※この作品はR-18です。

『Fate/Desire of Thunderbolt』   作:山嵐のハイオーク

24 / 45
第23話『虚妄の巨神、不条理の王座を引き裂く断頭刃』

アパートへと帰り着いた刹那(せつな)とアイアス(シールダー)は、待っていた3人と合流するや否や、先ほど電車内の異界で起きた大魔女バーバ・ヤーガとの死闘と消滅、および最期に託された巨大な霊脈のパスの件を息を弾ませて伝えた。

 

「マジ!? アイアスちゃんやるじゃん☆ まさかそんな最悪の不意打ちを喰らったのに、真っ向から勝ち星を挙げちゃうとかマジ神だし!」

 

ジュリアは目を輝かせて感心したが、霊脈の掌握に関しては、自身たちの霊基の底から底上げされるように膨大な魔力が湧き上がる感覚から、すでに肌で気づいていたようだった。しかし、本当の問題はそこではなかった。

 

「……六道を解脱せし覚者、ゴータマ・シッダールタ。バーバ・ヤーガの最期の封印術式によって、その力の大部分を大きく制限されたとはいえ……」

 

宗茂(むねしげ)がその深緑の瞳をかつてないほど険しく細める。かの英霊が持つ本来の『格』を考えれば、力を削がれてなお、相手取るのは神霊級、あるいはそれ以上の絶望的な存在であることに変わりはない。

 

「だが、叩く好機は今しかあるまい。奴が封印の術式を強引に解き、本来の全能を取り戻す前に、こちらから総力戦を仕掛けるのが最善だ」

 

霊体化したヴラド三世(ランサー)の厳格な進言を受け、ジュリアは即座にその魔術回路をフル稼働させ、ハサンの礼装の断片から敵の本拠地たる『地下魔術工房』の座標を100%完全に逆算・特定した。

 

「往くぞ、主殿! 我らの戦力を以て、不条理の王座を打ち砕く!」

 

5人は一丸となってアパートを打って出た。幸いにも、前夜に完全狂化させられたドゥリーヨダナが本拠地の底から地上へとぶち開けたあの巨大な大穴は、未だに魔術的な修復もされぬまま、地下へと通じる漆黒の奈落としてぽっかりと残されていた。気配を極限まで警戒しつつ、抉れたアスファルトの闇を最深部へと向かって一気に駆け抜ける。途中、防衛のために決死の特攻を仕掛けてくるオズワルド陣営の私設魔術師何人かに遭遇したが、3騎のサーヴァントの圧倒的な連携の前には、彼らはまともな抵抗すらできず一瞬で斬り伏せられていった。やがて、重厚な防壁の扉をブチ破った5人の視界に、あの巨大な円卓の間が飛び込んできた。だが──。

 

「な、に……ッ!? ジュリア、あなたごとき売女が、どうしてこんな神聖な場所にまで足を踏み入れているのですの……ッ!? 全く、あいつらときたら、満足な足止めすらできないだなんて……っ!」

 

5人を狂気と不快感を剥き出しにして出迎えたのは、オズワルドの愛人、エレーナ・ラジオノワであった。彼女は豪勢なアンティークチェアにゆったりと鎮座するライダーのすぐ傍らに侍り、少し乱れた自らの艶やかな髪を片手で直しながら、もう片方の手で、自身の高級なドレスの股のあたりを必死に隠していた。北欧の血を引く、透き通るような白肌をこれでもかと淫らに上気させ、はだけた胸元を浅い呼吸で激しく上下させるエレーナ。その引き裂かれたドレスの隙間から覗く熟女の肉体の生々しい火照りは、オズワルドを惨殺してこの工房を私物化したあの薄緑色の髪の覇王によって、まさに先ほどまで、抵抗する間もなく徹底的に「最高の慰み者」として貪り尽くされていた直後であるという、逃れられぬ不条理な絶対支配の情景を物語っていた。かたや、その円卓の主座にいるライダー(シッダールタ)はといえば、金の鎧を外した、恐ろしいほどに筋骨隆々な褐色肌の上半身を堂々と晒し、腰にだけ荘厳なデザインの布を巻きつけた姿で、優雅に赤ワインを口に含んでいた。

 

「ほう。やはり来たか、アラヤの抑止の末端どもが。──だが、まだ自らの宿命に惑っておるな、童」

 

