寛奈:「……(真っ赤)」
激しい雷雨が山肌を叩きつける中、二人は逃げ込むようにして京極宮家所有の山小屋へ駆け込んだ。
入り口の重い木製ドアを閉めると、豪雨の音が一気に遠のき、湿り気と静寂が室内に満ちた。
「うわ。下着までぐっちょり、最悪」
寛奈は張り付いた前髪を払いながら、自身の濡れた服を忌々しそうに見下ろした。
照仁は慣れた手つきでランタンに火を灯し、収納室を確認し始めた。
ランタンが室内をほの暗い橙色の光で満たしていく。
「食料は揃っているな。着替えもあるようだ……が?」
「そう、良かったわ。先に体を温めてくるわね。……覗かないでよ?」
寛奈はそう言い捨てて浴室へ向かったが──十数分後、全身を湯気に包ませ、顔を林檎のように真っ赤に染めながら戻ってきた。その手は大きすぎる室内着の衿元を必死に固く押さえている。
「なんで食料はあるのに着替えが用意されていないのよ」
「ん? 何を言っているのだ? 着替えているではないか」
照仁が首を傾げると、寛奈は溢れ出そうな恥辱と怒りを込めて叫んだ。
「浴室に用意されていなかったのよ、下着。それにこの服もサイズが合わないの。大きすぎてこの手を離したら、見えちゃうのよ……って言わせないでよ」
「……いや、勝手に話したのは其方だ。それに、下着の類は自身で用意する物ではないのか?」
「それはそうだけど」
「それから、其方が着ているそれは、恐らく私のサイズだな」
「なんで私のサイズが無いのよ!」
寛奈が羽織っているのは、身長が180㎝の照仁のサイズの室内着だった。
157cmの細身な身体にはあまりにも大きく、ボタンを留めても肩の位置が完全に落ち、手首は袖の中にすっぽりと埋まっている。裾は太腿の半ばまで覆っているものの、少し動くだけで首元や裾の隙間から、湯上がりで桜色に染まった素肌が覗いていた。
濡れた下着は脱衣所に干してあるため、生地の下は文字通りの全裸。手を離せば重みで襟ぐりが大きく開き、胸元のふくらみがそのまま露出してしまう状態だった。
照仁は腕を組み、そのアンバランスで無防備な姿を静かに見つめた。
引き締まったウエスト、そして意外なほど豊かな胸元。だぶついた室内着の生地のたるみ具合が、逆にその下の身体のメリハリを露骨に浮き彫りにさせている。
「……何よ。そうジロジロ見ないでちょうだい」
照仁の視線に耐えかねた寛奈が、手を離せないまま身体を捻って身構える。照仁は表情ひとつ変えず、淡々と言い放った。
「別に見てはおらん。ただ、そのあっていない服の上からでもいろいろとわかるのだなと思っただけだ」
「っ! この変態! 見てないで向こう向きなさいよ!」
言葉では威勢よく言い返すものの、照仁の冷ややかでありながらどこか熱を孕んだ視線に晒され、寛奈の華奢な肩は微かに震えていた。照仁の目は、ぶかぶかの生地越しであっても、彼女の細いウエストや隠しきれない胸のボリューム、そして無防備な素肌の存在感を正確に捉えている。
「寒かろう。暖炉のそばへ来い」
「……結構よ。あなたの隣なんて余計に寒気がするわ」
意地を張って壁際に身を寄せる寛奈だったが、外の雷鳴が一段と大きく響くと、思わず「きゃっ」と小さく声を上げて体をすくませた。
照仁はそれ以上何も言わず、ただ静かに彼女の逃げ場を塞ぐように、暖炉の前のソファを示して座るよう促すのだった。
夜が深まるにつれ、山を叩く雨音は激しさを増し、外の冷気が木造の山小屋の隙間から忍び込んできていた。暖炉の火も小さくなり、室内はランタンの残り火が揺れる暗がりへと沈んでいる。
カウチソファの端で、大きすぎる室内着の裾を必死に巻き込み、膝を抱えて丸くなっていた寛奈の肩が、寒さで微かに震えていた。
「……寒そうだな。ベッドで寝ろ」
「嫌よ。ベッドは一つだけしかないじゃない。そこで休んだらあなたに襲われるわ」
くしゅん、と小さなくしゃみが響く。
「そのままでは体調を崩すぞ。風邪でも引かれたら叔父上に申し訳が立たん」
「べ、別に。寒くなんて……っ」
その言葉を聞き、照仁がキッチンで暖かい紅茶を二人分用意した。
「……仕方のない奴だ。ほら、これを飲め」
湯気の立つカップをテーブルに置くと、自らも寛奈の隣へと腰を下ろした。
「……何よ。そっちには一人掛けの椅子もあるでしょう」
「火に近いのはここだ」
照仁は平然とした顔で言い放つと、カップを手に取り一口含んだ。その冷徹とも取れる視線が、室内着の上からでもはっきりと分かる彼女の体のライン──程よく引き締まった57cmのウエストと、その上に位置する84cmのふくらみの輪郭を静かに捉えている。
「言っておくけど、変な気を起こしたら蹴り飛ばすわよ」
「足元がおぼつかない状態で繰り出す蹴りなど、脅しにもならんな。……それに、冷えた体で意地を張るものではない」
照仁はそう言うと、収納棚から予備の毛布を引き出し、寛奈の細い肩の上からふわりと掛けた。その際、照仁の指先がほんのわずかに寛奈の首筋に触れる。
「ひやっ……!」
「ほう……随分と敏感になっているな。濡れて冷えたせいか、それとも──」
「ち、違うわよ! あなたの手が冷たいのよ!」
真っ赤になって身を引く寛奈だが、毛布の温もりと照仁の存在感から逃げ出すことはできない。照仁は彼女の反応を楽しむように、かすかに目元を和ませるだけだった。
深夜。一人掛けのソファに移動し、手元の書物に目を通していた照仁がふと視線を上げると、カウチで毛布にくるまった寛奈が寒さか緊張からか、小さく肩を震わせているのが目に入った。毛布を被っているとはいえ大きすぎる室内着一枚を羽織っただけの彼女は、暖炉の火を背にしながらも、冷え込む山気と自身の無防備さに落ち着かない様子だった。
「……寒いのか」
「……別に。寒くなんてないわよ」
膝を抱え込んだまま膝元に顔を埋め、強気な口調で突っぱねる寛奈。だが、その言葉とは裏腹に、唇は微かに蒼白く震えている。照仁は書物を静かに卓上に置くと、傍の毛布を掴みつつ無言で立ち上がり、寛奈の座るソファへと歩み寄った。
「な、何よ……」
身構える間もなく、照仁は寛奈の背後に回り込むと、毛布ごと彼女の華奢な身体を己の胸の中へと引き寄せ毛布を羽織る。
「離しなさい!」
抗議の声も虚しく、寛奈は背後からすっぽりと抱きすくめられた。
「静かにしろ。山中の冷え込みを舐めるな、馬鹿者が。こんなに体を冷やしおって」
「嫌っ。嫌だってば、離してよ、離しなさいよ」
逃げ出そうと身体を捩る寛奈だったが、動けば動くほど室内着の衿ぐりが大きく乱れ、予備の下着を着けたとはいえそこ以外の素肌が照仁の服に擦れる。
「おい、暴れるな。これ以上動けば、服が完全に肌から滑り落ちるぞ」
照仁の低く冷静な声が、耳元で直に鼓膜を揺らす。耳元に注がれた吐息と低音の振動に、寛奈の背筋をゾクリとした甘い戦慄が駆け抜けた。
「……離してってば……寒くなったら自分で暖まるから……っ」
「断る。お前は昔から体調を崩しても強がりを言うのだ。何度騙されたことか。……もういい、お前が悪いのだ」
「な、なにを!」
強がりの言葉が最後まで続かない。照仁は寛奈の言い分を最初から聞き入れる気などないように、背後から彼女が纏っている毛布でその身体を包み込むとそのまま寝室に向かった。立ち上がった際、照仁がそれまで纏っていた毛布は、その足元に落ちていた。
ベッドに横たえ、寛奈をくるんでいた毛布を広げ自分もその隣に潜り込みくるまる。
「ちょっと! 何勝手に一緒に寝ているのよ!」
「うるさい。ベッドは一つだけなのだ。それとも、寛奈とは言え家令の娘が皇族の若宮をソファに寝かせるつもりか?」
寛奈の背中には、照仁の厚い胸板と強い体温がぴったりと密着する。合わない室内着を身に纏っている寛奈にとって、背中越しに伝わる照仁の鼓動と熱気は、寒さを吹き飛ばすと同時に、耐えがたい羞恥を全身に走らせた。
「な、何するのよ……! 離しなさいよ、この変態!」
暴れようと腕を動かそうとするが、照仁の太い腕が室内着の上から身体と腕を丸ごと固定しており、指一本動かすことすら難しい。
「動くな。冷えは体に良くない。……それに、暴れると服がはだけるぞ」
「くっ……っ!」
事実を突きつけられ、寛奈は動きを止めるしかなかった。胸元を押さえていた手が緩めば、室内着の襟ぐりが開いて下着姿が露わになってしまう。
照仁は拘束した腕の力を緩めぬまま、寛奈の耳元へとゆっくり顔を近づけた。冷たい外気とは対照的な、甘く温かい吐息が寛奈の耳たぶをかすめる。
