沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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ある秋の日の夜。
『イクミ、どうしたんだよ! なんでリプライくれないんだ?!』
「あー、もうちょいしたら折り返す。待ってたってくれ」
アキラっちとのあいだで、そないなやりとりがあって。
もうちょい言うて時間稼いだんは、今、オレがイレギュラーに見舞われてるせいや。
自宅におるわけやけど、ベッドで横になってたところでインターフォンが突然ピンポン、鳴った。
半分寝てて、寝ぼけてたんもあったんやけど、モニター、確認せーへんで、目ぇこすりながら「はーい」って玄関の戸、開けたんや。
そったらや。
見知らん女が、がさいれみたいにして踏み込んできたんや。
オレの両肩をそれぞれ両手で押し込んできて、そのうちいよいよベッドに押し倒されたんや。
オレは仰向けになって。
くだんの人物は馬乗りになってきて。
見下ろされたというか、見下されてるような感覚に陥ったところで、今、目の前にいるニンゲン――女性が誰であるかを認識した、思い出した。
「たしか、葛葉アンナさん、やったよな?」
「物覚えがいいようで助かるよ、少年」
ニッてわろてみせたのは間違いない、艶やかな長い黒髪に紫色の瞳の彼女は、何を隠そう、所轄の刑事の葛葉アンナさんや。
「いろいろまあいいですけど、騎乗位はやめたってくださいね」
「正常位じゃ誰もイケないだろう?」
「それでもっちゅう話です」
「ケチな少年だな」
「ご愁傷様です」
「一杯、奢ってもらえないかね」
「アルコールは置いてません、こう見えて未成年なんです」
だったら買ってこい。
言い返すんモ面倒やさかい、与えられた万券握りしめて外に出た。
近所のコンビニまでは徒歩で五分もかからず――。
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ウイスキーのボトルがええとか言われてたんやけど、ブラックニッカしかなくて、せやさかいそれ買って帰ったら、アンナさんは口開けるなりラッパ飲みしやった、おいおいおい、いくらなんでも豪快すぎやろ。
「まあいいさ」
んと、何がまあええんや?
――話、進めたろ。
「で、アンナさんはなんの用事なんさ」
「私はじつは所轄の刑事じゃないんだ。ホントのところ、本庁のデンケイでね」
「デンケイ? 初耳や」
「電気通信警察だ。要するに――」
「ああ、ネット犯罪とかサイバーテロとか、そっちのプロやっちゅうことか」
「物分かりがいいことだ。私は頭を使って働くほうなんだよ、その粗雑な性格から肉体労働者に見えるだろうが」
アンナさんはまあるいちゃぶ台の向こうでにぃって笑いやった。
またウイスキーをぐびぐび。
「が、私の立場と今回の一件とは、べつになんの関係もない。なにせプライベートな依頼なのでね」
「プライベートな依頼?」オレは訊ねた。「依頼とは、なんでっしゃろ?」
「きみの兄上、シャル氏にフラれてしまってね」
「いや、それだけやとようわからへんよ」
「私はシャルと付き合っているつもりだ」
「それは結構なこっちゃ。ちゅうたかて『つもり』、とは?」
「向こうはあまり乗り気ではなさそうだ――ということだ」
兄貴が特定の女性を愛してるっちゅうのは聞いたことがない。
アンナさんがアプローチしてたとして、それには乗り気ではなさそうっちゅうんも正しい見方やろう。
いくらアンナさんがべらぼうに美女やとしてもや、兄貴は外見でヒトを判断するヒトやないしな、むしろ内面を重視しやる。
「要は、デートにでも誘ったのに断られてしもた、と?」
「察しがいいな、少年」アンナさんはかんらかんら。「さすがはシャル氏の弟君だ」
訝しむ思いで眉根寄せてから、オレは深く吐息ついた。
「化かし合いはナシにしましょう。手の内、明かしていただけませんかぁ?」
「パーティがある。ハイソな合コンといったところだ」
ハイソな合コン?
