※この作品はR-18です。

沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~   作:XI_01

45 / 80
45.二人して勢いで←はじめてなんて、そんなもん

*****

 

 八重洲口の近辺にお手頃なとこなんてないんやろうか。

 兄貴に呼び出された先――イタリアンの店はいかにも高級そうな感じで、図太いオレやなかったら店構え見ただけで尻込みしたに違いない。

 

 淡いオレンジ色の燈、真っ白なテーブルクロスに、紺色スーツの兄貴はめっちゃ映える。

 

 兄貴は赤ワインのグラスを傾けると、「最近の調子は? どうなんだ?」――。

 

「最近の調子、とは?」オレはピザ――否、クリスピーなピッツァにがっついてる。

 

 生地が分厚いアメリカンスタイルのほうが好きやっちゅうのは、今んとこナイショ。

 

「おまえも俺も自由すぎるんでな」兄貴は言う。「ゆえに、実家の牧場のことが、しばしば頭をよぎる」

「牧場については間違いなく大野少年が支えてくれる思うけど?」

「他人任せでいいのかという話だ。あと、大野少年だなんて呼ぶな。学生ごときが偉そうに」

 

 そりゃそうや。

 若造のくせしてたしかに偉そうなこと言うてしもた。

 

 とはいえオレはすぐに自分の中の空気を入れ換えて、「兄貴、ホンマに悩んでるん?」って訊ねた。

 兄貴はまた赤ワインをくいとやる、アルコールの耐性は大したもんなくせに、時に顔は桃色に染まるんや、色っぽいなぁ――。

 

「苦悩するくらいなら、牧場、継いだったら?」

「俺の、いや、俺たちの両親は、それを望んでいないだろう?」

「まあなぁ。オレらには『好きにやれ』言うてるだけやもんなぁ」

 

 兄貴は安堵したみたいに、ふっと口元を緩めてみせた。

 

「やっぱり、おまえに話して良かったよ」

「えぇぇ、なんなんそれー」得体の知れない物言いについて、オレは不満の言葉を口にした。

 

 その後、兄貴は白のボトルをオーダーして、それを兄弟で一緒になって空けた。

 空けたところで、兄貴は天井を仰いだ。

 

 気持ちのいい夜だ――ってことらしいんやわ。

 

「兄貴の役に立てるんなら、いつやかて付き合うぞ」

「殊勝じゃないか」

「世話になってるさかい」

「だとしたら、打算的だなと評価を改めよう」

「はいはい」

「おまえはイイ奴だし、イイ男だよ」

 

 そんな犀川イクミくんに朗報だ。

 

「朗報? おぉ兄貴、それってなんやろ?」

 

「ウチの子会社は三つある。そのうちの二つは天王洲に本社がある」

「そのくらい知ってる。いずれも有名やさかいな。どっちも一人で一億稼いでんねんやろ?」

「今は十月だ」

「それも知ってる」

「半期の業績が芳しいものだったらしい。パーティーをやるんだよ」

「パーティー? 言わば祝勝会?」

「ちょっとした催しでしかないがな」

 

 それがどうかしたん?

 

「来るといいぞ」

「えっ?」

「来ていいと言ったんだ。なにせうまいものにありつける」

 

 オレは目をぱちくりさせてから、「ああ、そういうことか」と納得した。

 

「ホンマに、ええのん?」

「軽いノリのイベントだと、あらためて謳っておく」

「学生服でええのん?」

「アルコールを口にしたいなら、そうじゃないほうがいいだろう」

「ごもっとも」オレは深く頷いた。「わこた。正装で邪魔したろ」

 

 恋人も伴ってくるといい。

 ――と、兄貴。

 

「そんなんもええのん?」

「堅苦しい催し事じゃあない、紛れてしまえばわからない――そう言ったつもりだ」

「わこた。誘ってみる。断られるような気がせんでもないけど」

「断られる? どうしてだ? リスクなんてないはずだが?」

「奴さん、照れ屋やさかい」オレは自分でもわかるくらい、穏やかに微笑んだ。

 

「今日は呼び出して悪かった」

「へ? なんなん、いきなり」

「心を開ける相手はおまえしかいない」

 