「……しかし、相も変わらぬ引き締まったウエストだな。やはり60cmには届いておらんな」
照仁の大きな手が、毛布越しに彼女のウエストのくびれをしっかりと掴み、その細さを確かめるようにじっくりとなぞる。
「っっ! 触らないで……っ、この変態!」
「触れてはおらん。服の上から測っているだけだ」
照仁が低い声を耳元で直に響かせ、その吐息が直接耳朶を撫でた瞬間、寛奈の身体が跳ねるように強張った。
耳元は寛奈が自身でも意識していなかった最大の性感帯だった。照仁は一度の反応で見抜き、薄く冷酷な笑みを浮かべる。
「ほう……なるほど。ここは弱いのだな」
「っっ! 触らないで! 嫌、囁かないで……っ!」
照仁の唇が耳たぶのすぐ近くで動き、息が吹きかけられるたび、寛奈の背筋に稲妻のような痺れが走り、「んっ……っ」と甘い吐息が零れ落ちる。
「……声が出ているぞ」
「っ……! 息……吹きかけないでよ……っ!」
「吹きかけてなどいない。普通に話しているだけだ」
照仁は彼女が耳に弱いことを完全に理解した上で、あえて耳たぶすれすれの距離まで顔を近づけ、低い声を注ぎ込み続ける。
サイズが合わない今にもはだけそうな室内着と、背後からの照仁の体温と容赦ない耳元への刺激。
寛奈は顔を林檎のように真っ赤にし、照仁の胸元に頭を預けたまま、涙目で耳を塞ごうと首を捻る。しかし照仁はそれを冷ややかに見下ろし、るだけで、それ以上最後の一線へ踏み込むことはしなかった。
「……手は出さんと言ったろう。最後の一線まではな。だから大人しく寝ろ」
「最後まで手を出していないだけで……これ、普通に、考えて、ぁん、手を出して、んっ。いるのと同じでしょうが……っ!」
照仁は約束通り最後の一線どころか衣服を剥ぎ取ることすらしなかった。だが寛奈は上半身を服の上から弄られ、耳元から首筋にかけて痕を付けられ、耳たぶを唇で優しく食まれ甘く息を吹きかけられるたび、その「圧倒的な拘束」と「身体への生殺し」によって、理性がじわじわと焼き切られていった。
手は出さない。だが、逃がしもしない。
寛奈は羞恥と過剰な緊張、そして身体の奥から湧き上がる熱に苛まれながら、屈辱と快感の狭間で一晩中背中を震わせ続けた。
夜が明け朝日が木造の隙間から差し込み、山小屋の室内を静かに照らし出す。
照仁からは微かな寝息が聞こえ、その手は止まり、背後からの激しい密着も幾分か和らいでいた。だが、目が覚めてもなお、寛奈は照仁の太い腕にしっかりと抱きすくめられたままだった。
一晩中、耳元に吐息と低音を注ぎ込まれ、身体を弄られ続けた身体は極度の過敏状態に陥っており、照仁がほんのわずかに腕を動かすだけで小刻みに震えてしまう。生殺しにされ、身悶えさせられた寛奈だったが、しかし、最後の一線まで手を出されなかったことで、彼女の内に秘められた芯の強さと強烈なプライドが目を覚ました。
静寂の中、背後から規則正しく伝わってくるのは、照仁の静かな胸の上下と、規則正しい呼吸の音だった。
一晩中、自分を精神の底まで追い詰めたはずの男が、いまや無防備な寝顔を彼女の髪に押し当てるようにして微かに息を吐いている。
(……この人、私をこんな目にあわせておいて、自分だけすやすやと寝ているなんて……!)
屈辱と悔しさが胸の底からこみ上げてくる。
寛奈は照仁を起こさないよう、慎重に彼の太い腕を押し退け、この腕の拘束から抜け出そうと試みた。しかし、ほんのわずかに身を捩った瞬間、照仁の腕が無意識のままぎゅっと収縮し、彼女のウエストを引き寄せた。
「ひゃっ……っ!」
照仁の指先が室内着越しに腰のラインを圧迫しただけで、一晩で開発されきった身体が過剰に跳ね上がる。自分のあまりの情けない反応に、寛奈は歯を食いしばり、顔を真っ赤にして口元を押さえた。
だが、照仁は起きない。ただ、彼女をがっしりと抱きかかえたまま、満足げに深い呼吸を続けているだけだった。
(……あれ? ちょっと待って。……もしかしてこれって、この人が手を一切出してこなかったんじゃなくて、出せなかったんじゃ……?)
自分を抱きすくめる照仁の胸板の厚みと、その強固な拘束。一晩中自分を殺気立つほどの集中力で生殺しにしていた理由──それは、最後の一線を越えれば後戻りができないという、家や立場の制約に照仁自身が縛られていたからではないか。
(だったら、私の勝ちよ。どれだけ弄ばれようと、一線を守り切ったのは私……! 怖気づいたのは、この人の方じゃない!)
腰の痺れと耳元の熱をプライドで強引にねじ伏せると、寛奈は覚悟を決めた。
照仁の腕の中で身体をゆっくりと反転させ、まだ夢の中にいる照仁の胸元へ、あえて自分の身体を擦り寄せるようにして顔を近づける。照仁の長い睫毛が微かに揺れ、瞼が開く兆候を見せたその一瞬を捉え、寛奈は顔を至近距離まで寄せた。
「……あら、若宮様。もう朝ですわよ?」
「……何だ」
「一晩中、背中で随分とお熱くなっておられましたけれど……朝までただ抱きつくだけなんて、案外チキンなんですのね? 結局、口先ばかりで手が出せませんでしたわね」
寛奈は強がって照仁の首に腕を回し、勝ち誇ったように耳元へ顔を近づけて囁く。
「ふふっ……ごくろうさま。おかげで温かい高級な『抱き枕』としてよく眠れましたわ」
身体の震えを隠しきれないまま、「あなたなど怖くない」と言わんばかりに煽る寛奈。渾身の煽りを叩きつけ、照仁の悔しがる顔を期待した寛奈だったが──照仁の表情は一切崩れなかった。
涙目で照仁を睨みつける寛奈の声は掠れ必死の虚勢を張っていることは一目瞭然であった。
照仁は寛奈の決死の強がりを聞いても怒る様子すら見せず、ただ静かに目を細めた。そして、拘束を深めると同時に、彼女の過敏な耳たぶへふっと温かい息を吹きかける。
「ひやっ……っ!? ぁんっ……!」
たったそれだけの刺激に、寛奈の身体は大きく跳ね、背筋に走った激痛のような甘い痺れに膝の力が抜け、完全な腰砕けとなって照仁の胸元へ崩れ落ちた。
喉から甘い悲鳴が漏れ出し、先ほどまでの威勢の良い口調は瞬時に霧散する。照仁は胸の中で力なく崩れ落ちた寛奈を見下ろし、冷ややかに鼻で笑った。
「……説得力のない煽りだな。身体がこれほど正直に屈服しているというのに」
「っ……く……っ!」
「……昨夜のあれで、まだあのような口が叩けるか」
照仁は寛奈の耳元にさらに顔を近づけ、逃げ場を奪うように低い声をダイレクトに注ぎ込む。耳朶をかすめる唇の感触に、寛奈は「ん……ぁ……っ」と身悶えし、耳を塞ぐことすらできずに涙を浮かべて体を強張らせた。
「抱き枕、な。ご期待に応えよう。今夜は本物の寝具として、二度とそんな口が叩けなくなるまで……徹底的に可愛がってやる」
外は相変わらず激しい雨が降り続いており、山小屋の屋根や窓を叩く不協和音が途切れる気配は一切なかった。閉ざされた空間には、木造独特の甘い香りと、冷えた空気が足元から這い上がってくるような特有の寂寥感が漂っている。
昼食の準備のため、二人は狭いキッチンに並んで立つことになった。
照仁が手際よくフライパンを火にかけ、油を馴染ませながら、どこか冷ややかな視線を横に立つ寛奈へと向けた。
「……其方、包丁や火の扱いなどできるのか?」
その問いかけに、寛奈は勝ち誇ったように胸を張った。大きすぎる照仁の室内着の袖口を少し捲り上げ、鼻で笑ってみせる。
「なによ。今どきは華族令嬢と言えども基本的な調理くらいできないと笑われるのよ。それより若宮様こそ、料理の経験なんてあるのかしら? せいぜい包丁で指をお切りにならないよう、お気をつけあそばせ」
朝の敗北と屈辱を少しでも帳消しにしようと、寛奈は勢いよく卵をボウルのフチに打ち付けた。しかし、思いのほか殻が固かったのか、一度目では割れず、二度目で強めに叩きつけると、殻の破片がボウルの中にぽとりと落ちる。寛奈は一瞬だけ焦ったように目を見開いたが、照仁に見咎められまいと素早く指先で破片を拾い上げ、何事もなかったかのように菜箸を握りしめた。
「ふふん、見ていらっしゃい……」
自信満々にフライパンへ卵液を流し込む。じゅっ、というけたたましい音とともに香ばしい匂いが立ち上った。
だが、山小屋のガスコンロの強力な火加減は、彼女が事前に本で読んで頭の中に叩き込んでいた「理想のイメージ」を遥かに凌駕していた。卵液は流し込んだ瞬間にフチからぐんぐんと黄色く固まり始める。
「あ、あら……? ちょっと待って……」
