※この作品はR-18です。

『Fate/Desire of Thunderbolt』   作:山嵐のハイオーク

8 / 45
第7話:『不穏なる連続消失、怪異が啜る魔改造の肉汁』

真夏の朝の熱気がじっとりと満ちるアパートの六畳一間。ちゃぶ台の上に置かれた古いブラウン管テレビからは、ワイドショーのアナウンサーが神妙な面持ちで、この街を揺るがす不穏なニュースを読み上げていた。

 

『――続いてのニュースです。今月に入り、市内で若い男性を中心とした連続行方不明事件が相次いでいます。警察は臨時の捜査本部を設置し、事件と事故の両面から捜査を進めていますが、いずれの被害者も足取りが完全に途絶えており、現在も有力な手がかりは得られていません――』

 

「被害者はみんな、若い男ばっかり……。これも、ただの誘拐事件なんかじゃないんだろうな……っ」

 

テレビの画面を見つめながら、刹那(せつな)は雷雲のように漆黒な黒髪のショートボブを揺らし、日食のごとき瞳を暗く沈み込ませた。あの日、魔術師たちの犠牲者となり、見るも無残に変わり果てた姿となった幼馴染の晃の最期を看取った刹那の脳裏に、あの冷たい死体の記憶が強烈によみがえる。被害者の痕跡が一切残らない奇妙な法則性。それは、この街を侵食しつつある『聖杯戦争』という理不尽な魔術の理がもたらす、新たなおぞましい犠牲の予感に他ならなかった。世界の裏側の過酷さに、刹那は胸を締め付けられるような焦燥を抱き、小さく唇を噛む。昨夜、玄関から風呂場、およびちゃぶ台の横での怒涛の対面座位にいたるまで、宗茂(むねしげ)の激しい嫉妬の鬼による「お仕置き」を夜通し3連続で搾り取られたせいで,彼の細身の体躯には隠しきれない寝不足の疲労が濃く滲んでいる。

 

「案ずるな、主殿。いかなる不条理が潜んでいようとも、わが雷切の一閃がすべてを切り裂いてみせよう」

 

隣に座る宗茂は、昨夜たっぷりとお仕置き(交尾)を貪り尽くしたおかげで、白金髪を艶やかに輝かせ、肌艶の良すぎる大人の包容力を纏ってどこか上機嫌に微笑んでいた。一方、ベッドの上では、昨夜二人の熱い情事を指の間から凝視し、布団の中で股下をびしょびしょに濡らして自慰に耽ってしまったアイアスは二度寝を図り、安心したような寝顔をさらしている。テレビが告げる、あまりにも不自然で法則性のある行方不明事件。攫われた人間たちが、あたかもこの世界から一瞬で消滅してしまったかのように足取りが途絶えるその怪異の裏には――この極東の街の地下霊脈に潜む、ある最凶の老婆の狂気と、因果応報の凄惨な魔術のロジックが完璧に駆動していたのだった。

 

◇時間を少しだけ遡る。それは、違法な大聖杯の泥のシステムが地下で拍動を始めた、聖杯戦争の開幕直後の夜のことだった。街の外縁にぽつんと佇む、薄暗い廃屋の地下。時計塔の歴史ある名門の長男でありながら、魔術の研鑽を怠り、アンダーグラウンドの街で女を都合よく使い潰す情欲ばかりを貪っていた男――アーノルド・リッチマンは、勘当寸前の家系からの意地だけで、この極東の違法な戦いへと這い出てきていた。

 

「ハッ、俺をゴミ扱いして追放しようとしたあのジジイとババアめ……っ! 見ていろ、聖杯を掴んだら真っ先にあの実家ごと全員ぶっ殺してやる……ッ!!」

 

血に濡れた自らの触媒を魔法陣へと捧げ、アーノルドは狂わんばかりの怨念を込めて召喚の呪文を唱え上げた。立ち込めるおぞましい瘴気のなかから現界したのは、ガリガリに痩せ細った骨の脚を持ち、狂気に満ちた鋭い目つきをギラつかせた最凶の老魔女であった。

 

「ひひっ、ひははは! お前がわしの新しいマスターかいえ? わしはキャスター、バーバ・ヤーガ。スラブ最強の魔女さ。せいぜいよろしく頼むよ。――(なんだいんだい、ずいぶんと貧相で、中身の薄っぺらい男だねぇ……つまらなさがあふれ出てるよ。)」

 

「はは、ハハハハハハ。バーバ・ヤーガだって!? 滅茶苦茶有名人じゃないか。これは今回の聖杯戦争勝ったな」

 

老婆の不気味な現臨に怯むどころか、その大層な真名を聞いたアーノルドは、自らの勝利を確信して傲慢な高笑いを上げた。女を使い潰してよい道具としか考えていなかったクズ魔術師。だが、強い魔術師は強い使い魔を使役するという型月の絶対の法則性に従うならば,この瞬間に二人の主従の格は、完全に逆転していたのだ。不気味に目を細めた魔女は、その懐から、怪しく発光して美しく泡立つ液体の入った小瓶を取り出してみせた。

 

「ひひっ、マスター。そんなにカリカリ焦るんじゃないよ。忠誠の証にわしの宝具『鶏脚魔屋の生肉汁(バルク・ヤーガ)』をくれてやろうかね。さあこれをお飲み。きっとおぬしの求める強さが手に入るよ」

 

「ほう、それがお前のお宝か。一体どんな美酒かねえ」

 

傲慢に鼻で笑ったアーノルドは、大魔女の秘宝を完全に自らの力にできると信じ込み、手渡されたいかにも食欲をそそるその飲み物を、自らがぶがぶと勢いよく飲み干してしまった。

 

「……ふむ、見た目に反して、意外とねっとりしているな――」

 

言い終わらぬうちだった。アーノルドの肉体に、この世のものとは思えぬ激烈な異変が襲いかかった。

 

「が、あ、あ、あああアアアアアーーーーッッッ!?」

 

骨格が異常に軋んで砕け、筋肉が原形を留めないほどにドロドロと肥大化し、爆発的に膨れ上がっていく。人間の理性も魔術師としてのプライドも、その怪しい汁がもたらす肉体変異の狂気の前に一瞬で破壊され、アーノルド・リッチマンは、召喚からわずか数時間のうちに、老婆に使役されるだけの「実質的な肉塊の使い魔(筋肉の怪物)」へと完全になり果ててしまったのだった。主従が完全に逆転した廃屋の工房で、老婆は空になったシェイカーを冷酷に弄びながら、ギラギラとした目を闇に光らせる。

 

「ふむふむ! ほうほう、、、 まだまだやはり実験台が足りないねぇ、こんなものじゃないはずだよ、究極のmuscle bodyは! この街の若い男どもを片っ端から攫って、わしの調合した汁で原型を留めないほどの筋肉に変えてやろう。当世の人間どもにバーバ・ヤーガの試練をくれてやろうじゃないか!」

 

不気味な猟奇の牙が、着実にこの街の裏側を侵食し始めるなか、アパートの朝は、静かに終わりを告げようとしていた。




そんなわけでキャスター登場。オリキャラはいいな。あんまし深く考える必要もない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。