※この作品はR-18です。

陸仁王物語―異伝―   作:fire-cat

41 / 60
友人達
【挿絵表示】


1. 香織(かおり)
158cm / 46kg
スリーサイズ: B83(C~D) / W58 / H86

魅力と特徴:
伝統と気品を重んじる環境で育ったことが一目で分かる、非常に正統派なプロポーション。極端に細すぎるわけではなく、衣服の上からも分かる滑らかな曲線美が特徴。パーティー会場では、どんなドレスも品良く着こなす「理想の令嬢」として一目を置かれている。

2. 霧葉(きりは)
164cm / 48kg
スリーサイズ: B80(B~C) / W56 / H83

魅力と特徴:
すらりと伸びた手足と、無駄な肉を削ぎ落としたようなクールなモデル体型。一見すると近寄りがたいほどの涼やかな美貌を持っているが、タイトなラインの装いを好むそのスタイルは、知的で洗練された大人の色気を漂わせている。

3. 貴美(きみ)
165cm / 49kg
スリーサイズ: B86(E) / W58 / H87

魅力と特徴:
グループの中で最も背が高く、成熟したグラマラスな曲線美を誇る。スリムな体重でありながら恵まれた骨格と豊かなEカップのボリュームを備えており、大人の余裕を感じさせるキャリアウーマン的な色気が際立つ。

4. 歌乃(うたの)
156cm / 47kg
スリーサイズ: B86(E) / W60 / H88

魅力と特徴:
小柄な身長でありながら、ふくよかなバストと丸みを帯びた女性らしいヒップラインが目を引く「色気型」。愛らしいルックスの反面、隠しきれないグラマラスな肉感のギャップで、周囲の視線を自然と引き寄せるタイプ。

5. 里緒(りお)
154cm / 45kg
スリーサイズ: B82(C) / W55 / H84

魅力と特徴:
コンパクトで華奢な小柄ボディでありながら、ウエストのくびれが驚異的な55cmという抜群のメリハリ系。シルエット全体がコンパクトにまとまっている分、パーツごとのグラフィカルな起伏が際立ち、甘え上手な雰囲気を纏いつつも目を離せない存在感を放つ。









外伝 第5話

 京極宮家の若宮、照仁(てるひと)と、宮家家令を務める六条子爵家の令嬢、寛奈(かんな)。

 二人の「納采の儀」が無事に執り行われたこの日、社交界および世間は祝福と驚き、そして様々な噂話に沸き返っていた。

 

「いくら宮家令の家とはいえ、六条家は子爵家。京極宮家の次々代当主の妃としては、少々家格が低すぎるのでは……?」

 

 納采の儀の後に催された祝賀。

 その会場となった華やかなサロンの片隅で眉をひそめる名門の貴人に、事情に通じた別の参列者が呆れたように首を振る。

 

「お主、寛奈様の母君が次代ご当主の陸仁王殿下の妹御様であることを忘れておるのか? 寛奈様は陸仁王殿下の姪御様であり、母方の祖母君は九条公爵家のご出身、父方の祖母君も中院伯爵家のご出身だぞ。家格に何一つ不服などあるものか」

 

 血筋の正統性と申し分のない家格が示される一方で、今度は別の場所で血縁関係に対する不躾な懸念の囁きが漏れていた。

 

「宮家の若宮様と宮家令の子爵家の娘か。宮家令の六条子爵家の娘といえば若宮様の従妹だったはず。いくら何でも血が濃すぎるのでは……」 

「聞いておらんのか? お二人が授かるであろう和子様の遺伝的疾患や先天異常の危険性は一般的な婚姻と変わらないことが事前の精密検査で証明されているそうだ」

「なんと。それでは昔からこうなることは決まっていたというのか」

「なるほどな。だから若宮様の周りに縁談の話が浮かんでこなかったのか」

 

 噂を即座に打消すような反論に、外野の野次馬たちはぐうの音も出ない。すると今度は照仁の常人離れした存在感を巡って、どこかロマンチックで的外れな推測が繰り広げられ始めた。

 