寛奈は慌てて菜箸を動かしたが、手際よくかき混ぜて半熟の層を作るどころか、焦りに任せて箸を細かく動かしすぎた結果、フライパンの中で細かく砕けた黄色い「卵そぼろ」のような物体が完成してしまった。
一方の照仁は、無駄のない洗練された動きで静かにフライパンを煽っていた。火から適度に遠ざけ、余熱を計算しながら滑らかに角を巻き込んでいく。数秒後には、皿の上へ美しく黄色く輝く、トロトロのスクランブルエッグが盛り付けられていた。
「……できたわ。どうぞ」
寛奈は強がりながら、そぼろ状になった皿を照仁の前に押し出すように差し出す。
「ほう。有難く頂こう。では、其方にはこれをやろう」
照仁も自身の皿を差し出し、二人は互いの料理を交換した。
寛奈が差し出された照仁のスクランブルエッグにフォークを伸びすと、それは絶妙な半熟加減で持ち上がり、まさに彼女が昔から最も好む「フワフワとトロトロの中間」の固さに仕上げられていた。一口口に含むと、隠し味に注がれた出汁と上質なバターの風味が、完璧なバランスで口いっぱいに広がる。
「……っ」
「……美味いな。味付けだけは悪くない」
照仁は寛奈の作った「卵そぼろ」を一口食すと、特に顔色を変えることもなく、静かにフォークを卓上に置いた。そして、自分の差し出した完璧な料理を口に含んだまま、衝撃で固まっている寛奈を、どこか呆れたような目で見下ろす。
「……無理をするな。調理など一度もしたことがないのだろう」
「っ! し、したことくらい、あるわよ! たまたま山小屋の火力が強かっただけで……っ!」
「嘘をつくな。卵の割り方からしてぎこちなかったぞ。ボウルの中で殻を拾う仕草も丸見えだった。それに、火が通るのを恐れてかき混ぜ過ぎていた……本で読んだ知識だけで挑んだのだろう」
完璧に手順と失敗の理由を言い当てられ、寛奈は言葉を詰まらせた。一歩下がって照仁の視線から逃れようとするが、照仁は逃がさない。
すっと距離を詰めると、長い指を伸ばし、寛奈の華奢な顎を包み込むように持ち上げ、強制的にその顔を覗き込んだ。
「それに……其方がどの程度の焼き加減を好むかなど、私が良く知っている。その固さで合っているだろう? 昔から其方が好きな焼き加減だ」
「っっっ!!!」
自分の好みを完璧に把握されていたこと、手元のぎこちなさを全て観察されていたこと、そして料理が全くできない嘘を見破られた恥ずかしさで、寛奈の顔は耳の先から首筋にかけて、一瞬でリンゴのように真っ赤に染まり上がった。
「……無茶をするな。慣れぬ料理で怪我などされたら堪らぬ。美味い料理が食べたいなら、私がいくらでも其方に作って食わせてやる」
照仁の手から顔を背けようと首を振るが、昨夜から朝にかけて徹底的に開拓され、過敏になった身体は、照仁の指先が顎の皮膚に触れているだけでじんわりと熱を帯びてしまう。身体の奥から湧き上がる甘い痺れと屈辱感に勝てず、寛奈はそれ以上強く反論することもできずに、涙目でただ深く俯くのだった。
午後になり、長く山小屋を叩き続けていた雨がようやく上がった。
昨日干していた登山着も乾き、山頂へと散策の足を伸ばす二人。
雨上がりの林は湿った木々の葉から静かに雫が落ち、雲の切れ間から差し込む光が、ぬかるんだ山道をうっすらと照らし出していた。
山小屋の閉塞感から逃れるように、寛奈は照仁から距離を置こうと少し先を急ぎ足で歩いていた。しかし、雨を含んで滑りやすくなった土と落ち葉に足を取られ、体制を崩しそうになる。
「きゃっ……!」
悲鳴を上げる間もなく、背後から伸ばされた照仁の太く大きな手が、彼女の細いウエストを完璧な確実さでしっかりと抱き留めた。浮きかけた身体が照仁の厚い胸板へと引き寄せられ、ぴったりと背中が密着する。
「……触らないでって言ってるでしょう!」
「転んで怪我をされては困る。それに……昨夜あれほど確かめさせておいて、今更拒むのか?」
「ッ……!」
照仁の大きな手が、服越しに彼女のくびれを絶妙な力加減で圧迫する。指先が腰骨のラインをなぞるように滑り、耳元で低く囁かれるたび、朝からの過敏な状態が残る寛奈の身体は固まってしまっていた。
照仁の手はなお腰から離れず、まるで自分の所有物であることを確かめるかのように、そのラインを指先でなぞり続けていた。
「其方は強いな。だが、私から逃げ切れるほど賢くはない」
反論の言葉すら喉に引っかかったまま、引きずられるようにして辿り着いたのは、山頂近くにある古びた木造の展望台だった。
眼下には雨上がりの深い霧が静かに澄み渡り、遠くの街並みや連なる山々が一望できる。しかし、寛奈にその景色を鑑賞する自由は与えられなかった。照仁は彼女の背後にぴったりと寄り添い、両腕を彼女の脇から伸ばして手すりを掴み、完璧に彼女をその体躯で包み込んだ。
逃げ場を完全に塞がれた状態で、照仁の長い指先が眼下に広がる世界を静かに指差す。
「この山を下りても、其方の行き着く先は私の元だ。誰も其方を助けはせん。叔父上や叔母上にもここに来る前に、すでにご納得いただいている。やはり逃げられなかったのかと半ば諦めておられた声だったが」
照仁の冷ややかな声が、耳元で直に鼓膜を揺らす。彼から放たれる熱と、耳たぶを掠める温かい吐息。山を下りれば助かると思っていた寛奈にとって、実の両親すらもすでに外堀を埋められ、自分が完全に照仁に手渡されているという事実は、背筋を凍らせるのに十分だった。
「……ふん、そんな脅しに屈すると思う……?」
寛奈は強がりを捨てきれず、せめてもの抵抗として唇を噛み締め、背後の照仁を見上げようとした。
だが、視線が交差した瞬間、言葉が途切れた。
照仁の見下ろす瞳の奥に宿っていたのは、いつもの冷徹な仮面の裏に隠された、暗くドロリとした熱を帯びた執着と、絶対に逃がさないという絶対的な意志の表れだった。
その圧倒的な視線に射抜かれ、寛奈は喉の奥がカラカラに乾いていくのを感じながら、ただ息を飲んで立ち尽くすことしかできなかった。
(嘘……なに、この目は。私が知っている【若宮様】の目じゃない)
今まで見せていた冷ややかな嘲笑も、計算尽くの余裕も、そこには無かった。
あるのは、獲物を完璧に追い詰め、骨の髄まで噛み砕いて所有しようとする一筋縄ではいかない男の生の執着。
「……帰りましょう」
寛奈は脳裏に激しく警報が鳴り響く中、掠れた声でそれだけ呟くのが精一杯だった。
照仁は何も答えず、ただ彼女の華奢な肩をその大きな手で抱き寄せるようにして、静かに翻した。
山小屋へ戻る道のり、二人の間に会話はなかった。
ぬかるむ足場を踏みしめる音と、二人分の呼吸音だけが静まり返った森に響く。
滑りそうになるたび、照仁の手が容赦なく腰や腕を掴んで支えてくるが、その度に寛奈の身体は跳ね上がり、昨日や今朝のような威勢の良い抗議は口から飛び出さなかった。照仁の掌から伝わる温度が、先ほど見た瞳の暗い熱と重なり、ただただ皮膚を焼き焦がすように熱い。
山小屋に辿り着く頃には、夕闇が山肌を濃い紫と黒で塗り潰そうとしていた。
小屋に入り、照仁がカチリと玄関の鍵を閉める音がやけに重く響いた。
逃げ場のない小さな木造空間。ランタンの灯りがぽつりと点灯し、揺れる影が壁に長く伸びる。
上着を脱いだ寛奈は照仁に背を向けたまま、かろうじて保っていた膝の震えを押さえつけるようにして部屋へと歩を進めた。
(落ち着いて……大丈夫。昨夜だって、最後までは手を出してこなかった。あんな目をしていても、きっと最後は理性が……)
必死になってに自分を言いくるめようとする寛奈の背後で、静かに上着を脱ぎ捨てる衣擦れの音がした。
同時に逃げ場のない小さな部屋にカチリと鍵の閉まる重い音が室内に響き渡る。
「ちょっと。何勝手に入って来てるのよ。出ていってよ」
一歩、また一歩と近づいてくる照仁の足音。
一日目の閉塞感とは明らかに異なる、息の詰まるような緊迫感が寛奈の全身を支配していた。
「今朝お前は言ったな。……私が『チキン』だと」
耳元に届いた照仁の低い声には、昼間の冷徹さではなく、抑えきれない危険な愉悦が滲んでいた。
「……な、なに……?」
「其方は『手が出せないチキン』と私を評したな。私がチキンか否かは其方の身を持って知るがいい。さあ昨夜の続きを始めるとしよう」
壁に追い詰めた寛奈の鼓膜を、照仁の低い声が直に揺らす。
照仁はシャツの袖を捲り上げながら寛奈へと歩み寄ってくる。その足取りには、昨夜のような躊躇は一切存在しなかった。
(あんなこと言わなきゃよかった……! でも、絶対に引き下がるものか……っ!)
