※この作品はR-18です。

三宮三葉の反省ノート   作:三百柊

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第3話

シノア:ぐぬぬぬぬ……! 圧倒的な敗北感なのに、みっちゃんが嬉しそうすぎてすごく腹が立ちます……! でも、まだ諦めませんからね! 明日になったら、わたしが優さんの記憶を全部わたし色に塗り替えてみせますから……

 

三葉:ふふん見たまえシノア! これが勝者の余裕ってやつよ! あー、もうどうしよう、ほんとに両思いじゃんあたしたち……っ!////// ニヤニヤ

 

三葉のその言葉が夜の空気に溶け込んだ瞬間、ぴたりと、周囲の音がすべて消え去った。

 

シノア:……? みっちゃん、どうしたんですか? そんなに急に固まって……。

 

勝ち誇った表情のまま硬直し、顔を真っ青に(そして耳まで真っ赤に)染め上げた三葉。

その視線の先――女子トイレの入り口のすぐそばに、いつの間にか、とある人物の影が佇んでいた。

 

優:……お前ら……今……なんて言った……?

 

そこには、目を見開いたまま立ち尽くす優の姿があった。

男子トイレから戻ってきたはずの彼が、なぜかちょうどこのタイミングで、女子トイレの近くを通りかかってしまったらしい。

 

三葉:――っっっ……!!!!!!//////

 

脳が焼き切れるような衝撃と共に、三葉の口から魂が抜け出そうになる。

さっきまでの勝ち誇った余裕は完全に粉々に砕け散り、その場に崩れ落ちた。

 

優:えっ、ちょ、待てよ……! 胸とか脚とかって……お前ら、まさか……俺たちの話、最初から全部聞いてたのかよ……っ!?///

 

シノア:あ……。あらあら、これは絶好のチャンス到来ですねぇ……♪

 

顔を真っ赤にしながらも、フッといつもの小悪魔的な笑みを浮かべるシノア。

 

**********************

 

聞かれてしまったら仕方ない。

 

三葉:優…あたし、優のことが、すっ好きなの…////

 

シノア:!!

 

優:なっ…?!…あっ、友達として、好きって言うこと、だよな…?

 

突如として訪れた決定的な修羅場。

しかし、自ら引き起こしたその状況に、三葉はもう逃げることなど考えていなかった。先ほどまでの恥じらいはどこへやら、三葉は真っ赤に染まった顔のまま、真っ直ぐに優の目を捉えて一歩踏み出す。

 

三葉:はぁ!? 友達としてなわけないでしょ...!!あんたさっき、自分の口でタイプだの胸だの褒めまくっといて、今さらそんな都合のいい勘違いさせようったってそうはいかないからね……っ!//////

 

優:うっ……! そ、それは与一が無理やり聞き出すから……って、お前らやっぱり最初から全部聞いてたのかよ……っ!////

 

顔を真っ赤にしてタジタジと後ずさる優を逃がさじと、三葉はさらに間を詰める。

 

シノア:ふふっ、優さん。ごまかそうとしても無駄ですよ。みっちゃんは今、本気なんですから♪ ……ちなみに、わたしからも教えてあげます。わたしはもう、ただの「意地悪な妹」ではいられなくなっちゃいましたからね……//////

 

シノアもまた、先ほどの悔しさを塗り替えるように、妖しくも真剣な瞳を優に向ける。

 

優:なっ、お前まで……! おい、急になんだよ、頭おかしくなったのか二人とも……っ!!///

 

頭を抱えて完全にパニック状態に陥る優の姿を見て、三葉はふっと息をつき、これ以上ないほどまっすぐな声でトドメを刺した。

 

三葉:いいから覚悟しなさいよ、優。あんたが気づくまで、何度でも言ってやるんだから……。あたしが好きなのは、百パーセント、恋愛としての「好き」だからね……っ!//////

 

**********************

 

優:おっ、俺は……

 

三葉:返事、聞かせてよ… ドキドキ

勝ちを確信し、二人の幸せな未来を想像する三葉。

 

シノア:…私からもお願いします…

分が悪いことを理解しつつも、優の気持ちが気になるシノア。

 

静まり返った夜の空気の中、三葉とシノア、二人の少女の熱を帯びた視線が、真っ赤になりながらも立ち尽くす優へと一斉に向けられた。

 

優:お、俺は……っ……!!///

 

優:…ごめん、三葉……

 

三葉:…え

 

優:俺はっ...!...し、シノアが...好きだ…///

 

**********************

 

シノア:……えっ??!!/////////

 

シノアは自分の耳を疑った。心臓が跳ね上がるどころか、一瞬で凍りついたかのように止まり、次に激しい音を立てて暴れ出す。

 

シノア:なっ、なにを……何を言ってるんですか、優さん……!? さっきの会話の流れなら、どう考えてもみっちゃんの方が優勢だったはずじゃありませんか……っ!?///////

 

三葉:……え……?

 

三葉は思考のフリーズした脳みそを無理やり動かし、目の前にいる少年の顔を信じられないといった目で凝視した。

 

三葉:そんな、なんで、なんでよ....?!さっきまですごく、良い雰囲気だったのに...!!...なんで...?

 

三葉:あ、あたしのこと、タイプだって言ってたじゃない...!! あたしにドキマギしてるって、言ってたよね...?!顔も身体も、性格も、褒めてくれたじゃない!!シノアは妹みたいだって、言ってたじゃない!!

 

三葉の瞳から、驚愕と、言いようのない悔しさと、熱い涙がポロポロとこぼれ落ちる。

 

三葉:嘘でしょ、優...!嘘なんでしょ...?!誰かに、嘘をつけって言われてるんでしょ?!そうでしょ?!!

 

三葉は優の肩を両手で激しく掴み、ガクガクと揺さぶった。

 

三葉:ほんとのこと言って!!どうでもいいわけじゃないでしょ?! あたしのこと、好きなんでしょ?!!

 

**********************

 

優:...俺は、ついさっき気が付いたんだ。ずっと吸血鬼やミカのことばっか考えてたけど...いつも支えてくれてる、大事な存在に...

 

シノア:...!!

 

三葉:…やだ、いやだ...聞きたくない、聞きたくない ....!...いやぁ...っ!!

 

優:...もしどちらかを選ばないといけないって言われたら、シノアを守りたいんだ…!!

 

静まり返った夜に、優のその言葉が重く、残酷に響き渡った。

 

シノア:――っ……!!!/////////

 

シノアは大きく息を呑み、目を見開いたまま優の顔を凝視した。

頭の中が真っ白になり、心臓の音がうるさいほどに耳の奥で鳴り響く。さっきまで「勝負はこれからだ」と強気に意気込んでいたはずなのに、あまりにも真っ直ぐで真剣な優の瞳を前にして、シノアは文字通り言葉を失っていた。

 

三葉:うそ……うそよ……そんなの……っ!

 

三葉はガクガクと震える両手を優の肩から外し、その場に膝から崩れ落ちた。

あんなに近くで想いをぶつけ合って、自分のことをたくさん褒めてくれて、すべてが上手くいっていると信じ込んでいたのに――。一筋の涙が、真っ赤に腫れた頬を伝ってポロポロと地面に落ちていく。

 

三葉:なんで……シノアなのよ……。あんなに私のこと……っ!

 

優:……三葉、ごめん。お前の気持ち、すっごく嬉しかった、ありがとう。...嬉しかったけど……。

 

優は苦しそうに眉を寄せ、震える拳をギュッと握りしめた。その表情には、誰かを傷つけてしまったことへの罪悪感と、それでも自分の胸に刻まれた偽りのない本当の気持ちを誤魔化せない葛藤の色が浮かんでいた。

 

優:俺にとってシノアは……いつだって一番近くで、俺の暴走を止めてくれて、俺を人間でいさせてくれた……。あいつがいないと、俺はきっとどうにかなってた。だから……これ以上失いたくないんだ。シノアのことを、守りたいんだ……っ!

 

シノア:優さん……っ//////

 

シノアの瞳からも、驚きと溢れ出る感情の熱で、うっすらと涙がにじむ。

自分がどれだけ優にとって大きな存在だったのか、その真っ直ぐな言葉が、胸の奥を激しく締め付けた。

 

しかし、その隣で、三葉は顔をぐっと腕で覆い、肩を激しく震わせながら声を殺して泣きじゃくっていた。

 

三葉:……ばか……優のバカ……。こんなのってないじゃない……。あたしの片思いなんて、最初から勝負にならなかったってこと……? あんなにドキドキさせといて……ひどいよ、優……っ!!/////

 

**********************

 

三葉:…やだ。そんなのやだよ、優...絶対ヤダ、だめ....。ダメダメダメっ…。

 

優:…三葉、ごめんな…

 

三葉:…わかった、シノアが1番でいいよ…。あたしは、2番目でいいから、都合の良い女でいいから、そばにいさせて…。愛してよ…。

 

優:…三葉...!

 

三葉:何だってするよ、え、えっちなことも、いっぱい…この身体だって、色んな男にいやらしい目で見られるよ?気持ち悪いけど...でも優には触ってほしいの、捧げたいの!…あたしGカップもあるんだよ?優も欲しいでしょ??だってさっき褒めてくれたじゃない!好き放題していいんだよ...??

 

優:三葉っ!それはダメだっ...!

 

三葉:だから、捨てないでぇっ…!! グスッ

 

優:…俺たちはまだ若いんだ、三葉。きっと、俺より好きな人が現れるさ。

 

三葉:…いない、やだ!いないよ!そんな人いない!あんたしかいないの!!やだやだやだぁ…!優しか、やだぁっ…!!ポロポロ

 

優:(ぐっ…)

 

静まり返った夜の闇の中で、三葉の泣き叫ぶ声が痛いほどに響き渡った。

 

シノア:――っ……! みっちゃん、待ってください! そんなこと言っちゃダメです……!!//////

 

あまりの捨て身の懇願と、三葉から零れ落ちる限界の言葉の数々に、シノアはハッと息を呑んで二人の間に割って入った。

いつもの余裕や小悪魔的な態度は完全に消え去り、その瞳には焦りと深い動揺の色が浮かんでいる。

 

シノア:自分をそこまで卑下しないでください……! 都合のいい女だなんて、そんなの、みっちゃんらしくありません……! 優さんだって、そんなつもりで言ったわけじゃ……っ!

 

三葉:うるさい、シノアにはわかんないよ……! あたしは、あたしは優がいなくなったら……本当に、どうにかなっちゃうんだから……っ!! ぐすっ……うぅ……っ……!

 

ボロボロと大粒の涙を流し、優の服の裾をぎゅっと掴んで離さない三葉。その姿は、いつも強気でチームを引っ張る軍人の面影など微塵もなく、ただ愛する人に縋りつく一人の切ない少女そのものだった。

 

優:三葉……顔を上げてくれ。そんなふうに自分を安売りするなよ……俺は、お前のそういうところじゃなくて……っ!

 

三葉:じゃあなんでだよ……! あたしのこと好きじゃないなら、あんなに優しくしないでよ……あんなに真っ直ぐ見てくれたじゃない……っ! もうやだ、本当にやだ……っ……!

 

優:……っ!!

 

優は苦悶の表情を浮かべ、頭を抱えたままその場で膝をつきかけた。シノアは震える手で三葉の肩を抱き寄せ、これ以上彼女が心を壊してしまうのを止めようとするが、三葉の涙は止まらない。

 

シノア:優さん……! あなた、自分がどれだけ残酷なことを言っているかわかっているんですか……? こんなの、誰も幸せにならないじゃないですか……っ!//////

 

夜の冷たい風が、打ちひしがれた三人の間を虚しく吹き抜けていくのだった。

 

**********************

 

優:…俺だって、三葉を傷つけたくなかったさ…俺と与一は男子トイレにいて、おまえらは君月を見守ってると思ったから色々答えたのに…わざわざ与一との会話を盗み聞きしたのは、誰だよ…?