 オレはあははと軽薄に笑いながら、「そないなわけないやろう?」――。

 

「まあいいさ」兄貴は小さく肩をすくめて――。「パーティーには俺も出席する。顔を出せと部長がうるさいんだ」

「兄貴の現在の役職は?」

「言わずもがな、課長だよ」

「威張ってええ思うけど? 名うての大企業やし、兄貴ってば若いし」

「ナマをほざくな」

「それはわかったってば」

 

 

*****

 

 あるいはとも考えたんやけど、「豪華な食事なら行くぞっ」ってことやった。

 誰の話って、アキラっちの話や。

 

 当日、オレはきちっと黒スーツにウインザーノットでアキラっちのこと、迎えに行った。

 

 そったらや。

 出てきたアキラっちは漆黒のドレス姿やった、その上に厚めの白いカーディガン羽織ってやる。

 

 アグレッシブすぎるファッションに、大げさな話でもなんでもなく、オレは度肝抜かれた。

 だって肩紐はえっらい細くて胸元も露わで、下半身は太ももまでざっくりスリット入ってるんや。

 

「アキラっち、おまえ、そないなエロい服、どこでこうたんや?」

「よ、横浜の小さなブティックだ。理由を話したら、さっちんとみゆきちに連れていかれたんだ」

「いろいろこぼれてまいそうやんか、脚の露出具合もヤバいし。鼻血出そうや」

「わわわっ、わかったからじっと見るなよ。っていうか、ヘンテコか……?」

 

 オレは二歩三歩と退いて、その上でアキラっちの全身を眺めたわけや。

 

「なな、なんだよやっぱり、ヘンテコなのか?」

「アホかおまえ、バインバイン」

「ばっ、バインバインとかっ」

「犯されたいんか?」

「犯されたいんかとかっ」

 

 呆れ交じりに、オレは溜息ついた。

 

「気張る必要はないってオレは言うたぞ」

「でで、でもっ、失礼があったらいけないだろ?」

 

 なんや、失礼って。

 ホンマ、カジュアルなパーティーらしいんやけど?

 

「まあ、ええわ」

 

 言うてオレは、アキラっちの価値ある腰に左手を回した。

 アキラっちは「うひゃぁっ」ってビックリしたみたいで。

 

「今夜はずっと触ってたろ」

「えっ、えぇぇぇぇっ?!」

「触ってたろ」オレはにこにこってわろた。

 

 天王洲。

 蒲田からはすぐや。

 ホンマ、張り巡らされた東京の鉄道事情には頭が下がる思い――。

 

 

*****

 

 天王洲アイルのシーフォートスクエア、ホテル。

 芋洗いのエレベーターの中で、アキラっちはオレにぎゅっと抱きついたまま、離れへんでいる。

 

 オレは両腕回してアキラっちの腰を抱き寄せて。

 バインバインがぎゅってな感じでオレの胸に当たってる。

 やわこいんやけど途方もないくらいのハリがあって、やっぱサイコーや。

 

 アキラっちは「うえぇ、うえぇ」とか泣き声上げながら抱きついてきて、耳元でささやくように言うた。

 

「うえぇぇぇぇ、男どもの視線が痛いよぅ、痛いんだよぉぉぉ……」

 

 それはしゃあない。

 総じて男は、エロい女が好きなもんや。

 

 せやさかい、なおのこと、オレから離れんなや。

 オレはそない言うてあらためて、アキラっちの腰を強く抱き寄せた。

 その瞬間、アキラっちはびくって身体揺らしやったんやけど「ありがとうな」っちゅうことやった。

 

 

*****

 

 いざ、会場、天井の高い屋上のホール、ガラス張りの壁が場の高級感を演出してやる。

 

 オレらんこと見つけたらしい兄貴がゆっくり近づいてきた。

 兄貴はまずにこりとわろて、アキラっちに御礼を言うた。

 来てくれてありがとう――。

 

「しかし、きみのファッションは目の毒だな」と兄貴。

「うっ、ううぅっ」なんや口惜しそうにアキラっちは口籠って俯いて。「やっぱりそうですか……?」

「きみの理想的なプロポーションに、男どもはみな、魅せられている」

 

