沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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蒲田の某地域、某場所。
某路地、目立つとは言わへんけど、目立たへんわけでもない。
ホームレスのおっちゃんらはホームレスやのに、いっつもそれなりに明るい顔してやる。
オレは自腹切って彼らに酒やら弁当屋らを差し入れしたる。
施しを受けることがめちゃくちゃ気に入らんかったんやろう。
喧嘩っ早いヒトに殴られたもんやけど、「他意はないんや」と言いつづけた結果、受け容れてもらえたんや。
酒は飲まへん。
せやけど、一緒に紙煙草は吸うようになった。
少しや言うても匂うんやさかいそのうちアキラっちに気付かれるんかもしれへんな、控えめにするつもりやけど。
近くを京浜東北線と東海道線が通る。
そういう、騒音がやかましいところなんや。
ヨースケいうおっちゃんがおる。
ヨースケさんは差し入れ、食ってくれへん。
プライドがあるとかそういう問題でもない。
健康面を伺ったほうがええなと考える次第。
ヨースケさんとしゃべるんが、オレは好きや。
毅然としてて、薄暗い中にあっても、ヨースケさんはカッコ良く映るんや。
「ウイスキーがいいとか、そういうんなら、こうてきますよ?」
「だから、そういう話じゃないんだよ」
「あんまり食べへんさかい、心配してるんです」
「ガキに不安がられるいわれはないさ」
「ホンマですか?」
「ほんとうでしか、ないよ」
ヨースケさんは賢いに違いないから、なんでホームレスしてるんかわからへん。
そのへん、今夜は正直に訊ねてみた。
「どうだっていいだろう?」
まあ、それはそのとおり。
「たったの一言で表現すると、わしは世捨て人なんだよ」
たしかに、そう見える。
「デカい会社に勤めてたんやないんですか?」
「一部上場の企業で取締役をやっていた」
ほらやっぱり、大した大人物やん。
「なんで辞めたんですか?」
「クビになったとは考えないのか?」
「せやさかい、ヨースケさんはめっちゃ賢そうやさかい」
「いつの日か、世の中からカネはなくなる」
「そう見切って早々にリタイアされたんですか?」
そうわけでもないんだがな。
言って、ヨースケさんは苦笑じみた笑みを浮かべた。
「カネはなくなるだろうが、土地の取り合いはなくならないかもしれん」
「オレは自分が帰る場所だけ確保できれば十分です」
「聞かされたことがなかったな。恋人は? いるのか?」
「それはもう、可愛い奴が」
「幸せな話だ」
「そないなふうに感じてます」
ひどいこと言うようですけど。
オレはそないなふうに前置きしてから、「ヨースケさんは綺麗好きなんですね」――言うた。
「実際のところ、まったくカネがないわけやないんですよね?」
「ああ、そうだな」
「世捨て人やっておっしゃられましたけど」
「それがどうした?」
「金持ってるんなら、オレが住む家、探しますよ」
「だから、そういうことじゃないんだよ」
そういうことじゃないんだよ。
まあそうなんやろうなって思うと、人生ってどう転ぶかわからへんな――って。
*****
その日の夜もその溜まり場を訪れた。
ヨースケさんの姿が見当たらへんかったんや。
せやさかい、友人やろう、同じホームレスやってる男性が何か知ってるかもしれへんおもて、訊ねた。
ヨースケは死んだんだよ。
……は?
