京極宮家
慶仁(47) 当主
澄子(43) 妃
陸仁(17) 若宮
寛代子(14) 本話には登場しない
幾久子(いくこ)(11) 本話にも登場しない
杏仁(きよひと)(8) 本話にも登場しない
六条家
雅武(47) 京極宮家の宮家令
聡子(37) 宮家令の令夫人
雅忠(17) 本話には登場しない
誓子(14) 本話にはほぼ登場しない
雅誠(まさのぶ)(11) 本話にも登場しない
詞子(ことこ)(8) 本話にも登場しない
宮邸の敷地にある家令用邸宅。主である六条雅武が妻である聡子に対し、努めて冷静に陸仁の誓子に対する行為の推測を伝えていた。
「……若宮様が夜陰に乗じて誓子の部屋を訪れ、朝まで滞在している。意味はわかるな?」
「そんな……何かの間違いでは?」
「お前が信じたく無い気持ちもわかるが間違いない。妃殿下がお調べになった事だ」
「そうですか……。澄子様の……妃殿下のお調べなら間違いはございませんね。今にして思えば、山から帰って来た直後の誓子には、おかしな点が多々ありました。せめてあの時に気が付いていれば……」
俯く聡子。
「この件は、殿下が若宮様に責任を取らせると仰せだ」
「……わかりました。殿下を信じます」
夫の言葉を、聡子は沈痛な面持ちで受け止め、身体を抱きしめるように微かに身震いした。
(──あの夜、私の手で目覚めさせ完成させてしまった雄の獰猛な本能が、今、時を経て娘へと向けられている)
その、血の繋がりにも似た昏い因縁と、防げなかった己の不覚に対する後悔が、聡子の胸を苦しく締め付けた。
「聡子?」
言葉を詰まらせた妻の様子に気付いた雅武は、絞り出すような低い声で苦々しく吐き捨てた。
「こんなことなら、あの時、お前に相手をさせねば良かった……。そうであれば若宮様は遅くとも成年式と同時に身を固める事になっておられたであろうに」
「……そう、かもしれませんね。ですがあの時はあれが最善の手であったと……」
そう夫に返しながらも聡子の意識は、夫に決して明かせぬ真実──背徳の記憶へと急速に引き戻されていた。
(雅武様に知られてはならない。雅武様を求めているはずが、抱かれるたびに若宮様から受けた快楽の記憶を引き起こさせられ、書き換えられた肉体の淫らさを思い知らされ続けていたあの悪夢の日々は──)
1994年3月下旬──。
宮邸の最奥、重い帳が下ろされた一室。
「……誰もおらぬと?」
慶仁の言葉に澄子が溜息を漏らした。
「ええ。大陸の停戦から1年。市場の回復から半年……それまで先延ばしになっていた婚約や婚姻で世間は沸き立っています。陸仁の導き手となりそうな、心身ともに健康、かつ身元が確かな婚姻経験のある女性で子供が産めそうな年齢の者など疾うの昔に皆嫁いでしまいました。私の縁者や六条の縁、中院の縁も当たってみましたが、どこも同じです」
雅武が、苦渋をにじませた声で報告する。
「私もやむを得ず、昔なじみの玄人筋に当たってはみたものの……」
「如何であった?」
頭を横に振る雅武。
「信頼のおける店はどこも似たり寄ったりで、向こう半年は店の敷居をまたぐことも、人を呼び寄せることも叶いません。ましてやこの度のように一月近く夜を拘束するとなると……」
「……陸仁の誕生日の披露目まで、あと一ヶ月半だ。夜の作法も知らぬまま、あやつが令嬢と親しげに振る舞えば、会話しただけの相手との子供すら認知する羽目になるぞ。それも一人や二人では済まぬくらいにな」
慶仁の言葉に、沈黙が部屋を支配する。
戦争の終結、平成景気の再燃、華族としての義務の完遂──そのすべてが、皮肉にも若宮の夜の作法──所謂「筆おろし」の機会を完全に圧殺していた。
「我が宮家のその手に明るい熟練の女官は皆老齢の者ばかり。かといって若い小間使いたちから募るわけにもいきませぬ。箔付けの宮仕えのはずが若宮のお相手を務めさせられて傷物にされたとなれば彼女たちの親が黙ってはおりますまい。姦通罪の適用は、宮家と言えど例外ではありませぬ」
重苦しい静寂が、室内の空気を支配する。
「家従や家丁、その家族にも手ほどきをできそうな者はおらん。世代の偏りがここまで影響するとは……」
「私や聡子さんが生家から連れて来た女中や小間使い達も皆、隠居したり結婚して本家に戻っていますから……」
「まさか人形で済ませるわけにもいきません」
「雅武、また下らぬ冗談を。当然であろう。その場に相応しい会話も弁えねばならんのだ。睦言でも揚げ足を取られぬ様にな」
法律の壁、倫理の壁、そして時間の壁。すべてが若宮のお披露目を阻んでいた。
これまで何度も話し合いの場を持ったものの結論は出ず、時が流れすぎていた。
「今日中に方針を決めねば手遅れになりかねん。どうしたものか」
沈黙が数十分に及んだその時。それまで黙って控えていた聡子が決意を込めた声で、禁断の言葉を口にした。
「……殿下。私が務めましょう」
「ん? 今、何と……?」
その言葉を理解しかねた慶仁が書類に顔を落としたまま、疑問の声を上げた。
「我が身で若宮様のお相手を仕ります」
その言葉に慶仁が顔を上げた。
「六条夫人。雅武の前でその戯言はいかん」
「そうです。聡子さん、それは品が無さすぎますよ」
苦笑しつつ窘める京極宮夫妻。
「いえ。戯言でこのような言葉は申せません。私は本気です」
いつになく真剣な聡子の声に
「突然、何を言い出すのだ!?」
「そうです、聡子さん。何を言いだすの!?」
驚愕の声を上げる夫妻。それを他所に聡子は、夫である雅武をそっと見つめた。
「如何でしょうか」
「以前から最後の手段として互いに話していた事とはいえ、まさか本当に申し上げることになるとはな……」
雅武が覚悟を決めたように深く頷く。
「殿下。姦通罪は親告罪にございます」
と、聡子の言葉を引き継いだ。
「訴える者がいなければ、法は動かない。……我が妻である聡子がそのお役目を引き受けるのであれば、夫である私が告訴せぬ限り、絶対に咎は立ちませぬ」
雅武のその言葉に澄子が息を呑み、絶句した。
家令の妻。確かにこれ以上の身元保証はなく、秘密保持も盤石なものとなることは間違いない。
だがそれは──慶仁の乳兄弟であり、京極宮家の家令である六条雅武が、自らの妻の尊厳すらも京極宮家に差し出すという、血を吐くような意思の表明であった。
「聡子さん。それは……あなたは何を言っているかわかっているの!?」
澄子が堪らず声を上げる。
「確かに貴女は陸仁と血の繋がりはないわ。でも私の代わりとして自らの乳を与えた事もある子供とまぐわろうとしているのよ……。それが、どういうことか……」
「宮家と若宮様をお守りするためでございます。他に方法が無いのであれば、雅武と私に、そのお役目をお任せください」
慶仁が懸念を示す。
「……駄目だ。我らのように、一度のまぐわいで子供が宿る危険もないとは言い切れぬ。そうなっては」
「若宮様のお相手を務める一月の間、聡子に避妊の措置は行います。万が一、子が宿ってしまったのであれば、我らの子として育て上げます。宮家に御迷惑はおかけ致しませぬ」
その言葉に蒼褪める京極宮夫妻。
「済まぬ。余りのこと故、暫し席を外す」
数十分後、戻って来た二人が深々と体を折り、慶仁が震える声で搾り出すように告げた。
「すまない、雅武。……出来うる限りの手は尽くしてみるが、最悪の場合は夫人をお借りする事になる」
「……聡子さん……ごめんなさい。最悪の時は若宮を、陸仁をお願いいたします」
「かしこまりました」
「何れにせよ、場所は改装工事中で人が来ない、北翼の御連枝資料室に隣接した一室を用意するつもりだ。秘密が守れる様にな」
深く頭を下げる京極宮夫妻と、聡子の最敬礼。
若宮の「筆おろし」の相手が決定した瞬間だった。
それから数日後。4月を迎え、陸仁のお披露目まで一か月強となった夜。
宮邸の北翼では三月下旬から一月半の予定で大規模な内装工事が行なわれており、人の往来が途絶えていた。
その一つに、北翼最奥にある御連枝資料室に隣接したやや広めの部屋を仮眠室へと改修し、内部に湯殿、洗面所、御手洗を設ける改装が計画されていた。当初は浴槽も設ける予定だったが、急なスケジュールの前倒しと工期の大幅な縮小が生じ、やむなく湯殿はシャワーのみの設置に変更された。
前倒しされ、昼夜を分かたぬ突貫工事が終わった翌日。
重い遮光カーテンに閉ざされたその仮眠室でその儀式は執り行われた。
部屋の灯りは極限まで落とされ、枕元のスタンドが、琥珀色の柔らかな光で寝台の周囲だけを仄かに照らしている。
陸仁は、寝衣のまま寝台の端に腰掛け、緊張に肩を強張らせていた。陸仁は、これから自らに課される「教育」の意味を理解しつつも、視線をどこへ向けるべきか分からず静かに俯いていた。
静かに扉が開閉する音と衣擦れの音がして、俯いたままの彼の視線の先に人影が映った。
陸仁が恐る恐る顔を上げ、非公式な場での呼び方を口にしかけた。
「六条の母う……」
「今からその呼び方はなりません」
母上と言いかけた陸仁を自らの口元に指を立て、悪戯げな笑みを浮かべ窘める聡子。
今年で三十七歳になる彼女は、陸仁とはちょうど二十の歳の差がある。155㎝の小柄な体躯。二男二女の子供を産み育てながらも、日々の規律正しい生活と入念な運動によって、体重は50㎏台前半を維持していた。
「若宮様、確とご覧くださいませ」
聡子は慈愛に満ちた、しかし大人の女としての厳かな微笑みを浮かべ、その指先で上衣のボタンを一つ一つ躊躇なく外し、そのまま脱ぎ去った。露わになっていく胸元から視線を逃がす様に陸仁が慌てて顔を伏せても、衣擦れの音はその耳に届き続けた。
「若宮様。顔をお上げください」
その言葉に陸仁が顔を上げると、薄暗がりのなかに、細やかに手入れされた彼女の肉体が露わになっていた。
「存分にご覧下さい。若い娘が保つ瑞々しい張りや艶はありませぬが、身体の崩れはまだありません」
それは、年齢を重ねた濃厚な色香を放つ身体だった。
衣服から解き放たれた聡子の四肢は驚くほど滑らかで白い。引き締まった腰から、なだらかな曲線を描いて広がる端正な臀部。そして何より、陸仁の目を釘付けにしたのは、その胸元だった。
豊かに波打つ美しい双丘。
陸仁の記憶にはないが、まだ陸仁が幼い時分、母である澄子が公務でどうしても傍に居られなかった時に聡子が実の息子である雅忠と全く分け隔てなく、幼き日の陸仁をその腕に抱き乳を与えていた。と母である澄子から幾度も聞かされていた。陸仁自身も幼い頃、母親恋しさに泣いていた自分を慰めてくれたと言う思い出もある。故に、いつからか、六条の母上とも呼ぶようになっていた。
陸仁の脳裏に凄まじい感情の嵐が吹き荒れた。
目の前にいるのは、かつて自らに乳を与えてくれた、もっとも崇高で、もっとも身近な「母性」の体現者だ。その人を今から、自らの性的な欲望の捌け口として貪らねばならない。背徳感という言葉すら生ぬるいほどの罪悪感がその胸を容赦なく締め付けた。
同時に、彼の心をさらに内側から引き裂いたのは、親友である雅忠の存在だった。雅忠やその弟妹を育み、六条家の中心で微笑んでいる「友の母」をこの手で──。
その事実は、陸仁の誇りや理性を激しく揺さぶり、拒絶の悲鳴を上げさせた。
「若宮様。今から一か月間、平日の夜はこの聡子が褥を共にし、性の手ほどきを致します。その間は私を家令の妻ではなく情人とでもお思い下さい。六条夫人、ましてや六条の母などと呼んではなりませぬ。聡子とお呼びくださいますよう」
「ろ……聡子、殿」
その言葉に罪の意識を強める陸仁。だが、その強烈な罪の意識を完全に打ち砕くほどに、陸仁の肉体は残酷なまでに正直だった。
かつて泣いていた時に抱きしめられた温かくて甘い記憶の象徴。それが今、まったく異なる「雌の熱」を帯びて、自らを誘っている。高潔な母性の裏側に潜む、成熟した大人の女としての圧倒的な色香。その肌の白さと、仄暗い部屋に漂う甘い香りが、若者の脳を狂わせる。いけないと叫ぶ理性を、血の滾りが瞬時にして押し流していく。
「若宮様。何も怖れることはございません。聡子にすべてをお委ねください」
聡子は静かに寝台へと膝をつき、陸仁の震える手を優しく取って、自らの豊かな胸へと導いた。
掌に伝わる、吸い付くような柔肌の弾力と、ドクドクと脈打つ大人の女の心音。
陸仁が抱いていた葛藤──雅忠とその弟妹への裏切り、母性への冒涜──が、掌から伝わる圧倒的な肉の熱によって、一瞬にして濃厚な悦楽へと反転した。
「……聡子殿」
掠れた声でその名を呼んだ瞬間、陸仁のなかで何かが完全に弾けた。
もう、引き返すことはできない。陸仁の差し出した手が、聡子の豊かな胸に触れた瞬間、彼の指先は弾かれたように強張った。罪悪感と興奮の入り混じった荒い呼吸を繰り返す性に未熟な若者を、聡子は三十七歳の完成された大人の包容力で静かに見つめ返した。
「若宮様、力を抜きなさいませ」
「……こう、ですか?」
「……左様でございます」
聡子は陸仁の強張った手首を自らの柔らかな掌で包み込むと、戸惑うその指を自らの胸の起伏へと滑らせようにして導いた。
指先が吸い付くような柔肌を沈ませ、その奥にある確かな熱と、ドクドクと刻まれる一定の心音を捉える。陸仁がそのあまりの心地よさに息を呑むと、聡子は彼の耳元へ唇を寄せ、囁くような、しかし極めて明瞭な声で最初の教えを授けようとした。
だが、掌に伝わる未体験の弾力と、耳元に吹きかけられる吐息の甘さに、陸仁の理性の箍は一瞬で外れた。
「聡子殿……!」
抑えきれない感情と荒々しい性衝動が混ざり合い、彼は力任せに聡子の白い肩を寝台へ押し倒した。
聡子の小柄な身体が、寝具の海に深く沈み込む。陸仁は己を誘う豊かな胸を両手で手荒に鷲掴みにし、強引にその指を彼女の引き締まった腰、さらにその奥へと這わせようとした。焦りと昂りから、その指先は鋭く、容赦なく聡子の柔肌に突き立てられる。
「痛っ」
聡子の薄い唇から、短く、しかし明らかな苦痛の呻きが漏れた。
その細い肩が僅かに逃げるように強張る。その拒絶の反応に、陸仁は冷水を浴びせられたようにハッと我に返った。
「す、すまないっ、私は、その」
一転して、子供のように慌てふためき、顔を真っ赤にして手を引っ込めようとする陸仁。大人の体格を持ちながら、その中身はまだ女性の身体の繊細さを何一つ知らない「未熟な若者」でしかない彼は、親友の母親を傷つけてしまったという計り知れない罪悪感でその手を細かく震わせていた。
聡子は、寝台の上で小さくなっている若宮を、どこまでも慈愛に満ちた、静かな眼差しで見つめ返した。
彼女は痛むはずの胸元を気にする素振りすら見せず、そっと手を伸ばして、陸仁の震える指先を自身の掌で包み込んだ。それは、かつて彼が幼き頃、転んで泣いたときにその小さな手を包み込んだ温もりと、まったく同じ優しさだった。
「若宮様。宜しいですか。女性の身体を扱うときは、決して焦ってはなりませぬ。絹織物を指先で確かめるように、どこまでも優しく、しかし確信を持って触れるのです。殿下が怯えてしまっては、お相手の令嬢はそれ以上に怯えてしまいますから」
その声は、かつて宮邸の広間で、彼に宮廷の礼儀作法を叩き込んだ時の家令の妻としての、凛とした調子のままだった。その「教育者」としての理知的な態度が、陸仁に冷静さを取り戻させ、その心に住まう獣の目を覚まさせた。
聡子は自ら寝台に横たわるとその小柄な身体に寄り添うように陸仁の身体を横からそっと抱き寄せた。
「さあ。若宮様」
陸仁が促されるままに彼女の身体を覆うと、引き締まりつつも肉感的な重みが寝台に沈む。
聡子は陸仁の未だ細い、だが将来の逞しさを予感させる腰に、自らのしなやかな脚を自然に絡めた。年齢を感じさせない細い腰が弓なりに煽られ、端正な臀部が陸仁の未熟な熱を迎え入れるようにして滑らかに位置を整える。
「っ、聡子殿、私は……」
「お声を堪えてはなりませぬ。ですが、お相手の耳元では、今よりもずっと甘く囁くのです」
聡子は陸仁の戸惑いをすべて見透かしたように微笑み、彼の首筋に手を回して自らの胸の谷間へとその顔を深く埋め込ませた。
かつて貪った乳の香りが、今や濃厚な雌の匂いとなって陸仁の嗅覚を支配する。聡子は、陸仁の拙くも烈しい衝動が自らの身体を割り進む痛みを、微かな吐息だけで受け止め、逆に彼の腰の動きを自らの太腿の進退で巧みに、そして優しく導いていった。
どこを愛撫すれば女が震えるのか。どのように腰を動かせば、互いの熱が最も深く交わるのか。
聡子の粘りつくような肉体の機微は、陸仁の荒々しい本能を受け流しながら、それを男としての「洗練された技術」へと、その肌と肉の記憶を通じて、一寸の妥協もなく叩き込んでいく。
陸仁が歓喜の絶頂のなかで彼女の身体に果てるその瞬間まで、聡子は「完璧な指導者」であり、同時に「極上の雌」であり続けた。
