※この作品はR-18です。

『Fate/Desire of Thunderbolt』   作:山嵐のハイオーク

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第22話:『熾天の巨岩、魔女が遺せし魔王の封印』

アトラス院の異端アルベリヒが令呪による完全狂化で無理やり底上げしたドゥリーヨダナ(バーサーカー)の力業では、切り刻んでも無限に増殖・魔改造されて押し寄せるバーバ・ヤーガの「筋肉の怪物の軍勢」に対して相性が最悪だったことは間違いない。だが──大アイアス(シールダー)にとって、この戦場は真逆の意味で独壇場の無双舞台と化していた。

 

「──はァッ!!」

 

漆黒のボディスーツがその驚異の肉体テンションを丸裸に浮き彫りにさせるなか、アイアスは筋肉の怪物の群れに対してかなり優勢に戦いを進めていた。キャスターの不気味な宝具汁によって作られたとはいえ、その材料はただの人間の肉体(一般魔術師の肉)にすぎない。怪異の格としてはアイアスの持つ絶対の霊基の敵ではなかった。アイアスが巨大な無敗の紫盾をブーメランがごとく夜空へ向かって烈しく投げ飛ばすと、超重量の回転刃と化した盾は、周囲の怪物たちの太いバルクの肉体をまとめて一瞬で上下に2等分へと綺麗に切断した。下半身を失い、ドロドロとした怪異の肉汁をぶち撒けながら、それでもなお動き続けた怪物たちだったが、上半身だけで這いずる動きの鈍った獲物を、戻ってきた盾と凄まじい膂力で文字通りひき肉のごとく叩き潰すのは、アイアスにとって造作もないことであった。

 

「こんなものか! スラブの大魔女ッ! ──これでは我がマスターを護るウォーミングアップにもならんぞッ!!」

 

盾をガシッと力任せに受け止め、アイアスは血の海のなかで不敵に吠えた。だが、その圧倒的な武威を前にして、敵の大魔女バーバ・ヤーガは恐怖するどころか、そのガリガリの骨の脚をガタガタと震わせ、不気味に顔を紅潮させて興奮した様子だった。

 

「──うっほーッッッ!!!♡♡♡」

 

老婆の濁った瞳が、獲物を前にした獣のようにぎらりと狂気に輝く。

 

「な、なんじゃあの娘ぉぉ!! めっちゃムキムキに仕上がっておるじゃないかえッ!? 特にあの太腿(ふともも)やっばァァァ!!! 誇張抜きで儂の胴回りの細さほどもあるぞッ! たまらんのぉ〜〜〜ッッッ!!!」

 

あまりのバルクの美しさに、老婆は興奮の臨界点を突破して鼻血さえたらりと流し始めた。

 

「それだけじゃない、盾を投げるあの腕のカットも完璧に仕上がっておる! ぷるんと胸を揺らしているが、その下に隠された大胸筋や腹直筋のキレも大したものじゃ! ──っていうかあのケツ! ケツなど、あれは反則じゃろうッッッ!!!? あれほどの超巨尻を誇っておきながら、現世の歴史(トロイア戦争)でよく男とばれなかったものじゃわえッ!!」

 

もはや暗殺や戦闘の目的すら忘れ、ただの狂気の筋肉フェチとしてアイアスの安産型ボディを大絶賛して褒め始めたバーバ・ヤーガに対し、アイアスは巨盾をガツンと地面に叩きつけて言い返した。

 

「余裕だな、ご老体ッ! ──ふんッ!!」

 

ズバ、グシャァッ!!

 

言いながらも、背後から這い寄ってきた怪物の頭部を容赦なく盾の角で叩き潰し、肉片へと変えながらアイアスは平然と告げる。

 

「──それと! 多分生前も周りに普通に女だってばれてたよッ!!」

 

アイアスの背中の後ろで、ボディスーツの背中にぴったりと守られながら戦況を見守っていた刹那は、緊迫した異界の戦場のなかで、心の中で激しく盛大なツッコミを入れていた。

 

(──いや、ばれてたんかいッッッ!!!???)

 

歴史に名を馳せる大英雄の、あまりにもお粗末な男装の真実と、大魔女の鼻血のホラーが混ざり合う不条理な戦場。

 

◆

(いやばれてたんかいッッッ!!!???)

