沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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十月の最終週に、転校生がやってきた。
野郎なんやけど小奇麗な人物で、微笑む姿には女性的な色合いがあった。
顔色がちょい優れへんように見えた。
そのへん含め、奴さんにちょい興味が湧いた。
一時間目の国語が終わって、そったら早速奴さん――早川カズヤくん――に声かけてるさっちんの姿があった。
まずはオープン、仲良くしたろうって事に臨むんがさっちんのええとこや、せやさかい、オレも話の輪に加わったることにした。
「変な時期の転校や」オレは言うた。「なんや、理由でもあんのん?」
「手の内を晒すのは、まだ先にしたいなぁ」
手の内を晒す?
まだ先?
謎めいてる発言やさかいカズヤくん、現状、なんとも判断はしづらいわ。
――まあええわ。
話くらいは進めたろ。
「早川カズヤくんはバスケ部とかバレーボール部とかやったんか? 背ぇ高いし」
「きみのほうがのっぽだよ、犀川くん?」
そりゃそうなんやけど、そんなんどうでも良くて、やな――。
カズヤくんがいきなり殊勝な感じで微笑みやった、
「今の自分の立場を顧みたうえで、だったら僕には何ができて、僕は何をすべきなんだろう、って」
腕組んで、それから左にこてんって顔を傾けた、オレ。
「意味不明やな。カズヤくんは何を重苦しいことを言うてるんな。人生、まだまだ長いんやぞ?」
そったらカズヤくんは言うた、「病気で、僕はそろそろ死ぬんだ」とか言うた。
さすがにびっくりさせられるような発言で、せやさかい、にわかにそうやとは信じがたいわけや。
せやけど、奴さんの黒髪の艶やかさが一気に説得力を増した。
病的なまでに白い肌も一定の悲哀さをまとうに至った。
美しくて、綺麗すぎる。
そういうもんってえてして、あるいは悉く、脆くて儚いもんや。
せやさかい「近々、死ぬ」なんてセリフもデタラメやとは感じられへんくなった。
「で、カズヤくんは、えーっと死ぬ前に? きみは死ぬ前に、何がしたいんな?」
「そんなの、男に生まれた以上は決まってるよね?」
「この世界に爪痕、残したいってか?」
「ダメかな?」
いいや。
むしろ正解、立派すぎる。
「ホンマに、もう時間はないん?」
「どことは言わないけどステージ4だから。今このときも、じつは血を吐きたくてしょうがなかったりするよ」
そんなんやったら家で大人しく寝てろやって思う。
せやけど、そういうことやないんやろうな。
死ぬっていう概念がもはや目の前に迫ってるからこそ、自らの生きた価値を示したいんや。
それってひょっとしたら俗物的な発想なんかもしれへんけど、オレはもうカズヤくんのことが好きやさかい、彼の判断にケチつけようとは思わへん。
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三人でちょい距離こなして河川敷――草の上におる、緑の草の斜面――。
川を渡って向こうに行けば、そこはもう川崎や。
オレは草の上、右隣にはカズヤくんの姿。
きみのお気に入りの場所に連れていってよ。
上から目線に聞こえもしたんやけど、その言葉に他意なんてなくって、カズヤくんがええ奴やってのはわかりきってるさかい、素直に案内したった。