 

優の口から吐き出されたその言葉は、冷たい夜風に乗って、その場の空気をさらに凍りつかせた。

 

三葉:――っ……!//////

 

図星を突かれた三葉は、息を詰まらせ、大粒の涙を浮かべたままピタリと動きを止める。

 

自分たちが「君月の見張り」をしていると優が勘違いしていたこと、そしてその油断からあんな赤裸々な本音を引き出してしまったこと――。すべては、あの盗み聞きから始まった自業自得だったのだと突きつけられ、三葉は返す言葉を失った。

 

シノア:……っ。それは……その……っ。//////

 

シノアもまた、優の鋭い指摘に息を呑み、気まずそうに視線を泳がせた。

 

確かに自分たちが盗み聞きをしていなければ、こんな泥沼の修羅場に発展することも、三葉があんな痛ましいまでに心を痛めることもなかったかもしれない。

 

優:……悪かったよ。お前たちの気持ちにちゃんと気づけなくて、期待させるようなこと言って……。でも、俺には……シノアを守りたいって気持ちに嘘はつけないんだ。

 

優は立ち上がり、苦しそうに顔を歪めながらも、決然とした瞳でシノアを見た。そして、ボロボロと涙を流して崩れ落ちている三葉に、申し訳なさそうにそっと視線を落とす。

 

三葉:……全部、あたしの自業自得って言いたいの……? ……うぅ、ぐすっ……ひどいよ、優……っ!! ダッ

 

シノア:みっちゃん?!

 

**********************

 

暗闇の中へと走り去っていく三葉の背中を見送り、シノアは反射的にそのあとを追おうと足を一歩踏み出した。

 

シノア:みっちゃん……っ!

 

しかし、その腕をガシッと力強く掴む者がいた。振り返ると、そこには切なさと決意が入り混じった表情をした優が立っていた。

 

優:待ってくれ、シノア。

 

シノア:――っ。優さん……! みっちゃんがあんな状態なのに、追いかけないんですか……!? あんなの、あまりにも残酷すぎます……っ!

 

シノアは怒りと戸惑いが入り混じった瞳で優を睨みつけるが、優はその手を離さず、しっかりとシノアの目を見つめ返した。

 

優:……追いかけたいよ、俺だって。あんなに泣かせるつもりなんてなかった。でも……だからこそ、中途半端な優しさで追うのは違うって思ったんだ。

 

シノア:……っ。

 

優:さっき、俺の気持ちをちゃんと伝えただろ。お前を……シノアを守りたいって言った。それは嘘じゃない。だから、今度は……俺の気持ちに答えてほしいんだ。シノア、お前は……俺のことをどう思ってる……?

 

冷たい風が吹き抜ける静かな夜の片隅で、優のまっすぐな問いかけがシノアの胸を強く打った。

 

逃げ出した三葉の足音はすでに遠ざかり、あたりには二人の息づかいだけが残されている。

シノアは揺れる瞳のまま優を見上げ、震える唇をゆっくりと開くのだった。

 

**********************

 

シノア:…もちろん、好きです…///…大好きです////…みっちゃんに負けないぐらい…

 

静まり返った夜の空気の中、絞り出すような、けれど紛れもない本心の声がシノアの唇からこぼれ落ちた。

 

いつも余裕な笑みを浮かべ、からかうような態度をとってきた彼女が、今は耳の先まで真っ赤に染め、瞳にはうっすらと涙を浮かべている。

 

シノア:……ずっと、ずるいと思っていました。吸血鬼のことばかりで、自分の命すら省みないあなたを見ていて……私がそばについていないといけないって、そう思って……。

 

シノアは震える両手で自分の胸元をぎゅっと握りしめ、まっすぐに優を見据えた。

 

シノア:いつの間にか、そんなあなたの無茶に振り回されることが……あなたの隣で笑う時間が、私にとって何よりも大切なものになっていたんです。……だから、「守りたい」なんて言われたら、もう、好きって認めるしかないじゃないですか……っ!//////

 

優:シノア……。

 

優は目を見張り、それからゆっくりと表情を和らげると、シノアの手を優しく包み込んだ。

その温もりに、シノアは堪えきれずにか細く息を漏らし、恥ずかしそうに視線を下に落とす。

 

不器用な二人がようやく確かめ合った確かな体温と、遠ざかっていく三葉の痛みが入り混じる夜。

静かな夜の風はまだ冷たかったが、二人の間には、確かに新しい絆の形が結ばれていたのだった。

 

**********************

 

シノア:…ですが、聞いてください、優さん。私の体の中には、鬼がいます。

 

優:なっ、体の中に、鬼…?!

 

シノア:はい、私は柊家の実験動物なんです...欲望を見せると、この鬼に喰われる可能性が高い...

 

優:そんな…シノア…

 

シノア:何とかコントロールする方法を探しますが、少なくとも今は、普通の恋人のように、愛し合うことが出来ません。

 

シノアの口から告げられた衝撃的な事実。

それは、どれほど互いの気持ちが通じ合ったとしても、背負わなければならない残酷な現実だった。

 

優:……鬼に、喰われる……? そんなの、ふざけんなよ……っ! せっかく、やっと自分の気持ちに気づけたのに……!

 

優は拳を強く握りしめ、地面を殴りつけたい衝動に駆られながらも、目の前で切なそうに微笑むシノアを見つめた。

その瞳の奥には、恐怖ではなく、優をこれ以上危険に晒したくないという強い覚悟が宿っている。

 

シノア:怒らないでください、優さん。……怖くないと言えば嘘になります。でも、あなたとこうして想いを通じ合わせることができたから……私はもう、それだけで十分すぎるくらい幸せなんです。

 

優:十分なわけないだろ……! 俺は、お前を守りたいって言ったんだぞ……! なのに、お前だけがそんな危険を抱え込んで、普通の恋人にもなれないなんて……そんなの納得できるかよ……っ!

 

優はたまらずシノアの肩を引き寄せ、強く抱きしめた。

その温もりを確かめるように、シノアも震える腕を優の背中に回し、そっと目を閉じる。

 

シノア:……わがままを言ってもいいですか?

 

優:……なんだよ。

 

シノア:今はまだ、こうしてあなたの温もりを感じているだけでいいです。……いつか必ず、この鬼を完全にねじ伏せてみせますから。その時まで……私を待っていてくれますか……?

 

優は返事をする代わりに、シノアを抱きしめる腕に一段と力を込めた。

 

優:……当たり前だろ。待つに決まってるじゃねぇか。

 

心を通わせた二人の背後で、冷たい夜風が静かに吹き抜けていく。

切なさと希望が入り混じる中、二人は決して離れないと誓うように、そっと身体を寄せ合い続けるのだった。

 

**********************

 

君月の元へ行くと、与一しかいない。

 

シノア:あの、みっちゃん見ませんでしたか?

 

与一:あれ、一緒にいたんじゃないの?

 

優:…。

 

シノア:この辺りを探してみますか?

 

優:どうするか…!…いや、帰ってきたみたいだ

 

向こうから歩いてくる三葉。

 

与一:あっ、お帰り三葉さん。

 

シノア:みっちゃん、おかえりなさい…!!

 

三葉:ただいま。

 

優:…。

 

三葉:ねっ、優。ただいま? フリフリ

 

優:…!…おっおかえり…

 

シノア:…みっちゃん?

 

おかしい。あまりにも普通過ぎる。

 

三葉:何?シノア。

 

普通に優の隣に腰を降ろす三葉。

 

シノア:み、みっちゃんはどこ行ってたんですか?

 

三葉:ん?自分の部屋。化粧が少し崩れちゃったから、直して来たんだ〜

 

シノア:そうでしたか…

 

与一:(何だろうこの雰囲気、何かあったな…)

 

優:…ごめんな。

 

三葉:えっ、何が?

 

優:何がって…

 

三葉:優、暗いよ?どーしたの? パンパン

 

優の背中を軽く叩く三葉。

 

優:おっおい…

 

三葉:あー、優の背中しっかりしてるな〜 ギュッ

 

後ろから抱きつく三葉。

 

優:えっ、ちょっ、おい…! ///

 

シノア:!…みっちゃん…

 

三葉:こら逃げないの〜 ムニュ

 

優:や、やめろって…////

 

三葉:逃がさないから。

 

優:…!! ゾクッ

 

耳元で低く囁かれた言葉の狂気に、思わず身震いする優。

 

**********************

 

シノア:…みっちゃん、その、優さんは…その…////

 

三葉:…名前なんて書いてないし、誰のものでもなくない?あたし、女友達として優に接してるだけだよ?

 

シノア:…

 

三葉:…

 

与一:(…空気が重すぎる…)

 

優:…三葉、とりあえず、離れてくれないか

 

三葉に後ろからぎゅっと抱きつかれたまま、優はバツが悪そうに視線を泳がせ、全身の力を抜くようにして声を絞り出した。

 

三葉:やだ。背中が広くて落ち着くんだもん。それに、友達でしょ? 友達がちょっと甘えて何が悪いわけ?

 

シノア:……みっちゃん。さっきあんなに泣いていらしたのに、急にそんな余裕のある態度をとられると……こっそり裏で何か強力な特訓でもしてきたのかと疑いたくなりますね。

 

シノアは少し頬を膨らませ、不満そうに目を細めながらも、三葉を真っ直ぐに見据えた。自分の体の中に鬼を宿し、今は普通の恋人になれないと分かっているからこそ、この強気な三葉の行動を強く咎めきれないもどかしさが胸を締め付ける。

 

与一:(えっ? さっきまで泣いてたの……? 一体この短い間に何があったの……?)

 

事情を全く知らない与一は、二人と優の間で飛び交うピリピリとした、それでいて妙に生々しい空気感に気まずそうに小さくなり、眠り続ける君月にそっと視線を逃した。

 

優:お、おい三葉、マジで息が詰まるって……! 人も見てるだろ!///

 

三葉:見られて困るようなこと、何もしてないしー。ねえ、与一? あたしたち、健全な青春の一コマよね?

 

与一:えっ、あ、う、うん……? そ、そう、だよね……?(冷や汗)

 

与一が乾いた笑いを浮かべて引きつった返事をすると、三葉は満足そうにフンと鼻を鳴らした。

 

三葉:ほらね。だから優も大人しくしてなさい。……ねえ、優?

 

優:……っ。

 

背中越しに囁くような三葉の低い声に、優は思わずごくりと喉を鳴らした。

 

**********************

 

優:…ごめん、三葉。俺はシノアと…

 

三葉:シノア、ダメ?あたし、壊れるよ?

 

三葉のその掠れた、しかし逃げ場のない切実な一言が、夜の静寂に重く突き刺さった。

 

優:っ……!

 

優の言葉が、のど元でぴたりと凍りつく。

「シノアと……」の続きを紡ぐことができないのは、背中に感じる三葉の震えと、絞り出すようなその声が、彼女の心が限界を超えていることを嫌というほど伝えてきていたからだった。

 

シノア:――っ!!。

 

シノアは息を呑み、その場でわずかに身体をこわばらせた。

「壊れるよ?」という言葉が単なる脅しでも、演技でもなく、三葉の本当の悲鳴なのだと分かってしまったからだ。優を奪い合ったはずなのに、目の前で崩れかけていく親友の姿に、シノアの胸は締め付けられるような痛みに襲われる。

 

与一:(っ……これ、冗談とかそういう空気じゃないぞ……)

 

事情の全貌は見えていなくても、ただならぬ修羅場とただ事ではない重さに、与一は冷や汗を流しながら一歩引くことしかできなかった。

 

優:三葉……お前、そんなこと言うなよ……。俺は、お前を傷つけたくて……!

