沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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放課後、みんな忙しくて、だぁれも相手してくれへんさかい、バーボンロードの「バタフライ」で、髪切ってもらってた。
ロン毛をバッサリサッパリしてもらおうおもてたんやけど、おねえさん美容師は固辞してくれはったんや。
「だって綺麗じゃん、イクミくんの髪。もったいないよ」――ちゅうことらしい。
「失敗やったとしても髪なんてすぐ伸びますよ」オレは訴えた。
「正直、ちょっとハサミ入れることすら迷ってる」とおねえさん。
そういうもんかなぁ。
アルビノいうステータスがあるとは言っても、ただ単にオレは白いだけやさかいなぁ。
「パーマなら賛成。ちょっと面白いことになりそうだから」
「面白がらへんでくださいよ」
「ほんとうに切る?」
「いや、やめとこうって決めました」
髪を洗ってもろて、ドライヤーで乾かしてもらう。
「ホント、さらさら。噛みたいよ、噛んでやりたい」
「うあぁ、変態がおるぅ、変態がおるぞぉぉ」
「こないだね、店長に連れられて、タイに行ってきたんだ」
当該美容室のレギュラーは五人――少数精鋭。
店自体を閉めて、みんなで行ってきたらしい。
「そりゃもう楽しかったでしょう? サーフィンやよね?」
「それが目的だったんだけど」鏡越しにおねえさんは明らかな苦笑を浮かべ。「残念、トイレから離れられなかったんだ」
「そりゃご愁傷様」オレのほうこそ苦笑いや。
「食べ物とか水とかが合わないってあるんだねぇ。トラウマとまでは言わないけど、タイ料理は悪い思い出だわ」
オレは「あはははは」とわろて――。
そのあと、念入りに髪
店先で、おねえさんが見送ってくれた。
おねえさんは年甲斐もなくかわいらしくぺこりと頭を下げてから、「また待ってるからね」――。
おおきにね。
オレはそないなふうにわろてみせて、身を翻した。
べつに髪の長さが変わったっちゅうわけでもないんやけど、手ぇ入れてもろたっちゅうんは、なんや、気持ちがええ。
頭が軽くなったようにすら思う。
腹へった。
客の対応で忙しいアキラっちの手が空くには二時間ほどかかるかもしれへんけど、それくらい、待ってたろ。
うきうき気分――そうやったんや。
スキップでもしたろかおもて、それを実行に移す直前に、後頭部に重々しい刺激――。
*****
目ぇ開けたとき、白い――たぶんコンクリートやろう、そないな床が見えた。
工場かどっかかね?
オレの賢いおつむは早々、現状把握に努めてくれる。
後頭部に痛み、前頭部にも似たような感覚、おでこに伝ってんのは血液やろう。
ほっぺにまで達してるもんやから、目ぇ開けづらい、固まってしもてるカンジや。
それでもしゃんとせなあかんな、だって、ああ、なんやピンチに陥ってるらしいくらいは肌でわかるから。
顔、上げる。
やっぱ工場か?
工場やな。
右側に目を移したら、積み上げられたH型の鋼材が見えたさかい。
銀髪かね、銀髪やな。
染めたんかな? 脱色したんかな?