「それにしても、若宮様は幼少期から従妹殿を自分好みの妻に育てるべく、手塩にかけて囲い込んでおられたのだな……さしずめ現代の光源氏と紫の上か……」

「おいおい、お二人の年齢差を考えろ。差はたったの2歳だぞ。古典を引き合いにするなら伊勢物語の筒井筒だろう」

「……言われてみればそうだ。若宮様のあの圧倒的な威厳と冷徹な雰囲気のせいで、勝手に10歳くらい上の大人の男だと思い込んでいた……。若宮様はまだ20歳、寛奈様も18歳だったな」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 世間がそんな『現代の筒井筒』として二人を噂する中、宮邸の控え室では、大役を終えて緊張の糸が切れた寛奈が真っ赤な顔で友人たちに囲まれていた。

 絢爛豪華な衣装に身を包んだ寛奈を囲むのは、級友と級は違えど幼少期からの裏事情をすべて知り尽くしている親しい友人──香織、霧葉、貴美、歌乃、里緒たちである。

 

「寛奈、おめでとう! 本当に綺麗な妃殿下……じゃなくて、若宮妃様ね!」

 

 そう言って微笑んだのは、伝統と気品を重んじる正統派な佇まいの香織だった。寛奈は「ちょっとみんな、からかわないでよ……っ。私、緊張で心臓が口から出そうだったんだから」と扇子で顔を隠して頬を染める。

 

「嘘おっしゃい。あの照仁王殿下の顔見た? 『これで正式に私のものだ』って顔に書いてあったわよ」

 

 豊かな胸元と洗練された大人の色気を漂わせる貴美がニヤリと笑うと、寛奈は「な、なに言ってるのよ……っ!」とますます真っ赤になった。

 控室には、級友達も同席しており、その中の一人が興奮気味に声を上げていた。

 

「いつの間にそんな大物に見初められていたの!? だって寛奈ちゃん、いつも控えめで『私なんてただの宮家令の娘ですから』みたいな顔してたじゃない! あの照仁王殿下よ!? 京極宮家の次々代当主よ!?」

「やっぱり幼馴染で従妹って属性盛り盛りの強みなのかな……うらやましすぎる……」

「でも確かに、若宮様の隣に並んで一番絵になるのは寛奈ちゃんしかいないわよね。……というか、若宮様のあの甘い視線、寛奈ちゃん以外に向けられてるの見たことないわ」

 

 そんな級友たちが羨望の声をあげる横で、寛奈の「内情」を知り尽くした5人は生温かい視線を交わしていた。

 伝統と気品を重んじる正統派美人の香織が扇子を口元に当ててくすりと笑う。

 

「甘い視線ねぇ……。寛奈ってば、やっぱり自分で進んで虎の穴に飛び込んでいたのね……」

 

 クールなモデル体型で凛とした美貌を持つ霧葉が肩をすくめて同意する。

 

「本人は『上手に逃げ回っている』つもりだったのが本当に愛おしいわ」

「ほんとそれ。山小屋へ寛奈が護衛として連れ出されて足腰立たなくされて、その後宮邸で一線を越えた話を聞いた後だと、納采の儀の寛奈ちゃんのしおらしい顔を見るだけで笑いがこみ上げてくるわね」

「そっか。今にして思えば若宮様が番犬の様に必死に守っていたものね」

「番犬? 番犬、ねぇ。番犬は番犬でもアレは柴犬なんて可愛らしいものではないわ。アレはポンコツ飼い主に代わって檻の鍵を握ったチベタンマスティフよ」

 

 級友の言葉に、小柄ながら驚異的なメリハリボディを持つ里緒がピシャリと言い放つと、ふくよかなバストと愛らしいルックスを持つ歌乃も深く頷いた。

 