 

三葉:傷つけてるよ、めちゃくちゃにされてるよ……。あたしのこと好きって思わせるようなこと言って、期待させて、その直後に「シノアが好きだ」なんて……そんなの、精神がもたないに決まってるでしょ……。

 

三葉は優の背中に顔をうずめたまま、小さく首を横に振った。その声には、先ほどまでの強がりは完全に消え失せ、ただ愛する人に縋る少女の危うさだけが残されている。

 

三葉:シノアが大事なんでしょ? シノアを選びたいんでしょ? ……でも、あたしを捨てるなら、あたし、もう二度と立ち上がれない。優なしじゃ、生きていけないよ……。だから、お願い……シノアだけを選ぶなんて言わないで……。

 

優:くっ……!

 

頭を抱え、どう返答すべきか苦悶の表情を浮かべる優。

愛する男の背中で涙をこぼし続ける三葉と、その姿を痛切な瞳で見つめ返すシノア。

静まり返った夜の空気は、あまりにも重く、張り詰めていた。

 

**********************

 

三葉:女友達でいいじゃん。付き合えなんて言ってないよ。仲の良い、幼馴染みたいな、特別な、女友達ね?

 

その妥協点とも呼べない、あまりにも切なすぎる提案に、その場の空気がさらに凍りついた。

 

優:っ……! なんだよそれ……そんなの、余計に……!

 

シノア:……みっちゃん。そんなの、ご自分がすり減るだけです……! そんなのって、あまりにも……っ!

 

三葉:じゃあ譲ってよ!!!

 

シノア:――っ……!

 

優:…三葉…

 

三葉:譲ってよ、あたしに。あたしの人生つまんなかったから。楽しくなかったから。やなことばっかり...シノアがいたからまだ死なずにやってこれたけど。親には愛されなくて、仲間を死なせて、姉様と比べられて無能だって言われて…もうたくさん…

 

三葉:でも、優と出会って救われたわ。大好きな人が出来て、ヤキモキすることも多いけど、毎日が楽しいの。これまでそんなの考えられなかった。周囲に認められたいとかそんな理由じゃなくて、愛する人が出来たから、一緒に生きたくて、生きてるの。

 

三葉:あんたが連れて来てくれたことには感謝してるわ。でも…あたしももう、引き返せないところまで来てる。優を奪われたら、もう…生きていけないの。死ぬわ、あたし。

 

三葉の口からこぼれたあまりにも重く、切実すぎる告白に、その場にいた全員の息が止まった。

 

優:っ……! なんだよそれ……冗談でもそんなこと言うなよ……! 死ぬなんて言うな……!

 

優は慌てて三葉の腕をほどき、彼女の正面に回り込んで両肩をガシッと掴んだ。その瞳には、恐怖と怒りと、どうしようもない罪悪感が入り混じって激しく揺れていた。

 

三葉:冗談に見える……? あたしは本気だよ。優がいない世界なんて、もう意味がないの。

 

**********************

 

三葉:んで、シノアは守りたいんでしょ?選ぶんでしょ?ならあたしはせめて、トクベツな女友達でいさせてよ。壊れちゃうから。

 

その言葉は、拒絶することすら許されないほどに痛切で、優の胸を深くえぐった。

 

優:っ……!

 

シノア:みっちゃん……そんなの……っ!

 

三葉:いいじゃん、恋愛を求めるわけじゃないんだから。手をつないだりとか、ハグしたりとか、一緒に寝たりとかはするかもだけど。だって友達でしょ?あたしたち。

 

友達という名目を隠れ蓑にした、あまりにも歪で、すがりつくような提案。

その言葉の裏にある凄絶なほどの執着と、彼女自身が壊れてしまわないための精いっぱいの防衛線を目の当たりにして、優は言葉を失い、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

優:……そ、そんなの……友達の範囲を超えてるだろ……!

 

三葉:超えてないし。友達ならハグくらい普通でしょ。嫌なの? あたしが壊れてもいいわけ?

 

三葉は潤んだ瞳でじっと優を見上げ、拒絶を許さない無言の圧力をかける。その表情には、普段の強がりな彼女としての面影はなく、ただ目の前の光にしがみつく幼子のような危うさが漂っていた。

 

シノア:……っ。

 

シノアは唇をぎゅっと噛み締め、悔しさに拳を握りしめた。

自分の体の中に鬼を宿し、恋人として優の隣に立つことすら許されない自分には、この三葉の異常なまでの独占欲を強く否定する資格などないのだと突きつけられているようだった。

 

優:俺は……! お前をそんな風に都合よく扱いたくないんだ……! それじゃあ、お前が……!

 

三葉:都合よく扱われてるわけないでしょ。あたしが自分で選んでるの。……ねえ、優。ダメ……?

 

三葉が一歩優に歩み寄り、その袖を小さくキュッと掴む。

冷え切った夜気の中、三葉の切実な熱と、どうしようもない息苦しさが、その場のすべてを支配していた。

 

**********************

 

優:おまえ、いつかは結婚するだろ?今はよくても、いつかその相手が悲しむよ、おまえが、付き合ってもない男と手をつないだりハグしたり、あまつさえ一緒に寝たりしてたら。

 

優のその真っ直ぐな、あまりにも現実的で、そして彼女の将来を真剣に案じた言葉に、三葉はピタリと動きを止めた。

 

三葉:――っ……!

 

心臓を鷲掴みにされたかのように、三葉の瞳が大きく揺らぐ。

「結婚」「他の相手」――それは、優が自分以外の誰かと結ばれる未来を意味すると同時に、自分がその未来を受け入れなければならないという残酷な事実を突きつけるものだった。

 

シノア:優さん……っ。//////

 

シノアもまた、優の口から出たその言葉にハッと息を呑んだ。

不器用で、いつも突っ走ってばかりの優が、そこまで先の未来のこと、そして三葉の人生や尊厳をちゃんと守ろうとしてくれている。その誠実さに、シノアの胸は複雑な熱を帯びて締め付けられた。

 

三葉:そんなの……先のことでしょ……。そんなの、分かるわけないじゃない……。

 

三葉は震える声を絞り出し、俯きながら小さな拳を握りしめた。

 

三葉:あたしが結婚できるかなんて分からないし、そもそも、優以外の誰かとそんな未来なんて想像できない……したくない……。だから、今だけでいいの。今、あたしが壊れないように、そばにいてくれるだけでいいの……。

 

優:ダメだ、そんなの……! 今をごまかしたって、いつか絶対取り返しのつかないことになる。お前をそんな風に壊れたままにさせたくないんだ……!

 

三葉:じゃあどうしろって言うのよ……! 優が責任取ってよ……! あたしをこんな気持ちにさせた責任、取ってよ……っ!!

 

優:...くっ...。

 

三葉の瞳から再び涙があふれ出し、夜の闇の中でキラリと光った。

譲れない優の優しさと、決して引けない三葉の切実な執着が、夜風の中で激しくぶつかり合っていた。

 

**********************

 

三葉:...決めたわ。あたし結婚しない。優以外とぜったい結婚しない。

 

三葉:でも優はシノアと結婚したいんでしょ?じゃぁあたしは誰とも結婚しない。

 

優:…! なんだよそれ…!…そんなの、自分の人生を捨てるようなもんだろ……! 結婚しないなんて言うなよ……!

 

三葉:勝手でしょ? 私の人生だもん。誰と結婚しようが、誰と生きようが、私の勝手よ。もしそれがあんたにとって心苦しいことなら、それがあんたの責任ってことでいいじゃない。

 

優:……っ……!

 

シノア:みっちゃん……それは、あまりにも……ご自分の人生を軽視しすぎています……!

 

三葉:あはは、別にいいのよ。結婚は人生の目的じゃないんだから。こんなクソみたいな世界で、結婚どころか恋愛もできずに、想いを告げられずに死んでいった仲間なんて腐るほど見てきたわ。彼らに比べたら、自分の意志でやりたいように生きられることの方がよっぽど幸せよ。

 

三葉:愛してくれなかった三宮家なんてどうでもいい、むしろ復讐してやるわ。結婚なんて捨てて、あたしは優の傍で幸せに生きるの。

 

優:……っ……!!

 

三葉のその覚悟とも呪いともつかない言葉に、優は喉の奥を詰まらせ、何も言い返すことができなかった。

 

シノア:みっちゃん……。

 

三葉:ねえ、優。拒絶しないでよ。シノアと付き合うことも、守ることも否定はしない。その代わり、あたしを切り捨てないで。……お願いよ。

 

三葉は力なく微笑み、震える手をそっと優の袖にかけた。

 

優:(ぐっ……こんなの、どうすりゃいいんだよ……っ!)

 

**********************

 

シノア:…わかりました、みっちゃん。今はとりあえず、優さんの特別な女友達でいてください。

 

シノアの口から零れ落ちたその言葉に、優も三葉もハッと目を見開いた。

 

優:シノア……っ!? お前、何を……!

 

シノア:……これ以上、みっちゃんを追い詰めたら本当に壊れてしまいます。それに、私の身体の中には鬼がいて、今は普通の恋人のようには愛し合えない……。それなら、今の私たちにこれ以上の正解なんてありません。

 

シノアは自分の胸元を強く抑えながら、切なさを押し殺した凛とした笑みを浮かべた。その瞳の奥には、残酷な現実を受け入れつつも、大切な仲間を守りたいという強い覚悟が宿っている。

 

三葉:シノア……いいの……? あたしがこんなワガママ言って、ずるいこと言ってるのに……。

 

シノア:ずるいですよ、とっても。いつかきっと、そのワガママを撤回させますからね。……だから今は、それで手を打ちましょう。

 

三葉:……っ。ありがとう、シノア……。

 

三葉は堪えきれず溢れそうになった涙をぐっとこらえ、震える声で小さく呟いた。

完全な決着でも、誰もが救われるハッピーエンドでもない。けれど、それぞれが痛みを抱えながらも、目の前の現実と向き合って導き出した、あまりにも不器用で、切なすぎる妥協点だった。

 

冷たい夜風が静かに吹き抜ける中、複雑な想いを胸に抱えた三人の夜は、重く静かに更けていくのだった。

 

**********************

 

三葉:...ね、ねぇ。手つなご?

 

その小さな震えを含んだ問いかけは、妥協点を受け入れた直後の静寂をあっさりと切り裂いた。

 

優:て、手って……おまっ、さっきの聞いたばかりだろ……! ///

 

三葉:...知ってる?あたしさっきこっぴどくフラれたんだ、誰かさんに。

 

優: ...ぐっ...

 

三葉:あの場から逃げ出して、部屋に戻る途中に、廊下の窓が開いてたの。とても高くて、そこから落ちたら死んじゃいそうだったなぁ...

 

優:...おいっ...

 

三葉:本人に言うのもなんだけど。慰めてよ...?

 

三葉のその淡々とした、けれどあまりにも生々しい言葉に、優だけでなくシノアまでもが息を呑んだ。

 

シノア:みっちゃん……それ、本気で言ってるんですか……?

 

三葉:冗談に聞こえる?……自分でもびっくりするくらい、冷めた頭であんな高さの窓を見てたんだよ。「あぁ、ここから飛び降りたら、もうこんな苦しい思いしなくて済むのかな」って。……でも、できなかった。怖かったのもあるけど、それ以上に、優の顔が頭から離れなかったから。

 

優:三葉……。

 

優の表情から血の気が引いていく。

「特別でいい」「女友達でいい」と笑ってみせた彼女の裏側で、どれほどの絶望と死の淵があったのか。その現実を突きつけられ、優はもう「拒絶」の二文字を口にすることができなくなっていた。

 

三葉:だからさ。手くらい、つないでよ。……あたしがまた、あんな窓に足向けないようにさ。

 

三葉はそう言って、冷え切った小さな手を差し出した。

その白く震える指先は、今にも消えてしまいそうなほど頼りなげで、優の胸を締め付ける。

 

優:……っ。

 

優は自分の不甲斐なさに歯噛みしながらも、ゆっくりと手を伸ばした。

そして、三葉の震える手を自分の大きな掌でしっかりと包み込み、指を絡ませる。

 

三葉:……っ、あたたかい……。

 

三葉の瞳から、こらえきれなかった涙が一粒、ぽろりと零れ落ちた。けれどその表情には、先ほどまでの張り詰めた狂気ではなく、どこか救われたような、かすかな安堵の色が浮かんでいた。

 

シノア:……。

 

その様子を見つめながら、シノアは自分の拳を強く握りしめた。

嫉妬や悔しさがなかったと言えば嘘になる。だが、それ以上に――目の前の仲間を失わずに済んだという安堵と、この歪な関係を受け入れる以外に道がなかった自分たちの無力さに、シノアは唇を噛み締めるしかなかった。

 

冷たい夜風が三人の間を通り過ぎていく。

繋がれた掌の温もりだけが、壊れかけた世界の中で、かろうじて彼女たちを繋ぎ止める唯一の絆となっていた。

 

**********************

 

三葉:次は、頭撫でて...?