若宮の拙くも烈しい衝動をその身に受け止めながら、聡子の内心は、冷徹なまでの「忠誠」と、母としての「諦念」に支配されていた。
(これで、京極宮家は守られる……)
自らの身体の奥深くまで割り込んでくる若い肉体の重さを感じながら、聡子はどこまでも静かに、己の思考を切り離していた。
聡子にとって、陸仁は我が子も同然の存在だった。かつてその小さな口に自らの乳首を含ませた事もある愛おしい赤子。その赤子が長じ、今、自分の肉体を蹂躙しているという事実に、一瞬、のけぞるような嫌悪と悲哀が脳裏をかすめないわけではなかった。
だが、それ以上に彼女を支えていたのは、六条家の女としての誇りだった。
一ヶ月後のお披露目で、令嬢たちに若宮が搦め手で捕らえられれば、歴史の浅い京極宮家は一晩で乗っ取られる。それを防ぐための「生贄」が必要ならば、法の網を完全にすり抜けられる自分が立つのは当然の帰結だった。夫である雅武とも、事前に合意を済ませている。これは六条家が宮家へ捧げる、最大の、そして最も秘められた「奉公」なのだと。
(……ごめんなさい、雅忠)
不意に、上の息子の顔が脳裏をよぎり、聡子の胸の奥がチクリと痛んだ。
主君であり、幼き頃より一緒に育った唯一無二の親友、そしてこの先も共に未来を歩むはずの陸仁に、母親である自分が性の作法を教え込んでいる。もしこの事実を雅忠が知れば──。
だからこそ、この秘密は絶対に墓場まで持っていかねばならない。目の前の陸仁を一分の隙もない「完璧な大人の男」へと仕立て上げ、この一ヶ月の狂おしい儀式を完璧に隠蔽することだけが、息子への、そして夫への唯一の義理立てだった。
「──んっ、若宮様。そのように手荒く扱ってはなりませぬ。もっと力を抜いて……。そう、そこはもっと深く……」
胸を焦がすような背徳感を、聡子は微笑みの下に完全に押し隠した。
陸仁が快楽に顔を歪め、己の肉体にのめり込んでいくのを見つめながら、彼女はただ淡々と、自らの肉体を極上の「教本」として差し出し続けた。
──その教育は、寝台の上だけに留まらなかった。
一週間が過ぎる頃、聡子は陸仁を伴い、部屋の隅に設けられた狭い浴室へと足を踏み入れた。
換気扇の低い音が響く、一面を鏡張りとし、残りを冷たい樹脂の壁に囲まれた空間。天井から降り注ぐ温かいシャワーが、たちまち狭い室内を白い湯気で満たした。
陸仁が聡子の裸体を足元から髪の毛まで見つめていると昨日までとの違いに気がついた。
「聡子殿……髪を切られたのですね」
「はい。少しでも人目を誤魔化す事ができればと思いまして。若宮様と褥を共にする間、昼間は髢を用いて今まで通りに見せます」
「……私の所為、ですね」
「いえ。そういうわけではございません。この事がなくとも近々髪を整える予定でしたから」
「……聡子殿」
何か言いかけて、陸仁はそれを飲み込むように視線を落とした。
聡子は微笑みを浮かべ、お気になさらずに。と、陸仁の首に腕を回すとその口腔に自らの舌を絡ませ、陸仁がそれ以上言葉の紡ぐことを止めさせた。
「若宮様。令嬢たちは、常に完璧な褥だけで待っているとは限りませぬ。時にはこのような、不意の、そして限られた場所での作法を求められることもございましょう」
聡子はシャワーの温水を全身に浴びながら、濡れて肌に張り付いた髪をかき上げた。湯に濡れたその肉体は、薄暗い浴室の明かりの下で、寝台の上とは異なる生々しい艶を放ち、豊かな胸から滴る水滴が細い腰を伝い、引き締まり、それでいて適度な弾力がある太ももへと流れ落ちていった。
「……聡子殿、このような場所で、私はどうすればよいのですか」
未だに慣れないその狭さと、互いに濡れたまま肌を合わせる不慣れな感覚に陸仁は戸惑いを隠せないでいた。聡子はそんな彼の首筋に濡れた両腕を回し、自らの身体をぴったりと押し当てた。
「お湯に濡れた肌は、乾いた肌よりも滑りやすく、同時に冷えやすいもの。ですから、決して手を離してはなりませぬ。普段以上に、お相手の身体を固く、しっかりと抱きすくめるのです」
聡子の指示通り、陸仁は彼女の濡れた腰を両手で抱え込んだ。滑り落ちそうになる小柄な体躯を、若さゆえの膂力で必死に繋ぎ止める。
「左様でございます……。そして、ここからは重力に抗わねばなりませぬ。私の腰を、少し持ち上げてくださいませ。……そう、そのように」
壁に聡子が背を預け、陸仁がその白い臀部を持ち上げるようにして、濡れた肉体が深く噛み合わさった。
シャワーの水音が二人の荒い呼吸や、肌が激しく擦れ合う音をすべてかき消していく。水滴が目に入り、視界が遮られるなかで、陸仁はただ聡子の肉体の熱と、彼女が手取り足取り導いてくれる進退の感覚だけに全神経を研ぎ澄ませた。
滑りやすく不安定な足元のなか、壁に手をつき、互いの体重を預け合いながら、より深く、より執拗に交わっていく。聡子は、湯水に洗われる自らの顔を陸仁の胸元に埋め、漏れ出そうとする声をシャワーの音の中に溶かしながら、どのような体勢であっても「男」が主導権を握り続けるための身のこなしを、その肉体に叩き込んでいった。
それは4月23日の空が白み始める寸前の出来事だった。
4月の初めに陸仁の手ほどきを始めて以来、聡子の体力と精神力は確実に削り取られていた。
ひと回り以上も年下の、育ち盛りとも言える肉体がもたらす底なしの体力を前に、三十七歳を迎えた己の身体が徐々に開発され、ともすれば我を忘れ快楽に溺れそうになる恐怖。
昨夜も幾度となく深く貪られ、骨の髄まで疲弊し切っていた聡子は、泥のような眠りへと没入していた。
(……あ、んっ……)
深く暗い意識の底で、下半身を襲う重い圧迫感と、胸元を湿らせる熱く執拗な感触に揺さぶられた聡子は、自分の身体を当たり前のように抱きすくめ、愛撫してくるその温もりを、無意識のうちに夫である雅武のものだと錯覚していた。
(雅武様……愛しております)
寝ぼけた頭のまま、妻としての慣れた愛撫に応えようと身体の力を抜き両の腕を背中に回しかけ、いつになく自身の胸を乱暴に揉みしだく様子に疑問を覚えた。
「んっ……あなた……どうしたの?」
「違いますよ。聡子殿」
その声に薄らと目を開けた聡子の視界に飛び込んできたのは、夫の姿ではなく、自分の胸に深く顔を埋める若い若宮の頭髪だった。
「……わ、か、宮様……?」
陸仁は布団の中で陸仁が深く顔を埋め、聡子の豊満な胸を吸い上げながら、すでにすっかり熱を帯びた剛直で彼女の太ももを押し開き、最奥を突き上げている最中であった。
ハッとして身を起こしかける聡子を陸仁が押さえつける。自身の胸を乱暴に揉みしだき、熟した果実を味わうように吸い付く若宮の熱量に、聡子の息が跳ね上がった。
「な、何をなさって」
「その……聡子殿の寝姿を見ていたら……我慢ができませんでした。ごめんなさい」
顔を上げた陸仁の瞳は、朝の光を拒むように暗く、それでいて底なしの情熱に揺れていた。謝罪の言葉を口にしながらも、腰の動きは少しも緩められることはない。それどころか、目覚めた聡子の拒絶をあらかじめ封じ込めるかのように、彼女の細い太ももを強く開き、より深く、力強く最奥をその剛直で叩き続けた。
「あっ……! や、若宮、様……あぁっ!」
拒絶しようと伸ばした聡子の手は、陸仁の逞しい肩を力なく押すのが精一杯だった。眠りと疲労で弛緩し切った肉体は、ひと月の間にこの若宮によって叩き込まれた快楽の記憶を拒むことができなかった。陸仁が熱い吐息を吐き出しながら欲望のままに突き上げるたび、聡子の体内から甘い蜜があふれ出し、口からは抗いようのない悲鳴と喘ぎが漏れ出し、薄暗い寝室に、荒い息遣いと湿った接吻の音が再び満ちていった。
若さゆえの無尽蔵の体力にすっかり翻弄された聡子が何度目かの歓喜の頂点へと叩き落とされ、陸仁がその白濁を聡子の胎内に迸らせた頃には、東の空が微かに白み始めていた。
果てた後の火照った身体を清めるため、二人はシャワー室へと移動した。
ガラス越しに湯気が立ち込める狭い空間で、温かい湯滴が二人の重なり合った肌を滑り落ちていく。聡子は壁に背を預け、湯を浴びながら疲労に目を細めていたが、陸仁の手は浴室に入ってからもなお、彼女の濡れた肉体から離れようとしなかった。
温かいシャワーの飛沫が降り注ぐ中、狭い洗い場で陸仁は聡子の体を洗う名目のもと、甲斐甲斐しく、しかしたっぷりと愛撫を混ぜ込みながら彼女の豊潤な肌を撫で回した。背後から豊かな胸を掌に載せた泡で包み込み、優しく揉み解す。
「聡子殿。力加減はこれでよろしいでしょうか」
「……はぃ。強すぎず、ん、弱すぎず……よく、覚えて、おいで、ですっ」
耳たぶに熱い唇を寄せられ囁かれるたび、聡子はシャワーの音に紛れさせるようにして小さな甘い溜息を吐くしかなかった。
丁寧な手つきは手ほどきを受けた生徒のようでありながら、時折、泡を拭い去る振りをしながら指先で突起をなぞり、聡子の喉から甘い悲鳴を拾い上げる悪戯っぽさを孕んでいた。肩から胸を揉み解し終えると、陸仁の手はくびれた腰、滑らかな太ももへと優しく撫で下ろされ、体の隅々まで泡立てられた聡子に陸仁がシャワーの湯を浴びせ丁寧に洗い流す。
「若宮様……お戯れが過ぎます……」
「申し訳ありません。ですが、濡れた聡子殿があまりに美しいもので」
湯気の中でくすくすと微笑む陸仁の姿に、聡子は呆れと、胸を突くような愛おしさを同時に感じずにはいられなかった。このひと月の間に、自分はこの無垢だった若宮を、どれほど貪欲な男へと変えてしまったのだろうか、と。
身体を洗い終え、タオルで肌の水滴を拭う間も、陸仁の視線は磁石のように聡子の全身を追い続けていた。身支度を整えるため、姿見の置かれた室内に戻ってきたところで、陸仁は思い立ったように口を開いた。
「あの、聡子殿。今日の授業の締めにもう一度だけ私に聡子殿の衣類を整えさせてください。先週一度教えて頂けましたが、まだ詳しくありません。いかに女性を整えるか……もう一度教えて頂き、これを今日の授業の締めとしてください」
唐突な申し出に、聡子は小さく息を飲んだ。それはあまりに無邪気で、それでいて逃げ道を塞ぐような提案であった。
「若宮様。……もう、お時間がございません」
聡子は言い聞かせるように穏やかな声を保ちながらも、その瞳には隠しきれない焦燥を滲ませた。だが、陸仁は引かなかった。静かな確信を込めた瞳で聡子を見つめ返し、低く落ち着いた声で言い放つ。
「工事の間、宿直以外の家従や女官は北翼には参りませぬ。それに今日は土曜日で工事の者も訪れません。まだ時間はあると思います。だめ、ですか」
幼さを僅かに残した、無垢でありながらもどこか縋るような陰りを帯びた陸仁の瞳に見つめられ、聡子は拒絶の言葉を飲み込まざるを得なかった。
聡子は静かに寝台を降りると、東の空をほのかに明るく染め始めた光を細い隙間から微かに漏らしていた遮光カーテンへと歩み寄り、それをきっちりと閉め直した。部屋は再び、しんとした深い薄暗がりへと引き戻される。
遮光カーテンに閉ざされた薄暗い室内を見回す聡子。聡子は覚悟を決めたように小さく息を吐き出すと自分自身にも言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「仕方のない若宮様ですね。いいですか、若宮様。この部屋に光が差すまでは、まだ夜でございます」
(雅武様が戻られるのは夕方。子どもたちは学習院の研修で戻りは夜。午後までに戻れば大丈夫ですね)
外はすでにまばゆい朝陽に包まれているという現実から目を背け、この暗がりの中だけはまだ二人だけの「夜」なのだと、自ら言い訳を仕立て上げる。
その言葉に陸仁がハッとしたように無邪気な笑みを浮かべた。
「そうですね。まだ夜は明けていません。私もまだ夢の中にいるようです。しばらく目が覚めないかもしれません」
「そうでございますね、若宮様。私たちは夢を見ているのです。夜が明けて目が覚めたらそこまででございます。よろしいですね」
聡子は膝を突き、散らばった衣類へとしなやかな手を伸ばした。
「……若宮様が聡子を整える前に、聡子が先に若宮様のお召し物を整えさせていただきます」
聡子は手際よく下着を広げ、陸仁の足元へ差し出そうとしたが、その指先がピタリと止まる。
行為を終え、心身ともに満たされたはずの若宮の剛直は、なおも熱を帯びたまま、はっきりとその存在感を主張していた。薄暗い部屋でも隠しようもなく示された隠しようもなく熱を帯びた若さゆえの昂ぶりに聡子は今朝までの行為を思い出し、一瞬だけ言葉を失い、目元をかすかに泳がせた。それを隠すかのように、懐かしむような眼差しを浮かべ、陸仁の剛直をそっと指先で撫で上げる。
「あら。若宮様、やはりお若いですね。昨夜も聡子を苛め抜いたというのに、もうこのようになって。……御幼少のみぎりは聡子がお召替えをしたこともございましたが、あのころと比べますと随分ご立派になられましたね」
幼い日と同じ指先でありながら、そこに込められた意味の決定的な違いに、陸仁は耳たぶまで赤く染めて顔を背ける。
「さ、聡子殿。此処でそれを言うのは……」
「失礼いたしました。ほんの戯言でございます」
うろたえる陸仁の反応を愛おしむように、聡子は微かに目を細めて微笑んだ。しかし、収まる気配を見せない力強い肉体の存在感は、二人の間に再び生々しい緊張を呼び戻していた。陸仁は気まずそうに視線を落とし、掠れた声で漏らす。
「……このままでは収まりが悪いのですが」
「……そうでございますね」
聡子は膝を突いた姿勢のまま、ゆっくりと陸仁の顔を見上げた。その瞳から柔らかな母性が引き締められ、自らの身体で一人の男を導いてきた教育者としての艶やかな冷徹さが再び宿る。
「では若宮様、最後にもう一つだけ……まだお教えしていなかった作法をお授けいたしましょう」
聡子はひざまずいたまま陸仁へ顔を寄せると、その昂ぶりを手でそっと包み込んだ。先端へ唇を寄せて含み、舌先で丁寧になだめるように撫で上げ、自らの唾液と溢れ出る雫を滑らかな潤滑油として、ゆっくりと喉の奥へと滑らせていく。
「あ……聡子、殿っ」
男としての頂に達した後でありながら、再び与えられる心地よい圧迫と温もりに、陸仁は吐息を漏らし、聡子の豊かな髪にそっと手を添えた。聡子は顎を動かし、緩急をつけながら包み込む動作を繰り返す。若い肉体は素直に応え、一気に硬度と熱を増していった。極限まで昂ぶりが高まった瞬間、陸仁は低く唸り、聡子の口内へ熱い白濁を吐き出した。
「本当にお若いですわね、若宮様。あれだけ聡子に吐き出しましたのに、まだこれほど濃いものをお出しできるのですか」
口に出された陸仁の白濁を呑み込み、口の周りをひとなめして陸仁を見上げる聡子。その仕草に陸仁はなぜか顔を赤らめ俯いてしまった。
聡子はひざまずいたまま寝台の脇机の上に置かれていたティッシュで口元を拭うと、脇に落ちていた陸仁のシャツと下着を手際よく拾い上げた。
「……鎮まりましたね。さ、若宮様。まずはこちらからお召しになってくださいませ」
聡子は陸仁の下着を広げ、その足先をそっと差し入れさせる。続いて白い肌着に袖を通させ、シャツのボタンを一つずつ留めていった。
「幼い頃の殿下は、ボタンを掛け違えては『聡子、脱げない』とお泣きになっておられましたね。雅忠と一緒に庭を駆け回り、服を泥だらけにして帰ってこられては、毎日のようにお着替えをさせておりました」
「……聡子殿、この場でその話は勘弁してください。ここで昔の話をされると……居た堪れません」
恥ずかしそうに顔を背ける陸仁の首元を整えながら、聡子はどこか懐かしむような柔らかい笑みを浮かべた。
「あの頃の幼子が、今やこのように立派な体躯をお持ちになり、宮家を継がれるお方になられたのです。お世話をさせていただいた身としては、感慨深いものがございます」
ズボンに脚を通させ、ベルトのバックルを留めるまでの細やかな所作に、母のような温もりと長年の奉公の習慣が滲み出ていた。完璧に整えられた服の皺を叩いて伸ばすと、聡子は満足そうに一歩下がった。
「はい、完璧でございます」
「次は私の番ですね、聡子殿」
姿見の前に聡子を立たせ着替えさせる陸仁。
床から聡子の下着を拾い上げると、確実な所作で彼女の身体へと滑らせていった。
まずは薄桃色のショーツを取り、つま先から脚を通させる。陸仁を支えにしつつ素直に足を持ち上げる聡子の膝、太ももへと布地を繰り上げていく際、陸仁の指先が滑らかな肌に幾度もかすめた。
「あっ……すみません、聡子殿」
本来ならば下着を履かせるだけの動作でありながら、指先が内股の柔らかい肉をなぞるたび、聡子の背筋に甘い疼きが走る。
「お戯れ、は、ダメ、で、ございますよ……若宮、様っ。あっ……! ん、んっ!」
