沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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JR蒲田駅の西口の近くに「ストレイシープ」っちゅうバーがあって、けっこう広くて、今、オレはボックス席にアキラっちとシャル兄と一緒におる。
オレは甘さより酸っぱさが勝るオレンジジュースを、アキラっちはウーロン茶で、兄貴はラムコークを済ませてから日本酒飲んでやる。
明るくもなく暗い雰囲気でもなく、ちょうどええ薄暗さの中でオレらはそれぞれにツマミを食べながら時間を楽しんでる。
ここに兄貴を誘ったんはオレやない、アキラっちや。
用もないのに呼び出すってのはないやろう。
せやったらそこにあるんはどないな意図なんか。
オレの左隣にはアキラっち、アキラっちの向かいには兄貴っちゅう構図。
「なあ、シャル兄、今日呼んだのは他でもないんだ」って、アキラっち。
「そう言われても、まるで見当がつかないな」っちゅうと、兄貴はおちょこを傾けた。「なんの話なんだ?」
「シャル兄は女性経験が豊富だろうから」
「そうでもないんだが?」
「シャル兄の恋愛遍歴を教えてください!」
はつらつとしたアキラっちの物言い。
そったら兄貴は「まいったな」って頭ぁ掻いて。
「アキラのたってのお願いだというなら」
アキラっちは「いひひ」と悪戯っぽく笑いやった。
「シャル兄が考える恋人論みたいなものを聞きたいですっ」
なるほど。
って、なんやわからへんけど、兄貴はその言い分に深く納得したみたいやった。
またおちょこを空けた兄貴はとっくりから新しいのをついだ。
「恋人論とはまた、なんだかな」兄貴が浮かべたんは苦笑やろう。「素晴らしい意見は言えんだろうな」
「べつに迷ってるとか、そんな話はないんだけど」
「我が弟とのことか?」
「そ、そうなんだっ」
アキラっちは頬赤らめて下ぁ向きやった。
「アキラ嬢、思うにきみは、オレの弟が好きで好きでたまらないから、その青天井さが不安なんだな?」
顔を上げたアキラっちは、目ぇぱちくりさせやった。
「わかるのか? シャル兄は、あたしのことなんて全部全部、お見通しなのか?」
「そういうわけでもないんだがな。女心と秋の空――そう言うだろう?」
「シャル兄は、葛葉アンナさんと付き合ってるのか?」
「定義によるな。毎日は会っていない――が、ちょくちょくは会ってはいる」
おちょこを傾けると、次のとっくりを頼んだ兄貴。
「アンナさんのこと、好きじゃないのか?」
「誰かに対して好きだという感情を抱いたことがないんだ。あるいは『不能者』なのかもしれないな」
「イクミへの思いが強すぎるとか、そういうことは……?」
「なんの話だ? まさか俺が弟に対して邪な性欲を抱いているとか――」
「いいいっ、いや、そうじゃないです、なんでもありませんっ」
兄貴は「何かを論じるというのはかえってつまらないものだ」って言いやった。
「そうですか? 何かをネタに話し合うのは有益だと思うんだけど……」尻すぼみにアキラっち。
「つまるところアキラ嬢、きみは俺と葛葉アンナ女史とがくっつけばいいのにと考えているわけだ」
「そ、そうだよ、問答無用で。アンナさんにはもちろん、シャル兄にだって幸せになってもらいたから、さ」
「が、共通の話題がまずない。俺はただのエンジニアで、奴さんはバリバリの刑事だからな。話が合うはずがない」
オレは「兄貴が刑事になればええやん。そうすることで、話、合わせたったら?」って提案した。
「俺は今の仕事が気に入っているんだよ」
なんとなく、それはわかる話で。
なんでもかんでもこなしてしまう兄貴は、土方に近い作業に従事することで自らを泥臭いニンゲンやって定義したいわけで。
せやけどなぁ、それやったらアンナさんはいつまで経っても報われへんやんか。
それはちょい悲しいなぁ。
「そもそもアンナ女史に男が必要だとは思えないんだよ」と、シャル兄。
「どうしてだ?」なおもタメ口のアキラっち、調子が出てきたらしい。
