※この作品はR-18です。

沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~   作:XI_01

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50.精神を破壊された彼女

*****

 

 好天にあっての昼休み、1-Aの教室――ベランダでアキラっちと並んでる。

 オレが軽やかに口笛吹いたったらアキラっちも続こうとしやったんやけど、残念、へたくそ、そういやリアルなとこ、音痴でもあるしな。

 その旨、きちんと教えたったら「うるさいやい」とか言うてそっぽ向きやった、今日もアキラっちは可愛いんや。

 

「いつんなったらスカートスタイルで安定すんねんな」

「あたしの場合、パンツルックも至高だろ?」

「布に包まれたナマアシは、まあエロいわな」

「ししし、死んじゃえよ、ばばば、馬鹿っ」

 

 ほっぺ染めながらどもりやったんが愛おしくてしゃあない。

 

「おっ、今日も出てきやがったぞ」アキラっちが前を指すようにして顎をしゃくりやった。「昼休みだってのに、ご苦労なことだよな」

 

 アキラっちの視線の先には野球部の面々の姿。

 高校野球の序列的には下位の下位にすぎへんらしいけど、それでも一生懸命に練習しやるさかい、好感が持てる。

 

 今日も意味不明なデカい掛け声を発しながら、ベースランニングに精を出しやる。

 何がどうあれ、全力プレーはええこっちゃな。

 

「イクミ、知ってるか? ウチのブラバンは全国大会レベルなんだぞ」

「いきなりやな。でもってそりゃ初耳や」

「だろうと思って教えてやったんだよ」

「で、それがなんやろ?」

「部員の友だちがいるんだけど、甲子園でラッパ吹きたいって言ってるんだ」

 

 ふぅん、なるなる。

 

「せやけど、それは難しいやろぉ」

「らしいな。っていうか、そうなんだろ。都の大会なんだ。キツいに決まってる」

「ご愁傷様」オレは南無南無と両の手のひらを拝むかたちにした。

 

 そったらアキラっちも真似してみせた。

 

「応援くらいしてやろーぜ」

 

 ほったら早速や、アキラっちは両手でメガホンこしらえて、「がんばれ、野球部―っ!!」ってでっかい声出しやった。

 面白そうやさかい、オレも続いた、「がんばれ、野球部ーっ!!」――。

 

「オレもなんかやろかな。身体、動かしたほうがええやろ」

「おまえはあたしとプールやってるじゃんかよ」

「野球部のダッシュみてたら甘えてるように思えてきた」

 

 ほったら、今度はアキラっち、「だっ、ダメだぞっ」――。

 

「そりゃまたなんで?」

「あ、あたしのことを裏切るつもりか?」

 

 オレはきょとんとなってから、「あっはっは!」って薄い腹ぁ叩いてわろた。

 

 アキラっちが不機嫌そうにほっぺ膨らましたんは言うまでもないわな。

 

 

*****

 

 翌朝。

 

 アキラっちとの登校なわけやけど、珍しくはように着いたさかい、始業前、さっちんとみゆきちも含めた四人で中庭におった。

 緑色の水面の狭い人工池を眺めながら、底に近いところに鯉がおるもんやさかい、みんなでビックリしてた。

 

 そないな最中にあってや。

 

 ピンポンパンポーン。

 いわゆるデパートにて迷子のアナウンスでも始まりそうな前奏、メロディー。

 

 オレはともかく、オレ以外の三人は池ん中にジーっと見入ってやる、正直、鯉なんてさして珍しいもんでもないやろうに。

 

 全校生徒はクラス担任の指示のもと、速やかに体育室に集合してください。

 整然とした女子の声――そないな放送やった。

 問わず語りみたいに一方的に言われると、ソッコーで居心地が悪くなる。

 そういうもんやろ、一般的な感性からすると。

 

 おーい、お三方ぁ。

 オレがそないに声かけても誰も返事せーへん。

 

 ホンマ、鯉の何が面白いんやろうな。

 ――とかおもてたらや。

 

