『Fate/Desire of Thunderbolt』 作:山嵐のハイオーク
――どこか、懐かしい海の匂いがしていた。そこは活気に溢れた、海沿いの古風な街。いつの時代かも定かではない往時の博多を思わせる、賑やかな街並みのなかを、刹那(せつな)は何かに導かれるようにして歩いていた。自分の手を真っ直ぐに引いてくれているのは、どこか見覚えのある、凛とした顔立ちの少年(?)だった。よく見れば、それは幼き日、あえて男装を崩さずに自分をエスコートしてくれていた、かつての少女時代の宗茂(むねしげ)の姿であった。不思議と、夢の中の自分には華奢な男の子としての感覚はなく、どうしてか自身が「女の子(誾千代)」であるような、妙にむずがゆい、けれど確かな温もりに包まれている気がしてならなかった。見世物小屋の呼び込みの声や、買い物を楽しむ二人の無邪気な笑い声が、真夏の蜃気楼の向こうへと優しく溶けていく――。
「……ん、ぅ……っ」
おぼつかない覚醒の波とともに、刹那は雷雲のような黒髪のショートボブをシーツに擦りつけ、ゆっくりと目を覚ました。だが、視界が開けた直後、彼は自分が物理的に呼吸困難に陥りかけているという絶望的な現実に直面した。
「すー……、すー……」
「は、あ……っ……う、マスター……っ」
左右から同時に押し寄せる、圧倒的な肉の質量と微熱。昨夜、玄関から始まった怒濤のまぐわいの末に、刹那の電撃混じりの猛烈なヤリ返しバック座位結合によって骨の髄まで完全に分からせられた宗茂は、白金髪お団子ハーフアップを大胆に乱れさせたまま、175cmの長い美脚で刹那の胴体をガシッと挟み込んでいた。さらにその反対側からは、生まれて初めての処女喪失絶頂によって完全に霊基をショートさせ、気絶するように眠りについたアイアスが、その3人の中で最大の超巨尻と爆太ももを刹那の腰回りに絡みつかせ、上向きのツンとしたコニカル美乳を刹那の胸元へと無防備に押し当てていたのだ。寝相の悪い二人の美少女に完璧な「抱き枕」としてロックされ、身動きが取れない。あと一歩、二人の重厚な肉の壁に埋もれるのが遅ければ、本当に窒息死していたかもしれない。
「ふぅ……っ。二人とも、起きてよ……っ!」
顔を真っ赤に染めながら、もがくようにして二人の柔らかい肉体から這い出した刹那は、未だに寝惚けている彼女たちの白い肌をシーツごと揺らして叩き起こした。それから、昨夜の情事の濃厚な残り香を消すために窓を開けて空気を入れ替え、三人分の朝食を兼ねた昼食を作り、洗濯などの諸々の家事を生真面目な手つきで済ませていく。ようやく一息つき、息抜きにゲームでもしようかとスマホに手をかけた、まさにそのタイミングだった。ピンポーン、とアパートの古ぼけたインターホンが鳴り響く。
「わしが出る。……主殿は座っておれ」
まだ下半身に刹那の杭の余韻をズキズキと残し、どこか歩きづらそうにしながらも、宗茂が玄関のドアを開けた。そこに立っていたのは、やはりジュリア・ペンデルトンであった。
「……おはよ☆ 刹那クン、入らせてもらうし★」
部屋へと上がり込んできたジュリアの顔を見て、刹那は思わず息を呑んだ。その眩い金髪や、Kカップの胸囲を包む黒のシアーブルゾンはいつも通り華やかだったが、その目元には隠しきれない色濃いクマが刻まれており、青い瞳の奥は、まるで一晩中何かを演算し続けていたかのように、完全に目が座っていたのだ。
「ジュリアさん、その顔……大丈夫?」
「ん、まあね★ ――それよりさ、ちょっと今後の作戦方針なんだけど」
ジュリアはちゃぶ台の前にドサリと座り込むと、一晩中悩み抜いたであろう結論を、座った目のまま静かに口にした。
「昨日からウチら、いくら何でも街中で派手に動きすぎたわけ。バーサーカーの急襲もあったし、あの怪しい占い屋の廃屋の一件もある。アトラス院やオズワルドの網膜を掻い潜るためにも、潜入作戦はいったんストップ。しばらくは泳がせる意味でも、普通に『自然に行動する』って方針にしたいんだよね★」
「自然に……つまり、いつも通りの日常を送るってこと?」
「そ。焦ったところで、敵の本拠地の結界に弾かれるのがオチだしさ★」
