沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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八重洲口から出てそう遠くないとこにある居酒屋にて兄貴と飲んでた。
飲むとなればいっつも蒲田まで来てくれる兄貴やさかい、たまには東京駅まで出向いたろう――あるいは出向く必要があるって考えたからや。
飲んだあと、兄貴はわざわざ駅まで送ってくれた。
そこにオレは兄貴の愛を見た次第や。
遠いようで、じつは東京から蒲田までは近い、電車一本やしな。
にしたって終電やさかい、眠気に苛まれながら吊革に掴まってた、こっくりこっくりと首が落ちそうになる。
蒲田に着いたところでアキラっちに電話した。
今夜はオレんちでなんや暇潰ししてやるはずや。
だいぶんコールしてから、アキラっちは通話に応じやった。
何してるんや?
そない訊いたら、『メメたそと鉄拳8』だって返ってきた。
まったく、どっちも好きやなぁって、少々、呆れたくなる。
『おにぎり買ってきてくれよ、権兵衛の』
「残念。もうとっくに閉まってしもてるわ」
『だったらあたしの空腹はどうしてくれるんだ?」
「コンビニでたまごサンドでもこうてったるわ」
『それはそれで助かるんだぞ』
「ほなな」
――と通話を切って、改札を抜けたときやった。
スーツ姿の禿げ頭のおっさんが、しゅっしゅしゅっしゅってシャドーボクシングしてやったんや。
終電なる名前だけで疲れてまうような乗り物から降車してきたヒトらは、女も男も避けるようにして立ち去っていく。
見当くらいしかつかへんけど、禿げ頭のおっさんが酔っ払いなんはわかった。
同僚やろうおっさんが後ろから羽交い絞めにしたんや。
仲間思いやなぁって思わされた。
禿げのおっさんが殴ったんやろう。
屈んで鼻を押さえてるのはこれまたたぶん、おっさんや、白髪交じりの中年と思しき男性。
殴られることには――ちゅうか暴力に慣れてへんねやろう、頭抱えて怯えてる。
同僚の羽交い絞めから逃れて、禿げ頭のおっさんが白髪交じりのおっさんに襲いかかった。
居合わせた以上、無視はできへんなぁおもて、オレは前に出て、勢い良く突っ込んできた禿げ頭のおっさんに足払いを決めた。
つんのめるようにして、どしゃっと倒れた禿げのおっさん。
だいぶ派手に転んだもんやさかい立ち上がるのには時間がかかったんやけど、それでもオレに向かってきた。
殴ったらややこしい。
おまわりさんがやって来るかもしれへん。
オレは両手をそれぞれ腰の後ろに回して、非暴力を示した。
右の拳をかわして、どーんって身体の前面をぶつけてやった。
その途端、周りからなんとも言えへん拍手が起きたっちゅうわけやった。
禿げのおっさんの同僚やろう人物が慌てたように近づいてきた。
「ごめんごめん、ごめんなさい」言うて、しつこく謝ってみせやった。
恐らくやけど、オレが大人に見えたからやろう。
オレは同僚の男性に右手で「待った」をした。
それから禿げのおっさんに、「どうすんねんな? まだやるかぁ?」って笑いながら――笑いながらやけど凄んだんや。
そったら、おっさんは明らかに怯えた様子で――。
オレはしゃがんで、禿げのおっさんと目線を合わせた。
「ひ、ひぃ! カンベンしてくれぇっ!」
おいおい、さっきまでの勢いはどないしたんや。
「名刺」オレは右手を前に伸ばした。
「め、名刺?」
「くれたら、この場は引いたるわ」
「名刺は許してもらえないだろうか……?」
「寄越せ言うてんねん」
「うっ、ごめんなさい」
オレは身を翻して、今度は殴られたらしい白髪が交じりつつあるおっさんのほうへ。
近づいてしゃがんだところで、「あんたも名刺くれや」って偉そうに言うた。
「へっ、名刺?」
「ウチの兄貴は警察官なんや。なんか揉め事になりそうやったら、助けてやれますよってに」
「じゃ、じゃあ、きみの名刺も――」
「あいにくオレは持ってへん。しがない高校生なんやよ。明日にでも連絡するさかい、飲みいこうや」
「えっ、でも、今、きみは高校生だって――」
「そこそこ飲めるんやわ」オレはウインクしてみせた。
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前日は終電で蒲田に着きやったことからお住まいも近所なんやろうおもて、オレは殴られたほうに電話を入れた。
名刺で確認できたんは、おっきぃ物販の営業さんらしいってことで、「マネージャー」ってあったんや。
