※この作品はR-18です。

沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~   作:XI_01

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86.スカイアイ

*****

 

 JR蒲田駅西口のバー、「ストレイシープ」――。

 

 薄暗い店内、オレはテーブル挟んで今夜もスーツ姿のシャル兄と向かい合ってる

 

「アキラっちは連れてくるなって、どういうことなんさ? なんやヤバい案件なん?」

「俺たちと一緒に犯人を追いかけてみないかという話ではある」

 

 兄貴は日本酒のとっくりを傾けて、おちょこを口にした。

 

「ヤバいんちゃうん?」

「ああ。だからアキラ嬢は連れてくるなと言った」

「日常は楽しんでる。金にも困ってへん」

「だったら退くかね? 我が弟よ」

 

 なんとも芝居がかった言い方や。

 笑いが込み上げてきて、先んじて兄貴が笑いやったから、さすがのオレも素直にくすくすしてしもた。

 

「葛葉女史がな、おまえを刑事にしたいそうなんだよ。その修行みたいなものだな、今回の一件は」

「いきなりめっちゃ迷惑な話や」

「刑事はいい。楽しそうじゃあないか」

「ほなら兄貴も、今の商売は畳んだったら?」

「そのへん、真剣に考えているよ」

「ほえぇ」

 

 冗談で言うたのに、本気なんかぁ。

 

「せやけどやっぱ対価はほしいな。タダ働きはごめんやよ」

「あいにくと、ターゲットは賞金首だ」

「賞金首?」

「内々の話ではあるがな」

 

 警察が賞金を?

 そない訊いた。

 

「そういうケースもあるんだよ。興味深い話じゃないか」

「金額は?」

「それは捕まえてからのお楽しみだと言っておこう」

「ケチくさいなぁ」

「内々と言っただろう? 大っぴらにするわけにもいかないんだよ」

 

 なぁる。

 理解した。

 

「デッド。オア・アライブなん?」

「勘がいい弟でじつに嬉しい。そのとおりだ」

 

 なんとまあ剣呑な警察か。

 それくらいのっぴきならへん相手なんかもしれへんけど。

 

「何やらかしたんさ、そいつ」

「高価な麻薬をたらふく抱えて逃げを打った」

「麻薬? ダウナーなやつ? それともアッパー系?」

「それはどうだっていいと考えるが、まあいい、教えてやろう。どちらでもない」

「んにゃ? どういうこと?」

 

 兄貴いわく、「目に効くんだよ」――。

 

「目ぇ?」

「ああ。ブツの名は『スカイアイ』。点眼すれば、事象がえらくゆっくりと見えるようになるらしい」

「ゆっくりとは、たとえば?」

「銃弾もかわせるらしい」

「そりゃスゲー」

「ああ、スゴいだろう?」

 

 べつに兄貴は深刻そうな顔はしてへん。

 せやけど悪意を持ったニンゲンが「それ」を手にしたっちゅうんなら……。

 

 ――とはいえ。

 

「犯人は高く売ろうってんで持ち逃げしたんやろう?」

「まあそうなんだが――」

「何か問題が?」

「売れないんだよ、それは。闇ルートに流すしかないんだが、そんなところ、ヤクザどもはとっくに押さえてる」

 

 だとすると……。

 

「不幸やなぁ。そいつ、もう死ぬしかないやん」

「だが、アンナ女史におまえ、あるいはオレが見つけだすことができたら、話は違ってくるだろう?」

 

 驚いた。

 シャル兄、あんたは博愛主義者やったんか。

 

「まあ、おのおのそれなりにがんばろうという話でしかない。誰より先にエンカウントできれば幸いだということだ」

 

 一つ訊きたい。

 オレはそないなふうに言うて。

 

「その、言ってみれば『スカイアイ』さん? 恋人とかはおらへんのん?」

「いい質問だ。オレがおまえでも、同じように訊ねる」

「おほめにあずかり光栄です。で、どうなん?」

「風俗嬢をやってるらしい。狭いコミュニティでのことでしかないが、『美人の売れっ子』、だそうだ」

「その情報は、アンナさんから?」

「いや、オレが個人的に調べた」

 