オレみたいにアルビノなんてそないおらへんに決まってるんやから、人工的な色であるんは間違いないやろう。
いよいよおでこのかぴかぴさが嫌になってきた。
手でこすって解消したい。
せやけど、それは叶わへん。
柱を背にしてんのはさっきからわかってるんや。
両手についてはその柱の後ろに回されて、手錠かなんかで拘束されてるんを理解した。
短い銀髪をおったてた顎の尖った男が、オレの目の前で膝折ると、嫌味言うみたいにして大笑いした。
ぎゃっはっは!! って、大笑いした。
オレは眉根を寄せる。
見覚えっちゅうんはなかった。
銀髪殿っちゅうことで。
奴さんはぎゃっはっはって笑いまくる。
オレは目線合わせてから、「会ったこと、ありましたっけ?」――。
「いい心掛けだな。敬語でしゃべらなけりゃ、あっという間にぶち殺してたぜ?」
「ああ、はい、そうですか。ぶっ殺してもろても良かったんですけどね」
「ぎゃっはっは! 大物じゃねーか。カスどもが言ってたとおりだ」
「カスどもやと?」
銀髪殿がオレの左右のほっぺに何発も何発も往復ビンタをくれた。
「敬語使えってんだよ」イラついたように、奴さん。「ガキにナマ言われたらそのぶんだけムカつくんだよ」
「ハッハッハ。せやけど、オレはそういうニンゲンやさかいね」
ド正面からの右のストレートを食らって――鼻血が噴きだした。
鼻に強いのもらったら涙が出る、情けないことやけど、やむを得へんことや。
せやさかい、「おぃ、おいおいおい! 泣いちゃってどうしたよ!!」っちゅうんはちょい違う。
「なんやわからへんけど、気に食わんねんやったら殺せや。せやったらせやったで諦めるさかい」
「殺すよ、テメーは」銀髪殿はとことん皮肉るように顔を歪めた。「テメーは動けねーわけだ。好き勝手されるしかねーわけだ。オレの悪意の捌け口になるしかねーわけだ、ぎゃっはっは!!」
悪意の捌け口、か。
意外と知的な言葉、吐くやんけ。
――一つ、確かめておかなあかんことがある。
「オレんこと殺したら、次はどないな手ぇ打つんや?」
「あん? 詳しいことは知らねーよ。ただ、テメーの兄貴がメチャクチャムカつく野郎だってのは聞いてんぜ」
それを聞いて、オレは安心した、ほっとした。
確かめたかったんは、アキラっちとアキラっちを取り巻くニンゲンとかのことが知られてへんのかっちゅうだけやからや。
オレとはちごて、兄貴はこんなアホに追い詰められることはないし、負けるはずもない。
せやったら、オレがここでやられてしもたとしても、あるいは殺されてしもても問題ないな。
それこそ兄貴が復讐してくれるやろうし、せやったらオレはここでどんだけ無様かつ無残に殺されてもべつにそれはそれでかまへんわ。
「なに余裕こいてんだよ、テメーは」
「殺したんやったら殺せってば。それでええぞ? おまえはどっかで必ず世の中から消されるさかいな、論理的にも、物理的にも」
「小難しいことほざいてんじゃねーよ。なんだよ。後悔はしてねーってのか?」
「ああ、そうや。おまえがどこの誰であれ、これはオレの失態、失策や。報いを受けてもしゃあないんや」
銀髪殿が抜いたんは、バタフライナイフ。
情けない、ほっそい刃物や。
せやけど、そない頼りない刃でも――。
「うだうだしゃべんのはしんどいわ。おまえの顔も見飽きたしな。殺すならとっととやってくれや」
いまいましげに表情を歪めた銀髪殿。
「テメー、俺がホントに
「おもてへんさかいやれや言うてる。せやけどじつは、ビビッてるんか?」
銀髪殿が前髪掴んできて、オレの顎を強引に上げさせた。
「舐めてんじゃねーぞ。恋人くらい、いるんだろ?」
オレは工場内に反響するくらいの大声でわろた。
「せやから、それは叶わん言うてんねん。オレに手ぇ出した時点で、おまえの人生は終わったんやよ」
「マジで殺すぞ?」
「どうせならエグく殺してくれや。そのほうがおまえは残酷に殺されるやろうからな」
いよいよ喉元にナイフを突きつけられた。
「バタフライナイフはダサいわ。小物の得物や」
「テメー」
「殺せや、ほら」
オレは喉元、突き出した。
――次のことやった。
「しゃあッス!」
「しゃあぁぁッス!」
「しゃあぁぁあッス!!」
そないな体育会系の挨拶みたいなんが、工場内に響いた。
もうだいぶんお疲れなんやけど、オレは目線上げて、そっちに――勝手口のほうを向いた。
目の下までかぴかぴなんやけど、その人物の姿は確認できた。
黒髪はふわふわふわふわしてる、平たく言えばアフロ。
みながみな深く深く、奴さんに深々と
くいっと顎をしゃくってみせて、銀髪殿んことを立たせ、アフロさん。
今度は奴さんが、オレの眼前でしゃがみはった。
「おーい、にいさん、元気かい?」
気安いと言うより悪戯っぽくて、かつ優しげなニュアンスが含まれてた。
最後の力を振り絞って――ちゅうと大げさやけど、せやけど、顔上げるには結構なパワーが要った。
「誰やねん、アンタ。タダモノやなさそうやけど」
「当該半グレ組織の頭だよ。下っ端が勝手な真似して、悪かったな」
「……は?」意外すぎるセリフには目を丸くするしかぁない。「なんやねんな? どういう、こっちゃ……?」
「飲み物は? コーラか? それともコーヒーか?」
「オレの質問にだけ答えろや」
そんなに聞きたいのか?
