沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
*****
「なあなあ、『ウメヤ』に串カツ屋ができたらしいぞ?」
ウメヤっちゅうのは京急の駅、「梅屋敷」のこと。
オレと一緒に登校中のアキラっちのセリフや、いきなり「ウメヤ」言い出したんや。
多少食い意地がはってるのは知ってるつもりやけど、にしたって朝っぱら揚げ物の話しなんてするかぁ?
まあ、それくらいで胸焼けを催すような年寄りでもないんやけどな、むしろオレはピチピチなんやけどな。
串カツ屋っちゅうのはのれんをくぐったが最後、湧き上がる唾液を押さえられへんくらいプリミティブな食欲に満ち満ちる、一気に何本もオーダーしてまうことになる罪深いコンテンツや。その中毒性を力の限り謳ったわけやけど、そったらアキラっちは「串頼んだだけでめちゃくちゃキャベツの千切りがついてくるらしいぞ」――。
キャベツかいな。
いや、たしかにキャベツはうまいんやけどな、せやけど付け合わせのそれってのは執着するようなことなんかぁ?
ええわ、まあ。
うん、まあええ。
隣駅近辺のこととはいえ、そないな情報、どこで仕入れたんやろうな。
「じいちゃんとばあちゃんが早速行ってきたんだ。メチャうまいって話だったんだっ」
語尾跳ねで言うあたり、アキラっちはその串カツ屋にめちゃめちゃ期待してやるんやろう。
「今日行こうぜ。どんな店でどんな物を出すのか見てみたいんだ」
「弁当屋の、自宅のバイトは?」
「見逃してくれって言ってある」
「準備がええこっちゃ」
「本気だからな」
わこた。
オレはそないに返事して。
「ほったら昼飯は少なめにせなな」
「そのへんはだいじょうぶだ。今日はおにぎりしか持ってきてないんだぞ」
ちゅうても、アキラっちが作ったもんや、それは巨大なものなんやろう。
「二人きりのほうがええか?」
「ん? どういうことだ?」
「いや、一応、兄貴誘ったろかなっておもて。奴さん、串カツ大好きやさかい」
「シャル兄ならいいぞ。まるで問題がないぞ」
「ちゅうても来れるかどうかはわからへんけどな」
オレはさっさと用件をLINEで告げた。
すぐに既読にならへんあたり、やっぱそれなりに忙しくしてやるんやろう。
「ああ、ダメだ、イクミぃ、あたしはもう腹ペコだぞぅ」
アキラっち、おまえは食欲っちゅうもんに貪欲すぎんぞ。
いっぱい食べる女のコってのは、総じてかわいいもんやけどな。
*****
テーブルは三つしかのうて、その中でもたった一つの四人用の席を陣取ってる、運良く座れたんや。
オレの左隣にはアキラっち、オレの斜向かいには兄貴、兄貴の左隣にはなんとまあ葛葉アンナ刑事の姿がある。
「あらかじめ言っておくが、ここに来るにあたって、俺にはなんの障害もなかった。気持ち良く今、ここに座っている」
「ちゅうたかて、東京駅は遠いやん?」
「近いんだよ。土地勘のなさをなんとかしろ」
「忙しかったんちゃうん?」
「問題ないと言った。というか、弟ごときに心配されるなどとは辟易する」
辟易かぁ。
すいぶんな言われようやなぁ。
「で?」オレは話を切り替えることにする。「なんでアンナさんがいらっしゃるんですか? その点、けっこう知りたいんですけど?」
「シャル氏に誘われたんだよ」と答えたアンナさん。「デートかと思ったんだがそうではなくて、そこは幾分、残念だ」
アンナさんに顔を向けた兄貴、アンナさんはアンナさんで兄貴のこと見つめた。
なんやかんやで仲がええっちゅうか、ツーカーの仲なんやろうな。
おたがいが向け合う視線っちゅうんは、ガキのオレからしたらドキドキしてまうくらい色っぽいもんでもあった。
アンナさんが「さあ、食べるぞ」っちゅうた。
黒いジャケット脱いで、それを椅子の背もたれに掛けた。
ちょいビビった。
肩から前腕にかけて細いなんてことはのうて、むしろ逞しいからや、ええ感じに太い。
あるいは華奢な女のヒトやって判断してたのに、じつはぜんぜんそうやなかったらしい、時に鉄砲撃つからか、腕そのものが逞しいばかりに立派。
ある種の閑話休題――。
「アンナさんちはどこなん?」
「黙秘する。私は刑事だからな」