「……ふん、本当のことでしょう……! 手も出せないで、私を脅して愉しんでいただけの……っ」
強がりの言葉を最後まで言わせる前に、照仁の大きな手が彼女の華奢な身体を逃がさぬよう、壁へと押し付けるようにして片手で強く拘束すると、別の手が寛奈のブラウスの襟ぐりに指をかけた。
カチリ、とボタンが一つ外れる。冷たい外気が素肌を撫で、寛奈は「ひっ」と息を呑んだ。
「言葉で教え込んでも分からんのなら、身体で理解させるまでのこと」
照仁の手つきは冷徹なまでに手慣れ、かつ容赦がなかった。二つ目、三つ目のボタンが外され、大きすぎる男物の生地が、彼女の細く華奢な肩から滑り落ちる。
あらわになったのは繊細なレースの下着──正面で留めるフロントホックのブラジャーと、ショーツだった。
(嘘……本当に、全部脱がせる気……!?)
「ほう。フロントホックか。前留めとは気が利く。まるで私に解かれる事を待ち望んでいたと言わんばかりだな」
「や、やめて……っ! 触らないで……っ!」
「なぜ隠そうとする。私に見せるために着けていたのではないのか?」
「……見ないで……お願いだから、見ないで……っ!」
壁際に追い詰められた寛奈は、必死に照仁の胸を押し返そうとする。だが、照仁にとって、その抵抗は心地よい羽たたく程度にしかならない。
寛奈が必死に両腕で胸元を隠そうとするが、照仁はその細い両手首を易々と片手で頭上に固定した。逃げられない状態で、照仁の長くて硬い指先が、彼女の胸の谷間に位置するフロントホックの金具へと滑り込む。
パチン、と小さな金属音が静かな室内に響き渡った。
金具が外れた瞬間、抑え込まれていた84cmの豊かなふくらみが露わになり、冷えた空気に晒された肌が「ぞくっ」と粟立つ。57cmの引き締まったウエスト、ふくよかなDカップの胸元が完全に露わになった。寛奈は恥辱と恐怖で顔を背け、唇を強く噛み締めた。
照仁の大きな手が、剥き出しになった彼女のふくよかな乳房を下からすくい上げ、その指先で頂点を容赦なく捏ね上げた。
「あぐっ……!? んあぁっ……っ!」
強烈な刺激が脳裏を突き抜け、寛奈の口から声にならない悲鳴が漏れ出す。
さらに照仁は、耳元へ顔を近づけると、耳たぶを優しく唇で食み、甘く温かい息を「ふっ」と吹きかけた。
「っぁっっ!!!」
一瞬で全身の力が抜け落ち、寛奈の膝が折れる。
昨夜から徹底的に開発され尽くした身体は、照仁の吐息ひとつで簡単に狂乱の底へと引きずり込まれた。
照仁はそのまま耳元を舐めずり、甘い言葉を注ぎ込みながら、容赦なくその感触で彼女を翻弄する。
耳責めだけで、一度、二度、三度──。
寛奈は照仁の腕の中で壊れた人形のように激しく体を跳ねさせ、幾度も絶頂の波に呑み込まれて白目を剥きかけた。
寛奈を果てさせるたびに照仁は、白く透き通る柔肌に何度も熱い口づけを落とし、激しく吸い上げ、彼女の全身に鮮やかな紅い跡を残すとともに、その刺激で強引に意識を戻させた。
「……息を整えろ。まだ始まりに過ぎん」
「はっ……ぁっ……もう……やめて……壊れちゃう……っ」
寛奈の哀願を一笑に付した照仁が寛奈を抱えあげ寝台に横たえる。
。
すでに前を開かれ、用をなしていない室内着の袖を腕から抜き去り、衣服のすべてを、まるで玉ねぎの皮を剥くように一枚、また一枚と剥ぎ去っていく。
やがて、何一つ遮るもののなくなった白皙の柔肌が暗闇の中に横たわると、露わになったその全身の無防備な柔肌へ、照仁は何度も熱い口づけを落とし、激しく吸い上げていった。
「あ……っ。も……ゆる……て」
脳を直接揺さぶるような甘い刺激に、寛奈の背筋が激しく跳ね上がる。昨夜徹底的に開発された身体は、照仁の愛撫に対して拒絶どころか過剰に反応してしまう。
「教えたはずだ。お前の身も心も、すでに私から逃げられんとな」
涙で視界を濡らし、髪を乱して喘ぐ寛奈。
やがて照仁の執着が、ついに限界を迎える。彼は、唯一残されていた最後まで寛奈の最奥を護っていた薄い布地──繊細なレースのショーツへと指を伸ばした。
ウエストのゴムに指を引っ掛け、一気に膝下まで引きずり下ろす。
「──ほう、ずいぶんと湿っているな。雨漏りでもしたか?」
「っ、それ、は……っ!」
屈辱的な問いかけに、寛奈は顔を真っ赤にして首を振ったが、すでに言葉にならない。
恥辱に顔を焼き尽くされ、声を詰まらせる寛奈の拒絶など、男は最初から聞き入れるつもりなどない。
濡れた布地を冷酷に指先で引きずり下ろすと、熱い夜気の中に、彼女の最も秘められた最奥が完全な無防備さで晒される。
「黙れと言ったはずだ。其方が今夜こうなることは、今朝の言葉で決まっていたのだ」
逃げ場のない檻の奥、最後の慎みを奪われた寛奈の悲鳴を吸い尽くすように、照仁は暴れ狂う自らの肉体を、容赦なくその未開の深淵へと埋めていった。
「あ……っ! んあぁっ……っ!」
最後の一線が踏み越えられた瞬間、山小屋の静寂は寛奈の泣き叫ぶような甘い悲鳴で満たされた。1日目の強がりも、昼間の意地もすべて焼き尽くされ、寛奈は照仁の腕の中でただ激しく身を震わせ、肉体的・精神的な快楽の渦へと叩き落とされていった。
うつ伏せに組み敷かれ、背後から深く貫かれたかと思えば、次は強引に仰向けへと引っ繰り返され、その細い両足を照仁の逞しい肩へと無慈悲に押し上げられる。
照仁は自らの上に寛奈の身体を力任せに引きずり上げ、その細い腰を大きな両手で掴んで、狂ったように上下に激しく打ち付けた。その身体が重力から解き放たれたように、照仁の剛腕の中でただ上下に弾み、翻弄されるたびに、寛奈は生まれて初めて知る快楽の深淵へと引きずり込まれていく。
「あぁっ! んくっ……! ぁ、あぁあーっっ!!」
互いの肉体が激しく擦れ合い、肉がぶつかる鈍い音が、そして反発はしていても最後は寛奈を助けていた頼れる従兄であった照仁と組み敷かれている寛奈の喘ぎが室内に響いていた。
照仁は暴れ狂う自らの肉体を寛奈の最深部へと深く深く沈め、激しく情熱をぶつけ、寛奈の中に何度も何度もその想いを迸りさせた。
ランタンの仄暗い光が、壁に不穏で巨大な二つの影を映し出していた。
「はぁ……っ! あ……っ、あ……っ!」
数時間に及ぶ過酷で甘美な支配が落ち着き、暖炉の薪が爆ぜる音だけが響く部屋。
幾度目かの過酷な絶頂の余韻に身体を痙攣させ、照仁の胸元で荒い息を吐き出す寛奈。
身体は完全に開発され、肉体としては手も足も出ないほど完敗を喫していた。
だが──その涙に濡れた瞳の奥、散り散りになった意識の残骸の中で、彼女の精神の芯だけは折れていなかった。
(……負けない……。どれだけ身体を暴かれても……私は、あなたの「お人形」には……絶対になってあげない……っ!)
照仁の胸元に頬を押し付けながら、寛奈は震える唇で彼の肌をぎゅっと噛み締める。
肉体を完全に制圧し、最奥まで自分の熱で満たしたはずの照仁は、彼女のその折れない瞳の輝きと、ささやかな抵抗の歯立てを感じ取り、心底愛おしそうに目を細めた。
「……良い目だ。やはり其方は、そう私を睨んでこそ価値がある」
照仁は彼女の乱れた髪を優しく撫で下ろし、その額に熱い口づけを落としながら、完全な所有の喜びを噛み締めるのだった。
ベッドの上には、体液に濡れ、全身に色濃いキスマークと指痕を刻まれた寛奈が横たわっていた。荒い息を吐きながら、涙の浮かぶ目で照仁を睨みつけようとするが、腰から下は完全に脱力しており、指一本動かすことすら叶わない。
照仁は満足げに息を吐くと、ぐったりとした寛奈をシーツごと抱き寄せ、自分の胸元へとすっぽり収めた。
「……約束通り本物の『抱き枕』になってもらうぞ」
「……ッ……あなたなんて……最低の……変態よ……っ」
照仁の胸を弱々しく叩く寛奈。しかし、身体に染み付いた照仁の体温と安心感には抗えず、逃げるどころか、無意識のうちに己の腕を照仁の首元へ回し、その胸板に顔を深く埋めてしまった。
照仁は拍子抜けしたように目を丸くしたが、すぐに冷ややかな笑みを深め、彼女の頭を優しく撫で下ろした。
「言葉と行動が伴わんな。……だが、嫌いではない」
身体の全てを暴かれ、手足の自由を奪われながらも、寛奈の誇りと精神の芯だけは、照仁の腕の中で凛と輝き続けていた。
うっすらと朝の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえ始めた頃。
目を覚ました二人は、互いの身体が驚くほど強固に絡み合っていることに気づいた。寛奈は照仁の足にしっかりと自分の足を絡め、照仁もまた彼女の細いウエストを逃がさぬように抱きかかえていた。
「……目を覚ましたか、我が『抱き枕』」
「……誰が抱き枕よ。あんたが勝手に離さないだけでしょ」
二日間にわたる攻防を経てもなお、寛奈の瞳には折れない意地の光が宿っていた。身体は完全に開拓され、照仁の肌が触れている部分から熱が立ち上っているというのに、真っ赤な顔で照仁を睨み返してみせる。
照仁の眉が上がり、冷徹な仮面の下で嗜虐心が再び首をもたげた。
「昨夜であれほど思い知らされたというのに、まだその減らず口が出るか。後悔するぞ」
「ふん……! 身体を自由にされたからって、私が屈したと思ったら大間違いよ……っ! 心までは自由にさせないんだから!」
寛奈は絡めた脚にギュッと力を込め、自爆覚悟で照仁の首を抱き寄せた。
(ここで引き下がったら、私は一生この人の『所有物』として甘んじることになる……っ!)
