『Fate/Desire of Thunderbolt』 作:山嵐のハイオーク
アイアス(シールダー)の下世話な推理をさっと流し、遅めの朝食を終えたアパートの六畳一間は、一転して張り詰めた空気感へと変わり、本格的な作戦会議へと移っていた。──昨夜の激烈な情事の残り香と、ハサンの失禁の跡が残る畳の掃除に、顔を真っ赤にしながら一人で黙々と取り掛かっている刹那を除いて。
「いい★ 結論から言うと、アパートの防衛結界の自動探知ログから、昨夜何者かがウチらを奇襲しようとしてきたのは100%確実よ。……即効性の毒物を焼却した魔術反応が出てるしね☆」
ジュリアが腕を組み、Kカップの重厚な胸囲の下で白のシアーブルゾンを小さく揺らしながら切り出した。彼女の青い瞳は本物の魔術師の冷徹さを宿し、座った目のまま全員を見据える。
「問題は、この先どう立ち回るのがウチらにとって最適なのかってこと。……セイバーちゃん、ランサー、あんたたちの意見を聞かせてよ★」
昨夜、電波塔での激烈な死闘の末、完璧な三位一体の連携によってついにバーサーカー(ドゥリーヨダナ)を光の粒子へと還した。さらにアサシン(耽惑のハサン)に関しても、掃除中の刹那の股間に残る褐色の愛液の匂いからして、主人のオスの野生によって完璧に撃退されたと見て間違いない現状。残る敵勢力は、キャスター(バーバ・ヤーガ)と、いまだ真名も姿も不明なライダーの2騎のみとなった。
「現在のクラス相性を考えるなら、キャスターを真っ先に攻めるのは悪手というものだぞ★」
ジュリアは卓上に街の霊脈地図を広げ、人差し指で電波塔の周辺を叩いた。
「キャスターとライダー。クラスの相性関係だけで言えば、ライダーはキャスターに対して絶対的な優位を持つ。もしウチらが下手に動いてキャスターを追い詰めても、その直後にライダー陣営に漁夫の利を狙われれば、ウチらの犠牲は大きくなることが見込まれるからね★」
「では、どうするべきなのだ? ジュリア殿」
アイアスがベレー帽の下から大きな瞳をおぼつかなく瞬かせて問いかける。
「決まってるじゃん。ウチらが漁夫の利を狙う盤面を作るのが最善手なのは目に見えて明らか。……けれど、どうやってそんな都合のいい局面をこれから意図的に作ればいいかって話なわけ☆」
そうジュリアが言い淀んだ瞬間、腕を組んで佇んでいた175cmの白金髪の武将──宗茂(むねしげ)が、その深緑の瞳に老獪な戦略家の光を宿して静かに答えた。
「うーむ。3つの勢力が睨み合う三国鼎立の状況において、国が取るべき施策はただ一つ──『片方との不戦条約』であろうな」
「不戦条約、だと? セイバー」
ヴラド三世(ランサー)がその荘厳な黒い装いの下から、鋭い武人の眼光を宗茂へと向けた。
「如何(いか)にも。現在、我らはセイバー、シールダー、ランサーの3騎の英霊が揃う一大勢力といえる。これほどの戦力を持つ相手が、あえてこちらから攻めてこないというだけで、向こうは罠を勘ぐりつつも、一度戦力を温存するために『一考の余地あり』と踏んで静観するはずだ」
宗茂は『雷切』の柄にそっと手をかけ、昨夜の電波塔での不気味な違和感を反芻するように言葉を続けた。
「そして……一連の騒動の不自然な流れからして、おそらくライダーとバーサーカー、それに──昨夜主殿の寝所に現れたというアサシンも、すべて一つの徒党(同盟)を組んでいたと考えることができる」
宗茂のその大胆な軍略の主張に対し、ヴラド三世は低く厳格な声で問いを投げかけた。
「……待て、セイバー。あのスキンヘッドの狂人(アルベリヒ)と、ジュリアが警戒していたオズワルドという老魔術師は、単純に大聖杯を奪い合う敵同士ではないのか? 昨夜のバーサーカーは、地下の天井をぶち破ってまで地上へ飛び出して暴れていたのだぞ」
「あ──っ、そっか! そういうことじゃん!」
ランサーの問いかけに、ジュリアは何かに気づいたようにパッと顔を上げて補足した。
「ウチ、昨夜の地震のログをもう一度『解析魔術』で精査したんだけどさ★ バーサーカーが天井をぶち破って上がってきたらしき電波塔の地下深くから、明らかにアサシンともバーサーカーとも別種の、禍々しいサーヴァントの気配を感知したの! ――あれってきっと、キャスターの気配よ☆」
ジュリアの魔術的な裏付けを得て、宗茂は我が意を得たりと説明を続けた。