「本庁の電警やって聞いたような気がするけど?」
「そのとおりだが、じつは蒲田署にも席があったりする」
「エリートなん?」
「そうに決まっているだろう?」
言い切るあたり、さすがやな。
気高い刑事さんであることは間違いないやろう。
――と、三人で会話続けてるあいだにぱくぱく元気に物食うてんのはアキラっちや。
気が小さいところがある臆病な性格のくせして肉食や、肉ばっか頼みやる。
「おいおいアキラっち。ペース、速すぎやせーへんか?」
「今日は食べてやるって決めたんだ。なんだったら会計は引き受けるぞ」
それはありえへんな。
支払いは絶対、兄貴の仕事や。
「なあなあ、見ろよ」アキラっちが身体をぐっと寄せてきて、メニュー表を見せてきた。「なんだよ、これ、ミニトマトなんかがあるぞ?」
ほぉほぉ、トマトすら揚げてまうんか。
「頼んでみるぞ。おまえも要るか?」
「おぅ、食べんぞ」
「オッケーだ」
アキラっちは「おーい! すみませーん!!」ってデカい声出して、店員さんを呼びやったんや。
外観は武骨に映ったんやけどどうやら洒落た店らしくってコークハイなんかがあって、兄貴は重ねてそれを飲んでやる。
アンナさんはハイボールばっかがぶがぶがぶ――今は「濃い目で」ってオーダーする段らしい。
「ところでなんだ、シャル兄」アキラっちは黒烏龍茶を飲むと、「本音として、二人はどういう関係なんですか?」――。
おぉ、鋭い踏み込みや。
アキラっちのくせしてやるやないか。
兄貴とアンナさんはまた顔見合わせて。
べつになんの合図もなかったんやけど、二人はガシッと肩抱き合いやった。
「相棒だ」って兄貴は言い。
「相棒だよ」とアンナさんも続き。
あはははは。
オレはそないなふうに声上げてわろた。
二人ともえらいノリがええやんか。
「だがなぁ」兄貴の肩を抱いてた右腕を引っ込めると――アンナさんのその笑みは苦笑いなんやろうな。「男は身勝手だからなぁ……」
「たしかに兄貴は身勝手やぞ。これと決めたら死んでも考え曲げへんさかいな」って言いつつも、「せやけど、好きなニンゲンは絶対に裏切らへんよ」っちゅうことをたしかに伝えた。
アンナさんは小さく肩をすくめてみせて。
それから今度は明るい具合の笑顔を作って。
待ちに待ったミニトマトの揚げ物がやってきた。
「おぉ、こんがり揚がってるぞ。カンペキに揚がっているぞっ」
――って、アキラっちは串を手にしやると、縦から横からってなふうに、じっくりじっくりそれを観察しやった。
「ヤバいぞ、これは」って、オレは言うた。
「何がヤバいんだよ?」とアキラっち。
「いや、抵抗ないなら食ってみろや」
「抵抗なんてないぞ、だから食べるんだぞ」
アキラっちは対象を凝視しながら「ふへへへへ」と邪悪な笑み浮かべやると、三つのうちのてっぺんのトマトをぱくって口にしやった。
途端のことやった。
その眉間には皺が寄り、アキラっちはばしばしオレの右の肩を叩いてきた。
せやさかい、忠告したんやぞ。
こんがり揚がったトマトが熱くないわけがないんやぞ。
まだ黒烏龍茶は残ってる。
アキラっちはグラスをぐいと傾けて――どうやらトマトを喉に通したらしい。
うあああぁっ。
忙しなく、今度は頭ぁ抱えたアキラっち。
「うああああっ! 一つのトマトを無駄にしてしまったぁぁっ!!」
なんちゅうか、大げさなこっちゃ。
せやけど当該トマトからすれば、ありがたい感想やったりするんやないやろうか、なにせ気持ち良く、口ん中に放り込んでもらえたんやからな。。
*****
とにかく食って飲んでを繰り返したもんやから、会計は二万近くにもなった。
兄貴が羽振りがええんのには慣れてるんやろう、せやさかい、アンナさんはなぁんも言わへんかったけど、アキラっちは「ご、ごめん、シャル兄、自分の分くらい出すから」って言うて「はいっ」って気持ちよく挙手しやった、「ガキに払わせられるか」っちゅうて固辞した兄貴に、アキラっちはぺこぺこ頭下げやった。
JR蒲田駅までの短い道のり。
兄貴とアンナさんは並んで歩いてて、すぐ後ろにオレとアキラっちが続いてて――。
「『カマカマセン』と言って、わかるか?」
は?
