沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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冬の日の冷える夜、兄貴にいつもの蒲田のバーボンロードのせっまい薩摩料理屋に呼び出された、「アキラ嬢は伴ってくるな」って言われた。
なんやヘヴィな雰囲気がするっちゅうか、きな臭いなぁ。
そない思いつつ、オレは当該を訪れた。
三人で座れるなんちゅう気の利いたテーブル席はない。
「オレら」はカウンター席に三人、並んで座ったわけや。
オレの右隣りには兄貴の姿があって、その向こうには太っちょの、明らかぁにアメリカ人のメガネかけたオッサンがおる。
ホンマ、ヤバいくらいにアメリカ人や、寡黙なくせになんとも言えへん押し出しの強さを孕んでて、せやさかいやっぱアメリカ人やって断言できる。
メガネのアメリカ人は、「おやおや、シャルの弟は鼻が利くし、そのうえ勘までいいようだ」とか流暢な日本語で話しやった。
シャル?
そない呼び捨てにできるくらいに深い仲なんか?
そうやのうてもや、シャル兄、そも、そのアメリカ野郎は誰なんや?
オレとアメリカ人オッサンとの間に座ってるシャル兄は今日に限って、あんま、悪戯っぽいところは見せへん。
むしろなんちゅうか、兄貴たる「彼」から窺えるんは真面目なニュアンスばっかりや。
「イクミ、紹介しよう。俺のの隣の人物はジョン・シアーズという」
「ジョンさんは何者なん?」
「CIAのアジア担当課長だ。偉いんだよ」
CIA?
アジア担当課長?
偉い?
――そないな得体の知れへんニンゲンが、この国にいったいなんの用なん?
重ねて――そないな得体の知れへんニンゲンと兄貴とがなんで知り合いなんかはこの際問わへん。
ただ、明らかに特殊な肩書きをお持ちのジョン・シアーズさんがなんでこの国におるんかは、じゃっかん、興味がある。
「うまいな、シャル。ここの『ショウチュウ』はサイコーだ。高価なんだろう?」
ジョン・シアーズさん、まるで兄貴のことを古くからの友人みたいに扱いやる。
兄貴は兄貴で、「喜んでいただけたならなによりだ」っておべっかみたいなこと言いやった。
なあ、兄貴。
ここは兄貴のとっておきの店――秘密基地のはずやろう?
そないなところにようわからんアメリカ野郎連れてくるとか、いったいどういうつもりなんや?
そのへんの事情についてオレは不満げな表情浮かべてたんやろう。
兄貴にしては珍しく、とりなすようにして、「まあそう怖い顔をするな」とか言うてきた。
あいにくと、いや、きっちりとした老舗やさかい、ゆえにコークハイなんてジャンキーなもんは置いてへん、オシャレなラムコークをひっかけるわけや、ええんやけどなラムコーク、そもそもラムが好きやさかい。じつはコークハイと同じくらいの頻度でオーダーしてるってわけや。
そのせいで不機嫌になるなんてことはないんやけど、ともあれとにかく、なんや、ジョンさんは気味が悪い。
「ミスター・ジョン、CIAくらいはオレも聞いたことがあんぞ。で、アジア担当課長やっていうんなら、そのへんの役割についても察しくらいはつく。せやけどつまるところ、オレらん国になんの用事なん? そもはアンナさん――葛葉アンナ刑事に話通したんやろ? その結果としてシャル兄におうて、でもってオレにまでおうてる。想像するんは自由やし簡単や。いくらでも巡らすことができる。せやけどオレは、正解を、とっとと聞かせてもらいたいなって考えてる」
ジョンが「シャル、席を代わってもらえないか?」とか言いやった。
シャル兄が「断る」言うたさかい、結局のところ、オレとジョンは兄貴を挟んで会話する。
「私の考えを言っておこうか」ジョンがそない前置きして「貴国は従順であればいい。突飛な存在の出現などまるで必要がない」とか言い切りやった。
明らかに怒らせようとしてるやろう?
一応ニッポン人たるオレは、そないなふうにおもた。
「とはいえや、っちゅうことは最近になって、おたくらを慌てさせるようなニンゲンが、我がニッポンに現れたっちゅうことなんか?」
「そのとおりさ、ミスター・イクミ。私はそれが今の日米の勢力図を揺るがせにしかねないと危惧している」
CIAのお偉いさんなんやろう?