 兄貴以外が言うたらめっちゃ気色悪いセリフやな。

 そのへん理解してるからやろう、せやからアキラっちは「しょうがないなぁ」みたいに眉尻下げたんや。

 

「弟さんがいるから大丈夫です」

「ほんとうに?」

「弟さんはとても誠実ですから、だから私は信用しているんです」

 

 おぉ、アキラっちよ。

 なんとも嬉しいこと、言うてくれるやないか。

 

「でも、ちょっとおめかししすぎました」アキラっちは「てへへ」って照れくさそうに笑み浮かべて――。

「だからそれはそのとおりだ」と兄貴。「しかし、着飾らないよりはよほどいい」

「そうですか?」

「そういうものだ」

 

 気を良くしたらしいアキラっち。

 ご機嫌な様子で立食形式のバイキング――食料の調達に向かった。

 

 素敵な女性だな――と、兄貴は言うて。

 

「なんで? やっぱエロいから?」

「抜かせ」

「外見は大事やろ?」

「彼女の場合、内面が素敵だ」

「同感。せやさかい、好きなんやよ、大好きなんや」

 

 兄貴は、ふっとわろて。

 オレとワイングラスで乾杯、チンと鳴らして。

 

 そのうち、小太りの男がやってきた。

 とにかく小太りで、せやけどおっさん言うほど年取ってなくて――いや、もうすっかりおっさんなんやろうか、そのへん、判断が難しい。

 

 当該おっさんは兄貴と二言三言と会話を交わすと、オレに右手、伸ばしてきた。

 

「こんばんは、弟さん」

 

 そないな気安いセリフやったんやけど、なんや、オレは彼のことを信用した。

 右手差し出して、握手した。

 

「タケシタ部長だ」と、兄貴。

 

 部長、兄貴の上司ってわけやな。

 正直デブいからカッコよくはないんやけど、なにせ兄貴の上なんやから、きっと大した人物なんやろう。

 

 握手ののち、オレは「兄貴がお世話になってます」って、頭下げた。

 そったらタケシタさんは「お世話になっているのは俺のほうだよ」――。

 

「そうなんですか?」

「うん、そうなんだ。きみのお兄さんは優秀すぎる。俺の手には余るくらいに」

 

 やってさ。

 兄貴、えっらい褒められてんぞ?

 兄貴はおどけるように肩ぁすくめてみせやった。

 

 挨拶とか渡世の仁義とかいろいろあるんやろう、あちこちに愛想振り撒かなあかんねやろう。

 タケシタ部長は「じゃあね」って微笑むと歩いてった。

 

 そのうちアキラっちが戻ってきて。

 そう大きくない皿は料理でいっぱいや。

 

 アキラっちはめっちゃ嬉しそう。

 

 何もかもめっちゃうまいんだよ!

 ちゅうことらしい。

 

「そうか、良かったな、バインバイン」

「だだだっ、だからバインバイン言うなっ」

「何がうまいんや?」

「エビだ。ロブスターがおいしいんだっ」

「オレのために取ってきてくれ」

「もうあるぞ。ほら、あーんしろ」

 

 まったく、甘ったるい行為やのにハキハキ言うてくれる。

 オレが「あーん」したると、うまいこと口に放り込んでくれた。

 

 エビっちゅうのはうまいもんや。

 総じて、高価なことも知ってる。

 

 

*****

 

 JR蒲田駅からの帰り道。

 お互いに少々ワインを飲んでしもたもんやから、二人してえらく陽気なんや。

 

 アキラっちはオレにぐっと身を寄せてやる。

 しなだれかかるみたいにして、全身全霊、預けてきてやる。

 

「あっ、疑うなよな。あたしはおまえが相手だから腰、抱かせてやってるんだぞ?」

 

 そんなん言われんかてわこてるわ。

 ちゅうか、せやないとめっちゃ困るわ。

 

「にゃはぁ、にゃはー」

 

 アキラっちの、謎の鳴き声。

 

「おまえの兄貴、シャルさん、やっぱイイヒトだよなぁ。恋人さんも、きっと素敵なんだろうなぁ」

「兄貴に恋人はおらへんぞ」

「えっ、初耳だぞ?」

「教えたった気ぃすんぞ? とにかくまあ、そういうヒトなんや」

「うへぇ、もったいないなぁ」

 