擦れる布地と男の愛撫がもたらす刺激に、聡子はたまらず甘い悲鳴を上げた。だが、その声が部屋の外へ漏れ出すより早く、陸仁は彼女の顎を掴み、自らの舌を聡子の口腔に入れそれを塞いだ。
「戯れているつもりはありませんが、声を出されては困ります」
「んむっ、ん……」
密着した唇の奥で、聡子の反論も、漏れ出る喘ぎもすべてが陸仁の熱に溶かされていく。
執拗な接吻に息を乱された聡子がようやく浅い息を吐き出したとき、陸仁は満足したようにわずかに顔を離した。そして足元から拾い上げていた布地に視線を落とすと、それを聡子の胸元から背中へと回しかけようとして、ふと手元を止めた。
両手に持った、カップの上辺やアンダーバストに繊細な花をあしらったケミカルレースでその美しい輪郭を気高く縁取った濃色のブラジャーを掲げ、不慣れな手つきでひっくり返してみるものの、背中にあるはずのホックが見当たらず、左右のカップを繋ぐ中央の未知の構造に若宮の眉がかすかに寄せられる。
「聡子殿。これは……どのようにすれば。私が存じているものとは、その、形が……。それに大きいですね、これ」
先ほどまでの情烈な男の顔から一転して、手にしたブラジャーの構造とカップの大きさに素朴な戸惑いを見せる陸仁。その様子に、聡子は乱れた息のまま、悪戯気に微笑んだ。
「若宮様。心の内でそのように思われていてもそのような言葉を発してはなりません」
「はい……」
失敗した。と消沈する陸仁。
それを愛おしげな眼で見つめる聡子。
「その大きさはEでございます。一月前はDでございました」
「え?」
その陸仁の戸惑いに微かにくすくすと声をだす聡子。
「特別にお教えいたしました。このようなことを聞き出す会話も以後はご自身で学ばれますように」
「はい。ですが……なぜ大きくなられたのですか?」
ひと月の間、陸仁に幾度となく肌を貪られ、開花させられてきた肉体の変化──それを自らの口から明かせるはずもなく、聡子は頬に上気する熱を誤魔化すように小さく咳払いをした。
「……それはお答えできませぬ。ご自身で学ばれますように」
聡子が気を取り直したかのように微笑みを浮かべた。
「そしてこれのつけ方はこうするのでございます」
聡子はブラジャーを受け取ると、豊かな胸を下から包み込むように当てがい、中央の小さなフックをカチリと一つに噛み合わせて見せた。その瞬間、乳房が綺麗に寄せられ、深い谷間が作られる。そして息を止めた陸仁の前で、再び指先をひねってフックを外し、手渡した。
「お分かりになりましたか?」
着用する仕草を見ていた陸仁が手探りで、その双丘の中心を小さな留め具を合わせようとするが、おぼつかない指先がまだ微熱を帯びた彼女の滑らかな肌に幾度も触れる。
肉を押し上げるように指が触れる度に、聡子の喉から、うっすらと甘い吐息のような声が漏れた。
「っ……」
その艶めかしい声に、陸仁の身体が強張る。指先から伝わるあまりの柔らかさに、胸の奥で燻っていた熱が急激に膨れ上がり、理性を奪われそうになった陸仁は、己の甘さを恥じるように弾かれたようにその手を引き戻そうとした。
「駄目だ。私にはできません。ごめんなさい」
自分を制御しきれなくなる恐怖から身を引こうとした陸仁だったが、それを許さなかったのは聡子の方だった。
「若宮様。道半ばで手を引くのは男の身勝手というもの。不完全な姿のまま私を帰し、夫の雅武の目に晒させるおつもりですか? 殿下のお手で、最後まで手抜かりなく私を仕立て上げていただかなくては」
そういうと自らの豊かな胸に、陸仁の手を強く押し付けた。驚きに息を呑む陸仁の腕の中で、悪戯っぽく、しかし厳然たる瞳でじっと陸仁を見つめた。
掌に伝わる圧倒的な乳房の柔らかさと熱量、そして自分を「導く生徒」として扱おうとする聡子の挑発的な眼差し──それらが引き金となり、陸仁の中で『教えを受ける生徒』としての立場と抑えつけていた『雄の本能』が激しく衝突する。
「解りました。私のこの手で整えて御覧に入れます」
己の胸の高鳴りを必死に抑えながらも、陸仁の手つきからは次第に躊躇いが消えていった。今度は留め具が逃げぬよう、その柔らかな膨らみの重みを掌で包み込む。
「んっ……」
聡子が小さく甘い声を漏らした。
自ら促したこととはいえ、容赦なくその肌を包み込んでくる男の掌の熱に、彼女の身体が甘く震える。155cmの小柄な身の丈には余るほど豊かな胸と、そこから急激にくびれたしなやかな腰つき。一度は完全に解き明かされ、いま再び陸仁の手によって覆われようとしていたその肉体の圧倒的な重さと温もりが、不器用に触れる彼の指先から伝わってくる。
丁寧に下着を留めようと意識を集中させればさせるほど、掌に伝わるその抗いがたい「雌」としての質感が、陸仁の胸底に燻っていた独占欲と抑圧された本能を容赦なく叩き起こしていった。聡子の『手ほどき』に応えようとすればするほど、彼女の体温そのものが陸仁の理性を内側から焼き切っていく。
すぐ目の前にある羞恥に微かに震える耳たぶの存在に、引き戻そうとした手を引き止められ逃げ場を失った陸仁の理性がぷつりと音を立てて微かに歪む。陸仁は低く、掠れた吐息を漏らしながら、吸い寄せられるようにその小ぶりな耳たぶへと唇を寄せると、逃がさぬように前歯で優しく、しかし確かな力強さをもって、きゅうと甘噛みした。
「あっ、んっ。若宮、さま、御戯れはなりませぬ」
脳髄を直接揺さぶるような、甘く鋭い刺激。聡子は不意打ちの快感に身体を弓なりに強張らせた。
「ご、ごめんなさい、聡子殿」
陸仁もまた、掌から直に伝わる、昨夜までみずからの手で暴き貪り尽くした肉体の息を呑むような柔らかさとその熱量に、脳が焼き切れんばかりの衝動を覚えたが、崩壊寸前の己の理性をすり潰すようにして、逃げ惑う小さなホックを噛み合わせその音を微かに響かせた。
続いて陸仁が手を伸ばしたのは、足元に落ちていたレース地のキャミソールだった。
キャミソールに足を通し、聡子の言葉を聞きながら下から胸の位置まで引き上げ、体に合わせる。最後に肩へストラップをかけながら、陸仁は、我を忘れて聡子の白い身体のあちこちに幾度も熱い口づけを落とし、激しく吸い上げていった記憶を思い出し、少しの罪悪感と抑えきれない熱情を蘇らせていた。
「痕が残ってしまいましたね」
申し訳なさから、その傷を少しでも和らげようとそっと唇を寄せ、首元の痕を舐めとる陸仁。しかし、反省の行いであったはずのそれが、決定的な裏切りとなった。
「あ、若宮様。御戯れは……っ」
舌先に伝わる聡子の肌の圧倒的な体温と、そこから匂い立つ甘い蜜のような香り。すべらかな皮膚の生々しい感触が唇から脳髄へと直撃した瞬間、胸の奥にあった罪悪感そのものが、急速にどろりとした官能的な快楽へと変質していった。
傷を癒やすための愛撫は、気付けば彼女の体温を貪るための貪欲な愛撫へと変わり、擦り寄せる鼻腔から聡子の吐息を吸い込むたび、陸仁の理性を縛っていた反省の糸が一本ずつぷつりと切れていく。申し訳ないと思う気持ちが深ければ深いほど、この美しい女性を自分が歪めてしまったという強烈な万能感と支配欲が背中を駆け上がり、己の甘い罪悪感そのものに酔い痴れていく。
「教えられた通りの振る舞いができませんでした……聡子殿」
聡子の耳元で囁かれる謝罪の言葉は、熱く湿った吐息に呑まれ、次第に語尾を失っていく。反省を口にしながらも、その唇は逃がさぬように耳たぶをなぞり、掠れた声には隠しようもない情念が滲み出ていた。謝罪として紡がれたはずの言葉は、彼女の肌の熱に溶かされ、いつしか申し訳なさの体裁を借りた執着の独白へと成り果てていく。
「……申し訳ありません。ですが……この痕を消したくはないのです。私以外の男の目に晒したくない……あなたの夫君にも。……私だけの印として、残しておきたい」
言葉の変質とともに陸仁の手つきから「生徒」としての逡巡が完全に削ぎ落とされ、自暴自棄にも似た熱情が若宮の全身を支配した。
「ひゃっぅ。わ、若宮様。御戯れはいい加減に、むぐぅ」
言いかけた聡子の言葉は、もはや躊躇いを捨て去った陸仁の深い接吻によって、容赦なく塞がれた。
「んっ! ──!! ……あんっ」
聡子は先ほど自らの手で完璧に整えたばかりの陸仁のシャツの胸元を、必死に押し返そうとした。だが、熱に浮かされた陸仁は一顧だにせず、留めたばかりのボタンをもどかし気に手早く外し、生地を痛めぬよう注意しながらも荒々しくシャツを脱ぎ捨てると、スラックスを下着もろとも脱ぎ捨て、露出した猛りをむき出しにして姿見の前で後ろから乱れた下着姿の彼女を強引に抱きすくめた。
大きな鏡の正面に立たされ、肩ひもが落ち脱げかかったキャミソールという無様な姿を晒された聡子は、鏡の中に映る自分と陸仁の姿に息を呑んだ。
「わ、若宮様っ、姿見の前などでっ」
「やはり、できません……聡子殿。着せることも、解くことも……私の手は、まだ不器用すぎるようです」
陸仁は背後から聡子の細い首筋に顔をうずめ、耳元で低く熱い吐息を漏らした。鏡の向こうで、若宮の強い手が聡子の下腹部をなぞり、履かせたばかりのショーツの隙間から滑り込んでいく。
「ですが、貴女を私のものにする手つきだけは……身体が覚えています」
「ぁっ! あ……お、お手を……お離しくださいませっ」
「離しません。……私の手の中で、貴女はあまりにも小さく、でも艶やかに感じられました。……お答えください、聡子殿。この身体の寸法はいくつなのですか。……背丈も、胸も、腰も……一月前、初めて聡子殿の一糸まとわぬ姿を見ました。あの夜から、いつかその寸法を知りたいと思っていました」
「あんっ、私は家令の妻でございますっ。そのようなこと、お教えできかねますっ! 若宮様っ。これ以上、このような無体な真似は……っ!」
「……このような事、あなたの夫君や雅忠に尋ねるわけにはいきません。これが最後の機会かも知れないのです、おっしゃっていただけるまでやめません」
鏡越しに見つめられ、下腹部をなぞられ続ける恥辱に耐えかね、聡子は途切れ途切れに数値を口にするしかなかった。
「し、身長は百五十五っ。胸は……八十六、腰は六十二……臀部は八十八でございますっ! もう……見ないで、鏡を見ないでくださいませっ!」
「そうなのですね。細いお身体に似付かわしくない、これほどまでに豊潤な肉の重み……ごめんなさい、もう我慢できません」
「あっ。また……若、宮様! んっ」
抗う聡子の両手首を後ろで固く掴み、逃げ場を失わせたまま、陸仁はあふれ出る熱をそのまま彼女の最奥へと強引に押し通した。
鏡の向こうで、三十七歳の家令の妻が、手首を後ろで捕らえられたまま背後から貫かれ、恍惚と屈辱に顔を歪める様がはっきりと映し出される。視覚から突きつけられる絶望的な背徳に、聡子の膣腔は締め付けるように陸仁の猛りを脈打って受け入れてしまった。
「ほら……口では拒みながら、私をこんなにも深く呑み込んでいる。……聡子殿、私は無体な真似は致しておりません。これは貴女が望んで受け入れてくださったのです」
「んぁっ……! ち、違っ、あぁぁっ!」
鏡越しに視線を交わされながら、容赦なく最奥を叩かれる衝撃に、聡子は声もなく頭をのけぞらせた。抑えが利かなくなった若宮が剛直を抜き、聡子の身体を抱え上げる。腕の中にすっぽりと収まる背丈でありながら、伝わってくるのは間違いなく一人の成熟した女性としての確かな重みと密度であった。
「聡子殿。この腕の中にある重みは……これほどまでに生々しく、豊かなのですね。体重はおいくつなのです」
「た、体重は五十二……いえ、五十三キロほどでございますっ!」
「なるほど。手の中にすっぽりと収まる背丈でありながら伝わる確かな重み。このすべてがいま私の腕にあるのですね……。鏡の前だけでは足りません。貴女のすべてを、もう一度私に刻み込んでください」
陸仁は崩れかける聡子の身体を抱え上げると、乱れたシーツの上へとなだれ込むように倒し、その上から覆いかぶさった。
抱え上げる際に邪魔になったショーツは陸仁の手によって膝から足首へと強引に引き剥がされて床へ脱ぎ捨てられ、キャミソールもまた床へと押し払われていた。先ほど彼の手で苦心して留められたばかりのブラジャーも、焦る手つきで無残に解かれていく。
丁寧に身にまとわせたはずの衣類は再び散乱し、ただ荒い吐息だけが室内に残された。
拒絶しなければならないという家令の妻としての理性を、肌から直接伝わる陸仁の強烈な熱量と若さが力任せに打ち砕いていく。このひと月の間に、自らの胎内に深く叩き込まれた快楽の記憶が、聡子の意思に反して肉体を裏切らせていた。陸仁の強い昂ぶりが腿の内に触れた瞬間、聡子の身体は拒む術を失い、吸い寄せられるようにその受け入れの体勢を取ってしまう。
陸仁の手が、聡子の柔らかな腰を強く掴み、一切の猶予を与えずにその奥深くへと力強く侵入した。
「あっ……! んぐっ……あぁ……!」
聡子は頭をのけぞらせ、シーツを指先で引きちぎらんばかりに固く握りしめた。
陸仁の突き上げは、いつものどこか甘やかな温もりを完全に失っていた。それは、完璧な大人の男としての「余裕」などではなく、ひとりの未熟な男が土壇場で見せた、むき出しの執着と欲望そのものであった。子供じみた貪欲さ。その猛烈な肉体の交わりに身を任せながら、聡子の胸には激しい快感と共に、底知れぬ切なさが込み上げていた。自分はこの若宮に、女性を自らの欲望のままに支配する歓びを教え込んでしまったのではないか? これから社交界へ立ち、高貴な姫君たちを統べるための「自信」と引き換えに、この品行方正だったはずの若宮の中に、決して満たされることのない歪んだ獣を解き放ってしまったのでは? という恐怖と罪悪感。
身体を深く揺さぶられるたび、聡子の喉からは堰を切ったように甘い悲鳴が漏れ出し、白く照らされた最奥の室内に響き渡った。
乱れたシーツの上で再び繰り広げられた激しい交わりは、二人が求めた「偽りの夜」を貪り尽くし、ついにその肉体の限界とともに終わりを迎えた。
静寂が訪れた室内には、二人分の荒い息遣いだけが残されていた。
激しい交わりの余韻に震える身体を横たえながら、聡子は乱れた胸元を押さえ、息を整えつつ陸仁の方へと視線を向けた。
「……若宮様。お約束を破り、このような無体をお働きになるとは……。私を整えるとおっしゃったのは、偽りでございますか」
教師としての毅然とした響きを取り戻そうとする聡子の声は、しかし度重なる絶頂の疲弊からかすかに震えていた。
すると、先ほどまで荒々しい猛獣のように覆いかぶさっていた陸仁は、一瞬にして元の「素直な生徒」の顔へと戻り、申し訳なさそうに気まずい面持ちで視線を泳がせた。
「……申し訳ありません、聡子殿。我慢をしようとしたのですが、貴女があまりにも美しく……止めることができませんでした」
素直に首を垂れ、反省の色を見せる若宮。その素朴で無垢な態度に、聡子はそれ以上の強い叱責を与えることができず、ただ小さく息を吐き出すしかなかった。
だが──陸仁のその素直な態度の裏側で、彼の瞳の奥に宿る熱気は冷めてはいなかった。
陸仁は垂れた前髪の隙間から、ぐったりとシーツに伏す聡子の姿を、静かに、そして深く観察していた。
衣服を整える礼儀作法の時、ほんの少し耳飾りに手が触れただけで、聡子が微かに肩を強張らせていたこと。耳元で囁いた時の感情の乱れ。そして先程シャワーの音に紛れさせるようにして彼女が漏らした小さな甘い溜息。一ヶ月の濃密な記憶の断片が、冴え渡る脳裏で一つに繋がる。
(聡子殿の耳が弱いことは間違いない。それに──)
どの部位に指を滑らせ、どこを深く突き上げれば、あの気高き家令の妻が理性を失い、喉から甘い悲鳴と喘ぎを漏らすのか。ひと月の間、そして今しがたの暴走の中で得たそのすべての反動と反応が、陸仁の頭の中で鮮明に記憶されていく。
(……腰を強く掴み、左の最奥を擦り上げるように突けば、声も出せずに私にしがみついてくる──)
一月かけて聡子が彼に教え込んだ「女性の扱い方」や「観察の作法」。陸仁はその教義を忠実に、しかし聡子の意図とは全く異なる形で──彼女自身を完全に掌握し、支配するための術として完璧に血肉に変えていたのだった。
表面上は反省した面持ちで「ごめんなさい」と呟きながらも、陸仁の手付きと視線は、二度と自分から逃れられないよう、その女性の弱点を全て暴き尽くした男の確信に満ちていた。
そして、4月29日――金曜日の夜。
一ヶ月に及んだ「教育」の最後を締めくくる夜が訪れた。
「聡子殿……髪がだいぶ伸びてきましたね」
実技の前の習慣となった二人でのシャワー。程よい温水を浴びつつ陸仁が聡子の髪を優しく梳いていた。
「はい。以前ほどではありませんが」
「この髪の長さもお似合いです」
そっと聡子の髪に口付けする陸仁。