シッダールタは冷徹な深淵の瞳で刹那を射すくめると、手元に持っていたワイングラスをエレーナへと無造作に手渡して立ち上がった。一歩、二歩と、冷たいタイルを踏みしめて前へ踏み出す。その足取りに呼応するように、虚空から神々しくも禍々しい『金の鎧』のパーツがメリメリと現臨し、彼の肉体を隙間なく包み込んでいく。男が金の籠手に包まれた指先で、フッ……と傲然にこちらを挑みかからせるように挑発したその瞬間、潜入総力戦の激しい火蓋は容赦なく切って落とされた。

 

「──ハァッ!!」

 

宗茂が一瞬で神速の踏み込みを見せ、神代の雷撃を纏った『雷切』の刃を以てライダーの喉元へと斬りかかった。さらにそのすぐ後ろでは、黒のボディスーツに包まれたアイアスが、無敗の紫盾を全開で振りかぶって追従していた。だが、世界を泰平へと導いた覚者の武威は、力を制限されてなお、文字通り規格外であった。

 

キィィィンッ!!

 

「な……っ!? 素手で、わしの雷切を──」

 

ライダーは、宗茂が放った神速の一閃を、なんと金の籠手を嵌めた素手の掌で正面から平然と受け止め、力任せにその刀身を激しく払い除けた。そのまま流れるような体術で宗茂の激烈な剣戟のすべてを完璧にさばき切ると、凄まじい踏み込みからの強烈な『張り手』の一撃を胸元へと叩き込み、最長身の彼女の身体を容赦なく突き飛ばした。「──マスターは、私が護るでありますッ!」勢いそのままに、背後から突進してきたアイアスの巨盾による全力の突貫。だがシッダールタは、その超重量の突進を、紙一重の境でフッ……と横へと回るような滑らかな体術で容易く回避してみせた。

 

「わっぱどもよ。我が力が減退されてなお、この程度とは……我と戦うにはあまりにも力不足と言わざるを得ないな?」

 

冷酷に煽りながら、ライダーは避けた勢いをそのまま強烈な旋回へと変え、アイアスの黒ボディスーツに包まれた柔らかな側胸部へと、容赦のない『肘打ち』を深々と叩き込んだ。

 

ゴハァッッッ!!!

 

「きゃあぁぁーーーッッッ!?」

 

その絶対的な膂力の衝撃に、3人の中で最大の質量を誇る超巨尻の身体が、横方向へと派手に吹っ飛ばされて床のタイルを激しく転がった。

 

「なんてやつだ……ッ! セイバー、シールダー、一歩退けッ! 奴の威光は、まともに正面から受けて良いものではないぞ!」

 

ヴラド三世が瞬時に現臨し、強靭な両腕で槍を突き出して凄まじい接近戦(槍衾)を仕掛け、ライダーの追撃の足止めを引き受けながら、吹っ飛ばされた宗茂とアイアスに向けて退避の指示(撤退の号令)を烈しく送った。一方その乱戦の最中、後方にいたジュリアと刹那の二人は、立ち塞がった悪女エレーナとの直接の接敵を余儀なくされていた。

 

「おーほっほっほ! そんな程度ですの? よくもまあ、そんな不甲斐ない様で、偉大なる王シッダールタ様に楯突こうなどと考えましたわね! 万死に値する我が主への無礼、ここでその傲慢な首を綺麗に差し出して、恐怖のなかに果てなさいなッ!」

 

エレーナは狂ったように主への狂信の笑みを上げながら、一気にとどめの詠唱を唱え上げた。魔力の奔流が渦巻き、二人の真上の空間に、血に塗れた巨大な『処刑ギロック(ギロチン)』の刃が構築され、凄まじい速度で刹那たちの首を撥ねんと降り下ろされてきた。

 

「ジュリア、ここを退くぞッ!!」

 

「マスター、今すぐここから離脱するでありますッ!」

 

ドガァァァァンッッッ!!!

 

刃が床を叩き割る直前、傷だらけになりながらも戦線へと復帰した宗茂とアイアスの二人が割って入り、白金髪の長身の麗人たる宗茂がジュリアの身体を、そして黒のボディスーツを纏ったアイアスが最愛の刹那の身体を、それぞれ力任せにお姫様抱っこでガシッと抱き抱えると、電光のごとき速度でその場を高く飛び去った。もの凄い速度で地下の景色が後ろへと流れていくなか、宗茂に抱えられたジュリアは必死に声を張り上げた。

 

「セイバーちゃん! ランサーは!? ランサーはどうしたわけッ!?」

 

「奴なら、あの金の化け物を足止め中だ! ──おのれ、あの女の地属性魔術、地下で無策のまま力任せに挑める相手ではないぞッ!」

 