 同感。

 せやけどカンペキすぎる兄貴や、そのうち「カンペキな恋人」が見つかるんやろう。

 

「ロブスター、うまかったなぁ」

「アキラっち、おまえ、さっきからそればっかやぞ」

「いいだろ? ほんとうにおいしかったんだから」

「まあ、ええ夜やったんは否定せーへん」

「おまえがいてくれて良かったよ」

「また、いきなりやな」

 

 やがてはアキラっちの自宅の前へと至り――。

 

「じゃあな」アキラっちは振り返ると、にこって笑いやった。「明日も迎えにいってやるからな」

 

 ガッコがある朝、迎えに来てくれたり、迎えに行ってやったり。

 自然と、そんな仕組みが構築された。

 

 ――いきなりのことや。

 いきなり、アキラっちは照れたように俯きやった。

 

「こ、今夜はホントにありがとうな? ほんとうに、楽しかった」

 

 オレは心の底から微笑んだ。

 はよ帰ってまえ。

 そない言うて、右手をしっしって振った。

 

 不満そうな顔するに違いない。

 そないおもたんやけど、アキラっちときたらダッて駆けだして、勢いよくオレに抱きついてきたんや。

 

 ありがとうな?

 ありがとう、ありがとう、ほんとうにありがとう!!

 

 そないなふうに礼を述べたか思うと、ほっぺにちゅっちゅちゅっちゅ、かましまくってきやった。

 

「アキラっち、やっぱおまえ、酔っぱらってるやろぉ?」

「何度も言わせるな。おまえが相手だからこんな真似してるんだ」

「抱きてー」

「いいぞ、抱け。だけどまずはキスだ」

「して、ええのん?」

 

 アキラっちは少し顔を離したら、オレの顔見上げて吐息、甘ったるい息を吐きやった。

 

 見つめ合う。

 

 老舗然と年季の入った下町の弁当屋の前。

 

 少々羽虫がたかってるらしい街灯の下――での初キス。

 

 まるで冴えへん気が利いてへんシチュエーションやけど、舌を絡ませ合うまで、そない時間はかからへんかった。

*****

 

 八重洲口の近辺にお手頃なとこなんてないんやろうか。

 兄貴に呼び出された先――イタリアンの店はいかにも高級そうな感じで、図太いオレやなかったら店構え見ただけで尻込みしたに違いない。

 

 淡いオレンジ色の燈、真っ白なテーブルクロスに、紺色スーツの兄貴はめっちゃ映える。

 

 兄貴は赤ワインのグラスを傾けると、「最近の調子は? どうなんだ?」――。

 

「最近の調子、とは?」オレはピザ――否、クリスピーなピッツァにがっついてる。

 

 生地が分厚いアメリカンスタイルのほうが好きやっちゅうのは、今んとこナイショ。

 

「おまえも俺も自由すぎるんでな」兄貴は言う。「ゆえに、実家の牧場のことが、しばしば頭をよぎる」

「牧場については間違いなく大野少年が支えてくれる思うけど?」

「他人任せでいいのかという話だ。あと、大野少年だなんて呼ぶな。学生ごときが偉そうに」

 

 そりゃそうや。

 若造のくせしてたしかに偉そうなこと言うてしもた。

 

 とはいえオレはすぐに自分の中の空気を入れ換えて、「兄貴、ホンマに悩んでるん?」って訊ねた。

 兄貴はまた赤ワインをくいとやる、アルコールの耐性は大したもんなくせに、時に顔は桃色に染まるんや、色っぽいなぁ――。

 

「苦悩するくらいなら、牧場、継いだったら?」

「俺の、いや、俺たちの両親は、それを望んでいないだろう?」

「まあなぁ。オレらには『好きにやれ』言うてるだけやもんなぁ」

 

 兄貴は安堵したみたいに、ふっと口元を緩めてみせた。

 

「やっぱり、おまえに話して良かったよ」

「えぇぇ、なんなんそれー」得体の知れない物言いについて、オレは不満の言葉を口にした。

 

 その後、兄貴は白のボトルをオーダーして、それを兄弟で一緒になって空けた。

 空けたところで、兄貴は天井を仰いだ。

 

