沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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ありゃりゃりゃりゃ。
登校――ガッコに着いたところでスマホ忘れてしもたことに気づいたんやけど、一種の気分転換やおもて、取りに帰ることはせーへんかった。
放課後、今日はハナからケツまできちっと看板娘をやるっちゅうアキラっちんことを家に送り届けて、自宅に戻った。
アキラっちはおろか、アキラっちの「アソコ」かてたまには休ませたらなあかんやろう――って、オレは思ったとか思わへんかったとか――。
もうすっかり暗い中、自らのアパートに到着。
ノブの真ん中に鍵を捻じ込もうとしたところで、向こうからドアが開いた。
出てきたんはだぼっとしたシルエットの、普段着姿のシャル兄やった。
黙ってウチに来るなんて珍しいこっちゃからちょい驚いて、オレの目はまんまるになった。
「どないしたん? なんか用事?」
「弟の家で一杯やりたいというのは、あまり突飛な考えだと思わない」
「そりゃそうや、歓迎。せやのに、どっか行くん?」
「仕事が入った」
「ほぅ。どちらまで?」
「池袋だ」
シャル兄はノートPCが入ってるであろうバッグを左の脇に抱えてやる。
「仕事なんて辞めてしもたらええのに。ちゅうか、仕事に縛られるなんて兄貴らしくないなぁって今さらながらに思うわ」
「適度な束縛がいいのさ」
「わからへんなぁ」
「失礼する。なお、彼女の相手は頼むことにする」
「彼女?」
「ああ」
兄貴はすたすた階段下りてって、姿ぁ消した。
にしても、ホンマ、彼女って誰んことやろう?
オレがおらんあいだに兄貴の酒の相手をしてたってことなんやろうか。
まあええわ、この目で確認すればわかる。
自宅に入るべくドア開けた。
彼女って誰のことですかぁ?
そないなふうに、のんびり発した。
なおーん。
それは猫の鳴き声やった。
ん? って妙におもたんやけど、聞き覚えのある声やったしな。
そこまで驚くようなことでもなかったんや。
黒猫のホープさんはちっこくてまぁるいちゃぶ台を前にして、右手で顔を洗ってやった。
はっきり言ってラブリーや、ホープさんは細身でセクシーで、さらには聡明な「女性」やさかいな。
オレはちゃぶ台挟んだ向かいに腰ぃ下ろした。
「ホープさんって、そこまで兄貴と仲良かったっけ?」
「じつはそうなんだよ」黒猫のホープさんは今夜も左目に黒い眼帯付けてやる。「というのは、半分冗談だ」
「冗談?」
「ノンオイルのツナ缶が欲しくなった。だからおまえを訪ねた。だがおまえはいなかった。代わりにナイスなタイミングでシャルの奴が現れた」
箇条書きみたいな素気のない口振りやけど、せやさかいかなりわかりやすい言い方やとも言えた。
「ツナ缶は? もう食べたん?」
「ああ。シャルの奴に買ってこさせた」
やるなぁ、ホープさん。
っちゅうか、ネコの一声に応じるとか。
そもそも兄貴はなんでしゃべるネコについて理解的なんか。
「今日は、アキラは? 家の手伝いか?」
「うん。きちんと仕事はさせたらんとな」
「『七尾の弁当』はほんとうに評判がいい」
まだまだ顔を綺麗に拭うホープさん。
「ホープさんは物知りやなぁ」
「舐めるなよ。この界隈におけるネコネットワークを牛耳っている頭目は私なんだぞ?」
ネコネットワークときたか、頭目ときたか。
たぶん、いや、絶対にかなり有用な繋がりであり、有力な立場なんやろう。
「ホープさんのこと片目にした奴、オレは今でもぶっ殺したいわ」
「なんだ、いきなり。弱い者いじめは許さんというあらためての宣言か?」
「それって悪いことかぁ?」
「悪くはない、な」
ホープさんがちゃぶ台に身軽に飛び乗った。
オレの顔を見つめてきたか思うと、くりって左に首、かしげやった。
「おまえはほんとうに美しい。だからこその物言いとなるが」
「それって?」
「レアな存在は長生きできない。おまえもきっと、その部類だ」
「嫌ぁなフラグ立てんといてやぁ」
「他意はないさ。言ってみただけだよ」ホープさんは朗らかにわろた。「おまえみたいな奴は、きっと誰より長生きする――つまらんニンゲンこそ、そういうものなんだ」
今度、ウチの実家に来てみぃへん?