「俺は女性は弱いものだと考えている。が、アンナ女史はその域にとどまらないだろう?」
確かにそうや。
アンナさんはマッチョや、ええ感じに腕も太いし、太ももも色っぽいだけやないやろう、大した脚力に違いないんや。
「ゆえに、彼女に俺は必要ないだろうと考える次第だ」
「その感想? 意見? には、物申したいんだぞ」
「ほぅ。だったらそのへん聞かせてもらおうじゃないか、アキラ嬢」
「女は男を欲しがってる。男が女を欲しがるように」
「著しく偏った考え方だ」
「だけど、そうなんだよ」
アキラっちは烏龍茶を一口飲んだ。
こくりと鳴った細い喉のエロいことエロいこと。
「シャル兄はアンナさんと寝たことはないんだよな?」
いつもなら赤面するようなセリフを、アキラっちはすらすらハッキリ言いやった。
「ないに決まっているだろう?」
「それって悲しいことじゃないか?」
「熟成が必要な関係というのは確かにある」
「シャル兄はカッコいいから、アンナさんからしたら不安でしょうがないんだ」
「彼女はガキじゃないと考えているんだが?」
「そうでもないんだよ。どんな女だってそうに違いないんだ」
兄貴はまたおちょこを傾ける。
それから小さく肩をすくめてみせた。
「シャル兄が幸せになって、何が悪いんだよ」っちゅうんが、アキラっちの本音らしい。
「結局、それが言いたかったのか?」っちゅうと、兄貴は目ぇ細めやった。
「だってシャル兄はシャル兄じゃんか、イクミのたった一人の兄貴じゃんか。くどいけど、だからこそ幸福を掴んでほしいんだ」
「ガキに心配されるとは、俺も焼きが回ったのかな」
兄貴はおかしそうにクスクスわろた。
「と、ここで発表です」とか、いきなりアキラっち。
アキラっちの視線を追って、ややあってから、ウエスタンドアを勢い良く開けて店に入ってきた女性に気づいた。
何を隠そう、葛葉アンナ女史やった。
アンナさんはずかずか歩いてきて、兄貴の隣に乱暴な感じでどっかり座った。
「アキラ嬢、どういうことかな? きみはアンナ女史の登場を知っていたようだが?」って訊ねた兄貴。
「決まってる。あたしが呼んだんだ」って答えたアキラっち。
兄貴は意外そうに「連絡先を交換していたのか?」――。
アキラっちは「それはもう、当然だ」とのことやった。
「なんだなんだ? 私がいないあいだに何を話していたんだ?」興味深そうにアンナさん。「やはりコイバナか? コイバナなのか?」
「そうだぞ」アキラっちも機嫌良さげにわろてみせた。「あっ、ごめんなさい、アンナさん、タメ口でいいですか?」
「いいよ。アキラと私の仲だからな」
どうやら二人はオレの知らんところでかなり仲良くなってたらしい。
「愛想無しのシャルはどうせ女なんて抱く価値もないとかほざいたんだろう?」
「そこまでは言ってないんだよ。ただ、そのへん、どうしてそうなのか、分析する必要があるってだけで」
「アキラ、まさかおまえから分析なんて難しい語句が出てくるとはな」
「えへへ、成長期なので」
意味不明な受け答えをしたアキラっちは、ふははははって魔王みたいにわろたんや。
「容疑者を組み伏せたり、あるいは鉄砲を撃つ必要があるわけだ。それに則したかたちで私はそれなりにいろいろ太いわけだが」
「アンナさんはすっごくカッコいいよ。アンナさんにはあたしの憧れが詰まってるんだっ」
「だが、生き方がマッチョすぎるがゆえに、女に見てもらえないこともちらほらだ」
「同僚から、そう?」
「刑事に性別は関係ないさ。私は禿げ頭の男性課長にときどき頭を叩かれる」
アキラっちは万歳をしてのけぞって、「カッコいい」ってアンナさんと彼女を取り巻く環境に惚れ直したようやった。
「シャル、いい? ラムコーク、頼んでよ」
自分でオーダーしたらいい――とか、気の利いてへんことを、兄貴は言わへんかった。
ややあってから届いたラムコーク。
「中途半端にマズいよね、これ。だから好き」とかなんとか、アンナさんが口元を緩めてみせるさまはどうしようもなく魅力的や。
ねぇ、ガキ二人は私のことを馬鹿だと思ってるでしょう?