 気持ちのいい夜だ――ってことらしいんやわ。

 

「兄貴の役に立てるんなら、いつやかて付き合うぞ」

「殊勝じゃないか」

「世話になってるさかい」

「だとしたら、打算的だなと評価を改めよう」

「はいはい」

「おまえはイイ奴だし、イイ男だよ」

 

 そんな犀川イクミくんに朗報だ。

 

「朗報? おぉ兄貴、それってなんやろ?」

 

「ウチの子会社は三つある。そのうちの二つは天王洲に本社がある」

「そのくらい知ってる。いずれも有名やさかいな。どっちも一人で一億稼いでんねんやろ?」

「今は十月だ」

「それも知ってる」

「半期の業績が芳しいものだったらしい。パーティーをやるんだよ」

「パーティー? 言わば祝勝会?」

「ちょっとした催しでしかないがな」

 

 それがどうかしたん?

 

「来るといいぞ」

「えっ?」

「来ていいと言ったんだ。なにせうまいものにありつける」

 

 オレは目をぱちくりさせてから、「ああ、そういうことか」と納得した。

 

「ホンマに、ええのん?」

「軽いノリのイベントだと、あらためて謳っておく」

「学生服でええのん?」

「アルコールを口にしたいなら、そうじゃないほうがいいだろう」

「ごもっとも」オレは深く頷いた。「わこた。正装で邪魔したろ」

 

 恋人も伴ってくるといい。

 ――と、兄貴。

 

「そんなんもええのん?」

「堅苦しい催し事じゃあない、紛れてしまえばわからない――そう言ったつもりだ」

「わこた。誘ってみる。断られるような気がせんでもないけど」

「断られる? どうしてだ? リスクなんてないはずだが?」

「奴さん、照れ屋やさかい」オレは自分でもわかるくらい、穏やかに微笑んだ。

 

「今日は呼び出して悪かった」

「へ? なんなん、いきなり」

「心を開ける相手はおまえしかいない」

 

 オレはあははと軽薄に笑いながら、「そないなわけないやろう?」――。

 

「まあいいさ」兄貴は小さく肩をすくめて――。「パーティーには俺も出席する。顔を出せと部長がうるさいんだ」

「兄貴の現在の役職は?」

「言わずもがな、課長だよ」

「威張ってええ思うけど? 名うての大企業やし、兄貴ってば若いし」

「ナマをほざくな」

「それはわかったってば」

 

 

*****

 

 あるいはとも考えたんやけど、「豪華な食事なら行くぞっ」ってことやった。

 誰の話って、アキラっちの話や。

 

 当日、オレはきちっと黒スーツにウインザーノットでアキラっちのこと、迎えに行った。

 

 そったらや。

 出てきたアキラっちは漆黒のドレス姿やった、その上に厚めの白いカーディガン羽織ってやる。

 

 アグレッシブすぎるファッションに、大げさな話でもなんでもなく、オレは度肝抜かれた。

 だって肩紐はえっらい細くて胸元も露わで、下半身は太ももまでざっくりスリット入ってるんや。

 

「アキラっち、おまえ、そないなエロい服、どこでこうたんや?」

「よ、横浜の小さなブティックだ。理由を話したら、さっちんとみゆきちに連れていかれたんだ」

「いろいろこぼれてまいそうやんか、脚の露出具合もヤバいし。鼻血出そうや」

「わわわっ、わかったからじっと見るなよ。っていうか、ヘンテコか……?」

 

 オレは二歩三歩と退いて、その上でアキラっちの全身を眺めたわけや。

 

「なな、なんだよやっぱり、ヘンテコなのか?」

「アホかおまえ、バインバイン」

「ばっ、バインバインとかっ」

「犯されたいんか?」

「犯されたいんかとかっ」

 

 呆れ交じりに、オレは溜息ついた。

 

「気張る必要はないってオレは言うたぞ」

「でで、でもっ、失礼があったらいけないだろ?」

 

 なんや、失礼って。

 ホンマ、カジュアルなパーティーらしいんやけど?

