沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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蒲田はバーボンロードの一角、「蝶々のロゴでおなじみ」の美容室のそばで、オレはスマホ見て時間潰してた。
赤いメッシュのさっちんと青いメッシュのみゆきちとが髪切ってくるいう話で、そんなん勝手にしろいう話なんやけど、「ついてきてよ」、あるいは「待っててねぇ」とか言われたら、オレは彼女らに頭が上がらへんわけで――っちゅう、謎の力関係。
お疲れ、さっちん、みゆきち。
そないなふうに声をかけつつ、オレはいろはすのペットボトルをそれぞれに手渡した。
礼を言うて、それぞれ受け取った、お二人さん。
偉そうなかぎりやなぁと思いはしたものの、オレは二人にメシくらいは奢ったろうやとか思うんや。
それもこれもしゃあなしに、二人はオレにとって、めっちゃかわいい女のコやから――である。
「マジでいいの?」とは、さっちん。
「待っててもらったんだから悪いよぅ」とはみゆきちの言葉。
良いのである。
二人のことはかわいいさかい、とことんまでかわいがったらなあかんのである。
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うっわ、牛角だ。
ホントだホントに、牛角だよぅ。
さっちんもみゆきちも当該店舗を前にするなり、そないなふうにうきうきした調子で言うた。
テンションアゲアゲらしい。
入店。
アテンドに従い、速やかに席につく――。
「マジで焼肉奢ってくれるとか」は、さっちん。
「JKの胃袋を甘くみると痛い目見るぉ?」は、みゆきち。
「暮らしにゆとりがあるの?」とは、なおもさっちん。
「たぶん、フツウの高校生よりは」と答えたオレ。
「物書き先生は儲かってるってことじゃないの?」
「せやさかい、ニッポンの文筆業界なんて、とうにオワコンなんやってば」
「せやさかい、とは?」
「前にも教えたった気がするさかい」
「ふーむ」
「なんや?」
特に小説でしょ?
その界隈について、どうしてイクミくんはそこまで悲観的なの?
「文字を読む時代は終わったんや。みんなが望んでるのは、視覚的に気持ちがええコンテンツなんや」
「そうかな。私は文字だけでも一人でイケるけど?」
「さっちんは稀有」
「そうなのかなぁ」
みゆきちは鉄板にのせる係。
きゃぴきゃぴしてるのが彼女やのに、肉が相手やと真剣に向かい合いやるらしい。
「せやったら、さっちんさ、文章が上手なだけの作家さんと言い回しが達者で絵もうまい漫画家とやと、どっちが需要があるって思う?」
「その点はきみの言うとおりだよ、イクミくん。でも、文章が絵に敵わないとは、私は決して思わない」
そう言う輩もおるやろう。
おるやろうってだけで、オレの価値観にはひびすら入らへんねんけど。
「向上心がないのはどうかと思う」
「せやけどなさっちん、物書きいわれるニンゲンなんて、いずれは淘汰され、死滅する存在やったんやって思うんやぞ」
「それはわかったってば。ホント、イクミくんの思考回路は退廃的だなぁ」
さっちんとオレとのあいだでそないなやり取りがある中にあっても、みゆきちは肉の焼ける加減をじっと見つめてやる。
「ホント、きみの排他性はどうかと思う。私はきみのことが好きだから、何に絶望することもなく生きてほしい」
「それはわこた。ところで、さっちん」
「いきなりの切り返しだね。なんだね?」
「最近、カレシとはうまくいってる?」
「特定の男をこしらえたと謳った覚えはないんだけど」
「あれ? そうやったっけ?」
「おとぼけだね」
まあいいよ。
気を取り直したように、さっちんは言い。
「それよりさ、ねぇねぇねぇ、イクミくん」
「おおぅ、いきなりがっついてきたな、なんでっしゃろ?」
「きみのお兄様にお会いしたいのだ」
「へっ? なんで?」
「だって、めっちゃイケメンなんでしょ?」
「それはまあ。オレが知るかぎり、サイコーの男前やよ」
セッティングしてよ。
――と、さっちんはなおも前のめり。
「えーっ、なんでー?」
「だから、イケメンだからだよ」
「言うたかてさっちんは――」
「だ・か・ら、特定の男はいないんだってばよ」
腕組みをしたオレは、うーんって唸りながら目線を上にやり――。
「年上のイケメンが好みなのぉ」さっちんは言う。「イクミくんの兄上なのだし、イケてるに決まってるでしょぉ?」
オレっちゅう存在がどう作用するかはしらへんけど、ええ男なんは、つくづく間違いがない。
そもそもまあ、メシ一緒に食うとか、それくらいやったら問題あらへんやろ。
兄貴がおいそれとのってくるかどうかなんて、まるっきりわからへんけど。
相手がJKである時点でリスクヘッジに走りそうではあるんやけど。
「わこたぞ、さっちん。場を設けたろうやないか」
「おぉ、ホント? やったーっ」さっちんは万歳をして。「おめかししてやるぞ」
「場所は? どういうとこがええ? 希望とかある?」
「高級料亭がいい――っていうのは嘘で」
「嘘なん?」
「うん。近所の串カツ屋がいい」
そう聞かされて、「渋いなぁ」ってオレは感想述べた。
「でもさ、ホントにお兄さん、来てくれる?」
「たぶん、大丈夫やろ。思えば頼み事、断られた覚えがないわ」
さっちんはにっこりわろて、「愛されてるんだね」――。