「あら。若宮様もお口がお上手になられましたね」
「私は嘘は申しません、聡子殿」
聡子の髪を梳きつつその身体を抱きしめていた陸仁は、熱を帯びた視線で聡子を見つめた。聡子はその熱を正面から受け止め、静かに促した。
「……殿下。今宵が最後にございます。雑念に囚われず、見事私から卒業の証を引き出してくださいませ」
「……わかりました。今まで学んだことをすべて出し切って見せます」
「では、私が着替えます。若宮様は私の服を解くことから始めてください」
(そして聡子殿。貴女を観察し尽くして得た知識も──)
これまでの夜は常に聡子が主導権を握り、陸仁の拙い動きを時に優しく、時に厳しく導いてきた。
だが、この夜の佳境──深く重なり合った瞬間に、聡子はかつて経験したことのない衝撃に襲われた。芯が痺れ、理性の輪郭が溶けていくような過剰な快楽に、一瞬意識を暗転させた。
十歳上の夫・雅武との規律正しい生活では引き出されることのなかった、聡子の肉体の奥底に眠る渇望。若さゆえの狂おしい熱量と、この一ヶ月で覚醒した陸仁の容赦ない躍動は、指導者としての聡子の仮面を完全に叩き割っていた。
乱れた呼吸とともに意識を戻すと、自分を見下ろす陸仁の顔があった。そこには、かつての「素直な生徒」の面影はない。幾度も彼女を組み敷いて得た経験が、陸仁を「精力漲る若い雄」へと変貌させていた。
「聡子殿。気を遣(や)ってしまったようにお見受けします……大丈夫でしょうか?」
あまりにも率直に、そして残酷に突きつけられた言葉。指導者であったはずの自分が、陸仁の猛りの前に理性を吹き飛ばされ、完全に「果てさせられた」という事実。
聡子は内面に走った激しい動揺を、年長者としての意地と微笑みで必死に覆い隠した。
「……お見事でございました、若宮様。これで、ご卒業にございます」
聡子の確信に満ちた言葉に、陸仁の唇に小さく自信の笑みが浮かぶ。
「どうなさいました?」
「……少し不思議なのです。一ヶ月前、この部屋に初めて入ったときは、自分がこの世で最も浅ましい大罪人になった心地がしていました。実の兄弟のように育った雅忠やその弟妹の母であり、我が宮家を支える六条の妻を抱くなど……。ですが今この手にあるのは、恐ろしさではなく満ち足りた静けさだけです。貴女が身を挺して与えてくれたものの重さと尊さが、今ならよく分かるのです。……ありがとうございました」
その率直な言葉に、聡子は胸の奥が締め付けられるような痛みを覚えた。不義理をただの快楽で終わらせず、宮家を守るための「礎」として受け止めようとする、この若宮の本質的な誠実さと優しさ。
「……若宮様は、お優しい方にございますね」
聡子はシーツを胸元まで引き上げ、微かに目元を和ませて微笑んだ。
「ですが、その優しさはこれから出会う令嬢たちの前では『余裕』という鎧に変えてお召しになってくださいませ。女性は男の戸惑いを敏感に嗅ぎ取ります。今宵、この聡子を翻弄なされたように、ただ堂々とお相手を見つめて差し上げるのです。それだけで、いかなる名門の姫君も殿下の御前にひれ伏すことでしょう」
「……私に、それができるでしょうか」
「できますとも。この一ヶ月、殿下の成長を最も近くで、この身で受け止めてまいった聡子が保証いたします」
毅然と言い切る聡子だったが、自分を見下ろす陸仁の瞳に宿る「雄」の気配に、胸の奥で微かな恐怖を覚えていた。
「聡子殿、一月の間の手ほどき、ありがとうございました。……名残惜しくはありますが、夜が明ければ私は京極宮家の若宮。貴女は宮家令、六条雅武の妻に戻るのですね」
「はい、左様にございます。夜が明ければ、私たちは元通りの主従にございます」
自らの自己犠牲を「奉公」として完結させるため、冷徹に境界線を引こうとする聡子。
しかし陸仁は、その手を彼女の端正な臀部へと滑らせた。そして抗う余地を与えない膂力で、小柄な身体を再び寝台へと縫い付ける。
「ならば……夜が明けるまでは、貴女は我が情人ですよね」
その低く掠れた声に聡子は一瞬だけ息を詰まらせた。
「!? 左様にございます……が?」
問いを返し終える前に、一ヶ月の間に聡子自身が教え込んだ「完璧な角度と深さ」をもって、陸仁の容赦のない熱が、彼女の身体を貫いた。
「──あっ!? わ、若宮様っ」
悲鳴に近い吐息が聡子の唇から漏れ出る。今までとは違い主導権は陸仁の手に移っていた。
「若宮、様……、そこはっ」
「貴女に教わりました。ここに触れれば、貴女の身体がどうなるかを」
最奥を激しく突かれ、寝台に縫い付けられた聡子の身体の上へ、陸仁は容赦なく覆いかぶさる。
かつて、実の母である澄子が公務により慶仁の傍を離れられなかった日々、まだ何も知らぬ乳児であった陸仁をその柔らかな腕で抱き、乳を惜しみなく与えてくれた、もっとも崇高な母性の象徴。
その同じ胸元を、下半身を深く結合させたまま、今は大人の男へと変わりつつある陸仁の指先が容赦なく愛撫していた。突き上げる衝撃のたびに、豊かな胸が激しく揺れ、彼の掌の中で形を歪めていく。
「若宮、様っ、そ、そのように貫かれたまま弄ばれては……手引きがっ」
「手引きならもう頭に入っています、聡子殿。今は、こうして貴女の胸に触れている方が、ずっと多くのことが解る」
琥珀色のスタンドの光に照らされた聡子の胸は豊かな膨らみを湛え、夜の冷気に震えていた。
「う、嘘……」
「私を疑うのですか、聡子殿。嘘だとお思いなら証立てをせねばなりませんね」
そう言うと陸仁は、かつて自らの唇が吸い付いていたであろう先端を、今度は熱い欲望の対象として舌で激しく弄り、押し潰した。
指先が柔らかな膨らみを深く沈ませ、舌が先端を激しく嬲る。そのたびに、聡子の口からは、かつて宮廷の作法を厳格に説いていた時とは似ても似つかない、高音の甘い吐息が零れ落ちた。
「あっ……! 殿下、そんなに強く……」
「貴女のここが、私の指を吸い込むように熱くなっている。これは教本では教わらなかったことですよね」
「それはっ、ん、あぁっ!」
甘い悲鳴を上げる聡子。
「ですから貴女の胸に触れている方が、ずっと多くのことが解ると言ったのです」
親友である雅忠の、何よりも尊ぶべき母親。そして六条家の絶対的な中心である「友の母」を、一晩中貪り尽くす。その高揚し難い背徳感に、陸仁の脳裏は満たされていた。
「聡子殿。ここも──」
聡子の腰を強く掴み、左の最奥を擦り上げるように突く陸仁。
「あぅ! そ、そこは……い、嫌ぁ」
聡子の女盛りの肉体は、若者の内に目覚めた抑えきれぬ若き性欲の奔流の前に、ただただ涙を浮かべて翻弄されるしかなかった。
陸仁の貪欲な探求は、次第に苛烈さを増していった。
陸仁は聡子の胎内にその白濁を吐き出すと、その手首を強く掴み、寝台から引きずるようにして部屋の奥の狭い浴室へと連れ込んだ。
換気扇が低く唸る薄暗い浴室。天井から降り注ぐ熱いシャワーがたちまち室内に白い湯気を立ち上らせ、二人の肌を濡らしていく。
「殿下、お待ちをっ、このような、手荒な、あっ」
拒む聡子の声を、陸仁は強引な抱擁で封じた。
水濡れで滑りやすくなった彼女の細い腰を若さゆえの膂力で固定し、冷たい鏡張りの壁に押し付ける。容赦なく降り注ぐ湯水のなか、陸仁の主導による猛烈な突き上げが、聡子の濡れた最奥を激しく貫いた。
「ひっ。んっ……! あ、だめっ、奥が……! そ、そこでは深すぎますっ!」
声を震わせる聡子の臀部を両手で固く持ち上げ、重力に抗うようにしてさらに深く執拗に交わり、貪る陸仁。シャワーの水音にかき消されながらも、肉と肉が濡れて爆ぜる生々しい音が狭い浴室に反響し、聡子は水滴に濡れた顔を歪め、ただ陸仁の荒々しい衝動に身を任せるしかなかった。
だが、陸仁の貪欲な探求はそれだけでは終わらなかった。
一度目の絶頂の余韻に身を震わせ、崩れ落ちそうになる聡子の身体を、陸仁は逃さず両脇から抱え上げた。そのまま身体を旋回させ、正面の壁一面にひろがる白く曇った四角い鏡へと向かわせる。聡子の両腕を伸ばして鏡へ押し付けさせると、支えを失った彼女の体は自然と腰を落とし、臀部を突き出す形となった。
陸仁はうっすらと笑みを浮かべ、突き出された臀部へ密着するように背後から覆いかぶさる。
「あっ! 殿下っ、もう、お許しをっ」
「聡子殿、見てください。おや、鏡が曇って、貴女の顔が見えませんね」
陸仁が濡れた掌で、容赦なく鏡の湯気を大きく拭い去ると、水滴が滴る鏡の向こうに、前髪を濡らし視線を彷徨わせる『三十七歳の家令の妻が淫らに乱れた姿』が露わになる。見せつけられた己の醜態に聡子が息を呑んだ瞬間、陸仁は彼女の腰を背後から力任せに引き寄せ、ふたたび、その熱い最奥へと容赦なく剛直を突き入れた。
「あ、うそっ、いやっ! 殿下、見せないで、見せないでくださいませっ!」
「嫌ですか? 自分の施した教育が、これほど完璧に私を狂わせているというのに」
鏡に両手を突かされ、逃げ場をなくした状態で、胸を弄られながら後ろから何度も激しく貫かれる。
突き上げられる衝撃のたびに、鏡の中の聡子の顔が快楽に歪む。その表情が彼女自身の目にはっきりと焼き付けられた。陸仁は彼女の耳元に唇を寄せ、じくじくと熱を帯びる耳たぶを甘噛みしながら、鏡の中の彼女の瞳をじっと見据える。
「御自身の目で確かめてください。私を受け入れている時の、貴女のその表情を」
「いゃぁっ……! あ、あああっ! 雅武様……ごめんなさい、私、私はっ!」
鏡の向こうで、陸仁に組み敷かれ、涙を流して狂わされている自分。夫や息子達への裏切りを視覚として突きつけられ、聡子の理性は崩壊した。背徳の快楽が脳髄を直撃し、耳への愛撫と連動した彼女の『壺』は、鏡の中で激しく腰を振る陸仁の肉体をちぎれんばかりの力で締め付け、貪り、陸仁の突き上げに応えてしまった。
湯気と水滴が滴る巨大な鏡に、全身を濡らし、若宮に完全に捕らわれた己の無様な姿が包み隠さず映し出されていた。
やがて白濁を吐き出し最奥を貫いていた結合を解くと、陸仁は崩れかける聡子の身体をくるりと反転させ、鏡面の壁に対して直角に位置する壁へもたれかけさせると、力任せに肩を押し下げた。
「その場に膝をついて立ち膝になりなさい」
濡れた床に膝をついた聡子の胸元は、直立する陸仁の腰の高さ──立ち上がった剛直の目の前へと合致した。
陸仁は彼女の顎を強く掴み、強制的に鏡へと顔を向けさせ、自らの膨らみ上がった猛りを、かつて幼き頃に乳を貪った、彼女の豊かな双丘へと容赦なく押し当てた。
「見なさい、聡子殿。逃げることは許しません。今度は、この胸で私を歓ばせてみなさい」
「っ……! 殿下、そのようなっ!」
あまりの屈辱に聡子の唇が震える。かつて慈愛をもって幼子を育んだ母性の象徴。それが今や、大人の男となった若宮の欲望を処理するための道具として差し出されようとしている。
だが、陸仁の瞳にある容赦のない熱に逆らうことは叶わなかった。聡子は震える手で自らの豊かな胸を左右から強く寄せ集めると、濡れて滑らかになった谷間へ、陸仁の熱く硬い猛りを深く挟み込んだ。
「あっ、んっ……」
「聡子殿。鏡を見なさい」
横の壁に背を預け、鏡を見つめさせられた聡子の視界には、『三十七歳の家令の妻が濡れた髪を振り乱しながら、若宮の剛直に胸で奉仕している破廉恥な姿』が克明に映し出されている。
陸仁は彼女の頭髪を掴んで固定し、自ら腰を上下させて、その柔らかな肉の弾力と滑らかな肌の摩擦を存分に貪った。水滴と温水が潤滑油の様になり生々しい音を立てて熱が胸元を擦り上げる。
「い、嫌。若宮様、お許しを」
「目を背けるな、聡子!」
「ひっ」
激しく声を荒げる陸仁に短く悲鳴を上げる聡子。
「ああ。私としたことが声を荒げるなど。申し訳ありません、聡子殿。ですが……」
「わ、わかりました」
涙を浮かべつつ鏡に映し出される己の姿を見せつけられながら、胸先で若者の猛りを受け止める屈辱。夫への裏切り、息子への背徳が、胸元から伝わる圧倒的な肉の熱を通じて脳髄を麻痺させていく。腰を振る速度が急速に増し、陸仁の熱が限界まで膨れ上がっていく。聡子の豊かな双丘を押し潰し、その柔らかな谷間に力任せに猛りを擦り付けるたび、水滴と混じり合った生々しい摩擦音が狭い浴室内にどこまでも反響した。
「聡子殿っ、そのまま、強く挟みなさいっ!」
「んっ……あぁっ、殿下っ、あっ!」
陸仁の手が強く彼女の髪を引っ張り、顔を強制的に鏡へと向けさせる。鏡の中に胸を押し絞りながら自ら若者の射精を受け止めようと必死に追随する己の姿が映っていた。
極限まで高まった陸仁の腰の動きがピタリと止まった瞬間、熱く濃密な白濁が、強烈な脈動とともに聡子の胸元から首元へと勢いよく迸り出た。
「っ……! あっ!」
白く温かな滴が、濡れた柔肌と胸の谷間をドロリと汚しながら滴り落ちていく。自分の胸先を汚す圧倒的な熱と、鏡越しに見せつけられる背徳の証明。
直前の激しい交わりで与えられた絶頂の余韻が残る身体に、胸元を汚される圧倒的な屈辱が追い打ちをかけ、聡子はただ絶句したまま、涙で霞む瞳で己の胸元と鏡の中の醜態を見つめることしかできなかった。理性のすべてを粉砕され、もはや声すら出せない。
荒い息を吐き出しながら、陸仁は彼女の胸元に全てを吐き出し終えると、ゆっくりと体を開放した。支えを失った聡子は、壁に背を滑らせるようにしてその場に崩れ落ち、胸元を汚されたまま、力無く荒い息を繰り返した。
陸仁はぐったりと壁に身を委ねる聡子の身体をシャワーの湯をかけ全身を洗い流すと、その身体を抱き上げ側にあったバスタオルを掴んだ。
彼女の全身を滴る水気を乱暴な手つきで拭い去ると、再び遮光カーテンに閉ざされた薄暗い寝台へ連れ戻し投げ出すように押し倒した。
ここからの陸仁の探求は、更に手加減を知らぬものとなった。
寝台の上で仰向けになった聡子の足を大きく左右へと広げさせ、自身は横向けに「一」の字になるように交差して覆いかぶさる──『菊一文字』。この激しい体位から、陸仁は彼女の腰の動きに合わせて、容赦なく肉を衝突させた。
羞恥心に顔を真っ赤に染め、涙を流す聡子。陸仁の腰の動きに翻弄されながら、自身の意思とは裏腹に腰をくねらせてしまう。肉と肉が湿って爆ぜる生々しい音が再び一室に響き渡り、聡子はかつてないほどの快感の激流にただ翻弄され、夜明けが近づく暗闇のなかで何度も絶頂の声を絞り出された。
絶頂の余韻が引かぬうちに、陸仁は聡子の熟れた肢体を寝台から窓際に立たせた。
「で、殿下……まさか、ここで……」
「正解です、我が情人」
「い、嫌でございます。もし宿直にでも見られたら……」
「つべこべ言わずに私の指示に従いなさい。そこの窓枠に両手をつきなさい。抵抗するならそのカーテンを開けて、行為を続けますよ」
「ひっ!」
遮光カーテンがかかる窓枠に聡子の両手をつけさせると、陸仁が後ろから自身を聡子の最奥へと再び無慈悲に突き立てる──『うしろ櫓』
「あ、ひっ……! 殿下、もう、このような……辱めはっ……!」
「動きを止めてはなりません、聡子殿。私のすべてをその身で受け止めなさい」
背後からの強暴な抜差しに、聡子は逃げ場をなくし、ただ涙を流して突き上げられる衝撃を肉体で直に受け止める。若者の意識は、家令の妻を文字通り肉体的に支配することに傾注していった。
そこから陸仁は、聡子を再び寝台へと押し戻し、仰向けにさせた。
これまでの正常位とは異なり、陸仁は聡子の胴を空へ浮かせるようにして、その細い腰を自らの腕力で力任せに持ち上げた。腰高位──『つり橋』の体勢。陸仁が膝立ちになり、重力と若さゆえの膂力をもって、直下型の容赦のない突き上げを繰り返す。
「ん、あぁっ……! 殿っ……下っ、このようなっ、あ、ひっ! あぁっ!」
高く持ち上げられた聡子の肉体は、逃げ道を完全に塞がれ、陸仁の熱を最奥のさらに奥深くへと直に迎え入れさせられる。腕と腹筋に力を入れ、必死に体勢を支えようとする聡子だったが、奥を直接抉られるあまりの快感の烈しさに頭の芯が痺れ、白目を剥きながらシーツを強く掻きむしった。
陸仁は脱力した聡子をうつ伏せにして背後から貫き結合し、それを維持しながら自身が寝台に仰向けになり、聡子の身体をその上に引き倒し、『撞木ぞり』へと移行する。
天井を向いたまま、陸仁の猛りを自らの体内に丸ごと呑み込んだ聡子は、自ら腰を動かさざるを得ない状況に、さらなる羞恥に引き裂かれた。
陸仁は自らの両膝をわずかに立て、角度を作ると、聡子のしなやかな背中と肩を両腕で力強く下から支え上げた。そのまま彼女にわずかに腰を浮かせる姿勢を保たせ、自身の猛りが最も深く届く軌道を完璧に固定する。
背中を向けたまま前屈し、上体を支えることに専念させられた聡子は、陸仁との肌の接触面が限られているからこそ、その結合部にのみすべての感覚が異常なほど鋭敏に研ぎ澄まされていくのを感じていた。互いの体温で誤魔化すことの出きない、肉と肉が直接噛み合う強烈な熱と蠢動が、彼女の膣内を侵食していく。