裏は英語で書かれてた、ホンマにデカい会社やさかい、それくらいはあたりまえのことなんかもしれへんけど。
「では、おっさん、飲みに行こう。ええ店、知ってるんやわ」
『二人きりだと緊張するなぁ。だってきみは目立つから』
「ほならオレん恋人、伴ってったるわぁ」
『い、いや、いいよ。それはそれで申し訳ないから』
ほな、西口で待ち合わせな。
う、うん、わかったよ。
ええ年こいたおっさんがどぎまぎするんは、なんとなく可愛らしく感じられた。
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今夜も今夜で「ストレイシープ」、気の利いたドリンクからごついステーキまでいろいろ出してくれる。
おっさんっは落ち着かへん様子で天井をくるくる見回す。
おっさんの名前はもう知れてる。
宮根
なんとも真面目で両親の期待と人の良さが窺える名前やなっておもた。
「勉さんはいくつなんですかぁ?」
「46だよ」
「結婚は?」
「しています……」
「敬語はやめようや」
「それでもほとんど初対面だから」
今度はなんとなく照れくさそうに、勉さんは頭を掻いた。
オレはおもむろに、二人ずつで向かい合う四人席のテーブルに茶封筒を置いた。
「なんだい? これは」
「中身、あらためてくださいな」
封をしてへん封筒を除くと、勉さんは「えっ!」ってびっくりしたような声を出した。
「えっ、えっ? なんだい、これは」っちゅうて目を白黒させた。
「昨日のおっさんからふんだくってきた。水に流したるさかい金払えってな」
「そそっ、それは脅迫になるんじゃないのかい?」
「向こうが納得済みのことや。心配あらへんよ」
「でも、受け取るわけには……」
「もろてくれへんねんやったらオレが引き受けるけど、オレはそんなん嫌や」
受け取ってください、お願いします。
そない言うて、オレはぺこりと頭を下げた。
勉さんはしばらく俯いたのち、「ありがとう」って小さく呟いたんや。
「そのかわりや、勉さん。ここは奢ってほしい」
「そう申し出ようと思ったところだよ」
勉さんは初めて明るい笑顔を見せてくれた。
「ああ、オレの名前、まだ名乗ってなかったな。要る?」
「聞かせてもらいたいな」
「イクミやよ。犀川イクミ」
「へぇ。綺麗な名前だなぁ」
「自慢の名前やよ」オレは悪戯っ子みたいにわろた。
ところでさ、イクミくん。
そない前置きをすると、勉さんは「その猫はなんだい?」――。
「ひょっとして、その黒猫さんが恋人なのかい?」
「ちゃうけど、愛してはいる」
「どうして左目に眼帯を?」
「阿呆にやられた。頭を強烈にぶっ叩かれたんや。やられて眼球破裂」
「ひどい話だなぁ」
「せやろぉ?」
黒猫のホープさんは、気分良さげに「にゃぉーん」って鳴いた。
ホープさんは常連やさかい――でもってグルメやさかい――小さく小さく切られた牛のサイコロステーキを食べる。
お上品に食べるもんやから、ソファを汚したりすることもあらへん。
「昨日はなんやったん? 平日から終電まで飲み会やったん? そないな年でも地位でもないと思うんやけど」
あはは。
そないなふうに、勉さんはあいまいにわろた。
「後輩なんだけど、若いヒトに誘われると断れなくってね」
オレは眉を寄せた。
「そないな調子やと上司から来い言われた折にはついていくしかないんでは?」
「まあ、そうなんだけどね」
今度は明らかに苦笑――。
「僕は中途半端な身分だから」
「たとえば、同い年くらいの同僚はもっと出世してるってこと?」
「きみは察しがいいんだね。そのとおりだ。同世代のニンゲンはみんな部長かそれ以上だ」
「学歴の問題?」
「いや。仕事の問題。僕は大したことができないんだよ」
卑下するんは良くないと思う。
せやけどそこに優しさが見え隠れするもんやから、物申すことはためらわれる。
「アルコールは? 強いん?」
「飲めるほうだけど、昨日のヒトみたいに攻撃的にはなれないなぁ」
「ならんでええやろ? 大人なんやさかい」
「きみは相手をやっつけたじゃないか」
「オレはまだガキやさかいな」
オレははっはっはって鷹揚にわろた。
「ラムコークかぁ。若いようで渋いなぁ」
「勉さんのほうが玄人やわ。こないなバーで日本酒って」
「まさか置いているとは思わなかった」
「兄貴も同じように飲むんや。とっくりからそそぐと、ちびちびやる」
「お兄さんも、カッコいいんだろうね」
「そりゃあな」
突然やった。
勉さんがテーブルに突っ伏しやったんや。