言葉では強がりを叩きつけ、自ら照仁の腰に脚を絡めつかせた寛奈だったが、その内心は必死の恐怖とプライドが激しく鬩ぎ合っていた。昨夜の徹底的な開拓によって、身体は照仁の指先や体温が触れ合うだけで「あの快楽」を思い出してしまい、奥底から甘い熱が溢れ出してしまう。条件反射で身悶えそうになる身体を気力だけで押さえつけ、真っ赤な顔で照仁を睨みつける──それが彼女に残された唯一の抵抗だった。
(……我が従妹ながら、どこまでも生意気で、どこまでも愛おしい女だ)
本来であれば、昨夜で完璧に屈服させ、朝は優雅に勝利を噛み締めるはずだった。しかし、全身痕だらけで立つことすらままならない状態でありながら、自分を煽り返し、自ら抱きついてくる寛奈の強靭な精神性に、照仁の理知的な計算は完全に狂わされた。「分からせてやる」という支配欲は、瞬く間に彼女を完膚なきまでに貪り尽くしたいという野生の欲望へと塗り替えられていく。
「……後悔すると言ったはずだぞ」
照仁の低く掠れた声とともに、絡め合っていた足の隙間へ強引に割り込まれる。
照仁の手が寛奈の引き締まった57cmのウエストを強い力で掴み、逃げ場を完全に塞いだ。
「あっ……。や……っ!?」
重ね合わされた体温と、昨日極限まで開発された性感帯──とりわけ耳元に照仁の熱い吐息が吹きかけられた瞬間、寛奈の強がりは一瞬で崩壊した。背筋を激しく反らせ、声にならない甘い悲鳴が漏れ出す。
昨夜の記憶が身体の隅々まで駆け巡り、照仁が少し腰を突き動かすだけで、寛奈の体幹はガクガクと震えた。自分から首に腕を回して挑発したはずの腕は、今や照仁の背中にすがりつくためだけに必死に回されている。
「……どうした、自分から誘っておいて。昨夜のようにもっと力を込め抵抗してみたらどうだ」
「っっ! 喋ら……ないで……っ! あなたの、声が……頭に響いて……っ!」
耳元での囁きという最大の弱点を容赦なく突かれ、寛奈は涙目になりながら照仁の肩に歯を立てて抗おうとする。しかし、その甘噛みのような抵抗すら照仁の嗜虐心をさらに煽る結果となった。
照仁は無駄のない動きで、寛奈の身体が最も屈服する角度と強さを正確に突き穿っていく。朝の明るい光が差し込む部屋で、寛奈のふくよかな胸元が激しく上下し、身体に刻まれた紅い指痕やキスマークが露わになっていく。
「……くっ……あぁ……っ! もう……無理……っ!」
強がりを維持できたのは最初の数分だけだった。寛奈のプライドは快楽の底へと完全に沈められ、最後は照仁の胸元に顔を埋めたまま、自ら腰を浮かせて彼の攻めを受け入れるという、完全な降伏状態へと追い込まれていった。
二人が同時に果て、朝の静寂が戻った時、寛奈は今度こそ指一本動かす気力すら奪われ、照仁の腕の中で涙を散らしながらぐったりと脱力していた。
照仁はその汗ばんだ額に静かに唇を落とし、冷ややかな仮面の下に隠していた本心の満足感を噛み締めるのだった。
山小屋の静けさの中に甘い呼吸の音だけが残されていた。
カーテンの隙間から差し込む朝の光は既に完全に白く、午前中の陽光へと変わっていた。
だが、ベッドの上に横たわる寛奈の感覚は、昨夜からの狂乱の渦中に置き去りにされたままだった。
「……目を覚ましたか」
枕元から落ちてくる照仁の静かな声に、寛奈は身動ぎしようとした。
(……っ!?)
指先ひとつ、力が入らない。
脳が「動け」と命令を出しているのに、首筋から背筋、そして腰にかけて、痺れのような強い脱力感と過敏な麻痺が走り、身体が鉛のようにベッドに張り付いている。一度開発されきった神経が、昨夜の快楽の余韻を記憶しすぎて、自分の意思に従おうとしないのだ。
「……あ……っ」
かすれた声しか出ない。
勝ち誇っていた昨夜までの度胸も、煽り立てた強がりも、今の彼女には一切残っていなかった。一人では身体を起こすことすら叶わないという恐怖と屈辱に、涙が滲む。
「いつまでそうしている。そろそろ出発の準備をせねばならんぞ」
「……もう……動けないのよっ」
ベッドの上でシーツにくるまり、真っ赤な顔のまま指一本動かせずにぐったりと横たわる寛奈。身体の隅々まで照仁の手で開拓され、昨夜からの強がりも朝の抵抗も、すべては甘い狂乱の中で徹底的に打ち砕かれていた。
照仁はそんな彼女を冷ややかな、だが底知れぬ愛着を孕んだ目で見下ろすと、静かにシーツを捲り上げた。
「……自業自得だな。あれほど煽っておいてこの様か」
「……誰のせいだと思ってるのよ、この変態……っ」
「そうか。では、私が準備を手伝ってやってやろう」
素裸のまま恥辱に震える寛奈の身体を軽々と抱き上げた。さらに予備のバッグから、冷却効果のあるボディシートを取り出す。
「ひ……冷た……っ! なに、何するのよ……っ」
「清拭だ。このまま服を着ては不快だろう」
照仁は平然とした顔で、ひんやりとしたシートを彼女の首筋から胸元、引き締まったウエストへと滑らせていく。過敏になった肌にはその冷たさと摩擦すら過剰な刺激であり、寛奈は「ひやっ……んっ……!」と身を捩らせた。
照仁はその反応を冷ややかに見下ろしながら、シート越しに彼女のふくらみを戯れにキュッと軽く揉みしだく。
「……っっ! 触らないで……っ、揉まないでこの変態!!」
「声が出るうちはまだ元気だな。……よし、綺麗になった」
耐えかねて涙目になる寛奈を完全にあしらうと、照仁は彼女の旅行鞄から本人の下着を取り出した。手にしたのは、前留め──フロントホック型のブラジャーだ。
「ほう。これもフロントホックか。……なるほど、其方も妹と同じようにフロントホックを好むのだな。それとも私が外しやすいように誂えてくれたのか」
「あんたに外させるためじゃないわよ! 自分で着けやすいからよ……っ!」
真っ赤になって抗議する寛奈をあしらいつつ自分の膝の上に座らせると、照仁は手慣れた手つきでショーツを穿かせ、続いてフロントホックのブラジャーを胸元にあてがう。正面でパチンと金具が噛み合う音とともに、彼女の美しい胸元がぴったりと収まった。
「ふむ。留め具が前にあろうと関係ないな。外すのも付けるのも、私にとっては造作もないことだ」
引き締まったウエストのくびれを慈しむようになぞる照仁。
抵抗する気力も体力も残されていない寛奈は、ただ照仁に手なずけられるままに身を委ねるしかない。
照仁の手つきは、酷いほど手慣れていた。
若草色のブラウスに袖を通させ、一つずつ丁寧にボタンを留めていく。スラックストを穿かせ、ベルトを締める。
照仁の指先が肌に触れるたび、寛奈の身体は「ひやっ」と小さな悲鳴を上げて小刻みに跳ねた。服を着せられているだけなのに、過敏になりすぎた皮膚が過剰に反応してしまうのだ。
最後に乱れた髪を丁寧にブラッシングし、完璧な「お嬢様」の姿に誂え直す。
「……自分で、立つ……っ」
かすかな抵抗の言葉を口にする寛奈を、照仁は黙って抱き上げ、姿見の鏡の前へと運んだ。
床に足を着かされる。だが──。
ガクン、と膝の力が完全に抜け、寛奈の身体は支えを失って崩れ落ちそうになった。
「あっ……!?」
崩れかける身体を、背後から照仁の太い腕がしっかりと受け止める。
「……立つことすら叶わんようだな」
鏡の中に映し出されたのは、仕立て直された美しい服を纏いながらも、照仁の胸元にすがらなければ立っていることすらできない、惨めな自分の姿だった。
凛としていた目元は潤み、髪は乱れ、服の下の身体は一歩も歩めないほどに壊されている。
「見ろ。お前の今の姿だ」
照仁の低い声が、耳元で静かに響く。
「一人では立つことも、歩くこともできん。服を着せてもらい、鏡の前で支えてもらわねば、崩れ落ちるだけだ」
「っ……あ、あんたが……変態みたいに……っ……」
「……お前が望んだことだ。私を試した代償を、身体に刻み込まれた気分はどうだ?」
「っ……く……っ」
鏡越しに視線が交差する。
誰にも依存しなかった自分が、いまやこの男の体温と腕の力なしでは存在することすらできない。照仁が、彼女の「精神」と「存在そのもの」を完全に支配していた。
寛奈は鏡の中の照仁を睨みつけようとしたが、彼の耳元への視線に気づいて肩をすくめ、最終的には諦めたように小さな吐息を漏らした。