どないなふうに勘繰ったかて、アメリカの存在を危ぶむに至るような事象なんて生じうるはずがない思うんやが?
「私はね、暇なんだよ、弟君。CIAだからといって、アジア担当の要職なんて閑職でしかないのだよ」
「せやったらとっとと帰国しろや、はてしなくうっとうしいなぁ」オレは露骨に顔を歪めた。「右でも左でもないオレは、せやからこそ、アメリカさんのことが好きやないんやぞ」
「いいな、きみはじつにいいぞ、弟君」シアーズさんの妙に滑らかな日本語には少なからず腹立ちを覚える。「当該国家はニッポンは、かねてより『スパイ天国』などと罵られているが、そう言われているうちは大丈夫なものだ。――が、裏を返せばそうであるがゆえに、気づいたときにはもはや手遅れだとも言えなくもない」
なんや、イライラしてきた。
オレは「真剣にマジなとこを打ち明けろ」言うてんのに、いちいちひらひらかわすような物言いしやるさかい。
「イクミは正しいし、面白い。さすがはシャルの弟だ」
しつこいさかい、いっそう、ムカッときた。
いくらアジアに詳しいアメリカ人やいうたかて、おまえが兄貴の何を知ってんねんな、オレのことかてよう知らんやろう?
イライラする。
メッチャ、イライラする。
オレは席ぃ立った。
ジョンの右肩掴み上げて無理やり立たせたろうって、した。
それはシャル兄に防がれた、「おまえは紳士だろう? 無礼な真似はいっさいするな」――言われた。
ジョンはオレのほうを見上げて、これでもかいうくらいにこやかに笑いやった。
「バーガーを食べようじゃないか。ニッポンのそれが世界レベルにあることくらいは私も知っている」
ホンマ、笑顔でそない言えるあたり、けっして与しやすしの人物やないなって思わされた。
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アキラっちが実家の弁当屋のバイトで忙しいことは、この寒い最中にあって、助かることって言えた。
兄貴がわざわざオレんち訪ねてきて、それから今日もやっぱ――せやけど今日は蒲田のステーキハウスで――アンナさんと引き合わされた。
「ようわからへん。どういうことやねんな、アンナさん」って、オレはテーブル挟んで向こうにいる彼女に訊いた。
アンナさんはいつになく真面目な顔してて、いつもならそないしておかしくないんやけど、甘えるようにシャル兄に身体寄せることもせーへん。
「私はおまえにとってどういう女なのかね、イクミ」
アンナさんにそないなふうに問いかけられて、せやさかいオレは正直に「唯一無二、いっとうの刑事さんやよ」って答えたんや。
「ジョン・シアーズ氏については?」
「せやから、会うくらいはしたんやってば」
「只者ではない感じ、だっただろう?」
「そないおもたからめんどくさいな、って。いったいどういうことやねんな?」
「私としても驚いている。なにせCIAのお偉いさんなんだ。蒲田くんだりになんの興味がっていう話なんだよ」
「せやったら関わらせんなや。あないな得体の知れへんオッサンが地元にいるとか、気色悪いことでしかあらへんぞ」
まあ、そう言うな。
とりなすようにそない入ってきたんはシャル兄やった。
「せやけどな、兄貴――」
「言いたいことはわかるし、気持ちもわかる。だが、アンナにはなんの責任もない」
アンナって呼び捨てにした点に、そこに深い愛情を知るに至った。
「――まあ、ええわ」いや、なんもようないんやけど。「んで? もっかい訊いたんぞ。ジョン・シアーズは東の果てのこの土地について、いったい何を見てやるんさ?」
左の斜向かいのシャル兄が日本酒のおちょこを傾けやった、「俺から話そう」とか言いやったんやけど、それをアンナさんが「いい。私から話す」って遮りやった。どっちからでもええ。とりあえず、わかりやすいかたちで状況を説明してもらいたい。
ここはステーキハウスだ、肉を食べよう。
兄貴は宣言するようにそない述べると、デカい肉を三枚、オーダーしやった。
「おまえは私の弟だよ、イクミ、肉親より強い絆だと考えている」
「そないなエクスキューズは要らへんねんってば、アンナさん、つまるところ、何が言いたいんさ?」
「肉を待とう」
「待たへん。話せや」
おもくそ偉そうな口を利いたつもりや。
せやけど気を害したようなところもなく、そしたらアンナさんは呟くようにして、「キタガワ・ホマレ」って、オレが知ってる名前を吐きやった。
「知っているよな、弟君。キタガワのことを、おまえは」
「アンナさんのことや。それって確信したうえでの問い掛けやろ?」
「『クロガネのツバサ』を持つ化物の名だ、キタガワ・ホマレというのは」
たしかに黒い翼は持ってる。
せやけどはたして化物なんかね?
