沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
*****
その日も寒い冬の日やったわけやけど――。
何があったっちゅうことでもない、せやけどなんやかんやで心がささくれだってるんかなぁ。
アキラっちんことも乱暴に抱いてたし、なんとなぁく世の中おもんないなぁって捉えてた。
そないな最中にあって神社に出向いたんは、アキラっちに指摘されたからや
何を言われたかって、「おまえ、最近死人みたいな顔してるぞ?」――。
おもちゃを扱うみたいな雑なセックスになってたことを詫びると、「それはそれで良かったよ」って照れくさそうに「えへへ」ってわろてみせた。
アルビノ男子のオレは内面かて変わってるんや思うけど、そないなオレについてアキラっちはもはやきちっと耐性があるらしい。
さて、神社や、神社――これから毎年六月には必ず訪れるやろう六郷神社――だってお祭があるからや。
第一京浜沿いから入るまっすぐな道は太くない。
そのうち本殿に至った。
そったらやデカい鈴の下――階段に、何やら怪しげ、妖しげとも言うか――男とも女とも判別がつかへん琥珀色の髪した人物が座ってた。
右膝の上に頬杖ついて、うとうと眠そうにしてやる。
奴さんはやっぱり眠そうに目ぇ、開けやった。
ホンマに眠そうに「おぉ、きみは誰だい?」――。
高くもなく、かと言って低くもない、中性的な声やった。
「美人さんやね。あるいは美青年かもしれへんけど」
「どうでもいいよね、そんなこと」
「そうなんやけど、名前くらいは知りたいな」
「礼儀として、きみから明かすべきだ」
「失礼しました」オレはぺこりと頭ぁ下げた。「こちとら犀川といいます。犀川イクミですよってに」
「綺麗な名前の男のコだね」
僕はシノブだよ。
たぶんきみが想像しうる「忍」さ。
「こないなとこで何してるん?」不思議やったもんやさかい、そう訊ねた。
「ここにいると落ち着くんだ。きっと僕はこの神社と浅からぬ縁があるんだろうね」
まったくようわからへん言い草や。
「犀川イクミくん」
「イクミでええよ」
「だったらイクミくん、きみに僕はどう映る?」
「綺麗に見える。なんで頭の上に猫みたいな耳が生えてるんかはさっぱりやけど」
「猫じゃないんだなぁ、狐なんだなぁ」
「ああ、そうやね。たしかに狐のほうがしっくりくるわ」
なんちゅうか色っぽいなぁ、やっぱ男か女かはわからへんけど。
そのへん、どうだっていいよね?
オレらのあいだで、そないなやりとりがあって。
「おなかがすいたんだ、イクミくん。僕に何か奢ってほしい」
なんちゅう不躾な言い草か。
せやけどオレは当該人物に興味があるし、あいにくと一食ごちそうするくらいの財力はあるもんやから――。
「何が食べたいんや?」
「んー、ハンバーグかなぁ」
ほなら連れてったろう。
JR蒲田駅の東口の近くにぼろいながらもうまい店があるさかい。
*****
猫耳――やのうて狐の耳みたなもんが生えてる忍くんは自らの特異性をきちんと認識してるらしくって、きちんと黒いキャスケットをかぶってやる。
「ぼろい店だねぇ、ほんとうにぼろいなぁ」容赦のない、忍くんの感想、評価。
せやけど、マスターは気にも留めへん様子で客をさばきやる。
ホンマに著しくぼろくて清潔感には欠けるけど、メシのクォリティだけはめっちゃ高いんや。
実際忍くんもデミグラスソースが食欲をそそるでっかいハンバーグを頬張ると、「おいしーっ」言うてにこにこ笑いやったんや。
そのあと近所の名店でつけ麺まで食べた。
忍くんはえっらい細身のくせに、めっちゃ食べるらしいわ。
なんとなくの帰り道。
「僕みたいなのに付き合ってくれて、ほんとうにありがとう」
「なんで卑下すんねんな。オレは面白そうやおもたから付き合ってんぞ」
「面白そうって僕のこと? だとしたら恐縮だなぁ」
ホンマんとこ訊きたいんやけど。
オレはそないなふうに、話振った。
「うん、なんだい?」
「いや、マジで狐の化物なんかな、って」
「いい質問だね」
「実際のところは? どうなん?」
「ヒトはかつて、僕のことを妖狐って呼んだなぁ」
「ほな、やっぱり?」
「そうだね。僕はきっと、ルーツが狐の化物だよ」
きっと長生きしてやるんやろう。
その予測はきっと正しいに違いない。
「言ってみれば妖しげな狐の化身であるわけだけど、僕にだって出番はあってね」
「それは?」
「一年に一度、たくさん来るニンゲンの願いを叶えてあげることさ」
一年に一度。
きっと初詣の折、ってことやろう。
「叶えたるって、忍くんにはそないな力があるん?」
「百パーセントじゃないけれどうまくいったケースもあるみたい」
「へぇ、そりゃ凄いやん、凄いなぁ」
忍くんのおうちに――六郷神社に到着。
やっぱり第一京浜側から、本殿へと進む。
「この神社はけっして広いとは言えないけれど、年に一度のお祭の際はすっごく賑わうよね」
まだ一回しか経験してへんけど、そうであることは知ってるつもりや。
「狐の化身だって言ったけれど、そうである以上、僕はこの神社の守り神みたいなものなのかもしれないね」
「年に一回しか会えへんのん?」
「年に何回も会いたいの?」
「妖狐の友だちは初めてやさかいな」
「そっか。きみは僕のことを友だちと認めてくれるんだね」
「ちょっと抱いてみたくもあるし」
「僕は男のコかもしれないよ?」
本殿――鈴の下に座ってる忍くんはくすくすわろた。
「僕はいつもここにいるから、いつでも会いにくるといいよ。僕のことを観察できるニンゲンは多くはないみたいだけれど」
「えっ、そうなん?」
「うん。ほとんどのヒトに、僕は見えないよ」
ほえぇぇぇ。
そうなんかぁ。
「オレは珍しいんかぁ――っちゅうか、じつは全部全部、オレの錯覚やったりして」
「狐はヒトを化かすのが得意だから、あるいはそうなのかもしれないね」
「忍くんはニンゲンこと好き?
「なんだい、いきなり」
「なあ、好き?」
「全部が好きとは言えないなぁ」
「ほな、オレんことは?」
忍くんは顎に右手をやってから。
「って、考えるまでもないね。きみは素直だし、優しい、おまけに美しいまでの二枚目だ。好きにならない理由がないよ」
その答えが嬉しくって、オレは駆けた、駆け寄った。
忍くんことを立たせて抱き寄せて、「これからもずっとここにおってや。いつやかて会いにくるさかい」――。
「そうだね。また来てもらえると嬉しい」オレん耳元で、囁くように忍くん。「稀有な体験だった。ほんとうにありがとう」
「次はもっとデートしようや。うまいピザ屋が横浜にあってな」
「ピザ?」
「嫌い?」
「ううん。大好きだよ。一度だけ食べたことがある。きみのことくらい大好きさ」
オレは「そっかぁ」言うて、「オレはピザとおんなじくらいかぁ」ってわろた。
こっちこそ、稀有な体験やったな。
絶対にまた会おうな言うて、オレは帰路についたんや。
なんや最近、いくつか嫌に感じるようなことがあったように思うんやけど、今はめっちゃ穏やかで爽やかな気持ちになってた。
せやさかい忍くん、めっちゃありがとう。
きみんおかげで、オレはまた恋人のことをめっちゃ激しく抱けそうやわ。