「目の前の川がかの多摩川なんだね。綺麗な川とは言えないなぁ」
「カズヤくんはそんなんも知らへんかったんかぁ?」
カズヤくんは目ぇ細めて、「僕は田舎者だからね」――。
聞かせてもらいたことがある。
せやさかい率直に「訊きたいんや」って切り出した。
切り出した先に、こほこほ咳して、カズヤくんは血ぃ吐きやった。
オレはハンカチもティッシュも常備してへん。
せやさかい、けほけほ吐血するさまを黙って見てるしかなかったし、黙って見るしかなかったんやけど。
「信じてもらえた? 僕がもう、死ぬって話」とか言うと、カズヤくんはにこってわろて見せた。
なおも、カズヤくんはけほけほ血ぃ吐きやる。
そのうち、アキラっちが戻ってきた。
歩いて一分の位置にローソンがある。
そこからの帰りっちゅうわけや。
カズヤくんはハンカチで口元拭って、もうなあんもなかったみたいな顔して、さらには微笑みやった。
そったらオレの左隣のアキラっちはなんや嬉しそうにして、「からあげクンはおいしいんだぞ」――カズヤくんにそれを手渡した。
「な、なあ、おまえさ、カズヤでいいか?」
「いいよ、僕はカズヤだからね」
「おまえ、ほんとうにもう、死んじゃうのか……?」
そこに嘘なんてないやろうってわかっていても信じたくはないって感じるあたりが、アキラっちの優しさなんやろう。
「たっ、たとえば、後悔とかはないのか?」
「それはね、七尾アキラさん、ないわけがないんだ」
「協力できることがあるなら、協力してやるぞ」
「いいの?」
「だっておまえはめちゃくちゃ優しそうだからな、賢そうでもあるし」
「だからって、『ヤらせて?』って言ったら、断るでしょ?」
あたりまえだっ。
どもることなく、力強くそう言ってのけたアキラっちやった、べーって舌まで見せやったくらいや。
「胸の大きさと母性の強さは比例するっていうよね。だとしたら、七尾さんは母性のカタマリだよね」
アキラっちは眉寄せて、難しい顔しやった。
母性っちゅう単語が持つ普遍性が嫌なんやろう。
だってアキラっちはわがままで、その果てのルールとして、オレんことが好きなんやさかいな。
「犀川くん、心の底からたった一つだけ、僕には希望したいことがあるんだ」
「そりゃなんやろ?」
「戦闘さ」
「戦闘? 物理的に、か?」
「そうだよ。それ以外に何があるのかな?」
オレはなおも眉間に皺ぁ寄せる。
「じつは、僕は喧嘩が得意なんだ。これまで無敗なんだ」カズヤくんは言う。「そんな僕の最後の相手として、きみを選びたい」
ふぅん。
オレはそないなふうに鼻ぁ鳴らして。
「爪痕を残すにあたってはええこっちゃな。せやけどありがちな考え方すぎて、乗り気はせーへんぞ」
「闘ってよ、お願いだから。至極美しいニンゲンに最後の相手をしてもらえたら、僕は絶対に、満足して逝ける。きみが強かろうが、弱かろうが、ね」
「最後とか言うなや。まだ可能性は――」
「ステージ4で三年がんばったんだ。だからこそ、僕はもう長くないって、実感として、わかるんだ」
そこまで言われてしもたら、なあんも反論の余地はないな。
「いつ、どこでやる?」
「今、ここでがいい」
「ええんか?」
「ホント、今さらなのかもしれないけど、僕はヤバい。だったら今すぐにでもヤらないと」
オレはぴょんぴょん跳ねるようにして、まあるい石とか尖った石とかで埋め尽くされた河原に下りた。
あはっ!