 ほならたぶん、今んとこその情報は兄貴とオレしか知らへんねんやろう。

 兄貴の嗅覚は、時に警察にも勝るに違いないんやから。

 

「手の内明かすってことは、兄貴はやっぱ――」

「ああ、オレはそれなりに忙しい。明日は先方にて小さなルーターとスイッチを納入予定だ」

「ちっこい仕事なんてやめてしまえや」

 

 生真面目な兄貴は「煙草銭くらいにはなるからな」って怒りもせーへんかった。

 

「わかったよ、わこた。その売れっ子の風俗嬢のこと、教えたってぇや。いくらかはろたほうがええ?」

「以降は考えるが、今回についてはタダでいいさ。まあがんばれとだけ言っておこう」

 

 兄貴から情報を獲得――。

 

「これから行くのか? 売れっ子だと言った」

「そないな話やさかい、今夜は無理かな、って。せやけど電話はしてみるわ。アポはとりたい」

「ここからは競争だ」兄貴は妖しく、目ぇ細めた。「警察だってアンナ女史だって優秀には違いないが、血を分けた俺の弟はそれ以上だと、なかば確信している」

「かいかぶりすぎや」

「事が片付いたらまたここで飲もう。また俺が奢ってやる」

 

 そいつぁどうも。

 オレは席立って、ひらひら右手振りながら、その場を後にした。

 

 ――店外に出たところで、スマホ使ってくだんの電話番号にかけた。

 おっさんの声、『はいはい、いらっしゃいませ、こちら『女神の憂鬱』でございます』とか――。

 

 女神の憂鬱?

 ダサいようで……ああ、なんや、センス感じるやないか。

 

 オレは目的のキャストの名を告げた、「ヴィクトリアさんを指名したいんやけど」って。

 そったら、『あっちゃぁぁぁ、あいにくヴィクトリアさんは今日はいっぱいで』――。

 

 せやさかい、それくらいは予想してた。

 次はいつ空くんやって話や。

 

『明日の午前中であれば時間がございます』

 

 午前中から働いてるんかいな。

 まったく頭が下がるなぁ。

 

「午後はあかんのん? 16時以降がええな」

『でしたら、16時きっかりにおとりします。それでよろしいですか?』

「かめへん、頼むわ」

『ご対応させていただきます。お名前をお伺いしても?』

「俺はイクミや」

『ファーストネームのみとは豪気ですね』

「そういうもん?」

 

 そうでもありませんけれど。

 

「金は、その場で置けばええ?」

『はい。ヴィクトリアにお支払いください』

「楽しみにしてる」

『申しつけておきます』

 

 

*****

 

 おうたんはJR蒲田駅の東口から五分ほど歩いた先のラブホやった。

 近所にはキャバレーやらショーハウスやらがあって――昭和の匂いが漂うなんとも愛おしいに違いない界隈や。

 

 ヴィクトリアさんは美人やった。

 エロいとか綺麗やとかそういう一般的な評価が追いつかへんくらい、潔く生きてそうな、気持ちのええ笑顔をする女性やった――それでいて正反対の妙な影もあった。

 

「若いのね、イクミくんは。じゃぶじゃぶにしゃぶってさしあげればいい? それともさっさと跨ってあげようかしら」

 

 ビジネスライクな点もポイントが高い。

 せやけどこちとら、そういうんが目的ではのうてやな――。

 

「ヴィクトリアさんでええ?」オレはベッドの端に腰掛けた。

「ええ。だって私はヴィクトリアだもの」彼女は彼女でオレの隣に座った。

 

 首筋に舌ぁ這わせて、それから下腹部――オレの股間を左手で探ってきやる。

 

「すごく大きいのね。早くしましょう?」

「あいにく、そういうんやないんやわ」オレはぐいって、ヴィクトリアさんのことを押し返した。

 

 ヴィクトリアさんは眉根を寄せて――。

 

「いったい、どういうこと?」

「そのデカい胸、触ってええ?」

「ダメ。先を話してくれたら考えるけど」

 

 オレは素直に、「ゴーダ・ツルサキっちゅう男を追ってる」って打ち明けた。

 

