沼確バイン!!~エグいかわいいボーイッシュJKをメッチャやさしく攻略してみる~ 作:XI_01
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蒲田西口にあるこじゃれたバー、「ストレイシープ」――。
兄貴と二人して愉快な感じで談笑してたところに、や。
なんやいきなり、ひょいって何かが兄貴の隣に飛び乗ったんや。
オレは目ぇ丸くしたんやけど、兄貴はまるで動じへんかった。
その影の正体は左目にかっちょええ黒い眼帯付けてる黒猫のホープさんやったんや。
兄貴は初対面のはずや。
せやけどホープさんが「よぉ、イクミ」ってしゃべったところで、まるで驚いたところがなかった。
以降、兄貴はなぁんも質問してこぉへん。
ちびちび日本酒をやるだけやった。
兄貴ってば今夜もそっけないなぁ――そないなふうに思いながら、オレはホープさんに「どないしたん?」って訊ねた。
たぶんオレがいるって思ったから、このバーを訪れたに違いないんや。
その情報はどこで得たんか、そのへん気になったわけやけど、まあ、この際、どうやかてええわ。
「ホープさん、お久しゅう。なんか食べる?」
「シーチキンが食べたい。ノンオイルのやつだ。頼めるか?」
オレは「おーい」って店員さんに声かけてくだんの品物があるか訊ねた。
それのみっちゅうんはメニューにないながらも、あるにはあるらしい。
「おぉ、ラッキーだな」って、ホープさん。
「意外や意外、頼めばなんやかてあるらしいな」って、オレはあっはっはってわろた。
「それにしても、つくづく猫を歓迎してくれるだなんてな」
「それくらいええ店やってことやろう」
「ああ。ええ店や」
「付け焼刃の大阪弁、使いなや」
兄貴の手によってソファにシーチキンの皿を置いてもらうと、ホープさんはばくばく食べ始めた。
猫ってのはどいつもかわいいんやけど、中でもホープさんはいっとうや。
「それで、ホープさん、なんの用なん?」
「そうわけでもないんだ。ただメシをたかりたかっただけなんだ」
「俺がかわいがってやろうか?」相変わらず日本酒ちびちびの兄貴。「べつにかまわないぞ?」
「おまえはだ、イクミの兄貴なんだな?」
「おや、名乗ったかね」
「似ている、おまえたちは」
オレは頭のてっぺんから爪先まで真っ白、いっぽうで兄貴は美しいまでに髪も黒く、瞳も宝石のように黒色。
「そんな兄弟がいてもいいだろうさ」ホープさんはシーチキンにがっつく。「それはさておき、私にえらく優しいおまえたちのことが、けっして私は嫌いではないぞ」
おぉ。
ホープさんらしからぬ褒め言葉や、本音なんかは怪しいところやけど。
「あっ、イクミおまえ、今、私を疑ったな?」
うん、そのとおり。
「ヒトを疑うことは美徳とは言えないぞ?」
うん、そのとおり、ホープさんはヒトやのうて黒猫さんやけど。
シーチキンを食べ終えたところで、ホープさんは右手つこて顔を洗い始めやった。
なかなかに愛おしいかわいらしさがそこにはある。
「ホープさん、じつは食うのに困ってるんちゃうん? オレはめっちゃ心配や」
「だからそうではないんだよ。たまにはと思い、おまえたちにたかろうと考えただけだ」
そったら今度は兄貴が鷹揚に笑いやった。
「それは光栄だよ、ホープ殿」
「あるいはおまえはイクミ以上にモテるのかもしれないな、シャル兄よ」
「具体的に名乗ったつもりはないんだが?」
「情報収集に長けているのが私だ」
兄貴は愛おしそうに、ホープさんの頭を撫でた。
ホープさんは目を閉じて心地良さそうにした。
「それにしても、猫が長居をしても誰にも咎められないとは」
「俺達は常連だからな。もし何か言われるようなことがあれば、容赦なく突っぱねてやるさ」
「おまえがちびちびやっているのは日本酒か?」
「好きでね、これが」
「翌日に残ったらつらいと言うぞ?」
「余計なお世話だ」
「おぉ、いきなり偉そうになったな」
同じく常連のおねえさんがたがオレらに挨拶しながら、ホープさんの頭を撫でていく。
ホープさんってば、「女も男もフレンドリー奴ばかりだな」――って。
「世の中、悪いニンゲンのほうが少ないんやよ」
「それはおまえ、イクミが信じたいというだけだろう?」
「そうやけど、オレは性悪説なんて謡いたくないな。そういうもんやろう?」
「まあ、たしかにおまえは私にすら優しいからな」
「どないする? ウチに泊まってみるかぁ?」
アキラのことはどうする?