アンナさんは不敵かつ悪戯っぽい感じでそない言うて。
「せやさかい、おもてへんってば」オレはキッパリ言うた。「我が兄のことながら、シャル兄、めっちゃカッコええもん、唯一無二やもん」
「誰よりも外見に優れたおまえに言われると頭痛を覚えるな」って、兄貴。「おまえは生まれついての最強だよ、イクミ」
「いや、そういう話やなくてやな」訴えるようにして、オレは言う。「オレはつねにおたくら二人の関係、感情を慮ってるって言いたいわけや」
「じゃあ、とっとと抱けと言いたいんだが?」っちゅう率直なアンナさん。「狂おしいほどの性欲だ。私はとっとと抱かれたいんだ」
ぶっちゃけトークすぎるぞ、アンナさん。
それを受けて兄貴は――。
「性欲を満たしたいだけならそれほど難しいとは思わないが。ああ、そうだ。下半身さえしっかりしていれば用は足すだろうさ」
「ああ、そうか、そんなふうに捉えるのか、だったら私からシャルに物申す。誰でもいいってわけじゃあないんだよ」
「だが、初めての折はつまらん相手だったはずだ」
「それはおまえにも言えることだと思うんだが?」
「馬鹿を言え。俺はいつだって熟慮の結果として行動している」
高慢にもそないなふうに答えやったシャル兄。
どこまで真面目に応対してるんか、なにせ兄貴のことやさかいそのへんは窺い知れへんねんけど――。
「給料は私のほうが上だろう。社会的な立場だってそうかもしれない」アンナさんが言う。「が、惚れたほうの弱味だな。私はこの野郎以上の男を知らないんだ」
ホンマにそうやとするんなら、女性として、恋人同士になりたいって気持ちにも嘘はないんやろう。
「せやからさ、いっそのこと、兄貴も刑事になったら?」
「イクミ、おまえって奴はしつこいことこの上ないな」
「せやけどさシャル兄、兄貴ならできる思うで?」
「できるできないの話じゃない」
「アンナさんと一緒に仕事したいとか思わへんのん?」
思わないなって兄貴は答えて。
それから「おまえはIT土方を馬鹿にしているのか?」とキツく問い質されて。
「そんなわけないやん」心外さに、オレは眉寄せた。
「だったらもう黙っていろ」って。「言っただろう? 熟れるには時間がかかる関係もある、と」
「熟れるとか、まったく、ワインみたいな話やな」
「そのとおりだ。味の複製が難しいのがワインだ。ゆえに時間の経過とともに価値が増す」
なんやようわからへん話になってきた。
「なあシャル、私は分厚いステーキが食べたいんだが?」って、アンナさん。「それはそうと、割り勘かね?」
「奢るさ。俺は男だからな」
そんな兄貴の言葉を聞いて、アンナさんは穏やかに笑みやった。
「床に這いつくばらなきゃな業務なんて放棄してしまったらどうだ? それこそ私と警察官をやろうじゃないか。口利きくらい任せろよ」
「アンナ女史、刑事とはそこまで簡単な職業なのか?」
「そうは言わないけどさ」
「今の仕事に飽きたら相談させてもらう」
その後、兄貴は店でいっとうデカいステーキを四人分頼みやった。
もちろん、四人とも問題なく一息にたいらげて――。
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食事を終えて、表に出た。
勘定を簡単に済ませるあたり、兄貴の稼ぎってわからへんな。
自分では「それなりだ」くらいしか言わへんけど、じつは結構もろてんのちゃうんかな。
JR蒲田駅に向かうんや。
前を行くのはシャル兄とアンナさん。
そのうち、アンナさんはしなだれかかるようにして、シャル兄に身体を寄せた。
その様子を見てアキラっちはなんや恥ずかしくなってしもたみたいで、「ひゃあぁ」言うて両手で顔を覆いやった。
「私が男に身体預けてるって、同僚が見たらびっくらこくだろうな」
「びっくらこくって、アンナ女史、おまえは――」
「女史呼ばわりされるのは飽きたなぁ」
オレは思うところがあって、アキラっちの左肩に左手を回した。
いきなりやさかいビックリしたんやろう、アキラっちは「ひゃっ」って短い悲鳴上げやった。
オレはアキラっちの左肩を左手で抱いたまま――二人揃って――くるって身ぃ翻した。
「なな、なんだよ、イクミ。見送りしなくていいのかよ?」
「オレらが後ろ歩いてたら邪魔になりかねへんやろぉ」
「邪魔? どうして邪魔なんだ?」
「天然さ、ここに極まれり」
「ま、まあ、こちとら天然だけど?」
帰ろうや。
そない言うて、オレはアキラっちと帰路につく。
いっそアンナさんのこと、兄貴はメチャクチャにしたったらええって思うんやけど、それはないやろうなぁ。
兄貴はシャル兄は、真面目すぎる。
いっつも自問自答して、その結果として、異性との関係を極力断とうとしてる。
自分に自信がないとか、そういう話でもあらへん。
うーん、ただ、要はめんどくさいんかなぁ……。
――って思わされる、今日この頃。
「馬鹿だよ、シャル兄は。フィジカルもメンタルも、アンナさん以上の女なんていないじゃんかよ」
アキラっちよ、オレもつくづく、そない思うぞ。
頑固な兄貴やけど、彼にもいつの日か尊い祝福が訪れんことを祈って――。