 赤いメッシュのさっちんが一言、「鯉って、おいしいって聞くよ?」――。

 

 アキラっちとみゆきちが「そのとーり」、揃って言うて、興味を失わへんでいる。

 

 

*****

 

 一旦教室に戻って、それからクラスメイトと整列、群れを成して体育館へ。

 

 全校生徒が一通り出揃ったところで、頭髪バーコードの校長が壇上に立った。

 

 びっくりした。

 

 ご存知かと思いますが、二年生のイナミネ・カズハさんがお亡くなりになりました。

 

 挨拶ののち、校長がそないなことを言うたからや。

 

 お亡くなりになりました?

 

 は?

 

 ウチの生徒が?

 

 ざわめく館内。

 

 オレは前に立ってる男子生徒に、「有名な話なん?」って訊ねた。

 そったら、「テレビでやってたよ。yahooニュースにも載ってた」――。

 

 そうなんか?

 ニュースなんて聞きもせーへんし、yahooニュースもたまにしか見ぃへんさかい、ようわからへん。

 

 それにしても、そのイナミネさんはなんで死ななあかんかってんな?

 

 この場で大声でもってバーコード校長を問い質したってもええんやけど、それをやるとセンセ方に怒らてまいそうや。

 

 ひとまず引き揚げて、それから情報を集めるべきやろう――っておもた。

 なんに対しても比較的無頓着なオレのくせして、他人のことを思いやるなんて至極珍しく、冷静すぎる思考やないか。

 

 

*****

 

 さっちんもみゆきちも、イナミネさんが亡くなったってのは、さっきの臨時の全校集会まで知らへんかったらしい。

 耳聡い二人にしては珍しいこっちゃ。

 せやけどまあ、そういうこともあるやろう、彼女らかてつくづくパーフェクトってわけやない。

 

 昼休み。

 今日も四角くこしらえた机の四辺を四人で囲んでる。

 

「イナミネさん、そんなんじゃなかったのになぁ」ぽかぁんといった具合に、さっちん。

「当人のこと、さっちんは知ってんねんね?」オレは焼きそばパンを頬張った。

「まあね。一つ上なんだけど、大人っぽい美人だったから」

 

 美人だった。

 過去形なんが、なんとも悲しい。

 

「イナミネさん、イナミネさんかぁ」

「イクミくん、漢字をあてたいなら、よくあるイナミネさんだよ」

 

 だとしたら、稲峰さん、か。

 

「事故なんやよな?」

 

 さっちんに訊いたところ、「そうらしいよ」ってことやった。

 

「ホンマにそうなん?」

「イクミくん、ってぇと?」

「事件性はないんやな? ってこと」

「調べてないの? ネットに載りまくりだよ?」

「せやさかい、自殺やいう話やけど」

「『赤い電車』に飛び込んだっていう話だよぉ。だったらそれでいいんじゃない?」

「ことごとく冷たいなぁ。せやけどなぁ、電車にやられたってんなら、そりゃそれなりにそうなんやろ? 身体、バラバラやったんやろ?」

 

 首、突っ込んでどうするの。

 まあさっちん、そう言われたら言い返しようがないんやけど。

 

「暇潰しやとか最悪なことのたまうつもりはないんやわ。ガッコの生徒の身に起こったことや。気になるっちゅうもんやろ?」

「私はパスでーす。みゆきちもだよね? 今日はそれぞれのカレシも含めてカラオケなのだよ」

「っちゅうことは、アキラっちと動くしかないってことか」

「な、なんだよ、イクミ、あたしと二人じゃあ不満か?」

 

 まさか。

 そないなはずがないんやけど。

 

 まあええわ。

 放課後、アキラっちと動いたろ。

 

 そないなふうに決めてまもなくのことやった。

 

 あ、あの……。

 って、呼ばれた。

 

 声のしたほうを向く。

 坊主頭の男子生徒が立ってた。

 日焼けしてやることから、外をテリトリーにしてる運動部の男子やってことがわかった。

 

