沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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ガッコの屋上にての昼休み、今日はみゆきちに膝枕してもらってる。
アキラっちはさっちんと将棋を指し指し、「みゆきちならいいよ、べつに」っちゅうことらしい。
ご熱心やからこその言葉やろう、こっちのことなんか見てへんし、実際に目にしたらめっちゃ怒るに決まってる。
「私の太ももはどうですかぁ?」とか甘ったるく言うたみゆきち。
「みゆきち、細なったんちゃうか? しっかり食べてるかぁ?」
「それってオヤジクサいセリフだよぅ」
「みゆきちに早いとこええカレシができますように」
「セックスがじょうずなカレがいいなぁ」
「それ、あんまオモテで言いなや?」
わかってるよぅ言うてみゆきちはころころ笑い、オレもあっはっはってわろた。
そないなまあ、どうでもええ折のこと――。
ぎゃっはっは、ぎゃっはっは。
そんな下品な男子諸君の笑い声が耳に届いた。
その不愉快さにしかめっ面したらしいオレんことを目ざとく認めたらしいみゆきちは、オレの口元を両手で「えいっ」てふさぎやった。
「ダメダメダメだよぅ。イクミくんはもう少し私のモノでいるのぉ」
いや、まあ、それは非常に気持ちのええことなんやけど。
とはいえオレは身体ぁ起こした。
後ろから「ダメぇ」言うてみゆきちが首に腕巻きつけてきたんやけど――。
いよいよ「そっち」を見やる。
男が男三人からストンピング浴びせられてた。
がんがんがんがん蹴られてて、「やめてやめて」を連呼しやる。
「みゆきっちゃんよ、この光景、あるいは彼に見覚えは?」
「それはねイクミくん? 彼はデブなのだよぅ」
いや、それは見りゃわかるんやけど?
「止めてくる」
「えー、どうしてぇ?」
「気分悪いやん」
「もっとイチャイチャしたいよぅ」
「あかん。そのうちアキラっちに怒られる」
「むぅぅ、じゃあ、行ってらっしゃい」
みゆきちのさっぱりしたところは買える。
せやさかいみゆきちはもっとモテてええし、彼女をモノにしたいんやったら今しかないな。
デブっちょがイジメられてる現場に至った。
デブっちょを蹴っぽってる連中の中にオレよりデカい男のコはおらへん。
オレが「オレとやりますかぁ?」言うたら、みぃんなビビったらしく足早に姿消してくれた。
さすがオレ、見た目っちゅうか、白きアルビノの威圧感は最強や。
――ま、そんなんどうやかてええんやけど。
オレは手ぇ貸して、デブっちょの身体を引いて起こしたった。
「ごめんよぅ、犀川くん、ごめんよぅ」とかいうくぐもった声が返ってきた。
デブっちょを正座させたところで、オレはデブっちょと目の高さを合わすべく腰、屈めた。
ようわからへんねんけど、デブっちょは「えへへ、えへへ」と照れくさそうにわろてみせたんや。
肩の力が抜けてまうみたいな感じで――。
さんざんストンピング浴びせられてたのにデブっちょはなぁんも気にしてへんようやし――。
「デブっちょくん、おまえはオレんこと、知ってるみたいやな」
「あ、あぅ、ごめんなさい」
「謝るこたあらへん。とりあえず、オレとトモダチになろかぁ」
「えっ、いいの?」
「おぅ、ええぞ。その代わり、おまえっちゅうニンゲンを教えてくれや」
「すっ、すごく大げさな物言いに聞こえるよ?」
「まあええやん? まずはお互い話してみようやないか」
――二人きりにしてもろて、オレはデブっちょくんと向き合ってる。
曇天に拍車がかかる。
天気予報、大正解やな。
「さ、犀川くん、あらためてありがとう、その、助けてくれて……」