その言葉だけやと見当がつかへんとか、オレはそこまで阿呆やないつもりやけど。
「ホンマは兄貴を伴ってくつもりやった、せやけど兄貴は行かへん言うた、せやさかい代わりに弟のオレを誘おう考えた」
「つくづく察しがいい。いいな、助かるよ」
「ちゅうたかてしょせんは合コンなんでしょう? せやったら、男連れで行く理由は――」
「そういう性質のイベントだとだけ伝えておこうか」
「ふぅん」
「いろいろあるんだよ、オトナの世界は」
いくつかツッコミ入れたいところがある。
なかでもいっちゃんおっきな疑問を、も一度訴えることにする。
「男連れオッケーとはいえ、せやさかい、つまるところは合コンなんでしょう?」
「
「はいな、三回目です」
「正直、シャル氏を巻き込めるならどんなイベントでも良かったんだよ」
ああ、なるなるなーる。
そう言ってもらえると、途端に胸の内にすとんと落ちるもんがある。
「とはいえや、兄貴が行かへん言うんやったら、アンナさんかて断れば良かったんでは?」
「旧友の主催なんだ」
「ああ、そういう……」
「だろう?」
うん、わかる。
ダチ、しかも親しいダチから誘われたんやったら、出席せなあかん、これもまた、渡世の仁義や。
「いろいろと事情が込み入っているように聞こえるかもしれないが――」
「わかりました。うん、じつはじつにシンプルな理由や」
「付き合ってもらえるかな?」
「ノーネクタイが許されるんなら」
「ドレスコードは重要だ」
了解です。
答えつつ、オレは軽いノリで敬礼した。
「で、見返りは?」
「素直に金か? それとも甘露かな?」
「甘露?」
「好きな男の弟になら、場合によっては、抱かれてやってもいい」
「金も甘露も要りません」オレはニッてわろた。「十二分に足りてます」
器が大きな男はいずれモテるぞ。
いや、アンナねえさん、すでにオレはモテモテやさかい――。
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伴われた先は、歌舞伎町のキャバクラやった。
外観からしてきらびやかな、明らかにやり手オーナーの大店舗や。
北海道は日高町生まれのオレとしてはビックリせざるをえーへんかった。
「ちょいちょいちょい」
そう呼びかけた先におるアンナさんはレースが際立つ漆黒のミニのドレス姿――ミニっちゅうんがまったくもって意外すぎるんやけど、そこまでお高くとまってないカジュアルさが前面に出てる、高貴さ満点、要は唯一無二の美しさやいうことや。
「ホンマにこの店? まちごうてへん?」
「別の店で、オーナーとあったことがある」
「別の店? 店長?」
「このホストクラブも持っているんだよ。本業らしい」
いずれにしても、なんや、俗っぽい男の情報にしか思えへんねんけど。
「まさか、怖気づいたのか?」にやりと横目を向けてきたアンナさん。
オレは何を答えるでもなく、店内への一歩を力強く踏み出した、二歩、三歩。
後ろから近づいてきたアンナさんは「それでよろしい」言うと、オレの左腕に両腕を絡みつけてきた。
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入った瞬間、シャンパンタワーが目に映って、迂闊にも――いや、そない大げさな話でもないんやけど、黄金色にキラキラ輝くいくつものグラスはめっちゃキレイに見えた。さらにてっぺんからそそがれる、けたたましくもあるホストさんたちの掛け声とともに。
こっちの姿を認めたらしい丈の短い白いドレス姿の女性が近づいてきた。きゃぴきゃぴした感のある軽そうなヒトやけど途方もないかわいげがある。アンナさんの旧友っちゅうんは彼女のことか? 親しげに、笑い合うようにして会話を重ねやる。
――で?
アンナさんの旧友らしきヒトが、オレのほうを見上げてきた。
「へえぇ。あなたがシャルさん? 聞いてた話とは髪の色からして違ってるけど」
「ああ、えっと、アンナさんの旧友さん――」
「ええ、そう、旧友さんです、ハヤマ・ミドリです」
葉山ミドリさんなんやろう――。
「シャルさんじゃないよね?」
「弟です。イクミいいます」
「あれ? 関西弁?」
「大阪しか知らへんさかい、大阪弁です」
「細かいね」
「かもしれません」
ミドリさんは鷹揚な感じで「あっはっは」ってわろた。
「ちょい場違いすぎるなっておもてます」
「それはどうして?」
「いやだってミドリさん、いろいろめっちゃ高そうなんやもん」
どうあれペイするから、だいじょうぶ。
そう言い切りはった、ミドリさん。
「どうしてシャルさんは来てくれなかったのか、理由は問わないよ。そういうヒトも、いると思うから」
「恐縮です、ってか、動き早っ」
