沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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最近、「ストレイシープ」を訪ねることが多いなぁ。
今夜は、オレの左隣にはアキラっちがおって、オレらの向かいにはキタローヘアの飛鳥井くんの姿がある。
飛鳥井くんはやっぱり巨大なヘッドフォンを首に提げてやる。
「いつも何聴いてるんさ?」
「ノれる曲だったらなんでもいいんだ」
ふぅん。
「さっきからソフトドリンクばっかやね。酒はあかん? いけへん口?」
「飲めないんじゃない。飲まないんだ」
オレはラムコークでまた喉を潤した。
「なんで飲まへんのん?」
「アッパー系の覚醒剤でもそうなんだろうけど、酔った状態におけるパフォーマンスなんて、低いに決まっているから」
「納得」
「そう?」
「うん、納得」
とか言いつつも、オレはラムコークをおかわりしたわけや。
「で、今夜はなんの用?」
「じつのところ、飛鳥井くんは先輩なのな」
「そんなのいまさら問われる話でもないし」
たとえば、飛鳥井くんが没頭してるソシャゲってなんなんかなって。
「没頭って言うのかなぁ。僕的には微妙かもしれないと思ってるんだけど」
「せやさかい、なんていうコンテンツ?」
「そのへんは隣の彼女に訊いてみるといいよ」
そうなん?
そない問いかけたところ――「うふふふふ」ってすっかり気持ち良くなってしもてるアキラっちである。
「なあ、アキラっちよ、短い質問や。おまえがやってるソシャゲってなんなんや?」
「それってべつに重要じゃないだろぉ」ってにこにこ笑いながら心地良さげに答えやった。
某ソシャゲであたしと飛鳥井くんは仲間だよ、同じ同盟に属してるんだ。
ほぅ興味深いな、アキラっちよ、つまるところはそういうことやったんか。
「僕は他にやることもないから、一般的に言うところの――まあ重課金者かな。廃課金っていうと思い浮かぶのは石油の力だし」
「えぇぇぇぇ、オイルマネーの恩恵にあずかってる貴族じみた連中がゲームでがんばってるんってゆーん?」
「ニンゲンは承認欲求のかまたりだし、たかがゲームの世界だけであっても自らの力は誇示したいのさ」
「その先に見える利益とは?」
「利益、か。きみはほんとうに賢いね」
「利益とは?」
「そうやってオウム返しにするあたりにもまた知性が窺える」
「これってダメなことなんだけど」言うて、飛鳥井くんはただのコーラを口にしやった。「へたをしたら百万円くらいつぎ込んだかもしれないんだけど、僕はそろそろ、当該アカウントを清算しようと考えてるんだ」
清算?
アカウントを売るってこと?
それ以前に、百万単位で課金したってことにはびっくりするしかないんやけど。
「ゲーム内の同盟において、僕はオンリーワンだと認めてもらってる。だって、かなり強いからね。力のある者には無条件で誰かが接触、従おうとする。根底にあるのはある種の醜さだよ」
「ポジティブに考えようや。ソシャゲかて立派なコンテンツやさかいな」
「そんな偉そうなものじゃないよ。提供してる連中はどうやったらもっと課金してもらえるかってことばかりを考えてる」
その点については、ため息交じりに「そのとおりやろうなぁ」って応えるしかなかった。
「昔からあった傾向だっていうね、この点については」
「そうやね。やっぱゲーム内における強さが敬われ、そこに憧憬の念を抱くニンゲンは少なくなかったんやろう」
「要するに、金持ちを持ち上げているんだよ? それって健全なのかな?」
「けっしてそうは思わへんけど、べつにええやんか、課金したい連中は課金して」
ほんとうに、つまらない会話をしたね。
僕たちは時間を無駄にしたんだ。
そんなん言われずともわかってるんやけど。
ああ、ホンマに飛鳥井くんはアルコールは頼まへんのん?
「いっぱいくらい付き合ってくれたら嬉しいんやけど」
「もう何も言わないよ。きみと同じヤツでいい」
そのうちラムコークがやってきた。
飛鳥井くんは一つ口にして、「おいしいね」――。
「今度、どこかに食べに行くときは誘ってよ」
「おぉ、飛鳥井くんらしからぬ積極的なお言葉」
「そうかな? 比較的、社交的かもしれないって思ってるんだけど」
いよいよ本題に移したろ。
「まあ聞いてや。オレは、いや、オレとアキラっちはそれなりに、生徒会んこと、心配してるんやよ」
「会長は抜けてしまったけど、それでも実務的な部分で言えば、居残ったニンゲンだけでこなせるし、こなしてるよ」
「それはわかってます。オレが言いたいんは、モチベーションっちゅうところであって」
モチベーション?