「姿勢を崩してはなりません。そのまま腰を浮かせ、私の動きを受け入れなさい」
「ん、あぁっ……! 殿……下っ、そのようなっ!」
陸仁は彼女の上半身を両腕でしっかりと逃さぬよう抱き留め、下から容赦のない、力強い突き上げを執拗に繰り返した。膝を立てたことで生まれた絶妙な間隙から、重力を味方につけた猛烈な一撃が幾度も最奥を穿つ。
聡子は必死に体勢を保ち、陸仁の熱を逃がさぬよう微かに腰をくねらせるのが精一杯だった。汗ばんだ背中が陸仁の胸に張り付き、自らの意思とは無関係に、結合部をギチギチと締め付けながら腰をくねらせる。
聡子は逃げ場のない最奥への直撃に、頭の芯が白く痺れ、ただ己の体内を破壊するように貫く陸仁の熱だけに意識を支配されていった。
間髪入れず、陸仁は聡子の身体を正面へと反転させ、互いの肢体を座った状態で密着させる──『獅子舞』へと持ち込んだ。
男女が向かい合って座り、二人とも後ろに手をついて身体を支える。陸仁は、柔軟な聡子の足を自身の肩へと強引に押し上げ、その限界まで開かれた肉体の最奥へと剛直を叩き込んだ。
「あぅっ! あぁ……!? 苦し、いっ、もう、中が、壊れてっ!」
苦しい姿勢を強いられた聡子の膣は、圧迫によって限界までギュッと狭まり、陸仁の剛直を驚くほどの力で締め付けた。対面で互いの荒い呼吸が顔にかかるなか、陸仁の男としての誇りと昂揚感は頂点へと達し、手をついて支えながらも、容赦のない腰の突き上げを続け白濁を迸りさせた。
暗闇がゆっくりと白み始めるその時まで、陸仁はただひたすらに、教わったことのすべてを確かめるようにして、聡子の肉体を自らの意志で求め続け、その胎内に己の白濁を吐き出し続けた。
いつも完璧で、自分を子供扱いして優しく教え諭していた「家令の妻」が、今、自分の腕の中で声を枯らし、ただ一人の男として自分を求めて乱れている。その事実こそが、お披露目を前に焦燥しきっていた若宮の心に、確固たる大人の男としての自信と、誇りを取り戻させていた。
「……若宮様、もう、夜が……」
窓の隙間から差し込む朝の光が、重い遮光カーテンの端をうっすらと白く染め始める。その光は汗ばんだ聡子の白い肩を照らし出し、残された時間が残り僅かであることを告げていた。
「若宮、様……もう、お止めに……。夜が、明けてしまいます……」
聡子は、胸を大きく波打つように弾まされつつも必死に陸仁の理性を取り戻そうと懇願する。だが、陸仁はその声を遮るように、汗ばんだ聡子の髪を優しくかき分けると、露わになったその小さな耳へと唇を寄せた。
「聡子殿。本当に、もう終わりにしてもよろしいのですか?」
低く掠れた声で囁きながら、形の良い耳輪を熱い舌先でそっと不意打ちするように、濡れた愛撫でなぞり上げる。その瞬間、聡子の小柄な身体が、まるで電流が走ったかのように寝台の上で大きく跳ね上がった。
「──あっ!? 殿、下、そこ、は……ッ!」
「やはり。聡子殿、貴女は耳が弱かったのですね」
彼は、聡子から教わった「女を歓ばせるための技術」をなぞるうちに女体の弱さというものについて学んでいた。聡子の弱さに気が付いた陸仁の動きに躊躇はなかった。陸仁が耳朶を優しく噛み、そこへ熱い息を吹き込む。
陸仁の若く容赦のない舌先で深く、執拗に攻め立てられた聡子は頭の芯が真っ白になるほどの快楽の激流に押し流された。
「はぅっ! あっ。う、そ……」
家令の妻としての矜持を完全に叩き割られた甘い悲鳴を漏らす聡子。自然と、耳への刺激と完全に連動するように、彼女の身体の奥深く、陸仁を迎え入れている『壺』が、恐ろしいほどの力で、ギチギチと陸仁の剛直を締め付け始めた。
「っ、聡子殿、すごい、ですね。こんなに、締め付けるのですか。それに……」
「ちが、違います、若宮、様っ、あ、あ、だめ、そんな風にっ!」
聡子の意思とは無関係に、熟れきった肉体が、陸仁の白濁を一滴残らず搾り取ろうとするかのように、うねり、収縮を繰り返す。いつも完璧だった「指導者」が、自らの指先と唇によって、ただの淫らな雌として悶え狂っている。その肉体的な接触の機微は陸仁に男としての凄まじい昂揚感と聡子の悦楽を完全に掌握したという全能感を爆発させた。
「ああ。本当に夜が明けてしまいますね。この楽しい一時ももうすぐ終わってしまう」
「若宮様。御仕度を……」
「聡子殿。これが最後です」
遮光カーテンから漏れてくる朝の光のなか、陸仁は聡子の手首を強く掴み、寝台から引きずるようにして部屋に据え付けられていた大きな姿見の前へと移動した。
鏡を背にするようにして床に腰を下ろした陸仁の上に、脚を大きく広げた息も絶え絶えの聡子が、後ろ向きで跨がるようにして座る──『乱れ牡丹』。
鏡の向こうには、若宮の膝の上で完全に力尽き、涙と汗で顔を濡らしながらも、下半身を深く結合させたままの聡子の破廉恥な姿が映し出されていた。後ろから聡子の首筋を愛撫し、耳元で甘い言葉を囁きながら、陸仁は彼女の細い腰を両手でしっかりと固定し、下から突き上げるようにして自身のすべてを最奥のさらに先へと押し入れた。
「ほら、聡子殿。ご覧なさい、貴女のその恍惚とした表情を。写真に収めて家令や雅忠達に見せたいものです。あ、そうでした」
聡子の体を開放する陸仁。
「確かそこの引き出しに……ああ、あったあった」
陸仁は引き出しを開けて目的のカメラを見つけ、取り出すとそのレンズを聡子へと向けた。
「私は学習院では写真部にも居りましてね、現像も自分でできるのですよ」
「──あ、お止め……お止めくださいませっ! 殿下、そのような……そのようなことっ! 雅武様や雅忠達に知られては……私は、私はもうっ!」
カシャッ
一瞬の静寂を切り裂くように乾いたシャッター音が響いた。
「現像したら六条家に送ってあげましょう」
「う、嘘……嫌ぁぁ」
取り返しのつかない現実を突きつけられ、聡子の顔から血の気が引いていく。夫と息子達の名を出されたことによる圧倒的な背徳と罪悪感が胸を押し潰し、彼女は崩れ落ちるようにして床に伏し、ただ絶望の暗闇へと突き落とされた。
「冗談ですよ。誰がそのような卑劣なことを行うものですか」
いたずらが成功した子供のような酷薄な笑みを浮かべると、陸仁は裏蓋を開けて見せた。そこにはフィルムなど収められていなかった。
陸仁が用済みのカメラを床へ転がすと、聡子は恐怖と羞恥のあまり過呼吸に陥り、肩を激しく上下させて震える。解放されたと思ったのも束の間──床に両手をついて這いつくばる聡子の豊かな臀部を、陸仁は背後から手荒く掴み寄せ、うっすらと差し込む朝の光のなか、その猛りを、ふたたび彼女の最奥へと容赦なく一撃で突き入れた。
「ひ、あぁっ……! う、そっ、うそ、まだっ!?」
「まだ終わりだとは言っていません。私に『余裕』を持てと教えたのは、貴女の方でしょう」
背後から容赦なく繰り返される凶暴な挿抜。鏡の向こうでは、完全に凌辱され、涙で顔をぐしゃぐしゃにした『三十七歳の家令の妻』が、若者の気まぐれな支配欲に翻弄されて腰をくねらせる姿が克明に映し出されていた。夫への、そして息子達への破滅的な裏切りの視覚的恐怖が、聡子の脳髄を最悪の快感で叩き割っていく。
鏡の中の聡子は声を枯らして絶叫した。耳への執拗な舌の動きと連動し、彼女の『壺』が命を吸い尽くすような烈しさで、ギチギチと陸仁を締め上げる。
陸仁がその最高潮の締め付けのなかで、歓喜の声を上げて彼女の身体に果ててもなお、狂乱の宴は続いていった。
静寂が室内を包み込むなか、時間は残酷なほど確実に過ぎ去っていた。
昨夜からの狂乱の交わりが終演を迎え、ようやく二人の永い夜が幕を閉じた時には朝の白い光が二人を照らし出していた。
重いカーテンの隙間から漏れ出る朝光は、床に散らばった衣類や荒々しく残された情事の痕跡を残酷なまでに鮮明に浮かび上がらせていた。
人の出入りがない休日の宮邸の北翼、その最奥に位置する御連枝資料室に面した一室とは言え、北翼からの退出の瞬間に誰の目に留まるかも分からないという極限の緊張感、最奥の密室に充満する濃厚な情事の匂いと冷え込んでいく空気が、聡子の麻痺していた理性を急速に現実に引き戻した。
(早くこの部屋を出なければ)
身体の奥底に溜まったズシリとした鈍い疼きに耐えながら、聡子は震える腕でシーツを手繰り寄せ、痛む体をなんとか起こそうとした。乱れた髪を掻き揚げ、崩れた身なりを整えようと焦る彼女の視線に、寝台に横たわり疲れて寝ているように思われる陸仁がいた。
「……若宮様。若宮様、お目覚めになられますか」
聡子が息を殺した小さな声で問いかけるも、寝台の上の陸仁から返ってくる応答はない。規則正しい寝息を立てるその幼さの残る横顔は、聡子を徹底的に踏みにじり、欲望のままに貪り尽くした猛獣と同一人物だとは到底信じがたいものだった。
(私は一体何を……)
聡子は、陸仁の寝顔を見つめながらこの一カ月を振り返った。
一ヶ月前、この宮邸の北翼で彼に「女」の手ほどきを施し、その扱いを導くはずだった自分。だが今はどうだろうか。最後の夜に完全に崩壊したその立場と、侵食され尽くした『家令の妻』としての誇り。夫への操を守るべき身であり、母であるはずの己の自尊心は、彼の圧倒的な執着と、暴虐なまでに猛々しい雄としての本能の前に脆くも砕け散り、夫や息子達への罪悪感に苛まれながらも、その支配と屈辱的な快楽の深淵へと引きずり込まれていったのだ。
己の愚かさと尊厳の崩壊を突きつけられ逃れようのない深遠な罪悪感に押し潰されそうになりながら胸を過る、この禁忌の終わりに対する恐ろしいほどの解放感と安堵。
聡子は消え入るような擦れ声で囁いた。
「……これで、すべての教育は終了いたしました。どうぞご健やかにお過ごしくださいませ、若宮様」
静寂に包まれた室内に、か細い別れの言葉が落ちる。カーテンから差し込む朝光は、床に散らばった乱れた着衣や、乾ききらない濃密な体液の匂いをどこまでも冷酷に照らし出していた。
これで、全ての教育は終わった。聡子はそう確信し、身を引こうとした。しかし、寝台から降りようとする彼女の細い手首が強い力で捕らえられた。
「どこへ行かれるのです、聡子殿。勝手に帰られては困りますね」
ハッとしたように身を固くする聡子が微かに震える声をあげた。
「……若宮、様? 起きておいでだったのですか」
「まだ終わりではない。そうでしょう、聡子殿」
驚きに見開かれた聡子の瞳を、陸仁はただ真っ直ぐに見つめ返した。その笑みには獰猛なまでの「余裕」が滲み出ていた。
「何を、仰るのですか。私はもう、お教えすべきことはすべて……」
「貴女は言ったはずです。『女性は、男の戸惑いを敏感に嗅ぎ取る。だから堂々とお相手を見つめ、翻弄するのだ』と。であれば、その言葉が真実かどうか、本物の『余裕』が私に備わったかどうかを、その身で確かめて頂く必要があると思いませんか?」
陸仁は聡子を引き寄せ、その唇で強引に聡子の唇を割り口腔を舌で撫で回す。それは、聡子がこれまで彼に授けてきたどの技術よりも深く、優雅な所作とは裏腹な強引な口づけだった。
「あっ……ん……」
息を詰まらせる聡子から唇を離すと、その耳元で、陸仁は低く、楽しげに囁いた。
「幸い、今日は土曜日です。休日中に、工事中の北翼、その中でも最奥の御連枝資料室近くに立ち入る者は宿直くらいです。もうしばらく時間的猶予がありますよ」
「まさか……この週末を全て若宮様と過ごせなどと……それは承服致しかねます……」
「まさか。そこまで無理難題は申しません。京極宮家を支える家令にも、わが友雅忠にも申し訳が立ちません」
ほっとしたように安堵のため息を漏らす聡子。
「ですが……」
聡子が教えた知識をなぞるように、陸仁は彼女の手首を掴んだまま、静かにベッドへと押し戻した。主導権を完全に掌握した若宮の瞳には、かつての困惑はなく、ただ純粋な熱情だけが宿っている。
「聡子殿。あなたの愛しき家令は我が両親と共に明日の夕方まで戻りません。雅忠も誓子や寛代子達と共に、遅くなった卒業旅行に出かけて戻りは月曜日の午後です。雅誠(まさのぶ)や詞子(ことこ)も学習院の、五月の連休を利用した教育旅行で一昨日から一週間不在ですね。杏仁(きよひと)達も一緒ですから知っていますよ。それに六条の使用人たちには申し含めているのでしょう?」
ですから。と、聡子の耳元を甘噛みする陸仁。
「きゃぅ」
身体を反らせる聡子に囁き続ける陸仁。
「貴女が私に教えてくれたのです。男を悦ばせるための肢体の動かし方も、声の抑え方も、すべて。でしたら、今度は私がその知識を使って、貴女をどこまで翻弄できるか試させてください」
聡子の脳裏に、自らが彼に授けた官能の知識が鮮明に蘇る。しかし、それを実践し、主導権を握って自らを追い詰めてくる若い陸仁の熱量には、抗う術がなかった。かつての純粋さは鳴りを潜め、いまや完全に一人の雄として、自らを育てた教導者を蹂躙しようとしている。
「や、止め……っ! おやめください若宮様、そのような……っ! ああぁっ!?」
聡子の悲痛な制止を無視し、陸仁は容赦なく彼女の身体を寝台へ押し倒すと、欲望のままにその肢体を激しく蹂躙し始めた。陸仁の手指は、聡子の身体がどこを突かれれば理性を失うのかを完璧に記憶していた。しなやかな指先が、汗ばんだ脇腹から太腿の裏側へと這い上がり、最も敏感な粘膜を意地悪く、かつ正確に刺激していく。
「聡子殿。貴女は愛する家族の名を口にしながら、私の手指の動き一つでこれほどまでに体を熱く滾らせている。家令の妻としての自尊心も、母親としての矜持も、私の指先一つで簡単に濡れそぼってしまう。貴女のその淫らな胎内は、口先だけの拒絶とは裏腹に、私の熱を強く求めて蠢いていますよ。ほらっ」
自らが彼に授けたはずの巧みな指使いと熱い愛撫が、今や己の性感帯を的確に穿ち、理性を無慈悲に削り取っていく。
「う、嘘……っ! 違、違います……私は、あぁっ……!」
陸仁の容赦のない手つきが、濡れた太腿を押し開き、言葉とは裏腹に熱を帯びていく聡子の肉体をなぞる。聡子は必死に腕を振るって彼の胸を押しのけようとし、首を振って拒絶の言葉を紡ごうとした。しかし、執拗に秘所を擦り上げられるたび、その指先からは急速に力が失われ、拒絶のために伸ばしていた指先は、いつしか陸仁の逞しい肩にすがりつくためのものへと変わり、押し返すはずの掌は、彼の体温を求めて背中を撫で擦っていた。
「そうそう、先ほど聡子殿は、すべての教育は終了いたしました。と仰っておりましたね」
獰猛かつ酷薄な笑みを浮かべた陸仁が聡子に囁いた。
「……これで逃げられるとお思いでしたか、聡子殿。貴方は家令の妻だ。母が不在の折はこの邸に来て奥向きを司らなくてはならない。私が言いたいことはお分かりですね」
耳元で囁かれたその言葉の意味を理解した瞬間、聡子の背筋に冷たい戦慄が走った。これからもこの宮邸に足を運ぶたび、永久に陸仁の欲望の餌食となり続けねばならないという恐怖で息を呑んだ。
「宮家にいるときは私の望む時に私のものとなり、その身体で私を満たし続けなさい。私が貴女の身体に飽きるまで私の秘められた情人となるのです。孕ますなどという事は起こしません、それは安心なさい。貴女の身体を汚すのは、あくまで私の玩具としてだけですから」
「嫌っ! 私には愛する夫が……息子達がいるのです……っ!」
「それがどうしたのです。夫や息子達の前では良き妻、良き母を演じればいい。ですが、この宮邸に一歩足を踏み入れたなら貴女の肉体は私のものです。次に来られた時も北翼のこの部屋でその身も心も思う存分可愛がり続けてあげましょう。……家族の下に戻ると言う考えが浮かばなくなるほどに、ね」
冷酷な宣告とともに、陸仁の指先が一層深く、容赦なく肉体の奥を抉るように蠢いた。
「わ、わかみや、さ、ま! 殿下が……このような無体な真似をお許しになるはずが……っ!」
「いいえ、許可ならすでにいただいていますよ。『そなたが確と自信が持てるまで、手ほどきを受けよ』とね。まさかその『自信が持てるまでの手ほどき』が、貴女を私の玩具として永久に縛り付けることになるとは、思いもしなかったでしょうが、あなたの愛しき家令も、父上達も、貴女が私の身も心も完璧になるまで手ほどきすることを望んでいたのですよ? ならばその期待に最後まで応えるのが、忠義というものではありませんか。……私はまだ確たる自信を持てぬのですよ。あと五、六年程度は持てぬかもしれませんっ、ねっ」
(駄目! 若宮様は……若宮様は、雅忠と、息子と同い年なのよ! 雅忠と一緒に乳を与えたこともある我が子同然の子と畜生道に落ちる様なまぐわいを続けるなんて……っ!)