 途端、ヴィクトリアさんは目ぇ見開いた。

 どこに隠し持ってたんだが、立ち上がってバッて距離取ると、ちっちゃいナイフを両手で構えて。

 

「じつは高校生くらいでしょう、あなたは」

「いや、まあ、ああ、そのとおり」

「たかが高校生がゴーダになんの用事かしら?」

 

 まあ、たしかにたかがなんやけど。

 

「ゴーダ・ツルサキって、テキトーすぎる名前やよね。あるいは識別さえできればそれでええんかな?」

「答えになっていないわよ?」ヴィクトリアさんは険しい顔。「言いなさい。ゴーダになんの用なの?」

 

 オレは目をぐるぐる宙に泳がせて。

 

「奴さんにゃあ賞金がかかってる。結構な額や」

「まさか、あなたは賞金稼ぎ?」

 

 おぉ、賞金稼ぎなる職業が、この国にもあるんか。

 ――ま、そのへんはどうやかてええとして。

 

「『スカイアイ』、物事がめっちゃスローに見える不世出の目薬や。えっらい高値やって聞いてる」

「答えになっていないわ。ただの男のコにしか見えないけれど、賞金稼ぎなのかって訊いてるの」

「黙秘しまーす。どうやかてええやろ、そのへんは」

「アルビノなのね。気色が悪いまでの美男と言えるわ」

「そりゃどーも」

 

 いいわよ、犯しなさいな。

 ヴィクトリアさんは前触れなくそないに言うて。

 

「でもその陰茎、くわえたが最後、噛み切ってやるわ」

 

 まったく、恐ろしいことを平然と言ってくれやる。

 

「まずはお互い大人しく話しようや。得物なんて捨ててさ」

「だったらあなたがすべてを捨てて。ゴーダの敵じゃないって証明してみせて」

 

 しゃーない。

 

 オレも身体を縦にすると、まず上半身裸になった。

 次に下半身もっておもて、ズボンに手ぇかける。

 

 そったらヴィクトリアさんは、「もういい、わかったわ」――。

 

「あんたのカレシに興味はあるけど、なにも無理くり捕まえたろうとか、そういうわけでもないんやよ」

「ええ、そうみたいね。だからこそ興味が湧いたとしかいいようがないんだけど」

「座ってや」

「わかったわ」

 

 隣にヴィクトリアさんは腰掛けて。

 

「早速本題やけど、ヴィクトリアさんとしては、ゴーダんこと、今のままでええのん?」

「良くはないわ。だけど、彼ってわがままだから」

「許してたら、なあんもええほうには向かわへんやろ」

「そんな一般論はどうだっていいの」

「一般論とか。――で?」

「私たちは勝てる」

「勝てる?」

 

 どういうこっちゃって訊ねた。

 

「『スカイアイ』は無敵だから。なんだってかわすことができる」

「弾が見えるいうたかて、全部そないに避けられるもんなん?」

「そういう意味で言うと、ゴーダは運動神経も群を抜いているわ」

「それでもオレは、負ける気はせーへんなぁ」

「生意気ね。どうしてそんなことが言えるのかしら?」

「言葉で説明するんは難しい。ま、やってみた時が答えやろ」

 

 唐突に、や。

 ヴィクトリアさんはオレの制服の腰のベルトを緩めやった。

 ズボンずらして中から「モノ」ぉ取り出して、勃起してるそれに頬寄せて、「好きなだけしてあげる」――。

 その物言いには切実そうなところが散見されて――。

 

 オレはヴィクトリアさんのちっこい頭ぁ撫でてやりながら――。

 

「まあ、あんたがゴーダさんのこと大切におもてるんはわかったけどさ」

「ゴーダがあなたみたいな子どもに負けるだなんて思わない。でも、万が一のことって、きっとあるだろうから」

「オレが嗅ぎつけてるってことは、オレより『できるニンゲン』も知ってるってことやよ。残念やけど、あんたらに未来はない」

 

 ヴィクトリアさんはあらためて立ち上がると、オレの目をこれでもかっていうくらい見つめてきた。

 

 「勝負をしましょう」――そない言うて。

 

「勝負?」

「ええ。あなたとゴーダの勝負よ。ゴーダが勝ったら見逃して。ヨーロッパにでも飛ぶわ」

「『スカイアイ』の有用性は説かれたつもりやけど、そんなゴーダさんとケリつけろっちゅうわけか」

「ダメかしら?」

「うんにゃ、ええよ」

 

 軽々しく受けるのね。

 ヴィクトリアさんはなんや、ちょい悔しそう。

 

「どこでやるって伝えればいい?」

「すぐにやりたいさかい、ここらがええわ」

 

 あなたは絶対に、ゴーダには勝てないわ。

 

 せやからそれって祈りであり、願いでしかないやろう?