「外では完璧で隙のない若宮様が、寛奈が他の男と世間話をしただけでどれだけ目が笑っていなかったか、私たちは知っているわ……」

「初めてお会いした幼いころからずっと、他の誰も近づけないように完璧に防壁を築いてたのよ」

「そういえばそうだったわ。それを思い出すと、むしろ『ついに捕獲を完了されたのね』という感想しかないわね」

「外では『子爵令嬢として、宮家家令の娘として完璧なお淑やかさ』を演じ切っているつもりらしいけど、世間にポンコツさがバレなくて本当に良かったわね」

「時々ボタン掛け違えたり、ドヤ顔で言い間違えて自爆してるのにね」

「それは絶対に若宮様にずっと甘やかされてきた結果でしょ!」

「それにしても、寛奈も『完璧なお淑やか令嬢』の化けの皮を剥がされもせず、あんな危ないこともあったのに、よく今まで無事でいられたわよね……これも若宮様のおかげかしら」

 

 事情を知らない友人が「え? なにそれ」と首をかしげると、「前に危なかったことがあったのよ」という香織の言葉に霧葉が「山小屋の婚前旅行の頃よね?」と頷く。香織が呆れ顔で当時の失敗談──いわゆる『第三ボタン事件』を語りはじめた。

 

「寛奈ってば、ブラウスの第三ボタンをかけ忘れたまま気がつかないで男子の前で普通にお茶してたのよ」

 

 すまし顔でフォークを運び、優雅にお茶会を楽しむ寛奈。しかし、その胸元では致命的な「解放」が起きていた。

 寛奈が上質な綿ブラウスの第三ボタンを留め忘れたままでいた事で、左右の生地が彼女の持つ豊満な肉圧に耐えかねて大きく引き裂くように広がっていたのだ。

 アンダーバストから一気に膨らみを見せるトップ86センチ、Dカップの柔らかな肉塊。左右から押し合い、中央でくっきりと深い谷間を形成するその生々しい肉の渓谷が、縫い目の隙間から容赦なく露わになっていた。

 動くたびに、薄桃色の素肌だけでなく、胸を押し上げる純白のレースカップの上縁、さらには肉の揺れに合わせてチラチラと覗く繊細な刺繍までもが、真正面から男たちの視界に晒されていた。

 

「え? それ、寛奈の胸の大きさじゃ、ブラとか隙間から見えていたんじゃ?」

「ええ。ばっちりと見えていたわ。隙間というか割れ目からブラの縁とかカップとかDサイズの谷間とか……あの時、誰かのゴクリと唾を飲み込む音が聞こえたのよ」

「それからは男子達が寛奈をお持ち帰りしようと必死だったわ」

「え? じ、じゃあ、寛奈、お持ち帰りされちゃうところだったの!?」

「そうならない様に必死に守ったわよ、ほんとにこの子ったら隙だらけで……」

「あの時はひどかったよねぇ……清楚でお淑やかな名門令嬢が胸元の第三ボタンを閉め忘れているから色々見えてはいけないものが見えてるんだもん。あの場にいた五、六人の男子たちが『これは俺に気があるのでは』って勘違いしたり『隙があるのでは』って群がってきたんだよ」

「あの時、私たちがどれだけ必死だったか……。寛奈一人だったらお持ち帰りされていたわよ」

「え!? お持ち帰りされちゃったら、発禁本に描かれているみたいに男子たちに寛奈があんなことやこんなことをされてたり……?」

「大丈夫だったと思いたいけどね……寛奈の家の事を思えば、寛奈に手を出す度胸のある命知らずなんて、この世にそうそういないわよ」

「え~? あの年頃の男子だよ? 寛奈なんて隙の多いただの子爵令嬢だとしか思っていなかったよ、特にあの成り上がりのぼんくら次男」

「うわぁ。それでもし、もしもよ。寛奈が傷物になっていたら若宮様が……」

「や、やめて。そ、想像したくないわよ」

 

 身体を震わせる級友たちに貴美や歌乃も当時の緊迫感を思い出し、深く溜息をつく。

 

「本当にあの時は寿命が縮まる思いだったわ……。お茶会で、寛奈がすまし顔でケーキを口に運んでいる横で、ブラウスの胸元から白レースのカップと谷間がくっきり見えているんですもの。恥をかかせるわけにも行かないからその場で言うわけにもいかないし、すぐに気が付くと思っていたらぜんっぜん気が付かないし! 先に男子が気がついちゃって、視線が寛奈の胸元に釘付けになったから、あわてて私が紅茶を自分に掛けて声を上げて注意を逸らしたのよ?」