「んなこたどうやかてええんやけど」
「やっぱり、男のくせにとか思う? 男のくせにイジメられるとか、とかとか……」ってデブっちょくんは悲しそうに。
「そいつそいつでいろいろ状況がある。せやさかい、べつになんやかんや言うつもりはあらへんよ」ちゅうんはオレの持論であり本音。
デブっちょくんは、ぱぁって明るい顔して。
「きみは理解者だ、僕の初めての理解者だっ」
そない大げさなこと言われるとなんや身ぃ引きたくもなるって話なんやけど。
「ま、どうやかてええわ。目的は果たした」
「目的?」
「我が校にイジメとかあったら気色悪いさかいな。そもそも陰キャ集団なんやし」
デブっちょはほっぺに埋もれ加減の目を細くして。
「やっぱりきみはカッコいいね、犀川くん」
「ほぅ。せやけどおまえがオレの何を知ってるんだか」
「きみは有名だからね。うん、ほんとうにカッコいいなぁ」
「とか言うおまえの名前は? なんやいうんや? 言うてみろや」
イチロウだよ、クラ・イチロウ。
なんとも尊い名前やないか。
堂々と胸張って言えるあたりに立派さも感じた。
――とはいえ、目下のところじつのところ、オレはイチロウくんとしゃべりたいことなんてないわけや。
その旨しっかり伝えたんやけど、ほったら「おっ、おしゃべりしたいですっ」とかかえって語尾上げで言われてしまい――。
まあそのへん、べつにほっぽったろうっちゅうんでもないさかい、話、聞いたることにした。
ややあって、デブっちょのイチロウくんが浮かべたんは苦笑やろう。
オレの左隣に黙って陣取りやったんはアキラっちや。
アキラっちは難しい顔して「おまえ、あとから酷いぞ?」言うた。
それから「みゆきちはしっぺだな」って続けやった。
「なあ、アキラっち」
「なんだよ、おまえ。あたしは怒ってるんだぞ? だっておまえ、みゆきちに膝枕とか――っ」
「おまえにオッケーもろたんやぞ。音声、再生したろか?」
「うげっ、そこまでしてるのか、ぶっちゃけヒくぞ、ナシだからな、そんなの」
「冗談やってば。おまえがあかん言うたらオレはなーんもせーへんさかいな」
「ほんとうだな?」
「ああ、任せろや」
アキラっちは「わかったぞ、任せるぞ」って、めっちゃ物分かりがよくて助かる。
「で、や、イチロウくん、話聞かせろや」
「う、うん、いいよ、なんだろう?」って答えたイチロウくんは目ぇ白黒させてやる、いろいろあるんやろう。
「イチロウくんはなんで、ひょろい阿呆な先輩らにいじめられてるんさ? おまえのほうがずっとずっとデカいやんか?」
「だだ、だって、僕が暴れることで同級生の誰かが迷惑を被ることになったら悪いじゃないか」
ホンマ、見事なピザ声。
言い分自体は評価できるもんなんかもしれへんけど。
「とっ、とはいえなんだ」どもってくれたイチロウ。「お礼をしたいんだ。お礼くらいはできるから」
いやべつにお礼とか。
そない伝えたんやけど、あんまりしつこくグイグイ来るもんやから――。
じゃあまたねっ。
またもや語尾跳ねで言うて、屋上をあとにするイチロウ氏。
じゃあまたねっ?
突拍子もなく、いったいなんやねんな?
その言葉が何指してるかなんてわからへんさかい、オレはそのデカい背中を眺めつつ、こてんと首を左に倒したわけや。
そったらや。
「教えてやるぞ。イチロウはあたしの知り合いだぞ。町内会の仲間なんだ」
ああ、そう。
せやったら、幼馴染みみたいなもんなんか?
「ううん、いや、そうでもないんだぞ? ずっと昔から、べつに仲が良かったとか、そんなことはないからな。だってあいつ、デブだし」
それってなんかめちゃくちゃヒドい物言いに聞こえるんやけどぉ?