 

優:おい、"次"ってなんだよ...

 

三葉:いいからぁ...友達でしょ?あたしたち。

 

シノア:(一体どこまで行くつもりなんですか...?)

 

三葉は繋いだままの片手をふいと持ち上げ、そのまま自分の頭へと優の手を導いた。 拒絶すればまたあの暗い影が頭をもたげるのではないかという恐怖と、どうしようもない罪悪感から、優はそれ以上手を引くことができず、ただ言われるがままに動きを止める。

 

優:……おまっ……。

 

三葉:ほら、早く。……いい子いい子してよ。

 

甘えるような、それでいてどこか命令形に近いその響きに、優は観念したように小さく息を吐き、シノアに目配せする。

 

シノア:(とりあえず、撫でちゃってください)

 

優:(シノア、ごめん...)

 

そして、戸惑いながらもゆっくりと大きな掌を動かし、三葉のサラリとした髪にそっと触れる。

 

三葉:……ん……///。

 

三葉:……ふふ。温かい……////。優の手って、ほんと大きいよね...//////。

 

優:……これで満足かよ。

 

優は気恥ずかしそうに視線をそらし、ぶっきらぼうに呟きながらも、頭を撫でる手を乱暴にやめることはしなかった。 その不器用な優しさが、今の三葉にとっては唯一の命綱なのだと分かっているからだ。

 

シノア:(……ずるいです、みっちゃん。そんな顔をされたら、誰も拒絶なんてできなくなってしまうじゃないですか……)

 

少し離れた場所からその光景を見つめるシノアは、胸の奥がチリチリと焼けるような、それでいてどうしようもなく切ない痛みを覚えていた。

 

「特別な女友達」という名目で差し出される際限のない要求の数々。それがどこに行き着くのか分からないまま、不器用な三人の夜は、静かに、そして重く更けていくのだった。

 

**********************

 

三葉:...ごめん、もう、我慢できないっ...!!///// ギュッ

 

シノア:!!

 

優:おっおい!!///

 

与一:(わぁ...)

 

勢いでハグする三葉。

 

三葉:あぁぁ~...////// ギュウ~

 

優:ちょっだめだって...!!///

 

三葉:いいでしょシノア!友達と、ハグしてるだけ!!/// スリスリ

 

シノア:とても友達とハグしてるようには見えないのですが プルプル

 

シノアが引き気味にツッコミを入れるも、三葉は優の胴回りにしっかりと腕を回し、顔をその胸元に埋めたまま絶対に離れようとしない。

 

三葉:友達だからハグくらいするの! ねっ、優も動かないでよ……! このままでいさせて……。

 

優:う、動きたくても身動き取れねぇよ……! お前、力強すぎんだろ……!///

 

優は両手を宙に浮かせたまま、どうしていいか分からずに冷や汗を流す。

「特別な女友達」というルールの隙間を最大限に突いた三葉の猛攻に、優の理性は早くも崩壊寸前だった。

 

与一:(……あの、僕、空気を読んで完全に透明人間になったほうがいいのかな……?)

 

与一はこれ以上見ているのが申し訳なくなるほどの修羅場っぷりに、そっと目をそらし、再び眠る君月のほうへと小さく身を縮こまらせた。

 

シノア:……みっちゃん。手をつなぐだけでは飽き足らず、今度は抱きつきですか。……「友達」の定義、今すぐ辞書で引き直したほうがいいのではありませんか?

 

シノアは頬をぷうと膨らませ、不満げにジト目を向けるが、三葉はその背中にピタッとくっついたまま、勝ち誇ったように顔を上げる。

 

三葉:なーに? シノアだって、本当は代わりたいくせに。……でもダメ、今はあたしのターンだから! むぎゅー!

 

優:ぐっ……苦しいって……! おい、シノア、助けてくれ……!///

 

シノア:ふん、自業自得ですよ優さん。ご自分がまいた種なんですから、しっかり受け止めてくださいまし。……でも、ほどほどにしておいてくださいね、みっちゃん? あまり度が過ぎると、私の鬼よりも先に私が爆発してしまいそうですから……!

 

シノアの言葉に隠されたピリッとした独占欲と、三葉の必死な甘えが入り交じり、夜のキャンプ場には相変わらず一筋縄ではいかない複雑な熱気が立ち込めているのだった。

 

**********************

 

三葉:...そうよ、この女ったらし。スケコマシ。バカ優。///////

 

優:バカ優そこに並ぶんかい...///

 

三葉に胸元をぎゅっと掴まれたまま、散々な罵倒(しかしどこか甘えた響きの混じるもの)を浴びせられ、優は引きつった笑みを浮かべるしかかった。

 

シノア:ふふっ、「バカ優」ですか。……ですが、あながち間違った表現でもありませんね。優さんのその優柔不断で真っ直ぐすぎる性格が、二人をこんなにも悩ませているのですから。//////

 

シノアは腕を組み、呆れたような、けれどどこか楽しそうな視線を優に向ける。

 

優:お前までそんなこと言うなよ、シノア……! 俺だってどうすりゃいいんだよ……!

 

三葉:文句言わないの。ほら、まだ充電足りないんだから動かないで。……むぎゅーっ。

 

優:これ以上力込めるな、肋骨が折れる……っ!///

 

与一:(……なんか、もうこの三角関係、見慣れてきちゃったな……)

 

与一は君月の横で、遠い目をしながら二人のやり取りを生温かい目で見守るしかなかった。

冷たい夜風が吹き抜けるキャンプ場の片隅で、騒がしくも切ない、歪で奇妙な夜はまだまだ終わりそうにないのだった。

 

**********************

 

三葉:ふうぅぅ...///

 

優:ふうじゃねぇ...///...そろそろいいだろっ?

 

三葉:ん、ありがと。...ねぇ、シノアもハグしよ...?

 

シノア:えっ、私ですか...?

 

三葉:うん、だって、シノアとは親友だから。優とのことも、許してくれたし。ハグしたい。

 

シノア:み、みっちゃん... ギュッ

 

三葉:あ...

 

シノア:何とか仲良く、お願いしますよ... ギュ

 

三葉:うん、できるだけ、ね? ニコッ

 

シノア:ええ、最大限、お願いします...

 

優:(親友なのは間違いないんだな...俺とミカみてぇなもんか)

 

先ほどまでの張り詰めた修羅場が嘘のように、二人の間には穏やかで温かい空気がふわりと広がる。

 

シノア:……みっちゃん、ずるいです。さっきあんなに荒れていたのに、こんな風にまっすぐ抱きしめられたら……怒るに怒れないじゃないですか。

 

三葉:へへっ。ごめんね、シノア。……ありがとう。シノアがいてくれて、本当によかった。

 

シノア:……私も、みっちゃんがいてくれてよかったです。色々と言いたいことは山ほどありますけれど……。

 

ふっと柔らかく微笑み合った二人の姿は、ぎこちなくも確かに深い絆で結ばれた親友そのものだった。その様子を少し離れた場所から眺めながら、優はどこか遠い目をしつつ、深い安堵のため息を零す。

 

優:……なんだよ、さっきまであんなに殺伐としてたのに。女心ってやつは、全く分かんねぇな……。

 

与一:優くん、それが分かるようになったら大人の仲間入りなんじゃないかな?(遠い目)

 

決して平坦な道のりではないし、これから先も数々の難題が待ち受けていることは間違いない。それでも、最悪の結末を回避し、互いを受け入れ合ったこの夜の温もりは、三人の胸に確かな光を灯していた。

 

静まり返ったキャンプ場の夜空には、いつの間にか綺麗な星々が瞬き始め、不器用な若者たちの明日を静かに見守っているのだった。

 

**********************

 

男子組が寝た後。

 

三葉:シノア、今日は本当にありがとね...

 

シノア:いいんですよ、親友ですからねぇ

 

静まり返ったテントの中、寝息を立てる優や与一、そして君月の気配を遠くに感じながら、三葉とシノアは並んで座っていた。

 

三葉:……あたし、本気でどうにかなっちゃうかと思った。今までしんどくても、あたしは三宮家なんだって、なんとか強気で生きてきたけど...もう、優を知っちゃったから...優と両想いなんだって勘違いして、勝手に舞い上がっちゃって...彼と一緒に生きられるんだ、もう周囲に認められようとか思わなくていいんだーって...

 

シノア:みっちゃん...

 

三葉は膝を抱え、ぽつりぽつりと本音を漏らす。

 

三葉:ここから優を失ったら、また嫌な人生に逆戻りで、心にぽっかり穴が空いちゃう...そしたらきっと前よりしんどいだろうから、もう死ぬしかないって、本気で怖かったの...

 

シノア:...分かっていますよ。だからこそ、です。……みっちゃん、いくら「特別な女友達」だと言っても、あまり無茶な真似はしないでくださいね。本当に窓から飛び降りたりなんてしたら……私だって、優さんだって、一生許しませんから。

 

シノアは少し呆れたような、けれどどこか優しさを帯びたトーンで三葉の肩を軽く叩いた。

 

三葉:……うん、分かってる。もうあんな情けないこと考えない。優のそばにいるって決めたからさ。

 

三葉はふっと柔らかく微笑み、それから少し悪戯っぽく視線をシノアに向けた。

 

三葉:でさ、シノア。本当のところはどうなの? あたしが優にベタベタしてるとき、内心かなりイライラしてたでしょ?

 

シノア:――っ。//////

 

図星を突かれたのか、シノアは小さく肩を跳ねさせ、頬をぷうと膨らませた。

 

シノア:そ、それはもちろんですよ! 自分の恋人が目の前で別の女性に抱きつかれて、あまつさえ「バカ優」などと罵倒されているのですからねぇ。私の心中が穏やかだったわけがありません。

 

三葉:あははっ! よかった、シノアもちゃーんと女の子なんだ。

 

シノア:失礼ですね。これでも私だって、一人の少女として優さんのことを……っ。

 

言葉の途中で、シノアは恥ずかしさからか、小さく両手で顔を覆った。

 

自分の体の中に鬼がいて、今は普通の恋人になれない。その絶望的なハンデを抱えているからこそ、三葉の存在が救いであると同時に、どうしようもない焦燥感を生んでいるのも事実だった。

 

三葉:……ねえ、シノア。

 

三葉は自分の手を重ね合わせ、少し真面目な声色に切り替える。

 

三葉:あたしたち、変な関係になっちゃったよね。恋人でもなく、ただの友達でもなくて……。

 

シノア:……ええ。ですが、これでよかったのです。みっちゃんが壊れてしまうよりは、ずっと。それに……。

 

シノアは顔から手を離し、夜空に輝く星を見上げるように、真っ直ぐな瞳を夜の闇に向けた。

 

シノア:いつか私が、この身の内の鬼を完全にコントロールできるようになったら――その時は、ちゃんと「正々堂々」の勝負ですからね、みっちゃん。

 

三葉:……! うん、望むところよ。その時までに、あたしも優を惚れ直させておくんだから。

 

不敵に笑う三葉と、負けじと微笑むシノア。

 

互いに譲れない想いを抱えながらも、今は同じ痛みを分かち合う「親友」として、二人は静かに拳を合わせるのだった。

 

**********************

 

三葉:ところでさ...