「私はすぐに寛奈を化粧室に引っ張ったわよ。群がってきた男子たちの目つき、完全に『お持ち帰りできるかも』って顔だったわね。もしあの場に私たちが居合わせなかったら……」

「あの後、必死に群がってきた男子たちを、私と歌乃で上手にあしらって追い払うのがどれだけ大変だったか! 『寛奈ちゃんは少し気分が悪いみたいだから』って強引に引き剥がしたけれど、寛奈本人は『え? 私全然気分悪くないよ?』なんて首をかしげているんだもの。……本当に無防備すぎて怖かったわ」

「寛奈ってば、自分も結構豊かな胸をしている自覚がなさすぎるのよ! 男があの白レースの隙間を見たらどうなるか、全く分かってないんだから。……まあ、結局その日の夜に若宮様に事の顛末を報告したら、次の日から寛奈の周囲に私服の女性警衛官が専属でついたんだけどね」

「そっか。あの夜に若宮様に報告したのは正解だったわね。報告した時の若宮様の御顔、思い出すだけで震えがくるわ」

「あの時は、ホント、色々な意味で危なかったわね」

「若宮様に報告したら、あれ以降監視が一段と厳しくなったのよね」

「それは納得しかないわ」

 

「ところで、ねえ、さっき、発禁本って言ってたけど、どこでそんな本見たのよ、貴女」

「内緒」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 皆には知られていなかったが、友人たちから「第三ボタン事件」の急報を受けたその瞬間、照仁の思考は一瞬で氷点下にまで急速に冷え込んでいた。

 

 その日の夜、意を決した友人たちが緊急の面会を求めて照仁のもとに押し掛けた。

 普段であれば、京極宮家の若宮として誰もが平伏し、畏怖の眼差しを向ける存在である照仁。しかし、この夜ばかりは立場が完全に逆転していた。

 

「寛奈ったら今日、ブラウスの第三ボタンをかけ忘れたまま、男子たちの前でお茶をしていましたのよ!? ブラの白レースもカップも谷間も丸見えで、群がってきた男子たちに『お持ち帰り』されかける寸前だったんですから!」

 

 あまりに無防備で危険すぎた一部始終を語り終えた友人たちは、社交界の完璧なマナーも若宮への敬意もかなぐり捨てて、血相を変えて怒りを爆発させていた。

 事情を聴いた照仁の脳裏をよぎったのは、もし彼女たちの咄嗟のガードが間に合っていなかった場合の、最悪の惨劇だった。

 

(……あの無防備な胸元を晒したまま、その様な知性のなさそうな男どもに囲まれ、連れ去られていたら……)

 

 

 無知で世間知らずな寛奈が、言葉巧みな誘導に引っかかり、抗う術もなく男たちに手籠めにされる姿。

 薄暗い部屋で泣き叫び、自分の名を呼び助けを求める姿を荒い息を吐きながら嘲笑する男達。

 複数の手によって服を剥ぎ取られ、両手足を押さえ込まれた小柄な身体。身動きができぬ様にのし掛かられ、何もできずに純血を散らされる可憐な従妹。

 休む間もなく複数の男達を同時に相手にさせられ、前後から同時に男達に貫かれ、或いは複数の男達の剛直を握らされ、胸や臀部、口腔を穢される姿。

 その陵辱の光景が男たちの手によって映像として記録され、それをネタに「バラされたくなければ」と幾度となく呼び出され、汚され続け、自分に対する罪悪感から次第に目の光を失い、精神を壊していたかもしれないという絶望──。

 どこかの安っぽい戯作のような、しかし極めて現実的であり得た恐ろしい光景が脳裏に浮かび上がり、照仁の胸の奥で、ど黒く禍々しい狂気が渦を巻いた。

 もしそんな事態になっていたならば、関わった男どもはもちろんのこと、その一族の苗字も家紋も社会から徹底的に削り取り、この世に存在した痕跡すら残さず葬り去っていただろう。

 

(……だが、そうはならなかった)

 