ジュリアの冷徹な魔術師としての判断に、刹那は静かに頷いた。確かに、オズワルドという時計塔の裏の巨悪を前にして、焦って突っ走ったところで良い結果が得られるわけではない。しかし、一晩中恐怖とトラウマに一人で戦い、目元にクマを作ってまで自分たちのために泥の対策を練ってくれた目の前のギャル魔術師を前にして、刹那の内に、ある等身大の想いが静かに湧き上がっていた。
(ジュリアさん、いつも僕たちのために怒ったり、服を買ってくれたり、おカネを出してくれたり……。僕、まだ何もお返しできてないな)
可憐なルックスの奥に宿る、男の子らしい生真面目な責任感。刹那はトントンと指先でちゃぶ台を叩き、少しだけ顔を赤らめながら、意を決して真っ直ぐにジュリアの青い瞳を見つめた。
「あの……ジュリアさん。もしよかったら、今週末の『花火大会』、一緒に調査がてら、お祭りに行かないかな?」
その魅力的なギャルとしての外見に、ほんの少しだけ惹かれた自覚がなかったと言えば嘘になる。けれど、心の中では、これまで何かと世話になった彼女に対して、少しでも恩返しがしたい、その張り詰めた心を少しでも癒やしてあげたいという気持ちが、何よりも大きかった。
「――は? ちょ、ちょっと待って……っ!?」
「な、なんだと……っ!?」
「マ、マスター……っ!?」
次の瞬間、六畳一間に三人の美少女の絶叫が同時に炸裂した。当のジュリアは、まさかチェリーのショタくんだと思っていた刹那から、そんな直球のデートの誘いを受けるとは思ってもみなかったようで、あまりの衝撃に目を丸くし、自分の聞き間違いではないかと一度真面目に聞き返すほどに硬直していた。そして、背後からは凄まじい嫉妬の地獄が刹那へと襲いかかる。
「この浮気者めがぁーーーッッッ! 昨夜あれほどわしとアイアスの身体を同時に中出しで蹂躙しておきながら、もう別の泥棒猫を誘うなど、万死に値するぞッ!」
「そうです、浮気者ですマスター……っ! 私の、私の初めてを昨日あんなに激しく奪っておきながら、もう他の女性をお祭りに誘うなんて……ひどいですぅっ!」
「痛い、痛いよ二人とも……っ! ほっぺた引っ張らないで、肘で突かないでよぉ……っ!」
肌艶の良すぎる宗茂から左右のほっぺたをギチギチと容赦なく抓られ、昨日処女を散らされてメスの色香を纏ったアイアスからは細い腰の横を肘でゴツゴツと嫉妬混じりに突かれ、刹那は情けない声を上げてのたうち回る。室内に凄まじいハーレムの縮図が完成するなか、玄関先で静かに腕を組んで佇んでいたヴラド三世(ランサー)だけが、その厳格な口元にふっと深い笑みを浮かべ、椅子の代わりに壁に寄りかかりながら静かに声を響かせた。
「――行ってくると良い、ジュリア。余からも、そなたにその休息を勧める」
「えっ……ランサー?」
驚いて振り返るジュリアに対し、ヴラド三世は昨夜、女装させられて高めの声で自分に感謝を述べてくれたあの刹那の可憐な姿を思い出すように、頬の端を微かに緩めながら大局の格を以て促した。
「昨夜の拠点でのそなたの様子から見るに、我がマスターにはいささか『癒やし』が必要だ。ただでさえ泥のシステムは精神を侵す。戦いを前にして心を壊しては、勝てる戦も勝てなくなるのは道理。その少年の無垢な施し、素直に受けておくのが王道というものよ」
「……ランサー、あんたってば、相変わらず王様気質で粋なこと言うじゃないの★」
サーヴァントからの力強い後押しを受け、ジュリアは目元のクマを吹き飛ばすようにフッと柔らかく微笑むと、髪をかき上げていつもの不敵なギャルの笑みを取り戻した。
「いーよ、ダーリン♡ せっかくのお誘いだもん、ウチがばっちり、最高のお祭りにエスコートしてあげるし☆ ――セイバーちゃんたちもお留守番よろしくねー?★」
「おのれ泥棒猫め……っ!」
「マスター、私も、私も本当は行きたかったです……っ!」
二人の美少女が背後でハンカチを噛み締めるような悔しげな声を漏らすなか、かくして、刹那とジュリアの二人は、週末に開催される町内のそれなりの規模のお祭り(花火大会)へと、二人きりでデートに行くことが確定した。それは、凄惨なキャスター陣営の影を前にして、彼らに残された最期の、そして最も甘く淫らな、真夏の日常のひと幕となるのだった。