聡子の脳裏を過る幼き日の温かな記憶。しかし、その胸を今や容赦なく掴み、吸い上げているのは、母を求める幼子ではなく、自らを貪り尽くす一人の「雄」であった。幼子が得る貪欲な吸いつきではなく、成熟した雄が雌の誇りを踏みにじるための容赦ない執着。かつて命を繋ぐために含ませた乳房が、いまや男の欲望を昂ぶらせる淫らな器として扱われている事実に、聡子の自尊心は根底から打ち砕かれていく。
聡子は必死に陸仁の胸を押し返そうと両腕に力を込めた。シーツを掴んで身を捻ろうとするものの、激しい情事の疲弊と背徳の快楽に痺れ切った手足にはまるで力が入らず、押し返そうとする掌は彼の滑らかな肌を無力になでるばかりだった。
「おや、身を捩って、どうされました? ああ、ひょっとして逃げようとされているのですか? ですが、ご覧なさい、聡子殿。私のこの指先の濡れ具合。口では拒みながらもその身体は私を受け入れる準備を完璧に整えている。その脚の開き方も腰のくねらせ方も……すべて貴女が私に教えてくれた『女が男を誘うときの仕草』そのものではありませんか。これがかつては可憐な純粋さを謳われた、父の妃候補の一人であり今は我が京極宮家に忠実に仕える家令の妻である貴女の真の姿だったのですね」
指先を濡らした陸仁が嘲笑う。
「嘘……う、そです」
絶望に染まる聡子。
だが、抗うための身体の震えは、いつしかより強い快楽を待ち望む身悶えへと昇華し、固く結ばれていた膝もまた、快楽の波に抗えずゆっくりと外側へ開かれていた。
「では、貴女がこうなったのは家令による夜の営みの成果だと? 家令のあの実直さの裏に伯爵家の五女であった貴女をここまで淫らにさせた好色男の面が隠されていたわけですね」
「そ、それは……」
言い淀む聡子。
「とは言え、家令との夜の営みや貴女の真実の姿などどうでも良いのです。これが貴女の育んだ成果であり、その教えを受けて私は貴女という教導者を手に収めたという事に変わりはないのですから。貴女がもう教えることなど何もないとおっしゃるのなら、あとはただ、私の欲望の受け皿として果てなき快楽に溺れなさい」
陸仁は抵抗の失せた聡子の両脚を強引に割り開くと、剥き出しにされた最も淫らな秘所へ、膨張を極めた剛直を容赦なく一気に押し込んだ。
「ひっ、あぁぁぁっ!?」
激痛と極上の快感が混ざり合った衝撃に、聡子の全身が跳ね上がった。
一瞬、鋭い衝撃とともに「このような過ちを重ねてはならない」という正気が脳裏を掠め、彼女は必死に陸仁の腰を押し戻そうと抵抗を試みた。
だが首筋の柔肌に熱い唇が押し当てられ、鎖骨の窪みを吸い上げられるたびに、全身の力が削ぎ落とされ、拒絶の声は甘く掠れた喘ぎへと変わっていった。
抗おうと力んでいた膝の力が抜け、指先がシーツを固く爪立てる。
(ああ……駄目、抗えない……! 私は今、息子と同い年の若宮様に踏みにじられ、ただの牝として暴かれている……!)
指導者としての誇りを完膚なきまでに打ち砕かれる屈辱。だがそれ以上に、己の深部を容赦なく抉り散らす雄の暴力的な熱量が、否定しようのない至上の快楽となって脳髄を焼き尽くしていく。自らが教え込んだ通りの深さと角度で穿たれる屈辱、夫や息子達の姿を脳裏から追い出していく暴力的な快楽。恥辱に悶えながらも、その衝撃が与える密やかな喜びに子宮が歓喜の震えを返してしまう自分──その矛盾する感情の濁流に揉まれ理性の糸は断ち切れかけていた。
「だめ……こんな……私は、若宮様の……ああっ! 私が、若宮様を導かなくてはっ!」
聡子の拒絶の言葉が艶っぽい悲鳴へと姿を変えた。
「ええ、聡子殿はしっかりと私を導いてくれていますよ。これは聡子殿が私に教えてくださった通りの愛撫の仕方です」
耳元で囁く陸仁の掠れた声には、かつての素直さは微塵もなく、獲物を完膚なきまでに追い詰めた狩人の歓喜が満ちていた。
内壁を削り取るような挿入が繰り返されるたび、聡子の脳髄は甘い恐怖で白く染まっていった。
嫌だ、こんなことは許されない、私は雅忠達の母であり雅武様の妻なのだから──そう言い聞かせる理性の声は、奥底を貫かれるたびに響く水音にかき消されていく。
そして、陸仁の腰が深く沈み込んだ瞬間、聡子の腰が勝手に跳ね上がった。あろうことか、己の肉体がさらなる深みを求め、男の剛直を最奥まで飲み込もうと貪欲に蠢いたのだ。深く己の深部を満たしてもらうために、無意識のうちに爪先を立て、自ら太腿を開いて彼の突き上げを迎え入れている──その恐ろしい事実に思い至った瞬間、聡子の脳内で理性を繋ぎ止めていた最後の糸がぶつりと途切れた。
涙で濡れた瞳で陸仁を見上げ、夫への操も、子ども達の顔も、すべての道徳を思考の彼方へと投げ捨てていく。自ら陸仁の首に細い腕を巻き付け、腰を突き上げてその激しい侵入を貪欲に迎え入れ始めたのは、もはや彼女自身の意思を超えた肉体の本能であった。
「あ、ぁ……っ! 若宮様……っ、もっと……もっと私を壊してくださいませ……っ!」
家令の妻としての規範も、母親としての矜持も完全に崩れ去り、聡子はただの貪欲な一匹の牝として、陸仁の与える激しい快楽の渦へと身を投げ出し、絶望と恍惚の狭間へ沈んでいった。
寝台の上で一度、頂点を迎え、正午を過ぎても陸仁の内に滾る熱量は収まる気配を見せなかった。
浴室での歪んだ奉仕に始まり、遮光カーテンが引き開けられた午後の陽光が差し込む窓際で誰かに見られる恐怖に晒されながら身体を揺さぶられ、夜が訪れれば舞台を隣接する資料室へと移された。見回りの女官の足音に怯えながらも陸仁の与える快楽に没頭させられ、深夜の寝室に戻る頃には、聡子は指一本動かす気力すら奪われていた。
なおも衰えぬ強靭な肉体で身を重ねてくる陸仁の手の中で、聡子は品行方正な若宮が今やその全存在を己を貪ることに注いでいる事実に、深い絶望と抗えぬ悦びを感じていた。
逆転した関係性のなかで、聡子は自身が授けた知識そのものによって、翻弄され、狂わされ、何度も寝台の海へと沈められる。
深い静寂に守られた密室のなかで、日曜日の黎明を迎えてもなお、二人だけの濃密な「教育」は、終わることなく繰り返され続けた。
すでに夜が明けてから大分時間が経過していた。遮光カーテンの隙間から差し込む光は完全に白く、午前中の陽光へと変わっていた。遠い廊下からは、休日の勤務についている家従や女官たちの微かな足音や気配が伝わっていた。
聡子はもはや指先一つ動かす力すら残されておらず、背中を向けたまま乱れたシーツの上に力無く横たわっている。乱れた髪がうなじから頬の側面にかかり、汗や至る所につけられた白濁で濡れた肌は冷えかけた空気に晒されていた。浅い呼吸を重ねるたびに、華奢な背中と肩が頼りなく細かく上下している。
自身が授けた知識のすべてを以て陸仁に翻弄され、蹂躙され続けた聡子の身体は、指先一つ動かすことすら拒むほどに疲弊しきっていた。衣服の隙間から覗く肌のあちこちには、陸仁が執拗に刻みつけた微かな赤みが残り、容易には消えそうにない。
「……聡子殿、急ぎ着替えなさい。もうすぐ昼になります。女官たちも働いていますよ」
声をかけてきた陸仁の口調は丁寧さを残しながらも、そこには聡子を完全に支配し尽くした男の、圧倒的な「余裕」が冷徹なまでに宿っていた。一ヶ月前、大罪人になったかのように戸惑っていた面影はどこにもない。
「は、はい……」
聡子は震える手で散乱した衣服を拾い集めようとしたが、一日半にわたる過酷な蹂躙を経た身体は、指先一つ動かすことすら拒むほどに疲弊しきっていた。膝が笑い、床に落ちた布地を掴むことすらおぼつかないその姿を見かねたように、陸仁が静かに歩み寄ってきた。
「仕方がありませんね。私が着せてあげます」
陸仁は床から聡子の下着を拾い上げると、確実な所作で彼女の身体へと滑らせていった。蹂躙され続けた所為で、極限まで開発され過敏になりきっている聡子の肉体は、陸仁の指先が下着を整える名目で胸や臀部にわざと触れるたび、電気に打たれたように跳ね上がる。
「あ、っ……! ん、ダメ、で、ございます……若宮、様……っ」
擦れる布地と男の愛撫がもたらす刺激に、聡子はたまらず甘い悲鳴を上げた。だが、その声が部屋の外へ漏れ出すより早く、陸仁は彼女の顎を掴み、自らの舌でその口を深く塞ぎ込んだ。
「んむ……っ、ん……」
密着した唇の奥で、聡子の反論も、漏れ出る喘ぎもすべてが陸仁の熱に溶かされていく。完全に主導権を握った若宮の容赦のない口づけに翻弄されながら、聡子は下着から上衣に至るまで、順番に衣服を着せ替えられる人形のようにただ身を委ねるしかなかった。
陸仁の手で衣服の皺が伸ばされ、何事もなかったかのような「家令の妻」の形が整えられていく。陸仁の手が止まると、そこには寸分の狂いもない、完璧な「家令の妻」の姿が戻っていた。
「聡子殿。これで女性を解き、整える行いについても……合格の証を頂けますか」
酷薄な笑みを浮かべて覗き込む陸仁の瞳の奥には、どこか聡子の反応を確かめ、己の支配を誇示せずにはいられない若い男特有の獰猛な飢えと揺らぎが残されていた。聡子は力なく項垂れながら言葉を紡いだ。
「……お見事でございました、若宮様。これで、ご卒業にございます」
「ありがとうございます、聡子殿。ですが──これで終わったわけではありませんよ」
低く穏やかな、しかしまるで逃れられぬ金縛りのような声が聡子の耳朶を打った。陸仁は優しく彼女の顎に指をかけ、ゆっくりと持ち上げる。拒むことすら許されず引き上げられた視線の先で、若宮の漆黒の瞳が底知れぬ暗闇を湛えて聡子を見つめていた。
「若宮、様……?」
「言ったでしょう、これからの貴女は……『六条の母上』から私の『秘められた情人』となるのですから」
「っ……!」
呼吸が止まった。
卒業──その言葉によって、この教導を終わらせ、元の「家令の妻」へと戻ろうとした聡子のささやかな希望は、若宮の放った一言によって容赦なく打ち砕かれた。
(私は……何を育て上げてしまったというの……)
かつては手取り足取り教え導く対象であったはずの青年に「男」としての術を授けたのは、他ならぬ自分自身であった。しかし、目の前に立つ男はいつの間にか己の逃避路を完全に塞ぎ、心身ともに逃れられぬ籠の中へと閉じ込める絶対的な支配者へと変貌を遂げていた。
若宮の「筆おろし」という重責を全うするはずだった行為の果てに待っていたのは、己の身体を欲望の奴隷として差し出し続ける、果てなき背徳の牢獄。陸仁が求めていたのは単なる知識の修得ではなく、自分という存在そのものを不可逆的に侵食し、支配することだったのだと悟る。
「これからは、貴女が私に教えてくださった男と女の終わりなき愉しみに溺れ、共に地獄へ堕ちるのです。……こうお呼びするのも、これで最後ですね。六条の、は、は、う、え。……これからはただの『聡子』と呼び続けますよ。私の、愛しい情人殿」
「うぅ……」
「逆らったなら……どうなるか、お分かりですね。……果たしてカメラはフィルムのなかったあのカメラだけだったのでしょうか。貴女が悦びに身を震わせ、啼き声を上げ、私に貪られていた映像などが撮られていなければ良いですね」
「な……何を……撮影機材など、どこにも……」
「隠されていなかったと、なぜ断言できるのです。網代天井の影、棚の中、鏡が加工されて内側にあるかもしれませんね。ほら、隠し場所などいくらでもあるではありませんか。貴女が深く眠りこけていらした間に、別の場所に持って行かれたかもしれませんよ」
「……まさ、か」
「どう思われますか、聡子。……何も残っていないという『奇跡』に、貴女の尊厳と、六条家の名誉のすべてを賭けてみますか?」
低く、どこか楽しげに耳元で囁かれたその言葉は、冷たい楔となって聡子の脳髄に深々と突き刺さった。
――卑劣であった。
万が一その映像が流出したところで、若宮である陸仁が負う傷などたかだか知れている。「若き殿下の性の手ほどき」という名目が存在する以上、上流階級の闇の慣習として、陰で処理されやがて口すさみの噂として消え去るだけだ。
だが、聡子は違う。
中院伯爵家を生家に持ち、現宮家家令の妻である三十七歳の女が、二回り近くも年下の若宮に好きな様に肉体を弄ばれ、甘い悲鳴を上げて屈服する姿。
聡子が自覚している三十七歳とは思えぬ張りをもった豊満な胸も、腰も、若宮とのまぐわいで熱を帯びた顔も、すべてが永遠に猥雑な欲望に晒され続けることになる。
(勝てない……。このお方は、最初から自分が痛まない刃だけを私に突きつけていらっしゃる……)
己の身体の価値と、上流社会における女の立場の脆さを知り尽くしているからこそ、聡子は一片の反論すら封じ込められた。陸仁はそれをすべて見透かした上で、無垢な若宮の顔を捨て、冷徹な掠奪者の微笑みを浮かべて自分を見下ろしているのだ。
あり得ない、そんなものはハッタリに過ぎないと脳の片隅で叫ぶ理性を、陸仁が提示した具体的な隠し場所の生々しさが容易く塗りつぶしていく。もし、万が一にも……というたった一筋の疑惑が、家令の妻としての誇りと夫への忠誠を完全に麻痺させていく。
何も無い方に賭けることなど、聡子には絶対にできなかった。己の身一つであればともかく、六条家の名誉すべてが陸仁の手の中に握られているという絶望。逃げ場を完全に塞がれた聡子は、ただ青ざめた唇を震わせ、若宮の冷酷な眼差しから逃れるように瞳を閉じるしかなかった。
伏せられた聡子の長い睫毛が、微かに震えている。
その顔を見下ろしながら、陸仁は胸の奥で静かに冷たい笑みを深めていた。
――撮影機材など、最初からどこにも存在しない。
天井の影にも、鏡の裏にも、そんな大層な機材などあるはずもなかった。
この宮邸の重厚な意匠の家具や天井に違和感を持たせず密かに設置できるような撮影機材などそもそも存在しないことくらい、陸仁自身が誰よりも理解している。
だが、聡子は完璧には確かめられない。昨夜見せつけられた「フィルムのないカメラ」という原体験と、己の肉体が奪われる恐怖が、存在もしないレンズの幻影を彼女の脳裏に永遠に焼き付けてしまったのだ。
聡子は自らの優れた知性と自尊心ゆえに、存在しない鎖に自ら首を括り付け、陸仁の奴隷となる道を選んだ。
「委細承知致しました、若宮様」
「……良いお返事ですね、聡子」
陸仁は優しく、そして容赦なく、屈服した「情人」の顎をすくい上げると自らの舌で、聡子の口腔を歯の裏から舌の付け根に至るまで舐る様に蹂躙した。
「むぐぅ」
拒む術もなく上を向かされた聡子は、両拳を強く握りしめたまま身を硬直させた。
かつて正論と教導の言葉を授けていた口内へ容赦なく侵入してくる、二十歳も年下の若者の獰猛な舌と強烈な熱。夫・雅武への取り返しのつかない不貞の申し訳なさと、その夫が仕える主の息子に好きなように犯され、弄ばれているという塗炭の屈辱が、舌を舐り回される生の感触とともに喉の奥へと押し込まれていく。
万が一にも映像が存在していたら――その恐ろしい脅迫の刃の前に、身を捩って逃げることすら許されない。ただされるがままに粘膜を貪られ、零れそうになる虚ろな吐息と涙を必死に押し殺しながら、聡子は無念さに溢れた瞳を固く閉じて、この屈辱の刻が過ぎ去るのを耐え忍ぶことしかできなかった。
やがて聡子の口内を蹂躙し尽くした陸仁が口を離した。
「おや。私と聡子、あなたの間に見事な銀の橋がかかりましたね。これからの未来を祝福するかの様ですね」
そう言って笑みを浮かべる陸仁。
夫への不貞の罪悪感と、自らの手で獰猛な獣を解き放ってしまったという絶望的な自責の念が、深く静かに聡子の精神を蝕んでいった。
他人の目を完全に遮断する無表情の仮面を纏い、整然とした所作で寝台を整え、己の立場という名の鎧を完璧に構築していく二人。
陸仁は宮家を背負って立つ品行方正な若宮の鎧を、聡子はすべてを完璧に隠蔽し、何事もなかったかのように夫のもとへと戻る家令の妻としての鎧を厳重にまとっていった。
陸仁の手により、重い遮光カーテンが静かに開け放たれ、すでに西へと傾きかけた午後の光がその影を床に落とし、退室を予定していた刻が遥か前に過ぎ去っていた現実を二人に突きつけた。乱れたシーツは皺ひとつなく伸ばされ、浴室の水滴までもが完璧に拭い去られている。この部屋で行われた痕跡は、何一つとして残されていなかった。それを確かめるように室内を一望すると、重い扉の向こうから聞こえる日常の足音に紛れるようにして、二人は静かに部屋を辞した。