 

「まあ、ええわ」

 

 言うてオレは、アキラっちの価値ある腰に左手を回した。

 アキラっちは「うひゃぁっ」ってビックリしたみたいで。

 

「今夜はずっと触ってたろ」

「えっ、えぇぇぇぇっ?!」

「触ってたろ」オレはにこにこってわろた。

 

 天王洲。

 蒲田からはすぐや。

 ホンマ、張り巡らされた東京の鉄道事情には頭が下がる思い――。

 

 

*****

 

 天王洲アイルのシーフォートスクエア、ホテル。

 芋洗いのエレベーターの中で、アキラっちはオレにぎゅっと抱きついたまま、離れへんでいる。

 

 オレは両腕回してアキラっちの腰を抱き寄せて。

 バインバインがぎゅってな感じでオレの胸に当たってる。

 やわこいんやけど途方もないくらいのハリがあって、やっぱサイコーや。

 

 アキラっちは「うえぇ、うえぇ」とか泣き声上げながら抱きついてきて、耳元でささやくように言うた。

 

「うえぇぇぇぇ、男どもの視線が痛いよぅ、痛いんだよぉぉぉ……」

 

 それはしゃあない。

 総じて男は、エロい女が好きなもんや。

 

 せやさかい、なおのこと、オレから離れんなや。

 オレはそない言うてあらためて、アキラっちの腰を強く抱き寄せた。

 その瞬間、アキラっちはびくって身体揺らしやったんやけど「ありがとうな」っちゅうことやった。

 

 

*****

 

 いざ、会場、天井の高い屋上のホール、ガラス張りの壁が場の高級感を演出してやる。

 

 オレらんこと見つけたらしい兄貴がゆっくり近づいてきた。

 兄貴はまずにこりとわろて、アキラっちに御礼を言うた。

 来てくれてありがとう――。

 

「しかし、きみのファッションは目の毒だな」と兄貴。

「うっ、ううぅっ」なんや口惜しそうにアキラっちは口籠って俯いて。「やっぱりそうですか……?」

「きみの理想的なプロポーションに、男どもはみな、魅せられている」

 

 兄貴以外が言うたらめっちゃ気色悪いセリフやな。

 そのへん理解してるからやろう、せやからアキラっちは「しょうがないなぁ」みたいに眉尻下げたんや。

 

「弟さんがいるから大丈夫です」

「ほんとうに?」

「弟さんはとても誠実ですから、だから私は信用しているんです」

 

 おぉ、アキラっちよ。

 なんとも嬉しいこと、言うてくれるやないか。

 

「でも、ちょっとおめかししすぎました」アキラっちは「てへへ」って照れくさそうに笑み浮かべて――。

「だからそれはそのとおりだ」と兄貴。「しかし、着飾らないよりはよほどいい」

「そうですか?」

「そういうものだ」

 

 気を良くしたらしいアキラっち。

 ご機嫌な様子で立食形式のバイキング――食料の調達に向かった。

 

 素敵な女性だな――と、兄貴は言うて。

 

「なんで? やっぱエロいから?」

「抜かせ」

「外見は大事やろ?」

「彼女の場合、内面が素敵だ」

「同感。せやさかい、好きなんやよ、大好きなんや」

 

 兄貴は、ふっとわろて。

 オレとワイングラスで乾杯、チンと鳴らして。

 

 そのうち、小太りの男がやってきた。

 とにかく小太りで、せやけどおっさん言うほど年取ってなくて――いや、もうすっかりおっさんなんやろうか、そのへん、判断が難しい。

 

 当該おっさんは兄貴と二言三言と会話を交わすと、オレに右手、伸ばしてきた。

 

「こんばんは、弟さん」

 

 そないな気安いセリフやったんやけど、なんや、オレは彼のことを信用した。

 右手差し出して、握手した。

 

「タケシタ部長だ」と、兄貴。

 

 部長、兄貴の上司ってわけやな。

 正直デブいからカッコよくはないんやけど、なにせ兄貴の上なんやから、きっと大した人物なんやろう。

 

 握手ののち、オレは「兄貴がお世話になってます」って、頭下げた。

 そったらタケシタさんは「お世話になっているのは俺のほうだよ」――。

 

「そうなんですか?」

「うん、そうなんだ。きみのお兄さんは優秀すぎる。俺の手には余るくらいに」

 

 やってさ。

 兄貴、えっらい褒められてんぞ?

