『Fate/Desire of Thunderbolt』 作:山嵐のハイオーク
「お邪魔しまーす☆ げ、何ここ、超狭いしウケるんだけど★」
深山から届いた不穏な地鳴りを背に受けながら、刹那(せつな)の先導でアパートの六畳一間へと上がり込んできたジュリア・ペンデルトンは、金髪を大きく揺らして室内を見回した。ブランド物の過激な夏服に包まれた肉体は、部屋の狭さゆえに否応なしに密着し、真夏の室内へと暴力的なまでに甘い香りを振り撒く。
「主殿、この女を本当に信用してよいのか? 私の感覚が、この者の内にある底知れぬ欺瞞を告げている」
お団子ハーフアップの白金髪を小さく逆立て、宗茂が油断なくジュリアを睨みつける。だが、ジュリアはそんな警戒を意に介した風もなく、刹那の学習机の椅子を勝手に引き去って艶やかに腰掛けた。
「そう警戒しないでよ、セイバーちゃん。ウチがその気なら、入った瞬間にこの部屋の構造ごと、君たちの魔術回路を書き換えて無力化しているし☆」
ふっとジュリアが指先を鳴らした瞬間、刹那のアパートの空間に、目に見えぬ複雑な魔術数式の配列が青白く浮かび上がった。彼女の専門分野である『解析魔術』の展開。刹那が魔法使いから叩き込まれた魔術の基礎基盤を以てしても、その一瞬で空間の構造を掌握する手際の鮮やかさは、息を呑むほどの速度だった。
「君たちの能力の波長は、昨日の夜から全部解析済み★ ――ねえ、マスターくん。君、自分が巻き込まれたこの儀式の正体、知りたくない?♡」
ジュリアの眼鏡のない青い瞳が、知的な光を宿して刹那を見つめる。彼女はカウンター越しに客を品定めするような大人の包容力を一瞬だけ覗かせながら、かつて半年前の肌寒いロンドンの夜、泥酔したロード・エルメロイⅡ世の愚痴から読み解いた『冬木の聖杯戦争の機密』を語り始めた。7騎の英霊の魂を炉心にくべ、その莫大なエネルギーを以て世界の膜に極小の裂け目を穿ち、万物の始まりである『根源の渦』への経路を拓くシステム。そして、この街の地下に、時計塔の監視の目をすり抜けて違法に構築されつつある『実験型大聖杯』の歪み。
「要するにね、この街の聖杯はバグだらけの不良品。まともに起動したら何が起きるか分かんないわけ。だからウチと手を組んで、裏からシステムをシャットダウンしちゃおうって話☆ ――どう? 悪い提案じゃないでしょ?♡」
いかにも頼れる偉大な先輩として、誠実そうな完璧な笑顔を浮かべるジュリア。だが、その本質は「無知な素人である刹那を騙し、都合の良い盾として使い捨てる」という冷徹な計算だった。刹那は、彼女が放つ底知れない異物の気配に圧倒されながらも、友人を救うための唯一の手がかりとして、その偽りの同盟を受け入れる決断を下すしかなかった。
「あらら、もうこんな時間? 長々とごめんねー★ 詳しい作戦は、また明日ってことで☆」
ひと通りの説明を終えたジュリアは、名残惜しそうに微笑むと、ブランド物のバッグを肩にかけ、艶やかな足取りで玄関へと向かった。
◇
「じゃ、おやすみ、マスターくん♡」
ひらひらと手を振り、ジュリアがドアの外へ消える。――パタン。アパートの建て付けの悪いドアが閉まり、金属製のラッチが噛み合う、まさにその音が響くか響かないかの刹那の瞬間だった。
「はぁ……っ、すま、ぬ……主殿、わしは、もう……っ、もう、我慢できぬ……っ、はぁ、っ」
突如として、背後から限界を超えて熱く、狂おしいほどに荒々しい吐息が刹那のうなじを灼いた。
「う、うわっ! 君、何するんだ……っ!?」
振り返る間すらなかった。ジュリアが滞在していた間、刹那の前に立ちはだかる「生意気な泥棒猫」に対して、武人としての理性を総動員して嫉妬と回路の奔走を必死に堪えていた宗茂。ドアが閉まった瞬間にその理性のタガが完全にブチ切れ、彼女は顔を耳まで真っ赤に染めながら、しなやかで強靭な膂力を以て刹那をベッドのシーツへと容赦なく圧し潰した。
「安心しろ、マスター♡ 今夜もわしが、お前を満足させてやる♡」
まだドアのすぐ向こう側の廊下には、ジュリアの去っていく足音が響いているかもしれない。万が一にでも大声を上げたら確実にバレてしまう――そんな極限の緊張感と背徳感のなか、衣服を鮮やかに引き裂かれ、目の前を塞ぐ圧倒的なメスの肉体の質量に刹那は気圧される。
「っ、あ……ひゃ、ぅ……っ、ん、な……っ!」
耳元に吹きかけられる熱い吐息と、暴走する回路の熱。刹那は羞恥とドギマギとした困惑で頭が真っ白になり、ただ心臓を早鐘のように鳴らしながら、必死に口を手で覆って情けない声を押し殺すことしかできなかった。そんな刹那の初々しい抵抗などどこ吹く風で、ベッドの上での愛撫の呼吸や肉体の主導権は、大人の余裕を纏った宗茂が完全に握ったままである。上気した肌を密着させ、宗茂は自ら根元までグズリと腰を落とし、己の豊満な肢体の質量をそのまま重力に従って落とし込むようにして、刹那の熱い猛りをその肉の厚みの最奥へと一気に呑み込んでいった。
「――っ、は、ぁあ……っ! 主殿、主殿ぉっ……♡」
抗うことのできない、重厚な快楽の奔流。だが、ただ一方的に組み伏せられ、翻弄されるがままだった刹那の内に、普通の男の子らしい意地が微かに芽生える。いつもやられてばかりでたまるか、という純粋な対抗心。刹那は羞恥に顔を真っ赤に染めながらも、下から這わせた両手で彼女の細い腰をガシッと引き寄せ、意地になって下から腰を強く突き上げた。電撃の魔術に頼ることなく、純粋な肉の触覚だけで、彼女の胎内のどこが敏感なのかを健気に探り、その最奥に隠された結節点(Gスポット)をねっとりと力強く掘り当てていく。
「っっ、あ、♡、ふ、っんあ……っ!? 主殿、そこ、は、らめ……っ、はぁぁうっ♡」
いくら男前な主導権を握っているとはいえ、刹那が自発的に見せた肉体の積極性と、的確に最も甘い場所を抉ってくる生々しい感覚に、宗茂の脳髄が驚きと悦びで灼かれる。刹那の健気な反撃に対して、宗茂は
「あは、っ♡ そう、そこだ……っ。主殿、上手、だぞ……っ♡」
と、格段に上機嫌になって彼を褒めそやし、耳元で甘い吐息を吹きかけながら、さらに深く腰を落として熱い中出しのぬくもりを最奥へと貪り尽くすのだった。主導権は未だ宗茂にあるものの、二人の距離が確実に、甘く縮まっていく夜。刹那は、降伏するように自分に抱きついて寝息を立て始めた白金髪の美少女のぬくもりを、愛おしそうに抱きしめ返すのだった。夜の静寂のなか、二人の呼吸が重なり合う。だが、そのアパートの境界線の向こう側では、ジュリアの冷徹な謀楽(謀略)と、深山で鳴り響くアイアスの防壁の火花が、確実に彼らの運命を狂わせようと不気味に動き始めていた。