あるいは無意味だぞ?
そない言うてくれたアフロさん。
暴力性を匂わせてるくせして、が多分に知性が窺える。
「悪者の集団だからな、けっこう、細々と生きていかなきゃならないんだ」
妙な本音には、目をぱちくりさせるしかなかった。
「事実だよ」アフロさんはにこってわろた。「じつは自分のところのメンツを食わせるだけでいっぱいなんだよ。まいったなってとこなんだけど、そのへんをきちんと理解してくれるメンバーが少なくてね」
正直すぎる告白に、オレは目を丸くした。
「そうなん?」
「ああ、そうなんだ。で、そもそも、おまえさんはなんの『罪』で罰せられようとしているのかな?」
「オレがあんたらのシマぁ荒らしたとか、そういうこっちゃないんですか?」
「オレは良く知らないからそのへん、問い質してるんだよ」
「そこの銀髪殿に訊いてください。あいにく、オレは悪いことした記憶がない」
ほぅ。
アフロさんはゆらりと立ち上がると、銀髪殿にぐいっと顔を寄せた。
「どういうことかね、サガラ。なるたけ大人しくしてろって言ってるだろ? 反社なんだぜ? 俺たち」
「でで、でもボス、そこのガキは俺たちの縄張りを――」
「証拠は? 根拠は? あるのかい?」
「そ、それは――」
「どうして襲ったんだ? 理由は? きちんと聞かせてもらいたもんだ」
「うぅ、うぐっ」
次にアフロさんは「鍵」と言った。
銀髪殿も奴さんの部下らしいニンゲンどもも揃って「へ?」って間抜けな声出しやった。
アフロさんが幾分強い声で「鍵っ」ちゅうたら、それを持ってたらしい男が奴さんにそれを手渡した。
なんやようわからへんけど戒めを解かれた、せやけどすぐには立ち上がれへん、けっこうなダメージらしい。
それでも、オレは立った。
こんな心地の悪いところに長居したくはない。
アフロさんも立ち上がった、のっぽや、オレよりのっぽ、兄貴くらいか。
オレの両肩や身体から埃を払ってくれて、それから「お疲れ」とか言うてわろた。
「この件、表沙汰にしたくない。少年、わかってくれるかい?」
「わからへん言うたら消すつもりやろ?」
「しない。ただのお願いなのさ」
「ホンマに?」
「ああ」
その潔さと、器の大きい言葉に驚かされた。
「オレっちゅうニンゲンに頓着せーへんねやったら、それで手を打とう思う」
「きつく説いておくさ。それでも面倒を被ることになるかもしれない。その折には――」
「おぅよ、ぶち殺したるわ。それができへんオレやおもてるんなら――」
「だから、そうならないよう言い聞かせておくっていうんだよ。おっと、間違っても復讐なんて考えてくれるなよ? 御身が大事なら、な」
アフロさんは笑みを浮かべて、対してオレも、ニッてわろた。
「ホンマ、頼んだで」言うて、オレは出入口に向かう。
「ウチの連中はつくづく二流だ」って後ろから聞こえた。
そのうち、オレはばたって前のめりに倒れてしもた、そのつもりはなかったんやけど、どうやら、血が出すぎてるらしい。
くたばったかおもたら、まぶたが静かに下りてきた。
*****
眠い目ぇこすりながら目ぇ覚ましたとき、自宅におった、ベッドの上。
幸いなことにすぐに思い出せた昨日のことを頭ん中で整理する。
そのうち痛みや記憶が鮮明に呼び起こされて、だいたい把握、理解できた。
誰がどうやってオレを送り届けてくれたんかはわからへんけど――たぶんそれってアフロさんな気がするけど――オレはまあ、とにもかくにも危機を脱することができたっちゅうわけや。
今回はマジ、危なかったな。
アフロさんが止めへんかったら銀髪殿はマジでオレんこと殺してたんちゃうやろうか。
やれやれや。
ただでさえ目立つ外見してるさかい、できるだけ目立たんように生きてるつもりなんやけどな。
身体起こした。
どこが痛いっちゅうわけでもない、いたって健康や。
日が明けて、今日は日曜日か。
スマホ探す。
どさくさに紛れてどこぞで紛失してたら残念やったんやけど、探すまでもなくリビングのちゃぶ台に置かれてあった、親切な話や。
拾い上げて指紋認証済ませて――。
……おや?
