沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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目の前の「ソレ」を頬張ったアキラっちの口の端から流れた「白い液体」が重力に引かれて落ちる。
だらだらだらだらと、だらだらだらだら、と。
アキラっちはオレと歩くときはけっこう、そのデカπの露出度についてガードがゆるい。
今日も美しい首回り、無暗に誇示してるつもりはないとしても、無防備に強調してしもてるようには映る。
そんなアキラっちの胸元を白く染めんとしてる白い液体について、とりあえず、顎に紙ナプキンを当てることで対応した。
それでもじゅわじゅわ湧いてくる白い液体は止まらへん。
せやさかい、オレは「ちょい落ち着けやぁ」って呆れる思いで言うた。
白い液体の出所はもちろんオレの「アレ」なわけがなく、すなわちそれは、モッツァレラチーズやった。
ナポリ帰りらしい店の主人から「ホンモノを食べてみろ」って武骨な感じで寄越されたもんやった。
そいつをアキラっちは口に含もうとした。
ちょい大きいもんやから切ったろうって提案したんやけど、アキラっちは右手で掴むとおもむろに「あむ」って噛みついたんや。
次の瞬間、チーズからは白い液体が飛び出し染み出し、アキラっちの口元をえっらい汚してくれたいうわけや。
アキラっちがえらいんは、一度でもかじったもんはまもなく完食してまうっちゅうとこや。
つまるところ、結局のところ、きちっと食べきってみせたんや。
「うん、うん、イタリア人の血が半分入ってるあたしとしてはだな――」
おぉ、感想戦か?
って、ちょい待てや
嘘つけぇっ。
おまえは生粋のニッポン人やろうがぁぁっ。
「それでも言わせてくれ。このモッツァレラはホンモノだ。フレッシュだ、新鮮だっ」
フレッシュも新鮮も出所が違うだけでおんなじ意味やけど?
「てか、ナマはこんなにみずみずしいものなんだな。ニッポンの多くの店でモッツァレラを名乗ってるモッツァレラはモッツァレラはじゃないぞ」
よくもまあ、短いあいだに「モッツァレラ、モッツァレラ」って連呼したもんや。
アキラっちはもうスライスされたトマトを食ってる。
気持ち良く食べて気持ちのええ笑顔を浮かべてくれる女のコほど愛おしい存在はあらへん。
「こないなとこ、よう見つけたな、アキラっちは」オレは狭い店内――ねずみ色の天井に目ぇやった。「ちゅうか、まさか雑色商店街に本格石窯のピザとか。チラシでも入ってたんかぁ?」
「チラシは配ってないみたいだ。でも、ウチの家族はみんな知ってた」
そうか。
商店街に店を構えるヒトらくらいには周知してたっちゅうわけや。
組合的な考えには従う必要があるんやろうし、そうでなくたってそうしたほうが気楽に商売ができるっちゅうもんやろう。
マルゲリータを前にして、きらきらと目を輝かせるのは何を隠そう、アキラっち。
「おぉぉぉぉぅ、見事なコルニチョーネだ。じょうずな焼き加減だ、うまいぞ、これは」
水を一口飲んで舌を慣らしたアキラっちは――ここはそういう流儀らしい――おっきな黄金色のハサミを使って、自分の分の三角形を切り分けた。
オレに「あーん」ってしてくれる。
オレは「あーん」ってしたわけやけど、アキラっちは翻ってそれを自分でぱくって食べやった。
「どない?」
アキラっちは咀嚼を終えると、「うまーいっ」って満面の笑みをみせてくれた。
「うまいよ、マジで、うまいうまいうまいっ! あたしが出会ったピザの中で一番かもしれないぞっ」
ってな感じで店内にそのドデカい声を響かせたアキラっち。
それなりに混み合ってるんやけど、それでも彼女の素直すぎて大いなる感想は店の宣伝に一役以上、買うことやろう。
寒い時期にあっつあつのピザ。
もうそれだけで嬉しいんやけど。
その夜、アキラっちがいよいよ、オレの「白い液体」で口元を汚したことは言うまでもない。
出しても出してもしゃぶりついてくるもんやさかい、そこにあるのはすなわち永久機関でしかない。
*****
ガッコの帰り、オレはアキラっちと手ぇ繋いで、くだんのピザ屋の前に立ってた。
ピストル・ピザ。
そないな店名にオレはセンスを感じてるんはオレもやって話や。
「なんだよ。オープンしたばっかなのに閉まってるとか」
アキラっちが言うんはもっともや。
空はもう暗いし、夜の営業時間開始の17時も過ぎてるし。
アキラっちの思いきりがええところや。
アキラっちはばんばん店の戸ぉ叩いて、「おーい、おーい!」って大声で呼びかけやった。
――が、返事があらへん。
「なんだよ、どうしたのかな?」
