沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
*****
八重洲口の近辺にお手頃なとこなんてないんやろうか。
兄貴に呼び出された先――イタリアンの店はいかにも高級そうな感じで、図太いオレやなかったら店構え見ただけで尻込みしたに違いない。
淡いオレンジ色の燈、真っ白なテーブルクロスに、紺色スーツの兄貴はめっちゃ映える。
兄貴は赤ワインのグラスを傾けると、「最近の調子は? どうなんだ?」――。
「最近の調子、とは?」オレはピザ――否、クリスピーなピッツァにがっついてる。
生地が分厚いアメリカンスタイルのほうが好きやっちゅうのは、今んとこナイショ。
「おまえも俺も自由すぎるんでな」兄貴は言う。「ゆえに、実家の牧場のことが、しばしば頭をよぎる」
「牧場については間違いなく大野少年が支えてくれる思うけど?」
「他人任せでいいのかという話だ。あと、大野少年だなんて呼ぶな。学生ごときが偉そうに」
そりゃそうや。
若造のくせしてたしかに偉そうなこと言うてしもた。
とはいえオレはすぐに自分の中の空気を入れ換えて、「兄貴、ホンマに悩んでるん?」って訊ねた。
兄貴はまた赤ワインをくいとやる、アルコールの耐性は大したもんなくせに、時に顔は桃色に染まるんや、色っぽいなぁ――。
「苦悩するくらいなら、牧場、継いだったら?」
「俺の、いや、俺たちの両親は、それを望んでいないだろう?」
「まあなぁ。オレらには『好きにやれ』言うてるだけやもんなぁ」
兄貴は安堵したみたいに、ふっと口元を緩めてみせた。
「やっぱり、おまえに話して良かったよ」
「えぇぇ、なんなんそれー」得体の知れない物言いについて、オレは不満の言葉を口にした。
その後、兄貴は白のボトルをオーダーして、それを兄弟で一緒になって空けた。
空けたところで、兄貴は天井を仰いだ。
気持ちのいい夜だ――ってことらしいんやわ。
「兄貴の役に立てるんなら、いつやかて付き合うぞ」
「殊勝じゃないか」
「世話になってるさかい」
「だとしたら、打算的だなと評価を改めよう」
「はいはい」
「おまえはイイ奴だし、イイ男だよ」
そんな犀川イクミくんに朗報だ。
「朗報? おぉ兄貴、それってなんやろ?」
「ウチの子会社は三つある。そのうちの二つは天王洲に本社がある」
「そのくらい知ってる。いずれも有名やさかいな。どっちも一人で一億稼いでんねんやろ?」
「今は十月だ」
「それも知ってる」
「半期の業績が芳しいものだったらしい。パーティーをやるんだよ」
「パーティー? 言わば祝勝会?」
「ちょっとした催しでしかないがな」
それがどうかしたん?