いつもに比べて、アキラっちからの死活監視が希薄や。
最後の連絡も21時。
くだんの二人と食べたまぜそばがうまかったらしい。
本来ならそのあともいくつか連絡があって、返事がなかったら怒りやるんやけど、昨日はその限りやない。
いよいよ信用されつつあるんかな?
そない思うと寂しいより先に嬉しい感すら覚えた。
成熟期を迎えたとでも言うたらええんやろうか。
信じ合えてるっちゅうのは尊いもんや。
スマホ置いて、顔に触れる。
ほっぺはそない腫れてへん……けど、顔面に限らず、あちこち痛い。
どうなんやろ?
これから少しでもはしゃいだとこ見せたら、また連中に襲われるんやろうか。
ボスらしいアフロさんはそないなことまでは言うてへんようにおもたけど。
まあ、なんやかて、そん時はそん時やろう。
目立たんようには生きるけど、楽しくはさせてもらう――そんだけや。
ピンポーン――インターフォンが鳴った。
モニターを確認、「よぅ!」と元気良くわろてみせたんは、おぉ、アキラっちやった。
はいはいはい。
少なからずの喜びに駆られながら、オレは玄関の戸を開けた。
そったら笑顔やったんが一転、アキラっちがぎょっと目を大きくしやったんや。
「なななっ、なんだ、それ! イクミおまえ、どうしたんだ?!」
そない言われて、オレは「あっ」て声上げた。
そういやあオレの顔はそれなりにでこぼこやった。
「なーんもないぞ」オレは両手を上げて、先手打つようにしてそない言うた。「昨日、兄貴とケンカしたっちゅうだけで」
「シャ、シャル
「嘘ついてどないすんねん」
そったらアキラっちは朗らかにわろた。
「やめとけよなぁ。シャル兄に敵うわけないだろぉ、あっはっは」
「ホンマ、そのとおり」オレは眉尻下げて微笑んだ。「で、何用や? っちゅうか、あがってくか?」
「それも悪かないんだけど、ちょ、ちょっと付き合ってくれよ」
「おぉ、どこにかて行ったんぞ」
「よ、横浜、いい、いや、川崎でいい、ラゾーナでいい」
ラゾーナ言うくらいやから、買い物やろう。
せやけど、その点で言うたら――。
「アキラっち、おまえ、昨日、さっちんとみゆきちとショッピングやったんちゃうんか?」
「そうだったんだけど、け、結局、その、えっと、一着も買わなかったんだ」
「んあ?」オレは首かしげた。「そりゃ、なんでや?」
「おまえと一緒に選びたかったんだ。あたしにとって服を買うことって、もはやそういうものらしいんだ」
オレはきょとんてなってから。
嬉しかったとか涙が出そうやとか、そない大げさなことはなかってんけど、ただただ可愛らしいなぁ思わされて。
アキラっちはニコって笑いやった。
四十秒で支度しな。
そない言うて、めっちゃ笑顔やった。
*****
横浜に根城を構える洒落たとこに比べたら、ラゾーナの店はどこもリーズナブルや思う。
「ぱぁっと使ってやるんだ」
「こないだ一番くじで散財したんちゃうん?」
「それはそれ、これはこれだっ」
あはは、なんともようわからへん。
昼はがっつり食べるんかおもてたんやけど――いや、それなりにがっつりか――アキラっちの希望で某チェーンのたこ焼き食べた。何回か食べたことあるけど、何度食べてもそれなりにうまい。いつも変わらぬクォリティーを保てるんは偉いことやと思わんでもない。
食後もショッピング。
何を買うにもえっらい迷いやる。
このままやと日が暮れてまうことウケアイ。
せやけど、ええんや、オレは晩飯のメニューでも考えとくことにしよ。
デニムパンツに包まれた長い脚。
ちょい後ろ歩いて小さいだけやない形のええヒップを眺めてると、振り向きざまに頭のてっぺんをぽかってやられた。
夜が近付いてきて、「次で最後だ」言われて入ったんはランジェリーのお店。