完全な敗北感が、寛奈の胸を締め付ける。
彼女は屈屈に唇を噛み締めながらも、膝の笑う足をどうすることもできず、ただ照仁の胸板に顔を埋めてその衣服をギュッと掴むことしかできなかった。
悔しそうに睨みつける寛奈の表情に照仁は「やれやれ」と小さく息を吐き、彼女に背中を向けた。
「一人で動けぬのであれば、私の所有物らしくおとなしく背中に乗れ」
「え……?」
「その足では麓まで歩けまい。叔父上に『娘を歩けなくした』と咎められるのも面倒だからな」
冷たい言い草だが、差し出された背中は大きくてどこか頼もしい。
寛奈は屈辱に唇を噛み締めつつも、照仁の太い首に回した両腕にぎゅっと力を込め、その広大な背中に柔らかで瑞々しい双丘と身体を照仁に意識させる様にすっぽりと身を預けた。悔しさと恥辱で顔は熟した林檎のように真っ赤に染まっていたが、膝が笑って一歩も踏み出せない以上、この男の体温に縋りつく以外に山を下りる術はなかった。
照仁が彼女の太腿をしっかりとお尻の下から支え、軽々と立ち上がる。
照仁は背中を向けると、拒む気力すら残っていない寛奈の太腿をお尻の下からしっかりと支え、軽々と背負い上げた。
照仁の背中に押し付けられる、柔らかで瑞々しい双丘の感触。
「……麓まで、おぶってやる。せいぜい私の背中にしがみついているんだな」
寛奈は照仁の首元に両腕を回し、顔を深く埋めた。彼女の柔らかい体が、照仁の背中にすっぽりと収まる。
「……重くない?」
「軽いな。もう少し肉を付けさせねばならんか……」
「これでも47kgあるんだけど」
「やはり軽いではないか。其方の年齢なら美容体重は49か50kgだったか? 標準体重は54kgだったはずだ」
「なんでそんなことまで知って……もういいわ」
赤く染まった顔を肩に埋めた寛奈を優しくおぶりながら、照仁が靴を履かせ、最後の戸締りを確認する。
「よし、天候も問題ない。端末の通信状況も良好だ」
山小屋の重いドアが開かれ、朝の爽やかな光と澄んだ空気が二人を包み込んだ。
カチリ、と錠が下ろされる金属音が静かな山中に響き渡った。
「……二度と、こんなところ……来ないわ……」
照仁の耳元で、かすれきった声で弱々しく呟く寛奈。照仁は満足げに目を細めると、彼女の体を背中でしっかりと背負い直し、歩みを進めた。
「そう怒るな。……次の機会には、もっと快適な場所を用意してやる」
完璧に外堀を埋められ、身体の隅々まで開発され、一人では歩くことすらできなくなった身。寛奈は照仁の背中の熱を感じながら、己の身体も精神も、二度とこの男の手から逃れられないのだという事実を、痺れる身体でただ受け入れるしかなかった。
照仁の背中から伝わる温かい体温と、歩調に合わせた心地よい揺れ。
暫く心地よい揺れに身を任せていた寛奈だったが、体力が次第に回復し、目の前の照仁の耳を見ているうちに沸々と今朝まで良いようにされた復讐心が沸き上がってきた。
(絶対に一矢報いてやる)
そう心に決めた寛奈は密かに機会を窺っていた。
(今だ……!)
首筋にしがみついた寛奈は照仁の耳へ、その濡れた小さな舌先をねっとりと触れさせた。
一昨日の夜、昨夜と自らの耳の最奥を執拗に穿ち、蹂躙し尽くした照仁への、音のない執念の裏返しだった。
ピクリと照仁の眉が上がり跳ね上がったが完璧なポーカーフェイスで背中で彼女の柔らかな重みを受け止めたままの照仁。
「あら……若宮様も、御耳が弱いのですね?」
その耳元で、寛奈は悪戯っぽい声音を、極小の吐息に潜ませた。
「先ほどは完璧な仕立て直しでしたわ、若宮様。合格ですよ」
耳たぶをかすめるように囁かれたその言葉。
「……これ以上私を煽ると、この山道で下ろすことになるぞ。其方は一歩も歩けまい」
照仁の低く落ち着いた声が、山道の静寂に響く。しかし、その耳たぶはわずかに朱を帯び、首筋の脈が微かに早く打っているのを、背中に密着した寛奈は逃さず感じ取っていた。
「……あら、そんな酷いことなさらないでしょう? 私を『完璧に仕立て直した』直後なのですから」
寛奈は勝利を確信したように、照仁の首に回した腕にギュッと力を込め、自らの胸元──フロントホックのブラジャーに包まれた豊かな双丘を、照仁の背中に深く預けてみせる。山道でおんぶされている以上、照仁が暴走して自分をどうこうできるはずがない──そう高を括っていた。
「一度仕立てたなら、二度目は手早く出来るとは思わんのか?」
「この一歩間違えたら滑落する山道で?」
クスリと小悪魔のように微笑む寛奈。だが、照仁の足が不意にピタリと止まった。
「いや。そこの草むらであれば、幾許か広い」
「──っ!?」
寛奈の身体が、背中の上であからさまにビクッと激しく跳ねた。照仁が視線を向けた先には、山道から少し外れた場所にある、木漏れ日の差す小さな草むらの影。
「ひ、ちょっと……冗談でしょう……っ!?」
「冗談に見えるか?」
草むらに踏み入れ、照仁の腕が、お尻の下を支えていた位置から滑り落ち、寛奈の身体がゆっくりと地面へと下ろされていく。膝が笑って一歩も立てない寛奈は、そのまま照仁の胸元にしがみつくような格好で、すべすべとした草の上にへたり込む羽目になった。
「あ……こ、こんなところで……ッ、見つかったらどうするのよ!」
「誰も来ん。来たとて、お前が少し声を抑えれば済む話だ」
立ち上がろうにも足腰に力が入らず、逃げることすら叶わない。照仁はへたり込んだ寛奈の前で優雅に片膝をつくと、彼女の顎を指先でクイと持ち上げ、その濡れた唇と、赤く熟した耳たぶを愛おしそうに見下ろした。
「お前も手出しできんが、私も手出しできん……そう思っていたのだろう? だが忘れるな。私がお前をおぶっているのは『優しさ』ではなく、単に『私がそうしたいから』だ。それを勘違いするというなら、ここで別の『楽しむ時間』に切り替えるだけの話だ」
照仁の指先が、先ほど整えられたばかりのフロントホックのブラジャーのあたりを服の上からなぞる。
一昨日の夜、昨夜、そして今朝のトラウマが駆け巡り、寛奈の顔は湯蛸のように真っ赤になった。山道で調子に乗った代償があまりにも大きすぎることを、彼女は屈辱とともに思い知らされた。
「……ごめんなさい……ッ! 私が悪かったわ、降参! 降参だから……っ!」
涙目で両手を上げて降伏する寛奈。照仁はその愛くるしい敗北の表情を存分に堪能すると、満足げに目を細め、再び背中を向けた。
「判ればいい。……次はないぞ」
「……鬼、悪魔、変態……っ」
小さく呟いたその言葉が照仁の耳に届いた。
「そうか、そういう真似をするか。悪口にはそれなりの罰を与えんとな」
「え?」
照仁の指先が服の上から器用にパチンとフロントホックの金具を外す。
抑えを失った胸元が服の中でふわりと解放され、寛奈の顔が一瞬で朱に染まった。
「……あっ……! ここで外すなんてっ……」
「さあ、背中に乗れ。麓までこのままだ」
「待って。謝るから。謝るからホックを留めさせて」
「そら、おぶされ、すぐにおぶさらないと置いていくぞ」
寛奈の願いを無視した照仁は何食わぬ顔でへたり込む寛奈を再び背負い上げる。
抗う術もなく、寛奈はおとなしくその大きな背中にしがみつき直した。……だが、再び照仁の体温に包まれ、麓への歩みが始まると、屈服させられたはずの寛奈の瞳に、再び密やかな毒気が灯る。
(私ばかりがこんな目に遭って……タダで済ますわけがないでしょう)
山を降りれば、自分はもうこの男から逃げられない。どこかで望んでいたこととはいえ、外堀は埋め尽くされ、身体の隅々まで開発され、下着の形ひとつに至るまで「所有物」として完璧に仕立て直されたのだ。ならば──。
そう考えるものの、一歩、歩みを進めるごとに、山道の揺れが容赦なく襲いかかる。
ホックを外された豊かな胸は、服の内側で無防備に揺れ、照仁の背中に押し潰されては擦れ合う。開発され尽くした頂点が布地と背中に当たるたび、寛奈は照仁の首元に顔を埋め、声にならない悲悲鳴を殺すために必死で歯を食い縛らなければならなかった。
(あ……ダメ、一歩ごとに……っ、擦れて……っ! 声が出ちゃう……!)