 オレは首かしげると、「誰や、おまえ」ってメッチャ偉そうに訊ねた。

 酷いなぁって憤られて罵られてもおかしないんやけど、その男子はむしろ気まずそうにしながら、「え、えっと、ミキです、ミキ・ライゾウ……」――っちゅうことらしかった。

 

 誰かにぽかって頭ぁ叩かれた。

 アキラっちやった。

 

「ミキだよな? ああ、おまえはミキだよ、ミキだよな?」

 

 とりあえず、漢字については「三木」と当てることにした。

 

「で、三木はどうしたんだよ?」

 

 スムーズに先を聞き出したいからやろう、アキラっちはにこやかに言うたんや。

 せやけど、そったらむしろ三木は――言いにくそうにして「や、やっぱり……」とか要領を得んエクスキューズを入れてから、後ろめたいことでもあるかのように、身を翻しやった。

 

 行ってしもた三木――三木ライゾウの背を見ながら。

 

「――で?」オレは呼びかけた。

「な、なんだよ」戸惑ったふうにアキラっち。

「なんだよちゃうやろ。三木ライゾウは何者なんや? 知ってんねやろ?」

「あ、あたしは今、一生懸命に考えてるんだ、事件の真相について、考えてるんだ」

「一人で考えんなっちゅうてんねん。共有せぇや。一緒に考えようや」

 

 何が刺さったんかはわからへんけど、アキラっちは俯きやって。

 

「じょ、情報、なんでもいいか?」

「ああ、なんでもええさかい教えたってくれ」

「稲峰カズハ先輩は美人だったんだぞ」

「それはもう聞かされた」

「誰からも好かれるタイプだったんだ」

 

 誰からもいう割には、オレは知らへんかったな。

 まあそれは、オレがアキラっちにしか興味がないっちゅう要素が幅利かせてやるんやろうな。

 

 唐突に、アキラっちの頬に涙が伝った。

 

「いいヒト――いい先輩に違いなかったんだよ、ほんとうに……」

 

 まったく、社交的なアキラっちらしい感想やな。

 

「わこた。もうなんも言わへんでええぞ」

「い、いいのか?」涙を右の袖でごしごし拭いたら、きょとんとアキラっち。

「ええよ。嫌でもそのうち、おまわりさんたちが真相、究明しはるやろうしな」

「お、おまえはそれでいいのかよ?」

「ってぇと?」

「ヒトから聞かされるまで黙ってるのかって話だ」

 

 そのとおり、まったくもって、そのとおり。

 

 うら若き乙女――女子高生が死んだんや、しかも、ウチの生徒。

 一刻も早く真相が知りたいっちゅうんは、真正直なオレからしたら当然のことや。

 

 

*****

 

 放課後に来いよ、絶対やぞ、約束やからな。

 そない呼びかけた。

 三木ライゾウくんのことを1-Aに呼び出したんや。

 

 西日が差し込んでる。

 

 オレは背もたれを前にして椅子に座ってて、オレの後ろには突っ立ってるアキラっちの姿。

 

 腰落ち着けたらええって勧めたんやけど、ライゾウくんは立ったまま。

 ライゾウくんは白い上下、野球部の練習着姿。

 

「べつにきみんことを問い詰めようっちゅうわけやないんや。せやけど先達て、きみはオレになんや打ち明けようとしたやろ? それが気になってやな」オレは言う。「ひょっとしたら稲峰カズハさんのことについて、なんや知ってるんやないんか?」

「どうして、そう……?」俯いたまま、力無く、ライゾウくん。

「稲峰さんは野球部のマネージャーやいう話で、きみは野球部のメンバーや。言ってみればそれだけのことでしかないわけやけど、事が事で、しかも昨日の今日やさかい、そこになんも見ぃへんっちゅうたら嘘になる。どうやろう、三木ライゾウくん、なんや知ってるんなら、話してもらえへんか?」