「ジョン・シアーズがなんで彼女に興味持ったんか、深いところを知りたいな」
「噂がほんとうだとするなら、キタガワ・ホマレは奇跡のような殺し屋だ。そうとなれば、なにせ暇なアメリカ野郎の目に留まってもおかしくはない。現状が示しているとおり、ホマレは殺しの道具として、非常に有用だと言えるんだからな」
あ、そう。
ああ、そうか。
案外や、案外、あんたはしょうもないこと言いやるんやな、ゲンメツしたわ、アンナさん。
実際にその旨、口にしたったうえで、「せやけどオレも詳しいところは知らんねんわ」って正直に打ち明けた。
「ほんとうに?」
キツい目、口調。
叩き上げの刑事の威厳、迫力が、そこにはあった。
「嫌やね、オレは」言い切ったる。「アンナさんとかシャル兄にとっては残念で、アンタらにはケンカ売るようなことかもしれへんけど、仮にオレがホマレさんと仲良うしてるっちゅうんなら――」
「絶対に、彼女のことは教えない、と?」
「兄貴ぃ、それって悪いことかぁ?」
見上げた根性だ。
ステーキ肉をもぐもぐ頬張りながら、アンナさん。
「もとより私たちに発言権はないんだよ、弟氏。相手はアメリカなんだからな」
「なによりそれが気色悪い言うてんねん」
「『リメンバー・パールハーバー』は彼らにとって絶対の合言葉だろう?」
「アホ抜かせ。ズレてんぞ。いいかげん空気読めって話や」
アンナさんいわく、「すでに腕利きが入国している」ってことやった。
「これやからちょくちょくニッポンっちゅうこの国が嫌になるんや」不躾に、オレは言う。「自治権認められた国家なんやろう? でもって法治国家なんやぞ」
「それは違わないが、あえてそう反論したところで意味がない」
アンナさんらしからぬしょうもない発言に思えてしかたないさかい、文句言おうとした。
兄貴は「やめておけ」って窘め口調やったけど、オレの気持ちの深淵は汲んでくれてるみたいやった。
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「その存在」をまったく知らへんかったら、オレは冬空に「彼女」のことを見つけたりはできへんかったんやろう。
夜空に舞う黒い翼を上空に認めたもんやから、オレは嬉しくなって、おもいきり「ホマレさぁぁんっ!!」って呼びかけた。
周りの、具体的に言うと気のええ大人どもはビックリしたに違いないんやけど、ホマレさん――誉さんはオレの目の前に舞い下りてくれた。
「イクミくんじゃない、どうしたの?」
笑いかけてくれた誉さんのこと見て、オレは泣きそうになった。
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「流行り」に乗っかるみたいに言うと、蒲田のサンロードにある「スーパーの裏」で、ミニスカな誉さんと「ヤニ」、吸ってる。
オレは最近身の回りで起きたヒトとの出会いについて、正直に打ち明けた。
そったらや、誉さんはきょとんと目ぇおっきくして、それから「そうなの?」っちゅうて、色っぽく艶っぽく、ふぅぅって紫煙、くゆらしやった。
「オレとしては逃げてほしいな。オレ、誉さんのこと、メッチャ好きやさかい」
「逃げる? どうして逃げなくちゃいけないの?」
「いや、だってそれは――」
「手練れを送り込んでるって?」
「ああ、そない言うたな」
「その手練れとやらが、私を殺せると思う?」
「そうは言うてへん。ただ――」
「やっぱり心配だから、って?」
そうや、そのとおり。
ぐうの音も出ーへんほどの真実や。
「気になりはする。自分の意志で、しかも自分の国で、私は罪人を殺して回ってるってだけなんだから」
「そうやよ。誉さんはべつに、アメリカにとっての悪やないはずや」
「でも、興味深いってことなんでしょうね」
「殺しの手札としてはサイコーなんやろ」
「ふぅん。きみはそれを認めるんだ?」
うん。
それは認める。
――っちゅうたかて。
「誰にも渡さへんけどね、誉さんこと」
「きみのそのわがままさはかわいくはあるんだけど、あるいはそれってどの方面にも敵しか生まない」
煙草がおいしい。
誉さんはそない言うと、「また会おうね」っちゅうて、翼をはためかせ、飛び去った。
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オレのケータイの番号、教えやったんは兄貴か? あるいはアンナさんなんか?
