沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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アキラっちがガッコに、マグネット式のちっこい将棋セットを持ってきたんや。
おまえは敵だ、エネミーだ。
昼休みの食後、そない言われたから、お望み通り、対局したることにした。
「って、イクミおまえ、ルール知ってるのか?」
「なんとなくやけど。まあやってるうちに思い出すやろ」
「ふっふっふ」とか不敵にわろたアキラっち。「その程度だったら完封してやるんだぞ」
「ええから打てや」
「おまえから打て。先手のほうが有利なんだぞ」
それ、ホンマなんか?
そんなん知らんけど。
「ほな早速」
オレは飛車の前の歩を突いた。
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ほい、王手。
いよいよオレは追い詰めた。
アキラっちはメチャクチャ難しい顔してやる。
今度は睨みつけるようにこっち見てきて。
「王手じゃない。あたしはそこに打ちたいんだ!」
デカい声出しなや、ちゅうか、妙な言い草や。
そないな理由で逃げ切れるおもてるんやろうか。
「あたしが置きたいところに駒を置くなっ」
「そういうのんが将棋のセオリーやろぉ」
するとそのときや、背後に気配。
後ろから右肩に顎のせるみたいにして誰かが顔近づけてきた、嗅ぎ慣れた匂い、柑橘系のそれはさっちんや。
「なんや、用かぁ?」
「イクミくんのファンってセンパイが二人。しゃべり散らかしてあげなよ」
「ほーい」
ちゅうわけでちょい席離れんぞ?
そない言うたわけで、そんなんいつもやったら怒られるに違いないんやけど今のアキラっちは盤面とにらめっこ中。
没頭してやるんやろう、ぜんぜん返事もくれへんし、せやったらっておもて、そのあいだに用事、済ませることにした。
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七尾の弁当。
店が繁盛する夕食時までにはまだちょい時間がある。
アキラんち。
二人して、また将棋指してる。
アキラっちは負けず嫌いやさかい、まったくめんどくさい、アキラっちやなかったら気長に相手したるなんてこともないやろう。
「あたしはそこに打ちたかったんだっ」
オレが駒置いたところで、またそないに言いやった。
いったい何度目やねんな、アキラっちよ。
「要するに『待った』ってことやよな?」
「違うぞ。でも、一般的にはそうだ」
なんともようわからん、あるいは開き直った言い分や。
アキラっちは右手を顎にやりつつ思考中。
多少前屈みなもんやから、白いTシャツの胸元から超の付くエロい谷間が覗いてる――役得っちゅうやつか。
「そもそもアキラっちはなんで将棋なんて始めたんや?」
「将棋が強いとカッコいいだろ?」
なんたる安直な理由、ぎゃふん。
「せやけどおまえ、才能ないわ。長考する素人に見込みなんてあらへんぞ」
「偉そうに言うんだな。おまえが将棋の何を知ってるっていうんだっ」
そないいうテメェのが偉そうやと思う次第。
アキラっちが唐突に、「パノプティコンって知ってるか?」とか訊いてきた。
いきなりすぎて、さすがのオレも「……は?」って目が点になった。
「なあイクミ、パノプティコンって知ってるか?」
またパノプティコン言いやった。
じつのところ、おまえは「パノプティコン」言いたいだけなんやないんか?