 ええ結果につながるとは、とてもやないけど言えへんな。

 

 

*****

 

 先達てのJR蒲田東口近くの風俗店街――「街」言うんはおこがましいな、ホンマ寂れた一角やさかい。

 

 車が一台通れるくらいの路地――直線道路にあって、今、ゴーダくんと向き合ってる。

 ゴーダくんはスキンヘッドや、いかにも反社っぽい――っちゅうたら、それはそれでなんや反社のヒトに失礼やろうか。

 

 寒い最中にあって、ゴーダくんはグレーのタートルネックのセーターにカーキ色のトレンチコート姿。

 のっぽやさかい見映えがするし、はっきり言って、カッコええ。

 

 オレとのあいだは二十メートルくらいはあるやろう。

 

 オレは兄貴から寄越された9ミリのパラベラムを撃てる銀色のリボルバーの銃口を、おもむろに、ゴーダくんに向けた。

 

「銃弾すら避けれるって聞かされたんや、『スカイアイ』って、そうなんやろ? せやったら頼むわ、めっちゃ避けてみせたってくれや」

 

 挑発するようにして、オレは言うた。

 

 そのとき、初めて気がついた。

 ゴーダくんの瞳の色が空色であるっちゅうことに。

 

 一発撃って、二ぃ三って連発した。

 向かってきながら避けやる、すげーな、マジで見えてるんか。

 

 オレは明後日の方向に鉄砲を放り投げた。

 ゴーダくんはそのさまを目で追って――その瞬間、わかった。

 

 ああ、「スカイアイ」ってのは、なんにでも興味を示すんやな。

 わかりやすく言えば、身近で起きてる事象についてはなんやかて視線をやってまうんや。

 

 致命的や、それは。

 致命的な隙や、それは。

 

 そやなくたって、どうせ見えてるんやったら、どう攻めたって一緒や。

 

 オレはド正面からゴーダくん目掛けて突進する、飛び蹴り――案の定避けられたわけやけど気にせーへん、二の矢三の矢で突っ込む。

 そのうち、一発がゴーダくんの顔面を捉えた、かわいそうにな、なんでも見えてもなんでもはかわせへん――カメレオンかて無敵やない。

 

 ごめんな?

 痛めつけるつもりはないんやけどさ。

 

 果てはゴーダくんの上に馬乗りになって、どかどかどかどか、両のほっぺを殴りまくる。

 

 案外、簡単やったな。

 どうあれ名うての犯罪者なわけやから、ゴーダくんがおらんくなれば、このへんに平和がもたらされるんやろう。

 

 ――パァンッ!!

 いきなりの銃声――まもなくして、オレの右肩を、後ろから弾丸に違いないもんが舐めた。

 

 このシチュエーションでオレんこと撃ってくれるニンゲンなんて一人しかおらへん。

 

 オレはゴーダくんこと、殴るんをやめへん。

 二、三、また撃たれたんやけど、それ以降はなかった。

 

 ――足音。

 誰かが後ろからゆっくり近づいてくる気配。

 

 その人物はオレの後頭部に銃口を突きつけやった。

 

「ええぞ、ヴィクトリアさん、べつにオレんこと殺したかて」オレは言う。「そりゃ、たまらんわな、しょうもないわな、こないな状況は」

 

 オレのすぐ後ろで、ヴィクトリアさんは嗚咽漏らしてやる。

 苦しそうに喘いで、泣いてやる。

 

 息を吸うと、気ぃ取り直したみたいに――。

 

「私も使ったの、『スカイアイ』。これくらいの状況、かいくぐってみせるわ」

「無理やって証明されたやろ? 見えてたって全部は避けられへんねやよ」

「放して、ゴーダを。お願い、解放して」

 

