※この作品はR-18です。

『Fate/Desire of Thunderbolt』   作:山嵐のハイオーク

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第4話:『嵐の深山、黄金の盾と強欲の覇王』

商店街を駆け抜けた真夏の気まぐれな突風は、ジュリア・ペンデルトンの意味をなさぬミニスカートを気安く巻き上げ,年相応な刹那のドギマギとした動揺を誘うだけで、日常のなかに何事もなく融けて消えた。だが、その風が運んできたのは、単なる大気のうねりではない。この風が生まれた、人間を寄せ付けぬ真夏の山中の奥深くでは、世界の裏側の理不尽を体現する二つの異能が、すでに凄惨な死闘の火花を散らしていた。

 

「ふっふふ、はーはははは! このわし様を前にして、いつまでその貧相な板切れを掲げているつもりだ、雑種! 聖杯という高価な財宝、このわし様の手元に誇るにふさわしい代物だ! 貴様ごときが、わし様の全力をかけたこの棍棒を遮れると思うなよ!」

 

アトラス院の異端アルベリヒの冷徹な計算を背に、真夏の夜の山中を狂乱の重低音で支配するのは、バーサーカー――ドゥリーヨダナ。生まれながらの王としての絶対の独尊を宿した覇王が、その贅を尽くした底なしの富の質量を魔力へと置換し、山容すらも粉砕せんばかりに振り下ろす巨大な棍棒の猛撃が、幾度となく大気を沸騰させる。対するは、エルメロイⅡ世への怨念と、自己防衛の執念を燃やす魔術師ユーリ・クロムウェル。その全身の魔術回路は、アトラスの超高速演算と覇王の暴虐の前に、過負荷でズタズタに引き裂かれていた。血反吐を吐きながら泥の上に膝をつくユーリ。だが、時計塔を追われ、己の絶対防壁の研究だけを信じて戦場へ這い出してきた男のプライドが、最期の瞬間に極限の輝きを放つ。

 

「――舐めるな、アトラスの錬金術師め……ッ! 誰がここで終わってやるものか……ッ! 応えろ、アイアス!! 奴の理不尽な暴虐ごとき、我が執念の壁で、一枚残らず叩き潰してやれ――ッ!!」

 

ユーリの右腕に刻まれた三画の令呪――そのうちの「二画」が同時に、猛烈な残光を放ってかき消えた。莫大な魔力を強制注入されたシールダー――大アイアスの瞳に、烈火のごとき闘志が宿る。かつてトロイアの戦場にて、最強の英雄ヘクトールを昏倒せしめた巨岩の逸話。その神話の記憶を体現する、この絶対の盾に元から備わっていたもう一つの固有の攻撃機構(ギミック)が、二連の令呪のバックアップによって、ついにその重厚な牙を剥く。

 

「――突撃形態(アサルト・モード)、変形(トランスフォーム)開始」

 

アイアスが掲げた黄金の盾が、金属同士が軋む硬質な駆動音を轟かせながら、特撮の巨大ロボットさながらにその構造を機械的に組み替え始めた。七層の円環防壁がメリメリと内側へスライドし、重厚なパーツが複雑に噛み合い、畳み込まれていく。それは防御のための面ではなく、敵の霊基を粉砕するためだけに設計された、超高密度な黄金の質量兵器――数千、数万の積層たる青銅の重圧を宿した『巨岩の槌』へと完全変形を果たしたのだ。

 

「――強襲真名開放――ッッ! 『熾天砕く青銅の巨岩(バロリートス・アイアス)』――ッッ!!」

 

「な、に……っ!?」

 

ドゥリーヨダナが驚愕の声を上げる間すらない。アイアスの剛腕から放たれた、完全変形を遂げた黄金の巨岩は,大気を爆鳴させながら凄まじい弾道を描き、ドゥリーヨダナの巨大な棍棒を正面から木端微塵にへし折り,その黄金の霊基を粉砕せんばかりの圧倒的な圧壊の打撃を以て、強欲の覇王を深山の深淵へと完全に叩き潰し、敗走せしめたのだった。激闘の終結。静寂を取り戻した凄惨なクレーターの中心で、元の盾の形状へとパチリと機械的に戻ったアイアスを従え、ユーリは吐血しながら崩れ落ちた。自身の命の灯火が、あと数十秒で消え去ることを彼は理解している。だがその時――ユーリの研ぎ澄まされた絶望の感覚が、遥か上空の闇に潜む、かすかな魔力の波長を捉えた。

 

「……おい、そこから覗き見ている……正体不明の、どこの馬の骨だか知らねえ敵勢力さんよ……っ」

 