「おっ、おまえに言って、なんになるんだよ!」唐突に声を荒らげた、ライゾウくん。「おまえに打ち明けたところで、それで、何か良くなるっていう保証があるのかよ!!」

「それはわからへん。せやけど、ひょっとしたら、ちょっとくらい、おまえが肩にしょってるもんが軽くなるかもやぞ?」

 

 しばらく待ってたら、ライゾウくんが睨みつけてきた。

 せやけどそれも短いあいだのことで、続いて、ライゾウくんはぽろぽろ涙をこぼし始めたんや。

 

「ホンマ、どないしてんな」自然と優しい声が出た。「稲峰さんに、きみに、あるいは野球部に、いったい、何があってんな?」

 

 ライゾウくんが膝から崩れ落ちた。

 悔しそうに、右の拳を床に叩きつけやる。

 

 アキラっちが慌てたように、ライゾウくんに駆け寄りやった。

 寄り添うようにしてライゾウくんの隣で膝を折る。

 

「何があってんな、ライゾウくん。野球部ん中で、いった何があったんや?」

「……言いたくない」

「言わな一生、つらいままやぞ? つまらへんままやぞ?」

「犀川ならなんとかできるのか……?」

「なんとでもしたるわいさ」

「……わかった。話すよ、話す」

「そうしろや」

 

 言うて、オレは先を促した。

 

「一言で言うと、稲峰さんは心を、精神を破壊されたんだ」

 

 その言葉だけで、起きたことについて、オレには見当がついたんや。

 

「だけど、稲峰さんは誰にもそれを打ち明けなかった。ほんとうに、野球部のことを思っていたんだ」

 

 悲しいな。

 メッチャ悲しいことや。

 

「で、おまえはや三木ライゾウ、おまえは稲峰さんにとって、どういうニンゲンやったんや?」

 

 ライゾウくんは気まずそうに俯いて。

 

「稲峰さんに好意を寄せる、稲峰さんからしたらただの後輩だったと思う」

「あらためて一つ訊くぞ。おまえは『現場』におったんか?」

「……いた」

「せやったらおまえの失態や。阿呆が。好きな女一人助けられへんねやったら死んでまえ。死ぬことで詫びろ。おまえに生きてる価値なんてないぞ」

 

 オレは!

 オレは!!

 

 って、ライゾウくんはデカい声出しやった。

 

 オレは椅子から腰上げて、突っ立ってるライゾウくんの左の頬を右手でおもくそぶったった。

 オレは腕力があるほうやさかい、ライゾウくんは床の上に転がったんや。

 

 見下し、睨みつけたった、ライゾウくんのことを。

 

「馬鹿すぎるな、ライゾウくんよ、稲峰さんこと守れへんかった時点で、おまえはただのぼんくらや」

 

 そない言うたったら、ライゾウくんはゆらりと立ち上がって、殴りかかってきた。

 

 よけるつもりなんてなかった。

 ライゾウくんの怒りの捌け口になったるつもりやったから。

 

 オレが無防備に殴られつづけるからやろう。

 アキラっちが「やめろよ! 馬鹿っ!!」って怒鳴りやった。

 

 そのうちライゾウくんはビビったみたいにして、殴る手ぇ止めた。

 べつにいくらでも殴ってもらって良かったんやけどな。

 

「で、ライゾウくんには野球部をぶっ壊す気概はあるんかいな。『ない』言うなら許さへんぞ。納得いかへんぞ」

 

 ライゾウくんは一層、ぽろぽろ泣きだした。

 

「助けたかった。なのに、ぼくは何もできなかった。一生悔いることはわかってたのに、助けられなかったんだ」

「稲峰さんはなんか言うてたんちゃうか?」

「えっ」

「なんか言うてたんちゃうかって訊いた」

「死にたいけど死にたくないって言ってた。死にたくないけど死にたいって言ってた……」

 

 よーし、よっしゃ。

 オレは気合いを入れて、野球部の部室に乗り込むことにした。

 