無事に宮邸を辞し、六条の邸宅へと戻った聡子は、夫である雅武が出先から戻る前の静寂のなかで、一人、寝室の姿見の前に立った。
完璧に整え、一寸の隙もない「家令の妻」として纏ったはずの洋装。その衿ボタンを震える指先で外し、鏡を覗き込んだ瞬間、聡子の息が凍りついた。
「……あっ」
襟元から耳元にかけての肌に、赤紫色の生々しい愛撫の痕が、まるで灼熱の印章のように幾つも残されていた。服の隙間からわずかに覗くその歪な痕跡は、いくら襟を正そうとも、完全には隠しきれない異彩を放っている。
玄関の向こうから、間もなく雅武が帰宅するとの声が聞こえて来た。聡子は夫を出迎えることすらできず、弾かれたように更衣室へと駆け込み散らかすように服を脱ぎ棄てる。そのまま浴室へと逃げ込み、鍵を確と掛け扉を閉ざした。
壁に寄りかかり、立ちつくす体勢のまま頭から激しいシャワーを浴びる聡子。
白い湯気が室内に立ち込めるなか、シャワーの水圧が容赦なく濡れた身体を叩く。聡子はすがりつくように壁へと左手を伸ばし、掌を冷たいタイルに押し当てながら、声にならない慟哭を漏らした。
泣き腫らして赤みを帯びた目元と濡れた頬をなぞり、涙がシャワーの水滴と混ざり合って流れ落ちていく。
(洗わなければ……消さなければっ)
もう一方の指先で自分の首元や耳元の痕を赤くなるまで激しく擦り上げる。
しかし、温水で肌を洗えば洗うほど、落ちない痕跡とともに、指先や皮膚の表面ではなく子宮の最奥や骨の芯に刻み込まれた陸仁の圧倒的な熱と重さが、より鮮明に際立ってしまう。直前までその最奥を容赦なく押し広げていたあの若さゆえの膨らみ、強引に抱きすくめられた瞬間に自らの身体が歓喜して開いてしまったという「偽りのない受容」の感触が、冷たい水でも温かな湯でも決して洗い流せぬ生々しさで蘇ってくる。
狂おしく首元を擦りながら、自責の念が激しい毒となって脳髄を苛んだ。
夫と何度も話し合い、お互いに合意の上で臨んだ一ヶ月だった。万が一にも不測の事態──過ちによる落胤などという致命的なスキャンダルを引き起こさぬよう、雅武と相談の上で事前に医師から排卵を完全に抑え込むホルモン剤を処方してもらい、毎朝欠かさず服用し続けていた。生理の周期も体調の波も、すべては完璧な計算と管理の下に置かれ、一ヶ月の「教育」は滞りなく滞りなく遂行されたはずだったのだ。
完璧に教育を施し、綺麗に終わりを迎えるはずだった。京極宮家の藩屏としての誇り、家令の妻としての矜持──それらすべてが、陸仁の理性を根底から焼き切らせてしまった自身の身体によって無残にも打ち砕かれたという、矛盾に満ちた強い自己嫌悪が胸を押し潰す。
155cmの小柄な体に実った、37歳とはとても思えぬ艶やかな肉体。教育者としての厳格な衣服で隠し続けていたその身の丈にそぐわぬ豊潤さが、かえって純粋だった青年の独占欲と抑圧された本能を極限まで刺激してしまったのだ。自らの肉体そのものが若宮を狂わせる毒となった事実に、聡子は激しい自己嫌悪に身を震わせた。
扉一枚隔てた向こうから夫である雅武の落ち着いた声が響いてきた。
その気配を感じ取った瞬間、聡子の背筋に絶望的なまでの戦慄が走った。
──この身体は、すでに若宮様によって容赦なく歪められ、書き換えられてしまった。
子宮の奥にズシリと残る重みと、取り返しのつかない罪悪感が決定打となって聡子を撃ち抜く。
壁に縋りながら泣き崩れる聡子の首元で、その愛撫の痕は、完璧に繕ったはずの「家令の妻」という鎧に、陸仁が刻みつけた決して解けない呪いとして、冷たく、そして熱く疼き続けていた。
あの日を境に、聡子の生活は大きく変貌を遂げた。
慶仁とそれに付き添う雅武が講演や視察で宮邸を留守にし、澄子がそれに同行する時は、宮邸の奥向きを司るために聡子が宮邸を訪れる。だが、そこには悪夢が待ち受けていた。
「勝手に帰るな、聡子」
聡子が奥向きの差配を終え宮邸を辞しようとする度に何処からともなく現れる陸仁によって、誰の目に触れることなくあの部屋に連れ込まれ、幾度もあの日と同じ熱量をもって心と体を蹂躙され続ける背徳の時間。
さらに聡子を真の絶望へと突き落としたのは、手解きの終了とともにホルモン剤の服用を止めてしまっていたことだった。一ヶ月の限定であった為、ホルモン剤はすでに無くなり、日常へ戻ったはずの身体には、もはや排卵を抑え込む防壁など存在しない。
予期せぬ突発的な連れ込みの渦中、己の身体が排卵期を迎えていることに気づいた聡子は、血の気を引かせて陸仁の下で死に物狂いの拒絶を見せた。
『や、おやめください……! お願いでございます、今日だけは……今は危険な時期でございます……っ!』
喉を引き裂くような悲鳴と、過呼吸を起こしかけるほどの惨絶な拒絶。陸仁は、最初はその恐怖の真意を理解しきれず強引に押し通そうとしたが、あまりの狂乱と「万が一にも種が宿れば、この完璧な密室の支配関係そのものが一瞬で破滅する」という現実的なリスク、そして何より聡子が自らの身と秘密を守るために必死で差し出した口や胸を用いた処理──かつて一月の間に自身が陸仁に授けた手ほどきそのもの──によって、陸仁は膣内挿入を避け、代替の愛撫で処理することを覚えたのだった。
排卵期に無理やり挿入すれば女が完全に狂乱し、破滅的リスクが生じるという学習。そして聡子から教え込まれた技法を用いて本番以外で男を満足させるという術。それらはすべて、この避妊の防壁を失った後の悪夢のような日々の中で、陸仁の血肉へと冷酷に刷り込まれていった。
五月を過ぎても、陸仁からの執拗な呼び出しが止むことはなかった。
慶仁と雅武が公務で宮邸を留守にした夜、北翼の密室へ連れ込まれた聡子は、背を向けたまま、震える指先で深緑の洋装のボタンを外し、ソファーの背もたれに掛けていた。
四月中に着用していたホルモン剤の服用を終え、本来の身体に戻った聡子を包むのは、純粋さと家令の妻としての矜持を象徴するような白いスリップであった。
「……遅いではありませんか、聡子」
ソファーに深く腰掛けた陸仁が、冷ややかな視線でその背中を射抜く。
聡子は振り向くことなく、引き締まった背筋を固く緊張させたまま、凛とした、しかしどこかわずかに震える声で言葉を返した。
「……若宮様。手解きの期間は既に過ぎ去っております。……これ以上の無体は、どうかお控えくださいませ」
「無体? 貴女が私に教えたのでしょう。男と女の果てなき愉しみを。……いまさら教導者ぶって逃げられるとでもお思いですか」
陸仁がゆっくりと立ち上がり、足音もなく背後へと忍び寄る。
聡子の視線は固く横を向いたまま、陸仁の気配と迫りくる熱量に抗おうと唇を噛み締めた。
首元や耳元には、前回の密会で刻まれた愛撫の痕がまだ薄っすらと残っている。それを隠すように服を脱ぎ捨て、白い下着姿で背中を向ける姿は、陸仁の攻勢に対して「自分はまだ屈していない」と必死に防波堤を築こうとする最後の抵抗そのものだった。
「……雅武様が明日の昼前には戻られます。今宵だけで……今日だけは夜明けまででお赦しくださいませ……」
「無駄ですよ、聡子。仮に私が夜明けまでで止めても、それまで愛撫し続けたら貴女の身体がどうなるか……私が一番よく知っているのですから」
陸仁の細く冷たい指先が、聡子の白いスリップの肩ひもへと滑り落ちる。
どれほど言葉で拒絶し、誇りを保とうと背を向けても、陸仁の手が触れた瞬間に肌が歓喜の微震を走らせてしまう──。
まだ堕ちきりたくない。と抗う白い下着の聡子と、それを冷酷に暴こうとする陸仁の攻防。
二人の間には、まだ痛々しいほどの葛藤と緊張感が張り詰めていた。
「もう朝か。昼には父上達が帰ってくるな。……では約束通り、ここまでにしましょう。さて、湯を浴びて着替えねば。聡子殿、其方も一緒に湯を浴びていくといいでしょう。この誘いを拒むことなど、その身体の熱ではもうできぬのでしょう?」
悪夢のような関係は北翼の工事が終わった後も、夏が過ぎても続いていた。
連日の猛暑が静まり、夜風が北翼の重厚なカーテンをわずかに揺らす真夏の夜。
京極宮夫妻と雅武が夏の公務で宿泊先から戻らぬ宮邸の一室。聡子は自ら静かに秘められた密室の扉を開け、寝室のベッドへと歩み寄っていた。
「遅かったではないか、聡子。差配は疾うに終わっておろう」
暗闇の中でソファーに腰掛けていた陸仁が、ゆったりとした仕草で立ち上がる。
春を過ぎても聡子は幾度となくこの部屋で身を委ね続けさせられてきた。
幾度もの蹂躙により聡子の表情には、かつてのような激しい拒絶や悲痛な抵抗の色はもはや鳴りを潜めていた。
「……若宮様。この様な真似、いつまで続けるおつもりでしょうか」
だが、そう聡子の咎める声には、どこか自らの運命と陸仁の求める熱量に浸るような、甘い諦念の響きが混ざり合っていた。
陸仁は静かに歩み寄ると、慣れた手つきで聡子の着ていた深緑の洋装の衿元を解き、前を露わにした。重厚な洋装の下から露わになったのは、漆黒のレースが胸元と背中を艶やかに彩る薄手のスリップ姿だった。
かつては「家令の妻」としての純潔を保とうと白いスリップに身を包んでいた聡子だったが、いまや陸仁好みの黒いレース地のスリップにその豊満な肉体を包み込んでいる。
「……似合っておるな。自分の着ているものが、どれほど私を誘惑しているか……分かって着ているのだろう?」
「まさか……そのような……」
口では打ち消しながらも、陸仁の手が洋装を肩からすべり落とさせた。
黒いスリップの肩ひもをゆっくりと引き下げ、滑らかな肩から背中へと這い伸びると、聡子はかすかに吐息を漏らし、自ら吸い寄せられるように陸仁の方へと身体を傾けた。
「……また、雅武様の留守を狙って私を抱くのですか」
「今更だな、聡子。まだ逆らうか?」
「……いいえ」
聡子はふっと力なく、しかし妖美な微笑みを浮かべて振り返り、漆黒のスリップを肌から滑らせながら陸仁を見つめた。
「逆らうなどと……私はもはや若宮様に逆らえませぬ。……私の身体はもう……若宮様の与えてくださる熱さを……忘れられなくなってしまっているのでしょうから……」
155cmの小柄で豊かな肉体が、陸仁の指先が触れるたびに歓喜の微震を走らせる。
5月頃に怯えていた「排卵期」の恐怖や「妊娠」のリスクすらも、陸仁が聡子自身の手ほどきによる口交や乳交などの代替行為で巧みに処理し、安全な時期を見定めては子宮の最奥を容赦なく打ち貫くという洗練された支配によって、すっかり慣らされ、手懐けられてしまっていた。
「私をここまで淫らに書き換えてしまったのは……他ならぬ若宮様でございます」
自ら黒いレースの隙間から胸元を覗かせ、背中を大きく露出しながら、受容の眼差しを向ける聡子。
夫への罪悪感を「若宮様から与えられる暴力的な快楽」で塗りつぶし、自ら深く、逃れられぬ背徳の地獄へと沈んでいく──。
ベッドの端に腰掛け、情人に成り果てた自らの肉体を陸仁へと差し出す聡子の瞳には、もはや教導者の誇りではなく、若い男の愛撫にすっかり解かされた一人の「女」の艶やかな色香だけが溢れていた。
「もう朝か。昼には父上達が帰ってくるな。湯浴みをして汗を流さねばならぬ。聡子、私との湯浴みを終えたら帰るのだ」
陸仁から解放される度に聡子は、雅武への変わらぬ愛と貞淑を己に証明するかのように自ら積極的に雅武の身体を求めるようになった。
闇の中で夫の背に手を回し、しがみつくようにして自ら体を委ねる妻の変化。雅武はその劇的な情熱を、若宮への教育という、貞淑な聡子にとって過酷な重責から解放された反動であり、夫婦の絆がより深く結ばれた証であると確信していた。
だが、夫の腕の中で甘い吐息を漏らす聡子の脳内は、冷酷なまでに苛烈な事実に支配されていた。
雅武が優しく肌を撫でるたび、その指先の軽さに、聡子の肉体は物足りなさを感じてしまう。夫の、自分を壊さない様にと配慮された控えめな突き上げを受けるたび、子宮の最奥が思い出すのは、あの若い若宮が容赦なく粘膜を穿ち、容赦なく肉体を踏みにじってきた暴力的なまでの剛直と注ぎ込まれる白濁であった。
だが、雅武の抱擁が配慮された控えめなものであったのは、他でもない新婚時代の苦い記憶ゆえだった。
伯爵家の五女として大切に育てられ、雅武を心から慕って嫁いできた当時の聡子は、わずか19歳。155cmの小柄な体に47kgという、折れそうなほど華奢な体躯、細く引き締まった57cmのウエストに少女のような面影を残す可憐な体つきであった。性に関する知識もあまりなく純粋だった聡子は、10歳年上で経験豊かな夫の期待に応えようと、その繊細な体で無理を重ねてしまい、体調を崩してしまったことがあったのだ。
その姿に激しく心を痛めた雅武は「二度と愛しい妻に無理をさせまい」と心に誓い、秋の挙式からすぐに長男の雅忠を身籠り、翌年八月に出産を迎える妻をどこまでも愛おしく、大切に労わり続けてきた。
夫のその純粋な慈愛と配慮を知っているからこそ、聡子の胸は引き裂かれそうになった。
夫への愛の証明のために抱かれながら、あろうことか別の男の苛烈な愛撫を求めて疼いてしまう己の淫らな肉体。その逃げ場のない罪悪感から逃れるため、そして「自分は夫を愛している」と必死に思い込むために、聡子は爪を立てて雅武の背を強く引き寄せ、より激しく自らを暴くよう夫に懇願する。
しかし、夫が激しさを増せば増すほど、その角度、その重み、その気配のすべてに陸仁の記憶が色濃く重なっていく。夫の腕の中で果てながら、聡子の瞳に映っているのは夫の顔ではなく、冷酷に自分を見下ろすあの青年の獰猛な眼光であった。
妻の身体の奥底に、自分以外の異性の熱と重さが消えぬ傷として刻まれていることなど知る由もなく、雅武は妻の激しい求めに応じ、幾度もその肢体を愛で続けていった。
慶仁と雅武が泊まりがけの公務へと出発した直後の初秋の昼下がり。
奥向きの差配の為、宮邸を訪れた聡子は、もはや陸仁に捕獲されるのを待つまでもなく、差配を終えると引き寄せられるように自ら北翼の密室へと足を運んでいた。
重い扉を開けると、そこにはソファーに深く腰掛け、待ち構えていた陸仁がいた。
聡子は家令の妻としての隙のない洋装──深緑のドレスを纏ったまま、吸い寄せられるように陸仁の膝の上に腰を下ろすと、自らその熱い体躯へ身を委ねた。
「良い声で啼くようになったな、聡子。……かつて私に『男の術』を教え込んだ厳格な教導者が、今や己の夫の留守に、夜を待てず昼日中からこうして私の膝の上で甘い声を漏らしておる」
「……あ、あ……若宮、様……っ……ぁ……っ」
陸仁の手が、まだ脱がされていない深緑の洋装の衿元やスカートの隙間から滑り込み、布地越しに豊潤な胸や臀部を容赦なく揉みしだく。
完璧な家令の妻の鎧を着たままだからこそ、その内側を強引に暴かれ、指先が粘膜を穿つたび、聡子の背徳感と肉体の歓喜は極限まで跳ね上がった。
「……自分からこの部屋へ足を運ぶようになるとはな。其方はもう、私なしでは生きていけぬ身体になったのではないか?」
「う……あ……っ……はい、はい……っ。私は……私はもう、若宮様の……情人……でございます……っ」
昼の光が遮光カーテンの隙間からかすかに漏れる刻限から、薄暗い夜を挟み、翌朝の光が差し込むまで──。
昼から翌朝へと至る長い時間、聡子は家令の妻の服を乱され、やがて黒いスリップ姿へと剥ぎ取られながら、幾度となく陸仁の暴力的なまでの重さと熱量によって子宮の最奥を撃ち抜かれ続けた。
「聡子、そのまま立て」
「はい。若宮様」
「ふん。いい眺めだが、聊か飽きた。聡子、そこでブラジャーのみを身に着けて立て」
「……はい」
「……よし、そのまま来い。……いや待て」
聡子を呼び寄せかけた陸仁がにやりと酷薄な笑みを浮かべ聡子を制止させた。
「何も着けずにブラウスを身につけよ。そして……その左手の指輪を外せ」
「……はい、仰せのままに」
指先がわずかに震えた。左手の薬指に収まる金属の冷たさは、夫・雅武との絆そのものだった。それを自らの手で外すことが何を意味するか、破滅した理性の残骸が警鐘を鳴らす。