ユーリの指先から放たれた最後の魔術の残光が、夜空に潜んでいた『鳥型の使い魔』の胸を正確に、完璧にブチ抜いて叩き落とした。使い魔の魔術回路を通じて、血反吐の混ざった最期の呪詛を通信の向こう側へと叩きつける。

 

「……ばれてねーとでも、思ってんじゃねえぞ、ゲホッ……っ! 畜生が……っ。どいつもこいつも、俺の壁の向こうで……コソコソと、嗅ぎ回りやがって……っ!」

 

すべてを使い切り、自分の負けと死を悟りながらも、ユーリは隣に佇む、マスターの消滅を悟って悲痛な表情を浮かべる黄金の盾を見上げた。ただでは終わらない。時計塔から追われ、あの一等星のエリートどもに負け犬と爪弾きにされたまま、綺麗に霧散してやるものか。ユーリは血に濡れた右腕を、最後の力を振り絞ってアイアスへと向けた。そこに残された、「最後の1画」の令呪が、ドロドロとした怨念の赤を以て烈しく明滅する。

 

「……アイアス。僕はもう長くない、すまないな。……最初の脱落者になっちまったが、ただで終わるのはつまらん。どうせ、あのバーサーカーだってまだ生きてやがるはずだ……っ」

 

激しく咳き込み、血を吐きながらも、ユーリは狂おしいほどの不敵な笑みを口元に刻んだ。

 

「……令呪を、くれてやる……っ! だから、命令だ、アイアス……ッ! せめてこの聖杯戦争を、めちゃくちゃに引っ掻き回せ……っ! どんな汚い手段を使ってでも、どんなことをしてでもな……っ!!」

 

ガツン、と魂の最奥に楔を打ち込むような、狂気と怨念の絶対遵守命令。自らの執念の全てを、大アイアスという絶対防壁の現界維持、および「戦場を徹底的にかき乱す」という呪縛の因果へと全投入し、ユーリ・クロムウェルはそのまま静かに息を引き取った。

 

◇

「――っ、うわっ、冷たっ!?」

 

同時刻、この街の高級ホテルの最上階の一室。ベッドの上で使い魔との視覚リンクを一瞬で強制切断され、ジュリア・ペンデルトンはハッと目を見開いた。イギリスの裏路地で包容力溢れるバーのママをしていた頃からは想像もつかない、情欲を掻き立てる金髪碧眼のギャルとしての容姿。その冷や汗が、豊満な胸元へとチリチリと伝い落ちていく。

 

「嘘……なにあいつ。死に際の間際で、ウチの解析(スキャン)に気づいて使い魔を落としたわけ……? ――っていうか、あのシールダーの防壁と、あの盾を変形させた攻撃の質量、ヤバすぎなんだけど……」

 

容易に手駒にできそうだと高を括っていた刹那たちとは次元の違う、他のマスター陣営の底知れぬ執念と狂気。ジュリアは震える手で自身の額の汗を拭い、強制切断される直前の、使い魔の網膜が捉えていた深山の光景を脳裏で必死に反芻(構造化)していた。冷たい雨が降り始めた無人の深山、主を失った凄惨なクレーターの中心。そこに、マスターの命の灯火が消え去った後もなお、最後の一画が遺した『この戦いを徹底的に引っ掻き回せ』という呪いのような絶対遵守の命令(令呪)によって、強制的に現界を繋ぎ止められ、ただ独り、黄金の盾を抱えて雨のなかに立ち尽くしている、あのシールダーの生真面目でおぞましい(美しい)霊基の残照。その美しい瞳から大粒の涙を流し、届かぬ悔しさに声を詰まらせて慟哭している少女の、悲痛な映像の断片――。だが、彼女はいつまでも泣き崩れてはいなかった。ユーリが命を賭して与えてくれた現界の残り火を、決して無駄にはしないために。黄金の盾をしっかりと胸に抱き締め、アイアスは涙を拭うと、静かに真夏の夜の闇へと、その視線を向けた。『――主(マスター)の遺志を果たすため。あの強欲の覇王を打倒するために。わが防壁を預けるにふさわしい、新たなる契約者(マスター)を……っ』戦場を引っ掻き回すという呪縛の命令を胸に、新たなる主人を探して、黄金の盾は静かに歩き出し、その気配を夜の闇へと融かしていった。ホテルのベッドの上で、ジュリアの引きつった笑いが静まり返った室内に響く。刹那を都合よく使い捨てようと企む彼女の微笑みの裏で、聖杯戦争という名の残酷な不条理は、新たなる主人を求める盾の因縁を夜の静寂に滲ませながら、着実に彼らの日常の境界線を侵食し始めていたのだった。




というわけでバーサーカー、シールダー登場。ごめんよ、ドゥリーヨダナ。俺じゃ再現しきれない。
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