「来るといいぞ」
「えっ?」
「来ていいと言ったんだ。なにせうまいものにありつける」
オレは目をぱちくりさせてから、「ああ、そういうことか」と納得した。
「ホンマに、ええのん?」
「軽いノリのイベントだと、あらためて謳っておく」
「学生服でええのん?」
「アルコールを口にしたいなら、そうじゃないほうがいいだろう」
「ごもっとも」オレは深く頷いた。「わこた。正装で邪魔したろ」
恋人も伴ってくるといい。
――と、兄貴。
「そんなんもええのん?」
「堅苦しい催し事じゃあない、紛れてしまえばわからない――そう言ったつもりだ」
「わこた。誘ってみる。断られるような気がせんでもないけど」
「断られる? どうしてだ? リスクなんてないはずだが?」
「奴さん、照れ屋やさかい」オレは自分でもわかるくらい、穏やかに微笑んだ。
「今日は呼び出して悪かった」
「へ? なんなん、いきなり」
「心を開ける相手はおまえしかいない」
オレはあははと軽薄に笑いながら、「そないなわけないやろう?」――。
「まあいいさ」兄貴は小さく肩をすくめて――。「パーティーには俺も出席する。顔を出せと部長がうるさいんだ」
「兄貴の現在の役職は?」
「言わずもがな、課長だよ」
「威張ってええ思うけど? 名うての大企業やし、兄貴ってば若いし」
「ナマをほざくな」
「それはわかったってば」
*****
あるいはとも考えたんやけど、「豪華な食事なら行くぞっ」ってことやった。
誰の話って、アキラっちの話や。
当日、オレはきちっと黒スーツにウインザーノットでアキラっちのこと、迎えに行った。
そったらや。
出てきたアキラっちは漆黒のドレス姿やった、その上に厚めの白いカーディガン羽織ってやる。
アグレッシブすぎるファッションに、大げさな話でもなんでもなく、オレは度肝抜かれた。
だって肩紐はえっらい細くて胸元も露わで、下半身は太ももまでざっくりスリット入ってるんや。
「アキラっち、おまえ、そないなエロい服、どこでこうたんや?」
「よ、横浜の小さなブティックだ。理由を話したら、さっちんとみゆきちに連れていかれたんだ」
「いろいろこぼれてまいそうやんか、脚の露出具合もヤバいし。鼻血出そうや」
「わわわっ、わかったからじっと見るなよ。っていうか、ヘンテコか……?」
オレは二歩三歩と退いて、その上でアキラっちの全身を眺めたわけや。
「なな、なんだよやっぱり、ヘンテコなのか?」
「アホかおまえ、バインバイン」
「ばっ、バインバインとかっ」
「犯されたいんか?」
「犯されたいんかとかっ」
呆れ交じりに、オレは溜息ついた。
「気張る必要はないってオレは言うたぞ」
「でで、でもっ、失礼があったらいけないだろ?」
なんや、失礼って。
ホンマ、カジュアルなパーティーらしいんやけど?
「まあ、ええわ」
言うてオレは、アキラっちの価値ある腰に左手を回した。
アキラっちは「うひゃぁっ」ってビックリしたみたいで。
「今夜はずっと触ってたろ」
「えっ、えぇぇぇぇっ?!」
「触ってたろ」オレはにこにこってわろた。
天王洲。
蒲田からはすぐや。
ホンマ、張り巡らされた東京の鉄道事情には頭が下がる思い――。
*****
天王洲アイルのシーフォートスクエア、ホテル。
芋洗いのエレベーターの中で、アキラっちはオレにぎゅっと抱きついたまま、離れへんでいる。
オレは両腕回してアキラっちの腰を抱き寄せて。
バインバインがぎゅってな感じでオレの胸に当たってる。
やわこいんやけど途方もないくらいのハリがあって、やっぱサイコーや。
アキラっちは「うえぇ、うえぇ」とか泣き声上げながら抱きついてきて、耳元でささやくように言うた。
「うえぇぇぇぇ、男どもの視線が痛いよぅ、痛いんだよぉぉぉ……」
それはしゃあない。
総じて男は、エロい女が好きなもんや。
せやさかい、なおのこと、オレから離れんなや。
オレはそない言うてあらためて、アキラっちの腰を強く抱き寄せた。
その瞬間、アキラっちはびくって身体揺らしやったんやけど「ありがとうな」っちゅうことやった。
*****
いざ、会場、天井の高い屋上のホール、ガラス張りの壁が場の高級感を演出してやる。
オレらんこと見つけたらしい兄貴がゆっくり近づいてきた。
兄貴はまずにこりとわろて、アキラっちに御礼を言うた。
来てくれてありがとう――。
「しかし、きみのファッションは目の毒だな」と兄貴。
「うっ、ううぅっ」なんや口惜しそうにアキラっちは口籠って俯いて。「やっぱりそうですか……?」
「きみの理想的なプロポーションに、男どもはみな、魅せられている」
兄貴以外が言うたらめっちゃ気色悪いセリフやな。