不思議そうに、飛鳥井くんは首かしげて。
「今でもなお会長んことが大好きなニンゲンが二人おる、二人や」オレは左手を持ち上げて、左手の人差し指と中指だけを作った。
「その、大好きなニンゲンって?」
「決まってるやーん。飛鳥井くんとネモちゃんやよ」
一拍の間。
二拍、三拍の間。
「じつはな、蝶野さんがきみに会いたい言うてたんやわ」
「それって嘘だよね?」
「ほぅほぉ、なんでそないなふうに思うんさ?」
「蝶野さんは確かに底抜けに優しいけど、でも根本的に、自分中心なんだ」
「そんなんあたりまえやん。会長かてただのフツウのニンゲンなんやさかい」
飛鳥井くんの目に嘘偽りはなかった。
「で、同じような質問を、獅子堂さんにもぶつけるの?」
「いや、その点についてはぶつけるまでもないって考えてる」
「彼女の性格、人格からして、正しい見解だね」
「そのとーり」
つまるところ、飛鳥井くんの会長に対する完全無欠な愛を知りたい。
「いまさらそれって訊く必要がある?」
「前を向こうって話やよぉ」
「僕はつねにそのつもりだよ」
「そうかなぁ。かなり凹んでるように見えたけど」
「僕がずっとずっと彼女のそばにいたかったのは事実」
「わかるけど、ヒトってのは成長するもんやさかいなぁ」
たとえば――たとえばだよ?
そないなふうな枕詞を並べて――。
「蝶野さんがこれ以上大きくなっちゃうと、どうなんだろうな、って」
「確かに蝶野さんの胸はデカい――っちゅうおっπの話?」
「もう少し真剣に話を聞いてくれてるんだって思ってた」
「聞いてるってば。心配せーへんで遠慮なく話したってぇや」
会いたいなぁ。
「そんなん簡単やん。アグレッシブにアプローチすればええやん」
「何がどう転んでも、邪魔するようなことはしたくない」
「えーっ、蝶野さんがきみんこと悪くおもてるはずないやんかぁ」
「だとしても、気が引けるという話」
引っ込み思案な性格は、絶対にプラスには働かへんねやろうけど。
「呼び出してみようぜ」
オレの左隣で機嫌良さげに梅酒飲んでたアキラっちがここにきて参戦――。
「来いって言って来てくれたら脈アリで、そうでなけりゃあごめんなさいだ」
酔っ払いに違いないアキラっちやけど、それについては妙案って言えるやろう。
「いいよ、そんなの。彼女、忙しいに決まってるんだから」呆れたように、飛鳥井くん。
「そこにホンモノの愛があるなら、きちんと来てくれるんだ」となかば確信したようにアキラっち。
どないな結果を迎えるんやろう。
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やっほーって蝶野さんが姿を現しやったんや。
「つめてつめて」
飛鳥井くんのことを奥に押しやり、空いたスペースに蝶野さんは腰を下ろしやった。
パンツスーツ姿。
仕事着やろう。
実際そうらしくって、「業務でちょうど近所に来ていたのだよ」とのこと。
蝶野さんはビールを頼んで、運ばれてくるとさっそくひとつ口にしやった。
今日の仕事は完全にはけたってことなんやろう。
ジョッキをテーブルにおくと、蝶野さんは――。
「今日も犀川くんは男前だね。アキラっちは美少女+爆爆すぎるおっπ、二人はほんとうに幸せそうだよね」
いあ、オレたちんことはうっちゃておいて、どうか飛鳥井くんの話をしてもらえへんやろうか。
そないおもてたら、蝶野さんは飛鳥井くんのほうを見た。
飛鳥井くんに向ける会長の表情は、それはもう穏やかなもんやった。
「おいおいおぃ、いつも言ってるよね、飛鳥井くん? スマホはそんなに楽しいのかな?」
なあんも返事せーへんのかなぁっておもてたんやけど、飛鳥井くんはきちっと「もう楽しくはないです」――。
「もう? だったら以前は楽しかったのかしら?」
「そんなのべつにいいじゃないですか」
「たしかに、どうだっていいね」
オレは湿り気に満ちたじとっとした目を飛鳥井くんに向けた。
ポリシーより愛想のほうが大事やって場面もあるんやぞ?