オレはそないなふうに切り出した。
「ついさっき、シャルにもそう提案された」
へぇぇ。
兄貴ってば見る目あるし、フレンドリーやん?
「猫と馬は相性がいいんだと。だから私に本物の馬を見せてやりたいんだと」
「そのへん、間違いなくそのとおりやな」
「存在は知っていても接したことはない。そういう意味では興味がある――だが」
「だが?」
「北海道は遠すぎる。二時間はかからんのかもしれんが、それでも飛行機の腹の内に閉じ込められるだなんてまっぴらごめんだ」
たしかにホープさんみたいな才女を荷物として預けるんは気が引ける。
「イクミ、私はまだ腹が満たされていない。ゆえに私に奉仕しろ」
「あいあいさ」
新しいツナ缶を寄越したったところで、ピンポーンって、インターホンが鳴った。
あるいはビックリして物陰に隠れたりするんかなぁっておもたんやけど、そないなことはなかった、ホープさんはお上品にごはんを食べつづけやる。
モニター越しに確認できたんは明らかに知り合い、しかもけっこう深い仲。
訪ねてきたんは何を隠そう、葛葉アンナさんやった。
オレが表に出て「いらっしゃーい」って迎えると、アンナさんはらしくもなく、にこって笑ってみせやった。
「なんやねんな、アンナさん。にこやかなんは正直言ってらしくないさかい気色が悪い」
「久々のシャルからの呼び出しだから嬉しく感じているんだよ」
で、肝心要のシャルの奴はどうした?
アンナさん、かんにんな、そない期待されても、おらへんもんはおらへんねんわ。
かくかくしかじか、オレは状況を短く説明した。
オレが思ってたより、アンナさんはがっかりせーへんかった。
ああ、またふられんぼか。
そない言うて、肩ぁすくめた程度やった。
*****
アンナさんとちゃぶ台を挟んで向かい合った。
今日は寝れんと知れ。
それがアンナさんの第一声やった。
あなたに一杯、私に一杯ってな。
持参のジャックダニエルをラッパ飲みしやったアンナさん。
「アンナ、そんな飲み方をすると内臓を悪くするし、美容にも悪いんだぞ?」
ホープさんってば気さくな感じでそない言うた。
二人は二人で、もはやカジュアルなコミュニケーションを取り合う仲らしい。
「好きなものを我慢してまで美しくあろうとは思わないな」
「シャルというターゲットがいても、か?」
「それはおっしゃるとおりだ。だから少し修正せねば」アンナさんは綺麗な顔に苦笑を貼りつけた。「アイツに出会って以降、私は誰より外見に気を遣ってる」
「素晴らしいことじゃあないか」
「ホープはネコのくせにほんとうに生意気だね」
「そのへんのニンゲンふぜいよりはよっぽど賢いつもりだ」
「間違いがないから、文句のつけようがないなぁ」
二人のベクトルは水と油みたいに真逆に見えるんやけど、寛容さっちゅう観点においてはどっこいらしい。
色気マックスな女史との時間や。
オレはキッチンに向かって、食器棚からグラスを二つ取り出した。
江戸切子――兄貴が好きで、ちょくちょく入手してきては自宅にもオレんちにも置いていきやる。
ちゃぶ台に戻ると――アンナさんはロックアイスをこうてきてくれてたもんやから――それを切子のグラスに適量投じた。
アンナさんがそれぞれにざらついた感のある琥珀色の液体をそそぐ。
かんぱい。
そない言われたもんやさかい、彼女が掲げたグラスにグラスをぶつけた、硬質で高くて、心地のええ衝突音が鳴った。
一息で一杯、飲み干したアンナさんは、立ち上がるとパンツスーツの上も下も脱いだ。
黒いTバック、殊の外かたちのええヒップが露出する。
アンナさんはオレの左隣に来ると、オレの左の耳に白いイヤホンを突っ込んだ。
今時、ワイヤレスやないとか。
いわく、「より直接的な有線のほうが、音がいいように思うんだよ」――。
その気持ちはわからんくもないな。
ジャズか、ピアノトリオ。
サックスでもトランペットでも、一つラッパが入った明るいヤツのほうが、オレは断然、好きなんやけどな。
どうあれジャズはええ。
いつかはニューオリンズに行ってみたいなって、本気でおもてる。
優れたテク持ってるんは比較的早死にの奴が多くって、それって酒とクスリと女に溺れてたからやって耳にした覚えがある。