 友人たちの機転と必死に築かれた防波堤によって、寛奈の「処女性」も「名誉」も、何一つ傷つくことなく護られたのだ。

 最悪の事態を免れたという事実を理解した瞬間、照仁の胸を刺すような安堵がそっと駆け抜ける。

 

「聞いておられるのですか、若宮様!!」

 

 香織が扇子を叩きつけるように握りしめ、眉をひそめて詰め寄る。続いて、普段は冷静な貴美や霧葉も怒気を含んだ声を隠そうともしない。

 

「私たちが身を挺して守り切りましたけど、私たちのスキを突かれていたら、今頃どうなっていたかお分りですか!? 保護者なら保護者らしくしてください!!」

「その通りです! 可愛い従妹だからと甘やかさないでください! 彼女の防犯意識が抜け落ちているのは、若宮殿下が手元で甘やかして野放しにしているからではありませんか!?」

 

 次々と飛んでくる容赦のない正論の嵐。

 

「………………」

 

 照仁は、完全にぐうの音も出なかった。

 外では隙がなく、誰もが恐れる冷徹な照仁が、年下の令嬢たちに面と向かって説教され、一切の反論ができずに言葉を失っている。

 寛奈のポンコツさを「可愛い小鳥」として愛でることに満足し、外での決定的な防壁の甘さを生み出していたのは他ならぬ自分自身なのだ。圧倒的な事実の前に、照仁は静かに苦い拳を握り締めることしかできなかった。

 最悪の事態を免れた安堵と、友人たちへの素直な感謝、そして「二度と野放しにしない」という冷徹な決意を込めて、照仁は静かに、しかし背筋が凍るような笑みを浮かべた。

 

「……私の、不徳の致すところだ。……みなの機転と忠義に、心より感謝する。……彼女の『躾』と『保護』については、今夜から私が責任を持って徹底させよう」

 

 絞り出すように頭を下げて礼を言う照仁に、友人たちは「お言葉だけでなく、本当に指導を徹底してください! 泣くのは寛奈なんですから」と台詞を残して去っていった。

 一人残された照仁は、激しい反省と焦燥の中、冷徹な決意を固めた。

 

(……そうだ。彼女たちの言う通りだ。曖昧な従兄妹や幼馴染の距離感のまま野放しにしていた私の落度だ)

 

 我が身のように大切な存在が侵されずに済んだという安堵は、しかし同時に、彼の中の過保護な独占欲と冷酷な支配欲を激しく燃え上がらせた。

 

(守り切ってくれた者たちには感謝を。……だが、寛奈)

 

 あまりにも無防備で、自らの肉体が持つ破壊的な色気にも無自覚な、愛おしくも愚かな自分の小鳥。

 放っておけばすぐにでも他の男の餌食になりかけるようなポンコツな従妹を、もう野放しにはしておけない。曖昧な幼馴染の距離感のままにしておくから、このような隙が生まれるのだ。

 

(一刻も早く、私の婚約者として繋ぎ止めねばならない)

 

 二度と今回のような隙を外で見せないよう、檻の鍵をより厳重に締め直し、身体の奥深くまで「誰のものか」を刻み込んでやらねばならない。

 安堵の裏側に、どこか暴虐的で甘やかな情動と、男たちへの冷徹な処罰感情を同時にみなぎらせながら、照仁は静かに決意を固めた。

 照仁が寛奈を正式な婚約者として手中に収めるべく、容赦なく外堀を埋め、本格的に囲い込みへと動き出した直接の決定打こそが、まさにこの事件だったのだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 照仁へ怒りの報告を叩きつけた数日後。

 香織、霧葉、貴美、歌乃、里緒の5人の元へ、京極宮家の紋章が刻まれた重厚な漆塗りの箱と、照仁直筆の便箋が届けられた。

 箱を開けると、そこには社交界でも滅多にお目にかかれない特注の極上ジュエリーや、老舗の和菓子店や洋菓子店から宮家御用達として納められる最高級のお菓子の詰め合わせが収められていた。さらに、それぞれの好みを完璧に把握した上で選ばれた、特製の一品まで添えられている。

 添えられていた書状には、流麗な照仁の自筆でこう記されていた。

 