「もう帰りたいです会長――蝶野さん、どいてください」
「おやおや飛鳥井隊員、きみは私を邪魔だと断じてくれるのかな?」
「そうは言いませんけれど」
「だったらもう少し付き合いなさい」
お見事や。
蝶野さんは飛鳥井くんにしっかり首輪を付けやった。
「お忙しいんやろうか、会長、実際のところ」
「まあね。それって幸せなことだよねぇ」
「そりゃ会長がそない言うんやったら」
「私が忙しいとダメなのかしら?」
「身体、だいじょうぶかなって」
蝶野さんはきょとんとなってから、朗らかに笑いやった。
「だいじょうぶだいじょうぶ。健康だけが取り柄だったりするんだから」
取り柄なんていくつもあるよね、あなたの場合。
なんてツッコミを入れることなく、飛鳥井くんはスマホ、いじりやる。
そったらや、蝶野さんはやや厳しい口調で、「きみはいつもそうだね」って切り出しやった。
「ゲームなんてやめなさいって言ったよ? お金をかけて満たされる自己顕示欲と承認欲求になんて意味がないって」
まるでお母さんみたいな言い方やった。
「もう潮時だとは思ってます。だけど、こういうかたちでしか自分を主張できないニンゲンもいるんです」
「弱さを謳ってどうするの? 飛鳥井くん、きみは私に慰めて欲しいだけ?」
「そんなはずはないです。僕は強いつもりですから」
「だったら私は必要ない?」
なんちゅう意地悪な質問をしはるんやろう。
ホンマ、性悪でしかないぞ、蝶野さん。
オレがとりなすしかないやろう、だってアキラっちはオレん左隣で「うふふ、うふふ」とか発しながら梅酒口にしてるだけやさかいな。
せやけどどないなふうに切り出したもんか……。
ハードモードを選ぶことにした。
「もうええやん? お互いに好き合ってるんやったら、いっそ一回、付き合ってみればさ」
「それは安易なアドバイスだね、らしくないなぁ、犀川くん」
「そうですかぁ?」
「そうだよ。実寸上の距離って、そんなに近くないからねぇ」
――って、そないな最中にあってもスマホをいじる飛鳥井くん。
いいかげんイライラしてきた――とかっちゅうことはない、オレはけっこう寛容でドライやからや。
せやけど――。
「飛鳥井くん、きみの無関心さって、きっときみには幸せをもたらさへんぞ」
「ゲームは次々リリースされるから、僕はそれでいい」
さすがにそれはしょうもない物言いや。
そのへん自覚してんのかね。
「察するに、『城ゲー』なんやろ? せやったら、そんなにやることもないやろうに」
「城ゲーでも、僕は忙しいんだ」
「盟主やから?」
「そう」
あほくさ。
つい口に出してしもた。
飛鳥井くんがびくって肩を跳ねさせたんがわかった。
口論してたわけやけやないし、相手のことを口汚く罵ってるつもりもあらへん。
簡単なチャンバラしかけたくらいでしかないんや。
煽りまくったった甲斐があって、ポーカーフェイスの飛鳥井くんのイラっとした顔を拝むに至った。
「わかった。もうゲームはやめる」
「ええのん? 百万も投じたんやろ?」
「お金で買えるものにはそれほどの意義も価値もないよ」
へぇ、結局は理解してるんやん。
飛鳥井くんかて捨てたもんやないな。
――てっきりアンインストールするだけやおもた。
せやけど飛鳥井くんはというと――アンインストールはしたんやろう――その上で、蝶野さんのドリンク、ビールジョッキの中に自分のスマホを沈めてみせた。
蝶野さんはビックリしてたし、アキラっちも目ぇ丸くしてた。
オレはというと、そこに覚悟と根性を見た次第や。
「ビールにスマホを預けたのは初めてだよ」
「オレかてそんなん初めて見たわ」
蝶野さんは……会長は、やっぱり犀川くんのことが好きなんですか?
そないなふうに、飛鳥井くんは真正直に口ぃ利いて。
「好きだよ? 好きだけど、飛鳥井くんのことだって、同じくらい好きだな」
そったら飛鳥井くんは「罪作りな話ですね」って言うて苦笑じみた表情を浮かべた。
アキラっちはというと、すでに三杯目の梅酒に取りかかってた。
錆びついたような、なんとも古めかしいくすんだ雰囲気が売りの「ストレイシープ」は、今日も酔客で溢れてる――。