そのへん理解してるからやろう、せやからアキラっちは「しょうがないなぁ」みたいに眉尻下げたんや。
「弟さんがいるから大丈夫です」
「ほんとうに?」
「弟さんはとても誠実ですから、だから私は信用しているんです」
おぉ、アキラっちよ。
なんとも嬉しいこと、言うてくれるやないか。
「でも、ちょっとおめかししすぎました」アキラっちは「てへへ」って照れくさそうに笑み浮かべて――。
「だからそれはそのとおりだ」と兄貴。「しかし、着飾らないよりはよほどいい」
「そうですか?」
「そういうものだ」
気を良くしたらしいアキラっち。
ご機嫌な様子で立食形式のバイキング――食料の調達に向かった。
素敵な女性だな――と、兄貴は言うて。
「なんで? やっぱエロいから?」
「抜かせ」
「外見は大事やろ?」
「彼女の場合、内面が素敵だ」
「同感。せやさかい、好きなんやよ、大好きなんや」
兄貴は、ふっとわろて。
オレとワイングラスで乾杯、チンと鳴らして。
そのうち、小太りの男がやってきた。
とにかく小太りで、せやけどおっさん言うほど年取ってなくて――いや、もうすっかりおっさんなんやろうか、そのへん、判断が難しい。
当該おっさんは兄貴と二言三言と会話を交わすと、オレに右手、伸ばしてきた。
「こんばんは、弟さん」
そないな気安いセリフやったんやけど、なんや、オレは彼のことを信用した。
右手差し出して、握手した。
「タケシタ部長だ」と、兄貴。
部長、兄貴の上司ってわけやな。
正直デブいからカッコよくはないんやけど、なにせ兄貴の上なんやから、きっと大した人物なんやろう。
握手ののち、オレは「兄貴がお世話になってます」って、頭下げた。
そったらタケシタさんは「お世話になっているのは俺のほうだよ」――。
「そうなんですか?」
「うん、そうなんだ。きみのお兄さんは優秀すぎる。俺の手には余るくらいに」
やってさ。
兄貴、えっらい褒められてんぞ?
兄貴はおどけるように肩ぁすくめてみせやった。
挨拶とか渡世の仁義とかいろいろあるんやろう、あちこちに愛想振り撒かなあかんねやろう。
タケシタ部長は「じゃあね」って微笑むと歩いてった。
そのうちアキラっちが戻ってきて。
そう大きくない皿は料理でいっぱいや。
アキラっちはめっちゃ嬉しそう。
何もかもめっちゃうまいんだよ!
ちゅうことらしい。
「そうか、良かったな、バインバイン」
「だだだっ、だからバインバイン言うなっ」
「何がうまいんや?」
「エビだ。ロブスターがおいしいんだっ」
「オレのために取ってきてくれ」
「もうあるぞ。ほら、あーんしろ」
まったく、甘ったるい行為やのにハキハキ言うてくれる。
オレが「あーん」したると、うまいこと口に放り込んでくれた。
エビっちゅうのはうまいもんや。
総じて、高価なことも知ってる。
*****
JR蒲田駅からの帰り道。
お互いに少々ワインを飲んでしもたもんやから、二人してえらく陽気なんや。
アキラっちはオレにぐっと身を寄せてやる。
しなだれかかるみたいにして、全身全霊、預けてきてやる。
「あっ、疑うなよな。あたしはおまえが相手だから腰、抱かせてやってるんだぞ?」
そんなん言われんかてわこてるわ。
ちゅうか、せやないとめっちゃ困るわ。
「にゃはぁ、にゃはー」
アキラっちの、謎の鳴き声。
「おまえの兄貴、シャルさん、やっぱイイヒトだよなぁ。恋人さんも、きっと素敵なんだろうなぁ」
「兄貴に恋人はおらへんぞ」
「えっ、初耳だぞ?」
「教えたった気ぃすんぞ? とにかくまあ、そういうヒトなんや」
「うへぇ、もったいないなぁ」
同感。
せやけどカンペキすぎる兄貴や、そのうち「カンペキな恋人」が見つかるんやろう。
「ロブスター、うまかったなぁ」
「アキラっち、おまえ、さっきからそればっかやぞ」
「いいだろ? ほんとうにおいしかったんだから」
「まあ、ええ夜やったんは否定せーへん」
「おまえがいてくれて良かったよ」
「また、いきなりやな」
やがてはアキラっちの自宅の前へと至り――。
「じゃあな」アキラっちは振り返ると、にこって笑いやった。「明日も迎えにいってやるからな」
ガッコがある朝、迎えに来てくれたり、迎えに行ってやったり。
自然と、そんな仕組みが構築された。
――いきなりのことや。
いきなり、アキラっちは照れたように俯きやった。
「こ、今夜はホントにありがとうな? ほんとうに、楽しかった」
オレは心の底から微笑んだ。
はよ帰ってまえ。
そない言うて、右手をしっしって振った。
不満そうな顔するに違いない。
そないおもたんやけど、アキラっちときたらダッて駆けだして、勢いよくオレに抱きついてきたんや。
ありがとうな?