とかメッチャ嬉しそうなリアクションして、カズヤくんはオレの向こうに立った。
腰を低くして、カズヤくんは左手を前に向けた。
それから右の拳を腰のあたりで引き絞った、空手なんやろうけど、アレンジを加えた、言わば我流やろう。
やる、間違いなく。
せやけどここでしばいたらな、オレの価値なんてないんやさかい――。
「うっしゃ、かかってこいや。おまえが死ぬより先に涅槃っちゅうもんを見せたんぞ」
「大した自信だね」
「オレはそれくらい、強いさかいな」
「行くよ」
「おぅ、存分に気合い見せろや!!」
地を蹴って、カズヤくんは突っ込んできた。
奴さんの右の拳をかいくぐるようにしてかわす。
低い姿勢から左のアッパー狙ったんやけど、カズヤくんは素早くスウェーバック、綺麗によけてみせたんや。
左のフック食らった。
せやさかい、右のフックを当てたった。
殴り合い。
誰がどう見たって激戦や。
ぶち殺す勢いでやってんのに、パンチ、受けるんやなくてよけやるから気持ちがようない。
せやけど、奴さんのパンチかて、オレはよける。
――ここぞというとこで、カズヤくんはしつこいくらいにけほけほ血ぃ吐きやった。
あまりにも続けて吐くもんやさかい、オレはそれがおさまるまで待ったった。
「舐めないでよ、犀川くん。僕はいつ殴られたって――」
「オレはそれが嫌やってだけや。ほら、かかってこいや。おまえがどれだけの病人やろうが、オレは絶対に負けたらんぞ」
「……とう」
「ああん?」
「ありがとうって、言ったんだ」
せいぜい甘っちょろいこと抜かしてろや。
どうあれオレはおまえんこと、ぶっ殺したる心意気やさかいな。
「行くよ? 次が最後だ」
「せやったら、死ぬ気でかかってこい」
「僕は負けない!」
「おうよ!!」
*****
短いあいだではあったけど、カズヤくんはたしかにオレらのクラスメイトやった。
せやさかい当然、葬儀にクラス一同で顔出すべきやってことになった。
せやけど、大勢に盛大に弔われることは、当のカズヤくん自身が嫌ったらしい、奴さんらしいな、オオゴトにはしてほしくなかったんやろう。
オレはカズヤくんこと、送ってやりたくて。
送ってやる立場に、オレはいてやりたくって。
仮にオレが葬儀の場に入れることになったとしても、きっとカズヤくんは形式的な礼儀は嫌がるようにおもた。
なーんも準備せーへんで、ただ身ぃ一つで葬儀場を訪れた。
香典なんて持ってへんよぉって受付のヒトに伝えた。
怪訝そうなっちゅうか、「無礼すぎる」みたいな顔されたんやけど、先達て述べたとおり、オレはなぁんもずっこいことはしてへんつもりや。
オレと同じく喪服姿のアキラっちはきちんと準備してやった、自分のバイト代から捻出したんやろう、頭が下がる。
曇天やったんやけど、いよいよ雨――霧雨が降ってきた。
オレはアキラっちの右手を左手で握って、前に進んだ。
アキラっちは暗い顔ばっかしやるもんやから、手ぇ引いたるしかなかったんや。
いよいよ屋内に向かおうって段になって、前からかわいらしいオナゴが近づいてきた。
たぶん同い年くらいやろう、ホンマにめっちゃ美少女――。
「犀川さんと、七尾さんですよね?」
丁寧にそない問われた。
「私、レイといいます。ベッショ・レイです」
たぶん、別所さんやろう。
瞬間、悟った。
このヒトは、カズヤくんの恋人や。
「このたびは」
そないだけ言うて、オレは小さく頭ぁ下げた。
アキラっちも続いた。
声からして、もう涙ぐんでやる。
「彼から……カズヤから、お二人だけは歓迎してほしいと言われました」
そっか。
そうかぁ。
カズヤくん、きみはオレと殴り合ったことで、なんらか獲得したんやな。
せやったらホンマに、良かったんや。
「ですけど、彼は遺影だけは見てほしくない、って……」
「そりゃまたなんでやろうか」
「あなたの前では強い自分でいたかったみたいです。作り笑いなんて見てほしくない、って」
作り笑い、か。
果たしてそうかね?
きっとそないなことはなかったと思うんやけどな。
だっておまえは、いくらなんでも大事なヒトの前ではそんなんせーへんかったやろ?
――いや、したんかな、悲しそうに微笑む姿は、容易に想像がつくさかいな。
せやけどおまえは優しく笑ったんやろう?
偉いよ、カズヤくんは、尊敬する。
アキラっちがしくしく泣く。
そのうち、わんわん泣きだした。
アキラっちのええとこや。
感受性が豊かすぎるさかい、死という概念にはめちゃくちゃ敏感なんや。
オレはアキラっちの左肩に左手を回して、二人一緒に身ぃ翻した。
カズヤくん。
オレはおまえほど強いニンゲンを他に知らへん。
約束する。
オレはこれからおまえのタマシイ背負って、生きたんぞ。
サヨウナラ。
ああ、そうや。
天国の扉って、ノックしたらどないな音がした?