『先般は、寛奈の不徳と無防備ゆえに、みなに多大な労と心労をかけた。

 あなた方の咄嗟の機転と深い友情がなければ、取り返しのつかない事態になっていたかもしれぬ。

 京極宮家を代表し、また寛奈の従兄である私個人として、心よりの感謝を伝える。

 些少ではあるが、日頃の感謝の印として受け取ってほしい。

 

 ──追伸。

 

 寛奈の『躾』と『防護』については、あの夜より私の手元で過不足なく執り行っている。

 以後、彼女が外で同様の隙を見せることは二度とないと約束しよう。

 みなにおかれても、あの日の出来事と、私が寛奈に今後行う処置については、どうか胸の内に留めておいてほしい』

 

「……すごいわね。このブローチ、前々から私が欲しがっていたジュエラーの限定品だわ……」

 

 香織が感嘆のため息をつき、貴美が書状の最後の段落を指でなぞりながら苦笑いを浮かべた。

 

「感謝の品としては破格すぎるけれど……やっぱり『これ以上の口出しは無用』っていう念押しと口止め料も兼ねているわね」

「まあ、当然でしょうね」

 

 霧葉が手足を組み、くすりと笑う。

 

「私たちが直訴したおかげで、若宮様の目が完全に本気になったもの。次の日から寛奈の周りに専属の女性警衛官がつくようになったし、噂だと事実上の婚約者として扱われてあるみたいね。肝心の寛奈は連日、ポンコツを見せる度に若宮様にたっぷり『お仕置き』をされているみたいだけどね」

「ふふ、でも本当によかったわね。あの時、私たちが必死に守って若宮様に報告したからこそ、寛奈ちゃんも無事で、こうして最高のお礼までいただけたんだから」

 

 歌乃が胸を撫で下ろすと、里緒も深く頷いた。

 

「ほんとよ。あのぼんくら次男たちに手出しされていたらと思うとゾッとするわ。寛奈は相変わらず『照仁様が急に厳しくなって意地悪するの……』なんてポンコツな泣き言を言ってるけど、自業自得だもの。私たちはこの美味しいケーキでもいただきながら、高みの見物を決め込みましょう!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「若宮様、あの日は報告を聞いた瞬間に氷のように冷たい笑顔で『……私の、不徳の致すところだ』っておっしゃったわよね。あの背筋が凍るような笑顔でお礼と徹底指導を宣言された時はどうなることかと思ったけれど……でも、そのお仕置きと甘やかしの延長が、あの山小屋を経てからの宮邸での一線越えに繋がったと思えば、寛奈も自業自得よね!」

 

 親しい友人たちの容赦ない暴露と検証に、寛奈の顔はゆでダコのように真っ赤になり、扇子の陰でプルプルと震えていた。 

 貴美がニヤニヤしながら寛奈の耳元にそっと顔を近づける。

 

「ねえ寛奈ちゃん。世間では『筒井筒』とか『若宮様の光源氏計画』なんて囁かれてるけど……寛奈ちゃんが自爆してお仕置きされて、そのまま虎の穴に引きずり込まれたのが真相よね?」

「なっ……!! な、なんでそれを……っ!?」

「やっぱり!! 寛奈ちゃん、顔に出すぎ! 外では一応『完璧なお淑やか令嬢』で通ってるんだから、照仁様の前以外ではそのポンコツ顔、隠し通しなさいよ?」

「もう嫌ぁあぁ……! みんなして照仁様と同じような意地悪言わないでよぉ……っ!」

 

 寛奈が半泣きで抗議したその時、重厚な扉が音もなくすっと開いた。

 

 立ち現れたのは、正装を隙なく完璧に着こなした若宮照仁その人であった。圧倒的な気品と、逃げ場を一切与えない冷徹な覇王感を纏った彼の登場に、賑やかだった室内が一瞬で氷のように静まり返る。

 

「寛奈、少し時間が空いた。……みな、私の妻をあまりいじめないでやってくれ」

 

「「「失礼いたしました、若宮様!!」」」

 