「やはりな。バーサーカーのマスターは、あの狂ったハゲで間違いない。ならば、この前調査に出たときにお前が断言した、あのアーノルドとオズワルドとやらが、残る2騎──キャスターとライダーのマスターと見れる」(※オズワルドがゴータマ・シッダールタによってバラバラに切り刻まれ、アルベリヒがキャスターの筋肉怪物へと墜とされた事の真相を、地上の彼らはまだ誰も知らない)
「アサシンのマスターの可能性も否めないが……攻めてきた(?)タイミングからして、あのハゲの差し金で間違いない。わしも含めて、多くの武将がよく似た戦法を使っていたからな」
宗茂はふっと不敵な笑みを浮かべ、掃除を終えてちゃぶ台の横へと戻ってきた刹那の可憐な顔を見つめた。
「実際、ジュリアの防衛結界と、主殿の超肉棒(杭)がなければ……わしたちは昨夜の時点で、確実に壊滅させられていただろうからな」
◆ようやくアパートの畳の掃除を終え、額の汗を拭った刹那が、ようやく話の輪へと入ってきた。
「それで……今のところ、これからどうする予定になってるの?」
その可憐な問いかけに、隣に座ったアイアス(シールダー)が大きな瞳を優しく細め、これまでに全員で話し合ってきた三つ巴のクラス相性や、漁夫の利を狙うべき現状の軍略を丁寧にまとめ、まだ最終的な結論には至っていないことを伝えた。すると、刹那はその日食の瞳に強い光を宿し、いつになく決意に満ちた男の子としての雄々しい表情で、ジュリアの青い瞳を真っ直ぐに見据えて言い放った。
「それなら、聖杯の贄(にえ)にされて、化け物に変えられた人たちの仇討ちをさせてよ。……ジュリアさん、前に僕に教えてくれたよね。晃(あきら)を殺した連中は、オズワルドの手下だって。だったら、今回の敵の変電所みたいな場所──地下霊脈の中継基地をこっちが先に制圧できれば、キャスターの生命力も、ライダーの戦力も、同時にそぐことができると思うんだ」
かつて晃の冷たい死体を看取ったあの日から、彼の内に眠る熱い衝動が、大切な者を理不尽に奪った巨悪への烈しい逆襲の炎を燃え上がらせていた。
「……うん。確かに初めてダーリンと出会ったときに、ウチがそう教えたね★」
刹那の真っ直ぐな野生の眼差しを受け、ジュリアは一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐにKカップの胸元を愛おしそうに大きく弾ませ、その顔に本物の魔術師の不敵な笑みをよみがえらせた。
「ダーリンの言う通り、霊脈の拠点をこっちが先にブチ抜けば、確実に完全勝利に近づけるし、大いにありかも☆ ――ウチもさ、もうあのオズワルドなんかにビビったりしない。っていうか、今のウチはダーリンに指一本触れさせないからねッ!♡」
「あ、ありがとう、ジュリアさん……っ」
超乳ギャルからの惚気(のろけ)を交えた猛烈な同意と熱い視線に、刹那は一瞬でショタの可憐な顔を真っ赤に染めてドギマギと縮こまる。しかし、そんな二人の甘い空気を遮るように、腕を組んで佇んでいた175cmの白金髪の武将──宗茂が、何かを閃いたとばかりに前のめりになって声を弾ませた。
「では、その町の霊脈を詳細に記した地図をこちらにくれぬか、ジュリア。わしが主殿と一緒にその俊足を以て、各地の霊脈で直接『魔力のサンプル』を集めてくる故、現在の最新の勢力図を完璧に作り上げようではないか!」
「ほう。セイバー殿、そなた自らが直接、霊脈のハッキング(斥候)に赴くと?」
ヴラド三世(ランサー)が鋭い武人の瞳を向けると、宗茂は頼もしく笑ってみせた。これにはヴラド三世も、ジュリアの遠隔の使い魔が持つ「距離によるノイズや探知の遅れ」という明確な欠点を深く踏まえた上で、深く得心したように静かに頷いた。
「……なるほど、妙案だな。ジュリアの使い魔の目だけに頼るより、英霊の直感でじかに魔力を確かめる方が確実だ。何より、万が一その場に敵の伏兵が現れるなどして危険そうならば、その場から『電光のごとき速さ』で主殿を抱えて即座に超高速離脱できるセイバー殿は、まさにその斥候作戦に向いていると言える」
「はい! では、セイバー殿がサンプルの回収を終えて戻り次第、即座にライダー側の霊脈の中継基地を制圧しに突入する、というわけですね!」
ベレー帽を被ったアイアスがキリリとした顔でその最終確認を済ませ、これによって、彼らの次なる電撃潜入作戦への明確な動きの方針が完璧に立ち上がったのだった。