※この作品はR-18です。

『Fate/Desire of Thunderbolt』   作:山嵐のハイオーク

34 / 45
インタールード:『深淵の灯火、残照に踊る巨神』

ここは、すでに主(オズワルド)を失って久しい、かつての魔術師のアジト──その最中枢に位置する、冷たい石造りの円卓の間。かつて違法な陰謀が巡らされていたその円卓の主座にはいま、この世界の理を根底から揺るがす異世界の王(ゴータマ・シッダールタ)が、ただ一人で静かに鎮座していた。

 

「……ふむ。チンイも下したか。残るは、お前一人のようだな、アショーカ」

 

王はその深遠なる“目”を薄く見開き、遠く離れた第三の重要拠点で、自らの正式な第七妃が少年の獰猛なオスの野生によって完膚なきまでに調教され、敗北した事実を、寸分の狂いもなく正確に識(し)った。だが、王の声音に怒りや焦燥の陰りは微塵もない。その王の言葉に応じるように、暗がりのなかで片膝をついたのは、ただそこにいるだけで周囲の空間を圧倒するような、異様な巨躯を誇る大男であった。そして、男の背後の暗闇には、この西洋風の魔術工房の部屋にはあまりにも不自然で禍々しい装飾が施された、巨大な『黒い柱』が不気味に直立していた。

 

「では王よ、俺も行ってくる」

 

部屋の空気をメリメリと震わせるような、地響きに似た男の重厚な声。

 

「ああ、そうしろ。……チンイの様に、あえて奴らを試すような手加減をする必要はない。お前も存分に楽しむがよい──“この”不完全で、愛おしき世界をな」

 

「は、そうさせてもらおう」

 

男は至極淡々と、けれど絶対の忠誠を誓う武人としての礼を済ませると、背後に立っていたその巨大な黒い柱を軽々とその剛腕で担ぎ上げた。黒い柱は、まるで男の体の一部であるかのように、その屈強な背中へと自然に馴染んで見えた。そのまま踵(きびす)を返し、大男はスッと気配ごと空間から消え去るようにして、次なる戦場へと向かって姿を消した。静寂が戻った円卓の間。すべてを掌握する王は、次なる第四の拠点で待ち受けるであろう、神格を完全覚醒させたあの少年との殺し合いを幻視し、その美しい唇の端に微かな笑みを浮かべた。

 

「ああ……これだから、世界は面白い……」

 

◇一方その頃。刹那の精神を不気味な幻術で弄んだ報復として、その女の尊厳を跡形もなく徹底的に踏み躙られたチンイ。そして、その部下である孫悟空。あの廃病院での激戦の後、ジュリアは念の為にと捕虜とした二人に対し、ある強烈な束縛魔術を施していた。それは、「今後、轟刹那に絶対逆らわない」という絶対契約のもと、もし万が一にでも刹那たちへ再び刃向かう意思を見せれば、霊基の神経が内側から千切れるような、これまでに経験したことのない最大の苦痛に苛まれるという呪いの術式であった。解呪の天才であるチンイの技量なら、この程度の呪いはすぐに自力で解いてしまうだろうとジュリアは考えていたため、この魔術はあくまでも実力行使に打って出かねない「孫悟空対策」の足枷に過ぎなかった。二人は厳重な監視のもとで連れ帰り、アパートの空き室へと閉じ込められたのだった。

 

◇そんな過酷な強襲戦から明けた、翌日の昼下がりのこと。ジュリアの予想は、ある意味で完全に当たっており、ある意味で斜め上へと裏切られることとなった。コンコン、と軽快なノックの音とともに、何食わぬ顔でジュリアの部屋のドアを開けて訪ねてきたのは、他でもないチンイであった。

 

「おーはよ、大家さん♪ はい、これ今月分の家賃です♡ ……あらら? なんだか少し、顔色が悪いかしら?」

 

フフッと妖艶に微笑む彼女の背後には、不自然なほどにちょこんと小さくなった3人のチビスケたちが、大人しく並んでちょこまかと付いてきていた。──どう見ても、昨夜まで廃病院でヴラド三世やハサン、宗茂たちを壊滅寸前まで追い詰めていたあの孫悟空、沙悟浄、猪八戒の三兄弟の成れの果てである。極小ビキニに白衣という昨日の狂気の出で立ちはどこへやら。今の彼女は、どう見ても日本の『ヒトヅマ(人妻)』っぽさが半端ではない、絶妙に生活感の漂う小綺麗な私服ファッションに身を包んでいる。昨日まで少年の濃厚な種を無尽蔵に注ぎ込まれ、馬鹿みたいに無様にパンパンに膨らませていたあの下腹部はすっきりと元に戻っており、一体その服はどこから調達してきたのかという疑問がジュリアの脳裏に湧き上がった。だが、ジュリアが自身の魔術回路でチンイの衣服の構造をハッキング・解析した瞬間──それらの不条理な疑問のすべてが、ひとつの、あまりにも淫らな「解」へと結びつくのが分かってしまった。

 

(──こいつ、昨夜ダーリンに子宮の奥までたっぷり注ぎ込まれたあの熱い『精液』を、服へと変換して身に纏ってやがるわけっ!?★)

 

「……はぁ。悪いけどウチ、今それどころじゃないから」

 

あまりの不条理なバグに頭痛を覚えたジュリアは、それ以上の解析を放棄して、バタンッ! と音を立ててチンイの目の前で乱暴にドアを閉め、部屋のなかで一人で深く俯いた。

 

「マジで笑えないし……。こっちの『呪い』も、なんとかしなきゃいけないってのに……★」

 

ジュリアの目線の先、卓上にぽつんと置かれていたのは──窓にクッキリと「二本線」の陽性反応が浮かび上がった、一本の【妊娠検査薬(スティック)】であった。紛れもない、愛しのダーリン(刹那)の種が、自らの子宮の奥に確実に宿ってしまったという動かぬ証拠。ジュリアは服越しに、かつてオズワルドに嵌められ、着衣3層分を貫通して乳首が透けるという自らの壮絶な過去を象徴する『乳首ピアス』の冷たい金属の感覚を両手で確かめるようにそっと触れた。予期せぬ奇跡の始まりに対する激しい戦慄と、言葉にできない甘い微熱に、ただ静かに唇を噛み締めるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。