ゆるく生きたい貞操逆転モノ 作:ロリ巨乳最高
桜田ゴウシは童貞ではなくなってから一週間と少しが立ち、正式に水無瀬ルミとの婚姻が成立した。
当初はゴウシが15歳を迎えた翌日、8月2日には役所に向かったのだがここでも管理センターの怠慢が響いた。
役所のデータベースのゴウシの顔と現在のゴウシの顔の不一致である。
……このやり取りを24時間ほど前にやったな、と思いながらも2,3時間もあればどうにかなるものだと思っていた。
だが、まぁ……どこの世界でも役所仕事と言う者は面倒で責任のありかの押し付け合いから正式に情報の更新と婚姻の成立までに随分と時間が過ぎてしまった訳だ。
そのことに水無瀬家はブチぎれてなあなあで瞑ろうとしていた管理センターの不備を徹底的に暴き処した。
その結果、搾性管理センターの見直しだのなんだのが盆休みに入ろうと言うのに上から下までテンヤワンヤなのだとか。
私が知ったところで……と直接的な被害を受けながらもゴウシは傍観に徹しようとしていた。
……のだが色々と記録も改ざんされていたことから後ほど本来支払われるはずだった報奨金と合わせ莫大な慰謝料も転がってくると水無瀬家当主……現在は義母にそう言われた。
それでも怪我の功名と言えばいいのか今まで居住地としていたマンションから引っ越す整理をする時間が手に入り、前世の男の意地と言うやつの用意もどうにかできた。
そうして2070年の8月の天恩日に当たるである8月13日、桜田ゴウシは新居へと移った。
「見えてきました。私たちの愛の巣が」
「巣って……」
東北沿岸部に本拠地を構える水無瀬ではあるが、全国各地に土地を有している。
物流の中継地であったり、足を休めるためのホテルであったり。
流れる水の様に動く、そんな特性もあってか水無瀬の女のフットワークは軽い。
ルミも実家を離れ都心である関東南部にあらたに構えた居に移ることに躊躇いはなかった。
「家族として成るのですから間違ってはおりません」
「そうか……そうかも」
フンス、なんて効果音が付きそうなほどの勢いでゴリ押され、ゴウシはその解釈を受け入れそうになっていた。
立派な門を抜け、ルミにエスコートされるまま車を降りるとゴウシは新居の敷地に足を踏み入れる。
砂利の小気味いい音を耳にし、前を向けば和を思わせる大変広い平屋だ。
屋敷を用意するとは言っていたが、本当に文字通りの屋敷とは思うまい。
前世アラサー成分が『税金どうなってるんやろ』と見当違いのことを考える。
この世界において大黒柱は男ではなく女。
現状ゴウシは養われ、支えられるためにこの家に迎え入れられたのだ。
「実家に比べれば随分と手狭ですがご容赦ください」
「デカすぎて迷いそうという感想しか出てこないんだが」
「しっかりと私がご案内しますのでご安心を」
包まれた手は絡められるように少し握りを変えられた。
何故だろう、絶対に離さないぞと言う圧を感じる。
新居の屋敷は観光で見かける武家屋敷をほんのちょっとダウンサイジングしたような見た目をしている。
……正気になってる気がしない。
塀に囲まれた面積はちょっとした小学校くらいはありそうに見えた。
「こちらの建物は古くこの地を納めた藩主の居として用いられたものを近代風に改修したものとなっています」
生まれてくる男性の数が劇的に劇的に減り始めた江戸時代後期の少し前に建てられたのがこの屋敷だと言う。
当時の意匠を多く残し、現代的に維持が可能な素材に置換されているらしくどこかテセウスの船を感じさせる。
「時代の流れにおける藩の解体時の反発、人口危機による世界大戦時の空襲……度々壊されては直されてきました。記録によりますと当初はこの敷地の8倍があったとされています」
もはやどうリアクションすればいいのか早々に分からなくなっている。
数日で用意しますね、でこの規模が出てくるとは思わないだろう。
「度々男を捕まえた名家の娘の新居に、とその時代の富豪が買っては改修していまして半端な金持ちが買っては維持が出来なくなり土地を売って維持したのだとか。まぁ、私はそんな事させませんが」
敷地縮小は区画整理とかそう言うアレではなく、維持の問題とか言う大変切実なものだった。
「全所有者の現当主の大叔母に当たる方が加齢のため手放そうと考えていたと一族の話しにあったようで、都合よく欲した私が現れたのでこの度頂きました。ハイカラな方でしたので中はそう古臭くはないとは思いますが、気になる所があれば仰ってくださいね」
「あ、ああ」
「現代的なフローリングもあれば古風な畳もありますよ」
軽い足取りで手を引くその背を見てゴウシはふと思った。
と、とんでもねぇところのお嬢さんを妻にしてしまったのでは……?
今更ながらゴウシは現代日本を牛耳る五行と呼ばれる名家の一角“水無瀬”のネームバリューに圧倒されていた。
ゴウシは正式な結婚まで少しばかり間が置かれ“水無瀬”のことを殆ど知らなかったのだ。
そもそもあの童貞オークションの際も管理センターから通知が来て、指定されたホテルに向かい足止めを食らって――――ルミの名を正確に把握したのも彼女が名乗りを上げた時まで知らなかったのだ。
あった人を抱く。
正直中折れして悲惨な性交にならないかと言う心配が強く、誰が相手なのかと言う部分にあまり注力していなかった。
そもそもこちらが相手を指名できるわけではなかったのだから。
結果としてはとんでもねえところのお嬢様をコマしてしまった訳となる。
五行の規模観を前世風に言い換えるのであれば戦前の日本を牛耳っていたとされる某財閥規模。
フランチャイズや系列店などの会社の親会社を辿っていくと9割の確率で五行に当たる、と言えば良いだろうか。
少なくとも日本で五行に全く関わらず商いをするのはほぼ不可能レベル。
その事実を飲み込んだ時ゴウシは色々と頭が真っ白になったのは言うまでもない。
少なくともその時に理解していたら起つものも起たなかっただろう。
……え、そんなやべえ一族の集まりに顔を出さないといけないってマジ?