 

シノア:はい?(嫌な予感が……)

 

三葉:これから毎日、優の部屋に勝手に行っていい?

 

シノア:えぇ~...

 

三葉:何もしない!何もしないから!友達の範囲!

 

シノア:何もしないって言葉が世の中で一番怪しいんですよ...

 

シノアはジト目を向け、頭痛をこらえこめかみを軽く押さえた。

 

三葉:だって、せっかく「特別な女友達」になれたんだもん。有効活用しなきゃ損でしょ?それに、あいつ一人部屋だと絶対ろくに片付けもしないし、変なもの食べてるかもしれないし。お姉ちゃん……じゃなくて、友達として見守ってあげないとさ。

 

三葉はふっと悪戯っぽく笑いながら、言い訳を次々に並べ立てる。

 

シノア:お姉ちゃんって言いかけましたよね? 今、完全に過保護な保護者目線になっていましたよ。

 

三葉:気のせいですー。で、どうなのシノア? ダメ?

 

シノア:ダメと言ってもどうせ聞かないんでしょう? ……まったく、これだからみっちゃんは油断がならないんです。

 

シノアは大きくため息をつきつつも、どこか諦めたような笑みを浮かべた。

 

シノア:その代わり、ですね。あまり度を越した行動をとったら、私の鬼と一緒に全力で阻止しに行きますからね。覚悟しておいてください。

 

三葉:はーい、分かってますって。ありがとね、シノア!

 

**********************

 

"ゆ、優……"

 

刀で貫かれる女性の背中。揺れる綺麗な金髪。鮮やかに広がる血飛沫。

 

肉を貫き骨を削りながら進む剣の感覚。苦悶の叫び声。

 

いてもたってもいられない、どうしようもない感情。

 

吐き気を催す不快感と絶望感に襲われ、優一郎は目を覚ました。

 

優:...三葉ぁっ!! ガバッ

 

三葉:...むにゃ...優...すぅ...

 

シノア:うーん、うーん...。

 

与一:ぐぅ。ぐぅ。

 

君月:ぐう~zzzzz

 

優:...あ、夢、か...?...うげぇ、気持ち悪ぃ... なんなんだよ...

 

優:(俺が三葉をフッたから、嫌な夢でも見たのか・・・?)

 

優:まだ真夜中か....もう1回寝るか。明日も見守りだし。

 

冷や汗でびっしょりと濡れた額を手の甲で拭いながら、優は荒い息を整え、再びまどろみに落ちていった。

 

**********************

 

翌朝。

 

君月はまだ起きていない。鬼との対峙はまだまだかかる。

 

予定だと、昼過ぎぐらいには起きるだろうか。

 

三葉:優、おはよ。

 

優:...おはよ、三葉。

 

三葉:...なんか顔色悪いわよ...?どうしたの?

 

優:べつに。ちょっと眠いだけだ。

 

三葉:ふーん?関係ないけど、寝癖ついてるじゃない。サワサワ

 

優:あ、ありがとう?

 

三葉:…サワサワ

 

優:…?

 

三葉:…ナデナデ

 

優:…三葉…?///

 

三葉:…あたしの大好きな、友達…///

 

優:おっおい///

 

**********************

 

シノア:朝から人の恋人といちゃいちゃしやがってますねぇ  

 

三葉:なによ、朝から機嫌悪いなぁ。友達として寝癖を直してあげてるだけでしょ?

 

シノア:その「友達」という名の免罪符をいいことに、昨日の取り決めを秒速で破っていませんか? ほら、優さんもそんな照れくさそうな顔をしていないで、早く離れてください!

 

優:お、おいシノア、違うんだ、これはただ寝癖をだな……っ!///

 

三葉:ほら見なさい、優もこう言ってるし。邪魔しないでよね、シノアも抱っこしてほしいなら後でしてあげるんだからさ。

 

シノア:誰がそんな子供扱いされたいですって言いましたか! ……まったく、朝から呆れてしまいます……。

 

シノアは大きなため息をつきつつも、どこか嬉しそうな、そして少し気まずそうな優の表情を見て、小さくクスッと意地悪げな笑みを零した。

 

与一:(……朝からいつも通り平和だな……いや、平和……なのかな?)

 

**********************

 

三葉:優…/// スリスリ

 

優:おい三葉、だから距離が近いって……! 朝から何やってんだよっ!///

 

シノア:(そろそろ寝取られに目覚めそうです…)

 

シノアは自分の両手で冷えた頬をパタパタと軽く叩き、脳内で勝手に暴走しかけた不穏なスリルを無理やり振り払う。

 

三葉:優…すき…///

 

優:なっ…///

 

シノア:おおぃ早速何やってんですか! グィッ

 

三葉:ちっ違うわ、友達としての好きよ…///

 

シノア:あなたは友達に赤面して発情するんですねぇ〜?

 

シノアは三葉の肩を後ろから力強く掴み、引き剥がすように引きずりながらジト目を向けた。

 

三葉:ちょっ、シノア! 引っ張らないでよ! あたしはただ、人間関係の距離感がバグってる友達なだけで……!///

 

シノア:バグってる自覚があるなら今すぐその距離感を直してくださいまし! 目の前で正妻の私を放置して、堂々とイチャコラするのは流石にNGです!

 

優:せ、正妻っておい……俺たちはまだ付き合って……いや、そうだけどさ……っ!//////

 

優は両手で顔を覆い、あまりの気恥ずかしさにその場にしゃがみ込みそうになる。

 

与一:(……あの、朝食の準備、僕がしたほうがいいのかな……この空気だと誰も動き出せなさそうだけど……)

 

与一は寝袋からそっと顔を出し、遠い目をしながら二人の修羅場(?)を眺めては、再びそっと目を閉じるのだった。

 

**********************

 

三葉:でもシノアも鼻が高いわよね、こんなモテる彼氏がいるんだから…/// スリスリ

 

優:おおーぅ…/// (む、胸が…)

 

シノア:褒めればプラマイゼロでお触りOKじゃないんですよ……!

 

シノアはそう言いながらも、どこか誇らしげな、そして少し呆れたような複雑な笑みを浮かべる。

 

三葉:いいでしょ、少し分けてよ。正妻の余裕を見せなさいよ、シノア。

 

シノア:余裕なんてあるわけないでしょう! みっちゃんが隙あらば虎視眈々と寝取りにきているんですからね!

 

シノアはプッと頬を膨らませ、再び三葉の背中をむぎゅっと掴んで優から引き離そうと奮闘する。

 

三葉:ちょっと待って、そんな引っ張らないでよ! 別に寝取りじゃないでしょ、共有、共有! シェアよシェア!

 

優:シェアってなんだよ、俺は物品じゃねぇぞ……!////

 

優は両手で顔を隠したまま、カオスすぎる朝のじゃれ合いに頭を抱える。

 

与一:(……「シェア」とか言い出したよ、この人たち……。もう僕にはよく分からない世界だ……)

 

与一はこれ以上巻き込まれないようにと、器用に寝袋ごとゴロンと反対側へと転がっていくのだった。

 

**********************

 

朝食中。

 

シノア:というか私こそまだスキンシップしてなかったです、優さん。

 

優:…そ、そういや、どこまでだったら鬼化しないんだ…?

 

シノア:昨日は、優さんからハグされましたが、大丈夫でしたね…///

 

優:そ、そうだな…///

 

三葉:…なによ、甘酸っぱくしちゃって…

 

三葉はパンをかじりながら、少しだけ面白くなさそうに頬を膨らませる。

 

シノア:ふふっ、みっちゃんばかりずるい思いをさせるわけにはいきませんからね。……ほら、優さん。

 

シノアはそう言うと、持っていたカップを置いて優へとすっと体を寄せ、その腕に自分の腕を絡めて密着させた。

 

優:おっ、おい……! 急だな、シノア……!///

 

シノア:これくらいなら、鬼も暴れませんし……何より、私の特権ですからね。

 

シノアは少し誇らしげに目を細め、優の肩にコトリと頭を預ける。

 

三葉:ぐぬぬ……! それはちょっと反則じゃない!? あたしにも分けてよ!

 

シノア:ダメです! これは正妻の正当な権利行使なんですから!

 

優:お前ら、飯の最中に両側から引っ張るな……ご飯が喉を通らねぇよ……!///

 

与一:(……朝から今日も賑やかで、平和……なのかな?)

 

相変わらずの騒がしさに、与一は苦笑いを浮かべながら、自分のスープを静かにすするのだった。

 

**********************

 

三葉:…友達ってキスしていいんだっけ?

 

優:良いわけねぇだろ…///

 

シノア:ちょっとみっちゃん!? 脳内の「友達」の定義がいよいよ法に触れ始めていますよ!

 

三葉:えー? 欧米じゃ挨拶みたいなもんでしょ? ほら、親愛の情を示す健康的なコミュニケーションってやつよ。ね、優?

 

優:んなコミュニケーションがあってたまるか! どこの世界の友達が挨拶でキスすんだよ!///

 

三葉:じゃあさ、ほっぺたなら良くない? ほら、かすめるくらいなら。ね?

 

シノア:ダメです! ほっぺただろうが何だろうが、恋人の特権を勝手にカジュアルな日用品みたいにレンタルしないでください!

 

優:そうだぞ! あと顔が近い! 近いから! おい、誰か三葉を止めてくれ……っ!///

 

与一:(……朝食の席でいきなり治安が悪くなってきたな……)

 

**********************

 

三葉:なんか、イケナイ友達になっちゃう気がする…//////

 

シノア:分かってるならやめてもらっていいですかねぇ  

 

三葉:だって、優があんなに真っ赤になって慌てる顔、レアだし可愛いんだもん……。ついついもっといじめたくなっちゃうというか……。

 

優:ほらいじめるとか言い出した! てかそのイケナイ友達って言い方やめろ、余計に語弊が生じるだろ……っ!////

 

シノア:本当ですよ。みっちゃん、自覚があるならその暴走しがちなエンジンを今すぐ急ブレーキで止めてください。これ以上放置したら、鬼より先に私の理性がブチ切れそうですからね……! 

 

優:シノアまでキレるなよ……! でも、マジで頼むからこれ以上変な方向に暴走しないでくれ……。

 

三葉:えー? だって、一生このままじゃあたしが持たないもん……。ねえ、少しだけなら……ダメ?

 

シノア:ダメです! 一切合切、全拒否します!

 

優:(……あーもう、朝から頭いてぇ……。俺の平和な日常はどこに行ったんだよ……)

 

頭を抱えて項垂れる優と、バチバチと火花を散らしながら三葉を牽制するシノア。

 

与一:(……うん、今日もいつも通りの二人だね……。平和って素晴らしいなあ……遠い目)

 

**********************

 

三葉:そう言えば優。あたしシノアから許可もらったから、毎日優の部屋に行くからね

 

優:……は? はあぁ!? お前、何勝手に決めてんだよ! なんでシノアも許可出してんだよっ!///

 

シノア:ふふっ、昨日しっかり念を押しておきましたからねぇ。もちろん、「何もしない」という誓約付きで、ですが。

 

優:何もしないわけねぇだろ! 絶対にろくなことになんねぇよ! 俺の部屋がどうなっちまうんだ……!

 

三葉:なによ、せっかくお姉ちゃん……じゃなくて、友達として生活を管理してあげようっていう親切心なのに。不満そうな顔しないでよね!

 

優:管理ってなんだよ、俺は囚人か! てか、毎日そんなことされたら俺の精神が持たねぇっての!///

 

シノア:安心してください優さん。みっちゃんが暴走しそうになったら、私がいつでも突撃してスクープ……じゃなくて、制裁を加えてあげますから。

 

三葉:ちょっとシノア、物騒なこと言わないでよ! あたしはただ、健全な「特別な女友達」として遊びに行くだけなんだから!

