※この作品はR-18です。

『Fate/Desire of Thunderbolt』   作:山嵐のハイオーク

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第5話:『代行者の休息、泥濘の salvation』

死徒を狩る聖堂教会の代行者として過酷極変化な(過酷極まりない)前線に身を置く女性──ノエル。彼女は、毎日のように死線を潜り抜ける血生臭い任務と、決して報われることのない代行者としての重圧により、心も身体もボロボロにすり減り、限界の一歩手前まで追い詰められていた。

 

「はぁ……もう嫌。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないわけ……?」

 

そんなある日、任務の一環として訪れた隣町の調査のついでに、彼女はこの街で密かに

「どんな疲れも一発で吹き飛ぶ」と絶賛されている噂のマッサージ店『Wave salon とろけ』の存在を耳にする。藁にもすがる思いで、ノエルは重い足取りのまま店のドアを押し開けた。

 

──ガラガラ。

 

「いらっしゃいませ。……あ、お疲れ様です。どうぞこちらへ」

 

来店早々、ノエルは受付の奥から姿を現した店主の姿を見て、不意にドクンと胸を高鳴らせた。次の客を呼びに出てきたのだろう。その店主の男は、背は高くなく、自分と同じか低いくらいの小柄な体躯をしていた。中性的というよりも、どこか女性的な顔立ち。少年や男の娘といった子供っぽさはなく、大人の男としての落ち着きがありながらも、その佇まいからは一切の害意や攻撃性が感じられない、圧倒的な「無害さ」に満ち溢れていた。

 

(な、何……この人。すごく優しそう……。それに、見てるだけでなんだか心が洗われるような……)

 

いつも周囲を警戒し、棘のある態度で自分を武装しているノエルだったが、その純朴で優しそうな大人の男性店主の雰囲気に、一瞬でトゲトゲした心を奪われてしまった。受付の用紙に記入を済ませ、少し緊張しながら待合席のソファに腰を下ろす。初めての来店ということもあり、財布の紐が固い彼女は、メニュー表の中から最もリーズナブルな『触るだけ?:手の温もり堪能』コースを選択した。

 

「一番お安いコースで申し訳ないんだけど……お願いできるかしら?」

 

「いえいえ! ありがとうございます。それでは、通路を入ってすぐのお部屋へどうぞ」

 

案内された個室は、清潔感があり、どこか甘く心を落ち着かせるアロマのいい匂いが漂っていた。ノエルは指示されるままに衣服を脱ぎ捨て、全裸の上に薄手のタオルを一枚かけた状態で、施術台のベッドへとそっとうつ伏せに寝そべった。

 

(ふぅ……。静かで、すごくリラックスできる空間……。隣町にこんな穴場があったなんてね……)

 

目をつぶって極上の香りに癒やされていると、静かにドアが開き、先ほどの無害そうな男性店主が足音もなく部屋へと入ってきた。

 

「お待たせいたしました。本日担当させていただきます、轟刹那(とどろき せつな)と申します。よろしくお願いしますね」

 

「あ、うん……ノエルよ。よろしく。……きゃっ!?」

 

刹那が自身の手にたっぷりと特製のマッサージオイルを馴染ませ、ノエルの白く滑らかな背中へとそっと触れた瞬間、彼女の口から小さな悲鳴のような声が漏れた。「触るだけ」の安価なコースのはずだった。しかし、ノエルの肌に触れた刹那の手は、そのどこか女性的な顔立ちの印象とは裏腹に、驚くほどに温かく、そして力強い【大人の男特有のごつごつとした節くれ立った大きな手】をしていたのだ。

 

「っ……あ、熱い……。それに、すごく力強い手……」

 

「あはは、僕、手がごつごつしてて、痛かったら言ってくださいね。……うわぁ、お客さん、背中も肩もガチガチですね。毎日、すごく大変なお仕事をされてるんじゃないですか?」

 

「……ええ、まあね。割に合わないっていうか、泥水をすするような毎日よ。周囲からは理不尽に怒鳴られるし、後輩は化け物みたいに優秀だし……。私なんて、いつ死んでもおかしくない前線で使い潰されるだけなの……」

 

刹那の大人の男の温かい手の温もりにすっかりとろけ、うっとりと目を細めたノエルは、普段なら絶対に他人に漏らさないような代行者としての弱音や愚痴を、ポロポロと溢れさせ始めた。すると刹那は、彼女の背中や腰のツボをやさしく撫で、愛撫するように揉みほぐしながら、その心地よい大人の男のハスキーボイスで耳元へとそっと囁きかけた。

 

「そっか……。それ、すごく辛いですね。実は僕もね、ちょっと前まではアパートの狭い部屋で、女の子たちに振り回されながら、ギリギリの生活をしてたんです。境遇、なんだか僕と似てるかもしれませんね。ノエルさん、本当に毎日頑張ってて偉いです……」

 

「ひゃぅっ!? ……な、なによそれ……っ」

 

耳元で温かい息とともに囁かれる、大人の男としての優しい包容力に満ちた言葉の数々。いつもは否定され、見下されてばかりだったノエルにとって、刹那の無条件の肯定と優しさは、乾ききった心に染み渡る最高の聖水だった。自分と似たような苦労をしてきたという彼の言葉に親近感を抱き、耳元で喋られるごとに、ノエルは年甲斐もなく心臓をバクバクと高鳴らせ、顔を真っ赤に火照らせてしまう。

 

(な、なんなのこの人……! 煽るのもうまいし、このごつごつした大きな手で撫でられるの、確かにたまらんわ……!!)

 

ノエルの脳内は、今や刹那の手の温もりと、初めて得られた圧倒的な承認欲求の充足によって、ピンク色の幸福感で満たしていく。

 

「ふぅぅ……。ねえ、刹那さん。私、しばらくここに通わせてもらうわ。……だから、また私のこと、たくさん癒やして、褒めて頂戴ね……?」

 

「はい、いつでも大歓迎ですよ。ノエルさん」

 

こうして、過酷な代行者としての日常の裏側で、ノエルは轟刹那という無害な佇まいをした大人の男性の手の温もりに完全に骨抜きにされ、本来の歴史で待っていた凄惨な闇堕ちのバッドエンドを、マッサージ店のベッドの上で見事に回避してしまったのであった──。

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