ゴウシは盆から正月への四半期程度の猶予に喜べばいいのか胃を痛めればいいのか分からなかった。
〇 〇
ルミに手を引かれるまま屋敷をぐるっと一周回った。
半分理解できたか怪しいながらゴウシは屋敷で主に使いそうなポイントを重点的に頭に入れる。
ゴウシの要望通りトレーニングルームは大変近代的であり、詳しく分かるほど器具に詳しい訳ではないがマンション暮らしの際に置かれていたトレーニングルームより質が良い気がしたのは確かだ。
それ以外にも武道場や弓道場なんかも置かれていた。
平時は水無瀬家のお抱えの身辺警護員が鍛錬に使ったりするそうだ。
屋敷の長門の際にちらりと見たが、入り口脇にはそう言った人たちが待機または生活をする1K程度の広さの長屋も存在するとのこと。
使用人が住み込みだぁ……。
ゴウシは金銭的な運用面に触れることはないだろうが大変金がかけられていることだけは良く分かった。
「夕食前に身辺警護や使用人への挨拶、夕食後に私の乳母姉妹でメイドをしている子をご紹介しますね」
「ああ」
「それまで少しばかりやることがございますので、お部屋でごゆっくりなさってください」
完全に気おされ、最後にゴウシの私室に当たる部屋に案内されるとゴウシは倒れ込むようにベッドへ横になった。
それなりにタッパのあるゴウシもニッコリ縦にも長いダブルサイズのベッド。
あくまでこれは私室のベッド、寝室のベッドは泣く子も黙るキングサイズである。
疲れる要素などないと言うのにゴウシは気疲れを起こしていた。
それはさながら意味の分かると怖い話のごとし。
かと言って今までの態度でどうこう、と言う話もないので常識から逸脱した範囲を越えない様な活動をしていけば概ね問題はないはずだ。
適度な反発力を持つマットレスは腰痛持ちであった前世の知識から『コレお高い奴なんでしょ……?』とその存在感を訴えかけてくる。
寝具にはいくら金をかけても良いと思っている人種ではあるが、これは何というか一周回って極まったような感覚がした。
気を抜いたらすっと意識を持って行かれそうになる。
空調の効いた部屋のお陰か、それともシーツのせいか大変心地の良い温度感をしている。
「寝る前に確認だ」
体力は平均よりある方だと思いたいゴウシはベッドの誘惑を押しのけ立ち上がる。
送った荷物は既に部屋にセッティングが済まされていた。
特に目を引くのが値段を聞くのが怖い一枚板の木製の天板に昇降式の支柱が付けられている机とエルゴノミクスに基づいた椅子。
ほんの少し前まで暮らしていた国有保証男児の住むベーシックな家具とは一線を画していることだけはわかる。
だって座った瞬間の安定感がちげぇもん。
家電量販店の3万位の椅子を頑張って買って満足していた民だと言うのになんだこの椅子、最高か……?
ゴウシは水無瀬の気遣いでアップデートした家具類に歓喜した。
自分の受け取っていた報奨金でアップデートできないこともなかったのだが“一度上げた生活水準を戻すのは困難”と言う言葉を思い出し、中々贅沢をしようと言う方面に舵をとることはできていなかった。
その原因と言えば未知の結婚、義務が発生した時の未来の不透明さからの貯金をしようと言う考えでもあった。
結果的に贅沢をしてこなかったお陰で用意することが出来たものがあるのだから悪い事ではないだろう。
……これ、どのタイミングで渡せばいいんだろ。
座った椅子に乗りクルクルと回りながら懐からベタな箱を取り出す。
この世界ではあまりなじみのない結婚指輪である。
高度経済成長期に流行ったジュエリー会社の戦略など前世と違っているため馴染みがないのだ。
女性が婚姻を結んだ男性にかんざしなどの装飾品を送り、男もまたそれと同じものを送る。
それがこの世界の一般的と言うやつらしい。
男女の役割を入れ替えた際に馴染みのある文化であるかんざしが多く選ばれたことで男が髪を伸ばす文化が生まれたとかなんとか。
この世界は1914年にイギリスからの参戦要請を受け、第一次世界大戦に日本が参加したが、この世界ではただの世界大戦となっている。
1860年前後から世界各地で発生した男児の出生数激減による絶滅パニックが戦争の起因とされている。
国を維持するためには男女がいなくてはならない。故に戦時中女が狙われる時代から男が狙われる時代になったのだ。
その世界大戦も男を確保するための戦。
前世の記憶による核が落とされた土地もそれなりに多いと聞く。
いよいよ本当に人間が絶滅する、戦争を仕掛ける元気のある国土などなくなったのだ。
それから停戦条約、連合国家化など色々な歴史が動き今に至るのがこの世界。
1932年に条約が結ばれて138年が経過した現在、2070年になっても前世で提唱された性比が1:1に向かうフィッシャーの法則は未だ人間に適応されないままだ。
あべこべな世界で前世の常識がそうではないと自覚する時、ほんのちょっと疲れてしまう。
……もう少し忍ばせておこう。
ゴウシは再び懐にケースをしまい、パソコンの調子を確認するのであった。