 兄貴はおどけるように肩ぁすくめてみせやった。

 

 挨拶とか渡世の仁義とかいろいろあるんやろう、あちこちに愛想振り撒かなあかんねやろう。

 タケシタ部長は「じゃあね」って微笑むと歩いてった。

 

 そのうちアキラっちが戻ってきて。

 そう大きくない皿は料理でいっぱいや。

 

 アキラっちはめっちゃ嬉しそう。

 

 何もかもめっちゃうまいんだよ!

 ちゅうことらしい。

 

「そうか、良かったな、バインバイン」

「だだだっ、だからバインバイン言うなっ」

「何がうまいんや?」

「エビだ。ロブスターがおいしいんだっ」

「オレのために取ってきてくれ」

「もうあるぞ。ほら、あーんしろ」

 

 まったく、甘ったるい行為やのにハキハキ言うてくれる。

 オレが「あーん」したると、うまいこと口に放り込んでくれた。

 

 エビっちゅうのはうまいもんや。

 総じて、高価なことも知ってる。

 

 

*****

 

 JR蒲田駅からの帰り道。

 お互いに少々ワインを飲んでしもたもんやから、二人してえらく陽気なんや。

 

 アキラっちはオレにぐっと身を寄せてやる。

 しなだれかかるみたいにして、全身全霊、預けてきてやる。

 

「あっ、疑うなよな。あたしはおまえが相手だから腰、抱かせてやってるんだぞ?」

 

 そんなん言われんかてわこてるわ。

 ちゅうか、せやないとめっちゃ困るわ。

 

「にゃはぁ、にゃはー」

 

 アキラっちの、謎の鳴き声。

 

「おまえの兄貴、シャルさん、やっぱイイヒトだよなぁ。恋人さんも、きっと素敵なんだろうなぁ」

「兄貴に恋人はおらへんぞ」

「えっ、初耳だぞ?」

「教えたった気ぃすんぞ? とにかくまあ、そういうヒトなんや」

「うへぇ、もったいないなぁ」

 

 同感。

 せやけどカンペキすぎる兄貴や、そのうち「カンペキな恋人」が見つかるんやろう。

 

「ロブスター、うまかったなぁ」

「アキラっち、おまえ、さっきからそればっかやぞ」

「いいだろ? ほんとうにおいしかったんだから」

「まあ、ええ夜やったんは否定せーへん」

「おまえがいてくれて良かったよ」

「また、いきなりやな」

 

 やがてはアキラっちの自宅の前へと至り――。

 

「じゃあな」アキラっちは振り返ると、にこって笑いやった。「明日も迎えにいってやるからな」

 

 ガッコがある朝、迎えに来てくれたり、迎えに行ってやったり。

 自然と、そんな仕組みが構築された。

 

 ――いきなりのことや。

 いきなり、アキラっちは照れたように俯きやった。

 

「こ、今夜はホントにありがとうな? ほんとうに、楽しかった」

 

 オレは心の底から微笑んだ。

 はよ帰ってまえ。

 そない言うて、右手をしっしって振った。

 

 不満そうな顔するに違いない。

 そないおもたんやけど、アキラっちときたらダッて駆けだして、勢いよくオレに抱きついてきたんや。

 

 ありがとうな?

 ありがとう、ありがとう、ほんとうにありがとう!!

 

 そないなふうに礼を述べたか思うと、ほっぺにちゅっちゅちゅっちゅ、かましまくってきやった。

 

「アキラっち、やっぱおまえ、酔っぱらってるやろぉ?」

「何度も言わせるな。おまえが相手だからこんな真似してるんだ」

「抱きてー」

「いいぞ、抱け。だけどまずはキスだ」

「して、ええのん?」

 

 アキラっちは少し顔を離したら、オレの顔見上げて吐息、甘ったるい息を吐きやった。

 

 見つめ合う。

 

 老舗然と年季の入った下町の弁当屋の前。

 

 少々羽虫がたかってるらしい街灯の下――での初キス。

 

 まるで冴えへん気が利いてへんシチュエーションやけど、舌を絡ませ合うまで、そない時間はかからへんかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。