」
「だったらそいつが間抜けだというだけだ」
兄貴ってば、ホンマ、容赦ないなぁ。
「星団、か」兄貴はまたそないなふうに呟いて。
「価値はあったんやろうか?」
「あったと思うがね。実際、ネットにアップされた彼らの思考は個性みたなものについて象徴的だ」
「オレは寂しい思うんやけど? 肌と肌とのふれあいって、どう考えたって気持ちのええもんやろう?」
「そうは考えないニンゲンもいるということだ。自己の保存を最優先とする……そんな奴らがいても、いいんだろうさ」
そのへん、オレにはさっぱりわからへん。
あるいはそれは「個」なんかもしれへんけど、それが永遠的になったところで、そこにオレはなんの意味があるんかわからへん。
――ま、ともかく。
「アキラ嬢は? 今夜はどうしたんだ?」
「兄貴が来る言うたら、だったら身を引こうとかなんとか」
「イイ女だな、つくづく。ああ、おまえはいい恋人を見つけた。
それはそのとおりなんやけど――。
「アンナさんかて相当な女や思うけど? ちゅうか、もっと相手してあげぇさ」
「まあ、オレがかまってやらないとおまえにとばっちりが行くからな」
「そういうことやないんやけど?」
「できるだけ、うまいことやるさ」シャル兄は言う。「今回は手間をかけた。すまない」
謝られてしもた。
そんなん必要ないし。
だいいち――。
「オレ、今回、なぁんもしてへんしな」
「アンナ女史からすれば、心強かったことだろうさ」
褒め合うだけになりそうやさかい、オレはグラスにどぷどぷとバーボンそそいで、それをぐいと口にした。
「スケジューリングがうまくいかないこともある」らしくもなく、ぺこりと頭を垂れたシャル兄。「今回は世話をかけた。すまなかった」
こういう潔いところが兄貴の確たる魅力や。
兄貴もアンナさんも明日からまた忙しいんやろうけど、がんばってほしい。
オレで役に立てることがあれば、協力するんはやぶさかやないんやし。
「泊まっていっても?」
「ええよ。ベッドは一つやけど」
「一緒に眠ろう」
「うっわ、なんや、エッロ」
「そう言うな」
兄貴はバーボンのグラスをくぃと傾けると、色っぽい吐息をついた。
ちゃぶ台の上の兄貴のスマホが「LINEっ」って声上げたんはそのときやった。
兄貴が画面を確認する。
誰? って、オレは訊いた。
「アンナ女史だ」
「なんて?」
「ノートPCを持ってこい。少しでもデカい画面で観たい」
オレは詳しいことは訊かへんで、ノートPCを持ってきた。
電源入れて、立ち上がったところで、兄貴がブラウザ開いてURLを入力した。
出てきた映像を観て、驚いた。
間違いない。
星団の、言ってみれば団長やった。
畳の上で座禅組んでて、目をカッと見開いてて、ろくに瞬きをせーへんまましゃべってる。
画面の左上に「LIVE」ってあった。
オレが知ってる情報からすると、そんなんいくらでも偽装できるんやけど、そこには妙な説得力があった。
兄貴とほっぺた寄せ合って、団長に注目する。
「信者たちよ、きみたちは私が死んだと聞かされているのかもしれないが、そんなわけはない。私はこうして生きている。きみたちに伝えたい。記憶も個性も、ネットの海に泳がせることは可能だ、可能なのだよ。いまやネットはそれほどまでに万能だ。私は年寄りであり、そうなるまで生きている以上、そこまで人生に絶望したことはない。だが、たとえばこの動画を――リアルタイムで――観ている同志諸君はそうではないのだろう。絶望することは可能だ、簡単だ。できることなら、早々に絶望したほうが楽になれるかもしれない――とは保証する」
きみたちは賢い。
私の存在を認めてくれたきみたちの思考回路は尊い。
「誰もきみを理解しなかったのは、きみが先進的すぎたからだ。私はそう考える。きみたちにも考えてもらいたい。ヒトはヒトであるがゆえに、肉体というくびきからそう簡単に乖離することができない。悲しいことだ。むなしくもある。だからこそ、考えを改める必要があるのだと思う」
きみたちは巨大だ、大いなる存在だ。
誰ともわかりあえなかったのかもしれない。
だが、やはりそれはきみがきみたちが、他のニンゲンとは異質な考えを有しているからだ。
疑わないで欲しい、自らのことを。
きみたちのことは、私が認める。
勲章はそれだけしかないが、それで満足していただけないのであれば、それは私の力不足なのだろう。
「だが、今一度、思考してもらいたい。そしてそれは自慰かもしれないが、きみたちは自らを誇って欲しい」
私はきみたちのことを誰よりも認めている。
認めているのだよ。
その上で、この動画をご覧いただいているであろう警察――特に「電警」のみなさんに伝えたい。
「我々の存在、あるいは存在価値というものは、とてもではないがニンゲンという容器には収まりきらないのだ。その旨は理解していただいているものだと思うし、その考えに間違いはないと考えている」
ほんとうに、真剣に考えてみてほしい。
「我々ヒトの容器――器なる肉体に、その精神性をすべて受け容れてもらうのは無理なのではないだろうか?」
私はそう思うし、そう考えるからこそ、ヒトの肉体からの飛躍を謳ったのだ。
「何度だって申し上げよう。ニンゲンの思考や嗜好を受け容れるにあたって、ヒトの肉体は精神は、あまりにも脆弱ではないだろうか」
なるほどな。
言うてオレのほっぺたからほっぺたを離すと、シャル兄はバーボンをぐいとやった。
「彼は天才なのかもしれないな」
「オレにはただのじいさまにしか見えへんねんけど?」
「本気でそう言っているのか?」
「いや、じつはそうでもない」オレはふるふると首を横に振った。「せやけど、ラディカルすぎたなって思う」
「それでも多くのニンゲンを自殺へと導いた」シャル兄は言う。「言ってみればただの『無敵の人』だったんだろう」
無敵の人、か。
「奴さん、ホンマに死んだんかなぁ。アンナさんが仕留めたんは影武者やったとか?」
「それはないな。それくらいは調べたんだよ」
「せやったら――」
「ああ。奴さんは素晴らしかったんだろう」
素晴らしかった。
異議を唱える余地がない。
「ヒトの肉体は精神は、あまりにも脆弱ではないだろうか」
モニターの向こうで、星団の首魁は、も一度そないなふうに謳った。