沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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アキラっちは今日という冬の夜も家業の弁当屋で看板娘をやってやる。
ホンマに寒空。
客がはけたところで、オレは店のカウンターに顔出した。
郵便物があったんや。
そないなふうに、打ち明けた。
アキラっちはというと、カウンターに頬杖つきやった。
「なんだよ。ひょっとして、あたしが怒らないといけないような案件なのか?」
会長からランチに誘われた。
正直にそないなふうに答えた次第や。
「会長? 今は不在だろ?」
「言うてみれば、前会長や」
「ああ、蝶野さんか」
そうや、そのとおり。
「おまえはどうしたいんだ?」
「メシくらいは付き合ったろうっておもてる。社会人になって悩み抱えて、でもってそのへん、打ち明けたいんかもしれへんし」
「マジで仮にそうだとすると、おまえには信用とか信頼とか、そういうもんがあるんだな」
じつのところ、そうなんかなぁ。
オレってけっこうドライなつもりなんやけどなぁ。
「行ってこいよ」
「へっ、ええのん?」
「ダメって言うとでも思ったのかよ」アキラっちはけらけらわろて――。「イクミ、おまえのいいところは隠し事をしないところだ。蝶野さんと会うとか、べつに黙って行けばいいじゃんよ」
「いや、オレ、もはや妻帯者のつもりやし、せやったら――」
「繰り返してやるぞ。行ってこい。おまえはめちゃくちゃイイ男だから、女を救う義務があるんだっ」
――えっと、せやさかい、オレがあんまり異性にかまうとおまえは途端に怒りんぼになるやんか、アキラっちよ。
「最近、考え方を改めたんだ」
そうなん?
「イイ男を繋ぎ止めようとするなら、ある程度は寛容じゃないといけないんだ」
せやから、そうなん?
「ダメダメ言ったら余計にダメになるのが人情ってもんだろ?」
ああ、アキラっち。
おまえは肉体的にもメンタル的にも人間的にも、オレが敬うべきカタチになりつつあるらしい。
「他意なく言うんだけど、いきなりいろいろ抜擢されたわけだろ? 蝶野さんのこと、あたしだってちょっとくらいは心配してるんだ」
「あの年でお天気おねえさんとかニュース読むとか、明らかに異常やさかいな――っちゅう事実が生んだ落とし物について文句を言いたい」
「ああ、そこまで言ってもらえればなんとなく察しがつくぞ。そういうことなんだな?」
せやけどまあ、蝶野さんの身体つきがめちゃエロいもんやさかいそないな噂が流れるわけで。
「なにせキー局だ」
「ああ。そこにある伝統が彼女んこと否定してる」
「それって馬鹿のやることだ。死んじまえばいいのにな」
「そりゃ言いすぎや」
オレは苦笑した。
「せやけどさ、案外、なんともないんかもしれへんで?」
「それもわかる。あの蝶野会長が馬鹿な風になびくとは思えないからな」
「せやったら、オレにはいったい、なんの用事なんやろう」
「それを確かめてこいって言ってるんだ」
そりゃそうや。
ホンマ、最近のアキラっちの思考はサウナ入ったみたいに整ってる。
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待ち合わせは十七時。
先方の「ディナーしたいから」っちゅう理由でその時間で決まった。
確かJR蒲田駅の改札前で待ち合わせやったはずなんやけど。
十七時の出陣を前提とした時間にアラーム合わせてて、それまでは二時間ほど昼寝に費やそうとおもてたんやけど。
何が言いたいんかっちゅうと、昼寝の最中にインターフォンが鳴って、訪ねてきたんは蝶野さんやっちゅうことや。
面食らうとまでは言わへんけど、ウチを訪れるとは思いもせーへんかった。
居所が知られた理由かてどうやかてええ。
一緒にディナーをしないわけにはいかへん。
どうあれ今夜、オレらはこうして会えたんやから。
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どこで何を食べようか?
JR蒲田駅を連絡通路みたいにつこて――その階段東口の階段を下りつつ、蝶野さんにそないなふうに訊かれた。
「最近にあって、お気にのとこがあるんやけど」
「じゃあ決まりだ。そこに行こう」
「せやけど、最近店長が代わったんですよ。代わってしまったと言ってもええ」
「何か問題が?」
「味が落ちたっちゅう話です」
それでもいいです。
なにやらうきうきしてるように見える蝶野さんにとっては、料理の質なんかどうやかてええらしい。
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カウンターは巨大な一枚板。
カウンター席としていくつか設置されてる椅子も一枚板。
雰囲気はええんや、とにかく。
せやけどそうやったとしても、なんらかクォリティが落ちると客足は遠ざかってしまうらしい。
オレはオレ的に突然、ぽーんと、「気に入らへんねやったら別に探しますよー」って言うた。
声が大きいのだ。
蝶野さんはそない言うなり、丸めた右手でオレの頭ぁぽかんって叩いてくれやった。
「何があってもこの店で我慢できるんですかぁ?」
「そういう物言いには一言以上の反論があります」
「それは?」
「日本酒はホンモノだということです」
並んで座ってる左隣の蝶野さんは日本酒を――ちょっとずつながらも――おいしそうにすすってやる。
日本酒を飲み干したところで、今度は一流の焼酎をオーダーして、それをまたすすりやった、「おいしいっ」って語尾跳ねでご機嫌やった。
「本題です、蝶野さん」
「その黒い飲み物っておしいの?」
「ラムコークのことはええとして、で、いったいのところ、オレになんの用事なんですか?」
んふーふ。
そないなふうにいたずらっぽく鼻ぁ鳴らしたんは蝶野さんや。
「枕営業を強いられてるって言って、わかる?」
えっ!