刹那的やったんやな、生き方が、それでええって考える阿呆な人格がそこにはいくつもあった。
ジャズ野郎はええ大人のくせして無鉄砲で、せやからこそ、男として憧れんこともないんや。
ちゃぶ台の上のスマホが鳴動した上でディスプレイを賑わせたもんやから、通話に応じた。
表示のとおり「シャル兄」やった。
『葛葉女史がいるだろう? おまえは冗長性で言うところの副系だ。うまくやってくれ』
「なんとも無責任な言い分やね」
『お願いだと言っている』
「任せろや。仕事、がんばってねぇ」
『ありがとう。今度、埋め合わせをする』
通話を切ったところで、「シャルは、なんて?」って、アンナさんが訊いてきた。
いっそう身体を寄せてきて――紫煙の気配に交じって、えっらい甘くてええ匂いがした。
「オレは兄貴のセカンダリーで、せやさかいそつなくやれってさ」
「なあ、イクミ、どう思う?」
「いきなりなんの話?」
「ホープでもいい。思うところを言ってもらいたい。私がシャルに愛される余地――みたいなものはあるのだろうか」
そったらホープさんが、「私はシャルと腹を割って話したことがある。じつはそれくらいの関係なんだよ」って答えやった。
ホープさんのその言葉に、オレは少なからず驚いた。
結論から言おうって前置きしてからホープさんは、「シャルはあまり異性に興味がない。だからといってジェンダー的な不自由さに苛まれているわけでもない。奴さんが興味があるのはイクミ、おまえだけなんだ」――。
兄貴から溺愛されてるんは、昔からの話や。
ガキの時分に、一回、いきなりおもむろに、キスされたことがある。
ディープキスやった、事後、兄貴は「悪いな」っちゅうただけで、苦笑浮かべてた――いや、案外、爽やかな笑みやっったんかもしれへんな。
「まあいいさ。粘り強く攻めてやろう」って、アンナさん。「いつの日か、私はシャルのことをものにしてやるつもりだ。私無しでは生きられなくしてやるつもりだ」
まったくもって、なんて力強い宣言やろう。
何回かて思うんやけど、オレの姉貴がアンナさんになれば面白いことこの上ない。
「まあ、これからも仲良くしようじゃないか、弟氏」
右腕でオレの右肩を抱くと、アンナさんは「かんぱーい」って、左手のグラスを高々と掲げた。
それからぐいといっぱいやったのち、「……ちくしょう」って小さく聞こえた気がした。
気がしたっちゅうだけで、きっと気のせいやろうって、なんとなくやけど、そう信じたくてしょうがない。
「やさぐれ真っ最中の私だが、実家に帰れば、きちんと親がいるんだよ」
「まあ、そりゃそうやろ」
ほっぺ同士を密着させてるもんやから表情はわからへんけど、「あたりまえみたいに言うんだな」っちゅうセリフは自嘲気味に聞こえた。
「んで、ご両親が心配してるんは結婚のこと。もうええ年なんやさかい家に入ったらどうやってしつこく言われてる」
「それも正解だ」ははっておかしそうに、アンナさんはわろた。「父も母も、古いタイプのニンゲンなんだよ」
「古くもないやろ。当然っちゃ当然の価値観やって思う」
ああだこうだと反論されるかもしれへんっておもたんやけど、そないなことはなく――。
アンナさんは、疲れたように肩ぁ落とした。
「誰かの女房になって家事に勤しむのも悪くない。最近、本気でそう考えるようになった」
「兄貴は罪な男やなぁ」
「そうなるな」
「たぶんやけど」
「なんだ? 勇気づけてくれる言葉なら、なんだって聞くぞ」
「前にも言うたやろ? 兄貴が女を好きになるってんなら、それは絶対、アンナさんみたいなヒトや」
ああ、確かに、それは以前も聞かされたな。
アンナさんはグラスをちゃぶ台に置くと、殊更強く、しなだれかかってきた。
「おいおい、アンナさん」
「眠い……。最近、いろいろあって忙しかった。だけど、今なら深く眠れそうなんだ……」
「泊まってく?」
「ああ。ベッドまで搬送してくれ」
「歩けへんのん?」
「お姫様抱っこをしてほしいんだよ」
つい口元に笑みが浮かんだ。
アンナさんがかわいいこと言いやったんやから、当然やろう?
お望みのとおり、よいしょって横抱きにしたった。
オレがそうしたった中では間違いなく一番ごつごつした身体やったけど、所詮は女のコ、軽いもんやった。