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土曜日の午前中をイチロウくんに割いてやることにした。
オレとアキラっちの総意でのことや。
若い時分の週末をくれたるとか優しいこっちゃな、オレら、って。
イチロウくんちは自転車屋で、アキラっちの弁当屋からホンマ目と鼻の先にあるようなとこやった。
アキラっちもイチロウくんも家のことは知ってたって話やけど、お互いを意識するみたいなことはホンマになかったらしい。
それはそうと、感心した。
狭苦しい下町のしょぼいに違いない商店街にある自転車屋においてきっちり真面目に仕事してるイチロウくんを見て感動すら覚えたんや。
イチロウくんはタイヤのパンク直してるところやったんや。
簡単そうに見えて技術が問われる作業やってのはわかってるもんやからなおのこと偉いなぁっておもたんや。
あんぱんみたいな表情筋も笑顔も、今日は愛おしく思えたんや。
「ごめんね。すぐに終わらせるから」ってな感じで健気なイチロウくん。
「オレはすでにおまえんこと尊敬してるさかい、いくらでも待ったるよってに」
「ほほ、ほんとうかい?」
「嘘ついてどないすんねん」オレははっはっはと鷹揚にわろた。
ちょい待ったったら、そのうちイチロウくんの体は空いて――。
「ご、ごめんなさい、お待たせしました」
そない言いながら店から出てきたイチロウくんの両手は真っ黒や、あろたところでそない簡単に落ちる汚れやないんやろうな。
「どれだけかて待つわいさ。おしゃべりしたいんやさかい」
「えっ、そうなの?」
「しつこいなぁ。そない言うたつもりやぞぅ」
「じゃじゃ、じゃあどうしよう」
「『七尾の弁当』、知ってるかぁ?」
「し、知らないわけがないんだけど?」
ほならまずは昼飯や――って、オレはアキラっちのほうを向いた。
「唐揚げをごちそうしてやるぞ。イチロウはいい仕事をするみたいだからな」
悪戯っぽくウインクをする――ウインクできたアキラっちは珍しい。
*****
イチロウ氏はスタンダードな唐揚げ弁当(一人前)やと満足できへんかったらしい。
「きちんとお金は払うから、もう二人前、いただけないかな……?」
おっかなびっくりってな感じの物言いやったけど、とりあえず、その強欲さにはなんちゅうかこう、舌ぁ巻いた。
アキラんちのダイニングテーブルを、オレらは囲んでるわけやけど――。
「ねぇ犀川くん、聞かせてもらってもいいかな?」とデブっちょのイチロウくん。
「おぅ。なんやかて言うてみろや」
「デブには人権なんてないと思う?」
ん?
――ああ。
「自分ことイジメてくれてた先輩殿らにそないに言われたんか」
「ううん、そういうわけでもないんだけど」
せやったら何が言いたいんさ?
ってな感じで、つい眉を顰めたくなる。
不快なんやない、ただ疑問やっちゅうだけや。
「ぼぼっ、僕はデブでもいいと思っているんだっ」
おぉぅ、これまたいきなりやな。
否定しようとは思わへんけど、ホンマ、いきなりやな。
「むむっ、むしろ、僕は『体重二桁は甘え』くらいに考えてるんだっ」
うぉぉぉぉぅ。
この期に及んでとんでもないこと言い出しやったぞ。
「とか言うんはなんでや? たとえば家族のみなさんに『デブはあかんぞ』みたなこと言われてるんか?」
「そのとおりなんだ」とほほとでも言わんばかりに首を前にもたげたイチロウくん。「お父さんに言われたんだ。固定資産税を払えって」
は?
固定資産税?
デブはもはや、固定的な資産やと?