 

優:どこが健全だ! 朝からこの調子で、毎日俺の部屋に押し掛けられるとか地獄でしかないだろ……!////

 

与一:(……毎日、か……。優くん、心労でそのうち本当に倒れちゃわないといいけど……)

 

与一は遠い目で優の背中にそっと合掌し、静かに朝食のパンをかじり続けるのだった。

 

**********************

 

三葉:(耳元で)ホントは嬉しいくせに…❤️

 

優:…!!///////

 

シノア:危険ですねー実に危険な女です グィッ

 

三葉がすっと優の背後へと回り込み、逃げ場を塞ぐように耳元で囁いた直後。

 

シノアの冷徹かつ迅速な引き剥がしにより、三葉の襟首が後ろへと鮮やかに引っ張られた。

 

三葉:ちょっ、シノア!? また後ろから引っ張らないでよ!

 

シノア:耳元への囁きは治安維持法違反です! みっちゃん、いよいよ手口がスパイか何かになってきていますよ! 隙あらば優さんの防壁を内側から崩す気ですね!?

 

優:はぁ、はぁ……っ……!/// (耳元であんなこと言われたら、心臓が持たねぇよ……!)

 

優は真っ赤に染まった顔を両手で覆い、机に突っ伏して大ダメージを受けたようにぐったりと項垂れる。

 

三葉:だ、だって、本当のことだもん……。優だって、嫌そうにしてる割に耳まで真っ赤じゃない。

 

シノア:本人にそれを自覚させるのは反則です! ああもう、朝から心臓に悪い……! 私の正妻としての威厳が日々すり減っていく気がします……!

 

与一:(……そろそろ優くんのHPがゼロになりそうだけど……大丈夫かな……?)

 

HP赤ゲージ寸前の優を横目に、シノアは三葉を両手で必死に抑え込み、朝食の席は相変わらずの大騒ぎのまま続いていくのだった。

 

**********************

 

シノア:…優さん聞いてください、この人最初は優さんから身を引くって言ってたんですよぉ??信じられますぅ…?

 

三葉:あぁ恥ずかしい、言わないで!///

 

優:…確かに、今の感じだとにわかに信じ難いよな…///

 

シノア:しかもなんとそれ、つい2日前ですからねぇ…

 

三葉:うっ……! もうその話は蒸し返さないでって言ったでしょ! あの時は、あたしだって色々と思い詰めて……その、頭がどうかしてたのよ……!///

 

三葉は両手で真っ赤になった顔を覆い、バタバタと地べたを足で軽くジタバタさせる。

 

シノア:頭がどうかしていた、で片付く問題ですか? 自分の手で身を引くと高らかに宣言しておきながら、蓋を開けてみれば「特別な女友達」だの「毎日部屋に通う」だの、怒涛の勢いで陣地を拡大しに来ているではありませんか。

 

優:……いや、本当にそうだぞ。昨日のあの殺伐とした修羅場はどこに行ったんだよ。お前、情緒どうなってんだ……?////

 

優は膝を抱えて地べたに座り込みながら、信じられないものを見る目で三葉を見つめ返す。

 

三葉:うるさいわねぇ! 女心と秋の空って言うでしょ! あたしだって必死なのよ、一度は諦めかけたけど、やっぱり諦めきれなくなっちゃったんだから仕方ないでしょ……!///

 

三葉はカカトで地面をトントンと鳴らしながら、プイッとそっぽを向いて小さく呟く。

 

シノア:まったく……。油断も隙もあったもんじゃありません。優さん、この危険人物の「毎日部屋に通う」という条約、今からでも破棄したほうがいいのではありませんか?

 

優:激しく同意だ……! 俺の部屋の平和が本格的に脅かされる気がするんだけど……!

 

三葉:却下! 一度結んだ条約はそう簡単には覆らないの! ……ほら、朝食冷めちゃうでしょ、早く食べる!

 

三葉は強引に話題を切り上げようと、無理やり優の前にパンを押し付けるのだった。

 

**********************

 

朝食後。

 

三葉:でも優も嬉しいでしょ、タイプの女に言い寄られて♪

 

優:なっ……! は、はぁ!? なに自分で「タイプの女」とか言ってんだよ……!///

 

三葉:だって昨日、与一との会話、全部聞いちゃったもん.../// スリスリ

 

優:開き直りやがって...///

 

シノア:――っ! 忘れたふりをしていましたが、そういえば昨日の盗み聴きの件がありましたね……! 

 

シノアはキリッとした鋭いジト目を向けながら、すかさず三葉の肩を掴んで引き剥がす。

 

三葉:だって、あんなの聞かされたら誰だって自慢したくなるでしょ! 「ぶっちゃけ、三葉だな…///」って、自分の口ではっきり言ってたんだからさ!

 

優:あぁぁぁーーっ! それ以上言うな! 思い出すだけで死にそうになるだろ……!///

 

優は両手で頭を抱え、自分の発言の恥ずかしさにその場で身悶えする。

 

シノア:くっ……私だって昨夜は悔しくて枕を濡らしたというのに、目の前で堂々とイチャつかれる私の身にもなってください!

 

三葉:ふふんだ、勝負はここからよシノア! タイプだって言われたアドバンテージは、あたしがしっかり活かさせてもらうからね!

 

優:勝手に話を進めるな……! つーか与一、お前、女子トイレの壁越しに全部聞こえてるって知ってて俺に振ったな……!?////

 

遠くのほうで、与一は「ひっ……!」と小さく肩を震わせ、何食わぬ顔でそっと気配を消そうと後じさるのだった。

 

**********************

 

三葉:…シノアって多分、優とキスしたら、鬼化して危ないでしょ??

 

シノア:...そうでしょうけど、それが、何か...? 

 

三葉:優、あたしで練習した方がいいんじゃない...?//////

 

優:なっ……は、はぁあぁぁーーっ!? なに言ってんだお前はっ!!//////

 

あまりの斜め上すぎる提案に、優は素っ頓狂な声を上げながら全身の血が一気に沸騰したように真っ赤に染まる。

 

シノア:……は? みっちゃん、今なんと言いました? 練習、ですか……?

 

シノアの背後から、文字通り「ドス黒いオーラ」がもわもわと立ち上がり、その目は一切笑っていない冷たい氷のような輝きを帯びる。

 

三葉:だ、だって! シノアがそのままじゃいざって時に危ないし、優だって心の準備が必要でしょ? だから、その、友達としての「予行練習」ってことよ! ほら、あたしなら鬼化もしないし安心安全でしょ!?///

 

優:安心安全じゃねぇよ!! なんで俺が友達とキスの練習しなきゃいけなんだよ! 脳みそどうなってんだよお前はっ!!////

 

シノア:みっちゃん……。あなた、いよいよ本気で私の逆鱗を踏み抜きに来ていますね? 「友達」という名の全自動優さん攻略チートアイテムを開発したつもりでしょうが、それ以上調子に乗っていると、鬼ではなく私自身があなたを地獄送りにしますよ……? 

 

三葉:ひっ……! じょ、冗談よ、冗談! そんな怖い顔しないでってば! あたしだって恥ずかしいわよ!///

 

三葉はそう言いながらも、どこか楽しそうな、そして頬を真っ赤に染めた挑発的な笑みを崩さない。

 

優:(……もうだめだ、俺の寿命は今日で縮む……。頼むからこれ以上俺の心臓にダメージを与えないでくれ……っ!//////)

 

**********************

 

三葉:あ~どうしよう、毎日楽しいなぁ~

 

シノア:...はぁ、全く... ヤレヤレ

 

三葉は両手を後ろで組んでスキップでもしそうな軽やかな足取りで、ケラケラと楽しそうに笑う。

 

優:どこが「どうしよう」だよ……。一番エンジョイしてやがるだろ……!///

 

優はまだ収まらない赤みを隠すように顔をそむけながらも、どこかやれやれといった表情でため息をつく。

 

シノア:ほんとうにですねぇ。私の胃痛と正妻としての苦労を少しは分けて差し上げたいくらいです。

 

シノアは小さく息をついた後、ふっと柔らかくて意地悪な笑みを浮かべて優を見上げる。

 

優:……なんだよ、その目は。

 

シノア:いえ? 優さんが毎日、大忙しで大変だなーって思いまして。ほら、私のケアも忘れないでくださいね、優さん?

 

三葉:ちょっとシノア、そこであたしの彼氏……じゃなくて、友達を独り占めしようとしないでよ!

 

優:誰が彼氏だよ…!////

 

与一:(……今日も今日とて、この人たちは元気だなあ……)

 

遠巻きにそのやり取りを眺めていた与一は、やれやれと首を横に振りながらも、どこか温かいものを見るような穏やかな笑みを浮かべるのだった。

 

**********************

 

君月は10時間遅れで無事目覚め、今日はそのまま解散となった。

 

23時頃。優の自室

 

コンコン

 

優:…はい

 

ガチャ

 

三葉:来ちゃった❤️

 

風呂上がりの降ろした髪、薄いTシャツ、ショートパンツ。

 

優:えぇ…/// ドキッ

 

突然の破壊力抜群すぎるビジュアルと部屋への侵略に、優は開いた口が塞がらないまま、その場で硬直する。

 

三葉:なによ、そんな間抜け面して。毎日行くって言ったでしょ? ちゃんと有言実行するタイプなのよ、あたしは。

 

優:いや、有言実行する方向がおかしいだろ……! てか、その格好はなんだよ! おまっ、隙だらけすぎんだろ……っ!/////

 

優は慌てて顔を背け、真っ赤になった耳たぶを両手で押さえる。

 

三葉:は? 別に普通じゃん、部屋着だし。ふーん、そんなに顔を真っ赤にして……もしかして、意識しちゃってるわけ?///

 

三葉は優の制止も聞かずにずかずかと部屋の中へと踏み込んでいく。

 

優:い、意識しねぇわけねぇだろ! 男の部屋に来る格好じゃねぇよ! おい、今すぐ帰れ! シノアを呼ぶぞ!

 

三葉:シノアなら、さっき「今日はとりあえず部屋の警備を放棄します」って言ってたけど?

 

優:なっ……あいつ、裏切りやがったな……っ!?//////

 

三葉は優のベッドの端に腰掛け、ふわりと柔らかい髪を揺らしながら、からかうような甘い笑みを優に向けるのだった。

 

**********************

 

三葉:優、こっちおいで ポンポン

 

優:いや、俺の部屋なんですけど…ってか平気で男のベッドに座るなよ…

 

三葉:いいじゃんこういうの、幼馴染みたいで。

 

優:幼馴染じゃなくてただの同僚だろ……! てか、余計に距離感がバグってんだよお前は……!/// スッ

 

三葉:なによ、そんな遠くに離れなくたって襲いかかったりしないわよ。……たぶん。

 

優:いま「たぶん」って言ったよな!? 絶対に安心できないやつじゃねぇか!

 

三葉:ふふっ、そんなに警戒しなくてもいいでしょ? ほら、せっかく静かな夜なんだし、たまにはゆっくり話でもしようよ。……ね?

 

三葉は膝を抱えて柔らかく微笑み、トントンと再び自分の隣のスペースを空けて優を手招きする。その無防備でどこか甘い雰囲気に、優はゴクリと喉を鳴らし、心臓の音がうるさくなるのを必死に抑え込むのだった。

 

**********************

 

三葉:うーん幸せぇ…/// スリスリ

 

優:三葉は友達三葉は友達三葉は友達 ブツブツ

 

三葉:ちょっと、なに呪文みたいに唱えてるのよ! あたしがそんなに危険人物に見えるわけ?

 

優:見えるどころの騒ぎじゃねぇよ! 男の部屋に風呂上がりのその格好で来て、ベッドに誘う奴がどこにいるんだよ……っ!///

 

三葉は優の必死な抗議を聞き流すように、ふふんと満足げに鼻を鳴らす。

 

三葉:だって、こうしてると落ち着くんだもん。それに……優も、嫌いじゃないくせに。

 

優:……っ! ///

 

図星を突かれたのか、優は言葉を詰まらせ、さらに顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 

優:……うるせぇ。さっさと話したら帰れよ……。

 

三葉:えー? せっかくの夜なんだから、もっとのんびりしようよ。ね、優?