 全員、ぶっ殺したろうおもたんや。

 

「や、やめてくれよ、犀川。先輩方だって、気の迷いで――」

「ふざけんな。ヒトが、しかも女のコが一人死んだんやぞ。許せるわけないやろ」

「で、でも、そんな真似したらおまえが――」

「停学は慣れてる。最悪退学にされたかて、オレは正しいと思うことをやったるぞ」

 

 ごめん、ごめん、ごめん……。

 いよいよライゾウくんは大粒の涙を頬に伝わせた。

 

「気にすんなや。オレが全部やったる。ふざけんな、稲峰さんの何が悪かったってんや」

「ごめん、ごめん、ほんとうにごめん……」

「オレが好きでやることや。どあほうどもは容赦なく駆逐したる」

 

 

*****

 

 オレは野球部の部室で、手当たり次第、ぶん殴って蹴りまくって、たったの一人も許さへんかった。

 部長の三年生の胸倉を掴み上げて、顔面をがんがんがんがん殴りまくる。

 鼻血を拭きだしたところで許したらん。

 命乞いみたいなことほざいてもやめたらへん。

 

 死ねや、ほら、死ねや死ねや死ねや。

 そないなふうに発しながら、とにかく部長を痛めつける。

 

 やめてやめて言われたけど、ゆるさへんぞ。

 おまえらの性欲の捌け口か?

 そのせいで、稲峰さんは自殺してしもたんやぞ。

 

 許せへん。

 到底、許せへんぞ。

 

 せやさかい、責任持って、オレがおまえんこと、ぶち殺したる。

 男として、おまえには生きる価値がない。

 

 死んでまえや、ホンマに。

 死んでまえや、リアルに。

 

「おい、おい聞けや、部長さん。おまえらの乱暴で一人の女のコが死んでしもたんやぞ? その意味、わかってるか?」

「おぉっ、オレが指示したわけじゃない! 実際、俺は何もしていないんだ!!」

「そないな言い訳が通じる思うんか?」オレは皮肉な感じで、顔を忌々しげに歪めた。「部長なんやろうが、おまえは。せやったら、事を咎めてやめさせるのは、おまえの役割やったはずや。おまえはその場におらんかったわけやろ? ちゃうんならちゃうんやって否定してみろや」

「そそ、それは……ててっ、ていうか、ここまでやったら処分だぞ?! 下手をしたら退学だって……!」

 

 阿保やなぁ。

 ホンマに阿呆や。

 

「その覚悟がないのに襲ってるおもてるんか?」

「ちちっ、違うのか?」

「オレは昭和的な古いタイプのニンゲンなんやよ。女のコをイジメる男はぶっ殺してもええおもてる。なんら問題ないとすら思ってる」

「そう遠くない未来に、け、警察に捕まるぞ?」

「そんなん気にするんなら、ここにおらへんわ」オレは厳しい顔をする。「許せへん。どうしたって、許せへんねよ」

 

 お、おまえは稲峰と知り合いだったのか?

 そないなふうに、部長さんは訊いてきて。

 

「知り合いやなくても腹は立ってるんや。マジで殺したるさかいな、せいぜい歯ぁ食いしばれや」

 

 言うたったのに言うとおりにせぇへんさかい、問答無用で左の頬をおもくそぶったった。

 

 床に転がった部長の上に馬乗りになって、左右の拳を使ってがんがんがんがん殴りつける。

 

「つくづくや。おまえはやろう思えば助けられたんやぞ? そのへん本気でわかってんのか?」

「だけど時間はもう戻らないんだ!!」

「ああ、そうやな。せやからこそ、オレはおまえの失態を指摘してるんやわ」

 

 なおもオレは部長の顔面を殴り続ける。

 一通り終わったところで、部長の顔を見下ろしながら、後方の人物に向けて「ライゾウくんよ」って声掛けた。

 