しかし、この拷問に耐えているのは寛奈だけではなかった。
背中越しに伝わってくるのは、衣類越しとはホックが留められていた時ては比べ物にならない、あからさまに柔らかく瑞々しい感触と、一歩ごとに変形して熱を帯びる双丘の圧力。歩みを進めるたび背中にのしかかる生々しい毒気に、照仁の喉の奥からくぐもった吐息が漏れる。額には微かに汗が浮かび、寛奈のお尻を支える太い腕には、無意識のうちに理性を抑え込むような強い力が入っていた。
寛奈はその強い力に怯むどころか、照仁の首筋にまわした両腕に一段と力を込め、仕立て直されたばかりの双丘を、もう一度照仁の背中へあからさまに押し付けた。
「……煽るな。半刻程度ならごまかせるのだぞ」
「……あら。やれるものなら、やってごらんなさいな」
「……何?」
照仁の足がわずかに鈍る。背中で聞こえるのは、完全に敗北し、逃げ場を奪われた者だけが持ち得る、捨て身の囁きだった。
「ここには誰もおりませんわ。宮家のことも、私の実家のことも、父様のことも……若宮様がすべて『外堀』を埋めてくださったのでしょう? ならば、ここで私をどう料理なさろうと、誰も文句なんて言えませんもの」
「……なるほど。其方はどうやら、麓に着くまでに二度と自分の足で立てなくなるまで、徹底的に分からせられたいと見える」
「ふふっ……もうすでに、指一本動かせないほどガクガクにされた後ですわよ。……今更、痕が少し増えたところで同じですわ」
寛奈は照仁の耳元へ顔を寄せると、今度は耳たぶの裏の最も過敏な部位へ、濡れた小さな舌先でつつくように小さな痕を刻んだ。1日目の夜、背後から自分に散々与えられた「耳元への拷問」を、全く同じ位置へお返しするように。
「……あらあら、若宮様……? 足取りが、少し、荒く……なくって?」
寛奈は涙目で喘ぎを殺しながらも、照仁の耳元でかすれ声を振り絞る。照仁が理性を維持しようと必死であることを、背中の緊迫感から察知したからだ。
「……黙っていろ。……麓に着くまで、その口を開くな」
照仁の低い声には、いつもの冷徹さとは程遠い、ぎりぎりまで張り詰めた理性の軋みが混ざっていた。
誰かが通りかかるかもしれない山道で、擦れる快楽に身悶えしながら声を耐える寛奈と、背中に押し付けられる圧倒的な毒気に理性を焼き切られそうになりながら黙々と歩みを進める照仁。
「一生……私に振り回されなさいな、若宮様。私をこんな身体にした責任は、一生かけてその背中で背負い続けていただきますわ」
照仁は一瞬だけ足を止め、深く、重い溜息を吐き出した。完璧に維持してきた冷徹な仮面の下で、黒い欲望が再び滾りと音を立てて渦を巻く。
屈服させればさせるほどに甘い棘を増やし、己の支配欲をどこまでも煽り立ててくるこの寛奈。
照仁の唇の端に、生涯かけて逃れられぬ愛おしい狂気にとらわれた男の、甘く歪んだ笑みが浮かんだ。
「……いいだろう。其方のその意地ごと、私の生涯をかけて抱き潰してやる」
照仁は彼女を背負い直すと、揺れを隠そうともせず、力強い足取りで新緑の山道を下り始めた。
だがその歩みは長く続かなかった。
山道を一歩下るごとに、背中から伝わる瑞々しく柔らかい双丘の弾力が、照仁の理性を容赦なく削り取っていく。
ホックを外されたことで服の中で無防備に揺れる胸は、歩調に合わせて照仁の背中に深く押し潰され、その度に熱を帯びて変形した。開発され尽くした頂点が布地越しに当たる感触は、背負う照仁にとっても強烈な毒気となって全身の血を沸き立たせる。
下半身に脈打つ剛直が怒涛の如く滾り、ズボンの生地を内側から猛烈に押し上げていた。歩幅を狭めざるを得ず、足取りが重く滞る。
(……このままではどうにもならぬな)
息を深く吸い込み、乱れかける自制心を必死に繋ぎ止める照仁の視界に、前方の曲がり角にそびえる巨木の木立が映った。
(あそこであれば……或いは)
曲がり角に差し掛かり、巨木と巨木の間に人目を遮る十分な空間を見つけた照仁は、迷わずそこへ向かって歩みを進めた。木々の影に入り、へたり込ませるようにして寛奈を慎重に地面へ下ろす。
自分のせいで照仁の剛直が限界を迎えているとは露ほども思っていない寛奈は、照仁が単に疲労で立ち止まったのだと完全に勘違いしていた。足腰は笑って立たず、胸元への刺激で頭がどうにかなりそうでありながらも、勝ち誇った笑みを浮かべてみせる。
「え? ……休むの? お疲れかしら、口ほどにもないのですね、若宮様?」
「何とでも言え」
照仁は冷ややかに一蹴すると、寛奈の前で片膝をついた。その視線が向けられた先──彼の腰元を見て、寛奈の嘲笑が一瞬で凍りつく。
ズボンの前立てが大きく膨らみ、隠しきれない熱と質量を主張していた。
「な……っ!?」
顔から一気に血が引き、直後にリンゴのように真っ赤に染まる。
箱入りのお嬢様として育てられ、具体的な知識など持ち合わせているはずもない寛奈であったが、昨夜から今朝にかけてその肉体で嫌というほど教え込まれた「それ」が何であるか、理解できないほど愚かではなかった。
「な、なに……それ……っ! なんで、そんな……っ!?」
「何、とは何だ? 理由なら其方が一番よく知っているだろう」
勝ち誇っていた丁寧語の面影は一瞬で吹き飛び、寛奈は素の口調で狼狽えた。逃げようと後ろへ身を引こうとするが、腰から下に力が入らず、濡れた土の上に情なくへたり込むことしかできない。
「わ、私のせいじゃないわよ! 勝手に固くなってるんじゃないわよ、この変態……っ!」
「お前が背中で無防備に胸を揺らし、私を煽り立てた結果だ。……このままでは歩くこともできん。鎮めてもらうぞ」
「し、鎮めるって……っ! 嫌よ! こんな外でなんて絶対嫌! 離してってば……っ!」
激しく抵抗しようとする寛奈だったが、照仁は迷わず彼女の穿いているスラックスのベルトを外し、ジッパーを一気に引き下げた。
「ひやっ……!? なに、脱がさないで……っ!」
「服が汚れては麓に着いた時困るだろう。お前は立っていられんのだからな」
容赦なくスラックスと下着を膝下まで滑り落とすと、照仁は自らのズボンの前を開き、荒々しく膨らんだ剛直を剥き出しにした。何が起きるのか理解できず怯える寛奈を、巨木の幹に背中を押し付ける形で立たせ、その細く滑らかな太腿の間に、むき出しの剛直を直接割り込ませて強く挟み込む。
「っひ……っ!? なにこれ……っ、直接当たって……っ!」
「動くな。こうして太腿の間に挟んで吐き出せば、すぐに鎮まる」
「嫌っ……すごく熱いのが……っ! 離してよ……っ!」
知識のない寛奈は太腿の肉圧で己の剛直を挟み込まれる感触に怯え、泣き出しそうな顔で身体を捩る。照仁は寛奈の腰を逃がさぬよう片腕で強固に固定し、もう片方の手で彼女のはだけた胸元を掴み、熟しきったDカップの柔肉を容赦なく揉みしだいた。
「んぁっ……!? やだ、胸まで……っ!」
「声を抑えろ。山道に響くぞ」
照仁は寛奈の最悪の性感帯である耳元へ顔を寄せ、耳たぶを唇で優しく食みながら、甘く熱い吐息をふっと吹きかけた。
「っっっ!??? んあぁぁっ……っ!」
耳元への過激な刺激と、手元での激しい愛撫。それだけで寛奈の背筋は激しく跳ね上がり、両脚がガクガクと震えて照仁の太腿をしがみつくように強く締め付けてしまう。
照仁はそのまま規則正しく腰を突き動かし、寛奈の瑞々しい太腿の肉圧を摩擦させて強引に吐き出そうとした──。
「はぁ……っ、くっ……!」
重い吐息とともに、照仁の剛直から熱い液体が寛奈の太腿へと吐き出される。
これで鎮まり、麓へと向かえるはずだった。しかし──。
「は……ぁ……っ、出た……の……? じゃあ、もう終わりでしょ……離して……っ」
涙目で解放を願う寛奈だったが、照仁の腰元から伝わる熱量は、衰えるどころかさらに硬度と質量を増して脈打っていた。
太腿を強く締め付けられた快感、揉みしだかれる胸の弾力、そして何より耳元で耐えかねて甘い喘ぎを漏らす寛奈に、照仁の欲望は収束するどころか完全に暴走を起こしていたのだ。
「……くそ、しくじった。鎮まるどころか、余計に滾ってしまった」
太腿の肉圧で出せば鎮まるだろう──曲がりなりにも寛奈を大切にしていた照仁の甘い期待は木っ端微塵に打ち砕かれ、かえってその剛直は凶暴さを増した。
「え……? 嘘……嘘でしょう……っ!?」
太腿の間に挟まれたままの剛直が激しく怒張し秘所を圧迫してくる感触に、寛奈の顔から一気に血の気が引いた。
「太腿で出せば鎮まると思ったのだが……鎮まらぬとはな。やむを得ぬか」