 その場にいた友人たちは一斉に姿勢を正し、見事な動作で最敬礼した。外での冷徹さと捕食者としての真の恐ろしさを知るからこそ、彼女たちに一切の躊躇はない。

 照仁は彼女たちに一瞥を与えることもなく、ビクッと肩を跳ね上がらせた寛奈のもとへ緩やかな足取りで歩み寄ると、その華奢な腰を当然のように引き寄せた。そして、彼女にしか聞こえない低音で甘く囁く。

 

「……みなに何を吹き込まれていたのだ? 顔が真っ赤だぞ」

「いえ、何でもありません」

「時間は少しあるが、すぐにでも『答え合わせ』の続きが必要か?」

「ひっ……! な、なんでもないったら! この後も完璧な若宮妃として振る舞ってみせるから……っ!」

「そうか。ならば良い。幼き頃より宮家に出入りしている其方なら直ぐにでも私の妃に相応しい振る舞いができよう」

 

 縮こまる寛奈に冷ややかながらも愛おしげな視線を落とし、照仁の唇の端がかすかに持ち上がる。

 

 外向けには「凛とした美しき若宮夫妻」、内実では「完璧な捕食者と、一生逃げられない可憐なポンコツ」

 その後の二人の結婚の儀は、世間の的外れな噂と羨望、そして真実を知る友人たちの生温かい視線に包まれながら、最高に甘く、逃げ場のない華やかさの中で執り行われた。

 




後書き代わりの座談会

香織
 みんな、届いたばかりの『第五話』のテキスト、一通り読み終わったわよね? 納采の儀の当日の話だけど……もう、どこからツッコんだらいいのか分からないくらい情報が詰まりすぎていてクラクラしちゃうわ!

歌乃
 本当よ! 社交界の祝賀会場で、外野の野次馬たちが『家格が低いのでは』とか『血が濃すぎる』なんて噂話をしているのを、事情通がバッサリ叩き落としていくシーンから始まるじゃない? 『現代の筒井筒』とか『光源氏と紫の上』なんてロマンチックに勘違いされているのを見て、サロンの片隅で吹くかと思ったわよ!

里緒
 ふふっ、『光源氏が手塩にかけて育てた』どころか、実態は『ポンコツ飼い主に代わって檻の鍵を握ったチベタンマスティフ』ですものね! 年齢差だって2歳しかないのに、照仁様の圧倒的な威厳と冷徹な雰囲気のせいで10歳くらい上に見られていたなんて笑えるわ

貴美
 でも、世間がそんな的外れなロマンチック幻想に浸っている裏で、控え室にいた寛奈の顔といったらなかったわね。私たちが『これで正式に私のものだって顔に書いてあったわよ』ってからかった時の、茹でダコみたいな赤くなり方!

霧葉
 本人は『完璧なお淑やか令嬢』を演じ切っているつもりなのが本当にかわいらしいわ。時々ボタンを掛け違えたりドヤ顔で言い間違えて自爆しているのに、世間にポンコツさがバレていないのは、間違いなく照仁様が完璧に防壁を築いて甘やかしてきたからよ。

香織
 まあ、その防壁がガラガラと崩れかけたのが、例の『第三ボタン事件』だったわけだけれど……。第五話で描かれた照仁様視点の真相、読んだかしら? 私、読んでいて背筋が凍りついたわよ……。

歌乃
 読んだ、読んだわ!! あの夜、私たちが血相を変えて照仁様のもとに押しかけて『保護者なら保護者らしくしてください!』って説教したじゃない? 外では誰もが恐れる冷徹な若宮様が、10代の私たちに詰め寄られてぐうの音も出ずに黙り込んでいたあの夜……。

里緒
 ええ。あの時、照仁様は冷静を装っていたけれど、頭の中では『もし寛奈さんがお持ち帰りされていたら』っていう恐ろしい地獄のIFシナリオを恐ろしい解像度で思い描いていたのよね! 薄暗いマンションで男どもに服を引き裂かれて、泣き叫ぶ寛奈さんの悲鳴や、心が壊れていく過程まで克明に妄想していたなんて……狂気以外の何物でもないわ。