 

**********************

 

優:というか何でこんな時間に来るんだよ、もう寝るとこだったのに…

 

三葉:じゃあ一緒に寝よ…?///

 

優:俺の話聞いてるか...?

 

優は突撃すぎる提案にひっくり返りそうになりながら、両手で激しくバッテンを作る。

 

三葉:聞いてる聞いてる! 「もう寝るとこだった」んでしょ? だったら一緒に寝るのが一番自然な流れじゃない!

 

優:どこが自然だ! 全く噛み合ってねぇよ! なんで男の部屋に来て、しかも同じベッドで寝ようとするんだよ、お前は危機感というものをどこに置いてきたんだ……っ!////

 

三葉:だって、シノア公認の「特別な女友達」だもん。これくらい特権として当然でしょ? ほら、布団の隙間、ちゃんと空けてあげるからさ。

 

三葉はそう言って自分の隣をポンポンと叩き、どこかからかうような、それでいて少し熱を帯びた瞳で優を見上げる。

 

優:そういう問題じゃねぇよ……! お前がそこにいたら、俺が一睡もできずにそのまま心臓麻痺で死ぬわ……っ!///

 

三葉:大丈夫よ、あたしが隣でしっかり添い寝してあげるから安心して?

 

優:(……あーもうダメだ、こいつのペースに完全に巻き込まれてる……誰か助けてくれ……っ!//////)

 

**********************

 

三葉:…気持ちいいことする…?//////

 

優:かえれー!!//////

 

優の絶叫が夜の静かな部屋に木霊し、あまりの破壊力に耐えかねた優は文字通り布団をひっつかんで三葉をベッドから引き剥がそうとする。

 

三葉:ちょ、ちょっと引っ張らないでよ! 冗談だって、そんなに顔を真っ赤にして本気で怒らなくてもいいじゃない!////

 

優:冗談ですむかぁぁーーっ!! お前、今夜だけで俺の精神を何回殺す気だ! いいから今すぐ自分の部屋に帰れ! 今すぐだ!!////

 

三葉:もー、せっかくの雰囲気が台無しよ...?

 

三葉はふうっと息をつきながらも、どこか満足げに、そして名残惜しそうに優のベッドからひらりと降りる。

 

三葉:わかったわよ、今日はこれくらいにしてあげる。また明日ね、優♪

 

優:明日も来んじゃねぇよ! 二度と来るな! 鍵閉めるからな!///

 

三葉はくすくすと楽しそうに笑いながら、ヒラヒラと手を振って優の部屋を後にする。

 

ガチャリ、と扉が閉まった音を聞いた瞬間、優はその場に力なく崩れ落ち、頭を抱えて深いため息をついた。

 

優:……はぁぁぁ……っ……。あいつ、マジでなんなんだよ……。心臓がいくつあっても足りねぇよ……っ////

 

一人残された部屋で、真っ赤に火照った顔を両手で覆いながら、優の長い夜はまだまだ終わらないのだった。

 

**********************

 

翌朝。

 

優:げーっ、うげぇーっ...げほ、げほっ...

 

優:…くそ。

 

優:(またあの夢だ、何なんだよ…!…感覚からして、俺が三葉を、殺してんのか…?!)

 

頭にこびりつく生々しい感触と冷や汗に、優は荒い息を整えながら洗面台の端にガシッと両手をつく。

 

昨夜の三葉との賑やかなやり取りの記憶が一気に吹き飛ぶほどの、あまりにも重く、おぞましい悪夢の残響が脳裏を支配していた。

 

優:(……なんで、俺が三葉を……っ。あんなに楽しそうに笑ってたのに、どうして……っ)

 

自分の手を見つめながら、優は全身から血の気が引いていくのを感じる。あの夢のせいで、胸の奥が冷たく締め付けられるように苦しかった。

 

爽やかな朝とは裏腹に、優は一人、自分の部屋の冷たい空気の中で深刻な顔を青ざめさせるのだった。

 

**********************

 

食堂でシノアと話す三葉。

 

三葉:引き際が分かったわ。エッチはダメみたい。

 

シノア:考えなくてもわかってくださいねー  グリグリ

 

三葉:痛い痛い痛い!ごめんシノアぁ〜

 

シノアの容赦ないグリグリ攻撃を受けながら、三葉は両手で頭をかばってキャンキャンと情けない声を上げる。

 

シノア:当たり前です! みっちゃん、あなた昨夜いったい優さんの部屋で何を仕出かしてきたんですか!? 私が警備を放棄した途端にこれですよ! 正妻の信頼を返してくださいまし! 

 

三葉:だってぇ、ちょっとからかってみただけじゃない! そしたら優があんなに盛大に発作を起こすもんだから、面白くてつい……!///

 

シノア:このエロ鬼がっ!面白がっていいラインと悪いラインがあります!

 

三葉:うっ……それは、まあ、少しは反省してるけどさ……。でも、優のあんな真っ赤になって慌てる顔、レアで可愛かったし……。

 

シノア:反省の色が微塵も見えません! このままでは優さんが本当に心労で倒れてしまいます。本日の「優さんのお部屋訪問条約」、一時凍結を勧告します!

 

三葉:それは絶対却下! せっかく掴んだ特権だもん、今日の夜も絶対に行くんだから!

 

シノア:この女、まったく懲りてません……! どなたか、この暴走機関車を止めるブレーキを私に分けてください……! 

 

**********************

 

三葉:優、おはよ♪

 

シノア:あなた、おはようございます♪

 

三葉:(うわぁ…)

 

優:…おはよ、二人とも。

 

三葉:えぇ、またなんか顔色悪いし?

 

シノア:確かに、顔色悪いですよ?

 

優:…何でもねぇよ。

 

三葉:…隠し事?

 

三葉はスッと目を細め、心配そうに優の顔をのぞき込む。昨夜のからかうような余裕は消え、その瞳にははっきりと鋭い観察眼が宿っていた。

 

シノア:昨日から様子がおかしいですね……。まさか、私が警備を放棄した隙に、みっちゃんがまた変なプレッシャーでもかけましたか?

 

三葉:かけてないわよ! あたしは昨夜、健全に追い返されたんだから! ねぇ優、ほんとに何もないわけ? その目の下のクマ、ただ寝不足って顔じゃないわよ。

 

優:……だから、なんでもねぇって言ってるだろ。ただの寝不足だ。心配すんな。

 

シノア:…何かあったら、言ってくださいね。

 

**********************

 

訓練中。

 

三葉の背中を見つめる優。

 

優:(俺が、こいつを?…この手で…?)

 

三葉:…なーにー?優ってば。あたしに見惚れちゃったの?///

 

優:…そんなんじゃねぇよ

 

優は慌てて視線を逸らし、手に握った刀の柄をきつく握りしめる。昨夜から頭を離れない不気味な夢の残像と、目の前で元気いっぱいに笑う三葉の姿がどうしても重なり、胸の奥がざわついて仕方がなかった。

 

三葉:ふーん? じゃあなんでそんな真剣な顔でじーっと背中見てたわけ? もしかして、昨夜の続きでも期待しちゃってる?♪

 

三葉はからかうように振り返り、小悪魔的な笑みを浮かべて優に近づいてくる。

 

優:なっ……! ばっか、馬鹿なこと言うな! 訓練中だぞ、ちゃんと前向けよ!////

 

三葉の軽口に誤魔化されそうになりながらも、優の心臓は別の意味で冷たく冷え込んでいく。

 

優:(……あんな夢、ただの気のせいだ……。俺がこいつを殺すなんて、ありえねぇ……!)

 

そう自分に言い聞かせるように、優は乱れた呼吸を整え、再び前を向いて剣を構え直すのだった。

 

**********************

 

夕方。

 

シノアと三葉は風呂に入っていた。

 

三葉:ってことがあったのよ〜!ね、絶対あたしに見惚れてたって!きゃ〜❤️

 

シノア:自分の恋人に対する親友の惚気話、えぐいですねぇ…

 

湯気が立ち込める大浴場の中で、三葉は湯船の縁に腕を乗せ、頬を紅潮させながらキャッキャと嬉しそうにはしゃぐ。

 

シノア:彼女でもないのにそこまで脳内をハッピーエンドに変換できるのは、ある種の才能だと思いますよ、みっちゃん。

 

三葉:いいじゃない! 昨日の今日であんな恥ずかしい思いしたんだから、これくらいのご褒美がないとやってられないわよ!

 

シノア:はいはい、よかったですね。……それにしても。

 

シノアは湯に浸かりながら、ふと目を細めて少しだけ声のトーンを落とす。

 

シノア:優さんのことですが……やっぱり、今日の昼間もどこか様子がおかしくありませんでしたか?

 

三葉:……あ。

 

三葉ははしゃいでいた表情をスッと引き締め、湯船の泡を軽く指先で転がす。

 

三葉:言われてみれば、確かに……。朝からずっと顔色悪かったし、訓練中もなんか変に上の空だったというか。あたしがからかった時も、いつもならもっとギャーギャー言い返すのに、なんだか必死で現実逃避してるみたいな……。

 

シノア:ですよね。普段の優さんなら、あんな風に自分の影を引きずるような引きこもり方はしません。……何か、一人で抱え込んでいる問題でもあるのでしょうか。

 

三葉:……。ねぇ、シノア。やっぱり今夜も、あたしがあの馬鹿の部屋に行って、無理やりでも何か吐き出させたほうがいいのかな……。

 

シノア:そうですね、私は今日野暮用があるので…悔しいですが、みっちゃん、今日も行ってきていいですよ?

 

シノア:(まさか、ね…)

 

**********************

 

自室に戻った三葉。

 

三葉:優のことは心配だけど、この後優のお部屋行くし...あたし真面目だから勉強しちゃおうっと...!

 

三葉:こっこれが...!!...男子が愛してやまないという......禁断の書.../// ゴクリ

 

三葉:... ペラペラ

 

三葉は秘密裏に手に入れたある本を読み始めた。

手配にはそれなりの手間がかかった。

乙女の涙ぐましい努力が、若干間違った方向へと空回りしている。

 

三葉:.../// ドキドキ

 

三葉:えっ、えっ...///...えぇぇぇーっ...!!////// ビックリ

 

三葉:そんな...///...こっ...こんなの...///...

 

三葉:.../// ドキドキ

 

三葉:...優も、こんなこと...したいと思ってるのかな...////// ドキドキ

 

三葉:...////// ペラペラ

 

三葉:...はぁっ、はぁっ...////// ペラペラ

 

三葉:...フーッ、フーッ...////// ドサッ

 

思わずベッドに倒れこむ。

 

三葉:...身体が...熱い...っ///// ドキドキ

 

三葉:...っ///...なにっ...これ.../////

 

三葉:...あっ、あっ、あ...////...あっ....////

 

三葉:...優...////...優っ...////...ゆうっ...!!//////

 

三葉:...好き...////...優っ...////...あっ...///...すきぃっ...!!//////

 

三葉:...ダメ...優っ...////...そこっ...!////...ダメっ...!!//////

 

三葉:...あっ!??!//////...あ~...///...あ... キュッ

 

三葉:...虚しい......めっちゃ虚しいんだけど、なにこれ...

 

三葉:...軽くシャワー浴びよ...

 

**********************

 

夜。

 

優の部屋をノックする三葉。

 

三葉:ごめんくださ〜い♪ コンコン

 

優:…留守です

 

三葉:あはは、何それぇ ガチャ

 

三葉は返事も待たずにドアを開け、ちゃっかりと優の部屋に侵入する。

 

三葉:留守の人間が「留守です」なんて答えるわけないでしょ、もう。……って、ちょっと、優?

