『Fate/Desire of Thunderbolt』 作:山嵐のハイオーク
真夏の太陽が南天へと昇り詰め、ジリジリとした蝉時雨がトタン屋根を灼く、昼頃のことだった。
「おっはよー☆ 刹那クン、生きてるー?★」
軽快な挨拶とともに、アパートの建て付けの悪いドアを叩く音が響いた。ジュリア・ペンデルトンである。だが、ガチャリと内側から鍵が外され、ドアが引かれた瞬間、ジュリアはギャルとしての不敵な笑みを、その場に凍りつかせることになった。
「あ……ジュリア、さん。……いらっしゃい」
迎えた刹那(せつな)の顔は、雷雲のごとき漆黒のショートボブを力なく揺らし、日食の瞳を眠気にトロンと曇らせて、ひどく気だるげな様子だった。それだけではない。開いたドアの隙間から、アパートの狭い玄関、あるいは六畳一間の空気に混ざり合った、甘く、重厚で、あまりにも生々しい『独特な臭気』が、容赦なくジュリアの鼻腔を歓迎したのだ。
(――嘘、なによこれ。……この匂い、マジで生々しすぎだし★)
昨夜、ジュリアが去った後の深夜から夜明けにかけて、この狭いアパートの中で一体どれほど激しく、狂おしいほどの情事が夜通し行われていたのか。それを本能的に察してしまった瞬間、ジュリアのKカップ超乳はどくりと弾け、薄手のシアーブルゾンの下でリング型ピアスの突起が昂りに震え、その股下は抗うこともできずに熱い愛液でわずかに濡れそぼっていった。
「と、とにかく入らせてもらうよ★」
ジュリアは自身の動揺を必死に隠すようにして、ズカズカと靴を脱いで室内に上がり込んだ。茶の間へと視線を向けると、そこには、遅めの朝食か、あるいは早めの昼食か、小さなちゃぶ台を囲んで穏やかに食事を楽しむ二人の美少女の姿があった。
「むぐ……、ん。やはり主殿の作ってくれた白米は美味いな」
「は、はい。とても、美味しい……です」
昨夜たっぷりとお仕置き(交尾)を貪り尽くして肌艶の良すぎる正妻・宗茂(むねしげ)が、175cmの長身を優雅に畳に預けて箸を動かしている。その奥では、昨夜二人の熱い情事を指の間から凝視し、布団の中で股下をびしょびしょに濡らして自慰に耽ってしまったアイアスが二度寝を図り、安心したような寝顔をさらしている。
「はぁ……。ちょっと君たち、ウチらは一応、命がけの聖杯戦争の同盟を組んでるはずなんだけど? なによその、実家みたいなのんきな空気感は★」
ジュリアはやや呆れたように、豊満な胸元を上下させてため息をついた。だが、その言葉が終わるよりも早く、宗茂の鋭い“直観”のスキルが閃光のごとく駆動した。ゴクン。口の中にあったものを力強く飲み込んだ宗茂は、白金髪を小さく逆立て、日食の瞳を持つ刹那の前にすっと立ちはだかるようにして、ジュリアを真っ向から見据えた。
「――ふん。気配からここに参じてくるのがおぬしら(ジュリア陣営)であることくらい、最初からわかっていた。西国無双たるわしの前で、隠密の真似事など通用せぬぞ」
「なによそれ、ウチは別に隠れてないし★」
二人の視線の間には、バチバチと目に見えぬ電気の火花が激しく飛び散っていた。一触即発の不穏な空気が六畳一間に満ちようとした、まさにその時である。
「はい、二人とも。そこまでにしなよ。……ジュリアさん、お茶、淹れたから」
気だるげなショタのルックスをした刹那が、淹れたての紅茶のカップをちゃぶ台に並べ、ジュリアの前へと座布団をスッと差し出した。その可憐な気配に、宗茂もジュリアもハッと我に返り、お互いにふいっと顔を背けながらも、ようやく本題に入るために車座となったのだった。
「――で、詳しい作戦の話なんだけどさ☆」
ジュリアははだけたシアーブルゾンを少しだけ直し、紅茶を一口啜って本物の魔術師の顔になった。
「昨夜、ランサーの宝具で百兄弟を串刺しにして退けたバーサーカー(ドゥリーヨダナ)だけど、霊基の消耗は相当なはず。しばらくの間は、表立って手を出してはこないと思うんだよね★」
「だったら、今のうちにあのバーサーカーのマスター(アルベリヒ)の足取りを追って、本拠地を叩き潰べきなんじゃないのか?」
刹那の当然の疑問に、ジュリアは首を横に振った。
「それがさー、見事なまでに痕跡を完全に消されてるわけ。アトラス院の異端の演算能力を相手に、こっちから下手に攻め入るのは良い手とは言えない。……それよりもさ、ウチは今、別の陣営の手がかりの方が気になってるんだよね☆」
そう言って、ジュリアは持参していた今朝の新聞をちゃぶ台の上へとパサリと広げてみせた。そこには、まさに今朝方、刹那がテレビのワイドショーで深刻そうに話題にしていた『市内連続行方不明事件』の大きな文字が躍っていた。
「これ……さっきテレビでやってた、若い男ばっかりが消えてるっていう神隠し……っ」
「そ。ウチの『解析魔術』で見立てたところ、これ、ただの事件じゃないし★ 相当な手練れの魔術師が、大聖杯のシステムのバグ(泥)か何かを悪用して仕掛けてる、おぞましい儀式の仕業だよ☆」
ジュリアの冷徹な見解に、刹那の内にあの晃の冷たい死体の記憶がよみがえり、胸の奥が過酷な現実に凍りついていく。これ以上、この街の不条理な泥の犠牲者を増やすわけにはいかない。
「……被害が出てるのは、山の近くよりも、この街の中心部の方が多いんだね」
「そう。だからウチとランサー、および君たちセイバー陣営で、一緒に街の調査に向かうよ。これ以上の怪異を野放しにしとくのは、ウチらの同盟にとってもヤバいからさ★」
ジュリアはちゃぶ台の新聞を指先で叩き、はだけた胸元のKカップを密かに弾ませながら、悪戯っぽく刹那の顔を覗き込んだ。
「潜入の段取りを兼ねて、まずは街の中心部を一緒に歩いて調査って感じ☆ ――準備はいい、マスターくん?♡」
ジュリアが持ちかけてきた、街の連続消失事件への同行調査。それは、昨夜の濃厚な情事の余韻が色濃く残るアパートの六畳一間に、新たなる不穏な戦いの始まりを告げる合図であった。