貴美
 その妄想の後に『もしそうなっていたら、関わった男どもの苗字も家紋も家系図も社会から徹底的に書き換え、削り取り、この世に存在した痕跡すら残さず葬り去っていただろう』って……。冷徹な処罰感情と凄まじい独占欲が渦巻いていて、ぞっとしたわね。でも同時に、私たちが守り切ったことへの深い安息も感じておられたみたいだけど。

霧葉
 あの事件こそが、照仁様が『曖昧な幼馴染の距離感のまま野放しにはできない』と覚悟を決めて、寛奈を正式な婚約者として檻に閉じ込めるために容赦なく外堀を埋め始めた決定打だったのよね。私たちが怒鳴り込んだことが、結果的に二人の運命を加速させたというわけ。

香織
 数日後に届いたあの漆塗りの箱も凄かったわね。社交界でも手に入らない特注のジュエリーや高級なお菓子、そして流麗な自筆のお手紙……。『寛奈の躾と防護は私の手元で執り行っている』という、感謝であり完璧な口止め料でもあったけれど!

歌乃
『これ以上の口出しは無用』っていう完璧なメッセージね! 次の日から専属の女性警衛官がついたし、寛奈ちゃん自身は連日、照仁様から甘く厳しい『お仕置き』と『開拓』をされる羽目になったんだから、自業自得とはいえ可哀想になっちゃうわ(笑)

里緒
 山小屋での護衛(笑)名目の監禁状態から、宮邸で一線を越えるに至ったすべての元凶が、自分のボタンの掛け忘れだったなんて夢にも思わないでしょうね。控え室で真相を暴露された時の寛奈さんの『もう嫌ぁあぁ……!』って泣き顔、最高に可愛かったわ。

貴美
 そして、絶妙なタイミングで現れる照仁様ね! 正装を完璧に着こなして『私の妻をあまりいじめないでやってくれ』って登場された瞬間、私たちは一瞬で最敬礼して引き下がったけれど。あの捕食者としての圧倒的な覇王感の前に立ち向かえる人間なんて、この世にそうそういないわよ。

霧葉
 寛奈の腰を引き寄せて『答え合わせの続きが必要か?』って耳元で囁く顔、完全に獲物を追い詰めた猛獣の目だったものね。寛奈も『ひっ……!』って縮こまって『完璧な若宮妃として振る舞ってみせるから』って返すのが精一杯で。

香織
 外向けには『気品あふれる美しき若宮夫妻』、内実では『完璧な捕食者と、一生逃げられない可憐なポンコツ』……。世間の的外れな噂話と、真実を知る私たちの生温かい視線に包まれながら執り行われた結婚の儀は、まさにこの二人にふさわしい最高に甘い結末だったわね。

里緒
 ええ! 私たちはいただいた最高級のケーキとお茶を楽しみながら、これからも逃げ場のない二人の甘い地獄とポンコツ自爆劇を高みの見物と決め込みましょう!

親友一同
 ふふっ、本当にね!










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 寛奈の出自を考えたら照仁が想像したような出来事がおこる危険性は極めて少ないと思うが……起きるときは起きる。起きた場合の惨劇は別話。

ただの子爵令嬢だと思い込んだぼんくら次男あたりが、それなら傷物にしても泣き寝入りさせられるな。とお持ち帰りしかけて、何の気なしに「父上はどの様な方か」と尋ねたら、京極宮家の宮家令ですと言われたらそのまま逃げ帰るが。母親が次期宮家当主の実妹なのは有名な逆玉の輿の物語として誰でも知っている上に、母方の祖父は、京極宮慶仁王(1949年生まれ)。

慶仁王の話や皇族、華族の位置付けは別作品参照。


万事うまくいって友達を出し抜いて寛奈を車に乗せた後に話を聞いてしまったぼんくらの内心

「どこがただの子爵令嬢だ―! 超VIPじゃねえか。護衛も付けずにうろうろするなぁ! あ。あの彼女たちがお付きだったのか!? これでこのままお持ち帰りしてみんなで楽しんだりして見ろ。その日のうちに一族郎党皆殺しされちまうわ。さっさと家に帰さねえと」
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