兄貴、いきなりなんの話や?
「たとえば川崎なんかもそうなんだが、似たような駅名を冠しているくせに、京急とJRとのあいだにはひどく距離がある」
「そりゃそうやけど、で、カマカマセンっちゅうのは?」
「京急蒲田とJRの蒲田駅とを結ぼうという路線の話だ」
「ああ、なるなる。その話はどっかで耳にしたな」
「仮に叶うとなったとしても、ずいぶんと先の話だろう」
「まあ、そうやろうなぁ」
「もはや都市伝説レベルだな」
ホンマ、そのとおりやな。
にしてもそのへん――たとえ都市伝説やろうと知ってるあたり――兄貴はホンマに大田区、もっと言えば蒲田が好きなんやなって思う。
「兄貴、ホンマに自宅に帰るん?」
「それ以外の選択肢がどこにある?」
「それこそアンナさんと近所でよろしくやれば――」
アンナさんがいきなり振り向いた。
でもって、オレの頭を右手でバシッて叩いてくれた。
「痛いやんかぁ、なにすんねんなぁ、アンナねえさん」
「熟成に時間がかかる関係というものもあるんだよ」
「お二人の間柄がそうや、って?」
「だからこそ張り合いがある、あるのさ」
ああ、そうか。
そない言われたら、なんとなく現状における二人の――その距離感が――わかってまう気がするなぁ。
「んで、アンナさんはどうすんのん?」
「言わずもがなだろう?」
「仮宿があるっちゅうん?」
「そういうことだ」
「なんで駅に向かって歩いてんのん? 目的地はこっちなん?」
「見送りくらいしたってバチは当たらんだろう?」
うあああぁ。
マジでラブラブやないかぁぁぁっ。
そういうことやったら、邪魔者はとっとと去るべきやろう。
オレは左手をアキラっちの左肩に回して、二人揃ってくるって身ぃ翻した。
相当ビックリしたらしくアキラっちは「うひゃぁっ!」って素っ頓狂な声上げやったけど、彼女んこと、肩に抱いたまま帰路をゆく。
「でもそうだよな。お邪魔虫はいけないよな」
おぉ、アキラっち。
いつになく冷静やないか。
「酔ってしもたんかぁ?」
「否定できないなぁ、場酔いみたいな感じなんだ」アキラっちは「うふふ」ってわろた。
肩に回してた手で、いよいよ腰を強く抱き寄せる。
いつもなら決定的に「うひゃあっ!!」って悲鳴上げやるんやけど、今夜はむしろ、身体寄せてきやった。
「家まで送ってくれよなぁ。信じてるぞぉ、イクミぃぃ」
ったく、何を信じてるんやろうな。
そない思いつつも、アキラっちんちにまっすぐ向かうオレってなんて紳士なんやろう。
「もうすぐだ。もうすぐ冬がやってくるぞ」
「いくらなんでも、そりゃまだ気が早いわ」
「ずっとあたしのそばにいてくれ。一生だ」
「わかってるってば」
「約束だぞ?」
「わかってるって言うたぞ」
そないな愛すべきやりとりがときどきあるさかい、都度都度、オレは自分の立ち位置を再認識できる。
「それにしても、シャル兄とアンナさんはオトナだよなぁ」
「そうでもない思うぞ?」
「そうなのか?」
「抱きたいし、抱かれたいって、おもてるはずや。その時点で、ガキじみてるやろ?」
「そうなんだとしたら、ま、そうだな」
とか会話は続けやるんやけど、アキラっちは脱力したみたいにオレにしなだれかかってきた。
「家って、こんなに遠かったっけぇ」とか気だるい感じで言い出した。
この調子でうだうだだらだら歩いてたら帰宅がいつになるかわからへんし、せやさかい、オレはアキラっちんことを左の肩に担ぎ上げた。
アキラっちは「うひゃぁっ!」ってビックリしたみたいやったけど、次の瞬間には「安全に運べよーっ」とか明るい調子で抜かしやった。
たかが蒲田の夜空でも、見上げた先に見えるお月さんは、それなりに綺麗で――。
そのうち、アキラっちが――。
「もう歩けるぞ、まっすぐに歩けるぞ、下ろしてくれ」
「嫌や、めんどい。下ろしたったらダル絡みしてくるんやろうからそれはウザったい」
「ダルいとか、ひどいぞ」
「オレに任せとけって」
「わかったんだぞ」
「ああ。そないしてくれ」
ホンマ、ええ夜や。
まあるい月を抱いた夜は、きっとオレらんことを祝福してくれてる。