泣き声で「どうしてだろう。どうして全部全部、うまく行かないんだろう……」――。
弱気抜かす男は好きやない。
せやけどええ年こいたおっさんが泣くことについては寛容でいたい。
「何をやってもうまくいかへん、仕事も、たぶんプライベートも。そんな勉さんになんかこう、しがらみから解放されるような趣味はないんか?」
「趣味、かぁ……」勉さんが、ゆっくりと身体を起こした。「笑わないで聞いてくれるかい?」
「それはわからへんど」オレは目ぇ細めた。
草野球……。
呟くように、さらにはどことなく恥ずかしそうに勉さん。
「照れることあるかいさ」オレはうんうんって頷いた。「ええやんか。野球。オレは大好きや」
「そうなのかい?」
「意外ですかぁ?」
「いや、何をやっても上手そうだけど……」
「次の試合は? いつやるん?」
「日曜日だけど……で、でも知ってどうするんだい?」
「応援しに行く」
勉さんは目ぇ丸くしやった。
「えっ、悪いよ、そんな……。それこそ恋人と過ごしたほうが……」
「その恋人と一緒に行く。せやったら、かめへんやろ?」
「でもなぁ……。いいところを見せられるわけがないしなぁ……」
「一生懸命にやることに価値がある――って、若造のオレが言うても響かへんよな」
せやけど観に行きたい。
オレは真剣な目を向けた。
そったら、勉さんは折れてくれた。
場所は多摩川の河川敷らしい。
ウチと目と鼻の先やって言える。
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当日、寒くて、オレは右手に、アキラっちは左手に手袋してる。
空いたほうの手を繋いでるっちゅうわけや。
そのうち、目当ての場所についた。
河川敷は広くて――球場もおっきぃんや。
アキラっちが、くちゅんくちゅんて二回くしゃみした。
「どうしてだろうな。くしゃみは二回でワンセットだ」
謎やな。
それってアキラだけやとも思うしな。
ボディバッグに入れてきたブルーシートを草の斜面に敷いて、二人並んで座った。
特等席や、球場がめっちゃ近い。
相手チームと向き合って礼をするとき、白いユニホームに赤いキャップ姿の勉さんは後ろのほうに並んでた。
こっちに気づくと、帽子を取ってぺこぺこ頭を下げた。
相変わらず、奥ゆかしいなぁ。
せやからこそ、観戦しに――応援しに来たわけやけど。
始まった途端、一気に点差が開いた。
弱い。
チームの体をなしてへん。
おっさんどもが不格好に投げたりバッターやったりするだけや。
レフトで八番。
一番気楽なポジションで、せやけど緊張してるらしい勉さんは一打席目は三振。
「勉さんとやらはやる気、あるのかよ?」アキラっちが呆れたように言うて、水筒に入れてきた紅茶を飲んだ。「ああ、寒い寒い。あんまり長居はしたくないぞぅ?」
「そう言わんと」オレはにっこりわろた。
アキラっちはしゃぁないなあみたいに肩をすくめた。
「おっ、勉さんの二打席目だぞ」
一球目は空振り。
二球目はストレートを見逃し。
「おい、今のコースはボールじゃないのか? 審判、からいなぁ」
アキラっちが立ち上がった。
なんやかんやで応援したるつもりなんやろう、両手を上げたところで「おーい、がんばれーっ!」って言うてやるつもりなんやろう。
するとや、いきなりおっきな声が後ろから聞こえた。
「パパーっ! ファイト―っ!」
ってなふうに、気持ちがよくて清々しい女のコの声があたりに響き渡った。
慌てたように勉さんはタイムをかけて、バッターボックスを外した。
遠目でも、じわりと涙ぐんだのがわかった。
遊歩道からデカい声でエールを送ったんは、年恰好からして娘さんやろう、たぶん、中学生くらい。
枯れた感じがなんとも素敵な女性は奥さんなんやろう。
奥さんとはあんまうまくいってへんみたいに聞かされたつもりやけど、案外、そんなこともないんかな。
それとも娘さんががんばって、かすがいになろうとしてるんやろうか。
一球、冷静に見送ってからの四球目がバットに当たった。
ボテボテやったけど、三遊間を抜けた。
ファーストベースの上で、家族に向けて、ガッツポーズをしてみせた勉さん。
娘さんはぴょんぴょん跳ねて喜んで、奥さんは両膝を折って両手で顔を覆った。
ええ家族やないか。
きっとうまくいくはずや。
そのあと、勉さんは張り切って盗塁を仕掛けて、ヘッドスライディングまでかましたんやけど、それはさすがに失敗やった。
「いいぞ、おっさん! 立派だぞ!!」
アキラっちにデカい声でそない言われると、勉さんは、今度は照れくさそうに、ヘルメットのつばに右手をやった。