アキラっちが爆笑した。
「あっはっは! おまえ! それは気が利いてるじゃんかっ! イチロウ、おまえのお父さんは天才だなぁっ!!」
まあそうなんかもしれへんけどアキラっち、それはひどいぞ。
なんやかんや言うてもイチロウくん、泣きだしそうやないか。
「せやけどさ、イチロウくんはデブは正義やおもてるわけやろ? せやったら――」
「それでも苦しいってことはあるって話なんだ……」
「せやったら痩せろっちゅうのは禁句か?」
「言ったよ? 二桁は甘えだって」
なんともめんどくさいやっちゃな。
主義主張の方向性はわかるんやけど、美学的なもんの仕様がめんどくさすぎる。
「ねぇ犀川くん――あ、ううん、もうイクミくんでいいかな?」
「おぅ。もうイクミくんでええぞ? なんやねんな?」
「明日の日曜日、商店街の大食い大会があるんだ」
「そうなん?」
「そうなんだ。七尾さんは知ってるよね?」
「いや、あたしは知らないぞ。そうなのか?」
「七尾さんは非国民なんだね。残念だよ」
アキラっちが不服そうにするんはわかる。
町内のイベント一つを把握してへんからっていう理由で非国民呼ばわりされてしもたら心外やろう。
「何を食べるんだ? 何を大食いするんだ?」
「それはね七尾さん、ケバブなんだ」
「ケケケッ、ケバブだぁっ?!」
アキラっちがビックリするのもわかる。
この大田区の下町にあって、なんでケバブなんてこじゃれたもんの大食い大会を――。
「僕は優勝するよ! 絶対に勝つんだ!!」
いや、もはや意味わからんぞ、イチロウくん。
おまえがデブ肯定派なんはわかったけど、にしたってケバブなんて大食いした日には体調崩さへんかって心配になるわけで――。
「デブの存在意義を見せつけてやるんだ!!」
いや、せやから、デブうんぬんってのはそない主語がデカい話でもないはずでやな――。
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翌日、日曜日。
京急の雑色駅直結の商店街の一角において、太っちょ極まりないイチロウくんが――めちゃめちゃ勢い良く――次から次へとケバブを頬張りやる。
もはや優勝は確実すぎる。
周りは――他の参加者含め――ドン引きや。
言ってみれば、まるで「無限ケバブ」やな。
大食いにおいて、イチロウくんは無敵すぎる。
勝ち名乗りを受け、賞金の入った熨斗袋を手にしたイチロウくんはこっちのこと見つけたらしい、駆け寄ってきた。
オレは「食後にはこれやないか?」っておもて、ピンクの缶でおなじみの「パイプラインパンチ」を寄越したった。
ありがとう!
ジョークに対してそないはつらつと応えてくれたイチロウくんはアホすぎるわけやけど、ホンマに嬉しそうやった。
「みんなだらしないよね。僕はデブの少食なんだから」
「いやイチロウくん、おまえはじゅうぶん大食いや思うけど?」
「違うね、僕は代謝が悪いだけなんだっ」
得意げに言いなや。
――とは言わへんかった。
どうあれなんでも自信満々で謳えるんはええこっちゃ。
――ふいにおもた、気づいた。
「なんやかんや言うたかて、イチロウくんはカノジョが欲しいんちゃうのん?」
「欲しいけど、デブに理解がある女性以外はノー・サンキューなんだ」
イチロウくんよ、はっきりそない言えるあたり、おまえは強いんかもしれへんな。
「まったくスゲーな、スゲーけど」アキラっちは瞳を上にやって、呆れたみたいに肩を持ち上げてみせやった。「食費がかかってしょうがないってのは事実だよ、事実でしかないよ」
「僕はお金持ちになるよ! ヒトよりは多少かかるかもしれない食費を賄えるように!!」
自転車屋の小倅ごときが何を――とは言わへん。
どないなことについても夢があってええ。
にしても、「体重二桁は甘え」は素晴らしい、「デブには固定資産税を」っちゅうんも名言すぎる。
オレはデブの存在と彼らの意味を啓蒙したろう。
もちろん気が向いたらの話でしかないんやけどな。
鼻先に染みついてしもたケバブの香ばしい匂いはしばらく消えなさそうや。