オレは思わずそないなふうに声を上げた。
「えっ、ちょ、まじ?」オレは激しく取り乱す。「おいおいおい、えっ、いくらんなでも嘘やろ? ちゃうんですか?」
そったらや。
蝶野さんは「そんなことないよ」って――。
せやったら、ほぇっ?
「私が急に呼び出したから、犀川くんは私に何かあったんじゃないかって考えた。嬉しいなぁ。涙が出ちゃいそう」
「ホンマに、何かにおいて困ってるっちゅうわけやないんですね?」
「もし困ってるって言ったら、何をしてくれる?」
「任せてください。関係各位をぶち殺します」
カンジちゃった。
両腕で自分を抱きしめると、蝶野さんはぶるるって身を震わせやった。
「蝶野さんの言動はいちいちかわいらしいんや」
そうかもしれないけれど、自分を安売りしたことは一度もない。
むしろ、ヴァージンだったりする。
「ほえぇっ?! そうなん!?」
「馬鹿みたいな声出さないでぇ」会長は朗らかにわろた。「でもそれは事実であって、というか、私は楽しむようなセックスしないんだろうなって思う。馬鹿みたいに忠実に、赤ちゃんを孕んで産み落とすんだ」
「蝶野さんちは名家やって話ですよね? それこそ結構な」
「没落貴族だって言ったつもりだけど?」
つまるところ、なんの相談なのか。
オレはそないなふうに問いかけた。
「だから、タレント? 女子アナ? それは私が望んだことなのに、それほど楽しくないなぁって話。それもこれも私を取り巻く周りが悪いっ!」
「えぇぇっと、オレになんや、できることはある?」
「今、この場がきみにできること。きみに話を聞いてもらってるっていうだけで、ネガティブな感情は溶けていくみたいなのだ」
「そういうことなら、いつかて相手になりますけど」
オレの左の肩に、蝶野さんは右の側頭部をこてん預けてきた。
「ヤバいなぁ、お酒がおいしい。ホント、私はダメ人間なのだ」
「才女やさかい、いろいろ抜擢されてるんやって思いますけど?」
「その旨、もう聞き飽きたのだ」
せやったら、何を言うのが正解なんやろうな。
「このお店、ほんとうに潰れちゃうんですか?」不躾なまでに無作法に、会長はそないなふうに容赦なく訊きやった。
マスターはべつに気分を害した様子もなく、むしろ観念したように「そうなんですよ」――。
そっか、残念だねぇ。
軽口を叩くみたいにして、蝶野さんはそない言うて。
間接照明があるだけやさかい薄暗い。
蝶野会長は唐突に「出よう」と述べて席を立った。
すっくと、気持ちのええ所作やった。
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「へぇぇぇぇ、ここがかの有名なタイヤ公園かぁ」
そう。
雑色名物? あるいは蒲田名物のそこに夜の暗闇にあって、オレらは一緒におる。
アルコールが入ってるせいか蝶野さんはテンションが高い。
築山にまで一気に駆け上がった。
その様子を、オレはブランコ揺らしながら見てた。
「酔っ払いがはっちゃけるとケガしますよー」
「私の運動神経を舐めるでないぞー」
今度は築山を駆けおりやった、蝶野さん。
蝶野さんは特に息を切らすこともないまま、オレの左隣のブランコに腰掛けやったんや。
「ひょっとして犀川くんはさ、私が『番組プロデューサーに抱かれた』みたいな醜聞を期待してる?」
「そんなわけないに決まってるでしょーが。それとも実際、そうなんですか?」
「だから、それを受ければもっと出世は早まるんじゃないかなぁって」
「出世したいんですか? 取り返しがつかへんリスク払ってまで」
「そうじゃないぞって言ってほしかった。だからきみのことを呼び出したんだよ?」
「せやったら改めて言います。好きでもない相手に会長が抱かれる言うんなら、オレはブッチします」
見つめ合う。
見つめ合ってから、やがて、刹那。
きみはサイコー。
ほんとうに、犀川くん。
っていうか、やっと「会長」って、呼んでくれたね?
オレは目ぇ丸くして首かしげた。
「せやけど、ああ確かに、オレはずっと『蝶野さん』って呼んでましたね」
「そうだよぅ。私としては会長と呼んでもらったほうが嬉しいのだよぅ」
「オレにとっては、蝶野さんは最初で最後の会長やよ」
すると、感極まったような顔をしたかと思うと、蝶野さん――会長は気持ち良さげにわろて――、
「会長会長会長――私は絶対に、そう呼ばれていたときのほうが幸せだった」
「そない思わへん日が来るんやって思います。全部は思い出になって、あるいは前に進むあたっての活力になる」
「キザっちぃなぁ」
「持ち味です」
店を出て、それからすぐにタクシーを拾えた。
蝶野さんが後部座席に乗り込む。
「丁重にお願いします」
オレはそない言うて――未成年のくせにド偉そうに――運転手さんに万券を持たせた。
「ちょい待ちっ。それはさすがに良くないよぅっ」
「たぶん、今の会長よりは、オレのほうが高給取りやさかい」
「そうなの? でも――」
「ええんやってば。気ぃつけて帰ったってや」
ほんとうに素敵だね、きみは、犀川くん。
「自覚はあります」
「また飲もうよ。きみが下戸じゃなくて安心しました」
「オレかて会長のこと好きやし、せやさかい、またお付き合いしますよ」
ありがとう。
蝶野さんのそないな言葉を残して、黒いタクシーは走り去った。
見上げる。
月も星も見えへんかった。
たまにはそないな夜があってもええやろう、なにせ多様性の世の中やさかいな。