「どういうことですか」
「だから、死んだんだよ」
「どうしてやって訊ねてます」
「言ってみれば、オヤジ狩りだ」
「いまだにそんな真似する奴らがおるんですか?」
「事実は事実だ。いるんだろうな」
憤るには十分な理由やった。
「オレ、しばらくここにお世話になりますね」
「きみななら『そう考えるだろう』と思っていたが、それは良くない」
「なんでですか?」
「きみは幸せな若者なんだろう? 学校だって、あるんだろう?」
そういう問題や。
そうやないんや。
「そんなことどうだっていいです。任せてください。オレが必ずぶち殺してやりますさかい」
「だから――」
「あなたが優しいんはわかりました。でも、ゆるせへんことはゆるせません」
「もう一度言う。学校に行きなさい。幸せに暮らしなさい。きみにはその権利がある」
「権利うんぬんはあなただって同じでしょう?」
「それは……」
「任せてくださいよ、ホンマに」
オレは邪な笑顔を浮かべたことやろう。
男性は何か言おうとしてから黙ったかと思うと、「ほんとうに、良くない」と呟くように言った。
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夜のことやった。
オヤジ狩り言うよりそのまんま、ホームレス狩りやな。
世間的にそう強くないニンゲンをいたぶって、悦に浸るっちゅうんやろう。
目立たへんながらも、まばらながらも人通りがある路地で、オレは真っ向から戦った。
ホームレスのみなさんには、この言い方は申し訳ない、ホンマに申し訳ない。
せやけどフツウに考えて、力もカネも未来もある若い連中が弱者をいじめるのはとてもやないけどゆるせへんかった。
相手は多かった。
せやさかいけっこうなダメージ、きつい痛みを伴った。
せやけど、くじけたろうとは思わへんかった、とにかくいたぶることが許容できへんかった。
一通りケンカが終わったところで――くだんの男性はすぐに近づいてきた。
「きみは馬鹿だな」
とか言われた。
「酒とたばこ、買ってきますね」
「そんなことはしなくていい。きみの家に連れて帰ることくらいはできる。任せなさい」
「オレはオレの意志でケンカしたんです。どないなことがあっても誰かにケツ拭いてもらうつもりなんてないんです」
男性は驚いたように目ぇ見開いてから、「きみはとことん馬鹿なんだな」と苦笑じみた顔を見せた。
「もう二度とこぉへん思います。さんざんいじめたった上で、もう関わるな言いましたから」
「まあ、たしかにきみは恐怖の象徴で、またその権化なんだろうな」
「ともあれ、コンビニに行ってきます」
オレはそっちの方向に足を向けつつ、額を伝う血を袖で拭った。
いくらなんでも、バットでおもくそどついてくれんなよなぁ。
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次の日の夕方。
兄貴から電話があった。
「学校を休んだと聞いた。どういうことなんだ?」
「ガッコには風邪や伝えたんやけど? って、なんで兄貴がオレの休み知ってるんな?」
「保護者は俺だと申告してある」
「ただの風邪やいうのに連絡行ったん?」
「勘が働く教師なんじゃないか?」
「で、ほんとうに、どうしたんだ?」
隠したところで兄貴はどうやって調べ抜くことやろうから、かくかくしかじか、正直に話した。
兄貴は呆れたように、ため息をついた。
「そういうことには介入するな。損をするだけだ」
「せやけど、兄貴かてオレの立場やったら、やったやろ?」
「そうかもしれないなとは言える」
「せやったら見逃したってぇや」
アキラ嬢には?
知らせたのか?
「いんや、知らせてへんよ。心配するやろうし」
「馬鹿め。何も知らせずに休んだほうが心配するに決まっているだろうが」
まあ、そりゃそのとおり。
「兄貴、一つお願い。オレの状況、アキラっちに教えたってくれへんか?」
「どうして自分から言わない?」
「兄貴がだいじょうぶ言うたら、とりあえずは安心するやろうおもて」
兄貴は再び、深い吐息を漏らした。
「わかった。請け合ってやる」
おおきにな。
兄貴はホンマにええヒトや。
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これまた翌日。
頭の包帯も取り払っての登校や。
血はすっかり止まったけど、たんこぶはそう簡単には引っ込まへん。
アキラが流し目? みたいなもんをちらちら、心配そうに寄越してきやる。
いよいよ六時間目の授業がはけたところで、アキラっちは椅子を近づけてきて、今にもぶぅたれそうな顔しやった。
教室、二人きりの放課後。
アキラっちは、「めちゃくちゃ嫌な気分だったんだぞ」って言うた。
「それはわこてる。せやけど、兄貴から事情は聞かされたやろ?」
「シャル兄が悪いわけじゃないぞ。おまえが自分の口で打ち明けなかったのが悪いんだ」
客観的に見れば、それはそのとおりなんやろう。
「ホームレスのヒト達がなんとかっていう話だったよな」
「まあそのとおり」
「オヤジ狩りだったんだろ? だったら何も言えないけど……」
兄貴はうまく説明してくれたんやろう。
それだけでもめちゃくちゃ御の字や。
「酒とかたばことか差し入れしてたとか」
「彼らにはそれが必要やったんや」
それはおかしいぞ。
アキラっちは確信めいた口調でそない唱えて。
「申し訳ないけど、差し入ればっかしてたらキリがないんだぞ?」
「それでもオレは、彼らのことが好きやから」
「でも、結局のところ施しを寄越すなんて――」
「施し言いなや。仲良しなんやさかい」
「馬鹿だよ、おまえは。っていうか、また怪我することになったらどうするんだ?」
語尾に近づくにつれ、アキラっちの声色は厳しくなった。
「なにも危ないところに連れていってくれとは言わない。だけどさ、でもさ――」
「オレの人生や。まあ、任せとけってば」
「馬鹿だ、おまえはっ! ほんとうに馬鹿だっ!!」
しばしの間。
オレはアキラっちとあらためて向かい合う。
「ま、余計なおせっかいやったんかもしれへんけど、ああ……」
「なんだよ、外なんて眺めちゃって」
ヨースケさんのことを思うと、オレはだいぶん、悲しくなった。
どうしようもなかったこととはわかってても、寂しくもなった。