ありがとう、ありがとう、ほんとうにありがとう!!
そないなふうに礼を述べたか思うと、ほっぺにちゅっちゅちゅっちゅ、かましまくってきやった。
「アキラっち、やっぱおまえ、酔っぱらってるやろぉ?」
「何度も言わせるな。おまえが相手だからこんな真似してるんだ」
「抱きてー」
「いいぞ、抱け。だけどまずはキスだ」
「して、ええのん?」
アキラっちは少し顔を離したら、オレの顔見上げて吐息、甘ったるい息を吐きやった。
見つめ合う。
老舗然と年季の入った下町の弁当屋の前。
少々羽虫がたかってるらしい街灯の下――での初キス。
まるで冴えへん気が利いてへんシチュエーションやけど、舌を絡ませ合うまで、そない時間はかからへんかった。
*****
八重洲口の近辺にお手頃なとこなんてないんやろうか。
兄貴に呼び出された先――イタリアンの店はいかにも高級そうな感じで、図太いオレやなかったら店構え見ただけで尻込みしたに違いない。
淡いオレンジ色の燈、真っ白なテーブルクロスに、紺色スーツの兄貴はめっちゃ映える。
兄貴は赤ワインのグラスを傾けると、「最近の調子は? どうなんだ?」――。
「最近の調子、とは?」オレはピザ――否、クリスピーなピッツァにがっついてる。
生地が分厚いアメリカンスタイルのほうが好きやっちゅうのは、今んとこナイショ。
「おまえも俺も自由すぎるんでな」兄貴は言う。「ゆえに、実家の牧場のことが、しばしば頭をよぎる」
「牧場については間違いなく大野少年が支えてくれる思うけど?」
「他人任せでいいのかという話だ。あと、大野少年だなんて呼ぶな。学生ごときが偉そうに」
そりゃそうや。
若造のくせしてたしかに偉そうなこと言うてしもた。
とはいえオレはすぐに自分の中の空気を入れ換えて、「兄貴、ホンマに悩んでるん?」って訊ねた。
兄貴はまた赤ワインをくいとやる、アルコールの耐性は大したもんなくせに、時に顔は桃色に染まるんや、色っぽいなぁ――。
「苦悩するくらいなら、牧場、継いだったら?」
「俺の、いや、俺たちの両親は、それを望んでいないだろう?」
「まあなぁ。オレらには『好きにやれ』言うてるだけやもんなぁ」
兄貴は安堵したみたいに、ふっと口元を緩めてみせた。
「やっぱり、おまえに話して良かったよ」
「えぇぇ、なんなんそれー」得体の知れない物言いについて、オレは不満の言葉を口にした。
その後、兄貴は白のボトルをオーダーして、それを兄弟で一緒になって空けた。
空けたところで、兄貴は天井を仰いだ。
気持ちのいい夜だ――ってことらしいんやわ。
「兄貴の役に立てるんなら、いつやかて付き合うぞ」
「殊勝じゃないか」
「世話になってるさかい」
「だとしたら、打算的だなと評価を改めよう」
「はいはい」
「おまえはイイ奴だし、イイ男だよ」
そんな犀川イクミくんに朗報だ。
「朗報? おぉ兄貴、それってなんやろ?」
「ウチの子会社は三つある。そのうちの二つは天王洲に本社がある」
「そのくらい知ってる。いずれも有名やさかいな。どっちも一人で一億稼いでんねんやろ?」
「今は十月だ」
「それも知ってる」
「半期の業績が芳しいものだったらしい。パーティーをやるんだよ」
「パーティー? 言わば祝勝会?」
「ちょっとした催しでしかないがな」
それがどうかしたん?