外で待ってようおもたんやけど、「カップルはいいんだぞ」とかなんとか。
「前からおもててんけど、それって都市伝説ちゃうのん?」
「そんな伝説あるもんか。っていうか、お客さん少ないし、だいじょうぶだって」
むぅぅ……。
しゃあなく、手ぇ引かれて入店した。
「サイズ、測ってもらってくる」
そない言うて、やがて帰ってきたアキラっちは落ち込んだみたいに前に首もたげやった。
「成長が、止まらないんだ……」
ちゅうことらしかった、鼻血出そうやった。
「フツウに考えたらフツウの店にサイズはないやろ?」
「ある店もあるんだよ。ここにはないってだけで」
「ないっちゅうんやったら――」
「うん、帰ろう」
アキラっちは少なからず残念そうやった。
*****
なぜかオレは、アキラっちと一緒にラブホに入った。
フロントがない、完全無人のラブホテル。
ボタンでぽちっと部屋を選ぶ。
高くもなく安くもない。
アキラっちは貧乏性。
連れてこられた理由がわからへんさかい、正直に「どないしてん、アキラっち」って訊いた。
いわく、「もしかしたら、こういうところ、一生来ないかもしれないだろ」っちゅうことやった。
「いや、来ようおもたらいつでも来れるやん」
「思い立ったが吉日だ」
「わからへんなぁ」
「ついてこい」
入室。
部屋は狭くないんやけど、つくり自体は安っぽかった。
香でも焚いたみたいな妙な匂いはありがちなもんなんやろうか。
「ご休憩? ご宿泊?」
「どっちでもいい」
「明日、ガッコやぞ?」
「それは行く」
「ほなら、ご休憩な」
「どっちでもいいって言ったぞ」
ここにきてアキラっち、なんやイライラしてきたみたいや。
買い物の最中っていうか、ついさっきまで機嫌良さそうやったのに。
女心と秋の空、ってか。
そういやあ、もうすっかり紅葉の季節やな。
オレはダブルのベッドに腰掛けて、「今度、紅葉狩り行こうやぁ」って声掛けた。
アキラっちはまるっきり無視してくれて、部屋とバスルームを隔てる白いカーテンの向こうへとすたすた姿消しやった。
そのうち、シャワーの音、滴り、液体が床を叩く音。
五分くらい、経ったやろうか。
「おーい、イクミぃ、イクミぃっ」
呼ぶ声がした。
「どないしたぁ?」
「いいからちょっと来い!」
キレられた、明らかに怒ってる。
とにかく来い言われたもんやから、バスルームの前に立った。
ってか、仕切りがカーテンだけって、どういうデザインやねんな、部屋ん中、湿ってまうやろうに。
まあラブホなんてなんでもアリか、その昔は回るベッドがあったっちゅう話やしな、天井も鏡やったとかってな。
アキラっちの身体のライン、その影が、カーテンに映って――。
両開きのカーテンが開いたか思うと、手ぇ引かれて、両のほっぺにそれぞれ手ぇ添えられて――。
「ずっと心配だった。ホント、傷だらけじゃんかよ、おまえ」
「大胆やな。アキラっちおまえ、裸やぞ?」
「いいよ、そんなの。恋人同士だろ?」
「胸、触ってええ?」
「ダメだ」
なんやそれぇ。
オレはけらけらわろた。
「つらいんだろ? だったら少しくらい、つらそうにしろよ」
「あいにくとそういうんには鈍感で」
「だけど、ヒトの心の痛みには誰より敏感だ」
シャワーで濡れてるだけやおもたんやけど、ほっぺた伝ってるんは、たしかに涙やった。
いっぽうで、笑ってた。
嬉しそうにも悲しそうにも見えた。
「約束しろ。いっさいあたしを不安がらせるな」
この怪我についてはまるっきり不可抗力なんやけど。
そないな言い訳はせーへんで、ただただ、アキラっちの強い抱擁に身を任せた。
愛しいヒトがまとうボディーソープの匂いは、ハチミツの甘いそれに似てた。