オレの隣に、もはやアンナさんの姿はない。
すでにずっと向こうで――紳士やと信じたい――連中の輪の中にあって、シャンパングラスを手に優雅にわろて愛想振り撒いてやる。
「たぶんだよ、弟さん、アンナはきみにナイトをやってほしいんだって思う」
「それは重々わかってるんですけど、そんなん、あのヒトに必要なんですかねぇ」
「ま、どうあれ楽しんでいきなよ。気に入った女のコがいればひっかけていけばいいよ」
んなこと、死んでもできへんわ。
ココロの中でアキラっちのことが連想されると、いっつもすぐに会いたくなる。
*****
さて、どないしたもんかな。
そないなふうにある意味迷てたところで、そのうち女のコらに囲まれた――女のコっていうのは失礼かもしれへんな、だってオレより年上に違いないヒトばっかりなんやから。
名前訊かれた、趣味訊かれた。
年齢訊かれた、恋人の有無を訊ねられた。
どの質問についても正直に答えて、せやけど解放されるなんてことはなくて。
まいったなぁおもてたところで現れたんは、アンナさん。
顎をしゃくって、「こっち来い」の意を示してくれた。
オレが席立つと、女性陣からブーイングかまされた。
アンナさんに連れられて外に出た。
チューリップみたいなかたちのイミフな灰皿があって、アンナさんは今時珍しい、紙巻き煙草に火ぃつけはった。
「いいね、金持ちが多くて。話を聞いてやる価値がある」
「本気でそないにおもてはるんですか?」
「案外そうかもしれないぞ? なんてったって金は――」
「正義だから?」
アンナさんは目を丸くしてきょとんとなってから、ふっと口元、緩めはった。
「きみは賢いな。さすがはシャル氏の弟君だ」
「それ、もう聞き飽きましたよ」
「きみにミッションを与えよう。イシイ・ヤストキという男がいる。彼から私を守ってくれ」
イシイ?
石井さんか?
ヤストキ?
ぱっとは思い浮かばへんな。
それよりなにより、「私を救ってくれ」とは?
「じつは私の実家は名家でね」
なんや、合点がいった。
クズノハ――「葛葉」いう姓がいかにもやからや。
「名家なんが、どないかしましたか?」
「ヤストキさん、イシイさんちもこれまたそうなんだよ、名家なんだ」
イシイ――きっと石井やいう一般的すぎる苗字やのに?
「彼との結婚は父と母の悲願とするところだ。あちらさんのご両親にとっても、またそうだ」
「せやけどそこに好き嫌いはない。要するに、望まれてるのは――」
「ああ、そうだ。一般的にそれは政略結婚と言われる」
「べつにええ思いますけどね」オレはふんって鼻鳴らして、それから偉そうに顎持ち上げた。「かわいい子ども生んでそいつをかわいく育てつつ、旦那とは当たり障りのないようにうまく付き合う。そこになんの罪があるんでしょうか?」
無茶な言い分だ。
まったく無理を言ってくれる。
アンナさんはやれやれと言わんばかりに、目線を下げ、ゆるゆると首を横に振った。
「少年、言ったよな? 私はシャル氏を愛している、と」
「せやけど、芽はないんでしょう?」
「これから芽吹かせる」
「可能かなぁ」
オレが否定ばっかでしつこいからやろう、アンナさんにぽかっと頭ぁ叩かれた。
「シャル兄はめちゃええ男やけど、それゆえに、めちゃハードル高いんですけど?」
「抜かせ、そんなことはわかってる。だが、追いかけるほうが恋とは楽しいものだ」
「否定しませんけど、兄貴は兄貴やさかいなぁ。アンナさんらしくないように思います」
「おやイクミくん、きみが私の何を知っていると?」
それを言われると、ぐうの音も出ぇへん。
「このパーティーから私を守ってくれ。それだけだ」
うーん、それはべつにかまへんねんけど。
うへ。
誰かにいきなり右の手首を掴まれて、引っ張り込まれた。
「弟くんっ、こっちにおいでぇっ!!」
酔客と化したらしい参加者の女性や。
はいはいはい。
そないな軽いノリで伺った先にはぎょうさん女性がおって、オレは彼女らのおもちゃにされた。
誰かが言うた、「いい男が一人もいないんだよぉ」って。
「オレはええ男ですかぁ?」
「見た目はサイコー。中身はわかんない」これまた誰かがのたまった。
「えぇっと――」
「私じゃなくてもいいから誰か連れてかえりなよ。大人への第一歩っ」
いや、女抱くことについては慣れてるつもりやけど――。
最近抱いてへんなぁ言うたかて、それはアキラっちが奥手すぎるせいであり――。
はっ、てなった。
サボってる場合やない。
今宵のオレはアンナさんを守ったらなあかんねや。
わらわら集まってくれてる女性陣のあいだを割って、きょろきょろアンナさんの姿を探す。
アンナさんは白いスーツ姿の、見るからにシュッとした若い男性と会話してた。
あれがくだんのヤストキくんか?