とにかくオレはジョン・シアーズに呼び出されて、JR蒲田駅直結のスタバで彼と会うてた。
どういうつもりかはわからへんけど、シアーズさんがオレにご執心らしいことは知れた。
「きみがだ、イクミ、昨晩、北川誉と会っていたということは伝え聞いているのだよ」
そんなん言われたところで、べつに今さら驚かへん。
「せやから、なんやって?」
「知らないのかね、きみは。昨日もニッポン男児とやらが三人ほど殺された。死体の特徴は、どれも似たようなものだ」
「頭のてっぺんからつまさきまでなます切りやったんやろう?」
「ああ、そうだ。通常の刃物ではありえない。ゆえに北川誉以外には考えられない」
「べつにええって思うけどなぁ。どうせその三人はしょうもない男やったんやろう?」
「だからといって、自由的な殺人を許していいという法はない」
「オレはその限りやない言うてるんやよ。いくら親がいようと、きょうだいがいようと、殺されてもしょうがないってのは一定数、いる」
頭でっかちのくそったれめ。
いきなりシアーズさんは、オレにそないな憎まれ口利きやった。
せやけどそんなん、オレは気にも留めへん。
「誉さんこと、売るつもりはない言うたやろ?」
「じつのところ、きみの意向は関係がない」
「ほったら誉さんと一緒にオレんことも敵に回してみろや。ただじゃ死なへんぞ。せいぜい楽しい思いさせたるわ」
「北川誉がきみにとってなんだというのか、きみにだって、恋人くらいはいるだろう?」
「シアーズさん、それは一種の脅しかぁ?」
「そう受け取ってもらってもかまわない」
ほな残念や。
オレはあんたんこと、ここで始末せなあかん。
オレがそないに吐いて捨てると、「いや、今はやめておこう」って、シアーズさん――。
「ただ、私をナメることは推奨できない。なにせ私の会社はアメリカそのものなのだから」
「じゅうぶん、怖いおもてるよ。せやけど、やらなあかんくなったらやるっちゅう話や」
シアーズさんは席を立った。
「きみと会えて良かった。くだらないとしか言えない極東の小国に興味を持つことができたよ、ありがとう」
いつかぶち殺したらなあかん手合いなんかもしれへん。
せやけど、まるっきり、仲良うなれへん相手やとも言えへんな――直感的に、そないなふうに思った。
シアーズさんと別れてまもなくして、オレのスマホが唸りあげやった、通話のサイン――シャル兄やった。
「ジョン・シアーズ氏は、なんと?」
そない言うあたり、兄貴はオレと「彼」んことをどっかからか見張ってたんやろう。
それができるんはスゲーって思うんやけど、そんなんしてる暇あるんやったら真面目に仕事してろよなぁ、って。
「アンナさんとは? もう話ついてんのん?」
「彼女は彼女で、北川誉の捕縛については否定的な立場だった」
「それって要は誉さんが正義の味方やからやろう?」
「だからその旨、否定はしない」
今しがた姿を消したばかりのシアーズ殿の顔を思い出すと、むかっ腹が立った。
「アメリカは正しいん? 全部全部、正しいん?」
「そうは言わない――というか、言えないさ。彼らだって誤ることくらいはある」
「オレは誉さんこと、間違っても売らへんさかいな」
「それでいいと言っている」
次は利害関係なしで会おう。
シャル兄のそれって、弟に向ける言葉やないよな。
せやけど深い愛情は感じる。
シャル兄は間違いなく、オレんこと、大事に思ってくれてる。
今回はちょい、イレギュラーなケースやった。
まさかオレみたいな高校生ごときの人生において、「CIA」とかいう剣呑な単語が飛び交うことになろうとは――。