「やむを得ないって、なに……っ!? すぐに鎮まるって言ったじゃない! 話が違うわ……っ!」
「一度出しても鎮まらぬほど煽ったお前が悪いのだ。……ここで終わらせる。早めに終わらせてやるから、済まぬが少し手荒くいくぞ」
「嫌、嫌ぁっ……っ!」
寛奈の悲鳴も虚しく、照仁は巨木の幹に寛奈の背中を完全に押し付けると、彼女の片脚を己の腰へ強引に持ち上げた。
狭い木立の中、立位のまま、剥き出しになった寛奈の最も柔らかな最奥へと、照仁の荒れ狂う剛直が無慈悲に穿ち込まれていく。
「あぁぁっ……!? 入っ……入って……っ、あんっ……っ!」
一昨日の夜から徹底的に開発された身体は、貫かれた瞬間から過剰に反応し、絶頂の波へと一気に引きずり込まれていく。
寛奈は巨木の幹に押し付けられ、照仁の耳元への容赦ない吐息と、立位での激しい突き上げに翻弄されながら泣きじゃくり、ただただ彼の首元に必死でしがみつくことしかできなかった。
「あぐっ……!? んあぁぁッ……っ!」
巨木の太い幹に背中を強く押しつけられたまま、逃げ場のない状態で最奥を貫かれ、寛奈の口から言葉にならない悲鳴が弾け飛んだ。
照仁の剛直が彼女の最奥を容赦なく押し広げていく。
膝下まで滑り落とされたスラックスのせいで脚も満足に開けず、片脚を照仁の腰に強引に持ち上げられた歪な立位の姿勢。
体重のほとんどを照仁の逞しい腕と剛直だけに支えられ、浮遊感と圧迫感が同時に襲いかかる。
「離して、抜いてよ……ッ!」
巨木の幹に背を押し付けられながら、寛奈は涙目になって照仁の胸を弱々しく押し返そうとする。
しかし、照仁は冷ややかな笑みを浮かべたまんざらでもない手つきで、彼女の頭の後ろに手を回し、その顔を己の肩口へと引き寄せた。
そして、彼女の耳元へ、唇が触れるほどの距離で甘く重い吐息を注ぎ込む。
「ふっ……。……抜けると思うか? これほど私を滾らせておいて。……太腿で出せば鎮まると思ったが、其方の艶気が強すぎたのだ」
「んぁぁッ……ッ!! 艶気なんて……っ、そんなの出してない……っ!」
耳朶をかすめる熱い息と、低く背筋に響く声の振動。
たったそれだけの刺激で、一昨日の夜から徹底的に開発し尽くされた寛奈の身体は跳ね上がり、最奥の肉壁が意思とは無関係にキュッと絞まり上がってしまう。
「ほう……口では拒みながら、中は私を逃がさぬよう締めつけてくるな」
「ちがっ……! 体が、勝手に……っ! 息、吹きかけないでって……ぁんっ!」
言い訳を最後までさせないように、照仁は持ち上げた片脚の角度をさらに深く固定し、下から突き上げるように激しく腰を動かした。
ズン、と重い衝撃が子宮口を直接叩く。
「ひぁあっ!?? んぐっ……ぁ、あぁッ!」
──巨木の陰だが、ここは登山道のすぐ脇だ。誰かが曲がり角を曲がってくれば、白日の下に晒されてしまう。
その異常な状況と、立位による深い結合、そして耳元へ執拗に注がれる吐息の三重苦に、寛奈の理線は瞬く間に焼き切られていった。
「声を出せば、山道を歩く誰かに聞かれるぞ」
「んくっ……! ぁ……っ! む、無理よ……っ! 声……出ちゃうわ……っ!」
必死に自分の手首を噛んで喘ぎを殺そうとする寛奈。
しかし、照仁はその手首を強引に引き剥がすと、彼女の耳たぶを優しく口内に含み、濡れた舌先で転がしながら転がすように囁く。
「……耐えてみろ。私を『チキン』と煽った其方の意地を見せてみろ」
「っっっ! ぁ、あんっ! やだ……やだぁッ!」
耳元からの強烈な快楽の波に抗えず、寛奈の瞳からボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。照仁の首元に必死にしがみつき、爪を立てながら涙と鼻水で顔をグシャグシャにして泣きじゃくった。
「あぁっ! もう、やだ……っ! あなたなんて大嫌い……っ! 変態、鬼っ、……ぁあく、んぁあッ!」
「嫌いな男の体で、これほど濡れて絶頂を迎えるのか」
「ちがっ……違……っ! ぁぁっ!」
照仁の容赦ない腰使いと、耳元での囁きに追い詰められ、寛奈の身体は立位のまま激しく痙攣した。
最奥を突き穿たれた状態で、一度、二度と連続して絶頂の波に呑み込まれ、ガクガクと小刻みに震える太腿が照仁の腰を絞めつける。
「……くっ、昨夜は気が付かなかったが、其方の中はなかなかの名器なのだな。……ここで全て吐き出してやる」
寛奈が絶頂の余韻に白目を剥きかけたその瞬間、照仁は彼女の腰を極限まで引き寄せ、最奥の深淵へと暴れ狂う熱量を一気に迸らせた。
「は……ぁっ……! んあぁぁぁ……ッ!」
体内を直接熱湯で満たされるような感覚に、寛奈は背筋を反らせたまま硬直し、最後は照仁の胸元へ力なく崩れ落ちた。
静まり返る木立の中。
風で木々の葉が擦れ合う音と、荒い二人の呼吸音だけが響いている。
照仁はゆっくりと身体を離すと、膝から崩れ落ちそうになる寛奈を優しく抱き留めた。
寛奈の太腿には、溢れ出た白濁と愛液がどろりと伝い落ち、彼女が完全な敗北を喫したことを物語っている。
「……ふぅ。これでようやく鎮まったな。……麓へ向かうぞ」
照仁は満足げに息を吐くと、手際よくボディシートで自分と寛奈の太腿を拭う。
前立てを閉じると、寛奈のスラックスと下着を丁寧に引き上げて整える。
フロントホックのブラジャーは外れたままで服の中で揺れているが、今の寛奈にはそれを指摘する気力すら残っていなかった
「……うぅ……っ、う……っ」
地面の上で、立ち上がることすらできず涙をぽろぽろと零す寛奈。
真っ赤になった顔を照仁の胸元に押し付け、弱々しい拳で彼の胸をぽかすかと叩く。
「……最低……っ。あなたなんて……ほんとに……最低の……変態よ……っ」
「威勢が戻ったな。……では、先程と同じようにおぶってやろう」
照仁は嫌がる寛奈をひょいと軽々と背中に担ぎ上げた。
今度こそ完全に熱を奪われ、おとなしく背中にしがみつく寛奈。その柔らかい胸元が再び照仁の背中に押し潰されるが、先ほどまで猛威を振るっていた剛直が再び立ち上がる気配はない。
「……あの草むらで最初から……こうすれば……よかったでしょ……っ」
「フッ……其方が無駄に煽るから回り道をしただけだ。……さあ、今度こそ静かにしていろ」
照仁は背中の愛おしい重みをしっかりと確かめながら、満足げな笑みを浮かべて、再び静かに山道を下り始めるのだった。
<後書き代わり>
里緒:……ちょっと待って、恵梨子ちゃん?? 創作なのよね!? 全部実話じゃないわよね!?
香織:前半は完全にいつもの二人だよね。照仁様の『逃がさない圧』と、寛奈ちゃんの無駄に強がりつつ撃沈する感じ。卵そぼろのくだりなんて、目に見えるようだわ……
歌乃:そうそう! 照仁様が冷ややかに完璧なスクランブルエッグ出して『好みの焼き加減だろ?』って追い詰めるの、マジでやりそう?!
霧葉:……問題は後半よ。巨木の陰って何??? 創作なのよね!?
歌乃:でもさ……照仁様がポーカーフェイス崩さずに『チキンか否かは其方の身を持って知るがいい』とか言ってるシーン、事実っぽいわよね……
香織:寛奈ちゃん……157cmの華奢な体で180cmの照仁様に勝てるわけないのに、なんで毎回あんなに煽っちゃうんだろうね(頭を抱える)
歌乃:『高級な抱き枕としてよく眠れましたわ』って煽った瞬間の照仁様の顔、絶対にヤバい笑み浮かべてたでしょ。自爆のプロすぎる……
里緒:ていうかフロントホックの件!! 寛奈ちゃん、自分では『着けやすいから』って本気で思ってるのに、照仁様に『私に解かれる事を待ち望んでいたと言わんばかりだな』って言われてパニックになってる図が目に浮かびすぎてツラい(笑)
歌乃:下山するときにおんぶされてて、耳元舐めて仕返ししようとしたところなんて『寛奈ちゃん、学習機能どこ行った??』って叫びそうになったわ
貴美:私は照仁様の『外堀の埋め方』のリアリティに震えてるんだけど……
霧葉:展望台で『叔父上や叔母上にもすでにご納得いただいている』って告げるところ、あそこ絶対実話でしょ。あの若宮様なら山に行く前にすでに両親経由で外堀全埋めしてる
香織:だよね。寛奈ちゃんは『逃げ切れなかった』って絶望してるけど、最初から手のひらの上どころか、鍵のかかった檻の中に放り込まれてたようなものだもん
貴美:それにしても……恵梨子ちゃん、お兄様の『冷徹な仮面の裏にある暗い執着』の描写、上手すぎない? 身内だからこそ見抜いてる『若宮照仁のドロドロした本質』が滲み出てて最高にゾクゾクしたわ