せやけどや、嫌そうに言うてたくせにアンナさん、時折、ころころわろてはる。
ブラフこいた?
それとも愛想振り撒いてるだけ?
後者なんやろうな、彼女が言うてたことが、嘘でないなら。
アンナさんは右手を前に広げて――きっと「ちょっと待って」みたいに言うて――それから優雅な歩様でオレんとこに来た。
「やばいわ、ヤストキくん、ほんとうに私のこと、落とそうとしてる」
「何言われたところで、アンナさんは難攻不落でしょう?」
「でも、家のことを持ち出されるとね」
「ウチは日高の牧場です」
「それはシャル氏から聞かされた覚えがあるけど、だからって、なんの話?」
「シャル兄もオレも家業は継がへんのです、自分の意志として。セやさかい――」
「ああ、私にも好きにしろっていうことね」
そのとおり。
――言うて、オレは微笑んだ。
ヤストキくんであろう人物が近づいてきた。
ヤストキくんは言うた、「逃がさないよ、アンナさん。っていうか、逃げられないよ」って。「オレ以外の奴も狙ってるんだから」って。
リアルに政略結婚狙ってんちゃうん?
それともそないおもんないセリフ吐くあたり、ホンマにしょうもない男――ニンゲンなんか?
アンナさんは「ひゃあぁ」って声上げると、オレの背中に隠れやった。
オレの右肩の上にひょっこり顔出しやって、「怖いです、ヤストキさん」とか言うた。
それから、「私は犀川兄弟の肉便器なんです」とかとんでもないことをのたまってくれた。
まったくもって驚きもせーへんで取り乱しもせーへんヤストキくんはホンマ冷静に「下品な嘘はつかないでもらいたいな」――。
ええぞ、ヤストキくん、きみは男として男性として、かなり立派な部類やろう――ってオレは思うんや。
せやけどなんや、アンナさんはホンマに、言ってみればきみ、ヤストキくんのことが好きやないみたいでなぁ。
そのへんうまいことマッチしてたら、ここにオレが連れてこられる理由もなかったやろうにな。
「ヤストキさん」
「なにかな? っていうか、きみみたいなガキにファーストネームを呼ばれると虫唾が走るんだが?」
「せやったら改める――とは言いません。なにせオレはヤな奴なんでね。とりあえず、アンナさんはあなたのことが、あんまり好きやないようです」
「それは気のせいだよ。きっとわかってもらえるものだって信じてる」
おぉぅ、自信家。
なんとも横柄で気色の悪い物言いやないか。
「なあなあ、ヤストキくん」
「おっ」ヤストキくんは目ぇまんまるにして。「いよいよ生意気ほざいてくれるじゃないか、クソガキ」
うーん、オレはそこまでクソガキかね、ちゅうかガキかね?
年齢はガキやけど、見た目はぜんぜん、オトナなつもりやけど。
「政略結婚やいう前提があるさかい、必死になってるだけでは?」
「ガキが」ヤストキくん、いよいよ口が悪くなってきた。「だったら訊くが、アンナさんはそれまでの女なのか?」
そないな女性やないなぁ。
そうやぞ、女性や、おぼっちゃんが偉そうに「女」とか抜かしなやな。
「じつのところ、アンナさんが相手なら、オレは結婚してもええおもてるんですよ」
さすがにヤストキくんはビックリしたみたいやった、当然、アンナさんも。
オレはニコってわろてみせて。
「おまえぇぇ、ほんとうにそう考えているのか? おまえにだって、恋人くらい、いるんじゃないのか?」
「いますけど、愛おしい恋人やさかい、わかりあってるさかい、話せばきっとわかってくれるおもてます」
「馬鹿言え、そんなこと、あるもんか。一夫多妻制は認められていないんだぞ」
「要は器の問題や。女性二人くらい、オレはぜんぜん、食わしていける」
「そういう点においては、俺のほうに優位性がある。なんてったった俺は――」
「ええ、はい、はいな。そりゃアンタのほうが稼ぎは多いやろな――せやけどそれは、今の話ってだけや」
「近い将来、オレより稼げるようになるっていうのか?」
オレは「違わんでしょう」って、挑発的に口元を笑みのかたちにした。
そったら案外簡単にヤストキくんは背ぇ向け引いてくれた、「馬鹿が、偉そうに」とか、恨み節やったけど。
それからすぐの話や。
オレはまた女性陣に彼女らの輪の中へと引っ張り込まれた。
酒はあかんあかん言うたんやけど、あまりにしつこいもんやさかい、一杯だけって決めて、ショットのテキーラをキメた。
途端、頭がくらくらした。
どうやらオレはあんまりアルコール耐性がないらしい、そうやなくてもキツいんはあかんやろう?