 

歴史に名を馳せる大英雄のあまりにもお粗末な男装の真実と、大魔女の鼻血のホラーが混ざり合う不条理な戦場。刹那(せつな)が心の中で盛大なツッコミを入れた、まさにその瞬間だった。

 

「ひひっ、お嬢ちゃんの筋肉(バルク)がいくら極上でも、全ての怪物をそれだけで片付けられると思ったら大間違いだよえッ!」

 

不気味に吠えたバーバ・ヤーガが、持っていた髑髏の杖をガツンと地面に叩きつけて空間を烈しく歪ませた。

 

「──それでは我が最高峰のマスターよ。いよいよ、ぬしの出番だぞいッ!!」

 

奈落の底から湧き上がるおぞましい魔力の奔流。瓦礫を突き破って姿を現したのは、骨格そのものを肥大化させ、身長3メートルは優に超えるであろう、醜悪極まる『4つ腕の巨体(魔改造されたアルベリヒの末路)』であった。巨体は獣のような雄たけびを上げてアスファルトを爆砕し、その4本の丸太のような腕でアイアス(シールダー)へと一斉に殴りかかってきた。

 

「シッ──!!」

 

アイアスはこれまでと同じように紫の巨盾で両断しようと真っ向から迎撃したが、

 

ドゴォォォォンッ!!

 

と異界全体を震わせる衝撃音とともに、今度は互いの絶大な膂力が真っ向から拮抗した。

 

「ふんっ!」

 

と力任せにアイアスがシールドのテンションでその巨体を力強く弾き返すと、4つ腕の怪物は咆哮を上げながら再び獰猛に殴り掛かり、そこから大気が爆ぜるほどの超高速の接近格闘戦が幕を開けた。

 

(──くっ、強い……っ! 押されている……!? 私は、また……この絶対の盾を持ちながら、最愛のマスターを護り切ることができないというのですか……っ!?)

 

黒のボディスーツに包まれた爆太ももを軋ませ、焦燥に大きな瞳を揺らすアイアス。だが、その窮地を救ったのは、背後に立つ少年の意思の輝きだった。刹那は自身の右腕を天へと掲げ、この聖杯戦争において、初めての『令呪』の引き金を引いた。

 

「──アイアス!! この戦いを、絶対に勝ち抜いてッ!!」

 

ドクンッ!!

 

赤い刻印が一画、夜闇を真っ白に灼くほどの魔力粒子となって爆発する。令呪の絶対的な魔力の奔流が回路を通じてアイアスの全身へと一気に注ぎ込まれ、彼女の霊基を限界突破させて底上げした。

 

「──あぁ、魔力が、溢れる……っ! ありがとうございます、マスターっ!!」

 

アイアスは地を蹴ると、令呪のブーストを以て怪物の頭上へと高く高く飛び上がった。空中、満月の光を背に受け、漆黒のボディスーツの下で極限のハリを誇るコニカル美乳と超巨尻を烈しく躍動させながら、彼女は巨盾を天へと振りかぶり、そのすべての力を解放した。

 

「──うおおおぉぉぉぉッッッ!!! 真名、開放──ッッッ!!!!」

 

『熾天砕く青銅の巨岩(バロリートス・アイアス)』──ッッッ!!!

 

彼女の咆哮とともに、真名を刻まれた盾が爆発的な魔力の質量へと形を変え、ものすごい勢いとともに真下へと放たれた。それは、空間のすべてを巻き込む凄まじいスクリューの如き超高速回転を上げながら、必死に抵抗する怪物の巨大な肉体を、脳頂から下半身にいたるまで、一瞬で跡形もなく木端微塵に粉砕したのだった。

 

ドガァァァァンッッッ!!!

 

爆煙のなか、アイアスは荒くなった息を整えつつ、白のサマーニットから覗く鎖骨を大きく上下させながら、静かにバーバ・ヤーガの喉元へと巨盾を突き付けた。

 

「これで終わりだ、バーバ・ヤーガ……ッ! 何か言い残すことはあるか?」

 

大魔女を鋭い眼光で射すくめ、アイアスが冷徹に問いかける。向けられた刃を前にして、バーバ・ヤーガはふぅと長い息を吐くと、力なく苦笑した。

 

「いやはや……完敗だよ、大アイアス。トロイアの偉大なる英雄よ。──ならば、言い残すことがある。少し待て、お嬢ちゃん」

 

老婆は言いつつ、震える指先で髑髏の杖を真っ赤な天へと掲げた。

 

「何を──っ!?」

 

とアイアスが瞬時にその首を刈ろうと踏み込んだ、まさにその瞬間。空に現れたのは、新たな使い魔などでは断じてなく──異界の天辺全体を埋め尽くさんばかりの、あまりにも巨大で厳かな『魔術の紋章(大魔法陣)』であった。

 