「止むに止まれぬ理由がありやるんやろぉ」
「開いたばっかの店じゃんかよ」
「それはそうなんやけどさ」
「おーい、おーい!」
「せやからアキラっちよ、ドアはそうどんどん叩くもんやないぞ?」
「でも食べたいんだからよ。おーい、おーい!」
そのうち、戸から人がぬっと姿を現した。
先日のおうた、えらくガタイのええ主人やった。
なんやろ、酒臭いな。
足元もおぼつかへん感じやし。
「なんだ、おまえら。誰だ……って、ああ、その爆乳には見覚えがあるな」
男からチチんこと言われたら嫌に思うのがあたりまえなんやけど、そのへん、アキラっちはもう慣れてやる、耐性がある。
せやさかい、用件だけ「ピザ食べに来たんだけど、なんだか無理そうだな」ってつまんなそうに言いやった。
「いいよ。おまえらカップルは印象に残ってる。おまえらにだったら、焼いてやってもいい」
「つくづく偉そうなおっさんだな。客に対してなんて振る舞いだ。ひいてはナポリのイメージすら悪くなるぞ」
「……すまない。食べていってくれ。ナポリはいいところなんだよ」
「おうよ」アキラっちは豊満すぎるその胸をバルンっと張った。
*****
ピザってのはサクッと簡単に出来上がる。
石窯が素敵な当該店舗においてもそうや。
外はすっかり暗い中、狭い店内で今日もアキラっちが真っ先にかぶりついた。
「おぉぉ、今日もうまい、うまいぞ?」
アキラっちってばなんともご満悦の様子。
「だからこそ、よくわからないんだけどさぁ」って、厨房にいる主人に声を掛けたアキラっち。「なんだよ、オープンしたてだっていうのに営業時間が安定してないとか。なんかあるのかよ?」
そこには大人らしいなんらかの理由があるに決まってるんやけど――アキラっちかてそのへん察してるに違いないんやけど――それでもツッコミを入れるあたり、その度胸は大したもんやな、って――。
「ウチの店の名前は、嬢ちゃん、知ってるか?」
「あん? なんだよ、今さら。『ピストル・ピザ』だろ?」
「いい名前だとは、思わないか?」
「いい名前だよ。実際、あたしの胸にはずきゅんときた。だから今日もこうして来てやってるんだぞ」
全部食べ尽くしやるんやろうおもてたら、しっかり「あーん」ってしてきてくれた。
指までしゃぶってやると、「やだぁ、やだぁ」言うて、アキラっちはわろた。
「女房と、うまくいってないんだ……」
主人のいきなりの告白に、オレとアキラっちは顔を見合わせた。
「……えっと」さすがのアキラっちも言いにくそうに――。「でもさ、そんな理由で店を開けないっていうのか?」
「そんな理由って、言ってくれるよな……」苦笑の顔を俯けた主人。「どうにもならないことも、あるんだよ」
「ないよ、そんなの。あるわけないし、あっていいはずがないだろ」バッと両手を広げたアキラっちである。「こんなにうまいピザを作れるんだ。それだけで紫綬褒章ものだ。なのになんでそのへん誇って、夫婦仲良く商売しようってふうにならないんだよ!」
語尾上げてツッコミ入れてくれたんは堂々としてるけど、アキラっちよ、それはたぶん、ずいぶんな言い分なんやわ。
せやけど、主人を勇気づけようとしてるんはわかるんよなぁ。
「奥さんとうまくってないって、どういうことなんだ?」
「そのあたりの事情をよく知りもしないガキの女に話すのはどうかと思う」
「ガキだからダメなのか それとも女だからダメなのか? 立派な男が相手だったときだけ話せるのか?」
「ああ、いや、悪い。悪かった」
「たぶん、そのへんがダメなんだろうな。おまえはエセのフェミなのかもしれない。だからとことんダメになっちゃうんだろうな」
ホンマに怒ってもええ場面や。
せやけど、主人はなんやかんやで煮え切らん顔。
そこにある事実とか事情とかはわからへんけど、少なくとも、だぁれもこのピザ屋を潰すんは望んでないっちゅうこっちゃな。
人影、その気配。
どこぞのだれぞかが店内に姿を現した、裏口のほうから。
こないだ訪れたときもてきぱき客対応をこなしてた。
あんま化粧っ気のない三角巾姿の彼女――おばさんと呼ぶにしては若すぎるし、おねえさんと言うには微妙に枯れてる女性が奥さんなんやろう。
あっ、ごめんなさい。
みたいな感じで奥さんはぺこぺこ頭ぁ下げてみせやった。
びっくりしたみたいに立ち上がったんはアキラっちや。
いいんですいいんですって両手を振って、むしろ「ごめんなさい、ごめんなさい」ってぺこぺこ返しをしてみせやった。
和やかな雰囲気になりそうなシチュエーションやった。
その空気を無残に切り裂いたのは、主人の心無い言葉だった。
なんとまあ、「すっこんでろ! 誰も呼んでねーんだよっ!!」――。