アイアスに抱えられた刹那もまた、彼女の黒ボディスーツ越しに伝わる豊満なコニカル美乳の確かな弾力を感じながら、奈落の大穴へと向かって凄まじい神速で疾走していく。「合流地点は、我らのアパートだ! 急ぐから、ジュリア、アイアス、決して舌を噛むなよッ!」オズワルドの惨殺という最大のイレギュラー、封印されてなお神域の武を誇るシッダールタ、そして熟女エレーナの狂信の地属性魔術。初の中継基地潜入作戦は、手痛い敗戦へと転じ、彼らはヴラド三世を戦場へと残したまま、爆炎の地下工房を背に、アパートの結界へと向かって猛然と逃げ去るのだった。

 

◇奈落の大穴から這い出るようにして、やっとのことで夜の地上へと飛び出た4人は、背後から凄まじい速度で追いついてきたヴラド三世(ランサー)のただならぬ気配に息を呑んだ。実体化した高潔な槍兵の顔は、かつてない戦慄に青ざめている。

 

「足止めしきれなんだ……ッ! 刹那殿、ジュリア、今すぐ逃げよ! ここで追いつかれるぞッ!!」

 

その忠告が夜闇に響き渡った、まさに次の瞬間だった。彼らが命からがら脱出してきたあの大穴の底から、すべてを圧殺するような黄金の光の柱が、夜空を引き裂いて垂直に吹き上がった。地を揺るがす轟音とともに、大穴の縁をアスファルトごと粉砕して地上へと姿を現したのは──先ほど地下工房の円卓で対峙した時とは、文字通り『比べ物にならない巨体』へと膨張を遂げた、ゴータマ・シッダールタの威容であった。金の鎧の隙間から禍々しい魔力の脈動を爆発させる覇王の体躯は、今や見上げるほどの巨神と化し、その絶対的な神域の覇気だけでアパートの周辺空間をビリビリと鳴らしている。アイアス(シールダー)の強靭な腕のなかに抱えられた刹那は、そのあまりにも理不尽な神霊級の威容に網膜を灼かれ、喉を鳴らすしかなかった。宗茂に横抱きにされたジュリアも、Kカップの胸元を激しく上下させて言葉を失っている。だが──奇妙なことに、巨神と化したライダーは、そこから追撃の爪牙を剥いてくることはしなかった。シッダールタは金の籠手を嵌めた巨大な腕を誇示するように組み、その日食の如き深淵の瞳で、地べたに這いつくばる刹那たちを見下ろして低く笑った。

 

「──我は、この現世での余興(聖杯戦争)を、密かに楽しみにしていたのだ。かつて世界をあまねく統一支配することに成功し、この我に向かう者が文字通り誰もいなくなって以降……対等に刃を交える強者と戦う機会など、とうに失われたと思っていたからな」

 

深く響く男の声音には、全能ゆえの底知れぬ退屈と、絶対の傲慢さが満ち満ちていた。

 

「しかし……まさか、これほどの手札を揃えておきながら、この程度の実力で我が城へと攻め入ってくるとはな。興ざめもいいところだ。──これでは、我が直接手を下すまでもない。貴様らが、なおもこの我への再戦を望むというのなら……我が下僕、我が臣下を倒して見せるがよい。──稀有な運命をその身に宿す者よ」

 

冷酷に刹那を見据えてそう言い終えた瞬間──黄金の光を放っていたその巨体は、音もなく一瞬にして掻き消えるように消え失せた。

 

「……な、消え……っ!? 嘘でしょ、これって……っ」

 

ジュリアのその呟きの通り、追撃に現れたはずのシッダールタの威容は、現代の言葉で言えばただのホログラム(立体映像)にすぎなかったのだ。直接手を下す価値すら見出さないという、これ以上ない不条理な見下し。宗茂も、アイアスも、ヴラド三世も、その絶対的な絶対強者を前にした己のあまりの無力さに、ギリギリと激しく奥歯を噛み締め、屈辱に身を震わせるしかなかった。静まり返るアパートの前。シッダールタが言い残した「我が臣下を倒して見せるがよい」という傲慢な言葉の重みが、夜の冷気となって刹那たちの肌を刺す。大聖杯の深淵で、覇王の手下たちが確実に動き出そうとしている不穏な気配のなか、彼らは手痛い敗戦の傷を抱えたまま、次なる激烈な総力戦(ボスラッシュ)の足音を、その魂の底で戦慄と共に聞き届けるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。