「好きやったんやろ? 稲峰先輩のことが好きやったんやよな? せやったらなんで助けたらへんかってんな」

「だ、だからそれは……」

「弱気の虫が顔覗かせたんやろ? 情けないな。おまえはおまえで死んでまえ」

 

 ぐすぐす鼻を鳴らす音が聞こえてきた。

 そんなんちゅうたかてや、ライゾウくんよぅ、おまえは女一人守れへんかったんや。

 要するに、おまえは役立たずやってことや、価値がない男やってことや。

 

 立ち上がって、身を翻してライゾウくんことを突き飛ばして、尻餅ついたところで馬乗りになって、その顔面を殴りつけまくる。

 ホンマ、女の一人も守れへん男なんて死んでしもたほうがええ。

 非常に許せへんな、ライゾウくん、おまえんことは許せへんぞ、許せへん。

 

 そないな最中にあって――。

 誰かが後ろから行為を止めるように抱きついてきた。

 

 誰かが――。

 まあ、アキラっちしかおらへんわな。

 

「やめろよ、やめてくれよ、イクミ」その弱々しい口振りから、オレにお願いをぶつけようとしてることがわかった。「しょうがなかったことだろ? 不可抗力だろ? だったら、三木にだって落ち度があるわけじゃあないだろ?」

 

 アキラっちはオレの右の首筋に唇を当てつつ、すんすん泣く。

 

「ふざけんな。将来がある女のコがしょうもない欲望の果てに殺されたんやぞ」

「それはわかったよ。わかってるってば」

「オレは怒ってる。全部殺したる」

「だから、そんな真似、しないでくれよ。おまえがまた停学とか、果ては退学になっちゃったら、あたしは泣くぞ?」

「そんなん知るか、阿呆が」

 

 アキラっちは驚いたように。

 

「それ、本気で言ってるのか……?」

 

 そない言われると弱い。

 ちょい勢いで言うてしもたきらいもある。

 

 せやけどオレは特に物を言うこともなく、黙り込んだ。

 自分の落ち度、自分が悪かったおもて、「かんにんな」って謝った。

 

 アキラっちは相変わらずオレの右の首筋に、唇を当ててやる。

 その強さが著しく思えたんや。

 

「ぶっちゃけ、おまえにとって一番大切なものはなんだよ?」

 

 それを言われると、これまたつらいな。

 

 帰路につこうと思ったんや――。

 

 

*****

 

 翌日の1-A。

 らしくもなく、オレはぽろぽろ泣いてた。

 情けないことに、アキラっちの前で、しくしく泣いてた。

 

 アキラっちは目を真ん丸にして、突っ立ったままでいるオレの前に立った。

 オレんことを見上げてきた。

 

「なななっ、なんだよ、イクミ、どうしたっていうんだ?」

「稲峰さんのこと、助けられへんかった」

「だから、それはどうしようもなかったことだって言ったろ?」

「せやけど」

「やっぱり不可抗力なんだよ」

 

 かばうようにそない強く言われたところで、ミスった感はやっぱり拭えへん。

 

「悲しいわ。ホンマに悲しい」

「そりゃそうだけど、でも、抗えなかって言ったろ?」

「どうやったら助けられたんやろぅ」

「無理だったと思うぞ。そういうもんだろ」

 

 死にたくないけど死にたい。

 死にたいけど死にたくない。

 精神を破壊されたニンゲンが言うに値するセリフ、考え方や。

 

 とにかく残念やったなって思う。

 

 

*****

 

 アキラっちとさっちんとみゆきちが物申してくれて。

 腐りきった野球部をカタにハメたところで何が悪いんですか?――って。

 

 おかげで一週間の停学で済んだ。

 せやけどそれ食らってばっかやさかい、そのうち退学とかあり得るんかもな。

 

 それでもええ。

 オレはオレが信じた道をゆく。

 

 オレは乱暴にばっか振る舞うさかい、これといった成功体験を得たことがない。

 

 それでもええ恋人とええ友だちと巡り会えたさかい、そのへんはまあ、許容したろうって思うんや。

 

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