だが、陸仁の嗜虐的な視線に射抜かれた瞬間、そのわずかな躊躇いすらも甘やかな恐怖へと塗りつぶされた。逆らうことなど、最初から許されていない。むしろ、命じられるままに「妻」を捨てることに、狂おしいほどの安らぎすら覚えてしまっている。
聡子は静かに左手を持ち上げると、その指に緩む事なく確と嵌められていた指輪を薬指から外した。
カチリ、と小さな音を立ててサイドテーブルに置かれた金輪。夫への誓いを自ら投げ捨てた無防備な裸体に、言われるがままブラウスを羽織る。生地が直接肌を擦る感触は、完全に陸仁の所有物へと成り下がった証拠だった。
その様子に陸仁は酷薄な笑みを強めた。
(ほう。躊躇いもせずに指輪を外すか。この様子を記録して雅武に見せたいものよ)
「素直な情人には褒美を遣らねばな。そら受け取れ」
そういうや否や陸仁は聡子を押し倒すと一息に剛直を聡子の壺に突き入れた。
「ぁん。わ、若宮様。もっと、もっと激しく聡子を。聡子を突いてくださいませ。もっと壊してくださいませ」
凌辱され始めた当初は「危険期」の到来に狂乱し、死に物狂いで拒絶していた聡子だったが、陸仁が彼女自身の手ほどきによる代替行為で危険期を処理し、安全な時期を見定めては容赦なく体を穿つ洗練された支配を重ねるうち、理性は完全に打ち砕かれていた。
いつしか彼女の頭の中から妊娠の恐怖すら霧散し、ただ陸仁の指先が、その剛直が自身を暴き立てる激しい快楽だけに執着するようになっていたのだった。
「家令の、雅武の控えめな抱擁では……足りぬのであろう? 私のように、其方の奥深くまで容赦なく踏み荒らしてはくれぬのだろう」
「っ……! や、雅武様のお名前を……今は、言わないで……っ」
夫への激しい罪悪感が脳髄を灼く。だが、その罪悪感という強い毒すらも、陸仁から与えられる苛烈な愛撫によって塗りつぶされていく快感のスパイスへと変貌していた。夫への愛おしさを証明するために抱かれながら、脳裏で求めるのは陸仁の獰猛な眼光と暴力的な熱。自分はもう、引き返せぬほど深い背徳の地獄へ堕ちている──聡子は自らその泥濘へと沈んでいく快美に身を委ねていた。
「スリップのみ身に着け、私の上に座れ」
昼から夜通し貪られる過酷なまぐわいすら、いまや夫への罪悪感を塗りつぶす極上の毒として、自ら貪るように行っていたのだった。
(愚かな、愛しい私の情人よ……)
汗に濡れた聡子の豊満な胸を弄り、身体を抱きすくめながら、陸仁は彼女の背越しに、かつてハッタリで語った「加工鏡」を見つめていた。
あの鏡の裏には、当然何も無い。単なる古い姿見に過ぎない。
聡子は今もなお、その無機質な鏡面に「隠されたレンズ」が存在するかのように怯え、視線を逸らし、言われるがままに淫らに身をくねらせている。
存在しないカメラという幻影に怯え、自ら進んで服従の蜜を啜る淑女の姿は、どんな映像よりも狂おしく、美しかった。
「もう朝か。昼には父上達が帰ってくるな。……湯浴みをして汗を流さねばならぬな。聡子、私をその身体で洗い終えたら、其方はいつもの通り急いで帰れ」
「あ……っ……はい、若宮、様……っ」
ベッドの上で散乱した服と乱れたシーツの中に残された聡子は、激しい渇望と余韻に身体を震わせながら、力なく、しかし甘やかに頷いた。
湯気が白く立ち込める朝の浴室。
陸仁の冷徹な命に従い、聡子は裸身のまま、自らの身体に豊かな泡を滑らせていた。
石鹸の滑らかな泡に包まれた己の胸や腹、太もも──かつて伯爵家の令嬢として愛育され、今は宮家家令の妻として誇り高く飾られていたはずの155センチの肉体。それを陸仁の背や肌へと滑らせ、擦り付け、若い肉体にまとわりつく汗と精の残り香を自らの肌で拭い去っていく。
滑らかな豊満な胸が、しなやかな肌が、陸仁の背を撫で、泡越しに男の体温を直接感じ取るたび、快楽を帯びた吐息が聡子の口元から漏れ出た。洗っているはずのその行為自体が、陸仁の持つ圧倒的な熱量と重さを嫌というほど肉体の記憶に焼き付け直す、甘く残酷な奉仕の儀式となっていた。
「……良い触感だな、聡子。其方の身体は、布よりもずっと私の肌に馴染む」
低く冷ややかな陸仁の声に、聡子は背後から彼の首元へ手を回し、うっとりと瞳を曇らせて肌を寄せることしかできない。自らを道具として扱い、男の体を洗わせるその手のひらまでが、すでに若宮の支配に心地よく疼いていた。
身体の奥底まで陸仁の残香で満たされたまま、朝の光が差し込む浴室を後にする。
その痕跡を急いで拭い去り、何事もなかったかのように昼前に帰宅する夫を出迎える──そのギリギリの背徳の繰り返しの中にしか、もはや自分の存在理由を見出せなくなっていた。
約束通り聡子が孕むことは無く、秋を過ぎ冬を迎える頃、陸仁との関係はいつの間にか霧が晴れるように消え去った。
秋になると北翼の密室への呼び出しは、何の前触れもなく唐突に途絶えた。
慶仁と雅武が泊まりがけの公務へと発ち、宮邸の奥向きを終えた日も、聡子の背後から手が伸びる事も呼び出しの手紙が密かに届く事も無くなった。
最初のうちは、若宮の心変わりに安堵の息を漏らしていた聡子であったが、秋が深まり、冬の冷気が六条邸の寝室を包み込む頃になると、その安堵は静かで恐ろしい「生殺しの地獄」へと姿を変えていった。
「……あ……っ」
誰もいない昼下がりの自邸で、聡子は一人、胸元を締めつけるような虚無感に襲われて立ち尽くした。
陸仁から解放されたという事実は、紛れもなく「救い」であったはずだった。しかし秋口に至るまで幾度となく打ち込まれ続けた陸仁の暴力的な熱量と重さは、聡子の肉体の奥深くに深い烙印として刻み込まれてしまっていた。
どれほど「家令の妻」としての理性を取り戻そうとしても、心が、身体が、あの若き猛獣の手触りと過酷な愛撫の記憶を覚えており、唐突に引き抜かれた快楽の残香に飢えて疼いてしまう。
肢体が求める絶頂への渇望。そして、若い男の快楽に染まりきった自身に対する激しい自己嫌悪──その逃げ場のない狭間で、聡子の精神は引き裂かれそうになっていた。
「聡子、どうしたのだ? 顔色が悪いようだが……」
夜、書斎での務めを終えて寝室へと戻ってきた雅武が、案じるように聡子の肩に手を置く。
その温かく控えめな手に触れられた瞬間、聡子は自らの内にある不浄な渇望を打ち消すように、必死の思いで夫の胸へとすがった。
「雅武様……! お願いです……今宵は……私を強く、抱きしめてくださいませ……っ」
「聡子……? ……どうした? ……いや、なにも言わぬで良い。おいで」
雅武は驚きながらも、愛おしさに満ちた眼差しで妻を優しく抱き返した。
十歳年上の夫の体温、肌を傷つけぬよう配慮された指先の軽さ、そしてどこまでも誠実で穏やかな突き上げ。陸仁のような容赦のない重さや破壊的な熱量はない。しかし、聡子はその控えめな抱擁にしがみつき、指先を夫の背に食い込ませながら、涙を流して夫の名を呼び続けた。
(私はこの方の妻なのだ……。私を愛し、守ってくださるのは雅武様だけなのだから……)
背中に回した己の左手──その薬指で鈍い光を放つ金輪の感触が、ふいに聡子の脳裏に恐ろしい記憶を呼び覚ます。
あの密室で、陸仁の嗜虐的な眼光に屈し、自分の手で滑り落とした指輪。
(ああ……私は、若宮様の命じられるまま、自らこの指輪を外して抱かれていたのだわ……)
夫への誓いを自ら投げ捨てた、あの背徳の指先。
その指輪を再び嵌め直した手で、いま自分は、何も知らぬ誠実な夫の背を抱きしめている。
雅武の温もりを感じるたび、その皮膚を通して自分の不浄さが夫へ伝染していくかのような、凄絶な罪悪感に胸が引き裂かれそうになる。
夫の胸の中で流す涙は、陸仁への肉体的な渇望を絶ち切るための毒出しであり、同時に消えぬ罪悪感への贖罪でもあった。
秋から冬へ、そして寒さが和らぐ季節に至るまで──。聡子は激しい肉体の疼きに身を灼かれそうになるたび、雅武の温かい腕の中に逃げ込み、その変わらぬ深い愛に身を委ね続けた。
雅武の愚直なまでの誠実さと優しさに包まれることで、聡子は長い時間をかけて「陸仁の毒」を薄め、少しずつ、しかし確実に「普通の人間の愛」と正気を取り戻していった。
我が身を蝕む過酷な肉体の残香と、それを温かく包み込み救い出す夫の愛。聡子はその二つの狭間で必死に生還への道を歩んでいた。
だが──肉体の疼きがどれほど静まろうとも、聡子の魂が真の平穏を得る日は訪れなかった。
ふとした瞬間に視線に飛び込んでくる、天井の暗がり。自室の隅に置かれた、鈍く光る鏡面。
そのたびに聡子の心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、全身の血が凍りついていた。
あれから四年が過ぎた。
今でも聡子の脳裏にはふとした拍子にある不安が過っている。
――あそこに……あの部屋に撮影機材は無かったのだろうか?
陸仁の関心が離れ、呼び出しが途絶えた今となっては、確かめる術などどこにも無い。
もし、あの恐ろしい言葉が真実であったなら──。
そんな不安が聡子を苛んでいた。
一度その猜疑の芽が脳髄に根を張ると、聡子の脳裏には見るに耐えない猥雑で破滅的な妄想の映像が、狂おしいほどの鮮明さをもって次々と溢れ出してくる。
薄暗いモニター画面の向こうに映される己の姿――。
薄暗い北翼の密室で、掛け布団がずれ落ち、半身を露わにされた寝台の上。若き猛獣のような陸仁の体に覆いかぶさられ、狂おしくその首筋に己の手をまわしてしがみついて、嬌声をあげているいる己の姿。
画面が切り替わる。今度は完全にうつ伏せにされ、乱れた黒髪を陸仁の太く逞しい腕によって強く引き上げられている自分の顔が、大写しになって映し出される。喉元を露わにされ、苦しげに瞳を彷徨わせながらも、背後から深く容赦なく子宮の最奥を貫かれるたびに、自らの口元から甘く品のない喘ぎ声を漏らし、歓喜に胸を跳ねさせている姿。
それらすべてがレンズを通して捉えられたカラー映像として、世の裏側に流出しているのではないかという絶望。
──その映像を、食い入るように見つめている薄汚れた部屋で卑猥な笑みを浮かべた下種な中年男。
アルコール臭とそれとは別の生臭い臭気が立ち込める空間で、黄ばんだ歯を見せて卑猥な笑みを浮かべる見知らぬ男が見つめる画面の中で露わになった三十七歳の己のEカップに達した86cmの豊かな胸、62cmの腰や濡れそぼった88cmの臀部。
場面が上に流れ、映された、熱にうかされた目元や甘く開かれた唇に男が貪欲な視線を浴びせている。男は下半身を剥き出しにし、粗暴な手つきで己の剛直を猥雑にしごき立て、吐息を漏らしながら画面に映る己の肉体に向かって精を吐き出している。
それだけに留まらない。
妄想の刃はさらに冷酷に、聡子の尊厳を深々と抉り込んでいく。
流出した映像を基にして作り上げられた、自分に生き写しの精巧な性人形。
首から上の顔立ちだけは別の女の造形へとすり替えられているが、155センチの小柄な体躯、豊かな起伏を描く86センチのEカップの胸、細く引き締まった62センチの腰から88センチの臀部に至る肉体の数値と質感は、あの北翼の密室で陸仁に貪られた聡子そのものだった。
人形が収められた安っぽい化粧箱の側面に刻まれたタイトルは、あまりにも露骨で、猥雑だ。
『宮家家令夫人 ―三十七歳の淫らな私―』
あの頃の陸仁と同年代の、初心で体力に満ちた若い男が、その人形を自室に持ち込み、思い通りに手足を広げさせ、関節を曲げて好きな体勢を取らせている。
若い男の身勝手な欲望のままに肉体を弄ばれ、意のままに嬲られながら、男たちの歪んだ性的快楽の道具として消費されていく性人形。
人形とその箱には無機質な注記が添えられ、製造した業者たちは、名誉毀損や法的な追及という万が一を恐れ偽装を施しているが上流社会の暗部を知る者たちには「誰の肉体か」が一目で解るよう記号化され、消費される地獄。
自分の三十七歳の頃の肉体が、見知らぬ男たちの猥雑な情欲の玩具となり、永遠に弄ばれ続けているのではないか。
脳内で再生される終わりなき凌辱の光景に、聡子は両手で顔を覆い、声にならない叫びをあげて身をすくませた。
もしあの映像が存在するならば、自分の姿は男たちの手元で、あるいは性玩具として、永久に複製され、消費され続けているかも知れないのだ。
一度浮かび上がった妄想は、幾度打ち消そうとも暗闇の中から這い出し、聡子の精神をどこまでも苛み続けていた。
毎朝届く新聞の三面記事や、上流社会のなにげない噂話を聞くたび、聡子は「今日にも夫の耳に入ってしまうのではないか」という極限の恐怖に身を灼かれていた。
陸仁が種明かしをしなかったことで、存在するかどうかも分からぬ映像は、解けることのない呪縛となって今もなお彼女を縛り続けていた。
(──私への無体な真似が止んだのは、私があの背徳の地獄から逃れられたのは、若宮様の関心が娘の誓子に向いてしまったからだったのでしょう。そして私は雅武様との交わりを繰り返すうちに、若宮様から受けた快楽の記憶を雅武様への愛おしさで打ち消し、一生抜け出すことのできないと思われた苛烈な快楽への渇望からは、かろうじて抜け出すことができました。……ですが、娘は。誓子は初めての男が若宮様。あの暴力的なまでの重さと熱量を何度も受け続けた娘は、もう若宮様から抜け出すことはできないかもしれない……)
目の前の雅武は、いまだ何も知らぬまま、ただ娘の未来を憂う目を聡子に向けていた。
(雅武様に知られてはならない。自ら進んで一生抜け出すことのできない背徳の地獄へと深く沈みかけた、あの悪夢の日々だけは知られてはならない。……そして見知らぬ男たちに私の肉体が暴かれ、弄ばれ続けているかもしれないというあの恐ろしい記録の影も、絶対に……絶対に……)
聡子はどこへも届かぬ救いを求めて、静かに瞳を閉じた。
聡子イメージ(1994年当時)
【挿絵表示】
年齢: 37歳
身長155cm・体重52〜53kg(BMI約22)
B:86cm(アンダーバスト 68〜70cm 前後 / 70D〜Eカップ相当)
W:62cm
H:88cm
結婚当初の聡子はこんな感じ
【挿絵表示】
年齢:19歳
身長155cm・体重約47kg(BMI約19.56)
B:81cm(アンダーバスト62cm~65cm前後 / E65前後相当)
W:57cm
H:84cm
聡子、中院伯爵家の五女だったから、性教育はそれなりな気がする。となると、結婚当初(19~20歳)から色々教えて染めたの、やはり雅武なんだろうなぁ……。
以下参考
当初予定
【挿絵表示】
【挿絵表示】
当初予定していた聡子の姿。微妙に混ざった挙句、これ以降AIが続き(シャワーの場面など)作ってくれないので泣く泣く没。
この話を考えた時のイメージはこちら。最初は延長戦は無かったんだが……(最後の夜の暴走は予定通り)。絵が変わると暴走するって怖いよね。
【挿絵表示】
こっちだと若すぎた……。
以降没絵
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【挿絵表示】
【挿絵表示】
唇に手を当てて窘める場面、採用したのと合わせてどれにするか迷った。
【挿絵表示】
洗面台なしバージョン。こっちでもよかったか。
【挿絵表示】
構図に近いのはこれなんだが
洗面台有バージョン
【挿絵表示】
【挿絵表示】
一般的な壁バージョン
【挿絵表示】
因みに聡子の妄想だが、この日本でそんなもの実際に制作されたら、映像は当然、人形も似ていなくても華族を愚弄したというだけで制作業者が購入者ごと即座に破滅することは間違いないので、危険性が大きすぎ、華族を尊敬する世情もあるので作られることは絶対に無い。
聡子、伯爵家の五女だったからその辺の思考は甘いんだろうな。
いや、育ったの1960~70年代だし、華族令嬢の間でひそかに回し読みされた本や物語の影響をもろに受けたのか? それと実際に受けた陸仁の行為が結びついていたから妄想が広がったか。
雅武に、小説で読んだのですがこのような事は起こりうるのでしょうか? と尋ねれば即座に一笑されて解決なんだが。
最大の問題は『では、若宮様の手元にある(かもしれない)映像は、どこにあるのか?』という悪魔の証明か。