 

部屋の中央に置かれたデスクの椅子に座ったまま、優は両手で頭を抱え、机に突っ伏したままピクリとも動かない。

 

優:……だから、留守だつってんだろ。帰れよ……。

 

三葉:またそんなこと言って。ねえ、本当にどうしたのよ、今日の昼からずっと。そんな暗い顔してさ。

 

三葉は心配そうな表情を浮かべると、優の隣まで歩み寄り、そっとその背中に手を置いた。

 

三葉:昨日から、なんか様子がおかしいよ。もしかして、あたしが昨夜変なこと言ったから気に病んでるわけ? それなら謝るからさ、顔上げなよ。

 

優:……お前のせいじゃねぇよ。お前は……関係ねぇ……。

 

優は低い声でそう呟くと、ぐっと歯を食いしばるように拳を握りしめる。背中に触れている三葉の体温が、なぜか今日の優にはひどく痛々しく感じられた。

 

優:(……またあの夢を見たらどうする。俺のこの手で、こいつを――…)

 

三葉:関係なくないでしょ。あたしの友達がこんなに思い詰めてるのに、平然としてられるわけないじゃん。……ねえ、優。何一人で抱え込んでるの? 私にも話してよ。

 

三葉は優の背中を優しく撫でながら、普段の軽口を一切封印し、まっすぐで真剣な瞳を優に向けるのだった。

 

**********************

 

優:...そう思うなら、いつもみたいに、笑ってくれないか...

 

優が絞り出すように発したその言葉には、いつもの威勢や照れ隠しは一切なく、ただ必死に何かを押し殺すような、痛々しいまでの切実さが滲み出ていた。

 

三葉:え……?

 

三葉は優のただならぬ様子に息を呑み、そっと背中に置いていた手を離して、優の顔を覗き込もうと体をかがめる。

 

三葉:優……? どうしたの、急にそんなこと言って……。あたしが笑ってくれたら、それでこの悩みは解決するわけ?

 

優:……頼むから、今は何も聞かないでくれ。ただ……お前が、いつものように俺をからかったり、笑ったりしてるとこを見ていたいんだ……。そうしてないと、俺……自分がどうにかなっちまいそうで……。

 

優は机に突っ伏したまま顔を上げない。その声のわずかな震えに、三葉は胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。昨夜からの異様な顔色、そしてこの怯えているかのような懇願。それが単なる冗談や照れ隠しではないことを、三葉の直感が鋭く告げていた。

 

三葉:……っ。

 

三葉はぐっと唇を噛み締めると、すぐに表情を切り替え、いつもの快活で少し勝ち気な笑みを無理やり作り出す。そして、優の背中に再びそっと手を回し、優しく、しかし力強くその背中をぽんぽんと叩いた。

 

三葉:もう、本当にしょうがない奴だなァ! 心配性なんだから!

 

明るく響く、いつもの三葉の声。

 

三葉:あたしがいつだってこうして隣にいて、笑顔でボコボコにしてあげるんだから、そんな湿気た顔してんじゃないわよ! ほら、顔上げなさいよ、優!

 

優はその声を聞きながら、ゆっくりと顔を上げる。そこに広がる三葉の笑顔を見て、優は震える手を強く握りしめ、胸の奥で渦巻く恐怖を必死に押し殺すのだった。

 

**********************

 

優:…ん、ありがと。なんか元気出たわ。

 

三葉:ふふっ、お代は身体でってねぇ~?/// ワキワキ

 

優:今日はもう帰るか? 

 

三葉:やっ、冗談冗談よ!

 

三葉は慌てて両手をブンブンと横に振って後ずさる。その軽口に引っ張られるように、優の顔にもようやくわずかな苦笑いが戻ってきた。

 

優:お前な……せっかくいい雰囲気だったのに、一瞬で台無しにする天才だな。

 

三葉:だって、いつまでも湿気た顔されてるより、いつもの優に戻ってくれた方が安心するでしょ? ……まあ、ちょっとはドキッとした?

 

三葉は悪戯っぽく片目をウインクしてみせるが、その瞳の奥にはまだ優を気遣う優しさがしっかりと残っていた。

 

優:……まったく、調子のいい女だ。でも……助かったよ。ありがとな、三葉。

 

三葉:――っ。//////

 

不意を突いた素直な礼の言葉に、今度は三葉のほうがわずかに頬を赤らめ、気まずそうに視線をそらす。

 

三葉:な、なに急に真面目な顔してさ…。///べ、別に、あたしが勝手にやりたくてやってることだし! 気にしなくていいわよ!

 

優:はいはい、そーですね。

 

**********************

 

三葉:……というかミカのコスプレ披露、流れちゃったわね……

 

優:あぁ、まあ、色々あったからなぁ

 

三葉:……ふふっ、今考えると馬鹿みたいだわ、あたし。

 

優:何が?

 

三葉:そのコスプレよ!あんたの気を惹くためだけに提案したんだから……///

 

優:…えっ?!そうだったのか?!

 

三葉:やっぱ気付いてなかったのね~大好きよこのにぶちんさん!

 

優:謎のテクニックでサラッととんでもねぇこと言うなよ…///

 

三葉:だって、あんたにハニトラ対策とか嘘ついて抱きついたら、避けられ始めたんだもん。こっちこいシノア!とか言って逃げられちゃった...

 

優:やっぱハニトラ対策嘘だったのかよ...///

 

三葉:だから、何とか気を惹きたくて、ひねり出したのが、ミカのコスプレなの。もう気持ちはバレちゃったから、必要ないわね...

 

優:まあ...とりあえずコスプレはいいさ。お前が元気でいてくれりゃ。

 

三葉:...彼氏として?

 

優:仲間としてだ。

 

三葉:...もーしぶと~い/// ポカポカ

 

優:友達の建前はどこ行ったんだよ...

 

三葉の繰り出す小気味いい拳が、ぽかぽかと優の肩を叩く。痛むはずのその感触が、今の優にとっては不思議と心地よく、心の底に澱んでいた不安を少しずつ溶かしていくようだった。

 

**********************

 

三葉:優、いい匂いする…////// スンスン

 

優:おまっ、急に何言ってんだよ……!/// 近い近い!

 

三葉:やばい、飛ぶかもしれない…//// スーッスーッ

 

優:飛ぶな!頼むから友達でいてくれ…!////

 

三葉:そうよ、あたしは優の、トクベツな、女友達…//// フーッフーッ

 

優:クスリでもやってんじゃねーだろうな!///

 

三葉:素でこれよ!何か悪い?!///

 

優:俺の心臓とシノアに悪いって言ってんだよ!///

 

三葉:それはさぁアレじゃん??

 

優:ダメだこいつ早くなんとかしないと。

 

なんだかんだ元気をもらった優。

 

**********************

 

三葉:…ってかそろそろ一緒に寝たいんだけど…?///

 

優:何で俺が悪いみたいな言い方なんだよ…///

 

三葉:だって、せっかくここまで良い雰囲気になったのに、いつまでもこうやってお預け食らうこっちの身にもなってよ……。ほら、隙間空けてあげるからさ、こっち来なさい!

 

優:だからなんで当然のように俺のベッドに侵入しようとするんだよ! お前な、さっきまでのしんみりした空気はどこに消えたんだ……!///

 

三葉:いいからいいから! 昨日は途中で追い出されたんだから、その分の埋め合わせよ! ね? 優も……嫌じゃないでしょ?

 

優:……っ。

 

図星を突かれて言葉に詰まる優の腕を、三葉は容赦なくグイグイと引っ張る。すっかり調子を取り戻した三葉のペースに巻き込まれながら、優の長い夜は、騒がしくも温かいまま更けていくのだった。

 

**********************

 

三葉:ね?朝までとは言わないからさ、ちょっと横になろうよ…///

 

優:…/// ゴクリ

 

三葉:…あ❤️…オオカミさんになっちゃう…?///

 

三葉の潤んだ瞳と、からかうような、それでいてどこか熱を帯びた誘い文句に、優の喉が大きく鳴る。

 

優:なっ……! だ、誰がオオカミになるかっ……! ばっかじゃねぇの、いい加減にしろ……っ!///

 

顔を真っ赤に染め上げて必死に否定する優だったが、その声は完全に裏返っており、説得力はゼロだった。

 

三葉:ふふっ、その反応、図星って言ってるようなものよ? ほら、そんなに固まらないで、こっちに来なさいってば。

 

三葉は力任せではなく、優の服の裾をキュッと掴んで自分のほうへ引き寄せる。逃げ場を失った優は、観念したようにふうっと大きな溜息を吐いた。

 

優:……はぁ……。お前なぁ、後でシノアに何言われるか分かんねぇぞ……。

 

三葉:シノアには内緒よ。――ね? 優。

 

優:……知らねぇからな……。

 

渋々といった様子でありながらも、優はついに三葉の隣へと腰を下ろし、そっとベッドのマットに身体を預ける。

 

静まり返った夜の部屋、二人の距離はもう、測るまでもなくすぐ目の前にあった。

 

**********************

 

三葉:…やばい…///…シたい…///

 

優:…っ…?!///

 

三葉:優もシたいでしょ、我慢は身体に毒だよ…////

 

優:だっダメだ!三葉!これ以上のことしたら、お前と二度と口聞かないぞ…?!

 

三葉:えぇっ?!そ、そんなぁ…

 

優:わかったらもう部屋に帰りな、ここは危険だ…(俺にとってな。)

 

三葉:…わかったわ、ならせめてここで寝かせて?おやすみ〜

 

優:あっ、おい、こら!

 

三葉:ぐうぅ〜っ、ぐうぅ〜っ。

 

優:なんてやつだ。こんなキャラだったっけ…??…おやすみ、三葉。

 

文句を言いながらも、三葉にそっと、自分の掛け布団を少しだけ引っ張ってかける優。

 

**********************

 

ゆ、優……"

 

刀で貫かれる女性の背中。揺れる綺麗な金髪。鮮やかに広がる血飛沫。

 

肉を貫き骨を削りながら進む剣の感覚。苦悶の叫び声。

 

いてもたってもいられない、どうしようもない感情。

 

吐き気を催す不快感と絶望感。

 

優:...三葉ぁっ!! ガバッ

 

三葉:…え?!…な、なに?!

 

優:…なんだよ、なんだってんだよ…!!

 

三葉:どうしたの優…?!

 

優:…!!

 

三葉:あたしの名前、呼んでたよ…///…夢見てたの…?

 

優:…悪い、ちょっと… スッ

 

三葉:優…?大丈夫…?

 

洗面所からゲーゲー聞こえてくる。

 

三葉:ゆ、優?!どうしちゃったの?!大丈夫なの?!

 

“すまん、三葉、今日はもう帰ってくれないか”

 

三葉:え、そ、そんな、吐くぐらい嫌な夢見たんでしょ、置いてけないよ…!

 

“帰れって言ってる!!”

 

三葉:…っ! ビクッ

 

“ごめん、頭を冷やしたい、帰ってくれ”

 

三葉:…わ、わかった…お大事にね、優…

 

**********************

 

三葉:帰れって、言われちゃった… ポロポロ

 

優への心配と同時に、拒絶された悲しみ、絶望が迫ってくる。

 

ふと、以前見た廊下の窓が目に入る。ダメだと分かっているのに、目が離せない。

 

三葉:…あ、あ、あっ… ガクガク

 

一歩ずつ、ゆっくりと、窓へ足が向かう。

 

三葉:ダメ、ダメ、だめなのに、身体が…. ガクガク

 

窓を開ける。

 

ここから落ちたらひとたまりもない。

 

三葉:ダメ…!絶対ダメ、なのに…!ダメ…!ガクガク

 

身を乗り出し、窓枠に足をかける。

 

三葉:ダメ…!ダメ…!!イヤだ、ダメっ…!!ブルブル

 

三葉:助けてっ…!!優っ…!!…シノアぁっ…!! キュッ

 

“みっちゃん!!やめなさい!!”

 

身体が引っ張られる。

 

三葉:…っ!シノアぁ、助けてぇ…!! グスッ

 

シノア:何してるんですか、あなたは…!!

 

三葉:ごめん、シノア、ごめん… ポロポロ

 

シノア:…とりあえず、私の部屋に来てください…!

 

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