「来るといいぞ」
「えっ?」
「来ていいと言ったんだ。なにせうまいものにありつける」
オレは目をぱちくりさせてから、「ああ、そういうことか」と納得した。
「ホンマに、ええのん?」
「軽いノリのイベントだと、あらためて謳っておく」
「学生服でええのん?」
「アルコールを口にしたいなら、そうじゃないほうがいいだろう」
「ごもっとも」オレは深く頷いた。「わこた。正装で邪魔したろ」
恋人も伴ってくるといい。
――と、兄貴。
「そんなんもええのん?」
「堅苦しい催し事じゃあない、紛れてしまえばわからない――そう言ったつもりだ」
「わこた。誘ってみる。断られるような気がせんでもないけど」
「断られる? どうしてだ? リスクなんてないはずだが?」
「奴さん、照れ屋やさかい」オレは自分でもわかるくらい、穏やかに微笑んだ。
「今日は呼び出して悪かった」
「へ? なんなん、いきなり」
「心を開ける相手はおまえしかいない」
オレはあははと軽薄に笑いながら、「そないなわけないやろう?」――。
「まあいいさ」兄貴は小さく肩をすくめて――。「パーティーには俺も出席する。顔を出せと部長がうるさいんだ」
「兄貴の現在の役職は?」
「言わずもがな、課長だよ」
「威張ってええ思うけど? 名うての大企業やし、兄貴ってば若いし」
「ナマをほざくな」
「それはわかったってば」
*****
あるいはとも考えたんやけど、「豪華な食事なら行くぞっ」ってことやった。
誰の話って、アキラっちの話や。
当日、オレはきちっと黒スーツにウインザーノットでアキラっちのこと、迎えに行った。
そったらや。
出てきたアキラっちは漆黒のドレス姿やった、その上に厚めの白いカーディガン羽織ってやる。
アグレッシブすぎるファッションに、大げさな話でもなんでもなく、オレは度肝抜かれた。
だって肩紐はえっらい細くて胸元も露わで、下半身は太ももまでざっくりスリット入ってるんや。
「アキラっち、おまえ、そないなエロい服、どこでこうたんや?」
「よ、横浜の小さなブティックだ。理由を話したら、さっちんとみゆきちに連れていかれたんだ」
「いろいろこぼれてまいそうやんか、脚の露出具合もヤバいし。鼻血出そうや」
「わわわっ、わかったからじっと見るなよ。っていうか、ヘンテコか……?」
オレは二歩三歩と退いて、その上でアキラっちの全身を眺めたわけや。
「なな、なんだよやっぱり、ヘンテコなのか?」
「アホかおまえ、バインバイン」
「ばっ、バインバインとかっ」
「犯されたいんか?」
「犯されたいんかとかっ」
呆れ交じりに、オレは溜息ついた。
「気張る必要はないってオレは言うたぞ」
「でで、でもっ、失礼があったらいけないだろ?」
なんや、失礼って。
ホンマ、カジュアルなパーティーらしいんやけど?