「儂は、あのオズワルドの小僧のような、ずる賢いだけのクズが反吐が出るほど嫌いでねぇ……★ ちゃあんと儂の試練を自らの力で乗り越えた勇敢な勝者には、相応の褒美を上げないと、大魔女のプライドが気が済まんのじゃわえ」

 

老婆は濁った瞳を、刹那の日食の瞳へと真っ直ぐに向けた。

 

「おい、小僧……いや、轟刹那。ようくお聞き。汝がこれより対峙するあの金の鎧の男は……並行世界において『征服』によって世界を泰平とし、真の平和をもたらした王。この世界においては、すでに覚者(ブッダ)となって六道を解脱した者──ゴータマ・シッダールタその人じゃッ!!」

 

大魔女の口から告げられた、現世の理を遥かに超越した神域の真名に、刹那の脳髄がドクンと戦慄に跳ねる。

 

「奴の力は、あまりにも危険すぎる……ッ! 何があろうと、あの男に大聖杯を握らせてはならぬッ! ──ゆえに、儂に勝ったおぬしには、儂が地下霊脈を侵食して得た『すべての霊脈のパス』を、今ここで全て繋げて譲り渡してやる! そしてぇっ──!!」

 

バーバ・ヤーガが叫び、第二の魔法陣を大きく展開しようとした、まさにその刹那だった。フッ、と背後の空間から忽然と現れた金の鎧の男──シッダールタの不可視の短剣が、老婆の背中を無残に深く突き刺した。

 

「が、はっ……、ふん、やはり、来おったか、不遜な王めぇっ!」

 

「──おのれ、不甲斐ないキャスターが。余計な真似を……っ」

 

背中から鮮血をブチ撒けながらも、バーバ・ヤーガは自らの死の瞬間の魔力を以て、天の第二の巨大魔法陣を全開で駆動させた。

 

どごぉぉぉぉんっ!!

 

と、魔法陣から放たれた絶対的な「霊脈の封印術式」が、金の鎧の覇王を直撃する。

 

「おのれ、キャスターァァァーーーーッッッ!!!?? 我が、我が威光の力が、封印されるだと──っ!」

 

シッダールタは激しい焦燥の声を上げ、その強大すぎる現臨の力を無理矢理へし折られるようにして、そのまま真っ赤な異界の底(大聖杯の深淵)へと一瞬で強制的に追い出され、掻き消えていった。ドサリ、と床に崩れ落ちたバーバ・ヤーガの身体からは、すでに無数の光の粒子が溢れ出し、死の消滅を刻み始めていた。

 

「……ひひ、儂は、確かに救いようのない悪人さね。……だがねぇ、悪人だからって、この美しい世界が、あんな理不尽な光で滅ぼされるのを望むわけじゃないのさ、刹那よ……」

 

光の粒子を撒き散らしながら、大魔女はかつて占い屋の暖簾の奥で囁いたあの預言と同じ、底知れぬ真剣な眼差しを刹那へと向けた。

 

「儂の未来視は、確かにこの街の『滅びの光』を見ておった。──じゃがね、おぬしが、あの白金髪の麗人(セイバー)をこの現世に召喚したあの瞬間から……未来の数式は、その滅びの光を内側から完膚なきまでに打ち砕くものへと、美しく変わったのさ。……励めよ、愛多きものよ。きっと、おぬしの願いは叶うであろう……さあ往け、占いはおしまいじゃ!」

 

言い終えた老婆は、最期に満足げな大魔女の笑顔を浮かべると、ついに無数の黄金の光の束となって、真っ赤な夜空へと高々と昇り、美しく消滅していったのだった。

 

◇

ガタン、ゴトン──。

 

「──あ、あれ?」

 

いつの間にか、辺りのおぞましい髑髏や肉片の異界は跡形もなく消え失せていた。刹那とアイアスが気づいたときには、二人は先ほどまで揺られていた、夕暮れの帰り道の電車の座席の中へと無傷で戻っていたのだった。窓の外には、いつもの見慣れた海沿いの街の静かな夕景が広がっている。だが、刹那の右手の手のひらには、バーバ・ヤーガが命を賭して繋ぎ変えてくれた「街のすべての霊脈の巨大なパス」が、熱い魔力の脈動となって確かに息づいていた。

 

「マスター……っ。急いでアパートへ戻り、ジュリア殿やセイバー殿にこのことを共有しましょう!」

 

「うん……っ! 行こう、アイアス!」

 

二人は固く手を繋ぎ合い、駅のホームへと滑り込んだ電車を飛び降りると、夕闇が迫る街の境界線を越えて、待つ仲間たちのいるアパートへと向かって猛然と急ぎ帰るのだった。

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