顔を真っ赤にしたアキラっちが「馬鹿かぁ、おまえわぁぁっ!!」って叫びやった、なにせシングルタスクの単細胞なもんやさかい、「殺してやるぞ殺してやるぞ!」、物騒なことまで平気で言う。
「っるさいんだよ、おまえっ!!」
「だったらこっちに来い。あたしは折れないぞ! 腕力にだって泣き言吐いたりしないんだぞ!!」
だいぶん、頭に血が上ってるんやろう。
主人がぶっ殺してやるとでも言いたげな勢いで厨房から出てきた。
アキラっちときたらむしろやる気満々、ぶち食らわすつもりや、オレに「どけよ」と言うて席を立った、しゃあなく場を譲ってやる――なんて真似はさすがにできへんさかい、女に、あるいは恋人に暴力させるんはようないさかい。
せやけど、気持ちはわかったから。
オレは代役や。
代役やけど、重要な役割や。
なによりオレ自身頭にきてへんのかって訊かれたら否定するしかあらへんからな。
わかるよ。
奥さんの気持ちかて、アキラっちの気持ちかて。
せやさかい、オレがぶちのめしたるんが一番やって考えたんや。
テーブルも椅子も巻き込んで向こうのほうへとぶっ飛んだ主人は、すぐには起き上がらへんかった。
一般的に言えばかなり強烈な一撃やったとしても、ごつい主人にはそこまで効いたとは思えへんかったんや。
だぁれも、なあんにも言わへん刹那が二つ三つと場を支配して――。
「アキラっちは? あるいは奥さんは? 何か意見表明があるなら、ぜひともこの場で」
オレがそない訴えても、だぁれも何も返してこぉへんかった。
しゃあないさかい――。
「帰るぞぉ、アキラっち。なんや眠ぅなってきたわ」
「わかった、帰る。おまえが言うなら帰る。でも待ってくれ。あたしは奥さんと話がしたいんだ」
「オレはそんなんすらめんどくさいっておもてるんやけど?」
「嘘つくなよ。おまえはそんなにひどい男じゃない」
自画自賛は嫌味でしかないんやけど、まあ、そのとおり。
「……鼻血、拭いてくる」言うて、店主は店の玄関から出てった。
鼻血の処理くらいならその場でもできるやろうに。
オレらと奥さんとの会話に成果を期待してるっちゅうことやろうか。
せやったら、「甘えんな」って言うてやりたいとこなんやけど、オレら二人はとことんお人好しやさかいなぁ……。
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オレとアキラっちがすとんとテーブル席につきなおすと、正面に座った――白い三角巾姿が愛おしい――奥さんは、しくしく泣きだしてしもた。
状況から察するにだいたのことはわかるつもりやけど――答え合わせをしたいわけでもないんやけど――オレらは奥さんの言葉を待った。
「浮気とか、原因は、そういうのではないんです」
ああ、そうやろうな、奥さん。
まあ、そうなんやろうな。
「ただ、どうしてかな? 私とはあまり気が合わないみたいで……」
気丈な感じで話した奥さんに、アキラっちは「どうしてそうなるんだよ?」って怒りっぽく訊ねた。「だって愛し合って結婚したんだろ?」――。
「きっと私がおばさんだからいけないの」
奥さんのそのセリフには、さすがにムカついた。
アキラっちはもっとそうやったみたいで、それでも「だったらアレがアホなんです!」ってカンペキに奥さんの味方につきやった。
奥さんはまたしくしく。
「何が悪いんでしょうね。彼は私の顔を見ることすら嫌みたいで。だいぶん年上だからかなぁ……」
「相手の性質とか性格とか、結婚ってそんなのわかりきってすることなんじゃないんですかぁ?」
「あなたは若いからそう言えるんだと思う。今、隣にいる彼だって、いつ、気が変わるか――」
「ああ、ああ、黙ってようおもたんですけど、さすがにそれはちょい待ってください。言いすぎですよってに」
「言いすぎ?」
「オレの隣にいる彼女。オレの彼女への思いを安っぽい言葉で語られたくない。アンタの物差しで、オレを測んな、オレんことを、片づけんな」
まるで突拍子もないことを言われたような感じで、びくっと身を引いてみせた、奥さん。
それから奥さん、顎を引いて、沈んだ声で、「あなたに、あなたたちに何がわかるっていうの……?」――。
オレは多様性に満ち満ちたニンゲンやさかい、「そのとおりや、わからへんわ。阿呆なんか、アンタは」って告げた。
「女性に冷たく当たるのが、あなたの言う多様性なの?」
「ああ、そうや。それも含めて多様性やろう?」
「文句は言えない、言えないけど……」
「誰かに優しくしてもらいたいんやろ? せやけどそれって、人任せやなって思わへん? 弱いなって、思わへん?」
「思うけど、思うけど……っ」
そもそも、何があかんねんな?