「まあ、ええわ」
言うてオレは、アキラっちの価値ある腰に左手を回した。
アキラっちは「うひゃぁっ」ってビックリしたみたいで。
「今夜はずっと触ってたろ」
「えっ、えぇぇぇぇっ?!」
「触ってたろ」オレはにこにこってわろた。
天王洲。
蒲田からはすぐや。
ホンマ、張り巡らされた東京の鉄道事情には頭が下がる思い――。
*****
天王洲アイルのシーフォートスクエア、ホテル。
芋洗いのエレベーターの中で、アキラっちはオレにぎゅっと抱きついたまま、離れへんでいる。
オレは両腕回してアキラっちの腰を抱き寄せて。
バインバインがぎゅってな感じでオレの胸に当たってる。
やわこいんやけど途方もないくらいのハリがあって、やっぱサイコーや。
アキラっちは「うえぇ、うえぇ」とか泣き声上げながら抱きついてきて、耳元でささやくように言うた。
「うえぇぇぇぇ、男どもの視線が痛いよぅ、痛いんだよぉぉぉ……」
それはしゃあない。
総じて男は、エロい女が好きなもんや。
せやさかい、なおのこと、オレから離れんなや。
オレはそない言うてあらためて、アキラっちの腰を強く抱き寄せた。
その瞬間、アキラっちはびくって身体揺らしやったんやけど「ありがとうな」っちゅうことやった。
*****
いざ、会場、天井の高い屋上のホール、ガラス張りの壁が場の高級感を演出してやる。
オレらんこと見つけたらしい兄貴がゆっくり近づいてきた。
兄貴はまずにこりとわろて、アキラっちに御礼を言うた。
来てくれてありがとう――。
「しかし、きみのファッションは目の毒だな」と兄貴。
「うっ、ううぅっ」なんや口惜しそうにアキラっちは口籠って俯いて。「やっぱりそうですか……?」
「きみの理想的なプロポーションに、男どもはみな、魅せられている」
兄貴以外が言うたらめっちゃ気色悪いセリフやな。
そのへん理解してるからやろう、せやからアキラっちは「しょうがないなぁ」みたいに眉尻下げたんや。
「弟さんがいるから大丈夫です」
「ほんとうに?」
「弟さんはとても誠実ですから、だから私は信用しているんです」
おぉ、アキラっちよ。
なんとも嬉しいこと、言うてくれるやないか。
「でも、ちょっとおめかししすぎました」アキラっちは「てへへ」って照れくさそうに笑み浮かべて――。
「だからそれはそのとおりだ」と兄貴。「しかし、着飾らないよりはよほどいい」
「そうですか?」
「そういうものだ」
気を良くしたらしいアキラっち。
ご機嫌な様子で立食形式のバイキング――食料の調達に向かった。
素敵な女性だな――と、兄貴は言うて。
「なんで? やっぱエロいから?」
「抜かせ」
「外見は大事やろ?」
「彼女の場合、内面が素敵だ」
「同感。せやさかい、好きなんやよ、大好きなんや」
兄貴は、ふっとわろて。
オレとワイングラスで乾杯、チンと鳴らして。
そのうち、小太りの男がやってきた。
とにかく小太りで、せやけどおっさん言うほど年取ってなくて――いや、もうすっかりおっさんなんやろうか、そのへん、判断が難しい。
当該おっさんは兄貴と二言三言と会話を交わすと、オレに右手、伸ばしてきた。
「こんばんは、弟さん」
そないな気安いセリフやったんやけど、なんや、オレは彼のことを信用した。
右手差し出して、握手した。
「タケシタ部長だ」と、兄貴。
部長、兄貴の上司ってわけやな。
正直デブいからカッコよくはないんやけど、なにせ兄貴の上なんやから、きっと大した人物なんやろう。
握手ののち、オレは「兄貴がお世話になってます」って、頭下げた。
そったらタケシタさんは「お世話になっているのは俺のほうだよ」――。
「そうなんですか?」
「うん、そうなんだ。きみのお兄さんは優秀すぎる。俺の手には余るくらいに」
やってさ。
兄貴、えっらい褒められてんぞ?