 オレはゴーダくんの胸倉掴み上げて、それから「もう殺してしもたけど?」っちゅうて、「あはっ! あははははっ!!」って大笑いした。

 

「変人、いえ狂人ね。見損なったわ」

 

 ヴィクトリアさん、今度はオレのおでこに銃口を向けてきやった。

 

「あんたらの負けや。もう手ぇ、引っ込めたほうがええ」

「殺す。おまえだけは」

「おまえ? せやからやなぁっ――」

 

 次の瞬間、一発の銃声が鳴り響いて、眉間から眉間へと貫かれたヴィクトリアさんはどっと横倒しになった、すぐ近くにスナイパーがおったらしい、気ぃつかへんかったな。

 

 オレはいよいよ立ち上がって、それから「ご苦労だな、弟君」っちゅう声のほうを振り向いた。

 闇夜に溶ける黒いスーツ姿のアンナさんの姿があった。

 ワイシャツを不躾に押し上げるデカい胸は今日も健在、黒いタイツにミニスカなんはいったいどういうつもりなんやろう。

 

「話を聞いただけだと正直、骨が折れる手合いだろうと思っていたんだが」

「まさか。アンナさんにかぎって、そりゃないやろ」

「どうあれ助かった。大したものだよ、おまえは」

「二人とも、殺してしもてよかったん?」

「容疑は固まっているからな」

「オレに、尋問とかは?」

「あるはずがない」

 

 ほな、まっすぐ帰るわぁ。

 オレがそない言うと、アンナさんは「明日、奢ってやる。きちんとスケジューリングしろ」――まったく、乱暴な話でしかないなぁ。

 

 

*****

 

 ちょうどアキラっちは今夜はバイト――弁当屋や言うんで、オレは兄貴、それにアンナさんと「ストレイシープ」で会ってた、

 今夜もテーブル席――オレの向かいにはくだんの二人の姿がある。

 

 こうして見ると、アンナさん、髪伸びたな。

 にしたってポニーテールっちゅうかわいげ、アンタはつくづくいったいなんのつもりなんや?

 

「悪かったな、イクミ」言うたんは兄貴や。「ゴーダを殺したと聞いた。おまえにそこまで背負わせるつもりはなかった」

「いんや、べつにええんやわ。オレ的に、ああするしかケリのつけようなかったし」っちゅうて、オレはコークハイを一口――。

「気に病むようなことはしないのか? おまえは潔癖だと思っているんだが?」

「せやさかい兄貴、オレにかぎってそないなことは――」

「アキラ嬢がいるからだ」

「心配無用。オレが人殺しやぁ打ち明けたところで、べつに離れたりせーへんやろ」

 

 それはそのとおりだろう。

 そない言うたんはアンナさんや。

 

「しかし、いいんだぞ? おまえに殺人までやらせるつもりはなかったんだ。償いくらい、いくらでもしようじゃないか」

「せやったら一発ヤらしたってくれや。アンナさんことめちゃくちゃにしたらめちゃくちゃ楽しそうやさかい」

「いいぞと言っている。おまえの攻めに、私は耐え抜いてみせようじゃあないか」

「その心は?」

「決まっている。おまえはシャルの弟だからな」

 

 なるほど――って、オレは思ったとか思わへんかったとか。

 

「とはいえなぁ、結局だぁれも幸せにならへんかった、ああ、ならへんかったよ」

「それはおまえが気にするところじゃあない」

「言うたかてやなアンナさん、オレは誰も不幸にしたないんやわ」

「止むを得ないケースは多分にある。おまえは偉かった。もう一回だ、穴が欲しけりゃ私に言え」

 

 穴が欲しけりゃ。

 うげげげげぇ、それってなんとも下品なセリフやなぁ。

 

「このあとはどうする?」

「アキラっちんとこ行くぅ」

「今回のことはすまなかった」

「せやさかい、ええんやってば。案外しつこいんな、アンナさんは」

 

 終わったことはおわったこと。

 べつに大したことやなかったし、せやったらせやったでもうどうやかてええ。

 

 オレはこれからも、前を向いて生きてゆく。

 

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