ともあれや。
「知ってんぞ」
「うげげっ、そうなのか?」驚いた顔してのけぞったアキラっち。
「最小の人間で最大のニンゲンをコントロールする――一望監視施設の完成形や」
「最悪の完成形だともいうぞ」
「そのへんはともかく。なんでそないなこといきなり言うんさ?」
こないだ、某アニメを観てたらそんな話が出てきたんだ。
カッコいい単語だから、近いうちに使ってやろうって思ったんだ。
まったく、アキラっちの情報のソースの半分ないし半分以上はアニメやな。
べつにええんやけど、しかしそれも過ぎたもんやと浅薄に映るっちゅうもんや。
「で、パノプティコンについて語り合いたいんか?」
アキラっちはなあんも言わへん。
言わへんで盤面を注視、ようやっと次の手を指しやった。
どうやら「パノプティコン」は指し手を考えるにあたっての時間稼ぎやったらしい。
「ジェレミー・ベンサムっていうらしいんだ」
今度はなんや? アキラっちよ。
「十八世紀の哲学者で社会学者らしいんだ。パノプティコンを考案したらしいんだ」
「ああ、なんやそいつんこと聞いた覚えがあるわ。功利主義の権化なんやろ?」
「げっ。なんで知ってるんだ? ってか、功利主義ってなんなんだ?」
「そないなことどうやかてええんや。アキラっち、今度はオレの頭ん中惑わそうとしてるやろう?」
「そそ、そんなことはないぞ。あたしはそんな卑怯な真似はしないぞ?」
どもってる時点でかなり正解やないか。
アキラっちの名前を呼ぶ声がした、アキラっちのじいさまや。
そろそろ混んできたからレジに入れいうことらしい、今日も看板娘やれっちゅうこっちゃ。
「じゃあな、イクミ。勝負は預けたぞ」
体よく逃げられてしもたっちゅうわけや。
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アキラっちの家でアキラっちの仕事がはけるまで待って、一緒に晩飯食べても良かったんやけど、そんな最中にさっちんから連絡が入った、通話や。
『やほーい、イクミくん、元気?』
「元気やよ。さっちんはどないした?」
『アキラっちからパノプティコンの話、されなかった? あ、ってか、パノプティコンって知ってる?」
「話はされたし、パノプティコンは知ってるよぉ」
『ああ、そう』さっちんは呆れたように吐息をつき。「あのコのミーハーさには困ったもんだ」
「知ったことをすぐ口にしたがるあたり、子どもっぽくてかわいらしい思うけど?」
さっちんは「そだね」――きっと電話の向こうでは微笑んでる。
『で、だ、イクミくん、きみに朗報、ここで二択だ』
朗報?
二択?
「よっしゃ。聞かせてもらおかぁ」
『私とも将棋で勝負してほしい。でもって、私が勝ったなら、ぜひとも寿司をごちそうしてほしい』
「ほぉほぉ。自信ありげやね」
『どうする』
「ええよ、受けたろ。回る寿司? 回らへん寿司?」
『前者で手を打つぞぃ』
わこた。
オレはそない返事して。
「どないする? オレ、今、アキラんとこなんやけど」
『ウチに来なよ。ちなみに、みゆきちもいるからね』
「わこた、伺おう。住所を教えたってくれ」
さっちんはすらすら言い――。
さっちんとの通話を終えてから、アキラっちに全部話した。
「いいぞ、それくらい。ってかあたしは今忙しいんだ。そんなことでいちいち話しかけるな」
ピシャリと叱られてしもた。
なんというか、やむなく、オレはさっちんちに向かうことにした。
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玄関までのアプローチがめっちゃ長くて綺麗やとか生垣に手入れが行き届いてるとかなにせ豪奢なおうちやとか、まあ言い出したらキリないさかい、そのへんはそっとしとこうと思う。インターフォン鳴らしたら向こうから戸が開いた、割烹着をまとったおばあちゃんの姿、お手伝いさんなんやろうってわかったから、なんて金持ちな家なんやろうって感心せざるをえーへんかった。
おばあちゃんから「お嬢様は二階ですよ」って感じで導かれ、部屋に通された。
オレのことを確認するなり、「よっ」って手ぇ上げやったのは何を隠そうさっちんや。
さっちんはみゆきち相手に将棋を指してるみたいやった。
さっちんが愛用してるちゃぶ台はまあるくて白いもんらしい。
オレはおばあちゃんに促されるままに部屋に入って、二人のすぐ脇に腰を下ろした。
「なんやぁ、さっちん。オレとやる前の練習かぁ?」
オレはそないからこうたわけやけど、そったらさっちんは「まあそんなところ」――意外と謙虚な人柄らしい。
恋人以外の女のコんちに長居するつもりはないぞぅ。
オレがそないに言うと、「ドスケベのくせに偉いじゃん」とかなかば揶揄された。
「パノプティコンの話は聞かされた?」
「せやからそないなふうに答えたつもりやけど?」
「あのコはほんとうにミーハーだなぁ、ミーハーすぎる」
「ジェレミー・ベンサムはミーハーなんかね。微妙なとこや思うけど?