オレは笑顔を返して、「そうなんやよ」――。
もはやみゆきちはばくばく肉を頬張ってる。
安い舌やなぁとか言うたら、オレはみゆきちからもいろんなヒトたちからも嫌われてまうんやろう。
*****
予定どおりの日時、場所、串カツ屋。
今日はみゆきちはおらへん。
きちんと恋人と会ってるっちゅう話や。
みゆきっちゃんだって、彼とは遊びだよ。
さっちんいわく、そういうことやけど。
四人席。
オレはさっちんと隣り合ってて、さっちんの向かいには兄貴の姿。
兄貴は黒のジャケットスタイルで――だいたいいつもそうなんやけど、今日もなんや、堅苦しい恰好なわけで。
さっちんは、たいしたもんや。
強キャラオーラな兄貴を前にしてもべつにビビった様子なんてなくて、兄貴のこと、値踏みでもするように窺ってやる。
オレは串カツ食うてるだけ、さっちんと兄貴の様子については観察してるようなしてへんような。
見つめ合う二人のあいだに流れる雰囲気は独特で、せやさかい、興味深く見守ってる。
揚げたミニトマトがめっちゃうまいっちゅうんは初めて知った次第――。
「たとえばですよ、シャルさん」さっちんは言うた。「あなたが私を抱いて、弟さんが私を抱けば、あなたたちはただの兄弟ではなく、まさに穴兄弟になるわけですよ」
さささ、さっちんよ、いきなり何を言い出すんや。
「セーフセックスであれば、大した問題ではないでしょう?」
あああ、兄貴よ、あんたはあんたでなんちゅう答えや。
「だから、敬語じゃなくていいですよ」
「レディーには――まあ、そういうことです」
「レディー? ほんとうにそう思ってますか?」
「と、いうと?」
「根っこのところで、あなたは女を見下しているでしょう?」
さっちん、それはないぞ。
そんなん見たらわかるやろう?
「俺としては、どう評価されたところでかまわないんですが」
「真剣に恋をしたことが、一度もないんですね」
「それは至極……ああ、そのとおりかもしれない」
「あーあぁぁ、本気の恋がしたいなぁ」
兄貴がきょとんってなったんがわこた。
兄貴にしては珍しい表情や。
兄貴は自分の中の空気を入れ替えるみたいにして、ふぅと深く息ぃ吐いた。
次に出てきたんは、「さっちん氏、きみはモテるだろう?」という俗っぽいセリフやったんや。
「まあ、幾分、モテますね。さすが、お目が高い」
「俺がゲイだと言ったら?」
「ああ、多様性を謳って、くぐりぬけてきたんですね?」
「ほんとうに、君は頭の回転が速い。勘もいい」
「女子高生ですからねぇ」
兄貴は兄貴で揚げたトマトを食べた。
ハイボールをぐびりとやる。
それからさっちんに、「だが年齢にかかわらず、勘がいい女は嫌われる」――。
「でもさー」今度は一転、放り投げるようにさっちん。「あなたたちみたいな頂点を目にしちゃうとさー」
「頂点?」問うた兄貴。
「だってそうじゃないですか。お二人はオスの見た目としてカンペキすぎます」
「外見だけの話だろう?」
「ニンゲン、それがすべてです」
そう言い切ったのである、さっちんは。
「若い男と若い恋愛をしたほうがいい」
「それはわかりました。じゃあ五年、いえ十年後、お互いにフリーだったら付き合いませんか?」
「十年も経てば、俺はすっかりオッサンなんだが?」
「イケメンよりイケオジのほうがモテるんですよ?」
「金を持っているからか?」
「そのとおりです」
珍しい。
兄貴がくすくすわろた。
「十年後だな?」
「お望みであれば今からでもと言ってるつもりです」
「十年後でいい。わかった。約束しよう」
さっちんは「商談成立」と言うと、トマト揚げを注文した。
おいしそうに見えてきちゃって――ということらしかった。
*****
さっちんを家まで送る道中。
「シャルさん、やっぱり超絶イイ男じゃん」
「せやって言うたやろ?」
「疑ってた」
「なんで?」
世の中、女を道具としてしか見てない男が多いから。
さっちんいわく、そういうことらしい。
「オレは兄貴からいろいろ教えてもろたけど、女の口説き方だけは聞かされた覚えがないな」
「それくらいは自分で経験して、学べってことじゃないの?」
「そういうこっちゃな」
オレは肩をすくめてみせた。
「保険に加入したカンジ」と、左隣のさっちん。
「十年後も兄貴が空いてるとはかぎらへんぞ?」と釘刺したった。
「だいじょうぶでしょ。お兄さん、ぶきっちょそうだし」
「さっちんの話やよ」
「遊ぶ以外の関係は、結べない気がするんだよ」
「悲しいこっちゃな」
「ホント、悲しき、悲しき」
さっちんち着。
中くらいの家なんやけど平屋で小奇麗で、せやさかい、それなりの金持ちなんやとあらためて知る。
さっちんはぴょこぴょこ跳ねるようにして前に躍り出ると、アプローチの手前でくるりと振り返った。
「今夜はありがと。すっごく楽しかった」
「兄貴にもそないに伝えとくわ」
バイバイと手を振りながら、身を翻したオレ。
後ろからさっちんが「ちょい待ち」と声かけてきた。
後ろを向く。
そったらさっちんはもうすぐ目の前におって――。
ついじっとしてたら、左のほっぺたにチュッてされた。
目をぱちくりさせてから――オレの表情には笑みが宿った。
さっちんの悪戯っぽい笑顔、「じゃあね、弟」っちゅう悪戯っぽいセリフ――。
それから「送ってくれて、ありがとう」と丁寧にお辞儀までしてみせやった。
アプローチを駆けて、玄関口に。
こっちに向かって左手上げたさっちんに、オレはバイバイって手ぇ振り返した。