非常に気の利いた心配をしてくれたホープさん。
「今日はおらへんよ」
そったらホープさんは意外そうな顔して。
「今日はじいちゃんの誕生日なんやってさ」
「だったらなおのこと、おまえも出席したほうがいいんじゃないのか?」
「たまには水入らずってのもええやろ」
「ほぅ」感心したようにホープさん。「物分かりがいいし、気遣いまでできるんだな、おまえは」
「せやからこそ、一泊されては? っちゅうてる」
お断りだ。
「えぇぇ、なんでぇ?」
「癖になってしまいそうだからだ」
「ええやんか、べつにそれで」
「私は誇り高い野良猫なんだよ」
まあ、それはそうなんかもしれへんけど。
「今夜はシーチキンが食べれて満足だ。ありがとう、イクミ、それにシャル兄も」
ホープさんソファからひらりと飛び降りると、毅然とした感じで出入口まで歩いて行った。
寒空にありながらもウエスタンドアは健在で、すたすたと去っていった。
「美女だな、まるで」兄貴は言う。「隻眼なのが、やはり気になるが」
「詳しく聞きたい?」
「いや、いい。知ったところで、オレは彼女の目を治してはやれないからな」
まったく兄貴はいつやかて正しいことを言うてくれる。
「ホープさんの目が元に戻るんやったら、オレの左目、くれたってもええんやけどなぁ」
「その考えが正しいと考えているなら、それは間違いだ。おまえが片目を失ったら失ったで、ひどく悲しく思うニンゲンがいるんだからな」
「アキラっちを含めた七尾さんちの家族と、オレん家族はそうなんやろうけど――」
「その『オレん家族』に俺も含まれるのを忘れるな」
兄貴は優しいなぁ、
改めて、そないなふうに思わされた。
「明日は休みなんだ。泊めてもらっていいか?」
「断るはずないやろぉ」
「用事があるんだよ」
「何用?」
「葛葉女史とデートだ」
デート。
兄貴の口からそないな言葉が飛び出してくるとは。
「コースは決まってるん?」
「恐らく、ショッピングに付き合わされるんだろうさ」
「アンナさんんいは黒スーツのイメージしかないなぁ」
「ゴツいしな。正直言って、かわいらしい恰好は似合わん」
「そんなん、間違っても本人の前で言うたらあかんで?」
そんなのわかってる。
――って言うと、兄貴は苦笑じみた表情浮かべて、やれやれとばかりに肩ぁすくめた。
「しかし、女というのはどうして愛らしく見られたがるのか」
「そういうもんやって。アンナさんかてご多分に漏れず、や」
「夕食はまたフレンチなんだろうな。嫌気が差す」
「繰り返すわ。間違ってもそないなこと言うたらあかんで?」
「それはわかっているんだが、フランス料理というものはどうしてあそこまで量が少ないんだろうな」
そのへんは理解できるなぁ。
「せやったら、家系ラーメンでも行ったら? もちろんライス付きで」
「言ったろう? オレの前では、彼女はかわいらしくありたいんだよ」
それもわかる。
アンナさんにはがんばれって言いたい。
美人で優しくて危なっかしいところがあるさかい、ぜひともオレの姉貴になってもらいところや。