なんとか自我だけは保った。
女性陣にあちこち触られたけど、それでもいろいろ耐えた。
耐えてたら、そのうち、アンナさんがオレの左手、引っ張った。
おいで? 帰ろう、ダーリン。
絶世の美女が、オレんことをダーリン呼んでくれた。
*****
オレは電車で帰るつもりやったんやけど、アンナさんがタクシー呼んでくれた。
ミステリアスなアンナさんも「冗談抜きで、住まいは大田区だよ」くらいは教えてくれたし、せやったら、家同士はそう離れてへんいうわけや。
タクシー、後部座席の奥にアンナさんは座ってて、彼女の左隣にオレ。
アンナさんは「疲れた?」とか、まるで労うように言うてくれた。
「そうでもないですよ。それよりオレはオレの役割を果たせたんか、そのへんが気になってます」
「だいじょうぶだよ。きみはじゅうぶん、がんばってくれた」
オレは首を前にもたげて、微笑んで。
「兄貴んことは、やめといたほうがいいですよ」
「ほぅ。それはどうしてかな?」
「理由を説こうおもたらいくらでも言えますけど、せやけど、オレが言わへんでも、絶対アンナさんはわかってるやろうな、って」
馬鹿だな、弟君は。
そないなふうに、アンナさんは言うて。
「馬鹿なん? あ、タメ口利いてもた」
「馬鹿だね、きみは」アンナさんは確信的に。「ちょっと手が届かないくらいがちょうどいいんだよ」
「追いかけたいタイプやってことですか?」
「ああ。追いすがってくる男に興味はない」
そういう観点で言うと、兄貴は最適な人材かもしれへんな。
「でだ、弟君。きみは私がおねえさんになっても文句はないのかね?」
「ありませんよ、むしろ万々歳。オレはあなたのこと、めっちゃ好きですよってに」
「だったら私はがんばらないとな」
「そうしたってくださいな」
アンナさんと、オレはグータッチした。
兄貴を巡っての密約と言えるやろう。
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次の日の早朝、兄貴から電話があった。
ねむねむやったんやけど、出ぇへんわけにはいかへん、スルーしたら兄貴は怖いんや。
「はいはい、こちら犀川イクミさんですよ」
『おまえ、葛葉刑事に何を言った?』
いきなりの本題。
でもって「葛葉刑事」とか堅苦しい表現をしたあたりに、兄貴の彼女に対する距離の取り方が確信できた。
「いや、がんばれ言うただけやよ」
『それが迷惑だと言っている』
「あかんよ、兄貴、それは」
『あかんだと?』
言い方がおかしく聞こえて、オレはあっはっはってわろた。
「だってアンナさんは兄貴んこと、めっちゃ好きなんやよ? せやったら真面目に取り合ったらへんと」
『自分の相手くらい自分で見つける』
「見つからへん思う」
『どうしてそう言える?』
「アンナさんほどの女性ってたぶんおらへんもん」
『理由になっていないぞ』
そないなことはないやろう。
言うて、オレはまた「はっは」ってわろて。
そったらや、十秒くらい間があったんやけど、兄貴は深々とした吐息をついて。
『それはわかっているんだよ。アンナ女史はつくづく魅力的だ。心身ともに唯一の美貌、と言っても差し支えはないだろう』
「そこまで言うんやったら結婚くらいしたったら?」
『結婚くらい? イクミ、おまえはよほどの馬鹿で阿呆のようだ』
「馬鹿でも阿呆でもないよ。しかも異性を軽視してるわけでもない」
『気に食わん』
また連絡する。
兄貴はそない言うて、不本意そうに不機嫌そうに、電話切りやった。
アンナさんのことを「姉貴」って呼ぶ準備はホンマに万端なんやけどね。
思えば兄貴はいっつもオレんこととか実家のこととか、そればっか気にかけてくれてんのな。
せやけどどっかで、どっかのタイミングで自分の幸せについて考えてええんやし、それを追及してほしいとも思うんや。
ちゅうわけやから、ぐいぐい攻めてくれてるらしいアンナさんの存在は、めちゃくちゃ頼もしい。
――夕方になって、アンナさんからLINEがあった。
「シャル氏、今晩、デートに付き合ってくれるんだって(笑)」
ほぅほぅほぉ。
兄貴、まんざらでもないんやん?
なんや笑える。