兄貴はおどけるように肩ぁすくめてみせやった。
挨拶とか渡世の仁義とかいろいろあるんやろう、あちこちに愛想振り撒かなあかんねやろう。
タケシタ部長は「じゃあね」って微笑むと歩いてった。
そのうちアキラっちが戻ってきて。
そう大きくない皿は料理でいっぱいや。
アキラっちはめっちゃ嬉しそう。
何もかもめっちゃうまいんだよ!
ちゅうことらしい。
「そうか、良かったな、バインバイン」
「だだだっ、だからバインバイン言うなっ」
「何がうまいんや?」
「エビだ。ロブスターがおいしいんだっ」
「オレのために取ってきてくれ」
「もうあるぞ。ほら、あーんしろ」
まったく、甘ったるい行為やのにハキハキ言うてくれる。
オレが「あーん」したると、うまいこと口に放り込んでくれた。
エビっちゅうのはうまいもんや。
総じて、高価なことも知ってる。
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JR蒲田駅からの帰り道。
お互いに少々ワインを飲んでしもたもんやから、二人してえらく陽気なんや。
アキラっちはオレにぐっと身を寄せてやる。
しなだれかかるみたいにして、全身全霊、預けてきてやる。
「あっ、疑うなよな。あたしはおまえが相手だから腰、抱かせてやってるんだぞ?」
そんなん言われんかてわこてるわ。
ちゅうか、せやないとめっちゃ困るわ。
「にゃはぁ、にゃはー」
アキラっちの、謎の鳴き声。
「おまえの兄貴、シャルさん、やっぱイイヒトだよなぁ。恋人さんも、きっと素敵なんだろうなぁ」
「兄貴に恋人はおらへんぞ」
「えっ、初耳だぞ?」
「教えたった気ぃすんぞ? とにかくまあ、そういうヒトなんや」
「うへぇ、もったいないなぁ」
同感。
せやけどカンペキすぎる兄貴や、そのうち「カンペキな恋人」が見つかるんやろう。
「ロブスター、うまかったなぁ」
「アキラっち、おまえ、さっきからそればっかやぞ」
「いいだろ? ほんとうにおいしかったんだから」
「まあ、ええ夜やったんは否定せーへん」
「おまえがいてくれて良かったよ」
「また、いきなりやな」
やがてはアキラっちの自宅の前へと至り――。
「じゃあな」アキラっちは振り返ると、にこって笑いやった。「明日も迎えにいってやるからな」
ガッコがある朝、迎えに来てくれたり、迎えに行ってやったり。
自然と、そんな仕組みが構築された。
――いきなりのことや。
いきなり、アキラっちは照れたように俯きやった。
「こ、今夜はホントにありがとうな? ほんとうに、楽しかった」
オレは心の底から微笑んだ。
はよ帰ってまえ。
そない言うて、右手をしっしって振った。
不満そうな顔するに違いない。
そないおもたんやけど、アキラっちときたらダッて駆けだして、勢いよくオレに抱きついてきたんや。
ありがとうな?
ありがとう、ありがとう、ほんとうにありがとう!!
そないなふうに礼を述べたか思うと、ほっぺにちゅっちゅちゅっちゅ、かましまくってきやった。
「アキラっち、やっぱおまえ、酔っぱらってるやろぉ?」
「何度も言わせるな。おまえが相手だからこんな真似してるんだ」
「抱きてー」
「いいぞ、抱け。だけどまずはキスだ」
「して、ええのん?」
アキラっちは少し顔を離したら、オレの顔見上げて吐息、甘ったるい息を吐きやった。
見つめ合う。
老舗然と年季の入った下町の弁当屋の前。
少々羽虫がたかってるらしい街灯の下――での初キス。
まるで冴えへん気が利いてへんシチュエーションやけど、舌を絡ませ合うまで、そない時間はかからへんかった。