「『人生というゲームを楽しんでいる。いつまでもプレイヤーとして参加しつづけたい』」
「誰かのセリフ?」
「誰でもいいんだけどね」
これまたどこぞやのアニメのキャラクターのセリフなんやろうか。
「それじゃあ、ヤろうよ。将棋、相手してあげる」
いや、相手になってやるっちゅうんはオレのセリフなんやけど。
「罰ゲームとか、あったほうがいい?」
「罰ゲーム?」
「うん、たとえば、私が負けたら私のおっぱい揉ませてあげる、とか」
ああ、なるなる、そういう罰ゲームか、じつに魅力的ではある。
――せやけど。
「さっちんは胸ちっこいから。そうやなくてもアキラっちのバインバインに敵う女のコなんておらへんし」
「ちっこいとか。私だってFとかGとかあったりなかったり?」
「えっ、ホンマに?」
「嘘だよ。っていうか、食いついてくるな」
「まあ、ともあれや」
「うん、指そうよ」
さっちんとオレは、盤を挟んで向き合った。
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なんとかさっちんを下して、帰路についた。
いや、帰路っちゅうと少しちゃうな、自然と、あるいはいの一番にアキラっちんちに足向けてたさかい。
21時くらいなんや。
お客さんはようやくはけたらしくって、せやさかい、店先でアキラっちとしゃべってる。
「うえええぇっ?!」
将棋でオレが勝ったらさっちんのおっぱいを揉ませていただいていたらしいっちゅう事実を告げると、アキラっちはそないなふうな素っ頓狂な声ぇ上げたっちゅうわけや。
アキラっちが大きく振りかぶって右手のビンタかましてきた、振り下ろされたそれをスウェーバックでもって華麗にやりすごしたオレ氏――。
「でで、でっ? 揉んだのか? 揉まなかったのか?」
「指先の細胞一つ触るわけないやろぉ?」
オレがそない言うて笑ってみせると、「信用できないぞ」とかアキラは言うた。
「たとえばやよ、アキラっち」
「う、うん、なんだ?」
「オレはそれなりに異性の胸に触れたことがある男子や」
アキラっちは両手を上げて、どひゃっとばかりに上半身をのけぞらせた。
「うあああぁっ! イクミおまえ、おまえは今、著しくあたしの信用を失ったぞ!?_」
「いや、オレかて年頃の男のコやさかいな」
「ふふ、不潔だ! もう別れてやるぞ!!」
「別れたいんか?」
「ああぁ、あうっ、別れたく、ないけど……」
おまえの胸しか触りたくない、そのへんは決定的で確信的やさかい心配すな。
そない言うたると、アキラっちは顔を真っ赤にしてから俯けた。
「わ、わかったよ、わかったよ。だったら触れよ揉めよ。手痛く負けたときこそ胸を張れ、ってな」
またなんや、アニメのセリフかぁ?
「とにかくそういうわけや」
するとアキラっちは真顔っぽい表情を浮かべたのち、苦笑するみたいに微笑んだ。
「ジェレミー・ベンサムか? それにパノプティコン。そういうのを持ち出したら、おまえに認められるかなって思ったんだ」
「認められる? どういうこっちゃ?」
「だっておまえは頭がいいから。キレるし、その上、物知りだから」
アキラっちは――なんや、しょうもない、どうでもええことを気にしてたんやな。
オレの立ち居振る舞いに隙があるせいやろうか。
きっとそうなんやろうなって思う。
「アキラっちよ、今からオレんちこぉへんかぁ?」
「へっ? なんでだ?」
「将棋の続き、しようや。なんやったらパノプティコンの優位性、ベンサムが説いたことについても解説したんぞ。今のオレに隙はあらへん」
行く!
行くぞ!!
アキラっちは食い気味にそない返事して。
「着替え、持ってこいな」
「風呂は借りるぞ?」
「もちろんや」
明日も登校日やけど、夜通しの長いやりとりになるような予感があった。