つまるところを知りたくて、オレはそない訊いた。
「……赤ちゃんが」
「んあ?」
「赤ちゃんが作れないから、私はダメなのかな、って……」
途端、奥さんは両手で顔を覆ってしもた。
「たぶん、いえ、絶対にそうなの。彼は子どもが大好きだから。子どもの笑顔が大好きだから……」
なんともつらいことを吐かせてしもたな。
――とは思わへんあたりの人非人さが、良くも悪くも、オレの特徴なんやろう。
「奥さん、まだ若いみたいに見えますけど?」
「年齢の問題じゃないの。身体の、身体の『つくり』の問題なの……」
さすがに地雷やなおもた。
踏んでしもたんは恥じなあかんな。
どないなふうに切り出したもんかわからへんかったんやろう。
せやけどこのタイミングでアキラっちは、「それでもそれって単純な問題だと思う」ってしっかりした意見を言いやった。
「最近、あたしは何を優先すべきかって視点で物を考えるようになったんだ。都度都度、ケース・バイ・ケースでいろいろとあるんだけど、困ったときには必ず隣のコイツのことが頭に浮かぶんだ。そうあるあたしは幸せなんだ。誰よりも幸せなんだ」
アキラっちは照れ屋やけど、照れ屋やからこそ、ときどきのたまうまっすぐな言葉には価値があるってふうに思う。
「奥さんさ、話し合おうよ。アイツだってわかってるんだ。わかってるはずなんだ。子どもっぽいわがままを言ってるだけなんだ」
「あなたはまだまだ若いから、そんなふうに言えるのよ」
「ひょっとしたら一回りも違うかもだけど、あたしは奥さんのことを美人だって思ってるよ?」
「また、そんな、嘘ばっかり……」
アキラっちがテーブルを回り込んで、左右にそれぞれ両手を広げた。
たまりかねたように、立ち上がった奥さんは、アキラっちの胸に飛び込んだ。
えーんえーん、えーんえーん。
奥さんは子どもみたいに泣きじゃくった。
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今夜もアキラっちは白い液体が滴るモノ――新鮮なモッツァレラチーズのカタマリにかぶりついてる。
今日で店をたたむっていうのなら来てやるつもりなんてなかったんや。
明日からしっかり営業するからっちゅうんで来たったんや。
「ホント、いいよ、このモッツァレラ、マジでイケてる。こんなにイイのって、そうはないはずだ」
「嬢ちゃんの目利きは確かだな。たしかに、金はかかってる」
「嬢ちゃんは失礼だぞ。あたしはアキラだ」
「同じ商店街の仲間だったな。失礼した」
「これから仲良くしような」
「願ったり、だ」
二枚も三枚も食べるアキラっちやけど、今日ものっけはお気に入りのマルゲリータ。
「ピストル・ピザ。PPだな」アキラっちは鷹揚にわろて、ピザを頬張った。「じつはここ、長らく空き店舗だったから気になってたんだよ」
「前は油そば屋だったらしいな。流行らなかったから潰れたんだろうが」
「商売なんて、そんなもんだろ。うまくやった奴が得をする。でも、裏を返せばたったそれだけのことなんだ」
「ああ、そうだ、そのとおりだ。アキラはほんとうに賢いんだな」
調理場にいるガタイのええ主人の男は「こんなくどいまでの下町にあるピザ屋……それもまあ、悪くないだろ」って腹を括った意思を示しやった。
「そのとおりだ。あたしは応援してやるぜ。だからちょくちょく食べにも来る」
「ありがとうな、アキラ、それにイクミだったか……。おまえたちのキレイな感じが俺たちの心を溶かしてくれた。俺は女房を愛してる。今となってはそれだけだし、それだけでいい」
いいセリフ、カッコいいじゃん。
そない言うて、アキラっちはわろた。
一切れもらおうおもてマルゲリータに手ぇ伸ばすと、その手をアキラっちに叩き落とされた。
しゃあなくオレはコーラで時間潰しつつ、マリアーナを待つしかないっちゅうわけや。